プロ雀士インタビュー/第140回:第29期チャンピオンズリーグ優勝特別インタビュー 阿部 謙一 インタビュアー:高田 麻衣子
2016年02月29日
私は正直驚いた。
「もしも、チャンピオンズリーグで優勝したら、インタビュアーお願いしてもいいですか?前向き過ぎで、すいません。」
これは阿部プロから、チャンピオンズリーグのベスト28に勝ち上がった報告と共に届いたメッセージである。
彼とは同じリーグだった時に同卓して、対局後に少し言葉を交わした程度で、この時点では、あまりよく知らないくらいの間柄だった。
その後、私の職場の麻雀荘で再会してからは、時々リーグ戦などの結果を言い合ったり仕事の話をしたり。そんな中で、阿部プロからインタビューの依頼だ。
2016年1月23日。
第29期チャンピオンズリーグは、阿部謙一プロの優勝で幕を閉じた。
ーところで、阿部謙一プロとは、そもそもどういう人物なのだろうか?
私も皆さんと一緒に、このインタビューを通して彼の魅力を発見出来たらと思う。
今回インタビューを務めさせて頂く、25期生の”マイティ”こと高田麻衣子です。
拙い文章ではありますが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
事前に聞いたキーワードとしては、
“阿部謙一プロ・28期生・現在D3リーグ。温厚そうな人”
これだけの情報を手にして、私は待ち合わせの場所へと向かった。
高田「お疲れ様です。優勝おめでとうございます!!今日は、よろしくお願いします。」
阿部「こちらこそよろしくお願いします。今日は遠い所まで、わざわざありがとうございます」
インタビューには阿部プロと交流の深い、桶本篤史プロと山口大和プロも同行してくれた。
そのお陰もあり、和やかな雰囲気でインタビューがスタート。
高田「さっそくですけど、阿部くんの日常のことから教えて下さい。」
阿部「普段は、ペンギンがマスコットのお店で働いています。」
高田「えっ、それって激安の殿堂??」
阿部「そうです」
高田「つまり、ド ・キ ーテですよね!?」
阿部「(笑)。そこで、店長をやってます。妻と子供と麻雀の為に頑張っています。」
高田「おぉー!!パパなんですか!?」
阿部「はい。男の子と女の子がいます。」
高田「へぇー!家でも優しそうなパパなんでしょうねー?」
阿部「いや、家では全然違います! 亭主関白ですよ。俺、結構厳しいですよ!」
山口「ええー!?」
高田「全然想像つかないですね!」
私の受けた印象では
“温厚でトゲがなく、謙虚で優しそうな人”
という感じなので、“厳しい”とか“亭主関白”だとか、怒っている姿なんて、全く想像が出来ない。
同様の理由で山口プロも驚いていた。
桶本「その分、外では凄く優しいんだよな(笑)」
とフォローする桶本プロは、阿部プロと同い年で、10代の頃からの親友だそうだ。会話の雰囲気などから、お互いの事をよく知り、信頼し合っている仲なのだろうという印象を受けた。
高田「そういえば放送の時に知ったんですけど、連盟の試験に3回落ちたって本当?」
阿部「いや、2回です、2回!!」
高田「あ、2回でしたか。でも、本当に諦めなくて良かったですね! ところで、対局の前とかに決まってしていることって何かありますか?」
阿部「対局の前は絶対にお参りに行ってます!!」
高田「お参りに行ってるプロがいるのは、聞いたことありますね。」
阿部「リーグ戦とかの前には、神社やお寺にお参りをしに行きます。チャンピオンズリーグの時も、勿論行きました。御守りも買ったし。お墓参りとかも絶対に行くし、しかも試合が終わったら後日、御礼もしに行きますよ。」
高田「御礼まで行くんですか! 律儀ですね!」
桶本「あの、優勝決まった瞬間どうだった? どう思った?」
阿部「やった俺ー!!って思ったよ!でも、初めての決勝で、しかも生放送だったから、緊張とかもあって態度には出せなかったけどね。」
桶本「俺、パソコンの前で最初から最後まで、ずっと生放送を見守ってたんだよ。優勝決まった時、ああー決まったな、すげーなって思って。安心感からか涙が出ちゃったよ。」
私も視聴していたが、確かに山田浩之プロの打ち回しは、見事としか言い様がなく、先輩方もツイッターなどで賞賛していた。
阿部プロの当たり牌を止めて、粘りながらもう一度テンパイに持ち込んだ場面などは、多くの視聴者の胸を熱くさせたことだろう。
阿部「ありがとう。そう言ってくれるの凄く嬉しいよ。それと、今回俺がニコ生に出るってなったら、中学時代の友達が、連盟チャンネルに入ってくれたんだ。これも凄く嬉しかった。あと、山田プロが俺の当たり牌を止めて回ったあの局。あの打牌を見て感動したって言ってくれた人のコメントを見て、自分もその素晴らしい対局の中で、一緒に戦ってたんだって思って。嬉しかったよね。」
阿部プロには、こんなに応援してくれる仲間や家族や友達がいる。
奥さんとお子さんも、この日の対局をずっと観ていてくれていたそうだ。
謙虚で純粋。周りの人に愛され、慕われているのがとても伝わった。
そんな阿部プロの人柄に、惹かれる人が多いのだろう。“ペンギンの店”で店長職を任されているのも頷ける。
高田「今回の決勝やトーナメント戦に挑むにあたって、テーマとか意識していた事ってありますか?」
阿部「麻雀中は、相手の嫌なことをしようと意識しています。今回の決勝戦では、アガれてもアガれなくても高い手を周りに見せて、プレッシャーを与えることが出来たと思うし、仕掛けもあまり空振らなかったから、展開にも恵まれていましたね。だから、高い手でもリーチするっていうイメージを、周りに持って貰えたかなって思って、さらにたくさんリーチを打ちました。最終戦で、役無しテンパイでリーチを打たなかった局があったんですが、あそこでリーチをしたら、山田プロに直撃チャンスを与えてしまうと思ったので、リーチしませんでした。」
高田「確かに、山田プロから2回、三色をアガったり、ヤミテンで3,000・6,000をツモったりして、手が入ってるし、高い手をアガるイメージはあったから、私だったら阿部くんとぶつかるのはちょっと恐いなって思ってしまうかも。」
阿部「麻雀の時は、性格悪くいこうかなって思ってるよ。」
桶本「普段は、本当にいいやつなのにねー(笑)」
高田「麻雀の時は性格悪く、家族の前では亭主関白なんですね(笑)」
どうやら、阿部謙一プロは”ギャップ系雀士”のようだ。
今回、阿部プロがよく通っているという居酒屋で取材をさせて頂いた。
私がイタリアン好きだと言ったら、完全に和風の居酒屋なのに料理がミラノ仕様!!!
私の好みに合わせてくれた阿部プロも優しいし、そんな彼のお願いならと、普段メニューにないイタリア料理を、たくさん振る舞ってくださったご主人も優しい。
店主「阿部くん!どうだい?お箸で食べるパスタは??」
阿部「ミラノにいた頃を思い出します!」
店主「ミラノ何丁目だっけ?」
阿部「ミラノ三丁目ですよ」
一同、笑い。
何県のミラノだよ(笑)
優しい人の周りには優しい人達が集まる。
そんな阿部プロの、優しい世界に触れる事が出来て、本当に嬉しく思う。
麻雀プロの多くは、麻雀に携わる仕事をしている。
しかし、阿部プロは家庭を持ちながら麻雀プロを続け、会社員でありながらも麻雀講師のライセンスも取得。プロになってからは全てのタイトル戦、リーグ戦にも参加している。
これは本当に大変なことだと思う。
しかし、本人はサラリと、それは当たり前なことだと言う。
今回の対局の内容に関して、色々と思う所もあるかもしれない。
それでも阿部プロは、念願の決勝の舞台で、このチャンスを掴もうと最後まで戦い抜いたのだ。
彼が二度の試験に落ちても諦めず、強い意志を持って麻雀プロの世界へ飛び込んだことが報われた瞬間であった。
彼が優勝したことは、会社員や家庭を持ちながらプロ活動を続けている人達の背中を押したのではないか。皆、様々な問題・課題・悩み・葛藤を抱えながらも、プロを続けているのだから。
新人で無名であっても、決して諦めない強い意志と、日々の努力を怠らない姿勢で臨んでいれば、チャンスを手にすることが出来るのかもしれない。
阿部「あ、俺この前居酒屋でサイン頼まれたんですよ。」
高田「えっ?!すごいじゃないですか!」
阿部「カード出したからかな。」
高田「カード…??」
阿部「そう、クレジットカード。ここにサインしてくださいって。」
高田「えっ?あっ…そういうことですか!分かりにくい(笑)」
山口「なにそのギャグ!そういうのちょいちょい挟んでくるよね。」
ふいに場を和ませる、お茶目な発言をするところも好感を持たれるところかもしれない。
桶本「次はグランプリだね。頑張れよ!応援してるから。」
阿部「もし、グランプリ優勝したらインタビュー頼むからね!」
純粋で前向き。それも彼の良いところだ。
優勝したその日に
「まだ、夢みたいで、眠るのが怖いです。」
と言っていた。
決勝戦初出場での優勝。ポジティブな彼にとっても、信じられないような現実だったのだろうか。
阿部「次は”紛れ”と言われないように、稽古をして今回よりも成長した麻雀を打てるように頑張ります。」
心からこう語る真っ直ぐな彼を、家族や仲間もまた応援し、阿部謙一プロの力と支えになっていくことであろう。
インタビューが終わった頃に、阿部プロのご家族がいらっしゃった。
最後に子供達と戯れる、よきパパの顔も見ることが出来た。
とても幸せそうで、羨ましすぎる理想の家族。
4人で麻雀の話をしていると気持ちも盛り上がり、少し時間があったのでセットをすることになった。
こちらの雀荘でも阿部プロはスタッフの方々に慕われていた。
結果は…
やったぜ!チャンピオンを倒したぜ!!(桶本&高田)
阿部謙一という人物は、多くの人の愛に囲まれ、周りの人や神様に感謝して、真摯で麻雀や仕事にも真面目。
その反面、麻雀の最中は相手の嫌なことをする亭主関白(笑)
私も彼のように、謙虚に生き、真摯に努力すれば、神様もどこかで味方をしてくれるのではないかなとも思った。
“パパ雀士あべけん”に今後も注目して頂きたい。
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