十段戦 レポート/第33期十段戦 ベスト16D卓レポート 小車 祥
2016年07月27日
ダンプ大橋……昨年度決勝進出により、ベスト16シード。
木村東平……八九段戦からの出場。
藤本哲也……五段戦からの出場。
藤井すみれ……四段戦からの出場。
昨年度決勝メンバーはダンプ以外全員ベスト8への勝ち上がりを決めている。
ダンプは自分だけ16で敗退するわけにはいかないというプレッシャーも少しあるか。
木村は守備に定評がある打ち手だが、九段戦Sでは攻撃的な部分もかなり見せていたそうだ。
藤本はB1リーガー。安定した戦いを見せてくれそう。
紅一点藤井、かなり緊張している様子が対局開始前から見て取れた。
全体的に守備力が高いメンバーが揃ったことで、より深みのある対局が期待できる。
他人事ながら、私は始まる前からワクワクしていた。
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1回戦(起家から、ダンプ・藤井・藤本・木村)
東2局、5巡目に親の藤井が先制リーチ。
リーチ ドラ
入り目はで、気持ちよくリーチを打ったことだろう。
まずは最低でも7,700点のアガリで自分のリードから始めることができると、藤井も考えていたに違いない。
藤井の手にドラが1枚しかないことも大きい。ドラが分散すれば前に出る人数も増えやすい。
一人旅にならずに誰かとめくり合いになったとしても十分勝機がありそうな待ちだ。
そして一人旅になったとしても、1枚くらいは自分のツモ筋にいてくれても良さそうな待ちでもある。
つまりはどうなってもアガリになりそうな局面だったが、なんとここは流局となってしまう。
あまりにも早い親のリーチに誰も戦える手格好になっておらず、ましてや守備に定評があるメンバーならばなおさら前には出てこない。
ならばツモってしまえというところだが、リーチをかけた時点では十分な枚数が山に残っていた藤井の待ちも他家のツモ筋にしか置かれていなかった。
藤井、この手がアガれないとなると今日の対局の行く末にも、気分的には暗雲が立ち込める。
東4局、9巡目にダンプがテンパイ。
ドラ
ダンプはヤミテンを選択する。
誰からも特に仕掛けやリーチが入っているわけではなく、確かにダンプからはが3枚見えていてヤミテンの方がアガれそうな状況だった。
さらにはここまでの数局を見ただけで、リーチを打つとロンアガリ率がグッと下がってしまうメンバーだということは把握できる。
とはいえ、ここでヤミテンを選択できるのはかなりの強みだと思う。
まだ誰かが抜け出ている状況ではなく、満貫クラスのアガリでリードしたいと思うのは当然の思考。
そんな中ヤミテンを選択するダンプは非常にクールでスマートだ。
12巡目、藤本がテンパイ。
ツモ
ここからダンプのアガリ牌であるを切る。
ダンプ、3,900のアガリ。ダンプがリーチをしていれば藤本はおそらくこの七対子テンパイには至らなかっただろう。
南2局、藤本の反撃。
リーチ ドラ
リーチ後にを暗カン。
をツモって1,600・3,200のアガリ。
南3局、さらに親の藤本が先制リーチ。
リーチ ドラ
このリーチに対して木村が受けながらもテンパイする。
ツモ
を切ればテンパイだが、木村はじっくり河を見つめテンパイ外しの
を切る。
次巡ツモで
を切り再度テンパイ。今度はテンパイを取りヤミテン。
さらに次巡にをツモり、1,300・2,600のアガリ。
は藤本に通る牌なので先にテンパイを取っていても結果は同じだが、リスク管理能力の高さからしっかりと立ち回り、最終的にアガリまで持っていく。
木村の打ち回しはさすがとしか言い様がなかった。
1回戦成績
木村+14.3P ダンプ+7.4P 藤本▲8.8P 藤井▲12.9P
2回戦(起家から、ダンプ・藤井・木村・藤本)
東1局2本場、ダンプはテンパイ2回で繋いだ親番にチャンス手が入る。
ドラ
この1シャンテンが5巡目。すぐに藤井から切られたをポンして7,700のテンパイを取るかと思ったが、ここはスルーして大きく構える。
8巡目、藤本が動く。
七対子の1シャンテンだったが、ここからを仕掛けてトイトイに向かう。
もすぐに鳴けて、
と
のシャンポン待ちでテンパイする。
ダンプ、手牌は変わらないまま4枚目のをツモって暗カン。リンシャン牌は藤本への放銃となる
だった。
結果的には、ダンプがポンして7,700のテンパイを取らなかったことが裏目となってしまった。
藤本はトイトイに切り替えた選択が好判断となり、5,200は5,800のアガリ。
東2局、ダンプのアガリ。
リーチ ツモ
ドラ
2,000・4,000
東4局、ダンプのアガリ。
リーチ ツモ
ドラ
2,000・4,000ダンプは手応えのあるアガリをバンバン決めていく。
南場を迎えて40,000点オーバーのトップ目に立つ。
南2局、10巡目に木村が仕掛けてテンパイ。
ポン
ドラ
すぐにダンプからが出て7,700のアガリ。
藤井は2回戦の親番がなくなり、1人沈みのラス目とかなり苦しい展開が続く。
南3局1本場、親の木村が早い巡目からアグレッシブに仕掛ける。
ポン
ポン
ドラ
これに対し藤本も仕掛け返していく。
ポン
ポン
かなりリスキーな仕掛けには見えるが、かわすことに価値が高いと見たか。
次に藤井の手牌。
ツモ
は1枚も河に切られていない。下家で親の木村の河はソウズとピンズしか切られておらず
はかなり危ない。
しかし自身も勝負したい手。何を切るか非常に悩ましいところ。
藤井の選択は。鳴かれそうな
を残し、マンズツモに対応する。
次に藤井はをツモ。
ツモ
を切って目一杯に構えるが、この
を木村がチー。
チー
ポン
ポン
をギリギリまで切らずにホンイツに見せた木村の技が活きる。
藤井はをツモってテンパイすれば、木村のロン牌である
が出ていくことはなかった。
しかし無情にも藤井のツモは。当然
を切ってリーチを打ち、木村へ放銃。5,800は6,100。
どこまでも展開が藤井を苦しめていた。
2回戦成績
木村+22.5P ダンプ+5.1P 藤本▲7.5P 藤井▲20.1P
2回戦終了時
木村+36.8P ダンプ+12.5P 藤本▲16.3P 藤井▲33.0P
3回戦(起家から、藤井・ダンプ・木村・藤本)
東2局、藤井が先制リーチ。
リーチ ドラ
この手をアガって浮上のきっかけを作りたい藤井。
木村も仕掛けてテンパイをしている。
ポン
木村はリーチに対して危険牌を押していく。
軍配は木村に上がる。藤井がを掴んで放銃。3,900。
南1局、藤井3回戦目の最後の親番。
ダンプが仕掛けてテンパイを入れる。
ポン
ドラ
捨て牌は下段に入ったところ、藤井はなんとかポンして形式テンパイを取る。
ポン
できることは全力でやっていく姿勢。しかしここも展開は藤井に味方してくれない。
ダンプがをツモ。1,600・3,200のアガリ。
南4局、トップ目のダンプが仕掛けてテンパイ。
ポン
ドラ
木村も仕掛け返してテンパイ。
ポン
そして親の藤本もテンパイしてリーチを打つ。
リーチ
ここも競り勝ったのは木村。をツモって1,300・2,600のアガリ。
これで木村は3回戦もトップで3連勝となる。
3回戦成績
木村+17.6P ダンプ+11.2P 藤井▲12.3P 藤本▲16.5P
3回戦終了時
木村+54.4P ダンプ+23.7P 藤本▲32.8P 藤井▲45.3P
4回戦(起家から、藤井・ダンプ・藤本・木村)
東場はダンプがリードし、南場を迎える。
藤本と藤井は親番が残っている。親番は全て連荘するつもりで戦わなければならないような点数状況。
南1局の藤井の親番はなんとか粘り、3本場まできていた。そこへ藤本が仕掛ける。
ポン
チー
ドラ
ダンプも続いて仕掛けを入れ、プレッシャーをかけていく。
ポン
そして木村までもがチー。
チー
そしてその瞬間の藤井の手牌がこちら。
ツモ
は場に1枚も切れていない生牌。実際はまだ誰もテンパイしていないのだが、そう簡単に切れる牌ではなかった。
藤井はを抱え、打
とする。
をツモったら勝負するという構え。
次巡のツモがでテンパイ逃しの形にはなったが、
を切っているとダンプが仕掛けてテンパイを取る可能性があるので、この
はツモっていない可能性もある。この
はツモ切りとする。
次の藤井のツモがこれまた生牌の。じっくり考え、ツモ切りを選択。
「もうやめてしまおうか」「いや、親番は落とせない」そんな二つの気持ちに少し揺れているようにも見えた。
藤井の切ったを藤本が仕掛けてテンパイ。
ポン
ポン
チー
木村からが切られ、2,600は3,500のアガリとなった。
ここで少し個人的見解を書くことをご了承頂きたい。
藤井が1シャンテンでを持ってきた場面、普段の藤井の麻雀が垣間見えた気がする。
丁寧な打ち回しに定評がある藤井は、こんな暴牌を切ったことがないのだ。それはそうだ。こんなもの普通は切らない。
自分の置かれた点数状況や試合終了までの局数に応じて、誰しも自分のベースとなる戦い方から現状に応じた戦い方へとシフトしていく。
しかしだからこそ、誰しも自分の戦い方と180度真逆になるような戦い方はできない。
あくまで自分の型から幾分かずらして戦う程度だ。藤井がここでを切るべきだったどうかはわからない。だが次に持ってきた
をツモ切るのならば、その前に
を切って目一杯の1シャンテンに構えた方が「やれることを最大限にやり遂げた」ように思えた。
あくまで私の個人的見解なので、間違っているのかもしれない。
だがこのレポートを読んで頂いた方に何かを伝えたくて、リスクを承知であえて書いてみた。
ご理解頂けると幸いである。
4回戦はダンプが勝負所でチャンス手を決め、5万点弱のトップを取る。
ターゲットが遠のいてしまい、藤井と藤本は本当に厳しい最終戦となってしまう。
4回戦成績
ダンプ+31.1P 藤井▲2.4P 木村▲10.1P 藤本▲19.6P
4回戦終了時
ダンプ+54.8P 木村+44.3P 藤井▲47.7P 藤本▲52.4P
5回戦(起家から、ダンプ・藤井・木村・藤本)
藤井の南場の親番は連荘できず。
南4局、藤本の最後の親番もテンパイできず流局となった。
5回戦成績
木村+11.1P ダンプ+5.1P 藤井▲4.5P 藤本▲11.7P
5回戦終了時
ダンプ+59.9P 木村+55.4P 藤井▲52.2P 藤本▲64.1P
ベスト8勝ち上がり
ダンプ大橋 木村東平
ダンプと木村がベスト8進出。
数字だけ見ると勝者と敗者がはっきり分かれてしまったように見えるが、内容ではかなり肉薄していたように思う。
これで昨年度の決勝メンバーは全員ベスト8への勝ち上がりを決めたということになり、ダンプ自身もほっとした表情を見せた。
ベテランの木村、決勝まで駒を進めるかどうかにも注目が集まるところだ。
これでベスト8のメンバーが決定。
ベスト8A卓:藤崎智vs櫻井秀樹vs野方祐介vs木村東平
ベスト8B卓:瀬戸熊直樹vs伊藤優孝vs上田直樹vsダンプ大橋
誰が決勝で待つ現十段位柴田のもとへ駒を進めるのか。
ベスト8も目が離せない戦いとなるだろう。
カテゴリ:十段戦 レポート