王位戦 決勝観戦記

第38期王位戦 決勝観戦記

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第38期王位戦決勝戦は、宮岡宏樹さん(一般)筒井久美子(プロ連盟)阿賀寿直(プロ協会)
二見大輔(プロ協会)若林伸一さん(一般)以上の5名が勝ち残った。

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1回戦(起家から、阿賀・二見・筒井・若林・抜け番:宮岡)

誰もが先制点を上げたい東1局、12巡目に二見からリーチが入る。

二索三索四索四索六索三筒四筒五筒六筒七筒八筒北北  リーチ  ドラ三筒

捨て牌に二索八索があり有効な手変りもないので、牽制も兼ねたリーチであろう。
二見は「決勝の経験なら自分が一番。相手が決勝の空気に慣れる前に主導権を取りに行こうと思っていた。」と。
このリーチに向かっていったのは親番の阿賀。

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九万が特別良い待ちというわけではないこと、ドラが見えていないことなどから、
九万切りのヤミテンがマジョリティーになるであろう。しかし、阿賀の選択は、東切りのリーチであった。
このリーチのリスクがいかに高いかは十分に分かっている。
が、タイトル戦の決勝を勝ち切るには、そのような選択も必要になってくる。
このリーチには、阿賀の絶対に優勝するという想いがひしひしと伝わってきた。

決着はすぐについた。
次巡、阿賀が4枚目の九万を引き当て、大きな3,200オールをものにした。
その後阿賀は、東2局にも、

一万二万三万四万四万二索二索二索四筒五筒五筒六筒六筒  リーチ  ツモ四筒  ドラ二万

この2,000・3,900をツモり大きなトップ目にたった。
1回戦はこのまま独走かと思われたが、ここから二見が好プレーを連続する。
まずは、東3局。8巡目、二見にテンパイが入る。

一万一万三万四万五万六万二索三索四索四索六索三筒四筒  ツモ五筒  ドラ六索

テンパイを取ってからの、三色やピンフへの変化を見るか、
一万を切ってタンヤオを見つつドラを使い切ろうというのが普通の構想であろう。
しかし、二見の選択は打四索。アガリ目の低いカン五索には見切りをつけ、柔軟性を求めにいった。
これでもドラの重なりや234、345の三色変化で高打点も見込めるので、
非常にバランスの取れた一打である。

今局はこの選択が功を奏し、四万引きから、

一万一万三万四万四万五万六万二索三索四索三筒四筒五筒  ロン五万

このアガリとなった。
この後も二見は、アガリ易さに比重を置き、ヤミテンと仕掛けを駆使して、
7局中6局で加点に成功、オーラスをトップ目で迎える。

南4局、トップで終わりたい二見が仕掛けていく。
すると、ここまで全く手の入らなかった若林さんにテンパイが入る。

三万三万六万七万八万七索八索九索二筒三筒四筒七筒八筒  ドラ五筒

ここは三色とドラの手変わりを待ってヤミテン。次巡、若林さんはドラの五筒を引く。
まだ三色の手変わりは残っているものの、リーチで十分の局面。
しかし、ここはヤミテン続行。さらに次巡、2フーロの二見から手出しが入る。
これを見た若林さんは、これ以上待っては捌かれてしまうと、ここでリーチに踏み切る。
二見の手出しは、1シャンテンの受け入れを広くしたもので、タイミングとしては絶好のリーチであった。
ここは、若林さんの1人旅かと思われた。が、ここに筒井が飛び込んだ。

五万五万五万六万七万八万三索三索五索六索八索六筒八筒  ツモ六筒

満貫をアガれば3着なだけに、678の三色を目指して攻め込んでいった結果だが、
私には自分のフォームを見失っているように見える。
手牌が型に入った時の踏み込みの深さは筒井の長所であるが、
これはあまりにもリスクとリターンが見合っていない。
親は5巡目に三筒をツモ切りの後、8巡目に二筒の手出し。
これはドラとの振り変わりが濃厚なだけに、放銃した時の打点はそれなりなものが想定される。
さらに、3着に浮上するための受け入れは七筒七索とたったの2種しかない。
ここは、次局や次半荘以降にチャンスを求め我慢する一手であった。

一方、アガった若林さんは、理想的な手組みであった。
麻雀は、巡目が深くなるほどアガリ点が大きくなる可能性が高い。
しかし、追いすぎると他家にアガリ切られてしまう。そのギリギリを見極めた秀逸なアガリであった。
続く南4局1本場では、

八万一索二索三索五索九索七筒東南発発中中  ドラ中

若林さんが、この配牌を丁寧に仕上げて6,000オール。

一索二索三索五索六索七索発発中中  ポン南南南  ツモ発

一気にトップ目まで突き抜け1回戦が終了した。

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若林伸一さん

1回戦成績
若林+22.9P 二見+8.7P 阿賀+6.3P 筒井▲38.9P 供託1.0P

2回戦(起家から、若林・筒井・宮岡・二見・抜け番:阿賀)

1回戦抜け番の宮岡さんの登場である。
第28期王位戦、最終半荘での逆転劇は深く印象に残っている。
今期もその圧倒的な攻撃力を見せることができるか。

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宮岡宏樹

東1局3巡目、宮岡さんが、

三万七万七万九万九万六索九索一筒九筒西白中中  ドラ東

ここから1枚目の中を仕掛けていく。さらに6巡目、

三万五万七万七万九万九万九筒南西白 ポン中中中

こうなったところで九万をポンと2フーロ。主導権を取りにいく。
形は苦しく時間がかかりそうではあるが、ドラが東ということも考えれば、
競技麻雀では大きなプレッシャーになる。ましてやデータの少ない相手ならばなおさらであろう。
しかし、この仕掛けに上手く対応したのは上家の筒井であった。

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ここから、打六筒としたのは好判断である。マンズを打たないならばアガリの可能性はかなり下がる。
ならば、若林さん、二見の現物を残しつつ123の三色になったなら勝負という構えだ。
この、攻めと受けのバランスに優れた一打を見て、1回戦の結果はしっかりと忘れ、
勝負の土俵にあがってきたと感じた。この牌が打てるなら、まだまだチャンスは巡ってくるであろう。

その後、14巡目に宮岡さんに、

三万三万四万五万六万七万七万  ポン中中中  加カン九万九万九万九万

このテンパイが入るが、筒井も回りきって、

一万二万二万三万三万五万六万七万八万八万二筒三筒四筒

このテンパイを入れる。結果は、筒井が宮岡さんから一万で2,000点のアガリとなった。
これは点数以上に大きなアガリといえるであろう。

一方、放銃となった宮岡さんは、
「この仕掛けは自分の麻雀ではなかった。この仕掛けでペースを崩してしまった。」と、
後悔の残る1局になった。

続く東2局。先ほどのアガリから筒井が好調の波を引き寄せる。
まずは、

一万一万五万六万七万六索七索八索四筒四筒五筒五筒六筒  リーチ  ツモ三筒  ドラ四索

この1,300オール。
東2局3本場には、

一万一万五索六索七索四筒五筒  ポン九筒九筒九筒  ポン東東東  ロン三筒  ドラ一万

この11,600。さらに東4局1本場には、

二筒二筒三筒三筒三筒四筒五筒六筒七筒九筒東東東  ドラ八筒

この2,000・4,000をアガリ、大きなトップとなり1回戦のマイナスをほとんど返すことに成功した。
そして、2着に若林さん、3着は二見となった。
2人は、筒井好調の中、じっと我慢を重ねワンチャンスをものにして原点をキープした。
7回戦の勝負となると、当然相手の時間帯がやってくる。
その中で、勝負どころはまだ先としっかり受け、プラスをキープしたことはとても大きい。

2回戦成績
筒井+33.3P 若林+6.3P 二見+2.5P 宮岡▲42.1P

2回戦終了時
若林+29.2P 二見+11.2P 阿賀+6.3P 筒井▲5.6P 宮岡▲42.1P 供託1.0P

3回戦(起家から、若林・宮岡・二見・阿賀・抜け番:筒井)

二見→若林2,900
阿賀1,100・2,100
二見→阿賀1,500

この移動で迎えた東2局1本場。1巡目、以下の牌姿から、

四万六万三索一筒三筒五筒六筒七筒九筒九筒東発発  ドラ二筒

九筒ポンと仕掛けていく。門前で進めたとしても、ドラが二筒ならばどうせ二筒のチーはできない。
ならば他家にプレッシャーをかけつつ前に出ようといった仕掛けだ。
この仕掛けにいち早く反応したのが阿賀。

八万八万九万二索四索五索五索八索二筒二筒四筒六筒東

2巡目、ここから三索をチーする。ドラドラとはいえかなり苦しい形からの仕掛けである。
しかし、上家がホンイツの二見ならばマンズとソーズに寄せれば間に合うという対局観であろう。
この後、六索を2枚引くと将来アガリ辛くなるであろうピンズを払う。
そして構想通りに四索七索をチーして、

六万八万二筒二筒  チー四索 左向き五索 上向き六索 上向き  チー七索 左向き五索 上向き六索 上向き  チー三索 左向き二索 上向き四索 上向き  ロン七万

二見より3,900のアガリとなった。
鋭い仕掛けから掴み取ったアガリは大きかった。

南4局、ここから阿賀のブレイクタイムが始まる。
16巡目、ドラが暗刻の1シャンテンとなっていた阿賀が、
残りの巡目が少ないこともあり、不本意ながらもチーテンを取る。

二万二万二万六索六索七索八索九索白白  チー七筒 左向き五筒 上向き六筒 上向き  ドラ二万

この仕掛けを受けた17巡目の宮岡さんの手牌が以下。

一万二万一索一索七索九索一筒二筒三筒白 チー二索 左向き一索 上向き三索 上向き  ツモ八索

ここから白の放銃となった。
宮岡さんのオーラスを迎えた時点での点棒は27,100。
初戦のラスを考えると、何としても30,000点を超えて今半荘を終えたいところである。
難しい選択が訪れた。阿賀、若林さんがテンパイ、二見ノーテンは読み切れていたであろう。
ここをノーテンにすると、次局3,900では原点復帰が出来なくなる。
もしかすると、若林さんがラス目で1人浮きなら、阿賀はノーテン宣言するかもしれない。
これらを踏まえ、自身のツモ番はないが最後の出アガリに懸けた白切りであった。

しかし、ここはこらえて欲しかった。
このまま3着で終わったとしても、トータルトップの若林さんがラスならば、残り4半荘で約75ポイント差。まだまだチャンスはあった。
さらに、2回戦では手が入るものの、展開が悪くラス。
そして、今半荘は自分の不調を意識してここまで丁寧に進めてきた。
ならばもう一度、せめて高打点でのめくり合いが出来るくらいの状況までは我慢すべきであった。
ここからの宮岡さんは、持ち味の懐の深い攻めから、
点棒状況で行かざるを得ないという攻めになってしまった。

一方、大きなトップ目にたった阿賀は、さらに加点を積み重ねた。

五万五万六万七万八万二索二索二索七索八索二筒三筒四筒  リーチ  ロン九索   ドラ五万

一筒二筒三筒六筒七筒南南  ポン東東東  ポン九筒九筒九筒  ツモ五筒  ドラ二万

二万三万二索三索四索五索五索四筒五筒六筒八筒八筒八筒  リーチ ツモ四万  ドラ二万

これらのアガリで80,000点に迫る大トップとなった。

3回戦成績
阿賀+60.3P 二見▲5.2P 宮岡▲24.5P 若林▲30.6P

3回戦終了時
阿賀+66.6P 二見+6.0P 若林▲1.4P 筒井▲5.6P 宮岡▲66.6P 供託1.0P

4回戦(起家から、筒井・阿賀・若林・宮岡・抜け番:二見)

東1局は、若林さんが宮岡さんとのリーチ合戦を制して、3,900をアガって迎えた東2局。
先制のテンパイが入ったのは筒井。

配牌
五万四索七索二筒三筒四筒五筒六筒九筒東西白白  ツモ八筒  ドラ六筒

一気通貫になれば満貫が見えるだけに、手なりで西を切りそうなところだが、
ここは大きく狙って打七索とホンイツを見据えて進める。この後ツモが利いて、

二筒三筒四筒四筒五筒六筒七筒八筒九筒白白白

跳満の3メンチャンと絶好のテンパイが入る。
この時、若林さんも勝負手の1シャンテンとなっていた。

二万三万六万七万八万二索二索四索五索六索七索六筒六筒

そして13巡目、若林さんは二索をポンして四万片アガリのテンパイを入れた。
2人のめくり合いの結果は、

二筒三筒四筒四筒五筒六筒六筒七筒八筒九筒白白白  ツモ三筒

筒井のツモアガリとなった。
仕掛けた若林さんは、親番がトータルトップの阿賀なこと、待ちがマンズになることから、
十分に勝算ありと踏んでのものであったが、これはどうだったか。
一万三索もかなり期待の出来る牌だけに、門前で進める手が優ったかもしれない。
これは、結果論になるが三索が食い下がっていた。

一方筒井は、決めにいった手牌が見事アガリに結びついたのは大きい。
私はここで、以前「ミスター麻雀」小島武夫に教わったことを思い出した。

「意志を持って手作りして得たアガリは、流れを引き寄せうる」

2回戦でホンイツを受けてアガッて、以降手牌が動き始めた筒井はここから本流に入った。
次局700・1,300をアガると東4局には、

六万六万九万九万  ポン白白白  ポン一万一万一万  ポン発発発  ツモ六万  ドラ三筒

この跳満を引きアガリ60,000点にせまる1人浮きのトップを取った。

4回戦成績
筒井+39.4P 若林▲6.0P 阿賀▲12.7P 宮岡▲20.7P

4回戦終了時
阿賀+53.9P 筒井+33.8P 二見+6.0P 若林▲7.4P 宮岡▲87.3P 供託1.0P

5回戦(起家から、筒井・二見・宮岡・阿賀・抜け番:若林)

ここで1人が敗退となる。
現5位の宮岡さんは100,000点近くのトップが必要と、現実的には厳しいがそれを目指すしかない。
一方阿賀、筒井、二見はここでの敗退の可能性がかなり低いだけに上だけを見て戦える。
さあ誰が抜け出すのか。

まず先手を取ったのは二見。
1,600、500オールとアガって迎えた東2局1本場、10巡目に一万をポンして以下のテンパイが入る。

二万二万二万四万五万六万六万七万七万八万  ポン一万一万一万  ロン五索

一万をポンしての最終手出しが六索なだけに、他家のケアも薄れる。
そして12巡目、宮岡さんより、

二万二万二万四万五万六万六万七万七万八万  ポン一万一万一万 ロン三万

このアガリとなった。
これで上位3人のポイント差は約15ポイントと一気に詰まってきた。
続く東2局2本場。阿賀が6巡目、自風の西をポン。
そして7巡目テンパイを入れる。

三索四索五索五筒五筒七筒九筒南南南  ポン西西西  ドラ九筒

10巡目、これに二見が追いつくと、1枚切れの中単騎でリーチ。

八万八万五索五索六索六索七索七索九索九索発発中  リーチ

すぐに五筒を引いた阿賀は、ドラ単騎に受け変える。
そして、そのまま真っ向勝負にでた。結果は、

八万八万五索五索六索六索七索七索九索九索発発中

阿賀のツモアガリとなった。オリるのは簡単である。
しかし、仕掛けて親にテンパイを入れ、オリ、その後引きアガられることがあれば、
体勢は二見に一気に傾くかもしれない。
リスクは大きいものの、勝負所を見極めた見事な踏み込みであった。

次局も阿賀は、筒井より、

六万七万二索三索四索二筒三筒四筒七筒七筒  チー三万二万四万  ロン八万  ドラ二万

これをアガってトップに並びかける。
東4局。今半荘は少し置いていかれていた筒井だが、ここで大きなアガリが生まれる。

三万四万五万八万八万八万四筒五筒六筒六索八索八索八索  ドラ五万

14巡目に上記のテンパイが入る。
若干、ソーズは場に高いが、打点効率からリーチも十分考えられる手牌だ。
しかし、ここはヤミテンに構えた。
前巡、アガリ牌となる七索を打たれていること、前局放銃していることから、確実にアガリにいったのであろう。
すると次巡、筒井が引いたのはドラの五万。下家の二見が仕掛けていることもあり、
ここは六索を切ってフリテンの二万五万に受け変えた。さらに次巡、筒井のツモは八索
これを暗カンすると、リンシャンから二万を引きよせ2,000・4,000のアガリとなった。

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筒井久美子

ヤミテンの選択が理想的な結果へと結びついた。
さらに南1局。8巡目に、

四万四万七万八万九万六索七索七索八索八索九索東東  ドラ東

このテンパイが入る。四万が1枚切れているので迷わずヤミテンにうける。
すると、トータルトップ目の阿賀が、

三万四万五万三索四索五索六索七索二筒二筒五筒六筒東

ここから四筒をチーテンに取り東で放銃となった。
このアガリで、遂に筒井がトータルトップ目に立った。
この2局のアガリは、ポイントだけでなく体勢も一番手ということをはっきりと認識させるものであった。

しかし、筒井次局に疑問手を打ってしまう。
阿賀のリーチを受けた15巡目、

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ここから七索を抜いてしまう。
この五筒は、ダブルワンチャンスなこと、もし阿賀に五筒八筒のターツがあったとしても、
二見、宮岡さんの手牌に五筒八筒が固まっている可能性は低く、すでに面子が出来ている可能性が高いことから、無筋の中でも比較的安全に見える。
それ以上に、かなりの危険牌だとしても、まっすぐ攻めきるべき体勢であり手牌である。
トータルトップ目にたったとはいえ、このまま逃げ切れる点差ではない。
点棒を失うよりも、勢いを失うことの方が怖い。ここは五筒を切る一手だった。

筒井もこんなことは分かっていたであろうが、これがタイトル戦決勝のプレッシャーなのであろう。
ここで親が落ちてしまった筒井は、このトップは守り切れたがビックイニングにはできなかった。
また、宮岡さんはここで敗退となった。

5回戦成績
筒井+23.6P 二見+18.2P 阿賀▲10.9P 宮岡▲30.9P

5回戦終了時
筒井+57.4P 阿賀43.0P 二見+24.2P 若林▲7.4P 宮岡▲118.2P 供託1.0P

6回戦(起家から、阿賀・若林・筒井・二見)

残すは2回戦。
筒井、阿賀はここでトップをとることができれば、かなり優位に立った最終戦が迎えられる。
二見は上位2者よりも、上の着順を取って最終戦の条件を緩和したい。
若林さんは、ここでトップを取らなければ、最終戦はかなり厳しいポイント差になってしまう。
そんななかで迎えた6回戦は、激しい乱打戦となった。

東1局。まずは、筒井がプレッシャーをかけ、10巡目にリーチと行く。

三万四万五万四索六索八索八索一筒二筒三筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ六索

待ち、打点共に納得のいくものではないが、相手に自由に打たせないということだろう。
向かってこられたならかなり苦しいが、筒井の優勝に向けた想いが打たせたリーチであろう。
これに向かっていったのは二見。

三万三万四万五万六万三索四索五索六索七索八索三筒五筒

一手変わりで三色、もしくはタンピンだ。
ここで、筒井に満貫を放銃したらかなり厳しいポジションになるが、攻めるべき手牌ではしっかりと攻め込む。1回戦からこのフォームは全くぶれない。

さらに14巡目、親の阿賀にもテンパイが入り追っかけリーチにいく。

八万八万八万一索二索三索五索六索七索二筒三筒五筒五筒  リーチ

二見も六万を引きこみ、三色に手変わってのめくり合いだったが、ここは阿賀の勝利。
二見より3,900のアガリとなった。

八万八万八万一索二索三索五索六索七索二筒三筒五筒五筒 ロン一筒

対局者の勝ちたいという気持ちの伝わってくる熱戦の様相を呈してきた。
続く次局、またも筒井の先制リーチが入るが、ここも阿賀は真っ直ぐ向かっていく。
そして引きアガリ。

二万二万三万三万四万四万九索九索一筒三筒三筒四筒四筒  ツモ一筒  ドラ三万

阿賀はここまで強く押した局は、必ずといっていいほどアガリに結び付けている。
素晴らしい対局観である。

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阿賀寿直

この連荘をストップさせたのは若林さん。
2回戦以降、苦しい戦いが続いていたが、ここは好配牌を丁寧にまとめて、

三万四万六万七万八万八索八索三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ  ツモ五万  ドラ南

これをアガる。次局も、二度の待ち選択があったが、しっかりと正解を選んで、

四万四万五万六万七万七万八万九万五筒七筒白白白  ツモ六筒  ドラ八万

阿賀を追いかける。この後も、1,100オール、2,000は2,600とアガってトップ目に立つ。
流局を挟んで迎えた東3局5本場。次は二見が積極策に出る。

三万四万七万七万八万四索四索東南発発中  ドラ七万

3巡目に4四索のポンから入ると、10巡目にはテンパイ。

二万三万四万七万七万発発  ポン中中中  ポン四索四索四索

ここに向かっていくのは、若林さん。

六万七万八索八索七筒八筒九筒白白発  暗カン牌の背北北牌の背

絶好の白を引き入れたが、二見への放銃となった。

二万三万四万七万七万発発  ポン中中中  ポン四索四索四索  ロン発

しかし、若林さんは南1局に3,900をアガリ再びトップ目に立つ。
そして南3局を以下の点棒状況で迎える。

東家・筒井19,100、南家・二見22,300、西家・阿賀36,900、北家・若林40,700

3巡目、二見よりリーチが入る。

三万四万五万七万八万九万四索五索三筒四筒五筒北北  リーチ  ドラ六索

トップ目若林さんは、手牌に恵まれていなかったこともあるが、
ここで二見に放銃して阿賀がトップになれば、最終半荘の条件が現実的なものでなくなるため早々に撤退。
親の筒井も、前半荘の親を流して以降、勢いが止まったこともありここはオリを選択。
ポイント的にも無理をしなくてはならない局面ではない。
そして、トータルトップ目の阿賀もここは撤退。かと思われたが、ここで阿賀が勝負に出る。
8巡目、

四万四万六万七万八万七索八索三筒四筒五筒六筒七筒八筒

九索がフリテンのため出アガリは出来ないが、高目を引きアガれば、
最終戦を待たずに優勝を決めうるテンパイだ。
二見、阿賀のめくり合いが続いていたが12巡目、五索を引くと阿賀の手が止まる。
八索は二見の現物、五索は無筋。ここで阿賀の選択はフリテンを解消しつつテンパイをキープする八索切りであった。次巡、阿賀は三索を引くとこれをツモ切って二見への放銃となった。

三万四万五万七万八万九万四索五索三筒四筒五筒北北  ロン三索

阿賀痛恨の放銃となってしまった。
この三索切りは、これまでの阿賀の気迫の攻めとは違っていた。
アガることが出来れば楽になるといった、目先の欲からの放銃であった。
これが、前巡に五索をツモ切っての放銃ならわかる。攻めるだけの価値のある手牌だからだ。
しかし、手堅く八索を切ったならばここはオリる一手であった。
阿賀は決勝終了後「恥ずかしい放銃をした。」と、これを最も悔やんでいた。

オーラスは、若林さんが1,000・2,000をアガって6回戦が終了した。

6回戦成績
若林+26.7P 二見▲2.0P 阿賀▲4.8P 筒井▲19.9P

6回戦終了時
阿賀+38.2P 筒井+37.5P 二見+22.2P 若林+19.3P 宮岡▲118.2P(途中敗退)

7回戦(起家から、筒井・二見・若林・阿賀)

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阿賀から若林さんまでのポイント差は18.9P。
全員に優勝のチャンスがある大接戦である。
運命の最終半荘がスタートした。

東1局、筒井から先制リーチが入る。

四万五万五万六万六万七万三索四索五索二筒三筒四筒西  リーチ  ドラ西

ここに阿賀が戦いを挑む。

二万二万二索二索二索三索三索七索七索八索九索四筒六筒  ツモ六索

ここから無筋の九索を打つ。すぐに筒井の現物の五筒をチーすると、裏筋の七索も勝負。

二万二万二索二索二索三索三索六索七索八索  チー五筒 左向き四筒 上向き六筒 上向き

ここは流局となったが、この攻めは先程の三索切りとは訳が違う。
愚形の1,000点ながら、筒井の勝負手を潰しに行く腹を括った攻めであった。

東1局1本場。またも阿賀が勝負に出る。

二万二万四万六万七万八万二索三索五索六索八索五筒五筒  ツモ四索  ドラ八索

ここから最も手広い八索切りとした。何としても筒井の親を落とそうということだ。
この選択が、局面に大きな影響を与える。このドラは筒井がポン。一気に局面が煮詰まった。

五万六万三索三索五索二筒二筒六筒七筒八筒  ポン八索八索八索

次巡、阿賀は六筒を引くと、最強の応手である四万切りとした。
阿賀の戦略は徹底攻撃。自分がアガリ切ることで筒井の手を潰すというものであった。
一方筒井は、この四万をチーしてテンパイ。

三索三索五索二筒二筒六筒七筒八筒  チー四万五万六万  ポン八索八索八索  打五索

そして、打五索でシャンポン待ちを選んだ。2巡後、筒井のツモは四索であった。
そして14巡目、結果はノーミスかつ筒井に対して安全にテンパイを組んでいた二見のツモアガリとなった。

五万六万七万七万八万九万九索九索一筒二筒三筒四筒五筒  ツモ六筒

二見は、ここで筒井が引きアガると一気に条件が苦しくなるだけに、値千金のアガリとなった。
また、アガリ逃しとなった筒井だが、これは仕方のないものである。

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当然、この段階で焦点になるのは阿賀の捨て牌だ。
第一打の一筒と5巡目の六索切りから、シャンポンに受ければ阿賀からの出アガリも十分に期待できる。
しかし、カン四索ならばツモアガリ限定と言ってもいいであろう。
山に残っていそうな枚数も、二見の二索切り、若林さんの一索切りからシャンポンが優っているように見える
(実際にはどちらも山に2枚)。最善の選択をした上での結果と言えるであろう。

東2局、二見が1,500、2,400は2,700、流局と連荘して迎えた4本場。
6巡目、配牌からホンイツ一直線の若林さんが発をポンする。

一筒四筒六筒七筒八筒西西中中中  ポン発発発  ドラ南

この仕掛けに、親の二見が全面対決。七筒四筒とぶつけていく。

二見
二万二万三万四万四万六万六万七万八万九万五索六索七索

若林さんも9巡目に西をポンしてテンパイ。

四筒六筒七筒八筒中中中  ポン西西西  ポン発発発

ここは、2人の戦いかと思われた。
しかし13巡目、阿賀により場が一瞬にして凍る八筒が放たれた。

阿賀
一万三万三万三索四索五索七索八索九索五筒六筒南南

まだ1シャンテンではあるが、アガれると感じたらどこまでも深く踏み込むのが阿賀であった。
そして15巡目、ピンズを受けていた筒井にもテンパイが入る。

筒井
二筒二筒二筒三筒三筒四筒五筒七筒八筒南白白白  ツモ三筒

メンホンのテンパイだが、打ち出さなければならないのはドラの南である。
この南は打ち切れず現物を切ってノーテンとする。
そして17巡目、筒井のツモは南を打てれば跳満のアガリとなる九筒であった。
結果は、筒井1人ノーテンで流局となった。
これは、筒井にとっては厳しい選択であった。

38_fin_05

観戦していた私は、「この南を切ればアガリ切って優勝しそうだな、でもこれは打てないな」と思っていた。
この南が当たれば致命的な失点。まだ親が残っているとはいえ、現実的には厳しい数字になってしまう。
しかも、相手3人はみなテンパイに見える。誰かしらにこのドラは当たるであろうと考えるからだ。

しかし、対局終了後、立会人を務めていた十段位・瀬戸熊は、あの南は絶対に切ると言っていた。
これが1年間戦うリーグ戦ならば切らないのであろう。しかし、今はタイトル戦の決勝戦の最終半荘。
しかも、追いかける立場だ。勝負を決めうるテンパイが入ったならば、
攻めるのが本筋であるということだ。また、瀬戸熊は自身の経験からこういった本手での勝負は、
例え放銃になっても、もう一度チャンスが巡ってくることを知っているのであろう。

ここから二見の連荘は9本場までいった。
連荘中の二見は、たった一度のミスも犯すことなく着実に加点を繰り返した。
しかし、筒井もまだまだ諦めてははいない。東3局に満貫を引きアガリ二見を追いかける。
これで、2人の差は12P。

東4局、南1局の阿賀と筒井の親番は二見が的確に捌く。
このギリギリの局面でも二見の的確な判断力が狂うことはない。

38_fin_09

二見大輔

南3局2本場。二見、筒井の差は13.3P。
ここで筒井に最後のチャンスが訪れる。7巡目、

一万二万三万六索七索七索五筒六筒七筒七筒七筒白白  ツモ八索  ドラ白

リーチで高目を引けば瞬間二見を抜く。しかし、筒井の選択はヤミテン。
そして2巡後、四筒のツモアガリとなった。
このヤミテンについて筒井に尋ねると、「六筒をひいて五筒八筒にしたかった」と。
確かにこのドラドラの手牌は何としてもアガリ切らなければならない。
しかし、筒井が待つ手変りが六筒の一種ならリーチを打ち、打点を上げオーラス勝負に持ち込むべきであった。二見の的確な局回しが、阿賀の強烈な踏み込みが、筒井の判断を狂わせたのであろう。

そして、オーラス。
1局は阿賀が連荘を果たすが、1本場わずか7巡にして二見がアガリ切った。

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7回戦成績
二見+35.9P 筒井+11.8P 阿賀▲20.9P 若林▲26.8P

最終結果
二見+58.1P 筒井+49.3P 阿賀+17.3P 若林▲7.5P 宮岡▲118.2P(途中敗退) 供託1.0P

38_fin_06

優勝した二見、トップは最終7回戦の1回だけであった。
しかし、その戦略に長けた麻雀で、確実にプラスを積み重ねていった。
的確に局面を把握しミスを最小限に抑える麻雀は、優勝に相応しいものであった。
また、敗れた筒井、阿賀、若林さん、宮岡さんも優勝への想いが十分に伝わる気迫溢れる闘牌であった。
4人がそれぞれの持ち味を出したからこその大熱戦であった。

第38期王位戦優勝コメント
二見大輔「今後も精進して、王位の名を汚すことのないよう頑張ります。」