新人王 決勝観戦記/第27期新人王戦 決勝観戦記
2013年09月10日
日本プロ麻雀連盟の新人王戦は、予選と決勝を同日に行い優勝者を決める1DAYタイトル戦である。
ある者は挑戦のつもりで、又ある者は必勝を誓って、それぞれの思いを胸に全国より128人もの新人プロがここ新橋に集まった。
18時30分、予選7回戦が終了。
朝、128人の前に開けていた新人王への可能性は今、4人だけのものとなった。
清水哲也
予選1位通過
28歳。東京本部所属28期生。
予選は終始安定した戦い方で堂々の1位通過。面前手と仕掛けのバランスが良く、また場況もしっかり見えているなといった印象。
『決勝も気負わずいつも通りの打ち方で臨みたいです。そして勝ちたいです。』
大久保朋美
予選2位通過
23歳。関西本部所属29期生。
今回の決勝メンバー最年少にして唯一の女流プロ。予選での超攻撃型で全局参加型の麻雀を決勝でも見せてくれるのだろうか。
『自分の麻雀を打ち切れるよう頑張ります!』
岡本和也
予選3位通過
32歳。静岡支部所属27期生。
手役重視の面前高打点型。他の3人が仕掛けを多用するタイプなので、面前派の岡本がどう戦うのかが楽しみでもある。
『昨年は6位で悔しい思いをしました。今年は決勝に残ることが出来ましたが、優勝を意識し過ぎず、しっかりとした内容の麻雀を打ちたいです。』
三浦智博
予選4位通過
26歳。東京本部所属28期生。
リーチや仕掛けが多く、打点や待ちよりも先手を取ることを重視するタイプか。予選ではリードを得てからの卓回しが絶妙であった。
『決勝では悔いの残らないよう精一杯頑張りたいです。』
【決勝1回戦】
起家から岡本、清水、三浦、大久保で決勝1回戦がスタートした。
東1局、ドラで4人の配牌は
東家・岡本
南家・清水
西家・三浦
北家・大久保
こうである。北家の大久保が第1ツモでドラのを重ね、10巡目には、
リーチ
この本手リーチを打つ。あっさりと高目をツモってしまいそうな予感がしたが、ここは流局で1人テンパイ。
大久保『あの–待ちは自信があったので、アガれなかったのは感触として悪かったです。決勝戦の間それが気にかかってしまって…その後の押し引きに影響してきちゃったかもしれません。』
続く清水の親番、親の清水が8巡目にを両面で仕掛け
チー ドラ
この9,600テンパイ(連盟Aルールでは連風牌の単騎待ちは6符となる)。この清水の仕掛けに対し、北家の岡本は果敢にも、と押すが当たり牌のだけはピタリと止め、しっかりと単騎にし2人テンパイでの流局とする。
大久保、清水と本手を空振ったなか、初アガリは三浦。
チー ポン ツモ ドラ
2つ鳴いてのカンチャン待ちの2,000点ではあるが、中盤を過ぎていて面前で仕上げるのが難しくなってきたことと、親の清水の捨て牌からタンピン系で手がまとまっていそうとの読みを入れてのかわし手か。
東3局に、のみの1,000点を岡本からアガリ親番を迎えた大久保。
ドラ
この好配牌。9巡目に
こうなるがとがそれぞれ1枚切れのためヤミテンを選択。3巡後、を持ってきて打とし待ち変えをするが、ここでもヤミテンを続行。次巡、を空切り。と手出しになったことで、他家からは親はカンチャン外しでまだノーテンと見えたか、岡本からので5,800点の出アガリとなる。
同1本場は、岡本が清水の1,300点は1,600点に放銃となり南入。親は現状1人沈みの岡本。
ドラ
仕掛けてもホンイツドラ1の親の満貫クラスが見込める配牌である。何とかこの手を成就させ巻き返したいところだが、6巡目に西家の三浦から以下の形のリーチが入る。
リーチ
岡本もを仕掛けて–待ち2,900点のテンパイを取るも、余ったが三浦への放銃となってしまう。打点こそ安目の2,000点ではあるが、親番の落ちた岡本はますます苦しい状況となる。
南2局、親番は清水。大久保から1,500点を出アガリし迎えた1本場。
清水は4巡目にして以下の1シャンテン。
ドラ
ここは清水の連荘かと思うも、なかなかテンパイが入らない。そんな中、西家の大久保が、
ここからを仕掛け、567の三色との二段構えの後付け。大久保らしい積極的な仕掛けである。
しかしこの局のアガリは岡本。
ツモ
親と仕掛けに対応しながら役無し単騎をツモる。500・1,000ではあるが岡本にとっては待望の決勝初アガリである。
南3局は、三浦が清水に1,300点の放銃となりオーラスは大久保の親番となる。トップ目は大久保で34,500点。ただ現状では3人浮きのトップであり、2回戦へ持ち越すアドバンテージとしては弱い。この親番で加点をし1人浮きのトップになりたいところである。逆に、清水と三浦はこの局はトップを取りに行くことも大事だが、浮きのまま1回戦を終えることもまた重要なテーマである。岡本は何とかして1人沈みの状態からは抜け出しておきたい。オーラス、最初に動いたのは三浦。
ドラ
タンヤオ七対子ドラ2の1シャンテンからをポン。窮屈な七対子よりも動きやすい食いタンへと移行する。しかしその後ツモが利かずシャンテン数が進まない。その間、1シャンテンまで進んだ親の大久保が終盤にをチーで
チー
この2,900点のテンパイを入れる。親の1人テンパイで続行かと思ったが、最後のツモで初牌の中を掴み、さすがにと思ったかオリを選択。結果、オーラスは全員ノーテンとなり、順位点を足した1回戦のスコアは以下の通り。
大久保+12.5
清水+5.6
三浦+2.2
岡本▲20.3
例年、新人王戦というと打撃戦となり高打点が飛び交うイメージなのだが、今年は4人中3人が仕掛け派ということもあってか1回戦は小場が中心となり、最高打点は大久保の5,800点であった。
その小場を制し現在首位に立つはプロ1年目、大久保朋美。ニューヒロインの誕生か?最終戦開始までの小休止中、にわかに会場がざわめく。
【決勝2回戦(最終戦)】
ついにこの1戦で第27期新人王が決まる。大久保、清水、三浦の3人はほぼ着順勝負である。岡本だけは1人浮きのトップもしくは素点で大きく叩いたトップが必要となってくるだけに少し厳しい。それにしても決勝メンバーの4人は予選から合わせて今日9戦目となるのだが、誰一人として疲労の様子は見られない。やはりタイトル戦の決勝というものは特別なものなのだと再認識させられる。厳かとも言える雰囲気の中、最終戦がスタートした。
東1局、南家・三浦が親の第一打のをポン。これに応じるかのように北家・大久保も親の第二打のをポン。最終戦も空中戦を予感させる開局となった。2人の仕掛けに挟まれた岡本だが、
ドラ
この1シャンテンまでこぎつける。我慢を重ねていた岡本ついに大物手が炸裂か、と思ったのも束の間、大久保が三浦に1,000点の放銃となりこの局は決着となる。
東2局は、親の三浦が700オールをツモり連荘。1回戦から引き続き、三浦と大久保が小場のペースを作って局が進んでいるように感じる。同1本場、岡本からリーチの発声。
リーチ ドラ
中盤に親の三浦から切られたを鳴かずに、自力で引き入れてのリーチである。
しかし、このリーチも次巡、岡本の現物待ちでテンパイを入れた清水にかわされてしまう。
打点を作りに行くも、なかなか実らず苦しい展開が続いていた岡本。東3局の親番を迎え好配牌を授かり、
ドラ
岡本にしては珍しく仕掛けを2つ入れ、5,800点を清水から出アガる。
ポン チー ロン
面前派の岡本が親番とはいえ両面チーから仕掛けたことを考えると、最低でもドラはもう1枚隠れていそうである。清水自身も対局終了後に悔やんでいたが、私もこの放銃は少し淡白に思えた。
続く1本場。親の岡本が観戦者を少し驚かせる手順で、
3巡目
ツモ 打
8巡目にはこのテンパイを入れ、
ドラ
またも清水からで討ち取り、7,700点は8,000点の加点。
こちらの牌譜データサービスもしくはロン2の牌譜で詳しく見られます。
これで岡本は、三浦を原点以下まで沈めることが出来れば優勝が現実的なものとなる。
逆に、2局連続の放銃となった清水は、優勝争いから少し後退となってしまった。
同2本場。北家・三浦、親にの暗カンが入るもまだノーテンと読み、
暗カン ドラ
待ちは弱いがリーチと出る。これに南家・大久保も、
これで追いかけリーチ。対局終了後。このリーチの意図を聞いたところ
大久保『打点や待ちの良し悪しじゃなく、三浦さんか私のどちらかが岡本さんの親を落とさなきゃいけないと思いました。だから例え結果が三浦さんへの放銃となったとしても、このリーチの最低限の目的は果たせているからいいんです。私の親番は2回残っていますし。』
その判断の正誤はともかく、タイトル戦の初決勝という場面でここまで大局的な考え方を出来ることに驚いた。結果は、三浦と大久保の二人テンパイ。大久保の追いかけリーチが入らなければ岡本も押し返して親番を続けていた可能性も高い。岡本の親落としには見事成功したのだ。
流れ3本場となった大久保の親番では、清水が500・1,000は800・1,300をアガリ、東場は終了し最終戦もついに南入となる。
南1局、親は現状ラス目の清水。優勝のためにはこの親番で大きなアガリをものにしたいところ。
終盤に三色の崩れるあまり嬉しくないテンパイを入れリーチを打つも、
リーチ ドラ
西家・岡本に、
ポン ツモ
片方の枯れているシャンポン待ちをあっさりとツモられてしまう。そして岡本はこの1,300・2,600のアガリによってトータルで首位に立つ。しかし続く南2局に親の三浦に2,000点の放銃。首位は三浦へと目まぐるしく入れ替わる。
南2局1本場、後の無い清水がタンヤオ三色の本手リーチ。
リーチ ドラ
これをアガることが出来れば優勝の可能性はまだ残る。しかし清水の現物待ちでテンパイを入れていた岡本が大久保から2,000は2,300をアガリ、あとは岡本と大久保の親番を残すのみとなる。
南3局、親は岡本。大久保から2,000点をアガリ迎えた1本場。清水に逆転の手が入る。
ポン ポン ポン ドラ
をツモることが出来れば・小三元・ホンイツ・チャンタの倍満である。ただ、単騎ではアガリ目が薄いと思ったかに待ち変え。これが痛恨の倍満逃がしとなる。そして岡本のノーテンで親は流れ、いよいよオーラスとなった。たらればの話になってしまうが、清水はここで倍満をツモると33,200点持ちのトータルトップ目でオーラスを迎えることができ、追う立場のトータル2着目岡本は清水を原点以下に落とすアガリ(直撃なら3,900以上、ツモだと4,000・8,000以上)が必要となり、清水の優勝がかなり濃厚となっていたのだ。
清水『、と仕掛けているところに大久保さんがを切ってきた。は大久保さんに暗刻だと思いました。そして親の岡本さんも無筋を押してきた。は絶対に出アガリ出来ないけどなら岡本さんから直撃出来るかもしれない。山に残っているのもだという自信があったんです。切りは自分としては間違ってはいないと思います。思いますが…悔いは残ります。』
最終戦オーラス、親番は大久保。流れ2本場である。
ここで各自の現在の持ち点およびトータルスコアと優勝条件をお伝えしておこう。
三浦:30,900点 トータル +7.1P
岡本:48,300点 トータル +6.0P
大久保:20,900点 トータル ▲0.6P
清水:19,900点 トータル▲12.5P
三浦と岡本は1,000点でもアガれば優勝である。また、親がノーテンだった場合は三浦が原点付近の持ち点のため少し複雑となる。三浦がテンパイであれば三浦の優勝。全員ノーテンでも三浦の優勝。三浦ノーテンの岡本テンパイの場合、岡本の優勝。三浦、岡本ともにノーテンであっても清水がテンパイだった場合、岡本の優勝となる。大久保は満貫以上のツモもしくは岡本からの満貫以上の直撃で次局はノーテンで伏せることが出来る。清水は跳満以上のツモもしくは岡本からの跳満以上の直撃が条件となる。
サイコロボタンを押す大久保の指に力が入る。ドラは。4人の配牌は、
大久保
清水
三浦
岡本
岡本の配牌がいい。頼みの手にはなってしまいそうではあるが、この局面で役牌を絞る者はいない。にくっつきさえすれば捨て牌一段目でのアガリもありそうだ。親の大久保も悪くはないが、岡本の方が早そうである。清水はこの手格好から跳満はまだ見えない。三浦もアガリ競争となると少し厳しいか。
岡本がポン、チーとし6巡目で
ポン チー
このテンパイ。
しかし三浦もあの配牌からを重ね、、、と引き、を入れる。そして8巡目にをポンして
ポン
この執念のテンパイ。決勝最終戦オーラス、まさかのシングルバック対決となる。ただこのとは清水がを2枚にを1枚抱え込んでいる。跳満以上が優勝条件の清水だが、現在の牌姿からではまだ跳満は見えない。そこへ三浦のポン。役牌頼りであるのは濃厚である。優勝の可能性の低くなった清水からはこのもも出ることはないのではないか。そしてふと親の大久保の手牌を見ると、
ピンフドラ1の1シャンテンである。大久保がアガって次局、三つ巴の3本場となるのか?そう思った次の瞬間、大久保がを掴んだ。危険は百も承知、しかし切らなければ自身の優勝の可能性が無くなる。数秒の逡巡の末、河に放たれる。岡本の『ロン、1,000は1,600』の発声。大久保は元気良く『ハイ!』と応えた。
4位 清水哲也
『 決勝も緊張せず打てました。東3局の5,800放銃と単騎のアガリ逃がしはちょっとモヤモヤが残りますけど…。まぁ敗れはしましたが僕にはまだ来年もあります。今度こそ優勝ですよ。』
予選を見ていた時は決勝も清水が圧勝するのではないかというほどの安定した戦いぶりだった。タイトル戦の初決勝を緊張せずに打てたのはすごい。本当に来年も決勝に残っているのではないだろうか。
3位 大久保朋美
『予選は攻めしか考えてなかったのに決勝は変に守りも意識しちゃって…緊張している自覚はなかったけど、本来の自分じゃない麻雀になっちゃっていたのかも。せっかく予選で大三元アガったりで決勝に残れたのになー。決勝1回戦トップで優勝へのプレッシャー?それは全然なかったですよ。来年はリベンジです!』
優勝こそ出来なかったものの、その存在感は十分にアピール出来たのではないだろうか。出身は福井県で大学が関西だったため現在は関西を中心とした活動だが、今後は東京のリーグ戦や女流桜花への参戦も考えているという。まだ新人の大久保であるが、彼女が人気女流プロの1人となる日も近いかもしれない。
2位 三浦智博
『決勝も普段通りの早回しで行こうと思っていました。自分のスタイルで打ち切れましたから悔いはありません。最後にシングルバック対決で負けちゃったのは残念ですけど…来年、最後の新人王戦を頑張ります。』
今回の決勝、技術レベルだけで言えば三浦が優勝でもおかしくはなかったと私は思う。辛(から)い麻雀を打つなぁと思いながら観戦していた。三浦の出身は愛知県。麻雀プロとして一旗揚げるため、東京へ出てきたという。そして普段は麻雀店の従業員をしながら土日はタイトル戦やリーグ戦に参加している。淡々と作業のように打牌を繰り返す雀風と、その涼しげな外見から三浦のことを「最近の若者にありがちな、どこか冷めたところのある男」と私は思い込んでいた。しかしいざ話してみると熱く、意志の強い男であった。私は自身の勝手な先入観を心の中で三浦に謝罪した。
優勝 岡本和也
『優勝するなんて朝の時点では思ってもみなかったです。嬉しい限りです。僕は会社員と麻雀プロの二足のわらじなんですけど、会社員をしながらでも麻雀は強くなれるという証明も出来て良かったです。お世話になっている静岡支部の諸先輩方、最後まで観戦してくれていた皆さん、そして運営スタッフの皆さん、本当にありがとうございました。そして僕も日本プロ麻雀連盟の一員として、この麻雀界をより良いものとしていくべく努力と精進をしていきたいと思います。』
岡本が決勝に残った時、「あっ!」と思い出した。朝、誰よりも早く予選会場に着いて開場を待っていた選手だ。聞けば早起きして烏森神社に願掛けをしてから来たという。そして予選の観戦に来ていた堀内正人プロ(第27期十段位)が初見で『打牌のフォームが凛々しい。僕の推しメンだね。決勝に残るんじゃない?』と評していた選手でもあった。決勝を観戦していて、堀内プロの言うとおり岡本の打牌フォームはとても綺麗だと私も思った。日が経ってから岡本の決勝の牌譜を見返してみると技術面ではまだ少し粗削りなところも見つかってくるが、リアルタイムで観戦をしている時は、岡本のあの安定感のある牌捌きで打牌をされると疑問手も正嫡打に思えてしまうから不思議である。
その隙の無い物腰もあって大局中はある種の威圧感さえ漂わせている岡本だが、打ち上げの席では人の良さそうな無邪気な笑顔も見せ、また出席者1人1人にしっかりと挨拶とお礼の言葉をかける謙虚で礼儀正しい青年であった。
こうして今年度の新人王戦も大きな盛り上がりを見せ、幕を閉じた。
第27期新人王 岡本和也プロ おめでとうございます!
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