第145回『勝負の感性⑮~勝負の組み立て~』(最終回) 荒 正義
2019年06月24日
① 対応能力
プロリーグの公式戦、A2リーグ初日。第1戦のオーラスは、接戦だった。
トップは南家(A)で、6,000点の浮き。2着は東家で、3,500点の浮き。その分、西家と北家はマイナスである。しかし、マイナスが小さいから満貫で、2位浮上のチャンスがある。このとき南家の手は、5巡目でこうだった。
ツモ ドラ
当然、を切る。しかし6巡目、上家の親から3枚目のが出た。
南家は、間髪を入れずチーテンに取る。すると、西家がのツモ切り。ロンで、2,000点のアガリだった。
チー
電光石火のアガリだ。南家は、接戦を制し胸を張ったが、このアガリに私は違和感を覚えた。正直に言えば、その構えでA1昇級は無理だと思った。昇級できるのは16人で、たったの2人だ。メンゼンで進め、跳満をものにしても昇級は出来るかどうかだ。勝負は山あり谷ありで、1年間続くからである。
南家は5巡目のツモに、手応えを感じることが大事。
この手は、公式戦では面前で決める手なのである。これが、大事な勝負の感性だ。欲しい牌はとである。現に南家は、つまらぬ鳴きで待望のを下げている。鳴かなければこうだ。
これなら、ツモの予感がする。当然、リーチも有るだろう。東場なら出ない牌でも、南場の接戦の状況なら出る可能性が高い。
トップなら+8,000点の順位点だ。2位で+4,000点。その差は4,000点である。公式ルールでは、順位よりも打点が物をいうのだ。南家が8,000浮きのトップならこうだ。
8.0P+8.0P(順位点)=+16.0P
しかし、跳満ツモなら3人沈みでこうである。
18.0P+12.0P(順位点)=+30.0P
浮きが倍になって、次からの戦いに余裕が生まれる。運量も一段と増す。その分、相手の運量が減る。これなら次の半荘も勢いで、連勝濃厚である。
しかし、25,000点持ちの3万点返しで、順位点が10,000、30,000点となると話は別である。トップには、20,000点のオカと30,000点の順位点がある。2位との差は、それだけで40,000点。ならばこの場合、チーテンが正しい応手となる。面前でも行けるが、チーテンが確実。このようにルールに合わせ、臨機応変に「対応」することが大事。それが、打ち手の「能力」である。
② 流れを掴む
話を戻そう。
この手でのチーテンを否定する人は、A2リーグでは7割いるだろう。鳴かないで、を引いたらどうか。
この手には、ツモの強さと手牌の美しさがある。アガリの強さを感じる。その確率は80%。これが、私の感性だ。高目ツモなら面前で跳満。
では、仮に南家(A)が、この手を決めた場合の後の話である。
第2戦は場所替え。3人沈みのトップを取った者(A)が出親になった。そして、6巡目にテンパイが入る。
ツモ ドラ
ここで調子に乗って、切りのリーチはない。切りリーチも駄目だ。
勢いはあるが、勝負はまだ始まったばかりだ。相手だって気を引き締め、慎重に来るだろう。はドラの指示牌、筋でもよくある危険牌だ。さらにドラ側だから、相手の手の内に使われている公算が大である。引っかけで、アガろうとしても無理がある。ツモ山にいるかどうかも分からない。相手に勝負手が入り、ブンと来られたら万事休すだ。ここで満貫を打ちラスを引けば、勝負は振り出しに戻ることになる。
ここは慎重にを切って、ヤミテンが確かな足取り。そう、狙いは2手の手変りでかのツモである。
これなら、ドラを切っても十分で、リーチでツモの跳満が狙える。
これもリーチOK。河に切られたとが迷彩となり、の釣り出しに役立つ。
ドラのを引いてもこうである。
ここでも、焦らずヤミテンが正しい応手だ。次に、マンズの伸びを見るのだ。
これなら最高形で、リーチだ。
これもリーチで、十分形。
これならヤミテンか。無理せず、確実に親満を討ち取る。ヤミテンでも、ツモなら6,000点オールだ。
好調のときはツモが伸びる。伸ばせる手は、とことん伸ばすことが肝心である。受けは広く、打点は高くだ。これを決めたら、主導権はもうこっちのものだ。後は手なりでOK。注意すべきは、相手の親の攻めだけで十分。麻雀は手なりで打って、手なりでアガリできる態勢が一番である。それでも、勢いがあるから打点が高い。流れを掴むとは、これを云うのだ。
③ 受けの強弱
自分が、好調ばかりとは限らない。相手が、出だしから好調のときもある。
Aが2連勝して、+60Pを超えた。そして迎えた3戦目の東2局、Aの親番のリーチがかかった。
(Aの東家のリーチ)ドラ
このとき、西家の手がこうである。
ツモ
西家は2戦目までに、2着、3着で▲10Pの成績。問題は、このを打つかどうかだ。
私は、断じて切らない。一番の理由は、親が絶好調であること。次にがドラの指示牌で、こちらの受けが弱い点にある。アガリのない場面で、危険を冒すのは愚だ。だからここは、を切っての安全策が妥当と見る。受けの名手、藤崎智も前田直哉も切らない。
ここは戦う場面ではなく、受けの場面と見る。どの道リーチが入った時点で、この局はAの流れだ。逆らってはいけない。親満でも、ツモなら3分の1で済むし、流局なら御の字と考える。
では、このリーチが1回戦の東1局の場合はどうか?
(Aの東家のリーチ)
その日の運は、まだ手探りの場面だ。
ツモ
出て5,200点、ツモで満貫相当。打点があるから、の1牌は勝負だ。しかし、受けが弱いから次に危険牌を掴めば、受けに回る。
ツモ
こうなれは、手仕舞いで切りである。1牌は勝負で、2度目はオリ。
これが、正しい受けの思考法である。
では西家のツモが、この場合はどうか。
ツモ
ツモに勢いを感じるから、全面対決。切りの追いかけリーチで、勝負の場面だ。これで負けたらしょうがない。
しかし、親が絶好調で3戦目の場合はどうか?
は切る。ただし、リーチではなくヤミテンに構える。次にマンズの危険筋を掴めば、回る。
ツモ
これなら、さらに切りである。受けながら反撃を見るのだ。
こうなれば理想形。このように受けにも状況次第で、打牌に強弱をつけることが大事である。
勝負の組み立てとは、相手と自分の運を量り戦いの方向を見つけることにある。
攻めと守りの、的確な判断と勝負の見切り。麻雀の最善手は、そこから生れるのだ。負けは潔く、勝ちはスマートに決めるのがプロの使命である。
長い間のお付き合い…ありがとうございました。
カテゴリ:上級