十段戦 決勝観戦記/第31期十段戦決勝 初日観戦記 勝又 健志
2014年10月30日
選手紹介(抜け番抽選順)
藤崎智
第16期十段位
第30期鳳凰位
先に行われた鳳凰位決定戦では、前半戦からリードを築くと、持ち前の対応麻雀で2番手以降を寄せ付けず見事に戴冠。その力を存分に見せつけた。
その藤崎の抜け番選択は4回戦。
初戦は対局をしたい。そして続けて対局を行いたいという理由であった。
※十段戦は5人打ちのため、10回戦を1人2回抜け番で行い、その時点の下位1名がそこで敗退。
残った4名で、残り2回戦を戦い優勝者を決定する。
前原雄大
第14、15、24、25、26期十段位
第12、25期鳳凰位
これだけのメンバーの中に入ってもその実績は抜群。
怒涛の攻撃で局面を支配していく。その攻撃力は対戦相手にとって脅威であろう。
前原の抜け番選択は5回戦。過去の十段位決定戦で、初日の成績が良いこと多いことから、本日の4回戦を打ち切るという選択をした。
柴田弘幸
門前高打点の手作りと、鋭い読みからくる守備力とバランスを重視する打ち手。
鳳凰位決定戦進出経験もある。
柴田の抜け番選択は3回戦。夕食休憩の後すぐの対局を避け、より集中力を高めようという選択。
櫻井秀樹
「臨機応変」を信条とする対応型麻雀が持ち味。
ベスト8の戦いでも持ち味を十分に生かして圧勝。初の決勝戦進出となった。
櫻井の抜け番選択は2回戦。選択権があれば5回戦を選択したいと考えていたが、1、2回戦しか残っていなかった。初戦は戦おうということで2回戦を選択。
瀬戸熊直樹
第28、29、30期十段位
第26、27、29期鳳凰位
現在、十段位を3連覇中。苦しい時は徹底的に我慢を続け、自分の時間帯に入ったとみるや攻勢に転じその勢いを手放さない。絶対王者瀬戸熊は、前人未到の十段位4連覇に挑む。
瀬戸熊の抜け番は1回戦。抽選は5番だったものの第一希望の1回戦を手にすることができた。
1回戦(起家から桜井、柴田、前原、藤崎)
東1局7巡目、前原が
ドラ
ここからをチーしてテンパイをとる。すると9巡目。櫻井は
ツモ
このテンパイが入るとを切って即リーチにいく。同巡、藤崎にもテンパイが入る。
ツモ
藤崎の選択はを切ってのヤミテン。
結果は、11巡目櫻井のツモアガリとなった。
リーチ ツモ 3,900オール
1回戦目の東1局も他の局と等しく、1/100~120局なのではあるが、対局者にとっては特別な1局である。今回の十段位決定戦をどのように戦っていくのか、その想いや戦略が出るものである。
前原はその東1局に仕掛けから入った。私の麻雀観ではこの仕掛けは考えられない。
無理なく好形高打点の手牌に変化することに十分期待を持てる手牌だからである。
また何より、この仕掛けをした後に、相手から攻め返されたときに戦うに見合わない仕掛けと考えるからだ。
しかし、前原はそんなことは百も承知な上で仕掛けていった。
先手を取り続けることで主導権を取ろうという考えだ。
一方、その仕掛けを受けてテンパイの入った櫻井は、リーチにいく。
打点効率的にリーチに踏み切り易い手牌ではあるが、主導権は渡さないという主張が伝わってくるものであった。
そして、藤崎。彼のスタイルを考えると、かなり通りやすそうなを切って、手牌を組み直すものだと私は思っていたのだが、ここはを切ってのヤミテンとした。
藤崎は、試合前に「最終日に勝負権が残るようついていきたい。」と話してくれた。
この打牌から、「簡単に独走はさせませんよ」そんな思いが伝わってきた。
結果は、櫻井が理想的ともいえる3,900オールで先制点をあげた。
次局、8巡目に前原がドラを切ってリーチといく。
ツモ ドラ
これを受けた藤崎。9巡目に
ツモ
こうなると、ここからを打ち出して放銃となった。
藤崎は初日終了後に「1回戦の東場は腕を振りすぎた。」と話してくれたが、これが今十段位決定戦に用意してきた戦い方なのであろう。高打点、好形が見えたときにしっかりと攻め抜こうという意思が伝わってくるものであった。
東2局は、柴田が11,600のテンパイを入れるが、藤崎が選択を正解させて500・1,000のアガリ。
東3局は桜井が2,600、東4局は柴田が1,000のアガリ。
迎えた南1局。6巡目、櫻井は以下の手牌から
ツモ ドラ
を打ち出していく。解説の佐々木は「攻めれるときには攻め切ってほしい。」と。
が、この一打が藤崎の焦点をずらした。
11巡目。ドラで自風のが重なり、十分形の1シャンテンになった藤崎は、余剰牌を安全牌に切り替えていく。しかし、3者への共通安全牌を引けない藤崎は、前原への安全牌を手の内に残した。
14巡目。テンパイの入った櫻井はリーチにいく。
ツモ
藤崎はこれをポンしてテンパイ。
そのテンパイ打牌が櫻井に捕まった。
櫻井の切りは、場に安いピンズとソウズにアガリを求め、勝負になるターツが揃ったならばドラを勝負というバランスを重視した一打であった。その打牌が、藤崎の相手との距離感を微妙にずらすことにつながったのであろう。実際に13巡目に前原に
このテンパイが入っていたので、藤崎の読みも素晴らしいのだが、櫻井の選択が局面に見事マッチした。
続く南1局1本場。好調の波を掴んだか櫻井はツモが伸び、8巡目に
ツモ ドラ
ここからリーチにいく。
そこに向かっていくのは前原。9巡目、
ツモ
ここからドラ切りも辞さずのツモ切り。
そして次巡、ツモでテンパイすると、切りリーチにいくも櫻井に7,700の放銃となった。
南1局2本場。先手を取ったのは藤崎。11巡目
ツモ ドラ
このテンパイが入りリーチにいく。
同巡、前原にも勝負手のテンパイが入る。
ツモ
この時藤崎の捨て牌は
ここで前原は無筋のを打って、現物の単騎に受ける。リスクを負ってアガリやすさを取りにいった。
次巡の前原のツモは。これもかなり危険な牌に見えるが、これもツモ切り。
しかし、無情にも藤崎のツモ切りの牌は。アガリ逃がしの格好となった。
そして、前原の次巡のツモは。これもツモ切り、これは藤崎への放銃となった。
前原は、現物のを切ってやに待ち替えをすることもできたが、それではアガリの可能性がかなり低いことで単騎を選択したのだが、この連続放銃は前原の麻雀ではないように感じた。
リスクを負った攻めはもちろん前原の持ち味の1つではあるが、前原の信条とする体勢に忠実な麻雀を貫くならば、九でのアガリ逃がしの後の⑦は我慢するべきであった。
この後の前原は苦しい時間帯が続いてしまう。
1回戦は、チャンス手ではしっかりと攻め、高打点のアガリをものにした櫻井のトップ。
1回戦成績
櫻井+37.7P 柴田▲6.7P 藤崎▲9.6P 前原▲21.6P
2回戦(起家から柴田、瀬戸熊、前原、藤崎)
東1局。親の柴田が真っ直ぐに手牌を進め6巡目に
ツモ ドラ
このリーチ。
これが、1シャンテンの前原からすぐにでて12,000。
さらに東1局1本場でも、柴田は
ツモ
こうで絶好の変化からリーチにいく。
これもピンフテンパイの瀬戸熊からすぐにでて、11,600は11,900のアガリ。
柴田が勢いに乗ってくる。
続く東1局2本場。柴田は、ホンイツを含みに手牌を進めるが、11巡目にテンパイが入ると、待ちの強さと巡目の深さもあってリーチにいく。
ツモ ドラ
しかし、柴田はここで隣の牌を切ってしまいノーテンリーチ。痛恨のペナルティとなってしまった。
プレッシャーの大きい決勝戦ではあるが、自分の時間帯に入った大事な局面でのミスはあまりに厳しいものだ。とはいえ、まだ2回戦の東1局。まずはこの半荘をしっかり取り切ろうと柴田は攻め込んでいく。
東1局の2本場で、2,000は2,600をアガると、同3本場では8巡目に
ツモ ドラ
これでリーチにいく。
待ちは悪いものの、この親のリーチにはかなり攻め返し辛い。
柴田独走かと思われたが、ここで瀬戸熊が危険牌の連打で勝負に向かう。
その手牌は
を引けば打点的に勝負に見合う手牌に変化するものの、現状では役なしドラなしカンチャン待ちのテンパイ。これまでの決勝戦で、もう何度も見せているヤミ押し。
相手との距離感の見切りが抜群である瀬戸熊ならではの押しである。
2局前の11.900の放銃も想定内であり、瀬戸熊にブレは一切ない、そんな印象であった。
その後は、前原の2,000・4,000、瀬戸熊の6,400等のアガリがあり迎えた南1局1本場。
持ち点は、柴田52,900瀬戸熊22,600前原23,300藤崎21,200
藤崎が4巡目に2枚目のを仕掛けて以下の手牌
ポン ドラ
メンゼンで進めても高打点が見込めずここは捌きにいく。
7巡目、前原がを仕掛けて2シャンテン
ポン
8巡目、柴田にテンパイが入りドラの切り。
前原、このドラをポンして1シャンテン
ポン ポン 打
藤崎はこの時
ポン
こうなっていたが、柴田のドラ打ち、前原のドラポンを見てはポンせずここは撤退。
仕掛けた後とはいえ、しっかりと対応していけるのは藤崎の持ち味である。
前原はこの後、を引き入れで柴田へ12,000の放銃となった。
前原も12,000のテンパイなだけに、放銃もやむなしではあるが、1回戦からストレートな攻撃はことごとく捕まってしまう。この苦しい展開をどう打開していくのか。
南4局でも、前原は6巡目に
ドラ
藤崎の打ち出すドラのをポンして相手に対応させながらのアガリを狙うが、ここもドラを切った藤崎がしっかりをアガリ切る。
2回戦は、柴田が丁寧な打ち回しから、高打点のアガリをものにしトップとなった。
2回戦成績
柴田+19.3P 瀬戸熊▲4.5P 藤崎▲11.1P 前原▲23.7P
2回戦終了時
櫻井+37.7P 柴田+12.6P 瀬戸熊▲4.5P 藤崎▲20.7P 前原▲45.1P
3回戦(起家から前原、藤崎、櫻井、瀬戸熊)
東1局1本場。前原が2.600オールをアガるのだが、藤崎にファインプレーがあった。
9巡目に前原からリーチが入る。
ドラ
すでにこの時、瀬戸熊にテンパイが入っていた。
この時の藤崎の手牌は、
ツモ
とは3枚切れ、は前原の現物。
藤崎の手牌は親リーチを受けては勝負にならない。オリに向かうべき手牌だ。
そこでセオリーでいけば、次巡以降に櫻井、瀬戸熊からリーチが入った時に完全安全牌を残すべく、ここはを打つ一手かと思われた。しかし、藤崎はここからを打つ。そして、櫻井、瀬戸熊から無筋が打ち出されると藤崎は徹底ガード。が打ち出されることはなかった。
東1局2本場。遂に得意の先行の形となった前原が、さらに加点を目指すべく攻め続けるが、藤崎が前原のリーチ宣言牌をとらえる。
ロン ドラ
東2局1本場では、瀬戸熊が親・藤崎のポン、ポンの高打点をにおわせる仕掛けにも、自らの手牌に素直に攻め込み、
明カン ツモ
このアガリ。
2回戦まで、マイナスしていたタイトルホルダー3者が、それぞれの持ち味を活かしアガリに結び付けてきた。
東3局は、瀬戸熊が4巡目にリーチを打つも、藤崎が瀬戸熊から8,000のアガリ。
東4局を迎えての点数状況は
瀬戸熊23,300 前原31,200 藤崎41,200 櫻井23,400
7巡目、前原にテンパイが入る。
ドラ
子方ではスキを作らずしっかりとアガリ、勢いを掴んで親で加点を目指す前原のスタイルならば、即リーチかとも思われたが、ここは高目で決まった時に、あまりにも打点が違うことからテンパイ外し。
11巡目瀬戸熊は
ツモ
親であることや、巡目を考えると切りとなりそうであるが、瀬戸熊の選択はツモ切り。
ギリギリまで手役を狙っていく。
同巡、前原が高目のを引き入れテンパイ。
一旦ヤミテンに構えるも12巡目ツモ切りリーチに踏み切った。
さらに藤崎にもテンパイが入る。
そして14巡目、瀬戸熊にもテンパイが入る。
ツモ
三色は崩れたが、親のここは勝負所とリーチに踏み切った。
結果は、瀬戸熊がを引き寄せた。価値ある1,000オールのアガリ。
難解な選択であったが、見事最速のツモアガリとなった。
そして、次局。瀬戸熊は2巡目に
ドラ
ここから1枚目のを仕掛けた。
その瀬戸熊、この後1枚も有効牌を引くことなく、藤崎に2,000点の放銃となった。
牌姿だけを見れば、仕掛ける一手にも見える。
しかし、瀬戸熊ならば仕掛けない選択肢もあったのではないか。
クマクマタイムと言われる瀬戸熊の連荘は、そのほとんどがメンゼンであり、仕掛けるとしてもギリギリまで引きつけているものが多いのではないだろうか。
結果論かもしれないが、ここはメンゼンが勝ったかもしれない。
さらに、南1局。
3回戦は攻めるものの、ここまでスピードで追いつけなかった櫻井が1巡目にを仕掛ける。
ドラ
さらにを仕掛けてマンズのホンイツに向かう。
先ほどの瀬戸熊の手牌と比べると、櫻井の手牌の方が形は悪い。
しかし、ここでの狙いは相手を牽制しつつ攻めていきたいということである。
この後ツモが伸び、9巡目に
ポン ポン ツモ
このテンパイとなる。
これに3者が追いつく。まずは10巡目前原。
親の前原は、ヤミテンのまま櫻井にマンズをぶつけていく。
次は藤崎。
藤崎はを切って、テンパイ取らず。アガリ目の薄いこの待ちではマンズは打たない。
さらに、瀬戸熊。
ツモ
櫻井の仕掛けに、マンズはかなり通っており、字牌はいつも以上に危険な状況。
しかし、この手牌に育ったならとを打ち出していく。
櫻井は、機敏な仕掛けが成功し8,000のアガリとなった。
一方放銃した瀬戸熊。この手牌に育ったのならば勝負していくのが瀬戸熊の麻雀である。
しかし、前局からの一連の流れは、瀬戸熊の望むものではなかった。
この半荘の決定打は南3局。
9巡目、櫻井がリーチにいくも、序盤から三色に的を絞り、スリムに構えた藤崎が見事にアガリをものにした。
ロン ドラ
藤崎が持ち前の対応力で、前原、櫻井、瀬戸熊の強烈な攻めを受けながらもアガリに結び付け見事にトップ。南4局に、ホンイツドラ3をアガった前原が2着となった。
3回戦成績
藤崎+26.0P 前原+13.2P 櫻井▲17.4P 瀬戸熊▲21.8P
3回戦終了時
櫻井+20.3P 柴田+12.6P 藤崎+5.3P 瀬戸熊▲26.3P 前原▲31.9P
4回戦(起家から瀬戸熊、柴田、前原、櫻井)
東2局。3巡目、櫻井が苦しい形ながら2枚目のを仕掛ける。
ドラ
2枚目とはいえ、打点がなく形も悪く焦った仕掛けに見えた。
しかし、櫻井はここから見事なバランスを見せる。前原から
リーチ 明カン
このリーチが入る。すると櫻井
ポン
ここからが打たれるも、仕掛けてテンパイを取らない。その後、
ポン
こうなると、ワンチャンスのを打ち出しテンパイに取った。
そして、16巡目のツモアガリとなった。
を仕掛けたならば、が打たれたタイミングで苦しい手牌ながらもテンパイをいれ、捌きにかける打ち手も多いと思う。しかし、櫻井はひとまずを切れるようにしておき、情報を増やしにいった。
自身のアガリだけでなく、流局まで見据えたバランスの良い判断であった。
メンゼンでの重い手牌だけでなく、仕掛けた軽い手牌の見切りも絶妙である。
続く東3局も、仕掛けからアガリきって局面を回していく。
東4局。6巡目柴田が
ドラ
ドラ単騎でリーチにいく。
このリーチに攻め返すのは瀬戸熊。
3回戦途中から、全く手が入らなくなっていた瀬戸熊だが、リーチを受けて以下の牌姿。
ツモ
現物はのみ。ここでの選択は切り。
押し返すならば打点の見合う手牌にしようという選択。これが見事に成功する。
を引き入れリーチにいくと、すぐに柴田がを掴んで5,200のアガリとなった。
リーチ ロン ドラ
4回戦は劣勢を意識し、守備重視の中でワンチャンスをしっかりとものにした瀬戸熊がトップ。
仕掛けを駆使して、小さな加点を積み重ねた櫻井が2着となった。
4回戦成績
瀬戸熊+14.2P 櫻井+9.1P 前原▲5.3P 柴田▲18.0P
4回戦終了時
櫻井+29.4P 藤崎+5.3P 柴田▲5.4P 瀬戸熊▲12.1P 前原▲37.2P
カテゴリ:十段戦 決勝観戦記