プロ雀士インタビュー

プロ雀士インタビュー/第121回:第15回モンド杯優勝特別プロ雀士インタビュー 山井 弘 インタビュアー:ケネス 徳田

麻雀は偶然性の高いゲーム。そのため囲碁・将棋に比べると、プロ・アマの垣根は低い。
そうなるとプロの存在価値とは? この疑問に突き当たり、自己解決できる人は正直それほど多くない。
しかも自己流のスタイルを実践して結果を残すとなると…。
夏目坂スタジオの近くの定食屋。遅めの昼食を摂ろうとすると、奥から見たことのある2人が。
山井「だからお前は全然戦ってないから負けるんだよ!」
吉野「でも、安手で押し返せないっしょー」
山井「高けりゃ押し、安けりゃ退くっ、て誰でもできるだろ! 勝ち目指すならギリギリまで行かないと!」
昨年、リーチ麻雀世界選手権で優勝した山井弘プロと、チャンピオンズリーグ決勝に残った吉野敦史プロの2人が楽しく(?)談笑をしている。

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「山井プロに説教されているのがなによりの喜びの吉野プロ」

普段物腰柔らかい山井プロだが、吉野プロに対しては厳しい口調。
それだけ目をかけているのかそれとも…。
山井「戦える時に戦わないから、肝心な時に手が入らなくなるんだよ!」
吉野「じゃあどうすればいいんですかー?」
山井「たとえばこれ見てみろ。第15回モンド杯予選第1戦南1局2本場」
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吉野「東家の滝沢さんか先制リーチ、で寿人さんが追っかけてますね」
山井「だけどタッキーは1巡回してツモ切りリーチ。その後、寿人が4枚危険牌押してるからね」
吉野「難しいですね。現物は五索五万ありますけど…粘って一筒か、こっちにドラないからやっぱりヤメそうですね」
山井「だから自分の手牌の打点だけで判断するなって! ここは点数的にも状態的にも自分と寿人の一騎打ちだから、いかに寿人のアガリを止めるかが第一」
吉野「でも滝さんの親リーチもきてますよ」
山井「そうだけど、1巡回ししてるっていう弱み所はあるから、基本ignoreでもいい」
吉野「じゃあ山井さんは何切ったんですか?」
山井「一索切ったよ。寿人のは五万四万と無スジのリャンメン落とし。間違いなく手役絡みだから一索は通りやすいし真っ直ぐ行けるし」
吉野「でも一索、滝さんに放銃してますよ」
滝沢手牌
二索二索二索三索四筒四筒四筒五筒六筒七筒北北北ロン一索
山井「でも寿人の手見てみな」
佐々木手牌
三索三索七索七索九索九索九索六筒六筒六筒南南南
吉野「あ、四暗刻だ!えっうそー!びっくりー しかもドラドラ」
山井「ドラの七索が山に1枚残っていたし、タッキーのアガリ牌もそこまでなかったから、長引くと多分寿人のアガリ。そう考えると押して2,400放銃なら全然OKだよ」
吉野「でも結局この半荘2着終了だったんですね…」
吉野「そういえば予選第4戦も似たようなのありましたね」
山井「予選第4戦は東1局から18,000、5,800ってアガって出だしは良かったんだよな」
一万二万三万四万四万五万六万六筒七筒八筒暗カン牌の背六索 上向き六索 上向き牌の背リーチロン四万ドラ四索六筒六索発
五万六万七万一索一索三索四索四索五索六索三筒四筒五筒リーチロン二索ドラ一筒五万
吉野「聞きたいのは南3局なんです」
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山井「最初のタッキー君の先制リーチに対しては現物待ちテンパイだからヤミテン。ドラの重なりや567の三色の振り替わりもあるからね」
吉野「で、瀬戸熊さんのリーチがきて一発目ですね」
山井「で、この局は正直失敗したんだよ。序盤にあれだけアガってるのに、段々落ちてきてるから。だからほんとは追っかけリーチしちゃいけなかった」
吉野「追っかけたんですね」
山井「八万まではギリギリ押しだけど、ヤミテンが正解だ」
吉野「結果は六筒を瀬戸熊さんに打っちゃってますからね」
二万三万四万六索七索八索二筒三筒四筒六筒八筒八筒八筒ロン六筒
山井「で、次の局も瀬戸熊さんのヤミテン満貫に打ってラスまで落ち。点棒持ってても状態が落ちてたら行ってはいけないし、その『落ち』を把握できてないといけなかったんだよな、反省だ」
吉野「でもこれって、例えば山井さんが最初からオリて瀬戸熊さんがアガったら山井さんが有利になるからって考えちゃいけないんですか?」
山井「そういう思考だと勝負所で勝てなくなっちゃうからね。決着は自分でつける、そういう麻雀を常に打たないと上にはいけないよ」
吉野「あ、これってどうなんですか? 予選第10戦なんですけど」
山井「ああ、あれね。東1局で、また3件目にリーチいって、今度は一発で打ちとったやつね」
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吉野「いや、これは別にいいです(笑)。それにシャンポンの方が山に3枚いたじゃないですか」
山井「この時はペン七万のほうがあると思ったんだよ。実際、一番早いアガリだろ」
吉野「聞きたいのはこっちです」
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吉野「この2万点リード、相手親番、現物待ち、なのにこのドラの四万切ってリーチって? 普通できませんよ」
山井「これね。まずドラの四万切ってヤミテンは意味が無い。だからと言って、オリて1本場になっても、結局寿人に4,000オールツモられると並びになるし」
吉野「で、四万は通りましたけど、次巡八万掴んで12,000の放銃ですよね」
三万四万五万六万七万五索五索七索八索九索六筒七筒八筒ロン八万ドラ四万七筒
山井「この瞬間、『やっちゃったな』とは思ったけど、でもこれでメンタル壊すとダメ。打ってもまだ満貫圏内だから。むしろ次局の構え方が大事なんだよ」
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吉野「対面の村上(村上淳:最高位戦日本プロ麻雀協会)さんがリーチしてますね」
山井「で、このテンパイ。吉野ならどうする?」
吉野「これはいかないでしょ。四索六索も通ってないし、ドラも役も無いし。これは無理ですね」
山井「絶対そう言うと思った。リーチ者しか見てないだろ? 寿人の捨て牌見て、明らかに押してるだろ? 九索行って二万のトイツ落としは1シャンテン。ここでオリるとまた寿人のアガリで突き放されるだけだから」
吉野「じゃあリーチすか?」
山井「もちろん。一索が狙えそうだから六索切りリーチ。むしろ2件リーチで寿人を止めないと」
吉野「でも対面に打ったらバカバカしいですよね?」
山井「だから、そういう考えしてるから勝てないんだよ! 対面のアタリ牌なんか掴まないし、打っても安いから。むしろ最悪なのが寿人のアガリ。そういう考え持たないと」
吉野「で、結果は寿人さんから一索のアガリと」
山井「これでオーラス再逆転できると思ったんだけど…」
吉野「オーラスアガリきれず2着ですか」
山井「さて、予選最終戦なんだけど」
吉野「どんな条件だったんですか?」
山井「数字言ってもあんまりピンとこないから、ざっくり言うと、同卓の井出君とは着順勝負。上だったら決勝確定、下の場合は4位で、別卓の結果待ち。ただし同卓の新井君(新井啓文:最高位戦日本プロ麻雀協会)にトップ取られた場合は素点差も絡んでくる」
吉野「井出さんと新井さんと勝負ってことですね」
山井「そう。だけど基本井出君との着順勝負。だけどそういった条件戦でやっちゃいけないのが『脇の2人に対してはオリない』『数字に翻弄されてで手を曲げないようにする』。負ける人の大半がこの2つをやるんだよ」
吉野「俺はやんないっす。大丈夫っすよ!」
山井「本当か? じゃあこれはどうだ?」
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山井「南3局、2着目、井出くんとは14,300点離れてての親・新井君からリーチ。で一発でこの一索
吉野「これは行けない行けない行けませーん」
山井「行くんだって! 今まで何聞いてたんだよ!?」
吉野「でも…さすがに五索早切りの一索ですからね。他はそこそこ行ってもこれだけは一発で切っちゃいけないでしょーー」
山井「じゃあ一索じゃなくて六筒だったら行けるのか?」
吉野「六筒も厳しいっすね。裏スジだし4枚見えだし…」
山井「結局通りそうな牌意外全部行かないじゃないかよ!」
吉野「でも、さすがにここでオリても井出さんより上は確定だし。打ったらほぼアウトじゃないですか?」
山井「と思うだろ。でもここでオリて、アガリ逃して親がアガったら?」
吉野「それでもまだ井出さんとは差が…」
山井「それでも跳満ツモられたら一発で変わるからね。放銃よりもアガリ逃しのほうが痛いから」
吉野「なるほど。それにちゃんと次巡に五筒ツモアガってますしね」
山井「普通に打つと、状態いい人のほうが先にアガれるからね。そこでアガリ逃すと、状態悪い人のアガリになっちゃう。変な逆転劇とか、こういうケースが多いから」
と、山井プロの攻め味が光った第15回モンド杯予選。
だが決勝に入ると一転、慎重な立ち上がりと対応を見せ初戦は2着。そして2戦目のオーラス。
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山井「優勝条件は寿人を3着にして自分がトップ。ただしアガリ止めできないから、結局素点で逃げ切るか、寿人から直撃だね」
吉野「で、この七対子ですね」
山井「普通はこういう優勝しか意味のないオーラスでは、字牌タンキは悪い待ちだけど」
吉野「2人が国士無双狙ってますから、三索タンキでリーチかけそうですけどね」
山井「だけど発タンキでリーチした。あくまで狙いは寿人だから、三索だと使いきれるけど、発だと使い切れず出てきてもおかしくないから」
吉野「それに河も強いですし、七対子には見えないですからね」
山井「うん、結果9巡目に寿人から発が出てきて4,800。これで次局流局で逃げ切れたと」
吉野「いやー、やっぱスゴイっすねーー」
山井「本当にわかってるのか?」
吉野「発タンキの選択が絶妙と」
山井「そこは別にいいよ。お前に足りないのは戦う姿勢だよ」
ケネス「ソウダソウダ。少しは戦えコノヤロー」
吉野「うわーー、どっから出てきたのーー!?」
ケネス「いや、最初からいたよ。インタビュワーだから」
山井「Bonjour.」
吉野「えっ? じゃあ俺何のために…」
山井「勝ち方教わりにきたんだろ」
吉野「はぁ」
と納得行かないように吉野プロが退出します。インタビューらしく、麻雀部分意外の心情などを聞いてみました。
山井「モンド杯は第10回から出さしてもらって。その時、会長(森山茂和プロ)にモンドから出演のオファーが来ました!って言ったら、『山井くんじゃモンド出るのはまだ早いな』とバッサリ」
---辛口で切られたんですね(笑)
山井「ただ、出るからには頑張ってなって言ってもらえて励みになったね。まあその時は雀風のシフトチェンジ中(ディフェンス→オフェンス)だったから、ミスも多かったし、会長がそう言うのも当然だね。いつも会長は色々な人に出てもらいたいけど、そこでしっかりと打てないとその人の評価が下がってしまうから、逆に出ることがマイナスになってしまうことがあるんだよって言ってる。だから僕の場合も心配されたのだと思うよ。結果、予選は通過したけど、決勝は見せ場無し。」
---で、11回大会はお休みで12回大会以降から4大会連続出場と。
山井「そうだね。ビックタイトル無いし、12・13回と決勝は行けたけどそこまでだし、14回に至っては予選落ちだし、もうモンドに呼ばれることないかなと思ってたけど…」
---昨年のリーチ麻雀世界選手権優勝枠で15回大会出場と。
山井「優勝が優勝を呼ぶってこのことだね。パリでは『奇跡のメダル』を使って勝ったから、今回のモンド杯でも懐に忍ばせて戦ったたんだよ」
---今後対局の時、常に身につけてたほうがいいんじゃないですか?
山井「あんまり軽々しくは使いたくないからね。ここぞという時かな、あやかるのは」
ここぞという時は果たしていつか?
グランプリMAXはベスト16からの出場だが、やはりあやかるのは決勝からだろうか?
それとも世界チャンピオン、モンド杯に続く(超変則)三冠チャンスだけに最初からか。
山井プロの今年度の最後を飾るグランプリの結果はいかに?

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