第10期麻雀グランプリMAX決勝観戦記 最終日
2020年05月25日
残り半荘4回。最終日の解説はKADOKAWAサクラナイツ所属の沢崎誠とA2リーグ所属で昨年度WRCを獲得した藤島健二郎だ。
4半荘を終えて、ここまでのポイントは、
本田+82.6P 吉田+0.6P 内川▲30.5P 山田▲52.7P
藤島が言うように、日本プロ麻雀連盟の公式ルールにおいて、残り4回戦で80ポイントというのは大差といって良い。
そして、初のG1タイトルが目前の本田に対するアドバイスとして、2着との差が80ポイントあるということは考えず100、120と自身のポイントを伸ばしていくことを考えるべきだと沢崎は語る。
5回戦
起家から(内川→吉田→山田→本田)
東1局ドラ
東家内川が8巡目にリーチ。
追いかける3者に関しては、無理に親番のリーチには立ち向かう必要はない。安手でアガることは、首位の本田を喜ばせる結果に繋がることが多く、勝負に出るときは良形の手が入っているときである。
この局は本田が選択を迫られる前に、元々テンパイしていた山田が放銃となったが、首位を走る本田の思考はどうだったのだろう。
リーチを受け、本田の手牌はこちら。
内川のリーチはの手出しがある分、若干ではあるが捨て牌に怖さがある。
初日は相手が親でも、本人が勝負所と感じた局ではきつい牌でも切り飛ばし、アガリをものにしていたイメージがあるが…
解説の沢崎はドラを重ねたときは追いかけリーチ。それ以外を引いた場合は引き気味に構えるのが良い。と話していた。
このリードなら、打点を求めるよりも局を消化していくべく、ヤミテンに構えてツモなど危険牌と安全牌を入れ替えることができるメリットを優先する打ち手が大半である中、印象的な解説であった。
続く東2局は、またしても東家の内川が先制リーチ。
ドラ
9巡目のリーチでやむを得ずドラ単騎。当然のように一人旅となったが、流局間際七対子のテンパイを組んでいた山田が1牌勝負。そして、内川の最終ツモで1,600をアガらず。
この点数状況だけを考えれば当然とも言える見逃しではあるが、本田にとっては残り4半荘がとてつもなく長く感じ、80ポイントのリードが心細く思えてくる出来事ではないだろうか。
しかし、この見逃しに関して沢崎は「この親の連荘中にアガリを拒否するのはどうか?」と、苦言を呈す。
解釈は人それぞれではあるが、現代の麻雀感にバシバシと物申す解説は逆に新鮮だ。連盟チャンネル以外からきた視聴者の中にはアレルギー反応が出る人もいそうだが…
東2局はピンフテンパイが入っていた山田から出たドラを本田がポンして8,000のアガリ。
ポン ロン
その直後、東3局は内川が難しい手をまとめてピンフドラ2をリーチ。
ドラ
内川はこの半荘4度目となるリーチ攻勢だ。ようやくリャンメンテンパイが入ったが、捨て牌はかなり濃く、好形が読み取れるような捨て牌が並んでしまっている。
12巡目にピンフテンパイが入った本田がこれに放銃。7,700点。
本田テンパイ形
ツモ
トータルで110ポイント以上リードしている内川相手ということもあり、自身で押し切ることを選択した本田だが、結果は先ほどの収入をそのまま吐き出してしまう格好になってしまった。
解説の沢崎は「この放銃は悪くない、逃げて放銃しているわけではないから」と話したが、日本プロ麻雀連盟のタイトル戦を勝ち切ったことがある中で約7割くらいが今回の本田のような選択をしているように思える。
しかし、今回は内川の捨て牌にいくらか迫力があった。これまでに内川が繰り出してきたリーチは、親番というのが大きな理由ではあるが所謂「手なり」のリーチで待ちの良し悪しも、打点も検討がつかないものばかりであった。しかし、先ほど書いたように今回のリーチはリャンメンターツ落としを含んでおり、おそらく待ちが良いか高い、もしくはその両方の可能性が高い捨て牌であった。
それ踏まえても、今回の放銃は良いとする強者が多いのだから麻雀は奥が深い。
南1局
6巡目に吉田がタンヤオのポンテンをとって打。
ポン ドラ
山田が9巡目にリーチをかける。
山田捨て牌
変則的な捨て牌に対し、吉田は1枚切れのを掴んで迂回。打点力、待ちの良さ共に満足がいかないため、当然のオリか。
すると12巡目に親の内川が追いついてリーチ。
安全牌に窮している様子が見られる吉田からが打ち出され、こちらもすでにオリを選択している本田の手番。
たった今吉田が通したに目を落とす本田。変則的な捨て牌である分、山田はドラ1枚以下。リーチに対してオリを選択して安全牌に窮している様子の吉田はタンヤオ。すると、ドラは親の内川か?内川がペンを選択する理由があるだろうか?
そんなことを考えながら本田が手をかけたのはだった。
これはさすがに揺れたか?
次局も内川が先制リーチ。
ツモ ドラ
いったい何度目のリーチであろうか。
今回のリーチは捨て牌にこれといった特徴はないが、それが逆に不気味さを醸し出している。おそらく本田にとってはそうであったに違いない。
満貫クラスを決めにいくべく、手変わりを待つ手段もあるが、内川はさらにプレッシャーをかけていく方を選択。この辺の駆け引きは経験値の高い3者に分があるのは当然のことだ。
この局も内川が2,000をアガリ、吉田と共に本田との距離をぐっと縮める。
南1局2本場
前巡打とし、567三色よりもアガリやすさ、柔軟さを優先する選択をした内川の手が止まる。
東家7巡目
ツモ ドラ
西家の山田がマンズ以外を連打しているため、マンズを打つ人も多いだろう。
「手順マエストロ」の異名を持つ内川の選択は打
裏目となるツモで345三色が狙える。ここまでは主導権を取って本田に楽をさせまいとスピードを重視する選択が多かった内川が一気に決め手を放ちにきた。
を引き入れリーチをかけるも、山田が仕掛けて1,000は1,600のアガリとなった。
チー ロン
山田は南場の親で
ポン ツモ
リーチ ツモ
この6,000オール、2,000をアガるなどして、一気に息を吹き返す。
オーラス親の本田はリーチをかけるも、
吉田が仕掛けて的確にアガリ、追いかける3者の目論見通り本田にラスを押し付けた。
ポン ロン
5回戦終了
内川+32.6P 山田+9.4P 吉田▲14.6P 本田▲27.4P
5回戦終了時成績
本田+55.2P 内川+2.1P 吉田▲14.0P 山田▲43.3P
6回戦
起家から(山田、吉田、内川、本田)
現在2番手内川との差が約53ポイントとなった本田。
本日の開始時とライバルが変わっただけで、意識するのはその数字のみ。再び気合を入れなおして残り3半荘に挑む。
まずは東2局1本場に吉田が5巡目リーチで2,000オール。
ツモ ドラ
続く3本場は北家山田が2,000・3,900。
ツモ ドラ
そして東3局では本田以外の3者がテンパイで流局。
幸い2番手内川のアガリは出ていないが、配給原点が遠のいていく本田にとって辛い展開が続く。
東3局1本場で起死回生のアガリを決めたのは本田。
ロン ドラ
早々に仕掛けた山田はドラを複数持っていそうで、このはさほど手応えがあったわけではないだろう。
本田の待ちは山田に対しても危険度が高いで、どうせ出る牌ではない、とリーチをかけるのも一つの手段だ。しかし、本田は冷静にヤミテンに構えた。このヤミテンが見事正解。
放銃となった山田はからの役牌加カン、嶺上牌からのをツモ切りであった。(雀頭のは既に打っている)
本田は終盤にしては際どい牌を打っており、若干気配が出ていた。しかし、追う立場の山田はこの手牌でなんとかアガリ切りたい。
残りツモも少なく、ここまでの総合ポイントが影響してなければ山田は比較的安全な打を選択していたかもしれない。
決勝ならではの押し引きで、苦しいものは更に苦しく、その分リードがあるものは良い展開が継続しやすくなっている。
南4局ドラ
本田29,100 山田24,400 吉田35,500 内川31,000
この点差で本田は1シャンテン戻しを選択した。
ノーテンなら沈み3着以上(山田にアガリがあれば4着)が確定。
本田を沈みで終わらせたい3者、現在沈んでいる山田は満貫クラスの手を作っていることは予想されるが、吉田内川はアガれば最低限のミッションクリアとなるため、打点は読みづらい。
下家の山田はほぼマンズの一色手で、山田にツモアガリが発生した場合は本田がラスになってしまう。
諸々踏まえれば当然のオリではあるのだが「残り2半荘、しっかり打とう」と覚悟が感じられるような打のトーンであった。
6回戦終了
吉田+16.1P 内川+5.0P 本田▲4.9P 山田▲16.2P
6回戦終了時成績
本田+50.3P 内川+7.1P 吉田+2.1P 山田▲59.5P
7回戦
起家から山田(▲59.5P)本田(+50.3P)内川(+7.1P)吉田(+2.1P)
東2局 吉田が親番の本田から2,000を出アガリ。
ポン ロン ドラ
配給原点3万点の上下ができると8~20Pの順位点、そこに素点の差が加わってくる。たった2,000の放銃だが、残り2回戦となった今は点棒の重みが全く違う。
東3局、東家内川がリーチをかけると、山田が800・1,600のツモアガリ。
(内川リーチ)
ドラ
(山田アガリ形)
ツモ
吉田には、マンズのメンホンテンパイが入っていた。
なんとなく悪い雰囲気が漂っている本田ではあるが、山田のアガリは比較的マシな結果ではある…
東4局 ホンイツに一直線で向かった本田は、ようやくテンパイにたどり着いたが、捨て牌もまさにホンイツ一直線といった感じになってしまった。
ポン ドラ
が余りも余り、テンパイも濃厚な気配だ。
ところが、捌き手で発進した内川がこれに飛び込んでしまう。
ポン
内川にとっては、まさに痛恨の放銃。
実況の日吉は「テンション的に打ちそう、打つかも?」と話しているが、数巡前に打ったも当たってもおかしくはない牌であり、決勝残り2戦で約40ポイント差を追いかけるという意識がおかしなテンションを生み出してしまったように感じる。冷静になってみれば内川本人も「あれはやりすぎですね」とコメントしそうな放銃で、仮に1回戦ならまず打っていない牌だろう。
感性、感情が流れを成しているのかとも思うが、この一打は本田にとって良い流れを生み出したといえよう。
空気は一変し、本田の視界が開ける。再び初日のような冷静な判断力を取り戻せるか。
南3局 ドラ
この半荘ラス目の親番内川から12巡目リーチが入る。
トータルポイントプラス現在の半荘の得点状況、捨て牌の内容、そして内川の雀風からも十分安手はあり得る。トータルポイントで首位の本田は、この半荘は現在吉田と同点のトップだ。
9巡目にドラを打ち出している内川の捨て牌だが、タンピン、三色、イーペーコーなど、高くなる要素はいくらでもあり、ここは無難に引き気味に構えても良さそうではある。
リーチを受けた本田の手牌はこちら。
まずはを勝負。
そして1枚切れのを勝負の後、も勝負!
するとドラ2枚でテンパイが入った吉田が、山田にタンヤオリャンペーコーの8,000放銃。
ロン
吉田がテンパイをとるために選択できる打牌は内川のリーチ宣言牌のスジにあたるか、本田が一発目に打ったのスジに当たる。内川のリーチはシャンポンも否定できず、どちらを選択するのもアリとは思う。実際内川の待ちはで、吉田の読みはむしろ鋭い。
ただ、結果的には内川への放銃の方が安く、残り局数も減らないという未来が待っていた。
逆に本田にとってはトータルラス目の山田がアガリ、局を消化することができるこの上ない展開となった。
6巡目に内川がドラを打った形はこちら。
遠くに一色手も見据えてはいるが、本田の読み通りアガリ安さを重視した一打であった。
自分の勝負牌が作り上げたスジにより、自分に良い結果をもたらした。自ら流れを手繰り寄せたと解釈しても良い?いずれにしてもこういった部分が麻雀の面白さでもある。
7回戦終了
山田+18.2P 本田+9.5P 吉田▲9.1P 内川▲18.6P
7回戦終了時成績
本田+58.8P 吉田▲6.0P 内川▲11.5P 山田▲41.3P
8回戦
起家から(吉田、内川、吉田、本田)
日本プロ麻雀連盟の公式タイトル戦決勝はすべて、起家から2341着(トータルポイント順位)の並びで行われる。
トータル着順が下の者の親番が残るため、できる限り歪な麻雀にならないよう、最後までアガリが発生しやすくなるように設定されているのである。
本田のリードは決勝戦としては上々ではあるが、全員のターゲットであるため自力で局を消化しなければならない場面が増えてくる。自分の親番はサッと流され、他家の親番は全員にじっくりやられてしまうというのが定番だからだ。
ミスが続けば、一気に寒い状況に陥ってしまうことも考えられる。細心の注意が必要であると同時に、勝負所を見極めていくことも大事ではないだろうか。
東1局
ポン ツモ ドラ
場風のをポンした本田は7巡目にを引いてテンパイ。本田の捨て牌はこちら。
捨て牌にはピンズが1枚もない。少しでも高い手をアガればこの後がぐっと楽になるが、追う立場の3者は首位を苦しめようとするため、本田に対して甘い牌を打ってはこないことが想定される。
ここはテーマに沿ってカンのテンパイを組むと、すぐにをツモアガリ、300・500。
続く東2局も本田のアガリ。
ロン ドラ
2番手吉田、3番手内川の1回目の親番を流すことに成功した。
東3局 北家:内川手牌
ツモ ドラ
西家:吉田手牌
ポン ポン
狙いは四暗刻一本の内川。危険は承知でから打つと、をポンしている吉田に2フーロ目が入る。そこに持ってきた吉田のアガリ牌をツモ切るが、ドラ暗刻の吉田は見逃し。
このときタンピンテンパイが入っていた本田から、見事直撃を果たす。
南家:本田手牌
ツモ
内川としても、吉田が満貫クラスのテンパイで待ちが以上ならば、自分からは見逃すのではないかという想定があっての打牌だったかもしれない。
3局は消化することができたが、本田は改めて決勝戦の重圧を感じたことだろう。
南1局 親番吉田に大物手が入る。上手く仕上がれば一気に本田の背中が見えてくるが…
ドラ
わずか6巡目にしてこの手格好だったが、ツモが噛みあわずに単騎リーチで流局となった。
次局1本場は本田が自力でアガリ、吉田の親を潰した。
チー ロン
南2局。親番内川はタンヤオ七対子をツモって4,000オール、1本場でドラポンチンイツのテンパイが入るも、親番を残した山田がハイテイでリーチをツモアガリ。
ツモ
いよいよ南3局、本田にとっては最後の山場となる。親番がなくなった吉田、内川が残り2回のアガリで優勝するためには高打点の手牌を待つしかない。
南3局 親の山田が12巡目にリーチ
リーチ ドラ
跳満が見える吉田が抵抗するも流局。
親の山田だけは比較的自由に手を組んでくるが、本田としてはまだポイントの猶予がある。じっくりとラスト1回のアガリを決めにいく局を見極めている。
南3局1本場
早々にテンパイを入れていた山田は6巡目にを引いてタンヤオをつけてのリーチ。たった今吉田に打たれたも見逃している。
ツモ
リーチを受けて手牌には1メンツ。これはさすがに引くしかないか。本田は打としてここもオリを選択した。戦えそうな手牌だっただけに、安全牌は確保できていなかった本田は、スジや序盤の牌の外側などを頼りに、命からがらといった感じで流局に持ち込んだ。
南3局2本場(供託×2)も山田が9巡目に先制リーチ。
リーチ ドラ
こちらも1本場と同じく、元々テンパイが入っていたところからの待ち替えリーチだ。待ちを選ぶことより、本田の自由を奪うことを優先しようといった判断だ。
これを受け、ついに本田が前に出た。10巡目に役無しの追っかけリーチを敢行。
リーチ
本田が前に出たなら直撃チャンス到来と、ドラ暗刻の吉田も全面対決に出る。
14巡目にリーチ。
リーチ
全員の待ち牌が山に2枚ずつ残っていたが、吉田がを掴み山田が4,800のアガリ。
南3局3本場は内川がドラ3枚内蔵したリーチで先制。
ドラ
山田のリーチ宣言牌を見逃すと、またしても山田にアガリが生まれる。
暗カン 暗カン 嶺上ツモ
6000は6,300オール。
本田としても腹を括ってオり、攻めているのだが中々良い結果に結び付かない。
南4局4本場 8巡目に山田がリーチ
リーチ ドラ
首位の本田と2位の山田の点差は30ポイントを切っており、内川が沈めばさらに順位点4ポイントが詰まる。展開も味方して、あと一歩で逆転という所まできている。
リーチを受けた本田の手牌はこちら。
場に見えていないを勝負すると、上家の山田がをツモ切る。
仕掛けての片アガリテンパイを取る手もあるがスルー。するとを引き入れ現物の打ち。場に見えていないも勝負。が打たれての片アガリテンパイも取れたがこちらもスルー。ついにツモでテンパイを果たす。
既には場に2枚打たれており、ドラ表示牌にも1枚。決して強い待ちとは言えないが、この形で本田は勝負に出た。
次巡、山田がを掴み本田が2,000のアガリ。
まさにタイトル戦決勝ならでは、という展開で長い長い最終戦であった。
気分的には失うものがない追う立場の方が強い。最も精神的に疲弊しているのは逃げる本田であっただろう。
それとも本田としては自身の麻雀を貫いただけで、内心は飄々としているのかもしれないが、本田自身が今回の決勝戦で感じたことや気になった局については後日、同じ北陸支部所属、木原翼のインタビューをお楽しみに。
第10期グランプリMAX優勝は、北陸支部所属の本田朋広。
本田の優勝は自身が所属する北陸支部はもちろん、各地方本部支部にも活気を与えることだろう。
カテゴリ:グランプリ 決勝観戦記