麻雀日本シリーズ、麻雀日本シリーズ レポート

麻雀日本シリーズ/麻雀日本シリーズ2016 決勝レポート 黒木 真生

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白鳥翔くん、ごめんなさい。
プレーオフのレポートで「サスペンダーやウソ泣きで自己演出しているパッケージ野郎ではないことを証明したいところ」と書いてしまったのだが、これは本当にそうではないと分かっているからそう書いた。言い訳がましいかもしれないが、勝って証明してくれると期待していた。しかし、結果は非常に申し訳ないことになってしまったのだった。
いつもは白鳥がいるとイジってしまうのだが、対局の日は誰も選手に話しかけない。
必要最低限の会話しかしない決まりというか、私たちの常識である。
当然、白鳥も真剣な面持ちで試合開始を待っていた。
1回戦が終わり、白鳥のムードが悪い。
本人の麻雀が充実していないわけではないのだが、簡単に言えばツキがない。
そしてそのまま、最後までチャンスらしいチャンスがなく終わってしまった。
私は「しまったなー」と思っていた。
もちろん、そんな原稿を彼が読んだからといって勝負に影響するとは思っていない。
本人も「あの野郎」とちょっと思っただけだろうが、結果がこうなると、私が低級な「呪い」をかけてしまったような気分になる。
表彰式が終わった後、廊下で白鳥に謝った。
「悪かったな」と私が言うと、すかさず「本当ですよもう!A級戦犯です!」と言ってきた。
彼も一応は気にしていたのだった。
私は「A級戦犯というのは罪の重さではなく分類のことやで」とくだらない返しをしたのだが、白鳥は「そんなんどうでもいいんですよ!だいたい、おいしいからウソ泣きしろよとか言ってきたの、黒木さんじゃないですか!」と言ってきた。
「お前あれ、ウソ泣きやったんか」
さすがにビックリしたが、
「ウソ泣きなわけないでしょ!逆にもっと早く泣きそうだったのを我慢してたんですよ!」
彼は慶應義塾大学を卒業している割には話にまとまりがなく、何を主張したいのかよくわからないところもあるが、とにかく私の書いたものを読んで傷ついたようだった。
私は再度、彼に謝罪した。ちょっと設定したハードルがイジワル過ぎたなーと。
そして彼のファンの方々にもお詫びしたいと思い、わざわざ冒頭に書かせていただいた。
あらためて、ごめんなさい。
さて、まだ白鳥がひどい目に会うことを知らなかった私は、第1回戦を、仕事を忘れて楽しんでいた。
最初にリードしたのは多井隆晴プロだった。
多井プロは元連盟員で私の先輩なのだが、とにかく勉強熱心な方だった。
牌譜を研究し、麻雀を極めようと必死になっているようだった。当然、対戦相手のことも、可能な限り知ろうと努力する人だった。
約10年前、多井プロはわけあって連盟を辞めることになった。アマチュアへの競技麻雀普及活動の団体設立が目的だったが、その後、麻雀プロ団体を設立し、自身が代表を務めることになった。それがRMUだ。
その際、連盟に対してRMUから正式な報告や通達はなかった。
たぶん、多井プロの中に「どのツラ下げて連盟の人たちに会えばいいんだよ…」という思いがあったのだと思う。
独自の道を行くしかないと考え、今までやってきたのである。
しかし2年ほど前、日本プロ麻雀協会の副代表・鍛冶田良一プロが多井プロを動かした。
鍛冶田プロが同年代のよしみで「一度ちゃんと話した方がいいんじゃないの?」と話し、連盟との調整役を買って出てくださったことがきっかけで、数年越しでようやくお付き合いができるようになったのである。
その結果、麻雀最強戦や麻雀プロ団体日本一決定戦、そしてこの麻雀日本シリーズで、連盟とRMUの選手が戦う姿を再び見ることができるようになった。
2015年、多井プロが第1回の麻雀日本シリーズを制した。
優勝カップを手渡すのは森山茂和会長である。
過去のいきさつを知る人なら胸が熱くなったと思う。
だが、2人とも私のようにあざとくはないので、ウソ泣きなどはしなかった。
多井プロは少しだけ目を赤くしていたような気もするが、もしかしたら頑張って涙腺をせきとめていたのかもしれない。
だから多井プロはディフェンディングチャンピオンなのだが、予選をトップで通過して決勝進出を果たしていた。
東3局、南家の萩原聖人さんからリーチが掛かる。
五筒 上向き北六万 上向き南三筒 上向き九万 上向き
九索 上向き一索 上向き一索 左向き
ドラ南
この捨て牌に対して、多井プロの手牌。
四万五万六万七万八万三索四索五索五索六索六筒七筒八筒九筒
手格好だけなら九筒切りになるのだろうが、萩原さんの捨て牌の第1打に五筒がある。
一筒四筒六筒九筒は非常に危なく、一発で切り飛ばすのをためらう人も多いだろう。
が、多井プロは少考の後、九筒を打った。
萩原さんの手は実はこうだった。
三万三万六万七万八万三索四索五索六索七索八索五筒六筒
第1打の五筒の裏スジではなくマタギスジがアタリだったのである。
萩原さんの配牌は以下。
三万六万六万三索五索六索八索九索五筒五筒六筒南北  ツモ一索
1シャンテンや2シャンテンでいきなり五筒が打たれたわけではなく、ご覧のように3シャンテンからの打牌なのであった。
この第1打を見ても分かるように、萩原さんは「ただの麻雀好きの芸能人」ではない。
私は20年前から可愛がってもらっているが、その間、何度も叱られた。
それは私がいい加減な麻雀を打った時ばかりであった。
最初は萩原さんが言ってる意味が分からず反発したこともあったが、後になってから分かるということも多かった。
逆に、ちゃんと打てている時はほめてくれた。
最近は私の年齢や立場も考慮してくださっているのか、前みたいに叱られることはなくなったが、心の中に麻雀に対する熱いものを抱いていることは変わらないと思う。
3巡後、多井プロの手がこうなった。
四万五万六万七万八万三索四索五索五索六索六筒七筒八筒  ツモ八万
四万七万でリーチが普通。考えることは何もないように見えるが、実は四索がフリテンなのであった。
まったく困ったものである。
どうしたらよいか分からなくなる人もいるだろう。
オリるか。いや、それなら一発で九筒を通した意味がなくなる。
なら、テンパイをとっておいて押せるところまで頑張るか。
中途半端ではあるが、とりあえず萩原さんの捨て牌2巡目に六万があるから、七万ぐらいは切ってみようか。
フリテンリーチは…追っかけでのフリテンは、さすがに厚かましいだろう…。
そんな風に迷う人がほとんどで、ヤミテンで押す人が多数派だと思われるが、多井プロはリーチを掛けた。
そして何と一発で七索をツモり、4,000オールに仕上げたのである。
しかし、緒戦を制したのは多井プロではなく佐々木寿人だった。
この場で戦っている者はみんなメンタル強者で、フリテン追っかけリーチ一発ツモごときでは心を折られたりはしない。
勝って泣いちゃう白鳥も、プライベートではどうかは知らないが、卓上ではプロとして立派な鉄の心を持っている。
その中でも、寿人のメンタルの強さは抜きんでていると思う。
森山会長はよく「蛙の面に小便」と称するが、まさにそんな感じなのである。
寿人が新宿の東風戦で働いていた時、彼があまりにもきったない待ちでリーチを掛け、それをことごとくツモり、また、激しくきったない形から鳴き散らし、赤をガメまくっているのを見て、幾多の客が席を立っていった。
それでも寿人の顔色はひとつも変わらず、卓上の点棒をひたすら集めるばかり。
店長さんはジロっと彼の顔を見ていたが、目を合わせることすらしなかった。
「あっしには関わりのないことでござんす」
木枯し紋次郎はそう言いつつも、なんだかんだで関わっていくスタイルなのだが、寿人はガチで無関係。俺はただひたすら俺の麻雀を打つのみ。
私もいつしか彼との対戦を避けるようになっていた。
寿人が本走に入りそうになると、ラス半もかけずに急用のフリをして逃げていた。
メンタルが強くて、攻撃の手筋がしっかりしている人は、長い目で見て必ず好成績を残すから、相手にするのがイヤなのである。
この日も、あまりにもあんまりなリーチを掛けていた。
一万二万三万五万六万七万八万一索二索三索七索八索九索白
南1局の親番で、ここから打五万でリーチ。
1枚切れの白をつかんだ白鳥が一発放銃。
これも立派な7,700点であるが、美しさや技巧、エレガントさなどは微塵もない。
いや、否定しているのではなくほめているのだ。
この手をピンフに持っていったりノベタンにするよりも、数牌だらけの中、孤独な白1枚を待ちにしてアガることによって、相手に「点棒よこせ」というメッセージを与えているように、私には見える。
そう考えてしまって、このリーチが恐ろしくもおかしくも思えて、どんな感情を持ったらいいか分からなくなるのである。
この寿人という男、敵にまわすとやっかいだが、味方につけたら心強いことこの上ない。
先日の麻雀プロ団体日本一決定戦で、開幕戦に地和をアガるという離れ業をやってのけたことからも分かる通り、舞台がデカくなればなるほど、期待以上のことをやってくれる奴なのだ。
今回も、緒戦で多井プロを逆転し、そのまま突っ走ってくれると期待させられた。
麻雀日本シリーズは個人戦なので、誰が勝っても良いに決まっているのだが、連盟が主催して2年目の今回、またしても優勝選手が他団体からというのは寂しい気がした。
が、結果は多井プロが連覇。
その内容は横綱相撲と呼ぶにふさわしいもので、まったくスキがないように見えた。
戦いはたくさんあって、その全部に連盟のプロが勝利することは難しいかもしれないが、私も自分が出ている試合以外は、わがままな阪神ファンのオッサンと同じ心境である。
次こそ、麻雀日本シリーズでは、連盟の誰かに勝ってもらい、多井プロの三連覇を阻止していただきたい。
 
 
システム
■予選全21回戦(各自6回対局)を行いポイント上位8名がプレーオフ進出
■プレーオフ全4回戦(各自2回対局)ポイント持ち越し上位4名が決勝進出
■決勝全4回戦

順位 名前 1回戦 2回戦 3回戦 4回戦 合計
優勝 多井隆晴(麻雀日本シリーズ2015優勝) 10.9 20.0 37.0 4.0 71.9
2 佐々木寿人(連盟会長推薦) 38.9 ▲ 27.9 ▲ 6.3 31.7 36.4
3 萩原聖人(連盟会長推薦) ▲ 15.7 9.2 9.8 ▲ 6.4 ▲ 3.1
4 白鳥翔(ファン投票2位) ▲ 34.1 ▲ 1.3 ▲ 40.5 ▲ 29.3 ▲ 105.2