麻雀マスターズ レポート

第25期マスターズ ベスト8トーナメントレポート 安村 浩司

第25期麻雀マスターズの準決勝が夏目坂連盟スタジオにて行われた。
日本プロ麻雀連盟Bルール(一発・裏・カンドラ・カン裏あり)で行われ、同一メンバーで半荘3回戦を行い、トータルポイント上位2名が決勝へ進出する。

組み合わせは以下の通り

A卓
白鳥翔(連盟)×木原浩一(協会)×石川優さん(一般)×中川由佳梨(連盟)

B卓
吉田直(連盟)×小川尚哉(連盟)×優木美智(連盟)×井上美里(連盟)

特筆すべき点としては現マスターズ白鳥を含め、前年度決勝進出者が3名勝ち残っていることだ。
強者が集まるタイトル戦で2年連続勝ち上がるのは見事というほかない。
連覇を狙う白鳥もそうだが、木原、石川さん共に今年こそはという思いは強いだろう。

もう一点は、女流プロが3名勝ち上がって来たことである。近年映像対局が増え、自身の麻雀の見直し、他者の麻雀を見てレベルアップを図ることは容易になった。
やるかやらないかは本人次第だが、全体として確実にレベルアップしているのではないか。初の女流マスターズへの期待がかかる。

 

 

100

 

A卓
1回戦(起家から、木原・石川さん・中川・白鳥)

東1局 中川が淀みない手牌進行から、自然にリーチ。

一万二万三万三万四万八万八万六索七索八索六筒七筒八筒  リーチ  ツモ五万

700・1,300のツモアガリ。表情、打牌のテンポを見ても緊張、気負いといったものは感じられない。好勝負が期待できそうだ。
100

東3局 親 中川 ドラ四索
前局も1人テンパイで好調を感じさせる中川の親番。一気に畳みかけたいところ。
終盤、中川が発バックの仕掛けを入れると一気に場が動く。

石川さんが五筒を引き入れ即リーチ。

七万八万四索四索一筒二筒三筒三筒四筒五筒八筒八筒八筒  リーチ

同巡、白鳥に役なしの三索単騎のテンパイ、木原が東中メンホンの一筒四筒テンパイをいれ共にヤミテン。

次巡、白鳥が1枚切れの白(リーチの現物)を持ってきて、オリを選択。
木原の中川の仕掛けに対して当たってもおかしくない五索→安全牌の南の切り順を見て、一色手のテンパイが入っている可能性があるとの読み。
答えはすぐに出た。

木原「3,000・6,000」

100

甘えのない冷静な判断である。おそらく一筒を持ってきても止まっていただろう。
100

木原はこのアガリをきっかけに親番でも加点し、噴き上がるかに思えたが、待ったをかけたのは石川さん。
木原のリーチを掻い潜り、

三万三万四万四万五万五万六万二索二索六索六索六筒六筒  ツモ六万  ドラ四筒

1,600・3,200をツモアガる。横と縦の複合形をまとめる構想力が非常に高い。
100

南2局 親 石川さん
ここまで我慢の展開が続いている白鳥が先制リーチ。

五万五万七万八万三索四索五索二筒三筒四筒四筒五筒六筒  リーチ  ドラ八筒

木原、ツモ東でテンパイ。

100

この状況で皆さんは何を打つだろうか?
木原はトップ目で白をないていない以上、白を切ってまわるか、頑張って九筒勝負するのかなと見ていたが、
木原「リーチ」
場に放たれた牌はなんとドラである八筒!そしてリーチのおまけ付き!

確かに、カン七筒ではアガリが薄そうにも見える。
木原が八筒を切った考えられる理由としては
・中川がノータイムで白を切っているため、トイツ落としである可能性がある点
・石川さんがオリ気味なため、白鳥、木原の共通安牌がない場合、手の中に今通った白があれば、打ち出される可能性がある点。
残りは勝負手になった以上、一番強い形で勝負するということか。

結果は白鳥が力強く六万をツモリ

五万五万七万八万三索四索五索二筒三筒四筒四筒五筒六筒  ツモ六万  ドラ八筒  裏四索

2,000・4,000。

木原のバランスの良さと相反する狂気にも似た二面性を垣間見た局であった。
100

南3局 親 中川
木原が4巡目ピンフテンパイ即リーチ。

一万二万三万五万六万六索七索八索二筒三筒四筒 九筒九筒  リーチ  一発ツモ七万

1,300・2,600。

南3局、トップ目、2着目と10,000点以上の差、とヤミテンを選択してもよい理由が揃っている場面だが、
「全員手強いので、点棒がある内にリスクを取りたかった。」と木原。

南4局、親の白鳥が12,000をアガリ追い上げるが、南3局のリーチが生きた形となり木原が微差のトップで終了。

2回戦は後のない中川が攻め、一進一退の攻防の中、白鳥がトップを取り1人抜け出す。中川も2着に残り最終戦に希望を繋げる。

2回戦終了時
白鳥+46.9P 木原+0.3P 石川▲8.0P 中川▲39.2P

最終戦(起家から、中川・白鳥・木原・石川)
東1局 親 中川
中川が最大のチャンスを迎える。
木原が先制リーチ

四万五万六万七万七万七万一索三索六索六索一筒二筒三筒  リーチ  ドラ四万

100

これを受けた中川、以下の手牌から石川さんの切った六筒をポンせず。
一発目に二万をツモってきて打六筒

数巡後木原がきった四万を中川動けないが、自力で待望の五索引き入れリーチ。
ツモれば逆転は目の前だったが、惜しくも流局。

六筒はなく気がなく、メンゼンで勝負したかった」と中川。

メンゼンでいくにしろ、もし中川の頭の中にオリる気がなかったのであれば、一発目の二万で放銃した時の仮定ではなく、四万をツモる、あるいは出る想定を優先し、二万を勝負するだけの価値があった局面だったように思える。
結果論ではあるが、六筒をないた場合5,800。二万を一発目で切り、四万をないた場合12,000を木原からアガッていた。

ここは木原の気迫が二万を切らせなかったか。一牌の切り順の差が勝負の分かれ目になった。

木原は石川さん、中川の追撃をかわしつつ40,000点まで得点を伸ばす。
残り2局となったところで、追う石川さん、逆転に向けたリーチがついに決まる。

二万二万五万六万三索四索五索六索七索七索八索八索九索  リーチ  ツモ七万  ドラ四万

700・1,300。

南4局 親 石川さん

一万二万三万四索四索六索七索八索一筒二筒二筒三筒三筒  リーチ  ツモ四筒  ドラ七万

1,300オール

石川さんが2局連続でアガリ、木原、白鳥まであとひとアガリというところまで追い詰める。

南4局1本場 親 石川
石川さんがタンピン三色1シャンテンでまで手を進めたが、
白鳥が競技人生初、トータル得点の計算を間違えていたという程の重圧の中、自ら決勝への切符を掴み取った。

五万六万七万四筒五筒六筒南南西西  チー四索 左向き五索 上向き六索 上向き  ツモ南  ドラ六筒

 

決勝進出者 白鳥翔 木原浩一

 

「裏ドラが乗らなかったけど、よく打てました」と対局後も笑顔が印象的だった石川さん。
随所で見せる手牌変化への対応力は、この舞台に残るだけの力を感じさせるものだった。

「また戻って来ます」と落ち着いて語ったくれた中川。
「凛々しい」という言葉が似合う麻雀であり、惹かれるファンも多いだろう。このステージを経験した彼女の今後が楽しみである。

 

100

 

B卓
1回戦(起家から、井上・吉田・優木・小川)
開局から小川、優木が激しく攻め合う。

優木
四万五万三索四索五索六索七索八索三筒四筒五筒六筒六筒  リーチ

小川
五万六万三索四索五索五索六索七索四筒五筒六筒七筒七筒  リーチ

軍配は小川。

五万六万三索四索五索五索六索七索四筒五筒六筒七筒七筒  ロン七万  ドラ白

優木から3,900

昨年ベスト8で敗れた小川。
開局から表情、間合い、決断どれをとっても今年にかける意志がひしひしと伝わってくる。
100

対して放銃から始まった優木だが、攻めの姿勢を崩さず東3局の親番では、リーチに対して1シャンテンからドラを切るなど、腕が振れていて、この時点でかなりの確率で決勝に勝ち上がるのではと感じさせる程内容が良い。
100

優木と小川の攻め合いが続く中

二万二万六万七万八万三索四索五索四筒五筒六筒西西  一発ロン二万  ドラ西

小川が井上から8,000の出アガリ、このアガリをきっかけに40,000点オーバーまで得点を伸ばす。

昨年の新人王井上、小川の親番で2,000・4,000をアガリ返す。

三万四万五万二索三索四索四索五索六索六索六筒七筒八筒  リーチ  ツモ三索  ドラ三万

井上の良さは程よい荒さと強いハートであり、簡単に流れを渡さない。
100

南2局 親 吉田 ドラ八索
ここまで何も出来ていない感のある吉田。

二万二万二索三索四索四索五索六索四筒五筒  暗カン牌の背八万 上向き八万 上向き牌の背  リーチ  一発ツモ三筒  ドラ八索  カンドラ三筒

今までは我慢のお手本だよと言わんばかりのワンチャンスを生かした4,000オールで2着浮上。
100

B卓は全員が前に出る乱打戦の様相。
この半荘を制したのは小川。満貫→満貫→親の跳満と高打点を連発し、70,000点オーバーの大トップで終了。

1回戦終了時
小川+59.4P 吉田+4.0P 優木▲25.1P 井上▲38.3P

2回戦(起家から井上・小川・吉田・優木)

東2局 親 小川 ドラ五筒
小川が七対子のドラ単騎で即リーチ。

二万二万三万三万三索三索八索八索五筒七筒七筒九筒九筒  リーチ

優木、同巡にテンパイ

100

 

ターゲットが吉田であり、親と戦うリスクを加味すると瞬間のヤミテンも十分考えられる場面だったが、力強くリーチを宣言。

五万六万七万四索四索五索六索七索三筒四筒六筒七筒八筒  リーチ  ツモ五筒  ドラ五筒  裏五索

優木「3,000・6,000」
最高の結果をものにする。

南1局 親 井上
親の井上が先制リーチ

四万五万六万七万八万九万八索九索四筒五筒六筒南南  リーチ  ドラ二万

同巡小川もテンパイ

100

 

先程の優木と同じような場面、小川の選択は同じくリーチ。
異なるのはトータルポイントの違い。小川は現状の得点を含めても約30ポイントのリードを持っている。
アガリと放銃が5対5の場面で無理に戦わなくても、8対2のような自身に有利な場面を選んで得点を伸ばしていくのがトーナメントのセオリーだが、それが必ず訪れるとは限らず、30ポイントのリードが守れる保証はどこにもない。
小川は決勝進出という「勝利」を限りなく10対0にするべく、攻撃するという方法論を取った。

結果は小川が七索を掴み裏ドラが2枚乗って7,700の放銃になったが、小川にとっては織り込み済みか。
こういった場面の押し引きの見極めは難しく、上記2局は人によってかなり判断が分かれるのではないか。
裏目に出ることも多々あるが、トーナメントの肝でもあり各々のスタイルで判断の精度を上げていくしかないのだろう。

南1局1本場 親 井上
吉田が地獄待ちのリーチで優木から12,000の直撃で逆転に成功。

三索三索五索五索六索六索七索七索九索九索発西西  リーチ  ロン発  ドラ二筒

局が進むにつれ、3人参加の局が非常に多くなり、決勝へ進みたいという気持ちが斬りあいの局面をつくり、体で打っているという言葉がピッタリの白熱した対局となった。
オーラスは優木、吉田、井上の3者にトップの可能性があったが、優木が競り勝ち、井上、吉田の並びで終了。

2回戦終了時
小川+18.5P 吉田+4.4P 優木+1.0P 井上▲23.9P

ほぼ横並びで迎えた最終戦(起家から、吉田・小川・優木・井上)

順位点が一着順1万点であり、ほぼ着順勝負であると同時にトーナメントの経験が生きる点差であり、普段から計算や状況判断が抜群に早い吉田が有利な印象ではあるが、ここまで来たらもはや気持ちの勝負であろう。
注目の最終戦が始まった。

開局から1,000点→1,000点と1局ごとに通過者がかわる展開の中、東3局、現状、一番苦しい井上が小川を捕らえ8,000のアガリ。

一万一万三万四万五万六万七万八万五筒六筒七筒白白  リーチ  一発ロン白  ドラ三万

1回戦からトップを走って来た小川がついに決勝への椅子を明け渡す。

東4局 親 井上

三万四万五万七万八万九万五索六索九索九索四筒五筒六筒  リーチ  ロン七索  ドラ四万

井上、小川から5,800のアガリでトータルトップに。

次局、小川が井上から2,000は2,300のアガリで南場での再逆転へ望みをつなぐ。

南1局 親 吉田
吉田が1枚目を悠々見送り、ポンテンの入る2枚目の東を仕掛け先制のテンパイ。

一万二万三万二筒三筒六筒七筒八筒南南  ポン東東東  ドラ四筒

全く焦りのない吉田らしい構え。

同巡、小川が七索を引き入れ、ノータイムの即リーチ。

四索五索六索七索七索七索九索九索一筒一筒一筒四筒五筒  リーチ

さらに優木、ドラの四筒を引き入れ2者に無筋の二筒を勝負してリーチ。

四万四万五万六万七万三索四索五索二筒三筒四筒中中  リーチ

全員の気持ちが直線的にぶつかった今局、吉田が高速でツモ切った牌は…

四索五索六索七索七索七索九索九索一筒一筒一筒四筒五筒  リーチ  ロン三筒  ドラ四筒  裏四筒

小川、6,400の大きなアガリで再逆転。

放銃後うんうんと頷く吉田、表情は対局を楽しんでいるようにも見える。

南3局 親 優木
西家の吉田が西を仕掛け1シャンテン

五万五万九万二筒三筒四筒六筒八筒白白  ポン西西西  ドラ五万

小川も追いつき

一万二万三万七万八万九万八筒九筒九筒一索二索白白

このチャンタ1シャンテンから五万をツモってきて小考。
吉田の河はピンズの一色手かドラ含みの高打点に見えるが、一貫して攻めの姿勢を見せてきた小川。
ここでも意を決して五万を切ると、吉田のポンの声ではなく意外な方向から声がかかる
優木「ロン」

100

 

優木、値千金の18,000。
ここに至るまでリーチ攻勢をかけていた優木の勝負ヤミテン。
このアガリが決まり手となり優木は決勝へ進出を決めた。

このアガリによって小川が4着に落ちたため、3着に浮上した吉田が井上に肉薄。
オーラス、アガリ勝負となったが吉田がわずか6巡、圧巻の早さでアガリ、マスターズへの挑戦権を得た。

八万八万八万六索六索北北  チー八筒 左向き六筒 上向き七筒 上向き  ポン中中中  ロン北  ドラ九索

 

決勝進出者 優木美智 吉田直

「1回戦に二万を打ったところが悪かったかなと。また頑張ります!」と謙虚に語った井上。
対局後は同郷の藤崎プロとすぐ反省会をしていたとのこと。その姿勢も素晴らしい、今後も注目のプロである。

小川にとっては辛い夜になった。
勝者と敗者のコントラストが強く出た対局だが、これが勝負の世界。
先輩方が歩んだ道を一つ一つ経験して強くなっていくのだろう。

敗者の思いを乗せ、マスターズの栄冠に王手をかけた4人が明日卓に着く。