第6期麻雀グランプリMAX決勝観戦記 初日 紺野 真太郎
2016年04月08日
グランプリMAXとリニューアルされてから、早6回目の決勝を迎えた。ここまでの決勝は第1期、小島武夫の最高齢タイトルから始まり、今をときめく勝又健志、前田直哉の初タイトル、前原雄大、荒正義の貫禄を見せつけた戴冠と、毎回ドラマを巻き起こしてきた。今回の決勝に勝ち上がってきたのは以下の4名。誰がどう戦い、どう勝ちきろうが、筋書きのないドラマを見せてくれることであろう。
A卓1位勝ち上がり
和久津晶 23期生 2/17生まれ 東京都出身 O型
誰もが勝ちたい決勝ではあるが、多分一番強く願っているであろう和久津。後はトロフィーを握り締めるだけだったマスターズ決勝から2年。当時、私もその卓にいたが、終わった後の悔しさは計り知れない。リベンジとかいう言葉では軽々しく片付けられないはずである。和久津にとって、まさに悲願の男女混合G1タイトルだろう。
A卓2位勝ち上がり
灘麻太郎 1期生 1937/3/17生まれ 北海道出身 O型
いまさら説明の必要はないであろうが「カミソリ灘」の異名をもつ正にレジェンド「生ける伝説」代名詞の鋭い鳴きがクローズアップされることが多いが、注目すべきはそれを操る勝負感覚である。御年79歳。小島の持つ最高齢タイトルの更新となるか。
B卓1位勝ち上がり
HIRO柴田 17期生 1976/2/16生まれ 神奈川県出身 A型
このグランプリMAXより改名したHIRO柴田。改名効果かいきなりの決勝進出。ただ、鳳凰戦2回、十段戦と決勝経験もあり、来期よりA1リーグに返り咲く実力を考えれば驚くことは何もない。綿密な読みからの深い踏込とそれでいながらの安定感が持ち味。
B卓2位勝ち上がり
柴田吉和 28期生 1978/1/13生まれ 山形県出身 O型
現十段位、一言で言えば「持っている男」十段戦最終戦南4局の国士無双ツモアガリは記憶に新しいが、その十段戦、今グランプリMAXと、どちらも準決勝最終戦かなり苦しいポイント差を跳ね返しての決勝進出とそういう意味でも持っている。大事なのは圏外にならないこと。この決勝でもその強烈な差し脚を見せつけることが出来るか。
1回戦 起親から 柴田 HIRO 灘 和久津
和久津の第一打は。和久津らしい攻撃的な一打だが、手牌にはまだまとまりがなく時間が掛かるか。
灘の2巡目
ツモ ドラ
678の三色を見ての打、辺りが打牌候補であろうか。だが、灘の打牌は。大物手でもよし、先手を奪われての捌き手でもよしの灘らしい一打である。
7巡目、HIROが少考。
ツモ ドラ
ピンズを伸ばしての234の三色が本線であったろうが、伸びたのはマンズ。しかし、リャンメンではなくリャンカン。果たしてこのままマンズに受けていいのだろうか・・そんなHIROの心情が見受けられる少考・・
HIROが選んだのは。親柴田の第一打、和久津の第一打の影響もあったのだろうか、受けの広さと速さを選択した形か。しかし、次巡のツモは。一瞬だがHIROを包む空気が曇る。さらにを引いたときはもはや「そうくるよね・・」の空気。
13巡目、灘が動いた。
ポン 打
終盤に差し掛かり、手役に見切りをつけ、実を取りにきた。そしてアガリ切ってしまうのだから、灘の持つカミソリは錆びるどころか、未だ研ぎ澄まされている。
東3局、親の灘がをポン。
ポン ドラ
手牌がまだどう動くかわからない段階だが、親でもあり先手に拘ったか。結果、この鳴きでマンズの山を引き当てる。
ポン ドラ
すぐにツモって2,000オール。
続く東3局1本場、今度はダブをポン。ここも先手を主張。場のイニシアチブを奪っていく。
ポン 打 ドラ
対抗したのは柴田。これ以上好きにやらせるわけには・・という感じで仕掛け返して、先にテンパイ。
ポン ドラ
HIROもタンヤオドラ2で仕掛け前に出る。ここまでが7巡目までの出来事で、和久津1人が置いてけぼりのようだが、ここから伸びを見せる。
ツモ ドラ
この1シャンテンまで漕ぎ着けた和久津、ここまでは後手で慎重な進みを見せていたが、勝負になると踏んだか、安全牌のを温存しを放つ。これに反応は親の灘。これで12,000のテンパイ。
ポン ポン カン ドラ
和久津の次のツモは。カンのイーペーコードラ1で灘に追いつく。だがこのは先にテンパイしていた柴田のアガリ牌。和久津の戦う姿勢が柴田のアガリと勢いを食い上げさせたと言っては言い過ぎだろうか。こうなっては和久津のアガリは必然か。灘がを掴み2,600となった。
東4局、親の和久津、8巡目にドラのを切り1シャンテン。
ドラ
灘は既にこの形。
ドラ
どちらも高打点が望める好形だが、なかなかあと1枚が入らない。13巡目までもつれ、灘が動いた。
ポン ドラ
巡目が深くなり、捌きの形。不思議なもので一人の手牌が動くと他の手も動く。和久津、灘のアガリ牌を重ねリーチ。
ドラ
和久津が有利かと思われたが、HIROがを打ち灘が1,000。勢いに乗りかけた和久津の親リーを潰した。
南1局、灘の手牌がいい。2巡目でこの形。
ツモ ドラ
灘のようなタイプはこのような手牌、目一杯に字牌を打つと思われがちであるが、灘は打とし、形を先に決めた。最高形を逃さず、4枚使いの–を先に処理し、先打ちすることで–待ちになったときの布石にもなる。この布石というものは毎回仕掛けていては読まれやすくなり、決まりにくくなるが、灘=スピードというイメージが存在する以上、相手からは読み筋から遠くなる。
11巡目、親の柴田がリーチ。
ドラ
このリーチに対してHIROが現物のを打つと灘は即座に反応し仕掛けた。
チー ドラ
勝負手から捌き手への変化。その選択は的確であり、柴田の親リーチを潰した。
南2局7巡目、柴田リーチ。1,300.2,600を引きに行く。
ドラ
和久津は13巡目に追いつく。
ドラ
先行リーチの捨て牌にがあることと、リーチ後の和久津は強い牌を切っていないように見える為、ダマテン選択か。
次巡、和久津が引いたのはドラの。柴田は切りリーチであり、ドラのは筋とはいえ通るとは限らない。いや、むしろ危険牌の1つである。和久津はツモ切りとしたが捨て牌に気配が出た。それは和久津も十分承知で、元々現物ので打ち取れたら・・という選択なので、最後のツモが通ってないではこれを通したとしても、出アガリは難しいのでオリを選択。この選択自体は懸命なものだが、粘っていた親のHIROにとっては和久津のオリ気配は柴田の捨て牌の後筋のが打てる根拠となり、テンパイに持ち込んだ。アガリが望めなくなり引いた和久津とそれを見て押しテンパイを入れたHIRO。どちらの判断も間違いはなく、目立たないが味がある局であった。
オーラスを迎え点数状況は平たい。トップの灘が31,600で、ラスのHIROでも28,600。誰もがアガリたいオーラスだが、親の和久津が先制リーチを入れる。
ドラ
これが9巡目。先ほどとは違い、先手であること、向かって行きづらい得点状況であること、シンプルに打点を付けたい等が理由であろう。その目論見通り周りは引き気味であったが、安全牌に窮した柴田がのワンチャンスでを放銃し決着した。
1回戦終了
和久津+12.7P 灘+5.6P HIRO▲5.4P 柴田▲12.9P
2回戦 起親から 灘 柴田 HIRO 和久津
東3局、配牌からHIROにマンズ、和久津にソウズ、柴田にピンズの一気通貫が見える形。面白い絡みであったが、いち早く7巡目にテンパイを入れた和久津がペンをツモり2000・3900。この半荘を1歩抜け出す。
ツモ ドラ
続く東4局、親を迎えた和久津は
ドラ
このリーチを打ち灘から3,900。2連勝に向けて更に前進する。
和久津は南1局2本場にもこのテンパイ。
チー ドラ
これをアガると5万点近くまで得点を伸し完全に抜け出すが、柴田が2フーロから1,300をアガリそれを阻止した。
南2局1本場、HIROが7巡目以下の形。
ツモ ドラ
打でテンパイ。やを既に打っているので先にマンズを埋めたかったがソウズが先に埋まる。ドラ表示牌のを避けカンに受けるが、リーチはせず。和久津とは10,000点弱の差で追う為にももう一役欲しいところか。
10巡目に待望のを引き、イーペーコーに変化させリーチ。打点に折り合いがついた形だ。次巡、灘が追いつく。
ドラ
–がHIROの捨て牌にあり、躱し手としてのヤミテンか。この2回戦ここまで苦しい展開の灘にとってここはしっかり躱して反撃したいところ。だが、ここではHIROに軍配。灘の5,200放銃となった。
南3局6巡目、親のHIROが放ったに灘が動く。
ポン 打 ドラ
メンゼンでも十分勝負となる手牌であるが、それでも動いた。ここまでの展開からメンゼンでは分が悪いと感じたか。
一方、親のHIROにも分岐がやってくる。9巡目
ツモ ドラ
素直にツモならばなんの問題もなかったがである。しかし、これで残していたが生きたとも言える。HIROの選択は。当然、灘は仕掛け、フリテンながら––のテンパイ。そしてツモで1,000・2,000。HIROにとってはミスとは言えないまでも悔やまれる結果か。後にHIROは「を鳴かれたって事がダメですよね・・」と語った。一気通貫を狙ったことではなく、先に仕掛けている者がいるのにケアが不十分であったのが悔やまれるという意味であろう。
そして、あの1局に繋がっていくこととなる。
オーラス。和久津がトップ目に立ち、灘は1つ返したといってもまだ1人沈みの状況。だが、そんな灘の様子がおかしい。いや、おかしいと言っては語弊があるが、配牌時から気合が満ち溢れているのだ。
「あれしか狙ってなかったから。得点状況から見ても安い手じゃしょうがない。じゃあ一丁狙ってやろうと」
灘の1巡目
ツモ ドラ
灘は気合十分にを打ち出した。次巡をツモると当然のように打。考えてではなく、当然のようにである。さすがにこの打牌を見て意図を理解したが、果して、そううまくいくものだろうか。
4巡目ツモ。早くも1シャンテン。そして僅か6巡でツモリ四暗刻をテンパイさせ、リーチを打った。
ドラ
周りもこのリーチは只事ではないと感じていたであろう。だが、灘は最後のを手元に引き付けた。直線一気の切れる脚。これも「カミソリ」の異名の理由なのであろう。
2回戦終了
灘+32.1P HIRO▲6.0P 柴田▲9.9P 和久津▲16.2P
2回戦トータル
灘+37.7P 和久津▲3.5P HIRO▲11.4P 柴田▲22.8P
3回戦 起親から 和久津 柴田 HIRO 灘
東1局はここまでポイント的に後手に回らされることが多い柴田だったが、ドラの単騎でリーチを打ち、ツモアガって2,000・4,000。反撃の狼煙となるか。
リーチ ツモ ドラ
東2局2本場HIROが7巡目リーチ。
リーチ ドラ
この手をドラを切ってリーチしている。もちろん勝負に値する手牌なのだが、この時下家の灘がすでに2フーロ。それがと。灘の捨て牌は
(のみツモ切り)
大三元も否定出来ないし、ドラ自体危険にも見える。それでもリーチに踏み切った。普段からHIROの踏み込む打牌はよく見るが、それだけ場が見えているということであろう。灘もを引いたが、むしろ打ちづらくなり、を中心に手牌を組み換える形となる。結果は灘との2人テンパイだったが、HIROの場を読む力を見た局であった。
東4局、この3回戦は苦しい展開の和久津、久しぶりに素直に手がまとまり9巡目にリーチ。
リーチ ドラ
ヤミテンでも打点は十分だが、相手を後手に回らせる為のリーチでもあるか。リーチ時点で山には5枚残りであったが、好調柴田が前にでて応戦。
ポン ドラ
そして、灘のテンパイ打牌を捉えて5,200。大きく抜け出すことに成功する。
南1局、親の和久津は5巡目にこの形。
ドラ
しかしこの手がまるで進まない。ならば仕掛けもと考えてもが全く顔を見せない。1枚は山だったが、もう1枚はHIROが受け潰して流局。チャンス手がものにならない苦しい展開。
それでも南3局2本場
ロン ドラ
この5,200をトータルトップの灘から直撃し、一時はラスを脱出する。
南4局、26,500持ちのHIROがリーチ。
ドラ
宣言牌は。ロンの3,900は無いと考え、それならばの暗カンを狙っての切りリーチか。リーチを受けての親の灘、現状1シャンテン。
ツモ ドラ
何事もなかったかのように平然とツモ切る。すると次巡、HIROがツモ切ったをチー。片アガリの–。も通っていない。しかし、これも平然と当たり前のように打とした。
この時少なくともHIROは自分のアガリが灘より先にあるとは思えなかったと思う。そして灘のツモ。1,000オール。1局でラスを抜け出す。最後はHIROが浮くことよりラスを引かないことを優先して2,000で決着。後半は受けに回ることが多かった柴田だが、前半の貯金を活かしてトップを取った。
3回戦終了
柴田+28.7P HIRO▲4.2P 灘▲6.6P 和久津▲17.9P
3回戦トータル
灘+31.1P 柴田+5.9P HIRO▲15.6P 和久津▲21.4P
4回戦 起親から 和久津 灘 HIRO 柴田
静かな立ち上がり迎えた東3局、親のHIROにドラ暗刻が入る。
ドラ
対する灘、丁寧に打ち回し123の三色テンパイ。
ドラ
12巡目、ここで焦ったかHIROは灘からのに動いてしまう。親権維持の意味合いが強いのだろうが、結果は裏目に出た。灘がをツモり1,000・2,000。感覚的なものを武器にするHIROにとってこれはダメージか。
東4局、和久津にリーチ。
ドラ
久しぶりの気持ちのいい良形リーチ。逆に言えばこれを空振りするようだと心を折られてしまいそうになるが、ここは親の柴田のリーチ宣言牌で3,900。反撃開始となる。
南1局の親番で1,000オールを引き加点した和久津。南3局には先制リーチ。
リーチ ドラ
これに対し親のHIROが追いつく。
ドラ
さらに柴田がこのHIROのテンパイ打牌に仕掛けを入れ3者テンパイ。
チー ドラ
和久津にとって手は安いが勝負所。祈るように進めた先にがいた。500・1,000。本日2回目のトップを取り、ほぼ原点に戻して初日を終了した。
4回戦終了
和久津+15.4P HIRO+4.7P 灘▲4.9P 柴田▲15.2P
4回戦トータル
灘+26.2P 和久津▲6.0P 柴田▲9.3P HIRO▲10.9P
結果的には灘の四暗刻の分だけプラスマイナスがついた形か。ということは1局あれば逆転できる点差とも言える。
灘がレジェンドならば、追う者は言わばレジェンド候補達。最後まで手に汗握る戦いが見られることであろう。
カテゴリ:グランプリ 決勝観戦記