第30期鳳凰位決定戦 初日観戦記前編
2014年02月27日
鳳凰戦・初日1~2回戦
2014年1月26日(日曜日)。第30期『鳳凰』決定戦の幕が切って落とされた。
この日、東京はその決戦を祝うかのように久しぶりに晴れたが、
スタジオに向かう早稲田の夏目坂は、勝負の波乱を思わせる強風が吹いていた。
試合開始は15時だが、選手はその30分前に入るのが慣例である。しかし4人の選手は、さらにその30分前にすでに到着していた。これは試合開始前のイメージトレーニングの時間に当てるように思われがちだが、そうではない。体力作りや調整・イメトレなどもうとっくに済ませてあるのだ。
早く来た理由は…勝負の場の空気を吸うことで、緊張で目が上るのを防ぐためであろう。
対局者は挨拶をかわした後、世間話に興じる。この時、誰もが内に秘めた闘志などおくびにも出さない。皆、粋な歴戦の強者達なのである。
だがこの時、世話係のプロが食事の注文を取りに来た。裏方は音声・カメラ調整・立会人・採譜・司会進行・解説を含めると10名に及ぶが、すべて連盟員が分担し取り仕切る。夏目坂スタジオは連盟の総本山なのである。
食事は3種類のロケ弁である。
試合時間は優に8時間に及ぶため、選手も裏方も第2戦が済んだとき食事休憩に入る。
しかし選手4人は言下に「結構です」と答えた。これが闘志と覚悟の表れである。
食事をとればその分、血液が脳から胃に下がる。それが思考能力の妨げとなり、凡打(ミス)を誘発ことがある。勝負どころの一打の緩手は即、致命傷となるのだ。1年間かけた総仕上げがそれでは無念だ。
だから「結構です」となるのだ。
もちろん食べなくても平気で、プロはそうした鍛錬をずっと昔から積んでいるのだ。
第一戦は起親が沢崎で、順に瀬戸熊・藤崎・伊藤の並び。
開始早々、12巡目に沢崎の親のリーチが飛んで来た。
通常、競技麻雀でこの牌姿のリーチはない。
ドラ
を引けばリャンペーコだしはドラなのである。
この形で決まるならヤミテンで、出ても24,000のアガリになるからである。
ロン
そんなことは沢崎とて百も承知である。では、何故リーチをかけたのか―。
考えられる理由は3つある。まずその1つは河に3牌のが飛んでいたことである。
( を引いたとしても・マチは薄い…)と考えたに違いない。
第2の理由は、藤崎の仕掛けと河にある。自風ののポンで、この河ならピンズの染め手は一目瞭然。
同じ色で、手がぶつかっていたのだ。
は藤崎に危険牌である。
(当たるかも知れないし、出るかも知れない。ならばここで勝負―)
これが沢崎の培われた明るい感性で、いわば勝負の決断と手牌の見切りである。
この時、藤崎の手の内はこうだ。
ポン
が出ればポンテンで、真っ向勝負となっていたのである。
しかし、結果は流局。残された1枚のは深く王牌に眠ったままだった。
もちろん対局者は藤崎以外、の在りかなど知る由もない。
この親の沢崎のテンパイ形を見て、相手はどう思うか。いや、このとき沢崎は何を考えていたかである。
大事なのはここである。
(この場面、流局が相場である。運があればツモれるか―)
と、まず考える。
ただこの手は実らずとも、相手に見せることに意義がある。
そして次にこうだ。
(オレのリーチは怖いぞ、前に出たときには訳がある―)
このテンパイ形を見て相手は考える。
(ゲッ、そんな手で!)
相手に与える強烈なインパクト。
これを見せつけ、後の戦いを有利に運ぶ手段にすればいいのだ。
今度はブラフのリーチでも相手をオロすことができる。彼はそう考える。
これが、沢崎がリーチをかけた第3の理由である。
だが麻雀は、思い通りに事が運ぶとは限らない。そう、一寸先は闇である。
この日の沢崎がそうだった。東2局の最終図を見てみよう。
今度はなんの因果か、逆にメンホン七対子を藤崎に討ち取られたのである。
沢崎もドラが2丁の勝負手、だから仕方がないと自分に言い聞かせることはできる。が、あの時あの手がヤミテンならどういう結果だったのか、という思いは頭をかすめたに違いない。
沢崎誠は群馬県安中市生まれの58歳。
彼は、自分を頑固者で生意気と評する。麻雀を覚えたのは学生のときで、すぐに勝ち組になったという。
連盟の3期生で、同期には藤原隆弘がいる。その雀風、読みの精度が高く攻めは重厚である。
連盟を代表する打ち手の1人だ。
こちらが親で勝負手のリーチをかけていても、無筋をブンと通されるとドキリとなるのだ。
その性格上、人とぶつかることもあるが、頑固者で生意気という性分は、ある意味で麻雀プロの素質でもあるのだ。彼は「十段」戦は瀬戸熊に敗れはしたが、その後「最強位」を手中に収め、リベンジに燃えていたのだ。
さて、メンホン七対子の結果を見る限り、アガった者と打った者を見れば2人の態勢の差は歴然。
だがこの第一戦、トップをものにしたのは要所・要所でアガリを的確ものにした瀬戸熊だったのである。
彼のこの半荘の安定感はまさに、いぶし銀に見えたのだった。
第二戦は前回トップの瀬戸熊が起親。順に伊藤・藤崎・沢崎だ。
この半荘は稀に見る乱打戦となる。まず主導権を制したのは瀬戸熊だった。
瀬戸熊の入り目はカンだが、リーチの打牌と構えに迷いが無い。すでに1シャンテンの段階で受けの選択と構えは決めてあるのだ。これが真のプロのフォームである。ツモってから考えるのではなく、ツモる以前に打牌と構えを考えてある。この姿勢はプロも範とすべきだろう。
この親に勝負と出たのが藤崎。彼もドラのが雀頭だから打点は十分。しかし、打ち上げてしまったのは伊藤である。伊藤もホンイチの満貫手だから当然、勝負なのだ。プロの対戦はこうあってしかるべきだ。引くときは引くが、出るときは怖れず一歩前に出て斬り合うのだ。視聴者の感動はここから生まれるのだ。
勝ちも大事だが、感動を与えなければプロではない。
しかし、伊藤にとってこの7,700の放銃は応えた違いない。
競技麻雀の7,700は一発・裏ドラ有りのルールなら12,000点に相当するのだ。
その好調の瀬戸熊を、今度は藤崎がめしとる。
瀬戸熊の手役はタンヤオだけだが、符がはねてツモなら3,200オールの高打点。
気合いを入れてツモったら色違いのである。
(一発役はないから…まあいいか)
…で、これを切ったら小声でロンである。しかもドラドラの6,400。
これが闇夜で背中をバッサリの忍者・藤崎流なのである。
怖い瀬戸熊の親が落ちたら今度は沢崎の出番だ。
ポン??ツモ
どうということのないアガリに見えるが、実はこれがドラなのである。
軽々とツモって2,000・4,000。親のかぶりは伊藤である。
伊藤は前回ラスだ。そしてこの時点で、持ち点は16,800である。あまりのツキのなさに苦笑いが出たことだろう。藤崎と沢崎は持ち点が36,500で並ぶ。瀬戸熊はわずか200点だけ浮いているという状況である。
そして東3局は3人のリーチ合戦。この日の勝負の明暗を決める戦いである。
伊藤は高めツモなら跳満で、反撃の狼煙を上げたいところ。そして瀬戸熊は3面チャンの受け。
結末は、藤崎が一発で引いて2,600オール。これで持ち点を46,300とする。
さらに東4局は沢崎の親番。そのリーチをかいくぐり、ヤミテンでこの手をアガる。
ロンドラ
これで勝負が決まった。はリーチの指示牌でを打ったのは瀬戸熊。
藤崎の持ち点が54,400の大台となった。今度はラス前にその瀬戸熊が前期・鳳凰の意地を見せる。
惜しいのは南家の沢崎、でツモリ跳満だったがすでに高めは空テン。
そしてこの半荘の結末はこうだ。
2回戦成績
藤崎+22.7P 沢崎+5.1P 瀬戸熊▲5.1P 伊藤▲22.7P
2回戦終了時
藤崎+36.5P 瀬戸熊+16.9P 沢崎▲20.2P 伊藤▲33.2P
まだ書きたいことは山ほどあったが、残念ながら紙数が尽きた。
初日の後半戦は次としよう。
28期鳳凰・荒正義。
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記