第35期十段戦 九段戦Sレポート 東谷達矢
2018年06月29日
いよいよ九段戦Sがはじまる。ここから登場するのは長年連盟の顔として活躍してきたレジェンド達だ。
この壁が若手にとっては厚くそして高い。連勝を重ねてきた早川、太田、佐々木、三浦は果たしてこの壁を乗り越えることができるだろうか。
1卓:灘麻太郎・ダンプ大橋・櫻井秀樹・黒沢咲
カミソリ灘の異名を持つ灘、齢八十歳を超えて尚アガリへの嗅覚は衰えていない。
黒沢がリーチを放ってもその力を吸収するようにアガリを重ねる。櫻井も負けじとアガリを重ね2人揃って連続の連帯。ダンプは2連続3着だがまだわずかなマイナスで留まっている。そして黒沢、3回戦も沈めば万事休すとなるほどの劣勢だったが、その黒沢が高らかにツモの声を上げた。
8,000・16,000。国士無双をツモリあげると一撃で勝負をふりだしに戻した。
そして黒沢の浮上により危機に陥ったダンプだったが
リーチ ツモ
ドラ
この3,900オールで戦線に踏みとどまる。
その後灘が原点付近まで浮上し櫻井の持ち点が10,000点を切る怒涛の展開。
だが、今度はその櫻井が3回戦オーラスに3,900オールをアガリ失点を最小限に抑えると、4回戦
ロン
12,000を灘から直撃しベスト16への切符を手元付近まで手繰り寄せた。
いかな百戦錬磨の灘といえどこの放銃から勢いが戻ることはなかった。
最終5回戦、2着争いをダンプと黒沢の2人で繰り広げる。
まずダンプが先制。黒沢を引き離しトータルポイントでも逆転に成功する。黒沢が原点から沈んでいる限りは有利なダンプが
リーチ ドラ
親番で早い巡目のリーチ。ツモるか黒沢から直撃すればリードを更に拡げることになるが、ダンプの気合いは届かず流局。そして次局黒沢の反撃
リーチ ツモ
この3,000・6,000を決めると一気に原点を超え勝負あり。打撃戦を制した。
1卓勝ち上がり:櫻井秀樹・黒沢咲
2卓:古川孝次・前田直哉・横山毅・早川林香
二段戦からここまで勝ち上がってきた早川。東北から上京し、東京本部へ移籍をした直後の快進撃。ここを勝ち上がることができれば一気に飛躍の年となるかもしれない。だが、立ち塞がるのはサーフィン打法でお馴染み、曲者の古川に元鳳凰位の前田、更に関西本部長の横山と強敵がずらり。
まず、早川がここまでの勢いそのままに開局早々走る。
ポン
ポン
ツモ
2,000・4,000。大きな先制打となったが、ここからジリジリとした捻りあいが続く。仕掛けとリーチを織り交ぜてプレッシャーを掛けてくる古川、そして手数で圧倒する横山に、前田が思うようにアガらせてもらえない。早川もなかなか加点できないが、3回戦までのトータルでなんとか古川に喰らいつく。
迎えた4回戦東2局、古川の異様な捨て牌に早川が受け気味の手順で手を進める。
横山がを切り、古川が手出し、そして早川が
を合わせると古川がロンの声と同時に手牌を倒した。
ロン
なんと1枚の余りもない国士無双13面待ちだった。
早川にとっては脳にぐらりとくる一撃だった。競っている相手にたった1回で順位点込み80ポイントを与える放銃に動揺がないわけがない。
そして古川のこのアガリは早川だけでなく前田にとっても痛かった。2位浮上するにはかなりの得点を稼ぐことが必要になってしまったからだ。
ただ、この半荘の主役は役満をアガった古川ではなかった。
横山が親番で5本場までアガリ持ち点を64,000点にすると
リーチ ツモ
ドラ
この4,000オール。更に次局、前田の先制リーチにすぐ追いつくと、アガリを確信したかのように迷いなくリーチ宣言をすると
リーチ ツモ
ドラ
仕上がった状態ゆえか当然のようにツモりあげ8,000オール。持ち点は100,000点を超え、関西勢の強さを周りに見せつけるかのような連荘となった。その後、前田も早川も懸命に戦うがいかんせん差が開き過ぎた。まざまざと壁の高さを見せつけられ、二段戦から続いた早川の挑戦はここで幕を閉じた。
2卓勝ち上がり:横山毅・古川孝次
3卓:伊藤優孝・藤原隆弘・柴田吉和・鈴木基芳
広い心と連盟愛でこれまで地方の活性化や後輩の育成に尽力してきた伊藤も、麻雀においては死神の優という恐ろしい異名を持ち、粘り強い雀風で未だA1リーグに君臨している。
4回戦終了時、トータルトップの柴田のプラスがわずかに10ポイント。他3者がほぼ横並びで最終戦に入る。
伊藤が40,000点を持ち1人浮き状態で迎えた南2局、
この手で藤原は生牌のを絞り
を切る。次巡
をツモり
をリリース。そして
ツモの2,000・4,000。先に
を処理していればテンパイ時に打
となり放銃になっていたであろう。藤原ならではの受けの手順で伊藤に並ぶ。そしてこのアガリによってトータル3位に落ちた柴田は南3局
リーチ ドラ
リーチ。現状優位な伊藤と藤原は悠々とオリを選択。残り2局しかない鈴木は放銃してもきついがオリるわけにもいかず前へ出る。柴田としても鈴木からの出アガリはオーラスの親番でノーテンで伏せることができない為なんとかツモりたい所だろう。
指に力が入る柴田。そして終盤、を手にすると普段冷静な柴田にしては珍しく牌を卓に叩きつけた。
これでオーラス時のトータルポイントは 、柴田+8.3P、伊藤+5.5P、藤原+3.7P。ただし、伊藤と藤原の持ち点が33,600点で並んでいる為、藤原と伊藤はアガった方が勝ち上がり。鈴木が跳満をツモると、鈴木と伊藤の勝ち上がりである。
藤原は仕掛けを入れ、ファーストテンパイ。
チー
ドラ
放銃した瞬間終わりだが、伊藤も前に出るしかない。
ポン
鳴きを入れるがまだ1シャンテン。しかもソウズが入りテンパイすれば出る牌は藤原の待ち牌のであろう。絶体絶命の伊藤だが、先に藤原の手が変わる。
をツモり打
。
そして鈴木。
ドラ待ちでテンパイしているが、リーチしても届かず、を引くことが絶対条件となっている。このまま鈴木が藤原の待ち牌を河に放っても終わる。が、その瞬間伊藤は
を持ってきてようやく藤原に追いついた。先ほどまでの藤原のアタり牌を捨て、奇しくも同じ
–
待ち。これでもうどちらが勝つかはわからないが、その後決着はすぐ着いた。
鈴木の河のに2人がロンの声。競技ルールにダブロンはない。手牌を倒し勝ったのは、藤原の上家に座っていた伊藤だった。
3卓勝ち上がり:柴田吉和・伊藤優孝
4卓:荒正義・木村東平・太田優介・佐々木亮
荒正義。今更語るまでもなく、何十年も打ち手として第一線で活躍した生けるレジェンドだ。その荒と中部の木村に、太田と佐々木が挑む。
太田といえば、昨年度王位戦決勝で野方に敗れたことが記憶に新しい。敗戦から何度も何度も自分を見つめ返したことだろう。大舞台で借りを返したいという思いは誰よりも強いはずだ。
そして佐々木もここを勝ち上がりたい気持ちは太田に負けていないだろう。地方の連盟員はタイトル戦で活躍しなければ注目されづらい。ここを勝ち上がればベスト16。映像対局が待っている。
その若手2人がベテラン2人に牙を剥く。1回戦トップの太田が2回戦の東1局に連荘で50,000点に迫ると、次は佐々木
暗カン
ツモ
四暗刻の8,000・16,000。高打点型でこれまで何度も大逆転を繰り返してきた佐々木が、今回は序盤に大きくリードを奪う。
こうなると荒のターゲットは太田。荒は3回戦の猛連荘で太田を射程圏内に入れる。
最終5回戦、荒は佐々木に7,700、6,400と連続放銃するも次局、
ダブルリーチ ツモ
ドラ
2,000・3,900で太田を楽にさせない。しかし南2局、今度は太田が
ポン
チー
ロン
テンパイ崩しから7,700を木村からアガリ、荒を引き離す。
オーラス、荒は跳満ツモ条件。テンパイまでこぎつけるとリーチ宣言牌を横に曲げる。
リーチ ドラ
ツモれば太田を逆転するが、荒の反撃もここまで。若手2人が揃ってベテラン2人を倒した。
4卓勝ち上がり:佐々木亮・太田優介
5卓:沢崎誠・金子貴行・内川幸太郎・井出一寛
沢崎は前日、AbemaTVの麻雀駅伝予選会で最後まで戦っていた。優勝の芽がほぼなくなっても、集中力を切らさず負けてなお美しい麻雀を披露していた。それは卓越した経験値があってこそだろう。
その沢崎、全員が1回ずつトップを取った後の最終戦にリードを奪うと、東3局に金子
ポン
ロン
内川から8,000点を打ち取り、沢崎を抜きトータルトップに躍り出る。そして南1局、内川の最期の親番、大きなトップが必要な井出がリーチを掛ける
リーチ ドラ
そしてこの時金子にもテンパイが入っていた。
この手をアガリきることができれば金子の勝ち上がりはほぼ決まる。一方、このまま親番が流れればかなり苦しくなる内川だったが、なんとかテンパイを入れる。全員が全員、是が非でもアガリたい状況であったがアガリ牌を引き寄せたのは内川、
リーチ ツモ
1,300オールだが、内川にとってはあまりに大きい親番の維持。そしてこれを引き金にそのまま勢いは一気に内川に傾いた。
ロン
ドラ
ヤミテンで忍び、金子から7,700。そして流局や細かいアガリで7本場まで積むと持ち点が40,000点近くまで到達。トータルでもトップに躍り出た。
それでもオーラス、親の金子が連荘し簡単には終わらせない。トータルポイントは沢崎+16.8P、内川+14.6P、金子+11.3P。
内川と沢崎はアガればいい。ただし、沢崎は内川に放銃すると順位点が入れ替わり敗退となる。
そしてテンパイを入れたのは内川、
チー
チー
沢崎から出れば金子が浮上する。金子も仕掛けを入れ、沢崎も前に出る。白熱した終盤戦も決着の時を迎えた。内川が自らツモリ、またもや逆転劇で勝ち上がりを決めた。
5卓勝ち上がり:内川幸太郎・沢崎誠
6卓:前原雄大・ともたけ雅晴・望月雅継・三浦大輔
未だ現役最強との呼び声高い鳳凰位前原に、WRC世界チャンピオンのともたけ、更には元鳳凰位で静岡支部長の望月、そして強大な敵に挑む三浦の構図。
前原の強さとはどこにあるのか。冗談なのか本気なのかわからないが、前原自身がそのことを人に尋ねるほど前原の強さというものは謎に包まれている。昨年の天鳳位達との戦いを目にした時、味方としてこれ以上頼もしい存在はないと思った者も多いだろう。だが一方で、敵となるとこれほど恐ろしい存在もない。なにせ前原を乗せてしまうと手がつけられなくなる、それだけは間違いない。
その前原が1回戦から60,000点オーバーの大トップ。
こうなると3者はきつい。残り1つの椅子を誰が掴むかという勝負になった。
3回戦まで、ともたけが失点を最小限に抑え、望月と三浦を抑えこむ。だが4回戦にいよいよ望月が爆発した。
チー
ツモ
ドラ
3,000・6,000を皮切りに高打点を連発。持ち点が60,000点を超え、トータルポイントでともたけを一気に逆転する。
更には最終戦、
ロン
ドラ
この7,700をアガリ勝負あり。三浦は最後にトップをもぎ取り一矢報いるが、猛者達を相手に力及ばず敗退となった。
6卓勝ち上がり:前原雄大・望月雅継
これでベスト16が出揃った。ここまで役満が多発し、更には逆転が起こる十段戦というのも珍しいだろう。それだけ攻撃力を持った打ち手が残っていると言えるのかもしれない。
ベスト16からは放送対局だが、きっと残ったプレイヤーは観戦者を興奮させる麻雀を魅せてくれるだろう。果たして誰が現十段位の待つ決勝まで勝ち進むのか。ここからの戦いも目が離せない。
カテゴリ:十段戦 レポート