鳳凰の部屋

『麻雀の品格』

勝負は…一寸先は闇。下駄を履くまでわからない…とはよく言ったものです。
ボクもこの道に入って37年になる。名だたる者を相手に、テンから11連勝で勝ち切ったこともあれば、
7トップの後の8ラスもある。大抵のことなら驚きはしない。

前回、瀬戸熊をほぼ圏外と断定したが、そうではなかったのです。
麻雀で大事なことは、流れと勢いです。
流れを知ってどう対応し、自分にどう勢いをつけるかが勝負です。

それがついに来たのです、この日の瀬戸熊の嵐が―。
この最終日にそれが出るなんて、予想もしていませんでした。

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この辺はまだいい。右田もボクも浮いていますから余裕があります。
今、ボクにとって大事なのは右田との距離です。瀬戸熊がいくら頑張ろうと、届くはずがないからです。
しかし17回戦、まずボクが転びます。

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通ると思った後筋の打ち込み。(痛てててっ!)です。
安全牌がなく仕方のない放銃です。そして、この半荘の結末がこうです。

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ボクが痛いラスを引きます。右田との差は縮まりましたが、貯金があるからまだいい。
問題は、18回戦の瀬戸熊の固めアガリです。

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この親満からスタートし、どんどんとアガリを積み重ねます。

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彼の勢いが止まらないし、止められない。
これで3人沈めての3連勝、これが噂の瀬戸熊タイムです。
なんと彼は、3日間の沈みをたった1日で取り返す気でいるから、驚きです!

こうなるともう、点差の近い右田より瀬戸熊をマークです。
この勢いを止めなければ、てっぺんまで突き抜ける可能性が大なのです。

彼の持ち味は、この爆発力にあるのです。
彼との戦いに勝つにはこの時間を作らせないこと、これに尽きます。
少なくともボクはそう思う。

ですから、初日第2戦にボクが右田に八筒を抜き打ったのです。
それが当たりかどうかは分らないけれど、彼の足を止める努力はする。
瀬戸熊タイムは出たらお終いで、出る前に体を張って防ぐ必要があったのです。

プロ連盟は約600名の大所帯。
そのてっぺんに昇るためには、そのマークをも振り切り一番手でゴールする力が必要なのです。

瀬戸熊はその日のうちに、その牌譜を検証したはずです。
しかし彼はその後3日間、ボクに愚痴の一つもこぼさなかった。いや、こぼしてはならない。
これが勝負師としての瀬戸熊の、格調の高い「麻雀の品格」なのです。

麻雀は強さも大事だが、品格はもっと大事です。
この品格を身をもって示し、後輩につなげる。後輩はさらに下の後輩につなげる。
これがプロ連盟の伝統となるのです。

19回戦になって、彼の勢いがやっと止まりました。これで一安心です。

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19回戦終了時の持ち点。
荒正義+67.2P  
右田勇一郎+59.1P  
瀬戸熊直樹+33.2P 
望月雅継▲161.5P(供託2.0P)

競技麻雀は、ちぎって勝つのが理想ですが、見方を変えるなら、
黒棒1本でも勝ちは勝ちと、見ることができます。

ここまでの戦いで、ほぼボクの理想通りの駒組ができました。
駒組みとは勝負の組み立てで、後は仕上げをするだけです。

この結果、瀬戸熊が優勝するためには、素点で3万点差を詰めるのが条件。
ですが、相手が1人ならまだしも2人では、至難の業です。

右田との点差は8.1Pボクが上。しかし、この差はあっても無きのごとしの点差です。
最終戦は、右田とボクの一騎打ちが予想されます。

だがこれがまた、大きな波乱を呼んだのです。