7回戦終了から決勝までは、会場の設営などで少し休憩となる。
残るは決勝2回戦だが、既にここまで7半荘を打ってきた選手にとっては、そろそろ疲労も出始める頃だろう。
さらにここからは採譜が入り、ギャラリーも大勢いる、今まで感じた事のない何かが背中に圧し掛かってくる。
その中で、一番いつも通りに麻雀を打てた人が優勝するといっても過言ではない。
できる事なら、全員が悔いなく対局を終えてもらえればと思うが、優勝できるのは唯一人。
設営が終わり、対局前の写真撮影も済み、決勝が始まった。

【1回戦】
起親は 大庭 三四郎、以下、尾澤
大河、嶋村 泰之、朝比奈 諒。
4人の配牌は良くも悪くもなく、親の大庭に がトイツ、北家の朝比奈に役牌が2種トイツといったところか。
とはいっても、他がそこまでまとまっていないので、そこまで良いとは思わないが。
朝比奈が6巡目までに役牌を2種仕掛けてピンズのホンイツに。
      ポン  ポン  ドラ
残った形は良くないが、緊張して声が出ないなんて事はなさそうだ。
ドラが なので、周りに散ってくれれば好き勝手にできるところだが果たして。
親の大庭は を暗刻にし、リャンメン2つの1シャンテンになるが、余った牌がドラの 。
テンパイしたら切りきれるかと思った矢先にドラが重なり以下の形に。
             ドラ
上家の朝比奈がピンズのホンイツなので、仕掛けて良しの絶好の1シャンテンである。
場に - はそれぞれ1枚ずつなので、 切りがオーソドックスといえよう。
しかし、大庭は打 とした。
もちろん打 も打牌候補にある牌だし間違ってはいないと思うが、
誰も切りそうにない よりは、間違いなく上家が切る を受けとして残した方が良いとは思うのだが。
結局、最終形は上家から を仕掛けて と のシャボに。
         チー  
二段目の捨牌が全て手出しで   と並んでしまったので、これはちょっと厳しい形になってしまった。
そして大庭のテンパイと同巡に、西家の嶋村がリーチ。
            リーチ
点数は安いが、 - が非常に優秀な待ちに見えるのでリーチといったところか。
怖い仕掛けが2人いるので、ダマを選択する人も多いと思うが、攻撃的な雀風である嶋村にとっては当然のリーチなのだろう。
しかしこの局、意外な結果に終わる。

リーチの1発目、尾澤が一通のペン のテンパイになり、ドラで大庭に12,000の放銃。
この尾澤の放銃はどうだろうか。
ピンズの仕掛けに、親は怪しげなリャンメンの仕掛け、さらにリーチがかかった状況。
まず、 はアガれる公算があるのかといわれると、非常に厳しいとしかいわざるをえない。
さらに、この は通るのか。例え通ったとしても鳴かれる可能性は低くない。
となると、自分の5,200のリーチより、他の方が打点は高くなり、しかも自分の待ちは悪い。
これが、最終局で5,200をアガれば優勝というような条件下であるなら放銃もやむなしだが、今はまだ開局したばかり。
博打を打つには早い状況で、この放銃は不注意ではないかと思う。
もちろん、普段から尾澤がこういった牌を打つのかと言われれば、そんな事はない。
この決勝、しかも96人から4人に残ったという特殊な状況下だからこそ を打ってしまったのではないだろうか。
所謂、かかってしまったというやつだ。
次局はその尾澤がメンピンツモドラの1,300、2,600をツモり、失点を挽回し東2局の親番を迎える。
尾澤の配牌は、
             ドラ
ダブ東を含む役牌2トイツで、他の形はあまり良くないが育てば大物手に届きそうな感じだ。
を仕掛けて、ソーズの染めに走り始めた10巡目に分岐点が。

ピンズの 、 と外していく時に がくっつきリャンメンになった場面。
さて何を切るか?
初志貫徹をするならばピンズのターツを払うのだが、
巡目もそろそろ終盤に差し掛かる状況で、このリャンメンを外して果たしてアガる事ができるか?
流石にここは 、 のどちらかを切り、ソーズにくっつくのであればピンズを払う場面ではないだろうか。
か を仕掛ける事ができれば、ソーズの染めっぽく見える捨牌だけに、ピンズはノーマークで最大5,800の収入。
東パツの失点を解消し、原点復帰の大チャンス・・・となるはずだが、尾澤は打 を選択。
結果、 が嶋村の三色ドラ1に捕まり5200の失点に。
結果論ではあるが、このリャンメンを残すと既に は純カラで、大庭、朝比奈も手は進んでいるが、尾澤にも十分チャンスがあった。
2回戦の短期決戦なら、一番大事な事は脱落しない事なのだが、
東パツの12,000放銃に、この5,200放銃では今後の挽回は非常に難しいと思われる。
東3局は嶋村の親でダブ東がトイツ。
なんとここまで全員親番でダブ東がトイツ。決勝に残るだけあって運気の高さが伺える。
だからこそ、4者に差は少なく、どこで勝負が決まるかとなると、いかに普段通り打ち続けられるかになるかなのだが。
この局は、終盤に尾澤にドラ3のリーチが入るも不発。親の嶋村は を暗刻にするも1シャンテン止まりでオリに。
局は進み、東場が終わって各人の持ち点は以下の通り。
大庭 39,700
嶋村 31,100
朝比奈29,500
尾澤 19,700
大庭が東パツの貯金を残したまま南場に。大きく動いたのは南2局。
嶋村が純チャン三色の1シャンテンから役無しになってしまう ツモで嫌々ながらテンパイに。
            ツモ ドラ
そして、親の尾澤も2つ仕掛けてタンヤオのテンパイに。
      ポン  チー  
そして12巡目、尾澤の切った を嶋村が仕掛け、役無しテンパイから純チャン三色に。
         チー  
競技Aルールは、現物以外の食い替えが採用されているが、実際に使われる事は多くない。
唯一食い替えが肯定されると言っても良いケースの1つが、この1手変わり純チャン三色の形であり、これは嶋村のナイス判断と言えよう。
そんな嶋村には当然の如くプレゼントが。
次巡、尾澤がツモるはずだった をツモって2,000、3,900。これで大庭に持ち点が37,700で並んだ。
さらに次局。嶋村がこのテンパイ。
           ドラ
高目の は場に3枚切れながら、前局の勢いをそのままに、周りのギャラリーも決定打が出るんじゃないかと思っただろう。
しかし、この局を制したのは東パツ以来、息を潜めていた大庭だった。
8巡目、初牌の役牌を2種類引かされ、 のトイツ落としで受けに回るも、
場に役牌が打たれるまで我慢に我慢を重ね、最後はこんな形で嶋村から3,900出アガリを果たす。
         ポン  ロン ドラ
追いつかれた矢先にこの直撃は非常に大きい。
これでオーラスを迎えて大庭が41,600、嶋村が33,800、朝比奈が27,500、尾澤が17,100。
オーラスは親の朝比奈が、500オール、2,000は2,300と加点し、浮きに回ったところで最後はノーテン終局。
尾澤を除く3人浮きで1回戦が終了。
1回戦成績
大庭+15,8P 嶋村+5,3P 朝比奈+1,3P 尾澤▲23,4P 供託1,0P

【2回戦】
決勝は2回戦なので、この半荘が終わると優勝者が決まる。
大庭はトップを取ればOK、嶋村と朝比奈は自身がトップを取りつつ大庭を沈ませられれば大体OK。
尾澤だけは3人を沈ませつつ、自身は大きいトップを取らなくては優勝は無い。
残り60分でどんなドラマが生まれるか。
起親は嶋村、以下、尾澤、朝比奈、大庭と座順が決まった。
ルールにより、トータルトップの大庭はラス親に固定される。
東1局は、各人手が入らず終盤には受けに回っての全員ノーテン。
東2局1本場は、まず嶋村が序盤で と がトイツになりマンズのホンイツ一直線。
中を叩いて、手牌は2シャンテンながら満貫まで見える。
しかしテンパイ1番乗りは尾澤。
9巡目に絶好のカン を引いて以下のテンパイに。
            ドラ
ダマで11,600リーチをかけてツモれば6,000オールのチャンス手だ。
尾澤に取っては、決勝になり初めて先手が取れる形でのチャンス手となった。
これを尾澤は丁寧にダマ・・・にしてしまった。
普段ならダマでも全然問題は無い。
しかし、これは決勝戦、しかも1回戦で尾澤は1人沈みのラスなのだ。
ダマにして、他の誰かからアガると一体何が起きるか?
放銃した者との差は縮まるが、他の2人はむしろ喜ぶ展開になってしまう。
ここはリーチをかけてツモり、3人を原点割れさせる事が出来る、尾澤にとっては本当にチャンスだったのだが・・・
結果は、嶋村が11,600放銃も、大庭、朝比奈にとってはラッキーな展開になってしまった。
ちなみに、出アガリだと各人のトータルポイントは、
大庭+18,8P 朝比奈+4,3P 尾澤▲3,5P 嶋村▲19,6P
と、なるが、もしリーチをして6,000オールをツモアガっていたら
尾澤+6,9P 大庭+5,7P 嶋村▲4,8P 朝比奈▲8,8P
なんとトータルトップ目になっていたのだ。
もちろん、ツモれていたかは分からないし、11,600の出アガリで差が縮まったのも確かなのだが、
目の前にあるチャンスを掴み切れなかったという事実もまた確かなわけで、尾澤の優勝はこの時点で薄れてしまったといった感は否めない。
そして次局は、大庭が3巡目の七対子テンパイを7巡目にツモって800、1,600は1,000、1,800。これで大庭の持ち点は33,800。
今日の大庭のデキからすると、放銃はほとんど期待できないと考えると、
最低でも原点割れをさせない限り、優勝の無い他の3人にとっては小さいながらも非常に重いアガリといえる。
その後、朝比奈が尾澤から7,700出アガリ、嶋村が朝比奈から1,600出アガリと続いた東4局は大庭の親。
配牌は、今日何度目にしたかわからない程のダブ東のトイツ。
            ドラ
これが6巡でこうなり
            ドラ
さらに を暗刻にし、 を仕掛け、
         ポン  ドラ
安目18,000、高目24,000の超ド級テンパイに。 も も山には1枚ずつ。
それでも巡目は進み、流石に流局だなと周りの空気も軽くなった頃、大庭の最終ツモは・・・

優勝を決定付ける8,000オールとなった。
この時点で4者のトータルポイントは、
大庭+55,6P 朝比奈▲2.6P 嶋村▲22,0P 尾澤▲32,0P 供託1,0P
まだ南場が残っているが、このポイント差を跳ね返すには親番で大連荘か役満が最低条件。
流石にそうは上手くいかないと、ギャラリーも感じていただろう。
が、事件は南3局。
西家の嶋村が11巡目にリーチ、そして16巡目にツモ。
             ドラ
まさかまさかの四暗刻。
この局、特に何も起きずに次局にいけば、他の3人の優勝条件は役満直撃という冗談みたいな条件しか残らないところだったが、
この役満ツモで、大庭と嶋村の点差は8,500まで縮まり、オーラスに満貫直撃、跳満ツモまで条件が下がった。
嶋村に奇跡の大外捲りが起きるのか!
オーラス嶋村配牌。
            ドラ
ドラが入って下の三色が見えるので悪くない。が、しかし。追撃もここまで。
ツモに恵まれず、最後までテンパイが入る事無く流局。
ラス前に小波乱は起きるも、大庭優勝で幕を閉じた。
第4位:尾澤 大河
予選参加者96人の中で、唯一、最初から最後まで安心して見ていられた安定感は見事の一言。
しかし、それだけに決勝での内容はもったいなかった。
終了後の打ち上げで、周りの先輩方にここぞとばかりいじられていたが、
その全てを糧として、次回、そして多くの場面でこれからも頑張っていただきたい。
第3位:朝比奈諒
決勝前のコメントで『運良く残れたので〜』と言った。
それならば決勝でも、その運を生かした攻めを見せていれば結果は大きく違ったのではないかと思う。
予選最終戦で大トップを取っての決勝進出そのままに決勝でも打って欲しかった。
それだけ綺麗に打てていたということだが、短期決戦では多少の荒々しさも必要なのは言うまでもない。
決勝独特の雰囲気を味わい、多少心理的に影響を及ぼした結果かもしれないが、この経験は必ず生かされる事だと思う。
第2位:嶋村 泰之
今回の4人の中で、決勝戦を戦った事があり、そして勝ち抜いた経験があった。
というか、前年度のグランプリで筆者は嶋村に大敗を喫しているので、正直偉そうな事は書けないのだが・・・
敗因といえる様な物が正直無い。優勝した大庭が嶋村の上をいっていたとしか書けないぐらいに。
2回戦ラス前、四暗刻をツモって意地を見せ、オーラスに望みを繋いだのは流石の一言。
来年。もう一度この場に立っている事を期待します。
そして・・・
優勝:大庭 三四郎
予選で見せた危うさを全く見せず、持ち点を増やしてからの徹底的な受けっぷりはお見事。
連盟に入った頃は、研修で先輩プロに怒られる事、数知れず。
そんな存在だった男が、わずか1年でここまで昇ってくるとは誰が予想しただろうか。
若干21歳。今後の成長次第では非常に頼もしい後輩が出来たと思う。
慢心せず、これからも勉強を続けていって欲しい。
それと1つ。
※大庭三四郎 ロン2のプロフィールコメントより
『平成生まれの若手プロの大庭三四郎です!好きな役は、リーチとリャンペーコーです!
振り込み0を目指して打っています!打牌が遅いかもしれませんが、よろしくおねがいします!』
・・・決勝で一度もリーチ打ってないじゃん!!
さて、以上をもちまして、新人王戦観戦記の筆を置かせていただきます。
最後に・・・、筆者が連盟に入った頃に幾度と聞いたジンクスを。
『新人王を取った者は必ずAリーグまで登りつめるか、志半ばでいなくなる。』
所詮はジンクス。されどジンクス。
この言葉を糧にするか、毒になってしまうかは本人次第。
願わくば、後悔だけはせず、これからプロとしての道を歩んでいただければ幸いです。

( 執筆:ダンプ大橋 文中敬称略
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