上級

第69回『己を知ること』

今回で藤崎の書く上級編は最後となった。
基本的な事はしっかり出来ていて、普通ならこう打つのだが、
こういう局面だから、こういう状況だから敢えてこう打つというのが上級編というものだと思う。

したがって、一般の麻雀愛好家の方にはあまり理解出来ない話になってしまったと思うし、また藤崎と違い攻撃主体のスタイルや、
状態よりも、あくまで確率重視のデジタルと呼ばれるスタイルの方にとっては、あまり参考にならない戦術ばかりであったと思う。

若手のプロの間では、かなり読んでくれている人もいるみたいだが、やはり藤崎は競技プロであり、テレビ対局の解説などでは、
あくまでも一般の麻雀ファンの方々を対象に話しており、文章もやはり一般の麻雀ファンの皆さんに面白いと思ってもらわなければ意味がないと思う。
もっと書き手として精進しなければならないと、痛感させられた5ヶ月間であった。

さて、最後という事で書いておきたい事がある。
戦術というものとは少し違うかもしれないが、非常に大切な事である。

麻雀に勝つために一番大切な事は何だと思いますか?
こんなザックリとした質問が飛んできたら何と答えるだろう。
答えられる人はかなり少ないと思う。もちろん正解など存在しない。
答えを出す人もいろんな答えを出すだろう。戦術、洞察力、経験値、研究力、稽古量などなど。

麻雀プロは天才肌の打ち手と、秀才タイプの打ち手と2つに分かれる。
天才肌の打ち手は、色々な引き出しを持ち感性に優れた打ち手が多い。
逆に、秀才タイプは自分自身の長年培ってきたスタイルで、芯のしっかりした麻雀をベースに打つケースが多い。

理由は簡単である。これは麻雀を始めた頃に原因がある。
学生の頃、仲間内の麻雀は全員が初心者のようなものだろう。
勝っても負けても楽しくてしょうがなかったあの頃、必ず仲間内に1人、ほとんど負けない人がいたと思う。
こういう人は自分の麻雀に自信を持つ。自信を持つから色々な麻雀を試したくなる。

元々持って生まれた才能に恵まれたタイプであり、どんな戦法を試してみてもやはり結果的には勝つ。
それが経験値として積み上げられて、いろんな引き出しを持つ事になる。
これが天才肌の打ち手であり、これらの人の集まりがプロ連盟である。どうりでみんな強いハズである。

逆に藤崎はというと、学生時代の仲間内では、勝ったり負けたりで、成績は中の上くらい。
その程度の実力で、無謀にもフリーデビュー。もちろん勝てるわけもなし。
だけども麻雀は楽しくてしょうがない。

そこで、あまり負けないように色々な戦法を試してみるのだが、その中で1つだけ成績が悪くない戦法を見付ける。
その戦法に磨きを掛ける。そして1つの芯の強い戦法が出来上がる。これが、秀才タイプの打ち手である。
どちらのタイプも色々な戦法を試すところは一緒なのだが、試す理由と成績が残念ながら全く違う。
プロ連盟ではおそらく少数派であろう。

藤崎は29歳でプロ連盟の門を叩いた。
勿論、偶然ではあるがアマチュア時代の修行時代が長かったおかげで、プロになってからはそれほど壁にはあたっていない。
出世は速い方ではないが、生まれた持った才能と感性に恵まれたタイプではないのでしょうがないだろう。

逆に、天才肌の持ち主で若くしてプロ連盟に入ってくる者は、プロになってから壁に当たる者も多いのだが、その中の数人が壁を乗り越えて行く。
我々中堅プロにとっては、厄介かつ頼もしい後輩という事になる。

さて、昔話が長くなってしまったが、先の質問の答えである。
藤崎の答えは「己を知ること」である。

「麻雀は4人でやるゲームである」これは4ヶ月ほど前に書いたのだが、囲碁や将棋のように2人でやるゲームの場合は、
必ず強い方が勝つことになるのだが、4人の場合は展開が大きく影響してくる。
「自分が一番強い」この考えはごくごく少数の天才肌の人だけが許される考え方で、それ以外の人が思ってしまうとマイナスにしかならない。

4人の中で、自分が一番強いわけではないという考え方ができれば、自分が勝つためには相手を力で押さえ込むのはなく、
展開を自分有利に持っていこうという、柔軟な考え方も出来るようになる。

4人でやるゲームである麻雀の場合、決して強いものが勝つわけではない。
時には戦い、時には逃げ、時には相手同士を戦わせる。
こういった戦術は、自分が弱者であると認めて初めてできる戦術であると思う。

最後の最後にもう1つ。
これは上級者に限ったものではないのだが…。
「負けて熱くなる人は、勝負事には向いていない」これは皆さんも聞いた事があると思う。

しかし、これは逆である。
楽天の星野監督がベンチで熱くなっているシーンをよくみかけるが、星野監督に野球は向いていないという人はいないだろう。
「負けて熱くなるものほど大好きである」これが正解だと思っている。

また、大好きでやっているものでなければ上達しないハズである。
もしあなたが今何歳であっても、麻雀で負けて悔しいという気持ちさえ持ち続けているのであれば、今よりもっともっと上達できるチャンスはあるでしょう。

ただし、くれぐれも熱くなりすぎて、牌を叩いたり、点棒をなげたりはしないよにね。
マナーよく、これからも麻雀を楽しみましょう。