第202回:第17回女流モンド優勝特別インタビュー 和久津 晶 インタビュアー:原 佑典
2020年01月09日
和久津 晶。
一度でも耳にしたら忘れなさそうなインパクトのある名前である。
名前だけではない。
こんがり焼けた黒い肌。露出度の高いファッション。バリッッッバリのギャルメイク。見た目でも異彩を放つ。
では、肝心の麻雀はどうなのか。
日本プロ麻雀連盟最高峰のA1リーグに到達。
さらに、今期からは麻雀界で今、最も注目を集めるMリーグへ選出された。
「女流最強」と推す声も数多い。
そう、和久津晶は人気と実力を兼ね備えたスター選手なのである。
ある日、一本の連絡が入った。
「和久津さんが第17回女流モンド杯を優勝されました。その優勝インタビューを原さんにお願いしたいんですが、いかがでしょうか?」
わずか数秒で返信をした。頭ではなく、体で反応していた。
その後に果たしてこの大役が務まるのか、一気に不安が押し寄せてきたが…。
和久津晶のありのままの魅力を、自分らしく皆さんにお伝えしたいと思う。
原「女流モンド杯、優勝おめでとう!」
和久津「ありがとー!」
多忙なスケジュールの合間を縫って、インタビューの時間を作ってもらった。
和久津がインタビューを受けるのは実に4年ぶりのことである。
これまでに数々のタイトルを獲得してきたが、女流モンド杯にいたっては8年連続8回目の出場にして念願の初優勝。
インタビューをするにあたり、予選から決勝まで和久津の対局は全て観させてもらったが、出だしはラス→2着→ラス。
決勝も1回戦はラスだった。
どの場面を見返してもコレといった決め手はなく、決して好調だったわけでもない。
原「優勝できた勝因は?」
和久津「私の過ごしてきた”日本プロ麻雀連盟・和久津晶”としての生き方。決勝に和泉、宮内、石井あやが残って本当に良かった。私たち女流が教わってきた麻雀はベタベタおりる麻雀じゃない。皆で戦ってギリギリまでアタリ牌を我慢して、会話をしながら戦う。駆け引きしながら押し引きして…。皆で良い試合を作れたかなと思う。勝って嬉しいけど、”和久津さんが勝って嬉しい”とか”和久津さん強かった”って言われたことの方が嬉しかった!」
今回の決勝メンバーは、和久津が女流モンド杯の決勝に初めて進んだ時のメンバー2人(宮内・和泉)と、初めてタイトルを獲った時のディフェンディング(石井あや)とだった。
その中で優勝できたことは、より感慨深いものだったのだろう。
とても嬉しそうに当時を振り返っていた。
改まってインタビューするのも不思議な気分だった。
よく会い、よく話し、その度にインタビューしているように感じているからである。
和久津とは普段から仲良くさせてもらっている。
自分が初めて和久津と会話をしたのは、もう何年前になるだろう。
2回目のプロクイーンを獲り、自分が働いていたお店に彼女がゲストとして来ていた時だったから5年ほど前か。
会えるのが本当に楽しみだった。
「超攻撃型アマゾネス」の異名に恥じない攻めに心底、惚れていた。
ただの攻撃型ではなく”超”が付く、そのスタイルに。
当時、プロ連盟Bリーグに在籍していた和久津の対局を会場まで何度も足を運び、後ろ見をしたこともあった。
「あれ?リーグ戦で私の後ろでよく見てなかったっけ?」
自己紹介をしたら、まさかの反応が返ってきて驚いたのを今でもよく覚えている。
そんなこんなで距離が縮まっていき、原のご奉仕活動が幕を開けるのである。
イベントやプライベートまで、何かで和久津と一緒になる時は事前に必ずと言っていいほどコーヒーのオーダーが飛んでくる。
和久津「温かいカプチーノ、グランデサイズ…」
和久津スペシャルメニューはちょっと他とは違い、要求が激しすぎるので、いつもメモしたものを店員さんに見せて注文する。
口で説明するより見せた方が早いからである。
それでも店員さんはそのメモを二度見、三度見してしまう。
「ホットですがストローをお付けしてよろしいんですか?」
と聞かれたことも多々ある。
自分のものではないと分かっているのに、何故こんなにも恥ずかしい気持ちになるのだろう。早く、この場から立ち去りたいといつも思う。
そして、その回数と頻度。
今年の夏に8日連続で会って、そのうち6回も献上したことがあった。
過去最高記録である。
自分はコーヒーが飲めない。
コーヒーが飲めないのに毎日のようにコーヒーを買う。
こんな馬鹿馬鹿しい話があっていいものなのか。堪ったもんじゃない。
もう1つ。鞄持ちである。
和久津と共に様々な地方にもお邪魔させて頂いているが、その時の荷物はすべて自分が持つ。その荷物がこれまた重いったらありゃしない。一体、何が入っているというのか。そもそも自分の荷物くらい自分で持って欲しいものだ。
両手をブラブラさせて、颯爽と前を歩く彼女の姿を何度この目に焼き付けてきたのだろう。
ペットだって時には飼い主に噛み付きたくなるものである。
(必殺・キャリーバッグ二刀流)
だが、しかしである。
自分が当たり前のようにそうしているのは、和久津がたくさんのことを教えてくれているからだ。
麻雀プロの在り方、プロ意識、覚悟。
自分1人で活動しているだけでは決して見えてはこない景色を、彼女なりの目線からしっかりと伝えてくれる。
まだ人としても麻雀プロとしても未熟で半端な自分にとって、それがどれだけチカラに、モチベーションに繋がっているか計り知れない。
インタビューの終わりに、こんな質問をしてみた。
原「なんで後輩の面倒を見るの?」
今回のインタビューを通じて何を質問してみようかと考えた時、真っ先にこれが頭に浮かんだ。
和久津は後輩から圧倒的なまでに慕われている。愛情を込めて「姐さん」と呼ぶプロも多い。特に女流に慕われている印象だが、所属団体さえも一切問わない。
それは後輩の面倒見が良いからだ。悩みを打ち明ければ親身になって相談に乗ってくれるし、進むべき道を指し示してくれる。第一線で活躍するトッププロでありながらも、全く飾ってない。飾ろうとすらしない。それが和久津晶の魅力の一つである。
和久津は
「え!なんで!?」
と、予想外の質問に驚いた様子だった。
少し間を置き、こう答えてくれた。
和久津「先輩に可愛がってもらってきたから。ずっと働いてきて、仕事の先輩に可愛がられてきたし、先輩に虐められてきたから後輩は可愛がる。虐められるが8割くらいだったかな?麻雀プロってことじゃなくて、人生の話ね」
後輩の面倒を見ることは、彼女にとってすごく単純で当たり前のことだったようだ。
一見、順風満帆に見える和久津だが、たくさんの苦難を乗り越えて今がある。
今まで先輩にしてもらって嬉しかったことを、今度は自分が下の世代へ。
和久津の言動一つ一つにその想いが詰まっている。
それを感じずにはいられないのである。
最後に、後輩を想う和久津らしい素敵なエピソードをご紹介させて頂きたい。
同じく今回の女流モンド杯に出場し、和久津を慕う一人でもある高宮まりが、予選最終戦で履いていたスカートは、和久津が決勝で履いていたスカートの色違いである。
和久津「あのスカートね、私が先に買って高宮に”こんなの買ったんだけど色違いもあるからちょっと見に行ってみる?”って連絡したら、気に入ってその日のうちに追っかけ買いしたものなんだよね笑。これを履くためにトップスをどうすればいいか…とか、高宮が一生懸命考えてくれたことがすごく嬉しかった」
高宮はそのスカートを履いて最終戦に臨んだが、敢えなく敗退。
逆に和久津は予選を通過し、準決勝に進出した。
和久津「ここで負けちゃうと、このスカート来年まで履けないわけ。女流プロにはそういう大変なことがあるの。例えば、柄物の服を着るんだったら一番最初はテレビ対局。で、違う対局に呼ばれたらその服はもう絶対着れない。だから派手な服は1回しか着れないの。使い捨てになっちゃう。だけど高いし、お気に入りだし、色違いだし…と思って、これを来年まで履けるかどうかを準決勝に賭けたの。勝たないと、このスカートは来年まで履けないから。で、絶対に決勝でこのスカートを履いてやる!と思ってやったら準決勝は勝ったの」
そして、見事に優勝まで辿り着く。
和久津「どう?カッコイイでしょ?笑」
その笑顔は優しさで溢れていた。
女流モンド杯を勝った直後のインタビューで、和久津はこう語っていた。
和久津「過去にいっぱいオリて負けてきた経験が勝たせてくれた。負けた人たちの想いも背負いながら、1年間チャンピオンとして過ごしていきたい」
麻雀は負けることの方が圧倒的に多い競技である。
強者が必ずしも勝つわけではない。
和久津が常日頃から口にするのは
「次にチャンスがあると思うな」
「人生、生きるか死ぬかなんだよ」
という言葉の数々。
普段はとてもよく笑うし、冗談も言う。
コーヒーを買わせるし、荷物も持たす。
ただ、真剣な話をしている時は「麻雀プロ・和久津晶」が姿を現す。
その真っ直ぐな眼を何度見てきたことか。
先輩がこれだけの想いで臨んでいるのならば、自分たち後輩はその更に上をいくつもりで臨まなければ、決して追いつくことなど出来はしない。
和久津は、これから先どんな世界を見せてくれるのだろう。
願わくば、その世界を一番近くで見続けていきたいと思う。
晶ちゃん、女流モンド杯優勝おめでとう!
これからもよろしくです!!
カテゴリ:プロ雀士インタビュー