第10期麻雀グランプリMAX決勝観戦記 初日
2020年04月29日
令和2年3月14日。
日本プロ麻雀連盟のタイトル獲得者、四大タイトル(鳳凰位、十段位、王位、マスターズ)を持つ九段などの特別シード者と、ポイントランキング上位者のみが参加資格を有するタイトル戦、第10期グランプリMAXの決勝戦初日が開催された。
準決勝A卓(本田朋広、森山茂和、藤原隆弘、山田浩之)からは北陸リーグ優勝の本田朋広と、A2リーグ所属の山田浩之が勝ち上がり。
そして、準決勝B卓(ダンプ大橋、内川幸太郎、吉田直、藤島健二郎)からは、MリーグKADOKAWAサクラナイツ1位指名の内川幸太郎、前鳳凰位吉田直が決勝に名のりをあげた。
年度末最後の二日間でタイトルを手にするのは一体誰なのか。
これからの麻雀界を担っていくであろう若手、中堅、良いメンバーが揃った。
本田朋広 12460p33位
山田浩之 14300p 23位
吉田直 22800p 5位
内川幸太郎 22100p 6位
1回戦
(起家から吉田→内川→本田→山田)
東1局 ドラ
東家吉田は7巡目にドラのを打ち出す。
ドラを使い切り、更に三色という2ハン手役を狙うという超高打点打法も選択肢にはあるだろうが、吉田はドラを先に打ち出した。
この選択はカンのロスを嫌がると同時に、他家に圧力を与えるという側面もある。相手が手狭に受けることを誘って、アガリ逃し、テンパイ逃しを誘発しようという作戦だ。
どちらも兼用の一打ではあるのだが、この時は単に危険牌を先打ちしたというより、相手に問題を出す意図の方が強いのではないだろうか。
しかし、この時、他家も手牌がまとまっていた。本田も内川も親のドラ打ちを踏まえても十分戦える手格好。北家山田は4巡目に早くも678三色のイーシャンテンとなっていた。
8巡目にカンを引き入れて高目のリーチとすると、こちらも三色イーシャンテンとなっていた吉田がを掴み、7,700の放銃となった。
678、789どちらも見えていた吉田は強気の選択で打。山田の捨て牌は2巡目にが置いてあり、放銃した吉田の手格好
ツモ
から、怖がってを打った場合は安目2,000で助かるという、なんとも皮肉な結末であった。
続く東2局も山田がツモアガリ。
リーチツモドラ2の2,000、4,000
正に好調な滑り出しと言えよう。
そしてこの2局を受け、解説の佐々木は「かなり攻めてるねー、どうなのかな?」と、吉田が若干かかり君気味なのではないかとコメントしていた。
東3局 3巡目
またしても、山田にチャンス手到来。
親の本田にもドラのダブが入っている。スピード的には山田が断然有利か。
山田はを引き入れて、ドラのダブを切ると本田がポンしてイーシャンテンとなるが、すぐにを引き入れて待ちのテンパイ。直前に本田が河に置いたがあり、三色変化もある。ここまでのリードも後押しとなり、山田は手堅くヤミテンを選択した。
9巡目、イーシャンテンとなった本田に対して吉田が打でポンテンをとらせてしまう。
“とらせてしまう”と書くと吉田に否があるように思う人も多いだろうし、実際解説もそのようなニュアンスであったため、リアルタイムで観戦していた方の中にも吉田のおかげで本田がアガれた、吉田のせいで山田がアガれなかった、という印象を持つ人は多いと思う。
しかも吉田の手はこの状態である。
しかし、吉田が一番恐れていたのは、開局から2局連続で満貫クラスをアガった山田がこのまま突っ走ってしまうことなのである。
前期の鳳凰位吉田は山田とは長い付き合いでそのやり口というか手の内を、突き抜ける力があることを知っている。
言い方としてよろしくはないが、この時点ではマークは本田ではなく山田なのだ。
結果的には焦りとなってしまったかもしれない、解説者に指摘されたように若干は“かかって”いるのかもしれないが、この瞬間は勝つため、タイトルを獲得するために、山田を苦しめるためにギリギリの牌を放ったといった感じか。
山田は山田で吉田が自分をケアしていることも踏まえつつ、自身の打が本当に正しかったのかを自問自答するような表情を浮かべていた。
1回戦終了
本田+52.9 山田+11.9 内川-19.7 吉田-45.1
2回戦
(起家から本田、内川、山田、吉田)
勢いをもらったような形で本田は加点を続け、吉田はズルズルと後退する形で大きな差ができたがまだ、八分の一。大きなタイトルの獲得経験のない本田にとっては長い長い残り7半荘ではないだろうか。
東1局 ドラ 5巡目
西家の山田はこの手牌で即リーチを選択。
ツモ
まだ2回戦目とはいえ、首位本田のリードは大きい。仮にこれがラス目吉田の親番であれば手牌の変化待ちやテンパイとらずで好形、高打点を目指すなどの選択をしていたのではないだろうか。早くも本田を意識したような打牌を選択した山田は10巡目にをツモアガリ1,000、2,000。
東2局 ドラ
ポン
14巡目の山田はツモって3倍満の手牌をテンパイするも流局。
東3局ではドラをアンコにして
東3局 ドラ
この手牌から打とすると、
ツモ
13巡目にツモり四暗刻のテンパイ。
しかしこちらは678三色をテンパイしていた本田が吉田に2,600の放銃。
瀬戸熊は「この本田の攻める姿勢が良い」と解説していたが、この後東4局でも、親番吉田の13巡目リーチに対して、ピンフドラ1テンパイからヤミテンのまま無スジの→を勝負してテンパイ料を加点する。
まだまだ積極的に攻めていこうという姿勢が伺える。
南2局
吉田、親番内川の2者がリーチをかけており、山田はハイテイ牌をツモって手詰まりの状態。
打牌候補は、、、あたりであろうか。内川のリーチ宣言牌のスジにあたるはドラが+ということもあり候補から外れているかもしれない。
吉田の第一打をまたぐ打か、が3枚ずつ見えている、トイツの。
山田が選択したのは打
それぞれの手牌はこうなっていた。
吉田は第1打のをまたぐ待ち、内川はドラが内蔵された役無しであった。
本田が序盤からソーズ一色気味に進行していることから、のワンチャンスにかける方が良しと判断したのだろうか。1人ノーテンではあるが、放銃を回避したことによってリーチ棒2本が供託されてチャンスは残った。
しかし、この次局は本田が内川から2,000を出アガリ。
ドラ
ロン
オーラスで吉田が1,000オールをアガリ一
旦トップ目に立つも、最終的には本田が1,000、2,000をツモって再びトップに。
南4局ドラ
ポン ツモ
オープニングから2連勝を決めた。
2回戦終了
本田+20.4 吉田+13.8 山田-14.0 内川-20.2
2回戦終了時のトータルポイント
本田+73.3 山田-2.1 吉田-31.3 内川-39.9
3回戦
東3局 ドラ
絶好調本田に手牌が押し寄せる。なんと配牌がこちら。
第1打はを選択。
そして、6巡目こちらは日本プロ麻雀連盟Twitterの何切る企画でも取り上げられていた局面。
567の三色にリャンペーコー、その先には三色同刻やツモリ四暗刻も見える、なんとも贅沢な選択だ。
本田は打をチョイスしたが、皆さんなら何を打つだろうか?
結果は山田のリーチを受けた直後にこの形でツモアガリとなった。
ツモ
なんとなく嫌な空気を感じているのは山田だ。
1回戦から何度も競り負けて、チャンス手を潰されてしまっている。こんな日はまず勝てない。もちろん科学的な根拠などないのだけれど、開局2局でアガリをものにして、この上ないスタートを切ったが、吉田のマークによって崩れ始め、それがまだ尾を引いているようでもある。
手牌が押し寄せ、展開が向いているのは間違いないのだが、その他の局でも隙の無い選択が見られた。
例えば3回戦の東1局、西家の本田は6巡目、
ドラ
ツモ
打としたあとをツモって打とする。
打点が着いてこなければ、は絞り切るという選択だ。このときの親番吉田の手牌がこちら。
吉田の6巡目までの捨て牌はわりと平凡なもので、が鳴かれそうだという情報は出ていない。
1枚切れではあるが、字風のを生かした軽いアガリを目指すという選択もアリだとは思うが、本田はそうしなかった。
アガリをものにするときは思い切りよく攻め、中途半端な手牌では徹底的に防御策をとる。本田のフォームが崩れていないことが伝わる1局であった。
オーラスに2,000、4,000をツモアガった吉田がトップで終了。
本田、内川は浮きをキープ。山田は痛い1人沈みのラスとなってしまった。
3回戦終了
吉田+21.6 本田+6.3 内川+3.2 山田-29.1
3回戦終了時成績
本田+78.6 吉田-10.7 山田-31.2 内川-36.7
4回戦
起家から本田、吉田、山田、内川
東1局
11巡目に南家吉田がチーしてテンパイ。
チー
チーした時の手出しはで前巡にが先に打たれているという、若干変則的な手順だ。
7巡目にも上家からが打たれてはいるが、それでも吉田のチーテンは高打点を想定される。
同巡、内川が高目三色のピンフリーチをかける。
対して、親の本田はチャンタ三色のイーシャンテン。
仕掛けた吉田もリーチに対して無スジを飛ばし、引く気配はない。さらに山田も軽い押し返しを見せており、ドラを持っていない本田は多少引き気味に構えるだろう。。
この手牌から内川の宣言牌を合わせたときにはそう思った。
しかし、本田はまずをプッシュ。吉田の仕掛けはカンからなので打ちやすくはあるが、内川には危険なだ。
この1牌だけを押すことは容易いかもしれないが、この後ないしも勝負する構えということである。
決まれば高いチャンタ三色のイーシャンテンではあるが、ドラは相手に内蔵されている可能性が高く、テンパイしても愚形が残る可能性も高い。
これまでのリードを踏まえると、ブレーキがかかってしまいそうな場面ではあるが、本田は押すことを選択した。
この攻めの姿勢が功を奏し、テンパイして親番をキープすることに成功した。
東3局1本場
この半荘を含め残り5回戦。どうしても親番をキープしたい山田が苦しい選択を迫られる。
内川、吉田にテンパイが入っていることは確信しているであろう。
価値感はそれぞれではあるが、一発裏ドラのない日本プロ麻雀連盟の公式ルールにおいて、ノーテン罰符の価値は高いとされている。
まして首位の本田とは約110ポイント差の山田にとっては親番を維持することにも大きな意味があるため、打牌候補は、の2択となる。
どちらで放銃した方が高くつくということよりも、放銃確率の低い方を選択する、というのが優先されるテーマで内川の最終手出しを見ると、が非常に打ちづらい。山田打ったは吉田に3,900は4,200の放銃となってしまう。
内川のテンパイ形は
チー
であった。
仮にこれが1回戦目ならどちらも打たないという選択肢も出てくるし、放銃率は若干高くても、失点が少なそうな牌を打つという選択も出てくる。
各選手が優勝のみを意識したときに出てくるゲームの歪みはタイトル戦決勝特有のものだ。
東4局ドラ
親番内川に5巡目テンパイが入る。
ツモ
三色などへの変化を待ち、打としてヤミテンに構えると、10巡目に待望のを引き入れてリーチ。
その宣言牌を南家の本田がチーしてテンパイ。
チー
親のリーチ相手だが、一切怯むことなく攻め切った本田に軍配があがり1,000、2,000のツモ。
南4局では吉田がツモアガらずの選択をして見事トップに立ったが、本田も浮きをキープ。
大きなリードを守ったまま、初日を駆け抜けた。
4回戦終了
吉田+11.3 内川+6.2 本田+4.0 山田-21.5
4回戦終了時成績
本田+82.6 吉田+0.6 内川-30.5 山田-52.7
良い手牌がきてくれさえすれば、誰でも勝てるのが麻雀ではある。今日の本田はまさしく優勝者のそれを感じさせるが、あとは落ち着いて自分の麻雀が打てるかどうか。
鳳凰位の吉田、十段位内川、A2首位争い常連の山田がよってたかって襲いかかってくる2日目となるが、果たして本田は冷静に自身の麻雀を打ち切ることができるのであろうか?
また、格上である3者は、このリードをどのように崩していくのか。
2日目に続く
編集部
カテゴリ:グランプリ 決勝観戦記