上級

上級/第107回『確率の向こう側へ②』 瀬戸熊 直樹

皆さんこんにちは。
今日は前回ちょっと触れた配牌の入れ方について、具体的に話していこうと思います。
あくまで僕の主観的な話ですので、難しく考えず、このように麻雀という競技を考えるプロもいるのだなと知って頂ければ幸いです。
「手牌は入れられるのではないか」と考えだしてからというもの、日々試行錯誤しながらその「糸口」を探し続けました。
「クマクマタイム」なるものは、そうなった後の話ですので、まず入り口を見つけなければなりません。
好調な時間帯を維持させる方法は、手順をしっかり守り、相手にもたれかかるだけです。
自らくだらない動きを避け、相手の攻撃がきても当たり牌はすり抜けるはずですから、真っ直ぐ打ち抜くだけです。
しかし、入り口へのきっかけ、いわゆる「コツ」は、まだ少ししか解っておりません。
僕の場合は、手なりの1,300・2,600や2,600オールをツモった場合や、二軒リーチを上手くかわして、アガリきった後などがチャンスかなとうっすら感じてきました。
足りない部分を毎日の麻雀や過去の対局映像から探しました。
まだまだ完璧ではないですが、以前よりはその状況を作りだす事に近づけた気がするので、僕なりの基本的な考え方を紹介しようと思います。
とその前に、タイトル戦やリーグ戦の麻雀、日々の麻雀、全てにおいて基本となる考えは同じです。
麻雀は「戦(いくさ)」です。勝利を得る為には無傷ではいられません。
必ず多少なりとも傷を負うのは当たり前です。なぜなら相手も必死だからです。
先行した時だけリーチして、後手を踏んだらベタオリ。こんな麻雀で勝てる日はそうそうありません。
そして、そんな麻雀で視聴者の皆さまへ感動を与えられるのでしょうか。
アマチュアが簡単に模倣できないプレイをしてこそプロの麻雀でしょう。
僕はプロですから、タイトル戦やリーグ戦での結果が問われます。
限られた回数で結果を出さなくてはなりません。
どんなに配牌が悪くても、どんなに不運な出来事が多くても、その日のうちに、その半荘の内で軌道修正して行かなくてはなりません。
戦えなかった配牌を、主導権を取れる牌姿に変貌させなくてはなりません。
具体例としては、アガリの薄いところから策をめぐらせ、相手のアガりを防ぎ、自分でアガりきる。
いつもなら放銃してしまいそうな牌を止めて、相手のキッカケになるアガリを食い止める。
追い込まれて苦しい状況で、頭では解っていても理想通りにはなかなか動けないですよね。
それらの経験から今の僕が見つけた「糸口」が以下の3つです。
1、いかなる状況でも勝利に対して貪欲な気持ちで挑む。     
 
2、勝負所と確信した手牌は手役に関わらずしっかり勝負し、くだらない放銃は避ける。
勝負手がリーチ合戦に負けた等はOK。欲にかられた放銃はNG。
 
3、置かれた状況を素直に把握し、それに沿って戦いを進めて行く。
良ければ手順をしっかり踏んで、不用な恐れをなくし、真っ直ぐ打ち抜く。
悪ければ、チャンスを伺い、アガリにたどり着かなければ、まずテンパイを目指す。(但し放銃はNG)
ギリギリのラインまで攻めて、これ以上は無理という所で撤退という行為を逃げずに繰り返す。
これが基本行為です。この状況を繰り返して行く事により、徐々に自分の時間帯が出来上がってきます。
口で言うのは簡単ですが、実戦するとなると必要なものが見えてきますよね。
例えば、ギリギリまで攻める為には「ヨミ」の力が必要ですよね。
精度が上がれば通せる牌も多くなります。
そして、「手順」。字牌の切り順、牌効率(アガリまでの)この辺りもマスターしなくてはなりません。
そして、何より精神力と体力。この行為を繰り返す為には、集中力の継続と度胸が必要です。
僕の経験からすると、この行為を上手く出来た日には、一度、二度自分の時間帯に突入する事ができました。
他の3人に比べ、配牌が圧倒的によかったり、配牌が普通でも、ツモが他の人より効いていたり、展開が向いて来たりする時間帯のことです。
今もまだ足りない部分を強化中ですが、修行し続けて良い結果が出続けたら、もっと掘り下げて話せるような気がします。
さて、麻雀プロも人によって「そこ」への入りかたはさまざまです。
そこで、本日はこの方の局面の打開方法を取り上げてみましょう。
Chapter2 前原雄大プロの場合
12月14日に行われたA1リーグ第9節C卓3回戦
1、2回戦と、上を狙うしかない望月プロが、順調に得点を稼ぎ30ポイント程の1人浮きで3回戦を迎えます。
同卓する前原プロと古川プロは、大事なポイントを守りながら、最終節を迎えたい為、超攻撃的な望月プロをいかにストップするかが、この半荘の焦点でした。
(二人はマイナスすると、最終節、中位卓にまわる可能性あり)
東2局、ドラ南 親の前原プロが仕掛けます。
七万八万一筒一筒二筒二筒三筒四筒四筒六筒  ポン中中中
中を一鳴きして上図に変化。ここへ一筒二筒のターツを落としに入った望月プロの一筒を前原プロがポンして、ホンイツへ向かわず、打六筒とします。
七万八万二筒二筒三筒四筒四筒  ポン一筒 上向き一筒 上向き一筒 上向き  ポン中中中
前原プロは次巡ツモ五筒ときて、六万九万マチになり、そこへ望月プロから打二筒
ホンイツならアガリがあっただけに痛恨かと思えました。
1枚目の二筒はポンせず、六万九万マチを続行します。まあ親キープを優先した手前、動かないのは当然と思えます。
しかし、次に望月プロがツモ切りした二筒はポンして、打七万とし、八万単騎に。
その後七筒単騎、五筒単騎、ドラ南単騎へと移行させて流局。1人テンパイで1本場となります。
この時点ではまだ形勢は望月プロにあります。
しかし次局、同じように発を一鳴きして、1,500の仕掛けをした親の前原プロ。
五万五万二索三索四索五索七索七索八索北  ポン発発発  ドラ北
ツモ六索九索なら打北とし、テンパイを取るだろうと予想できた場面。
待望のツモ北となり、打五万
数巡後、ツモ九索五万でテンパイすると、テンパイの入った望月プロから六索を打ち取り、あっという間に自分の時間帯に入れてしまいます。
この場面のポイントは、常に一鳴きをし、相手に打点を読ませなかったことが、功を奏したのですが、それよりも前原プロが上手かったのは、決定戦を狙う気迫充分の望月プロが、1、2回戦と自分の時間をしっかり作ったことを受け、それ以上の気迫で押し返した事です。
それにより、古川プロと伊藤プロは引かざるを得ず、望月プロの支配していた時間を、やや強引に自分の方へ持って行ったのです。
僕もこの日の望月プロの立場なら、このホンイツには一瞬にして、落とし穴に落ちるように掴まっていたでしょう。
先に述べた局面を打開する、ナイスプレイの場面でした。
ポイントを守る時にこの動きを出せる胆力は、やはり凄いと思います。
次回は、さらに細かく配牌の入れ方と、
そのサインを見逃さない方法を述べたいと思います。
お楽しみに。