第30期鳳凰位決定戦 二日目観戦記
2014年03月14日
第5戦から2日目に入る。対局は一週間後だからその間の空白は6日間である。
初日は藤崎の独走態勢となった。
初日終了時
藤崎+76.3P 瀬戸熊+0.2P 沢崎▲28.8P 伊藤▲47.7P
この結果、間の6日間は追うものは調整に励み、追われるものは現状維持に努めたはずである。
独走とはいっても76・3ポイントの浮きである。2番手の瀬戸熊からすれば半荘2回で届く位置にあるのだ。
追う3人はこう思ったはずだ。
(まだ4分の1を消化したに過ぎない。焦らず自分の麻雀をしっかり打ち抜こう…)
1日目は藤崎が出来すぎの感、無きにしもあらずだ。だからこう思うのは当然である。
日が変われば風が変わり、藤崎が自ら転ぶ場合もあり得るだろう。
ここで焦って自分のフオームを崩すより、正攻法に構える。
藤崎の包囲網は、今日の結果を見てからでも十分だ。…この考え方が普通である。
しかし、私の見解はこうだ。
これは先行された相手が悪い。なぜなら、藤崎は受けの名手でその守りは岩より堅いからである。
普通の考えは通用せず緊急事態と想定する。
彼に入った点棒は貸金庫に仕舞われ、出るときはツモのみと見るのが妥当である。
私はこの時点で藤崎優勝の可能性は70%と予測した。しかし、前原雄大は85%の判断を下した。
私の藤崎評は高いが、前原はもっと高かったのである。
優勝決定戦は先行有利だ。それは過去の戦いを見てもデーターがそれを示している。
しかし2番手は今、波に乗っている瀬戸熊がマークしているのだ。
その後ろには、自在の型の技と芸を持つ沢崎が控えている。藤崎とてこのまますんなり逃げ切れるとは考えてはいまい。今期、出だし不調だが伊藤の瞬発力だって侮れないはずである。藤崎が油断すればここに飛び込む可能性もあるのだ。それでも前原は85%と断じた。
(そんなに藤崎の評価が高かったのか―)
これが前原と会話したときの、正直な私の感想である。
第5戦は瀬戸熊の反撃から戦いが始まった。
瀬戸熊はドラ2の勝負手。河の捨て牌からもカンチャン受けながらの出は大いに期待が持てる。
だがこの時、先にテンパイしていたのは伊藤である。伊藤は親でダブル風のが暗刻で出ても7,700、ツモって3,900オールの高打点。自分の河にと切ってあるが、これが迷彩とはならず、逆にダブルメンツ切りと読まれるのを嫌ってのヤミテンだった。
読みは相手のレベルに合わせ対応することが大事なのである。打点は十分だし、これは好判断である。
そこに瀬戸熊のリーチだ。その河にはが並んでいるから、これならなおさらヤミテンである。
しかし瀬戸熊のマチは。
は出たら頭ハネだがならリーチの現物で打ち取ることができる。勝負は互角と見たが、をあっさりツモって軍配は瀬戸熊に上がる。同じマチとは意外で、しかもツモとなれば伊藤は無念だったろう。
瀬戸熊の理想は藤崎を沈めてトップを取ることだ。出だしは好調である。瀬戸熊はこの日のために、明けの6日間は、50荘は打ち込みに精を出し、体作りに毎日走り込んだに違いない。その麻雀と真摯に向き合う姿勢は敬服に値する。
(*瀬戸熊の略歴は28期鳳凰戦の自戦記で私が述べているので、ここでは割愛させていただく。)
しかし、その瀬戸熊の理想を木っ端みじん砕いたのが藤崎のアガリだった。
東3局の親番で藤崎がまずこの手をアガる。
ポン ドラ
打ったのは沢崎。2,900のアガリだが、これで藤崎は900点の浮きに回る。
そして続く1本場がこれである。
藤崎のテンパイは13巡目の暗刻の切りである。
は河に1枚と沢崎の手の内に2丁だ。
沢崎から出る気配はないから苦しいマチかと思ったら、そのラス牌を軽々とツモって6,000と100オールだ。
これで藤崎は持ち点を49,200とする。
ここで決められたら万事休すだ。3者とも呆気にとられたはずである。
しかし、ここから瀬戸熊が踏ん張る。
ドラ
この手をヤミテンで藤崎からめしとる。2,000は2,600点。
当の藤崎には痛くもかゆくもないが、高い山を削ったことだけは確かだ。
リーチをかけたいのは山々だが、打点より今は親落としがテーマだ。その判断に間違いはない。
次の東4局も瀬戸熊のアガリ。
リーチ ツモ ドラ
この手をリーチで引いて1,000・2,000。持ち点を37,400と押し上げる。
さっきはヤミテンの親落とし、今度はリーチだ。瀬戸熊の構えと状況判断は的確である。
この流れなら藤崎と瀬戸熊の一騎打ち、と思われたがそうではなかった。
ここから沢崎が踏ん張るのだ。まず、瀬戸熊の親でこのアガリ。
ポン ツモ ドラ
ドラの高めを引いて2,000・4,000で沢崎は持ち点を26,000点とする。
南2局1本場は、瀬戸熊が藤崎から5,200は5,500を打ち取る。
チー ロン ドラ
は2枚出た地獄マチだから、流石に受けの達人も止められなかったのだ。
これで藤崎の持ち点は36,100。瀬戸熊は38,900で並んで抜いた。
藤崎の親は伊藤が落とし、さてオーラスの沢崎の親番である。
この時点で4人の持ち点はこうだ。
沢崎24,000 瀬戸熊37,900 伊藤24,000 藤崎34,100
ここから沢崎が粘った。
南4局は待望の2,600オールだ。
このあと沢崎は、小さくアガって4本積んで、1人浮き態勢にしてしまったから驚きだ。
しかし、その4本場を制したのはやはり好調の藤崎だった。
結果は浮きの2着で、藤崎の独走は微動だにしなかった。
藤崎智は秋田県生まれの仙台育ちの46歳。13期生で1年間東北本部に在籍したが、すぐに上京して雀荘に勤めながらトッププロの道を目指す。清水香織と黒木真生は同期生だ。
佐々木寿人とは同じ高校で10年先輩にあたる。その高校は進学率90%だが、藤崎はその残りの方だという。
酒は寿人と同じく下戸である。その雀風は守備型と称されているが、本人はその意識が無いという。
では、この後の藤崎の足跡をたどろう。
6回戦も藤崎が浮きの2着だ。
だが、7回戦は小さなラスを引いた。
しかし、8回戦は見事トップを取り、7回戦の失点を埋めたのだ。
そして結果はこうだ。
8回戦までのトータルポイント
藤崎+98.4P 沢崎▲12.6P 瀬戸熊▲20.6P 伊藤▲65.2P
藤崎智がA1昇級のインタビューで、こう答えた。
「3年は残留を目指し、それから鳳凰を狙います…」
「鳳凰」を狙うのは当然ではあるが、はなから「残留」狙いとは珍しい。
私はその控えめな言葉が妙に気になった。そして勝手に私はずっとこう思っていた。
(A1は手練れがいる場だからみんなの打ち筋を見極め、それから鳳凰を狙うとは流石だ―)
しかし、A1の2年目は私と同じく降級候補である。私は奇跡的な4連勝が出来て難を逃れたが、彼は的確な位置取りで隙を作らず残留を決めたのだった。そして3年目の昨年はA1リーグをトップで通過し、挑戦権を手にした。だが、残念ながらこの年は瀬戸熊の猛攻を受け、私と同じくなすすべなく敗退する。
そして4年目が今年だ。
彼が人生を賭けた麻雀―その設計図が完成寸前である。あと2日、2本の線を引けば出来上がりである。
そして今日、初めて藤崎にあの「3年の残留」の意味を聞いた。
「昇級してすぐ落ちると、恰好が悪いから…」
と、普通の答えが返ってきた。私の深読みだったのである。
それを云うと、彼は電話の向こうで、ケラケラと笑った―。
(2014年3月14日・記)
以下次号。
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