第29期プロリーグ A2 第3節レポート
2012年06月07日
プロリーグ1回戦、南3局西家11巡目、持ち点20,300点のラス目。
ツモ ドラ
あなたならどう打つか?
簡単に記すならばリーチを打つかどうかの問題である。
状況をもう少し述べるならば、トップ目の親番がをポンしており、あきらかなソーズのホンイツ模様。
親の捨て牌には、それぞれ1枚ずつ–が河に並んでいる。
尚且つ、他家は皆、親番の仕掛けをマークしながらも、誰の河にも–は1枚も並んでいない。
付け加えるならば、親のポンは2鳴き{同巡ではなかったが、手出し牌はなかった}
であることと、西家の河のソーズはだけだった。
西家は、逡巡も躊躇うことなく「リーチ」。なるほどな、と私は肯いた。
打ち手は中村毅である。
あなたにとってプロリーグとは?というアンケートに、中村はこう記している。
「麻雀というゲームの面白さや、難しさ、素晴らしさを表現する場」
唯一、他の選手と全く異質のこたえをくれた打ち手である。
私は中村の麻雀を全く予備知識がなく、第1節首位に位置した彼を取材がてら、第2節の初戦の南場から観戦していた。
そこで、たまたま観たのが冒頭の場面である。
結果は、中村のリーチと同巡、下家の古川にテンパイが入る。
そして、親番の吉田。
ポン
この手に中村の入り目でもあるを掴み、吉田はじっと中村の河を睨み打。
古川のロンの声が低く漏れた。なるほどな、と私は頷いた。
私は中村のリーチに肯き、出てきた結果に頷いた。
私が肯いたのは、A2からA1に昇級するためには圧倒的な膂力(りょりょく)、脚力が必要だと考えているところがある。
投手ならば、制球力よりもまずは球の速さである。肩の強さがプロには求められる。
それと近い部分が麻雀にも当てはまると私は考える。
プロリーグならば1節で100ポイント叩き出す力も必要である。
そういう意味で、中村のリーチに肯いたのである。
一方で、出てきた結果に頷いたのは、ラス目の勝負手のリーチは、展開が味方してくれずそうそう簡単に実らないと考えている。
たった数局のことながら、今節(第3節)の中村の戦い振りを楽しみにしていた。
そして、今回の採譜卓を板川、山井、四柳、中村にしたのだが、二階堂、黒沢、勝又、猿川の卓も魅力的だった。
最終的に採譜卓を決めたのは、前節まで初戦は決して好調という感触がないように映りながらも、
キチンとスコアを纏め上げた板川が、ブレイクしそうな予感を持ったことと、
前期、惜しいところで昇級を逃した、四柳の戦い振りに興味を抱いたからである。
開局は流局の静かな始まりだった。
点数が動き始めたのは予想通り、板川のリーチによる2,600点の出アガリからである。
このアガリの大きさは観戦子しかわからない。
実は今局、全員テンパイの中、生じた板川のアガリだった。
ちなみに各者のテンパイ形は、
東家・中村
ポン ドラ
南家・山井
ポン
西家・四柳
北家・板川
リーチ
こういった、打点よりもアガリに比重を求められる局面でアガリ切ることが叶うのは、ひとつの好調の兆しにほかならない。
次局も、板川のファーストテンパイは6巡目。
ドラ
1巡待つととが振り替わりリーチ。そして、高目ので出アガる。
こうなれば、今日は板川の1日になることは想像に難くない。
そう感じていたのは私だけでなく打ち手の側もそうだった。
2度の放銃を重ねた山井は、今半荘、殻に閉じ籠るように一切前に駒を進めなかった。
冷静な判断だと思う。
次局、北家の山井の第一打牌のを板川がポン。場面に緊張が走る。
ドラが字牌であるということもあるが、好調者で普段腰の重い板川が仕掛けた以上、例え1巡目とは言えポンテンがあっても不思議ではない。
もしくは、かなり形の整った高打点の手というのが私の知っている板川である。
板川の置かれている状況を考えれば、ここは、交わし手を入れる局面ではなく、やはり、後者のケースと考えるのが自然だろう。
それにしても、長い間、私は板川とは戦ってきたが、第一打牌を仕掛ける板川は記憶にはないように思う。
おそらくは、A2を戦い抜くため、勝ち切るためのA2仕様の板川が選択した方法論なのだろう。
私の観戦位置からは、山井と中村の手は見えるのだが板川の手牌は見えない。
山井のポンされた後のツモがドラである。本来、板川のツモっていたはずのドラである。
実際は、
ドラ
この牌姿からを仕掛け始めている。
そして動いた後6巡のツモ切りを連綿とし続けた。
そしてやっとを引き込んだ後、
親番の四柳が少考に沈み、「すみません」そう言葉を発し何かを吹っ切ったように打。
四柳の手牌
確かに、下家の板川の仕掛けを考慮すれば、悩ましい手牌ではある。
打ち出されたを板川が透かさず動く。
チー ポン
ここから板川が選んだ打牌が、安全牌のではなく生牌の。
そのを四柳がポンテンに構える。
ポン
2巡後、板川はツモをツモ切る。
チー ポン ツモ切り
この打も深い一打である。
他者に、このツモ切りの意味を考えさせるために打ち出された牌なのか、単に純粋に唯一向かって来ている四柳に合わせたなのか。
おそらくは、前者が的を外していないだろう答えである。
自手の都合だけ考えれば打南しかない。
相手にどう映るかと考えれば打も有効な一打だと思う。
受けるならば打で良いわけだから。
そして次巡、板川に待望のが訪れる。
チー ポン
これで板川と四柳のどちらかののツモリ合いだな・・・
そう見ていたら、板川がツモで僅かな少考の末、打で四柳に放銃。
私はその放銃を見たとき、四柳に対してよりも–の方が打ち辛いのかと思っていた。
板川はをツモ切らずにおけば、
チー ポン
ここから、打としていたのではないかと考えていた。
全対局終了後、
「あなたにしては珍しいね」
「ああ、あの局ですね。あれは四柳君の手牌進行を読み違えました。テンパイとは思いませんでした」
言葉少なく板川はそう語ってくれた。
それならば、打ではなく打とすればよかったのでは・・・
そう言いかけて止めた。
そんなことは本人が一番わかっているはずのこだからである。
どういう形にしても、四柳にツキの風が吹き始めたことは間違いのない事実。
このアガリを皮切りにアガリ続け、この半荘+40弱でスコアを纏め上げた。
2回戦は他の各卓を見て回っていたら、立会人の瀬戸くんが嬉しそうな顔で近づいてきた。
「直{吉田}の卓は見ない方がいいですよ」
「なぜ?」
「あいつ、休憩時間の時、口から血を流しながら煙草吸っているんですよ。たぶん対局中、歯茎を噛み締めまくって戦っていたんだと思いますよ」
「それって、素晴らしいことじゃない?それだけ麻雀に集中している証なんだから・・」
「それはそうなんですけど・・止めといたほうが・・・」
「じゃあ、そうするよ」
夜、バッタリ吉田に出会い瀬戸くんとの会話を話した。
「いやあ、ちょっと幽体離脱を起こしちゃって」
恥ずかしそうにしゃべる吉田は可愛い。
「あの腰の重い老月さんがをポンしてくるんですよ、は1枚切れているんですけど、これは大三元まであるなあと思ってると、
もう1人の自分がリーチって言っちゃっているんですよ。それでリーチ後、を掴むんですけど、ロンと言われて32,000点支払おうとしたら、
7,700点って言われて、ラッキーって感じでした」
ビール片手に饒舌で明るく笑っている吉田がそこにはいた。
その笑顔の裏側には、ほんの数時間前まで歯を食いしばり、血を流し、
真正面から麻雀という生き物と対峙した吉田が確かに存在していた証しなのだろう。
「四柳が連勝しましたよ」
瀬戸くんが言う。
「もう1本{トップ}位あるんじゃない」
私が応える。
観戦に廻っていたら、山井とわずか300差の2着目で、最終戦オーラスの親番。
ドラ
3巡目、このテンパイが入るとここから1枚を外す。
結果は、中村から10巡目に–待ちのリーチが入り、その後四柳もツモで、
この形に変化するも四柳の放銃で終わった。
「あの意図は?」
「暗カンした方が良かったですか?」
「どちらでも良いと思うよ。ただ、私はあなたの意図が知りたいだけだから」
「前原さんは?」
「私はあの状況、状態であれば、無条件に暗カン、リンシャンにがいるかもしれないし、ソーズの中目がいるかもしれないから
ただ、それは私の考えであって、百人十色、色々な考えがあってよいと思う。皆それぞれの価値観があって当たり前だし」
「そうですね」
「それより、いっぱい勝ててよかったね」
その言葉ではじめて四柳に笑顔がこぼれた。
今日だけだったのかもしれないが、中村は難しい季節を迎えているように思えてならない。
3戦目に中村は、東場に倍満をツモアガった。
リーチ ツモ
これを引きアガるのは中村の力である。
そして、この半荘浮きとはいえ3着で終わるのも中村の力だと私はそう思う。
要はバランスの問題である。
その部分のこたえだけは、誰に学ぶでもなく自分で見つけて行くしかないように思う。
あなた以外の昇級者を2名挙げてくださいというアンケートに、
山田と並び10票を獲得した板川の、「あなたにとってプロリーグとは?」のアンケートを今回のレポートの〆に掲載する。
命の次に大切なもの。A2は通過点。
板川和俊
第4節組み合わせ
A卓 老月 貴紀 vs 黒沢 咲 vs 仁平 宣明 vs 四柳 弘樹
B卓 中村 毅 vs 白鳥 翔 vs 勝又 健志 vs 遠藤 啓太
C卓 猿川 真寿 vs 山田 浩之 vs 板川 和俊 vs 古川 孝次
D卓 金子 貴行 vs 山井 弘 vs 吉田 直 vs 二階堂 亜樹
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)レポート