第144回『勝負の感性⑭~風を読む~』 荒 正義
2019年05月22日
●受けの風
体調を管理し、集中力を高めて万全の態勢で卓に着く。打ち手は皆そうだ。しかし、その日の自分の運はわからない。蓋を開けて見なければ、わからない。
1回戦の東1局。出親の私が配牌を取る。それがこれ。
ドラ
これではどうにもならない。しかし、ツモが利く可能性もあるから丁寧に打つ。
取りあえず、チャンタと123の三色を見てを切る。浮いた三元牌は、誰かが切ったら合わせて打てばいいのだ。7巡目に親の私の手がこうなった。
一応、形はできたが受けが狭くて遅い。案の定だ、西家から同巡にリーチがかかった。
3巡目の切りに注目。私はドラそばのが早いので、西家を警戒していた。ここでが切られる形は、かである。どちらにしても、手が早く打点があることは確かだ。親の手は、かを引いたら勝負の手だ。しかし、引いたのは。
ツモ
取りあえず、を切る。ところが、次のツモが無筋ので、手仕舞いだ。3巡後、西家のアガった手がこれだった。
ツモ
危うく放銃は逃れたが、3,000・6,000。私は痛い親のかぶりだ。点棒が大きく動いた後は、すぐに各々の運量の見極めが大事だ。運量を、10とした場合の平均値は5である。東家の私は、6,000点削られ4と査定する。南家と北家も4か5だ。アガった西家は7である。もちろん、勝負は始まったばかりだから、これで決まるわけではない。
東3局。ドラ
跳満をアガった、西家の親番。7巡目にリーチがかかった。
このとき、私の手がこうだった。
ツモ
相手は、跳満を引いた怖い親だったが、私はを切った。無事通過。ワンチャンスだし通る予感もあった。こちらのロン牌のは、親の筋で他家から切られてもおかしくないと踏んだのだ。アガリができたら5,200の手。しかし、は出なかった。少し粘ったが3巡後に無筋のを引いて、私はオリに回った。理由は簡単、跳満をアガった者と、親で引かれた者の差である。今の運量は、相手が7でこちらが4。しかも、相手は親。戦いは分が悪く、勝ち目は薄いと感じたからである。そして2巡後、南家がを切って追いかけリーチをかけた。
すると親からロンの声。
ドラ
表ドラは無かったが、裏ドラにがめくれて12,000点である。南家の手はこうだった。
この時点でも、運の査定は重要である。親満に飛び込んだ南家の運量は、2に下がった。私と北家は4で、ほぼ同じ。一方、跳満と親満をアガった親の運量は、8か9と見るのが妥当。おそらく、この半荘は90%トップを取るだろう。これが『風読み』である。となれば、この半荘は、北家と私の2着争いとなる。
この後、好調のこの親が攻めて来たとき、私は向わない。例えば、こんな河のリーチだ。
(親の河)ドラ
こちらにテンパイが入っても向かわない。例えばこうだ。
① ツモ
*1牌でも、無筋は切らない。このが親のロン牌で満貫なら、ラスになる。ここはを切って、様子見の場面である。この手もそうだ。
② ツモ
*は親の現物。ここは切りのヤミテンとし、危険牌を掴んだら速やかに引くのが賢明である。風を読んだら、大事なのはその対応である。それが的確にできたなら、勝率は格段に上がるのだ。
しかし、好調者の攻めに、いつも受けてばかりはいられない。戦うときは、一歩前に出ることが肝心。それが勝負だ。ただし、そのときは手牌に打点があって、待ちが好形のときに限られる。
③ ツモ
④ ツモ
この手牌なら、勝負の価値がある。追いかけのリーチも有る。だが、勢いに差があるから、期待は大きく持てない。
●親番のとき
では、好調者が散家で、こちらが親番のときはどうか。
(好調な西家のリーチ)
親ならば、自分の手と相談である。ある程度、手が整ったら勝負がある。
① ツモ
手に三色の2ハン役があるから、リーチで勝負だ。親満を打ち取ったら、一気に射程距離なる。
② ツモ
手牌は、メンタンピンの好形。ここも勝負で追いかけリーチだ。
*相手が好調なのに、親と子でなぜ対応が変わるのか。それはツモの場合、親は子の倍の点棒払うからである。オリても、ツモで満貫なら2,000・4,000点だ。子の傷は軽いが、親は4,000点の出費になる。満貫を打っても8,000点なら、その差は4,000点で、親は大差がないからである。
しかも、ここで好調者のアガリを止めたら、流れが変わる可能性がある。だから親と子では、対応が変わるのだ。4,000点で、未来の可能性を買ったと思えばいいのだ。
●攻めの風
不調者がリーチと来たときは反撃のチャンスだ。
相手は3の運量。
(北家のリーチ)ドラ
こちらは親番で、運量が5。そして、手牌がこうだ。
ツモ
ここが、攻め時なのだ。ブンと切りが正しい応手だ。次に、マンズが埋まれば即リーチ。一発が怖いからと切りは緩手。相手は弱っているのだ。手は安く、受けだってまともかどうか分らない。問題はを引いたときである。
ツモ
切りはこの一手だが、リーチかヤミテンかである。佐々木寿人、前原雄大はリーチだ。待ちのは絞りカンチャンで、出やすいと踏んだならヤミテンがある。しかし、一発でを切っているから、脇の2人は親をテンパイと読んでいるかもしれない。北家とのめくり勝負なら、親が有利だ。ヤミテンもあるが、強気のリーチも有る。私なら後者を取る。
●運を仕上げる
第1戦の南1局。
15,000持ちの西家から、リーチがかかった。
(ドラ)
親番のこっちは、44,000点持ちのトップ目。運量は相手が3でこっちが7だ。
そして、親の手がこうだ。
ツモ
ドラのは初物。ここを無難に済ませばと、トップは固い切り。これでは勝てない。ここは、ノータイムで切りの一手だ。相手と自分の風を、信じることが大事。親の手は、稀に見る勝負手なのだ。このチャンスを逃してはいけない。で当たれば満貫か跳満になる…などと考えてはいけない。どうするかは、当たってから考えればいいのだ。親の手は、無限の可能性を秘めている。
一発でドラ切りだから、テンパイは読まれている。ならば、好形テンパイならリーチで押すのだ。ここで、満貫・跳満を決めたら運量は9か10になる。次の半荘もその次も、楽勝となるだろう。運を仕上げるとは、これを云うのだ。
を止め、アガリを流せば悲劇である。仮にこの半荘、小さいトップをとっても次がないのだ。相手の運が膨らめばその分、こちらの運が減るからである。
つい先日、沢崎誠から酒の誘いがあった。バトルオブジェネレーション(60代)の対戦前である。
『終わったら、飲みに行きましょうよ』と云うのだ。
彼とは、40年の付き合いがある。酒に誘われたのは、これで2度目だ。40年間で、たった2度だ。
1度目は、私の都合が悪く断った。今度はそうはいかない。その酒の席上で、麻雀の「流れ」の話になった。「流れ」があるかどうかなど、どうでもいい。打ち手は、自分の信じた道を進めばいいのだ。問題は、強いか弱いかである。
沢崎は云った。
『流れを見なければ、戦いの方向(軸)が分らない』
彼は、流れ派なのだ。
実は風を読むのも、流れなのだ―。
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