第138回『勝負の感性⑧~天運と地運~』 荒 正義
2018年11月23日
麻雀の運には、2つの運がある。
その日一日、その打ち手が持っている運。これが「天運」である。もう1つは卓上の中で右に左に揺れる運、これが「地運」である。
麻雀は、相手の運と自分の運の戦いである。運の違いを知って、運を究めれば正しい応手が解る。では、その運の違いとは何か―。
第1戦・東1局。8巡目の親(A)にテンパイが入った(一発・裏あり、赤なし)。
ツモ ドラ
可もなく、不可もなく普通の手。
(高目ので、アガリできたらいいナ…)
と、思うくらいのものだった。
当然、親は両面なので先制リーチをかけた。これは普通の応手だ。
このとき、南家もテンパイだった。
ドラのは初物だから、ヤミテンでの出を狙っていたのだ。相手の手が煮詰まれば、ドラでもが打たれる可能性がある。リーチなら出ないドラでも、ヤミテンなら分らない。しかし、親がリーチなら話は別である。ここで戦うか受けるかは、雀風によって分かれるところ。
佐々木寿人、前原雄大は戦いを好むから、このままの牌姿でも追いかけリーチがある。当然、負けるときもある。したがって、彼らの体は生傷が絶えない。
藤崎智、沢崎誠は状況次第。しかし、勝負は始まったばかりで、相手と自分の運量が分からない。となると、その場の直感で打つことになる。向かうこともあれば、オリることもある。私も後者だ。生傷は嫌だ。
自分だけ傷つかず、戦いに勝つことを考える。これが賢明で合理的。誰だってそれが理想のはずだ。しかし、それは云い方を変えれば、ズッこい(ずるい)である。冗談はさておき、話を先に進めよう。
南家が、同巡に引いたのがだった。
ツモ
ドラドラで3面チャン、絶好のツモだ。南家はを切ってリーチをかけたが、これが親にズドンと命中。
裏ドラがになって18,000点。東家は幸運だが、南家は不運。これが、天運である。
親の天運は高く、上々の滑り出しである。まず、一発で高めが出たこと。次に、裏ドラに2枚のが乗ったこと。一方、南家の天運は最悪だ。勝負手で切ったら、なんと一発で高めの放銃。これは麻雀ではよくある出来事。だが、勝負はこんな1局では決まらない。通常、卓を囲むときは1日に半荘4、5回戦は打つ。となれば先は長いし、この後勝負がどう転ぶかわからない。まだ、山あり谷ありだ。
東家と南家の点差は36,000点。これで南家がトップ逆転を考えるのは、無理な話。せめてこの半荘はラス逃れを考え、受け中心に構えるところである。
もちろん、手が来たら攻める。西家か北家から満貫を打ち取れば、点差が一気に詰まるのだ。
このことは、西家と北家にも同じことが言える。仮にこの後、東家から満貫を討ち取れば、その差は2,000点以内になるのだ。現状は圧倒的に東家有利だが、勝負はまだ分らない。
第1戦・東1局1本場。
そして1本場、北家(B)の手が7巡目にこうなった。
ドラ
通常ならソーズが埋まれば、3面チャンリーチでほぼいただきの場面だ。しかし、北家は上家の切ったにチーテンを入れた。すぐに東家がを掴んでロンだ。1本場で1,300点のアガリ。普通なら、北家の手は面前で決める手である。なのに、なぜ―?
北家は、親の河に危険を感じた。前の局は、ラッキーな18,000点のアガリ。そして、この河である。
(親の河)
2打目が、W風で初牌の。ここでの重なりを否定したのだから、それなりの手が入っていると読める。続いてドラそばの切りである。こんなに早くドラそばを切るのは、かからの切りである。どちらにしても、早い手であることは確かだ。そして、有効牌の中張牌の切り出し。北家は思った。
(親の手は、高くて早いぞ…。もう一度アガられたら、トップ確定のダメ押しが飛んで来る…)
だから、チーテンにかけたのだ。通常、親落としは南家の役目だが、親の跳満を打った南家にその期待はできない。警戒警報、発令である。これが、北家の読みと感性である。このとき、親の手はこうだった。
ドラ
どこを鳴いても親満だったのである。しかし、北家の切ったにチーテンをかけなかったのは、流石である。河から絶好の受けを鳴けば、マークが一気にきつくなる。鳴けば、捨て牌はこうだ。(親の河)
(親の河)
チー
をカンチャンで鳴いてもで鳴いても、仕掛けと河に違和感が出る。絶好の待ちを鳴けば、高い手でテンパイと相手に読まれる。となれば、字牌はおろかドラのも出やしない。相手が受けたなら、アガリはツモのみ。それが、ツモ山にあるかどうかも分からない。この場合、チーテンのアガリ率は25パーセントに満たない。しかし、これならどうだ。
ポン
待ちがよくわからない。染め手にも見えるし、トイツ手にも見える。
だが、伏せられた手の内はこうだ。
ポン
相手に警戒され、オリられてもいい。3面チャンならツモの可能性が大である。これなら、アガリ率は75%を超える。ここのソーズは鳴いて見せるのではなく、待ちのターツなのだ。それはともかく、駄目押しのチャンス手を蹴られた東家は、がっかりである。
東2局と3局は、点棒の横移動。そして、東4局だ。
最初にテンパイを入れたのは、東家(B)である。
ツモ ドラ
入り目がかなら、ツモに勢いを感じるからリーチも有りだ。
これなら親の先制リーチで相手をオロし、悠々とツモにかけられる。
しかし、ツモは弱いと感じた。親(B)は、をそろりと切ってヤミテン。これが好判断。
(親の河)
親の河は、ピンズの染め手には見えない。このとき、南家の手はこうだった。
ポン
ここに引いたのが、ドラのである。が3枚出ていたから、このは止まらない。1,300と7,700点の直撃で、丁度18,000点。
AとBは同点で、ぴたりと並んだ。このとき、東1局の親(A)の天運が、削られていると感じるが、どうだろう。この後は、小場で進んだ。そして、オーラスである。
先にテンパイを入れたのは、南家(A)だった。
ツモ ドラ
理想はツモのヤミテンだが、アガリでトップだから贅沢は言えない。
(南家の河)
待ちはソーズの裏筋だが、南家には自信があった。なぜなら、このが場に1枚も姿を見せていなかったからである。そのうち出るか、ツモと踏んだのだ。親も無筋を2牌通して、これに突っ張った。当然である。
満貫を打っても2着だし、引かれても2着なのだ。5巡後、親がツモ牌を引き寄せた。
ツモ
親は直前にを切っていたから、マチがソーズならここが本線と見たのだ。三暗刻のおまけが付いて4,000点オールだ。これが、この半荘の結末である。
このように、「地運」は「天運」を動かすことがある。
Bの好判断は、危ないと感じてこの手をチーテンに掛けたことだ。
ドラ
これが、打ち手の感性である。いわばサバキ。
次が、ヤミテンのこれだ。
ロン ドラ
ツモの強弱で応手を変える、これも勝負の感性。リーチなら、アガリできたかどうか分らない。
この後、勝負は続いた。そのときのAとBの着順がこれだ。
② ③④③④(A)
① ①②②①(B)
着順に偏りが出ている。天運と地運が混じりあい、運が動いたのだ―。
この後、勝負を続けてもAは③と④が並び、Bには①と②の着順が並ぶことが予想される。好調だった天運は、崩れると意外に脆い。落ちると底なし。
比べて、卓上で掴み取った「地運」はそう簡単には崩れない。逆に勢いが増すのだ。これが天運と地運の違いである。
カテゴリ:上級