第141回『勝負の感性⑪~もたれて打つ~』 荒 正義
2019年02月20日
○経過
最初は好調だったのに、終わると負けていた。こんな経験、誰しもあるはず。私もそうだ。30代前半まではよくあった。若いから、調子に乗ってがむしゃらに攻めていたからである。例えばこうだ。その日の第1戦である。
ドラ
東2局の親番だ。8巡目にテンパイが入った。が2枚飛んでいたから、アガリの自信はなかったが、親なのでリーチをかけた。ドラのの行方も分からない。これが他者に散らばって、オリてくれたらいいナの気分だ。すると3巡後にを引いた。裏ドラが1枚乗って、6,000点オールだ。この後は2着争いで、小場で流れて楽勝のトップだ。
第2戦。南1局の西家の9巡目だった。
ツモ ドラ
状況は、19,000点持ちの3着。を横に曲げた。
ダイレクトの筋待ちである。相手は強者ぞろいで流石に出なかったが、流局間際にをひょっこりツモだ。しかも、これが裏ドラになって3,000・6,000点。
この後、親になって7,700と4,000点オールを引いて追加点。大きなトップを拾った。好調な滑り出しである。ただし、あと6戦あるから油断はできない。
○もたれて打つ
そして、第3戦の東1局。ドラ
私は西家で、3巡目の手だ。
ここに親から、初牌のが出る。もちろんスルーだ。続いて南家からも合わせてが出る。つい『ポン』と、声が出る。
若いときの私が、そうだった。もちろん、今はしない。これが、してはいけない鳴きである。
ポン
鳴いても受けがリャンカンとカンチャンでは、アガリが遠いし打点も低い。これでは、勝てない。リーチが入れば、を切って手仕舞いになる。この後、親からリーチが入る。結末は、安全パイに窮し後筋を追って親満の放銃。この後は、落ち目の三度笠。勝ちはおろか、負けになる。これは、私が若いときの失敗例だ。
問題は、の鳴きにある。流れがいいときに、自らツモを変えることがそもそも問題である。好調のときは、メンゼン主体で打てばいいのだ。ツモだって利くだろう。
理想の聴牌形はこうだ。
先手を取れたらリーチだ。その道中、他から攻めの火の手が上がれば受けだ。
スルーしたは、受け駒(安全牌)である。も、ほぼ安全。受けなら、ツモを入れて14牌。2軒のリーチがかかっても、受け切れるはずだ。これがもたれ打ちである。
○ゆとりが大事
手牌が、タンピン形の手の場合もそうである。この手も好調の第3戦、7巡目の西家の手だ。
ドラ
ここにドラの指示牌のが出ても、鳴いてはいけない。ツモが利いているときは、手は伸びる。薄いをズバリ引くこともあるし、上に伸びたらこうである。
これなら、リーチで十分形。
その道中、親のリーチがかかる場合もある。
南家の手
ツモ ドラ
ここで乗っているからと、調子に乗ってを切ってはいけない。一発で当たれば、親満覚悟だ。いや、跳満だってあるかも知れない。打てば、流れが変わる。それが困るのだ。
ここはを切っての様子見が、正しい応手だ。打ちたくない牌は打たない、これが勝っている「ゆとり」である。実戦の東家の手はこうだった。
流局間際にを引いて、4,000点オールだ。しかし、東家は1、2回戦が不調のせいか、すぐに他家に満貫の放銃。好調の西家は南場の親で連荘し、トップを決めた。西家は40過ぎた私で、これで3連勝。
まだ、この好い流れは続くだろう。好調のときは、手牌とツモが勝手に正しい方向を決めてくれるのだ。先制できたら、攻める。先制されたら、素直に受けに回る。好調のときは、相手に体を預けているだけでいいのだ。そうすれば、展開が味方し勝手に勝ちが膨らむ。ゆとりも、もたれの範疇にある。
○潮の変わり目
4回戦。
私は、出親になった。私の思いは、もちろん4連勝である。手牌も良かった。
7巡目にしてこうだ。
ドラ
は1枚出ていた。今、出ればポンテンの5,800点。それでいいのだ。すると西家が、南家が切ったを小考。そして「チー」とカンチャンで鳴いて、切り。次巡、私はツモ切り。南家もをツモ切った。
私は『チッ!』と思ったが、もちろん声には出さない。ところが、南家の次のツモ切り牌がだったのである。これにはびっくり。
西家の迷いチーがなければ、私はこの手をアガっていたのだ。
リーチ ツモ
一発で、6,000点オールだ。これが潮の変わり目である。ここを見逃してはならない。2巡後、西家がチーテンのままを引いた。
チー ツモ
つまり、西家の手は鳴く前はこうだったことになる。
通常、この手で初牌のの鳴きは無い。メンゼンならこの可能性があるからだ。
これでリーチなら満貫、跳満が狙える。しかし、この西家の鳴きは場合の応手だ。「3連勝している怖い親を落とし、話はそれからだ」と考えた。これが、正しい大局観である。
西家は手練れで、機を見るのが敏なのだ。この日の着順も②③②で、マイナスはしていない。この後、西家は親で6,000点オールを決めた。私は4連勝をあきらめ、2着狙いに転じた。
麻雀の運はそのとき好調でも、一晩中いいわけではない。何かの拍子で運が揺れるときがある。これが潮の変わり目である。その兆候は、卓上に出る。それを見逃してはならない。大事なのは、あとの対応である。
○もたれの進化
このとき、4戦目までの着順がこうだった。西家をマークしたから、2着が拾えた。
東家(私)①①①②
南家 ④④③④
西家 ②③②①
北家 ③②④③
このように4人の運に開きができたら、もっと勝ちを追及することも可能である。残り4戦あるから、どうまとめるかが勝負だ。この勝ちで満足し、守ろうとする人は逆に大きく沈む。自分もそうだったし、相手もそうだ。
今なら、こう考える
自分は好調だから、強気の構えでいい。
ただし、西家は運が昇り目だからマークだ。捨て牌がいいときは、ヤミテンを警戒する。こちらの手が、満貫以上で好形でない限り西家との戦いは避ける。
西家の親は、早めに落とす。戦うときは、このあと西家が痛い放銃をした後がいい。
比べて、南家は不調で無視だ。居ない者として考える。南家がリーチで、こちらの手がそれなりのときは、全ツッパ。1シャンテンでも、親なら全ツッパ。おそらく勝てる。2割の負けがあっても、8割勝てる。
北家もやや不調。リーチと来たときだけ考える。
こうして、相手の運を色分けして、戦い方に変化を加えることが大事。
5戦目、相手に先制リーチかかる。
好調の自分の手がこうだ。
ツモ ドラ
このリーチが不調の南家なら、GOである。の早切りから、は通るだろう。同じ理由でも打てる。ピンズの両面でテンパイなら、追いかけリーチだ。無筋でも、1、2牌は打てると考える。こちらが親なら、全ツッパだ。たとえ放銃しても、不調の南家の手は安いと見る。裏ドラも、乗らないものとして考える。
しかし、このリーチが上り調子の西家の場合は、話が別だ。の先切りは、誘いの隙かも知れない。は、少し危険。危険を冒しても、ドラのでアガリできる保証はないのだ。ならば、ここは見(けん)の切りとなる。相手の運量に合わせて、打ち方を変える。これが、進化したもたれ打ちである。
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