プロ雀士インタビュー

第189回:プロ雀士インタビュー 魚谷 侑未  インタビュアー:松田 彩花

11月25日、勝利の女神はまたしても魚谷侑未に微笑んだ。
この日、魚谷は今年三冠目となる第44期王位の座を獲得した。女流日本シリーズ、日本オープン、そして王位というタイトルを1年の間に立て続けにとってしまったのだ。

そんな、今ノリに乗っている魚谷プロの王位インタビューを任された時、正直飛び上がるほど嬉しかった。
なにを隠そう私、松田彩花は、魚谷プロに憧れて麻雀業界に飛び込んできたのだ。右も左もわからない中、魚谷プロが書いた麻雀本を片手にプロ試験を受けに行ったのを今でも覚えている。巣鴨に連盟道場ができる前、魚谷プロのB1リーグを後ろ見しに行ったりもした。(※現在は観戦不可)

私にとって憧れの魚谷プロのインタビューを任されたのだ。
緊張しながらインタビューのお願いをすると忙しい中、スケジュールを調整して快く引き受けてくれた。

約束の日、魚谷プロの優勝を祝うと聞いて、親友の藤井すみれプロ、王位戦の決勝を共に闘った浜野太陽プロも駆けつけてくれた。

 

100

 

王位を祝う乾杯の声が店内に響いた

『ゆーみんさんおめでとうー!!!』

満面の笑みでお酒を飲む魚谷プロに、同期だという藤井すみれプロからも祝福の言葉が送られた。

松田「ゆーみんさん本当におめでとうございます!!!」

魚谷「ありがとう!」

松田「率直に聞きます!今の気持ちは!!」

魚谷「それが…すっごく嬉しいはずなんだけど、なんだか精神を消耗してしまって…」

松田「ええ!そこは、嬉しくて眠れません!的なの予想してたのでびっくりです。」

魚谷「不思議なものだねぇ…前に女流桜花で負けた時もこんな感じになったことがあったんだけど、負けたからだと思ってたの。でも、大きい試合で精神を消耗して麻雀打った後だからこうなっちゃうんだなーって今分かった。」

-精神を消耗しながらも、麻雀を打つ…私は王位戦でみせた魚谷プロの色んな表情のことを思い出す-

 

100

 

精神を消耗したというのも頷ける。そして、可愛い。

松田「あ!魚谷プロは、本戦からの出場でしたよね!本戦、準決勝と勝ち上がりを決めて決勝まで来ましたが、余裕を持って勝ち上がりを決められたんですか?」

魚谷「んー勝負しきって、勝ち上がってきたって感じかな。準決勝では、早い段階で大きくプラスできたので、そのプラスを活かして4回戦目では攻め続けてトップを取ることができたの。」

松田「なるほど。決勝を闘う相手が決まった時は、どう思いましたか?」

魚谷「前原さんは要注意だなーって思ってたね。」

松田「現鳳凰位ですし、やはり決勝経験も豊富ですからね。」

魚谷「このメンバーの中で、前原さんだけはたくさん麻雀を見てきて打ち筋は知っていたし、、色んなリーチがあると思って(定番のガラクタリーチから本手リーチまで)自分が手が入った時は素直に戦おうと思ってたよ。」

王位戦決勝の1回戦目。

この日一発目のリーチをかけたのは前原だった。

 

100

 

親番とはいえ、手牌にはドラもなく場に1枚ずつ切れている一索二索待ちのリーチだ。そう。これが〔ガラクタリーチ〕と呼ばれているリーチである。ガラクタなんて呼ばれているが、あっという間に相手を自分のペースにしてしまう恐怖のリーチである。

また、2回戦でも起家の前原が魅せる。
東1局、リーチリーチと攻め続け二度のテンパイ流局で親権を維持すると、2本場ではようやくアガリをものにする。
ここまで前原は3局連続でのリーチ。これには実況の日吉辰哉プロも『リーチをかけられる胆力がすごい。』と一言。

そして迎えた東1局3本場、前原に勝負手がはいる。

 

100

 

6巡目、2枚切れの八筒で一気通貫のテンパイ。ここでも前原は迷うことなく即リーチ。
しかし、ここで前原の猛攻を止めたのはプロになって数ヶ月の新人。浜野だった。

 

100

 

その後、前原は苦しい展開が続き、厳しいポイント状況となってしまった。

松田「魚谷プロは浜野プロとは王位戦で初対戦だったんですよね?」

魚谷「プロ1年目で初決勝なのに、物怖じせず戦ってて凄いなぁと思ったよ。」

浜野「光栄です。最後まで条件が残るように打っていたんですが、5回戦目はかなりきつくなってしまいました。」

魚谷「あ!あとは、菊田さんの精神力の強さが印象に残ってるね。」

松田「精神力ですか?」

魚谷「最終戦の東2局、12,000点放銃したあとに1,000点アガったやつ。あれは精神力がすごいなぁって。強さを感じたなぁ…」

浜野の親リーチに対して、高めの四筒を放銃したこの場面。

最終戦東2局親・浜野 ドラ一筒

 

100

 

次局 東2局1本場

 

100

 

菊田はこの手牌から、二筒をチーして1,000点のテンパイを取る。
本来ならタンピンイーペーコーなど打点が見える手牌なので、メンゼンでの手作りをする人が多そうだが、場に3枚見えの五筒八筒が薄いと見るとすかさずチーしてテンパイをとったのだ。

 

100

 

結果は菊田の300・500ツモアガリとなった。

魚谷「これをチーできるのは心が強いなーと思ったね。大きい放銃の後で大物手狙いたくなるところなのにすごく冷静だった。菊田さんが12,000を放銃して、優勝がかなり近くなったんだけど、その後に仕掛けて1,000点をアガるのを見て、菊田さんは精神力が凄いから全然安心出来ないなって感じたよ。」

私たちが印象に残る局と、対局者同士で印象に残る局はここまで違うのかと衝撃を受けた。
そこで、浜野の印象に残った1局を聞いてみる。

浜野「あの。カン四万の局は経験の差を感じましたね。」

-私のゆーみん麻雀フォルダーを覗くと…あった!!!これだ!!-

 

100

 

東2局2本場 供託2本ドラ六筒 親・魚谷

 

100

 

供託2本付き。某プロの供託泥棒魂がゆーみんに乗り移った。
5巡目この形から二筒をポン打八索

 

100

 

その後四索を自ら引き入れカン四万待ちテンパイ。
だが、菊田も黙ってみてはいない。

 

100

 

絶好のドラを引き入れ高めタンヤオのドラドラリーチ。解説の瀬戸熊プロが『 優勝者のツモだ。』と呟いた。
この六万九万は山に5枚残り、対する四万はすでに山には残っていなかった。

 

100

 

菊田からのリーチを受け手詰まった浜野が打四万。この四万を魚谷が捉えた。

浜野「今回の王位戦は、予選からこういう仕掛けには手を出せずにいたんですよね。引き出しの差を感じた瞬間でした。」

この後魚谷は親番でアガリを重ね、この半荘を54,100点の大きなトップを取り大きなアドバンテージを得たのであった。

松田「最終戦は苦しい場面も多かったですよね…ラス前の六万の放銃した後の表情が忘れられないです…」

魚谷「試合中に勝ち負けを考えると余計な雑念が入るから考えないようにしてるんだけど、ラス前は『負けるかもしれない…』と思ったよ。それくらい自分が不利な状況だと思ってた。」

浜野「オーラスの親番でツモった六万はすごく嬉しそうでした(笑)」

魚谷「そりゃ嬉しいよ!高めだもん!!跳ねたよ!!」

南3局 親・前原 ドラ一筒

 

100

 

100

 

ラス前に痛恨の放銃をしてこの表情の魚谷。

迎えたオーラス0本場は2人テンパイでの流局。
そしてオーラス1本場 親・魚谷 ドラ三索

 

100

 

ここで持ってきたのは、前局ライバルの菊田に放銃した牌と同じ六万だった。六万に泣かされる1日。
その後はリードを守りきり、魚谷が優勝を手にした。

カメラに映った魚谷プロの表情に私まで涙が出そうになる。

 

100

 

魚谷「そのあと、瀬戸熊さんに内容がめちゃくちゃよかったよって褒められたんだよね。それがすごく嬉しかった。あと、太田優介プロに『新人は見るべき。タイトル戦のお手本みたいな麻雀だから』とツイートしてもらえたのはすごく嬉しかったなぁ。」

 

100
※ここにでてくる魚とは海にいる魚ではなく、魚谷プロの愛称である。
 

松田「本当にすごく強くて、いつか同じ舞台で戦えるように私も勉強頑張ろうって思えました。最後に今年はまだ女流桜花も残っていると思うので、見ているファンの皆さんに一言お願いしてもいいですか?」

魚谷「苦しい時も最後まで応援してくれるファンの方がいるから、私はファンの皆より先に諦めることは絶対にしません。どんな試合になったとしても見て良かったと思ってもらえる試合を作れるように頑張ります!麻雀プロとしての魚谷侑未をみてもらえたらと思います!応援よろしくお願いします!」
※インタビューは女流桜花決定戦前に行われた。

私がプロになるきっかけにもなった
【現代麻雀が最速で強くなる本】には、
『麻雀ではどんなに辛く苦しくても、最後まで諦めなかった者だけが奇跡を起こせる。 』と書いてある。
奇跡を起こし続ける魚谷プロの今後にもますます期待が高まる。

 

100

 

魚谷プロ!優勝おめでとう!!!