プロクイーン決定戦 決勝観戦記/第14期プロクイーン決定戦初日観戦記 紺野 真太郎
2016年10月28日
全12回戦からなる決定戦。昨年までは6戦×2日間であったが、今年度より4戦×3日間に変更となった。5名の選手により抜け番で2回り10半荘行い、最下位が敗退となり、ポイント持ち越しで2回戦。トータルポイント最上位者がプロクイーンの称号を得る。全体を通してのシステムに変わりが無いが、抜け番選択に微妙な影響が出る。連続して戦いたい者、バランス良く休憩を入れたい者、考え方はそれぞれであろうが、1日4回戦制の為、2、3回戦目の抜け番はどうしても嫌われるであろう。
抜け番選択の決定方法であるが、先ず予備抽選を行い1~5番までの順番を決め、1番から順に選択していく。
予備抽選、前年プロクイーンの童瞳、最初に引いたのはなんと5番。自動的に残り物の抜け番となる。残り物にあるのは福なのか、それとも・・
次はA卓1位通過の和久津。いい数字に越したことはないだろうが、引いたのは3番。以下B卓1位西嶋が2番、A卓2位茅森が1番。B卓2位宮内が4番となった。
茅森早香 最高位戦日本プロ麻雀協会所属 5月4日生まれ B型
女流最高位や女流モンド杯優勝経験もある「天才」茅森。このプロクイーンは3年連続の決定戦進出。和久津とのライバル対決は今回も最注目となる。そんな「天才」が選んだ抜け番は5番目であった。
「朝はゆっくりしたいので・・」
アンケートにはそう答えたが、気合が入った初日に4戦打ち、2日目は対戦相手の戦いを見ながら遅めに会場入り出来る5番目は選手にとって理想であろう。
西嶋ゆかり 日本プロ麻雀連盟北関東支部所属 1月3日生まれ AB型
普段は教室など麻雀プロとしての活動の他、音楽活動も並行して行う西嶋。ここまでプロとしての実績はまだゼロに等しい。
「プロになる前からテレビやゲームで見ていた方たちとの決定戦。せっかくの大舞台なので楽しめたら素敵だなと思います。」
と答えた。人前での音楽活動が舞台度胸として活かし、どれだけ落ち着いて打てるかがポイントであろうか。西嶋が選択したのは1番目であった。
「本当は5番が良かったんですけど、間が空くのが苦手なので」
との回答。豊富な経験を持つ者達の戦い方を見てから入れるのは西嶋にとって良い抜け番のように思える。
和久津晶 日本プロ麻雀連盟東京本部所属 2月17日生まれ O型
茅森が3年連続の決定戦ならば「アマゾネス」和久津は6年連続の決定戦進出。戴冠2回とこのプロクイーン決定戦に抜群の相性と強さを持つ和久津。女流戦にだけ強いのではなくA2リーグでも上位を走る姿を見れば真の実力者であることは一目瞭然だ。
「まだ午前中なので・・」
と2番目を選択したが、午前中?(対局開始は14時。2回戦は15時頃)と?が付くがこれは和久津特有の言い回し。自らのキャラクターを踏まえたリップサービスか。
宮内こずえ 日本プロ麻雀連盟東京本部所属 3月28日生まれ O型
涙の女流桜花から約10か月。2冠に向けて決定戦に駒を進めてきた宮内。ベスト8での戦い方は現女流桜花の名に恥じない見事な戦いぶりであった。武器のスピードに加え、打点、押し引きのバランスも精度を上げている。
残りは3番目と4番目だが、3戦連続で戦える4番目が残っていたのは宮内にとってラッキーであったか。勿論、選択したのは4番目。
童瞳 日本プロ麻雀連盟東京本部所属 12月24日生まれ A型
和久津と茅森の一騎打ちかと思われた昨年のプロクイーン決定戦最終戦。フリテンリーチの6,000オールを力強くツモり、初タイトルを引き寄せた童瞳。プロクイーンとして過ごした1年の経験は童瞳をどう成長させたのだろうか。成長するための貪欲さは誰にも負けない。
「去年と同じ挑戦者の気持ちで臨みます」
予備抽選で5番を引いてしまったので選択の余地は無い。
「特に希望は無かったので」
と、3番目の抜け番にもさほど気にする様子もなかった。
抜け番順
①西嶋 ②和久津 ③童瞳 ④宮内 ⑤茅森
1回戦 起家より 宮内 和久津 茅森 童瞳
東1局、和久津が先制リーチ。
リーチ ドラ
が自分から3枚見え。それを狙ってのカンリーチ。・・いや違う気がする。戦いのゴングを鳴らす、姿勢が打たせたリーチか。
対する親宮内。以下の手牌からを平然とツモ切り。
こちらも戦う気マンマンだ。いきなり火花散る展開。全部押す宮内は和久津のツモ切ったをポンしてテンパイ。しかし、お互いのアガリ牌は脇へ流れて流局。
続く1本場、今度は宮内が先制リーチ。
暗カン リーチ ドラ
カンドラが増えてのリーチ。一発。裏ドラありのBルールならではの緊張感が走る。暗カン入りのリーチはそれだけでプレッシャーとなる。
ツモって先制したいところであったが、実らずここも流局。親は続くが手応え的にはどうか。2本場にもリーチを打つがまたもや流局。3本場は童瞳のリーチを和久津が捉え3,900+4,900(供託、積み場)大きな加点を出来ないまま親と自らが出したリーチ棒を持っていかれてしまった。
東場は毎局誰からかリーチが入る展開。その数なんと12本。Bルールという事を考慮しても多い。それだけ格選手が戦っているという証なのだろう。
東4局も茅森がリーチ。
リーチ ドラ
先制であること、好形であること、打点が伴うことからも当然のリーチか。しかし、和久津の一発目の打牌が無スジの。
茅森からしたら「気持ち悪い」もしくはそれ以上の「ヤバイ」と感じさせるには十分な打牌であったろう。
和久津の手牌は
カンのチャンタ三色。この時点の残り枚数は2対2であったが、茅森にとっては痛恨の一撃を受ける結果となってしまった。
自分に勢いがあると思えばどこまでも攻める和久津。南1局1本場、童瞳が以下の捨て牌でリーチ。
(全て手出し)
対する和久津はこのリーチに、、、と全て押しカンのテンパイ。
ドラ
ここではリーチは打たなかったが、を引きイーペーコーに変わるとも通し、ツモアガリで1,000・2,000をものにする。この局までに童瞳は先制愚形リーチを何本か見せていたので、ドラ周り以外は押すつもりであったのかもしれないが、理屈で解っていても、やり遂げるのは難しい。和久津の強さが目立った1局である。
圧巻であったのが南3局。状況は以下の通り。
ソーズのホンイツ気配の親茅森に対し、打で、待ちリーチを打つ。上家であることに加え、が3枚見えており、ペンに気を取られる場面だが、保留の打とはせずに勝負。次のツモは。保留の打としていたとしても、打でリーチを選択しなかったとしても、このツモでの待ちに受けるであろうから、13巡目のツモは虚しくツモ切りすることになっていたであろう。だが、和久津は逃さず満貫をアガリ切った。
1回戦終了
和久津+37.0P 宮内▲0.7P 茅森▲12.9P 童瞳▲23.9P (西嶋±0)
2回戦 起家より 茅森 宮内 西嶋 童瞳
ここから登場の西嶋。既に1戦を終え、肩が温まっている猛者たちを相手にどう戦うのか。東1局7巡目西嶋テンパイ。
ツモ ドラ
が2枚切られているが、ここは先制でもあり、–のべ単リーチを打ってもおかしくないところ。だが、西嶋はそうはせず、打の単騎ヤミテンに構える。三色を見ての選択であろうが、1回戦のリーチの多さを見た後では異質に映る。西嶋は自らの雀風を打点重視の攻撃型と答えた。この選択はその言葉通りではあるが、リスクも大きい。初っ端から裏目が出た時にその後焦らないかの不安もある。
間が悪い事に次巡のツモが。「リーチを打っていたら・・」の思いがよぎる。それでも、テンパイの入っていた童瞳からがツモ切られ事なきを得た。多分緊張はあるであろう。その緊張感をどこまでコントロール出来るかが大事である。
東3局1本場、西嶋の親番、7巡目にリーチ。
ドラ
素直に進め、素直にリーチ。ある意味理想的な展開。そして高目のツモで4,000オール。アガリを得る事で落ち着けるか。
だが相手も簡単に抜け出させてくれるほど優しくは無い。東4局、茅森の先制リーチを受けるも親の童瞳が追いかける。
ドラ
一気通貫完成の勝負リーチ。これを茅森から捉えて12,000。西嶋に追いつく。
南1局3本場8巡目南家の宮内。ここまでは受け気味に進めてきたが、この局は手が伸びた。
ツモ ドラ
ここは打としてタンヤオでマンズとピンズに受けを求める。11巡目ツモ。おそらく想定していたテンパイ形では最悪の形。それでも単騎に受けて変化を待つ。13巡目引いたのは。フリテンだが、––、–の5面張だ。迷わずリーチを打った。親の茅森から追いかけリーチを受けるも、を一発ツモ。2,000・4,000のアガリで反撃の狼煙を上げた。
親番を迎えた宮内。2,900をアガった後の1本場、積極的に仕掛けてテンパイ。
ポン ポン ドラ
南家西嶋がドラを仕掛けて追いつく。
ポン
バックの形だが、親の仕掛けも入り、鳴いたも2枚目なので必然の仕掛けか。
親の宮内はをツモると果敢に暗カン(新ドラ)引く気は全くない。
ここまで苦しい戦いの茅森。それでも闘争心は失っていない。2人に対してリーチでぶつけに行った。
ドラ
これをものにして浮上のきっかけを掴めるか。
直後の宮内。
このツモで手が止ま・・・らなかった。ほぼノータイムで打。高目に受けて真っ向勝負。茅森が直後にを掴んだ時には嫌な空気が流れたが、それでも押し切りをツモって4,000オール。西嶋、童瞳を逆転しトップ目に立った。
続く2本場も攻める手を緩めない。七対子をテンパイすると即リーチ。
リーチ ドラ
が2枚切られており宮内からはノーチャンス。実際に山に3枚生きており、6,000オール、8,000オールまで狙ってのリーチである。
童瞳も粘ってテンパイ。待ちは宮内と同じ待ち。
その後を暗カン。新ドラがとなりドラが増えた。この時の茅森。実は童瞳より1巡早くテンパイしていた。
ドラ
宮内を躱す為のヤミテンであったが、ドラが増えたことで勝負手に変化。リーチを放った。しかし、は残り1枚は2枚。茅森が掴んだのは。2人から同時にロンの声。上家は親の宮内。裏ドラが乗り18,000。宮内にとっても茅森にとっても大きい1局となった。
3本場でも宮内が2,600オールを決め、持ち点を80,000点近くまで増やす。次局ようやく童瞳が満貫をツモり宮内の親を落としたが、宮内の押し引きの精度の高さを見せつけた数局となった。
南3局5巡目南家童瞳から見た図
親の西嶋から打たれたを仕掛けますか?
答えは無いと思う。各自の考え方で変わると思う。童瞳はスルー。ただ、西嶋が次巡ツモ切りを見た時、童瞳は「失敗したかな」と頭によぎったようだ。そこで少し焦ったのか2枚目のを動いてしまう。間に合い損ねたものを間に合わせに行くといいことはあまりないように思える。麻雀に限ったことではないが・・
西嶋からリーチ。一発目は、西嶋の捨て牌にはがあり、通ればアガれるように思えるが、その「れば」が怖い。5,800の放銃で済んだのは幸いであったろう。
色々あったこの2回戦だが、まだ終わらない。オーラス1本場、親童瞳の配牌
ドラ
比較的軽い手。上手くいけば三色か。9巡目ドラも引き手が伸びてきた。
13巡目南家茅森リーチ。その時の童瞳すでにテンパイ。
「もしかして・・」15巡目にを引いた時には確信めいたものがあったそうだ。
18巡目、童瞳最後のツモ
「ツモ」
この2回戦、戦い方としてほぼ思い通りに進めたはずの宮内が軽く天を仰いだのが印象的であった。
2回戦終了
童瞳+68.0P 宮内+26.1P 西嶋▲9.9P 茅森▲84.2P
トータルポイント
童瞳+44.1P 和久津+37.0P 宮内+25.4P 西嶋▲9.9P 茅森▲96.6P
3回戦 起家から 茅森 宮内 西嶋 和久津
和久津が抜け番から戻り、東1局から3局連続で仕掛けを入れる。アガリまでには結びつかないものの、ここまでの全体的な面前、リーチ主体の重い戦いからスピード感のある戦いに空気が変わる。
東3局そんな和久津がリーチに出た。それを受けての親西嶋。
を勝負するのは良いと思う。ただ、リーチはやりすぎに思えた。役アリ、4枚見え、ドラまたぎと理由はいくつもあるが、一番はこれが後手であるということ。勝負をかけなければいけない場面であれば別だが、勝負処はまだ先であろう。しかし、それなりの失点をしてしまうと致命傷になってしまう可能性はある。結果西嶋がで8,000の放銃となるのだが、リーチさえ打たなければ止めていたであろうと思えるだけに勿体無い気がした。
南2局、親番宮内。この3回戦も決して無理をせずチャンスを伺い進行させてきたが、親番ではしっかりものにして2,600オール。
ポン ポン ツモ ドラ
このワンチャンスをものにした宮内がオーラスをトップ目で迎えた。
オーラス親番和久津、7巡目、当たり前のようにリーチ。
リーチ ドラ
西嶋の手も育っていた。10巡目にはチーテンを入れた。
チー
ドラが3枚になってからのチーテン。焦って動いていたら和久津のアガリになっていたであろう。このめくり合いは西嶋に軍配。トップには届かなかったが、8,000放銃で崩れかけたのを踏みとどまった。
3回戦終了
宮内+20.6P 西嶋+10.1P 和久津▲6.9P 茅森▲23.8P
トータルポイント
宮内+46.0P 童瞳+44.1P 和久津+30.1P 西嶋+0.2P 茅森▲120.4P
4回戦 起家から 西嶋 茅森 和久津 童瞳
東1局、和久津の手の伸びがいい。9巡目メンチン1シャンテン
ドラ
対する童瞳11巡目、七対子テンパイ。
この時のテンパイ打牌。和久津がこれをポンしてカンテンパイ。
ポン ドラ
親の西嶋のツモはドラの。行く手でもなく、まだ安全牌があったが、和久津の捨て牌に目がいってしまったのだろう。をツモ切りしてしまう。
その後、東場に大きな動きは無く南入。南1局2本場6巡目、茅森リーチ。
リーチ ドラ
もう何度目の勝負リーチだろうか。今日打ったリーチはことごとく潰されてきた。それでも丁寧に手を作りリーチを打った。
7巡目童瞳追いかけリーチ。
リーチ
これは茅森の不調に乗じた追いかけリーチか。ただ、童瞳が想像した茅森の手牌はもう少し安い手であったろうが。
親の西嶋も強い牌を打たずにテンパイ。
茅森の河に、童瞳の河にはがある。ここも茅森のリーチは成就しないのだろうか・・
アガリ牌を手元に引き寄せたのは茅森であった。高目ので3,000・6,000。起死回生のアガリで一気にトップ目に立った。
南3局、和久津の親、あと2局凌げばトップが取れる。茅森、七対子1シャンテン。
ツモ ドラ
後の安全度と重なり易さを考慮して打を選択。至って正当な打牌である。しかし・・
西嶋が手を倒した。
罠はどこに潜んでいるかわからないが、何もここでとも思う。あと一歩のところでトップには届かなかった。茅森にとっては悪夢のような対局が終わった。
4回戦終了
西嶋+22.4P 童瞳+10.9P 和久津▲10.3P 茅森▲23.0P
トータルポイント
童瞳+55.0P 宮内+46.0P 西嶋+22.6P 和久津+19.8P 茅森▲143.4P
茅森がこのような形で初日を終えるとは誰も予想出来なかったであろう。麻雀という競技の怖さを見せつけられた結果とも言えよう。一方、上位4者は半荘1回でどうとでも転ぶ点差である。茅森もこのまま終わるとは思えず、2日目の戦いにも要注目である。
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