第7期女流桜花決定戦 初日観戦記
2013年02月21日
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今回で第7期となる女流桜花の決勝戦。
いまや女流リーグもCリーグまで増え、参加者はのべ75名。
第1期が39名で発足していたので、約倍近くに拡大した事となる。
競争も激しくなり、全体のレベルも確実に上がっていることは間違いない。
また、昨年より「ニコ生」での放送も採用され、数万人以上の人達がリアルタイムで観戦でき、これまでとは全く比べものにならないくらい、多勢の方々に注目されている。
注目度が上がるということは、それだけプレッシャーも同じだけ増加する。
普段との勝手の違いでうまく打つことができず大きなミスをしてしまうと、大多数の視聴者の前で実力不足を露呈することとなる。
麻雀の力だけではなく、そういったプレッシャーなどにも打ち勝つ新たな力が今のタイトル戦決勝には必要なのである。
今回の選手達には失敗を恐れず、それぞれの持ち味を遺憾なく発揮して、多くの視聴者の方に感動を届けて頂きたいと思う。
【選手紹介】
魚谷侑未
25期生 三段 現女流桜花
魚谷侑未プロ |
昨年、一番の躍進を遂げた女流プロである。
第6期女流桜花をタイトル戦決勝初めての挑戦で奪取し、第10回女流モンド杯も初出場での優勝。
彼女の強さは手牌構成や状況判断と言ったものも優れてはいると思うが、なんといっても「揺れない心」ではなかろうか。
連盟ホームページでの優勝者予想で前原雄大はこう書いている。
「魚谷を本命に推したのは、いかなる局面になろうとも途切れることのない集中力の高さと、
局面を読む力、ラフな攻撃力よりも守備力を買う。」
対戦前本人コメント
「自分としてはいい状態で持って来られたので、準備は万全だと思います。
あとは力を出し切れるように頑張ります」
内田美乃里
23期生 三段 第8期プロクイーン決定戦 決勝進出
内田美乃里プロ |
女流Aリーグ1位通過。
鳳凰戦プロリーグでもC1リーグを圧勝で優勝し、その実力は連盟内で周知されている。
先の優勝者予想でもタイトルホルダーである魚谷、和久津を差し置いての一番人気。
不安要素としては、タイトル戦決勝経験が2回目と少ない事とテレビ対局が初めてといったところか。
対戦前本人コメント
「2日間で10回戦ということもあり、今日は優勝を狙える位置につけたいと思います。
追いていかれないようにしたいです」
和久津晶
23期生 三段 第9期プロクイーン優勝
和久津晶プロ |
超攻撃型アマゾネス、一体誰が付けたのであろうか。イメージぴったりである。
僕も何回か対戦した事があるが、あの押しっぷりは圧巻!
下手に愚形リーチを打つものなら、こちらが窮地に陥るのは間違いない。
今回は第10期プロクイーンの鬱憤を晴らそうと燃えているに違いないであろう。
対戦前本人コメント
「いつも通り攻撃重視で頑張ります!」
矢口加奈子
24期生 二段
矢口加奈子プロ |
連盟タイトル戦初めての決勝進出。本人にとってこの舞台に立てることはとても嬉しい事であろう。
私は彼女の麻雀をあまり良く知らないのだが、事前の取材に依ると受け重視の雀風のようだ。
プレーオフの同卓者は、清水香織、二階堂亜樹、仲田加南という実力者たちで、その3人を相手に逃げ切りで通過を果たしたのも自信となっているであろう。
対戦前本人コメント
「自分の力を出し切れるように望みたいと思います」
1回戦(起家から、矢口・魚谷・内田・和久津)
選手インタビューが終わり緊張感漂う中、開局のサイコロが振られる。
左から魚谷侑未プロ、矢口加奈子プロ、和久津晶プロ、内田美乃里プロ |
まず、チャンスを得たのは起家の矢口。ドラがで配牌はこれ。
ドラ
丁寧に牌を選びながら6巡目にはこのテンパイ。
345、456の三色変化とドラ引きを見てヤミテンを選択。
一発裏ドラのない、競技ルールの2,600オールは十分満足できるアガリだけに、即リーチに行く人も多いのではないだろうか。もちろん2手で6,000オールの可能性があるのでここの判断は難しい所ではある。
初決勝開局の場面となれば、ややかかり気味にリーチに踏み切りそうなものだが、少なくともヤミテンできるということは、矢口が焦ってはおらず落ち着いて対局に入れているなと感じられた。
結果は終盤までもつれ、追いついてテンパイが入った内田から2,900出アガリ。
東1局1本場は、魚谷がトイトイ含みで仕掛けるも流局。
うん、魚谷もしっかり対局に入り込めているようだ。
大きく点数が動いたのが東3局。
親の内田が先制でリーチ。
カン リーチ ドラ
ここにぶつけたのは、ドラを暗刻にした和久津。
リーチ
勝負は終盤までもつれ、和久津の最後のツモ牌が暗刻であるドラの。
これを暗カンしてリンシャンからをツモリあげた。
初アガリがリーチツモリンシャンドラ4の3,000・6,000とは、さすが攻撃型高打点の和久津である。
途中の手順も攻撃型らしく、3巡目にでは無くダブ東から打ち出している。
こういう所にアガリの精度というか、押し引きのメリハリが見てとれると思う。
内田もここでは負けたものの次局、和久津の親でこの形の先制リーチ。
リーチ ドラ
これを和久津から打ち取り3,900をアガると、続く南1局も内田がツモアガリをし、その勢いのまま南2局に本手の先制リーチ!
リーチ ツモ ドラ
この2,000・3,900は相当感触が良かったのではないだろうか、そして親を迎える。
3局連続でのアガリに、この時解説していた瀬戸熊、藤崎プロもこの親番はかなり危険ですね、との見解。
麻雀には流れというか、人の心理的なものは必ず絡むものである。
そこから来ている発言である。
連続でアガられている所に、さらに親でリーチと来られたら、前の局の印象もありなかなか勝負には行けないものである。
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注目の南3局は、ここまでアガリのない魚谷が先制リーチ。
リーチ ドラ
この時親の内田はこの1シャンテン。
リーチを受けての一発目のツモが4枚目の。
リーチ者に対して危険牌であるし、–がこの時場に4枚見えている事も考えると、カンをするのが自然ではあるが、カンをしてしまうと雀頭候補が無くなってしまうのでツモ切る手もある。(後者の方がより攻撃的か)
内田は少考の末、現物の切りを選択。
確かにドラのが全く見えていないことと、ラス目の魚谷のリーチで有る事から打点は有る程度高いと思えるのは仕方ない所であるが、ここはもっとアグレッシブな選択をして欲しかった。
この局は流局となるが、内田の捨て牌には上手くいけばアガリもあったし、最低テンパイの形があっただけに実に惜しい。
オーラスは矢口が満貫をツモリ逆転トップとなり、魚谷はこのアガリで1人沈みのラスとなってしまい厳しいスタートとなった。
1回戦成績
矢口+15.1P 内田+4.5P 和久津+2.3P 魚谷▲21.9P
2回戦(起家から、内田・和久津・魚谷・矢口)
1回戦トップをとった矢口が、開局からドラ2の先制リーチを打つも、親・内田との2軒テンパイで流局。
同1本場に、親権を維持した内田に会心のアガリが出る。
ツモ ドラ
この6,000オールで一気に抜け出し、次局も700は900オール。
3本場も5巡目にこの形。
ドラ
これは続きそうな親番だなと思っていたが、これがテンパイせず流局。
道中、魚谷の仕掛けが入ったのだが、どこか簡単に親を手放してしまったように見えたのは、筆者だけであろうか。
1回戦の南3局といい、なにか普段の内田とは違う違和感を感じずにはいられない。
しかし、6,000オールは大きくトップは硬いかと思われたその時、驚愕のアガリが出る。
わずか7巡での見事な四暗刻単騎!アガったのはここまで苦しかった、魚谷。
このアガリ1つで一気に総合でも首位に立つ。対局者の凍りついた表情が大変印象的であった。
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2回戦終了時成績
魚谷+46.9P 内田▲1.1P 矢口▲19.4P 和久津▲26.4P
トータル成績
魚谷+25.0P 内田+3.4P 矢口▲4.3P 和久津▲24.1P
3回戦(起家から、和久津・内田・魚谷・矢口)
いまいち波に乗れない起家となった和久津が、開局から大物手をテンパイ。
ドラ
これを逡巡もせず即リーチ!
結果は流局となるが、迷いもせずにリーチと行けるのが和久津の強さであろう。
対局者もテンパイ形を見せられて、脅威に感じるのは間違いない。
東3局に内田が秀逸なアガリを見せる。
ここまでに、細かいアガリを積み重ねたトップ目の魚谷の配牌がよかったのだが、そこへの対応となったのがこの場面。
ここからソーズと字牌を一切下ろさずに、ピンズのメンツ落しで親に対応すると、ツモ、ツモと来てこの形のテンパイでリーチ!
リーチ ドラ
これを、親の魚谷からで打ち取り12,000の大きなアガリ。
ようやく内田のバランスの良さがでた一局になった。
オーラスを迎えて、内田47,000、和久津32,900、魚谷25,400、矢口14,700という並び。
この半荘良いところがなかった矢口の親だったので、1局で終わるのかなと思って見ていたが、矢口が執念の粘りを見せる。
リーチ ロン ドラ
魚谷との2軒リーチでこのアガリを手にしてから、打点こそないものの8本場まで積み上げトップ目に立ち、最終局に魚谷が、
ツモ ドラ
この満貫を引きアガリ矢口が1人浮きのトップ。魚谷もマイナスの小さな3着まであがった。
1人沈みから1人浮きになった矢口、素点を大幅に回復させての3着の魚谷は、相当気分をよくしたであろうし、オーラスまでトップ目にいた内田は、2万点程削られてまさかの沈み2着。和久津も小さなラスとはいえ、点数以上にメンタルにダメージを受ける結果となったのではないだろうか。
3回戦成績
矢口+19.0P 内田▲2.1P 魚谷▲5.5P 和久津▲11.4P
トータル成績
魚谷+19.5P 矢口+14.7P 内田+1.3P 和久津▲35.5P
4回戦(起家から、和久津・矢口・魚谷・内田)
トータルで1人沈みとなり、トップとの差も50P程離された和久津。
休憩時間に目が合うなりいきなり衝撃の一言「ウッチー、ビンタして。目醒まさなきゃ」
いやいや(汗)勿論そんなことはしないが、本人も気持ちの入れなおしが必要だと良くわかっているようだ。
気持ちの入れ替えが上手く出来たのか、開局、起家となった和久津が先制リーチ。
リーチ ドラ
ここに内田が、同巡追いつき追いかけリーチ。
リーチ
魚谷も内田の宣言牌をポンしてテンパイで捌きにかかる。
壮絶なめくり合いは、内田が和久津の高めのをつかみ12,000の放銃となった。
魚谷が動いてなければ、和久津のツモアガリであったのは結果論だが、魚谷にとって積極的な行動が良い結果になったのは明らかだった。
同1本場は、和久津が二の矢を放ち、
リーチ ツモ ドラ
安めながらツモアガリ、そして2本場もこの配牌。
ドラ
2巡目にを引き入れ、4巡目にを引きテンパイ。
跳満、倍満まで伸びそうなのと、場にが2枚打たれていることで、ここはヤミテンとするが、何とか親を落としたい魚谷が、8巡目に追いつきカンツモで難を逃れる。
ツモ ドラ
違う結果はなかったのか?と自分の河に目を落とす和久津。
ピンチの後にチャンスあり、苦あれば楽ありとはよく言ったもので、ピンチを脱出した魚谷にチャンスが訪れる。
これに飛び込んだのが、チャンスを活かしきれなかった和久津。
自身の手牌も7巡目にタンヤオ三色の1シャンテンであったが、入り目が役なしになるで、リーチを打たざるを得ない形となり、リーチ後に先ほどまで待ち望んだが来るのは単なる偶然であろうか。
役アリのピンフ形ならリーチ者の現物を切ってのヤミテンにした公算が高いだけに、脇に流れた–でのアガリはあったであろう。
先人らが言う、「ツモの強弱」とはこういう事を言うのだろう。
チャンスをものにした魚谷は東4局にも、
明カン ツモ ドラ
ホンイツ、ホンロウ、トイトイ、三暗刻、、の、長ーい呪文の倍満!
持ち点も60,000点を超え、この半荘のトップを確実にした。
4回戦終了時成績
魚谷+36.7P 和久津+19.9P 内田▲24.3P 矢口▲32.3P
トータル成績
魚谷+56.2P 和久津▲15.6P 矢口▲17.6P 内田▲23.0P
5回戦(起家から、魚谷・和久津・矢口・内田)
本日の最終戦を前に、現女流桜花の魚谷が1人抜け出した。
他の3人は綺麗に横一直線で、最終戦なんとか浮きで終えて、黒字で明日を迎えたいところであろう。
東2局、4回戦から静かであった矢口が先制リーチを放つ。
リーチ ドラ
競技ルールではヤミテンを選択する人も多いこの手組ならば、ここまでヤミテンの多い矢口は、ここもリーチに行かないだろうと思って見ていたで、このリーチは少し意外であった。
これをきっちりツモりあげ2,000・4,000のアガリ。
このアガリをきっかけに南1局も
リーチ ツモ ドラ
これは、親の魚谷との同テンを引き勝ち3,000・6,000の価値あるアガリ。
親の魚谷も噴きあがりそうなタイミングの勝負手であっただけに、この跳満はダメージになったのではないだろうか。こうなると楽しみなのは矢口の親番。
予想通り南3局での親番で、
リーチ ツモ ドラ
この6,000オールで60,000点を超えるトップとなった。
これをリーチに踏み切れる強さ、矢口のリーチ判断の精度が高いと伺える半荘であった。
5回戦終了時
矢口+47.4P 魚谷▲3.9P 和久津▲17.0P 内田▲26.5P
初日終了時トータル
魚谷+52.3P 矢口+29.8P 和久津▲32.6P 内田▲49.5P
初日を終えて、現女流桜花の魚谷が首位で折り返した。
四暗刻単騎や、倍満などの大きなアガリがあってのこのポイントだが、終始安定した試合運びで不用意な放銃はほぼ皆無であった。
2位で魚谷を追うのは、5回戦をダントツトップで終えた矢口。
序盤は一見、消極的とも取れるヤミテンを多用していたが、ひとたび勢いを味方に付けると、
“リーチ”“リーチ“と攻め立てた。また、そのツモアガリ精度も良いものがあった。
和久津はやや展開に見放された感じが取れた。
トップとは約85P程であるが、彼女の攻撃力を持ってすれば、1半荘でひっくり返す事も可能であろう。
内田は初のテレビ対局を意識してしまったのか、全体的に堅い気がしてならない。
僕は彼女の雀質は上手いタイプで無く、強いタイプであると思っている。
今日の手役思考での綺麗な打ち方で無く、押し引きの上手さとややラフでも大暴れする内田を明日は見てみたい。
カテゴリ:女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記