第132回『勝負の感性②』 荒 正義
2018年05月28日
麻雀の腕は、打ち込めば自然に上達する。牌の効率、手順、押し引きの判断、読みの精度だ。勝負の度胸もつく。それが経験値だ。
しかし、勝負の感性はそうはいかない。知っているか、どうかではない。そこで何を感じ、その先をどう打つかである。
今や麻雀はメディアに乗りプロも増え、発展途上にある。それが、巷の打ち手の雀力向上になっているのは確かである。しかし、まだだ。「強さ」にはもっと上がある。見える部分で、正解を出すなら誰でもできる。問題は見えざる部分だ。それが「運」と「流れ」である。ここを極めなければ、本物とは言えない。
今回は、3つの問題である。これで感性を磨くのだ。
(中にはこの牌姿を過去に目にした方もいるでしょうが、感性を磨くため、あえて用いたのでご容赦ください)
(構えの強弱)
問題①
東1局7巡目、西家の手(ドラ)。
このテンパイ形でリーチをかけるかどうか?また親ならどうか?
注・連盟では競技用を公式ルールとし、一発・裏ありをWRCルールとして採用しているので、その両方の解説をする。なお、赤ドラ入りのルールは、勝負の観点にズレが生じるので省く。
この問題は、私がある教室で講師を務めたとき、馬場裕一プロと黒木真生プロが応援に来て、資料提供してくれたときのもの。なかなか面白い問題である。
私の答えは、公式ルールならヤミテン。WRCルールならリーチです。85パーセントそう打ちます。親の場合でも同じです。なぜ100パーセントではないかは、後で述べる。
麻雀はルールによって(一発、裏ドラのあるなし)打ち方を変える必要がある。応手を変える、これが肝心。公式ルールの打点はWRCルールと比べ、一発と裏ドラの無い分5割増しと見るのが常識。公式の競技ルールならば8,000点のこの手は、WRCルールでは12,000点の価値がある。なので、ヤミテンで十分と見る。
しかし、WRCルールならリーチと出るのが妥当。裏ドラが1枚乗れば出アガリで跳満だし、一発ツモならさらにその上の倍満になるからだ。一発と裏ドラを有効に生かすためにリーチをかける。リーチをかけたらアガリ率は(出アガリ)下がるが、それは覚悟の上。
また一発裏ドラ麻雀は、リーチをかけてツモるとすぐに満貫になる。ヤミテン満貫にそれほど価値がないのも事実である。
ただし、これがすべてではない。麻雀はツモの勢いとテンパイまでの過程が大事なのだ。仮に、西家の手が4巡目のときこうなっていた場合である。
この後、西家はたった3巡で絶好のを引き、高めのを引いたことになる。で、手牌がこう。
この時、ツモの勢いを感じないか?
感じるか感じないか、そこが大事。テンパイの形をただの平面図と見るか、立体形と見るかの違いである。これも勝負の感性だ。私はツモに勢いを感じる。だから公式ルールであっても、このツモなら私は自信を持ってリーチを打つ。ですから、前に85パーセントと云ったのはこのツモの違いにある。
では、忍者・藤崎プロの場合はどうか?
藤崎なら、このツモでもヤミテンに構える可能性が高い。拾えるアガリは確実に拾う。まず「運」と「勢い」を引き寄せる。そして徐々に加速(点棒を加え)し、一気に卓上の主導権を握る。
これは料理に例えるなら、材料の下ごしらえを先にするのと同じ。肉なら塩と胡椒を振る。野菜と魚は湯引きもしておく。準備万端整ったら、一気に火を使って調理する。その方が合理的で速く、失敗が少ないのだ。
ただし、一発・裏ありのWRCルールなら藤崎もリーチを打つ。藤崎の思考と戦い方は私と同系である。
では、ゴジラ前原と沢崎の場合はどうか?
彼らは流れを重視するから、公式ルールでもこのツモなら即リーチに出る。そしてそのあと、有無も言わさずツモリ上げるイメージがある。もちろん、リーチをかけたがためのアガリ逃しもある。しかしその反面、圧力で相手の手を曲げさせてアガリを摘み取り、流局間際にツモることもあるから裏目を食っても意に介さない。私や藤崎が手間暇かけて「流れ」を掴むのと違い、彼らは一気に引き寄せにかかるから、驚きである。
瀬戸熊プロは、私ら(藤崎)と同じでしょうか。彼の麻雀の押し引きは、自分らと重なるイメージがあります。ただし、瀬戸熊の「攻め」は天下一品で僕らの5割増しである。
では仮に、2巡目の手牌がこうだった場合である。
素晴らしい手で、この時点で…(いただき)と誰しも思うのが普通。好配牌の1シャンテン、麻雀ではよくあること。しかし、4巡の空ヅモが続き、少し気分がイラつきます。そして、やっと7巡目に引く。
高めツモでテンパイ形も同じ。だけど、このにそれほど手応えを感じない。
高目だけどありふれたツモに見える。そして公式ルールなら、彼らレジェントはヤミテンに構えるはず。私もヤミテン。WRCルールならリーチも有りだが、親ならやっぱりヤミテン。ゴジラ前原も沢崎もヤミテン。ツモの勢い(やや弱い)を敏感に感じ取り、微妙に構えを変えて打つ。これが彼らの「勝負の感性」である。
(先見の明)
問題②
南1局の7巡目の親の手。場は4者接戦の無風状態。次の一打は?
ツモ ドラ
この問題は、僕が24歳(41年前)のときの作。
当時、若手プロだった僕らは安定収入が少なく、とても食える状態ではなかった。第一線で活躍していたのは小島武夫、灘麻太郎、故・古川凱章さんの3人だけである。その背中を追う若手は50人。
僕が恵まれたのは、同郷のよしみで(同じ北海道)灘さんにチャンスをもらえたからである。最初は、次の一手を20問。月に一度、灘さんに提出するのが仕事。灘さんはそこから何問か選んで、原稿の材料にする。私はそれで十分なバイト代を貰えた。大変、助かりました。
しかし、その問題はありきたりではなく、工夫してひねりを加えたものでないといけない。このとき灘さんはこの問題で一瞬手を止め、私に云った。
「これは、面白い問題だ」
私はこの言葉に、誇らしく感動した思いがあります。私は今も純情だが、この当時はもっと純情だったのである。
親でこの手牌なら、打牌候補はの3牌である。手なりで打つなら。だが、これなら誰でも打てる。ただの牌の効率に過ぎないからだ。
懐深くを切るのは、親なのに2シャンテンに戻してしまうのが難点。そう、ここは1シャンテンを維持しながら234の三色を見る切りが、場合の応手なのである。
ドラ
親で4者接戦のこの状況なら、次にソーズを引きテンパイなら即リーチだ。
これなら十分。
これでもリーチだ。相手を押さえ、ドラのを引けたらラッキーと考える。
「だったらもでも同じゃないか…」
と、いう人もいる。
いやいや、そうではない。ソーズより先にを引いたときが問題なのだ。ならば手牌はこうだ。
これなら受けが広がり、高い打点が一気に見える。ここから予想されるテンパイ形はこうだ。
これが一番で、リーチの高めツモで6,000オールが見えてくる。一気にトップに立てるのだ。高目が出にくいなら、リーチがいいのだ。
ではを引いた場合はどうか。
私なら、ドラののこぼれと引きを待って、ヤミテンにする。ただし、2、3巡待ってリーチも有る。このようにを残しを引けたことで、構えが広がるのだ。
しかし、ゴジラ前原なら即リーチだろう。この構えの違いは、雀風の差であって問題ではない。
大事なのは、この牌姿でを切る感性なのである。残しは「秘めた刃」で、先見の明である。一流なら、この構想は瞬時に閃かなければならない。
1975年当時、小島と灘の背中を追いかけた50人も今残っているのは、森山茂和、伊藤優孝と私だけである。これに時の流れを感じる。
(てっぺんを見る)
問題③
ツモ ドラ
南1局7巡目の東家の手。ここで待望のを引いたらどう打つ。
なお、場は4者接戦の無風状態である。
リーチかヤミテンか、それとも…?
切りの即リーチは論外だ。受けはドラの指示牌のカン。怖い親のリーチにおいそれと出るはずもなく、ツモるかどうかも分からない。いや、河に出てなくてもはドラそばだから、相手に持たれている公算が大である。2丁持たれたら、万事休すだ。アガリの可能性は2割に満たない。親のチャンス手を自ら駄目にする、これでは勝てない。
では、切りのヤミテンか―。確かに、ヤミテンならば要らないはポロリと出る公算は高くなる。またを引いての変化もある。
これならリーチの十分形。しかし、これもイマイチだ。
麻雀はテンパイを目指すのではなく、アガリを目指して打つことが肝心。ならばここは、テンパイ外しの切りが正しい応手だ。ドラであってもこれを切る。ならば手牌はこうである。
これならソーズの伸びでも、十分形が待っている。受けが広がり、アガリ率が増すのだ。
これなら、公式・WRCルール共にテンパイ即リーチである。
ただし、次のツモがなら応手が変わる。
この場合は、リーチかヤミテンかは状況次第。公式ルールならヤミテンでOK。これでも11,600点が拾える。
WRCルールなら、リーチもあるしヤミテンもある。私なら、場に点棒の動きがなければヤミテンで構えるし、昇運の兆し有りと感じたならリーチを打つ。
このテンパイを取れば、ソーズの変化を捨てることになる。だからドラでも切りである。
裏目は打の後のツモだが、気にすることはない。自信を持って、振りテンリーチを打てばいい。
これでもを引けば、てっぺんの6,000オールだ。
麻雀はテンパイが最終形ではない。アガリが最終形なのだ。ならば、てっぺんを見る、これも勝負の感性である。
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