プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第25期チャンピオンズリーグ優勝特別インタビュー:森岡 貞臣

先日、第25期チャンピオンズリーグ優勝を成し遂げた森岡貞臣プロ。
小雨の降る平日。インタビューのため千葉駅で落ち合った。
西川「森岡さん、あらためまして、この度はチャンピオンズリーグ優勝おめでとうございます!仕事の後でお疲れでしょうに時間をとっていただき感謝です。」
森岡「いやいや、こちらこそありがとう。こうやって話を聞いてくれるのは嬉しいことだよ。」
西川「先日の祝勝会はごちそうさまでした!全部おごってもらっちゃって。みんなに『社長!』ってずっと言われてましたね(笑)。あの時は大勢いたし、じっくり話を聞くことができなかったので、今日は長く落ち着けるファミレスでインタビューしたいんですが良いですか?」
森岡「うん、いいよ~いいよ~。」
西川「あれ~?ここ、異様に混んでますね、すごい順番待ちだ。ちょっと腹減ってるんで、もう少し先の寿司屋で先につまんでもいいですかね!?」
森岡「うん、いいよ~いいよ~。人間、我慢はいけないからね。何事も本能に忠実に生きた方がうまくいくし、食べたい時に食べたいモノを食べるのが長生きできるそうだよ~。」
西川「ほ、本能…そ、そうですか(汗)ではお言葉に甘えて、雨だけど移動ってことで。」
28期生と連盟では新人だが、都内の大手ソフトウェア会社に勤める49歳。
この歳になってからのプロ入りはほとんど例がなく、プロ連盟のなかでかなり異色の経歴といえるだろう。
千葉で開催している勉強会でいつも一緒しているが、面倒見のよい兄貴肌でムードメーカー。周囲にはいつも笑いがある。
趣味は将棋と占い。
このインタビューの中でも再三繰り返されるように運命論とか流れの話が大好き。

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祝勝会の様子

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後日インタビュー2回目の様子の森岡プロ(右)

西川「さて、と。早速ですが。今回の藤原プロの観戦記、前例のないダメ出しの連続でしたね(笑)」
森岡「いやーホントにそうだねぇ。でも感謝しております。麻雀において注意してくれる方が周囲には居なくて。滅多に負けないし、年上の人が少なくて叱ってくれる人はいないから。ありがたいことです。」
西川「そんなに勝ってるんですか?」
森岡「そうだねー。スコアを全部公開しているけど、今年の平均順位率は2.15くらいだからね。」
西川「2.15!? 麻雀の数字じゃないですね。よく嫌われませんね(笑)」
森岡「いやいや…まあ、決勝は実際ヒドイ内容だったからね。牌譜は後で何回もみたけど、オレこんなに下手やったんだ!?ってのばかりだったしね。」
西川「うーん…でも優勝したからには何かの理由があったはず。今日はそこらへんをじっくり聞かせてもらいますよ!」
西川「まずは前週に決勝進出がきまってからの入り方ですが・・・」
森岡「準決勝(トーナメント)が激戦だったので、その後2、3日、体がガタっときたからね。体調を戻し、維持することに努めたよ。」
西川「あの準決はレポートを書かせてもらいましたが、猛者相手に1日に9回戦と本当にタフでしたものね。」
森岡「そうだったよね。その後は、決勝戦で勝つ為のシミュレーションを何度も繰り返したよ。良い状態のときのパターン、悪いときのパターンとね。プロ入りする前から競技麻雀は好きだったので、幸い決勝戦というものは何度も観戦してきた。だから優勝者のパターンってのがなんとなくわかっていたからね。優勝だけを考えてイメージトレーニングをした。」
西川「そうだったんですか…具体的には?」
森岡「とにかく優勝以外はいらない。2位も3位も同じ。そのために『常に前に出る』。『逃げない姿勢を貫く』。決勝卓ではそういう人に勝負の女神は微笑むんだと思ってました。」
西川「ふむ…それで当日は緊張もなくいけました?」
森岡「あの日、関東は大雪で大変だったじゃない?交通機関がマヒしていて。いつもよりかなり早い時間に出たんだけど、途中で電車が動かなくなって対局に間に合うかどうか、危なかったんだ。」
西川「そうだったんですか!?」
森岡「だからそのときは神様に祈ったね(笑)1回戦は大ラスでいい。お願いだから対局させてくれ~ってね。だから、ギリギリ間に合った時はツイてるって思ったよ。」
西川「あはは、気持ちわかります。」
森岡「そんな感じだから緊張どころではなかったんだけど、そういう感じで始まった例の1回戦東1局(下図参照)だったんだよね。あの二万を切っての放銃は相手をなめていたのかもしれないね。」
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西川「そうですね。あれは森岡プロらしくない打牌ですね。私もあれをみたら(森岡さんの)優勝はない、って思っちゃうかも。」
森岡「気持ちもまだ入りきってなかったんだろうね。それから、小町プロの手出し六筒ピンがずっと引っ掛かっていて、ホンイツでこれ当たるの?って確認したかった意識もあって。勿論、甘い打牌であることは間違いない。だけど、5回戦は長丁場。1回戦の開局で、目を覚ます意味でも良かったんだと思う。さぁ、これからは気持ちを引き締めて頑張ろう!って小町プロに気持ち良く8千点を支払ったこともよく覚えてる。これからが、私の決勝戦!全力で行くぞ~って思えたんだよね。」
西川「……めちゃめちゃポジティブですね(笑)そういえば、トーナメントの時も、開始から放銃が続いても全く揺れてない感じでしたものね。大事なところで四暗刻をツモられ親かぶりしても表情が死んでなかったからホント感心したんですよ。ああいう姿勢は見習うところが多いと思うなあ。」
森岡「2回戦が終わった時点でトータルがちょうどプラスマイナスゼロになったんだけど、これだけ下手うってるのにチャラかい?オレ、ツイてる~♪って。」
西川「とことん前向きですね(汗)」
何事も状況を悲観せず前向きに取り組むのが森岡プロの強みかも知れない。
森岡「ただ状態は本当に悪かったからね。自分の勝ちパターンとは程遠かった。だから状態を上げよう、上げよう、と必死だったよ。」
西川「たしかにしっくりこない展開が続きましたよね。で、状態ってどうやって上げるんですか?」
森岡「状態が悪い時に、その状態を好転させる戦術として、鳴き仕掛けあるいはリーチだと思っているので、とにかくリーチをした。局面を直線的ではなく曲線的に歪ませるのが目的のリーチってことです。」
西川「ほう~また難しい話をしますね。実際2回戦終了までだけで8回もリーチを打ってますね」
森岡「そうそう。2回戦までは状態を好転させる為に、意識してリーチを打って相手を前に出させないようにしたんだ。普段ならばAルールでタブーのピンフドラ無しのリーチも打ったはず。(笑) それで3回戦東4局の『これアガれちゃうの?』という7,700点の不思議なアガリで、ようやく波に乗りかかった感じがしたんだよね。逆に状態が良くなりつつあると感じていた4回戦南4局4本場(下図参照)は、メンゼンを貫こうと決めていた。だから六万八万も鳴かない。感性が四暗刻だといってたこともある。それから、総合ポイントでも、この時点で僅差の2着という意識もあって一発を狙ったんだよね。まぁ、実際にはテンパイすら出来なかったけど、優勝を狙うが故の判断だったので後悔はしてないよ。」
西川「あれ(山中プロの六万)は鳴きたい場面だものなあ。私なら絶対鳴くな。森岡プロはそういう信念のもと戦ってたんですね。」
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独特の麻雀観で組み立てていく森岡プロのゲームプランは、どこかしら連盟の重鎮たちの訓えとかぶるところがある。その自分の考えにしっかり寄り添えるところに森岡プロの真髄があるのかもしれない。
森岡「いずれにしても、最後の最後まで完全な状態にはならなくてずっと苦しいままだったよ。だからとにかく無我夢中で本能のまま集中して打つことを心掛けたなあ。これだけ出し切った5回戦ってのはかつてなくて・・・。現時点の私の良い面・悪い面もすべてが凝縮された決勝の5回戦だったなと牌譜をあとで見て思います。ただね、私はよっぽど勝ちたかったんでしょうねぇ・・・(笑)。勝ちたいが為に余裕がなくミスも多かった。そして、優勝したあと、勝つ事がこんなに大変なことだったんだって心から思ったよ。」
西川「ほんとうに全身全霊で打ち切ったんですね」
森岡「そうだねえ、これは戦前から意識していたことだけど、優勝するためには下手と思われても良いから、自分の考える『強い麻雀』を打ち切ろう!と決めていた。めったにないチャンスだから後悔したくなかったからね。」
西川「なんとなく森岡プロの強さが見えてきた気がしました。それで栄冠を勝ち取って、いまの気持ちはどうですか?」
森岡「まずは、貴重な休みに応援に駆けつけてくれた会社の同僚や仲間、そしていつも楽しく厳しく勉強会をしている仲間に感謝だなあ。うん、ああいうもののおかげだなあ。」
西川「私も森岡さんが獲ってくれて嬉しい限りです。」
森岡「あとはあれかなあ。決勝戦ってのは良いものだよね。牌譜をとってくれて、普段味わえない感覚を経験できて、注目を浴びて…いっぱい良いことがあるよね。」
西川「ということは?次の目標は…」
森岡「また、タイトル戦の決勝に出たい。そして2つ目のタイトルを獲りたいですね~!」
西川「じゃあ、次はタイトルホルダーとしてみられる戦いになりますねっ。そうだ、ちゃんとロン2やってくださいよー。」
森岡「あ~やりたいし、やろうと思ってるんだけどね・・・毎日、日中ずっとパソコンとにらめっこしている仕事なのでPCが嫌で嫌でしかたないんだよね~自宅ではもう画面は見たくないっみたいな。」
西川「わかります…わかりますけど、連盟のタイトル獲ってそれではイカンでしょ(笑)インタビューに書きますからねっ。森岡さんの麻雀がどういうものか色んな方々に見ていただきましょう。いいですか!?」
森岡「わかった、わかったよ~。 そうだなあ。あのあとグランプリMAXを戦って魚谷侑未プロと佐々木寿人プロに負けたんだけど、まだまだ強くならないといけないな~って決意したんだよね。こういう気持ちにさせてくれたプロ連盟に入れて本当に良かった。これからも努力して強くなっていきます!」
西川「はい、お願いします。今日はありがとうございました。」
森岡「ありがとうございました。」
いつも笑顔で物腰が柔らかく人懐っこい森岡プロの麻雀は、「人間が打っている」と感じさせる人間味あふれる魅力的なものだった。
仕事が忙しく30代のころは全く麻雀ができなかったという森岡プロは、いまは勤めをこなす傍ら、人生のなかで一番麻雀を打っているといい、麻雀を楽しんでいるという。今後はますますパワーアップしていくことだろう。このスタイルは日々仕事に追われ疲れ切っている日本のサラリーマンにとっては一つの生き方のヒントになるのではないだろうか?と思うほどイキイキとしていたのだった。
森岡プロの今後の活躍に期待したい。