第249回:プロ雀士インタビュー 清水 香織 インタビュアー:西嶋 ゆかり
2022年11月01日
「モンド王座で清水さんが優勝されました」
この連絡を受けた時、控えめに言っても私は胸がときめいていた。
ナビゲーターから選手として復活し、即女流モンド優勝。そして王座優勝。
まるでドラマか漫画の主人公だ。
すぐに清水プロにお祝いのメッセージを送信する。程なくして清水プロから電話があった。
「もしもし」の次には「おめでとうございます」と言うつもりだったのに、
『ゆかりん、こないだのプロクイーンキツかったね』
『仕方ないこともどうにもならないこともあるよ、わたしだって散々あったよ』
と、清水プロから二言目に私が負けた対局の話題が振られる。清水プロが温かく力強い言葉をかけてくれるので、わたしも思わず自分の抱えていた感情を吐露してしまった。
ひとしきり話したあと、ようやくお祝いの言葉を伝える。
「モンド王座優勝おめでとうございます」
本題はこっちだ。
清水プロの気遣いに甘えてしばらくの間脱線してしまったが、それは珍しいことではない。相手の話を引き出すことも、それに耳を傾けることも、また相手を笑顔にする話術も持ち合わせている。相談事を持ち掛けたときは何時間だって付き合ってくれる。
知り合うまでは怖そう、厳しそう、近づき難そうと思っていたし、今もそういう印象を持たれている方もいるかもしれない。(怒られるかな汗)しかし実際会って話せばわかる。そういった印象とは真逆と言っていいくらい繊細な人だ。
西嶋「ついにこの日が来ました。いつか香織さんの優勝インタビュー私が書きたいって10年以上前から思ってました」
清水「そうなの?(笑)知り合ってからもうそんなに経つのかー感慨深いわ」
西嶋「そんなわけで会いに行きますのでよろしくお願いします!」
今回は久しぶりに清水プロの地元に会いに行き、王座戦のことや麻雀の話ができたのでその時のことをなるべく飾らずに書いていこうと思う。
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西嶋「王座戦、最後までドラマチックな麻雀でしたね」
清水「4回戦勝負って、抜け出せそうで抜け出せない。あの日すごい手がいいな、私今日ツイてんじゃんって思って打ってて、後で見返したらみんな手がいいし(笑)」
モンド王座戦の1回戦、最初に点棒を積み上げ好調かと見えたのは清水プロだった。
西嶋「そうなんですよ。1回戦なんて、なぜこれでトップじゃなく3着なんだって思いませんでした?」
清水「思った思った。親満親満てツモられて、自分はここぞってとこはアガれなくて、ジリ貧の3着」
西嶋「どう思いました?」
清水「何とも思わなかった」
西嶋「え?何とも?(笑)」
清水「うんまあ、あれだけ手が入って3着はきついなーとは思うけど、初戦で小さめの3着なら上出来でしょ。どうせ大体どっかでマイナスくらうんだから、これで済めばいいなぁくらいかな」
西嶋「積みあげたのにさらわれていったみたいな初戦に見えました」
清水「まあ、それが王座戦なんじゃない。みんな勝ち上がってきてるんだし」
清水プロがこんなことくらいで揺らぐとは思えない。ただ、ノータイムで「何とも思わなかった」と答えた時の涼しげな表情には私自身グッときた。やっぱり私の憧れてた「清水香織」だ。
西嶋「ああ香織さんだなぁって思ったのは、親の瀬戸熊さんのリーチに対してドラのを押したところとか」
清水「画面ではわからない、対局者にしかわからない間合いってあるでしょ?瀬戸熊くんほんの一瞬だけ、少しだけためらいの色が見えたように感じた。だから、絶好のリーチではないんじゃないかなと思って。ピンフのみではリーチしなかったけど、三色がついて…あの時瀬戸熊くんが点数なくて私がトップ目で状況はよかったんだよね。もう一発決めてもっと点差つけれるならと思ってリーチした。瀬戸熊くんがラス牌のツモって、もカンできる形になってるの見て(ああ、できてるなこの人)って(笑)。それでその後の攻め具合もまた考える。自分が一番の絶好調だと思っていたけど、違うのかもしれないって」
私は清水プロのこういう麻雀の話が大好きだ。麻雀が壮大な物語や映画みたいに感じられる、そんな語り口で話してくれる。現代流ではないのかもしれないけれど。
西嶋「これは一ファンとしてなんですけど、今回の決勝見て、香織さん何か変化があったのかなって思ったんですよね」
清水「1回戦のヤミテンとかもリーチいってたらもっと縦長の展開になったかもしれないし。実際終わってから、『はリーチだろ』って散々言われたよ」
南3局のことである。
清水「魚谷さんが絶対にオリない親番。白鳥くんて、時間とってでもすごく色々考えて打つタイプじゃん。あの状況でなんで私からリーチきたの?って考えれば安いリーチは考えにくい。決め手が入ったんでしょって思う。まあまあ手が入ってない限り瀬戸熊くんもおりるでしょ。魚谷さんは100%くるじゃん。白鳥くんと瀬戸熊くんの利害が一致しちゃうじゃん。最終戦は三つ巴のはずが、東1局で魚谷さんが瀬戸熊くんから国士アガって、そこからも決め手のアガリ決まってるのほぼ魚谷さんだけなの。カンの三色もが通って押し出されるようにで出アガリして、そのあとの3人リーチに勝ったのも魚谷さん。あの時点で魚谷さんも4,000オール6,000オールくらいでいけそうなところまで来てた。最初は放っとけばいいやだったはずが、そうはならなくなるでしょ。魚谷さん4,000オール、6,000オールとかやりそうじゃん」
西嶋「やりそうだし、やられたことあります」
清水「ヤミテンで万が一白鳥くんから直撃できたら5,200差をつけられる。ツモれば5,000点差。それはリーチしてればもっと点差作れるけど、リーチの危険と見返りが見合うかどうかの費用対効果みたいな話。ヤミテンでも5,000や5,200差つけられる可能性は大きいよ。他からの出アガリは2,600差だけど」
西嶋「いや、リーチしない人いっぱいいると思うし、たぶん私もリーチしないんです。こうやってその時の思考聞けば確かにって思うし。でも香織さんは…って思っちゃうの何なんですかね(笑)、見てる側が勝手に思い込みからイメージを作ってるのかなって」
清水「それが正しいよ。私はそういうタイプだし、そういう麻雀打ってきたもん。でも最後の最後、魚谷さんリーチ棒出るまで1,000点足らずで役満直撃条件しかなくて四暗刻逃してるじゃない。南3局で魚谷さんから2,600アガってなかったら、東1局とオーラスで役満決められて逆転されるなんてシナリオもあったかも。白鳥くんもオーラスで条件満たなくてファーストテンパイ取らなかったでしょ。結局は、2,600が最後までじわりと効いてたってことだよね。だから後々見ると、そういう勝ち運が自分に向いてて、それに沿った考えをその時できてたのかなって思った」
西嶋「すごく納得しちゃう話なんですよ」
清水「でも清水香織ならリーチだろってことだよね」
西嶋「そうです(笑)。しつこくてすみません」
清水「(笑)それは合ってるよ。ファンの人は清水香織ならリーチだろって思って見てたと思うし、あそこでリーチ打たなかったからオーラスあれだけ苦しんだんだろうって思ってると思う。でもそもそもオーラスはきつかったと思う。1回もアガれなかったもん、6本場まで」
オーラスの我慢比べは6本場までもつれ込んだ。
清水「5本場でようやくピンフテンパイした時、瀬戸熊くんにツモられたでしょ。あの時(これはやばいな)と思った。あれが6本場で遠い仕掛けをしたことに繋がる話なんですよ」
清水「去年の最強戦の決勝思い出して。瀬戸熊くん倍満ツモ条件クリアして勝ったじゃん。このまま放っとくと私もあれを食らうぞと。役満打ってるのにあそこまで競りに来られてるし。もう、ここが正念場だと思って、まず一打めにドラのを切った。絶対行くぞと思ってたら3巡目に白鳥くんがスッとを切ったんだよ。あれほど手牌に慎重な白鳥くんがだよ。よっぽどこの人手がまとまってるんだなって思って、これは鳴いて速度上げてかないとサクッとアガられて終わると思った。で、そのをポンした。ここが勝負局だって思えた」
西嶋「あのポンすごかった」
清水「白鳥くんがノータイムで切ってきたからだよ。あれ鳴いてよかったな。鳴かないと白鳥くんにピンフのテンパイ入っちゃうから。リーチ打たれて自分も手が進まなくてオリちゃったかもしれない」
西嶋「麻雀見た時はいろいろ変化あったのかなって感じてたけど、こうやって話してると香織さんは変わってないと思えました」
清水「基本は変わんないんだよね。私は頭で考える麻雀よりは身体で、体感で打つ麻雀だから。そうやっていい思いも嫌な思いもしてきた中で、嫌な思いの方が印象とか心に残るっていうか、そこから学んできたつもりなんだよね。それで選択の幅っていうのは出てきたのかもしれないけど、基本的なスタンスは変わらないよね。常に一番後悔しない方を選ぶ。行かないと後悔するなら行くし、行って後悔するなら行かない方がいい。自分がこれで行くって思って打っちゃったらそれはしょうがないよね」
西嶋「だからあのタイミングでもポンいけるんですね」
清水「まあ今回は私っぽくないって思う人もいたと思うよ」
西嶋「私が見てきた香織さんの麻雀は、もっと火花が散ってる感じのことが多かったので(笑)」
清水「そうだよね。よく『見ててスカッとする』とか言われたから。思い切りやってる人見て発散するみたいな。そういう意味ではどういう麻雀が見たいと思われてるかわかってるつもりだけど、でも今回は絶対に勝ちたかったから貪欲に勝ちに行ったって感じかな」
西嶋「大食いのYouTuberだって本当は満腹で苦しいことだってあると思うんですよね。でも美味しそうに食べてくれてるから、見てる側はなんか気持ちいいしごはんが美味しくなるんです」
清水「わかるー!私も好きでめっちゃ見るから」
西嶋「麻雀の映像対局も、自分ではなかなか出来ない道にトライしてたりするのを見て、ワクワクしたりして麻雀打ちたくなるみたいのがあるじゃないですか」
清水「だねぇ。相当無茶だけど、見ている人たちはこのターツ外してホンイツ行って欲しいんだろうなぁとか思うもん」
西嶋「じゃあ香織さんは大食いYouTuber的な側面もあるということでいいですかね」
清水「そういうことだね(笑)」
西嶋「でも基本的なスタンスはブレない」
清水「うん、そうだね、ブレない!」
過去にブログやインタビューなどで話したことがあるが、私が今連盟に所属しているのはこの清水香織という麻雀プロの存在があったからに他ならない。
十数年前、北関東リーグを見学したとき初めて生で見た清水プロは、それはそれは遠い存在に思えたものだった。テレビから飛び出してきた芸能人みたいなものだ。
久しぶりにゆっくり話せた栃木での夜の最後、清水プロはこう言った。
「ゆかりん達の先輩女流プロとして、これからも道無き道を歩き続けたい」
あの日から十数年を経て今日という日に繋がっていた。そして今日もまた何年後かのどこかの瞬間に繋がっている。麻雀プロを続けるということは何時でも通過点にいるということなのだ。
清水プロは今、キラキラ輝くモンド王座という1つの点を通過し、次の輝く点に向かい進み始める。
私はそれを追いかけていく。
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