第33期十段戦 ベスト16B卓レポート 小車 祥
2016年07月26日
櫻井秀樹……昨年度決勝進出により、ベスト16シード。
伊藤優孝……九段戦Sからの出場。
前原雄大……九段戦Sからの出場。
小野雅峻……中部プロリーグ優勝により、四段戦Sシード。
Aリーガー3名に若手選手が挑戦するという構図。
映像対局は初めてだという小野、緊張しないはずがない。
その緊張感がいい方向へ作用するかどうかも気になるところであった。
また、対局者の中では唯一小野だけが事前情報が少ない。
まずは様子見から入るのか、構わずマイペースで戦うのか、各選手の動向も注目したいところだ。
1回戦(起家から、小野・前原・伊藤・櫻井)
東1局、小野は親番からのスタート。
ドラ
小野はこの手牌からを仕掛けて切り。スピードではなく打点を見る。
まずは緊張から仕掛けたい牌に声が出ないということはなさそうだということ、そしてじっくり構える落ち着きもしっかり持っているということが窺える。
実は小野が仕掛ける少し前からピンフのテンパイを入れていた前からがここは軽くアガる。
ロン
櫻井から1,000のアガリ。
東2局、前原は親で9巡目に以下のテンパイ。
ツモ ドラ
ここから前原は打とし、を暗刻で使い切るための単騎待ちを選択。
他のメンツにくっつくか待ちにしてもよさそうな単騎への変化待ち。
リーグ戦での前原の戦い方ならばリャンメン待ちで即リーチを打ちそうなイメージがある。
上位2名が勝ち上がりというトーナメントのシステムによって、リスク管理の意識もアガリに対する意識も違うのだろうと、実況する私の隣で解説をしていた山田浩之プロは話していた。
この後、を引き入れノベタンの形でリーチを打った前原。
リーチ ツモ
2,600オール。しっかりと打点のあるアガリに仕上げてくる。
東2局1本場、ここも前原がイニシアティヴを取る。
ポン ドラ
ダブを仕掛けて1シャンテン。
この前原の上家の小野も手が進み1シャンテンとなっていたところ、以下のツモ。
ツモ
タンピン三色の1シャンテンで、ドラのない手だけに三色はつけたいところではあるが、の縦フォローを簡単に外すとアガリ逃しが怖い。
そんな手だったが、小野はここはを止めて切り。実際には前原に仕掛けられてテンパイを入れる牌だっただけに、守備の意識が高かったことは容易に推測できた。
小野は次巡をツモり、三色が確定するテンパイ。はダブを仕掛けている前原の現物ということもあり、ヤミテンに構えてひっそりとを置いた。
前原は当然このをチーしてテンパイを取る。
チー ポン 打
小野は次々巡、前原のアガリ牌であるをツモる。
ツモ
確かにチーしてが出てきた前原には、そのまたぎスジであるはかなり危険な牌である。
しかしタンヤオピンフの確定三色。さすがには止まらないだろうと見ていた私を小野は裏切ってくる。
ここからピンフも確定三色も捨てて打。前原に当たるをしっかり止めてノベタンのテンパイに移行する。
自分の手牌に甘えたくなる状況で、丁寧な打ち回しをやってのけた小野。ここまで勝ち上がってきたのは伊達ではないのだなと強く思わされた瞬間だった。
それでも前原はをツモり、1,000オールのアガリとなった。
東4局1本場、親の櫻井の6巡目の手牌。
ツモ ドラ
難しい手牌。櫻井はソウズの受け入れは狭くなってしまうが、三色の可能性を残しつつ1シャンテンをキープできる打とする。
そして伊藤が仕掛けを入れてテンパイ。
ポン ポン
櫻井は、とツモって以下のリーチ。
リーチ
残しが好判断となった。伊藤もテンパイを維持しつつ待ち変えをしながらうまく立ち回ったが、ここは櫻井に軍配が上がる。
をツモって3,900オール。
1回戦は櫻井と前原のペースにハマる展開が多く、そのままこの2人がワンツーを決めた。
1回戦成績
櫻井+22.3P 前原+15.0P 小野▲9.3P 伊藤▲28.0P
2回戦(起家から、伊藤・小野・前原・櫻井)
1回戦は我慢の展開だった伊藤、反撃開始。
東1局1本場、七対子1シャンテンから前原がトイトイへ向かい仕掛けていく。
ドラ
ここからをポンして打。打点を求めた選択。
その後、を重ねてトイツが5つになって選べる状態になる。
ここで親の伊藤がテンパイ。
ツモ
テンパイした伊藤からドラのが切られる。
次に小野から切られた1枚切れの中を前原がポン。
ポン ポン
ターツを選択できる場面。安全を取るなら切り、自身の打点を取るなら切り。
前原が選んだのは後者でここは強気な姿勢を見せるが、この場面は伊藤への放銃となる。
伊藤、7,700は8,000のアガリ。
東2局、伊藤の親が落ちた次の局。
今度は伊藤が七対子1シャンテンからトイトイへ向かう仕掛けを入れる。
ドラ
ここからをポンして打。立て続けにポンができてあっという間にテンパイ。
ポン ポン ポン
ほどなくして4枚目のをツモってカン。リンシャン牌はで2,000・4,000のツモ。
伊藤がリードを広げる。
南2局、小野は23,000点持ちで南場の親番を迎えていた。
ここまでのイメージだと、かなり守備的な立ち回りが光る場面はあるものの、その分打牌選択にいつも制限をつけられていて自由に打たせてもらえていないという印象がある。
なんとかきっかけを作りたい小野、6巡目にテンパイする。
ツモ ドラ
迷いなく切りリーチとした小野。
出アガリにはほぼ期待できない待ちではあるが、ツモれば4,000オールという高打点のリーチ。
前原が数巡後にテンパイを入れヤミテンに構えていたが、小野のアガリ牌であるドラを掴む。
ツモ
親のリーチに対して2枚ほど無スジを押していた前原だったが、さすがにドラそのものだけは切れないとテンパイを崩す切り。
今度は櫻井が前に出る。リーチに対してうまく立ち回りながらも仕掛けを入れて以下のテンパイ。
ポン ポン
を小野が掴み放銃となる。櫻井はこのアガリで持ち点原点復帰に成功。
南3局、親は前原。
伊藤が12巡目に以下のテンパイ。
ドラ
次巡、ツモでツモり三暗刻に受ける切り。
その次のツモでをツモ。なんとここに来て4,000・8,000の大きなアガリ。
このまま伊藤が走り抜けた形で、1回戦のマイナスを一気に返す大トップを取る。
2回戦成績
伊藤+46.1P 櫻井▲2.7P 前原▲18.5P 小野▲26.9P
2回戦終了時
伊藤+18.1P 櫻井+19.6P 前原▲3.5P 小野▲34.2P
3回戦(起家から、伊藤・櫻井・前原・小野)
3回戦の東場は大きな点数の動きはなく終了。
南1局、伊藤の親の連荘を刻んで刻んで5本場まで。
この連荘のおかげで平たかった点数も、1人抜け出る形となった。
伊藤はそのままリードを守り、トップで終わらせた。
伊藤はなんと2回連続1人浮きのトップを取り、一気にトータル首位まで躍り出た。
3回戦成績
伊藤+22.5P 櫻井▲3.0P 小野▲5.4P 前原▲14.1P
3回戦終了時
伊藤+40.6P 櫻井+16.6P 前原▲17.6P 小野▲39.6P
4回戦(起家から、前原・小野・櫻井・伊藤)
東3局3本場、親の櫻井が7巡目テンパイ。
ドラ
ヤミテンに構え、次の巡目にを暗カン。ロンでも12,000にする。
小野にはドラドラのチャンス手が入っていたがここで仕掛けてテンパイを取る。
ここからをチーして打の3,900テンパイ。少し軽めの仕掛け。
追いかける立場としては跳満ツモも見えるこの手牌は高打点に仕上げたかったところだが、ダブ暗カンに少し焦らされてしまったか。
次に前原が仕掛けてテンパイ。
ポン
伊藤もテンパイ。ヤミテン。
全員マンズ待ちのテンパイという異様な状況。誰がアガるのか非常に見応えのある局面となった。
ここを制したのは親の櫻井。
暗カン ツモ
4,000オール。追いかける立場の選手を突き放す大きなアガリ。
東4局、小野が7巡目に先制リーチ。
リーチ ドラ
前原も追っかけリーチ。
リーチ
ここは前原が高目のをツモアガリ。簡単にはターゲットを逃がさないぞとトップ目につけてくる。
南1局、前原の先制親リーチ。
リーチ ドラ
櫻井もテンパイで危険な牌も押していく。
しかしここは前原に軍配が上がる。をツモって2,600オール。
これで47,100点のトップ目となる前原。
伊藤は18,800点持ちのラス目で前原との点差は14.4Pと迫る。
南3局、親の櫻井が10巡目に仕掛けてテンパイ。
ポン ドラ
テンパイした時点でなんと牌山に6枚も残っている待ち。
櫻井はきっちりをツモり4,000オールで前原を捲り返す。
デッドヒートが続いていく。
南3局1本場、8,800点持ちのラス目だった伊藤。
今度は伊藤がアガリ、前原を苦しめる。
ツモ ドラ
2,000・4,000のアガリ。
南4局、伊藤の親リーチ。
リーチ ドラ
そしてリーチを受けてすぐに前原テンパイ。
ツモ
を切ればタンヤオピンフ確定三色のテンパイだったが、は伊藤への放銃となる牌。
が河に3枚、が河に1枚と自身の手の中に1枚見えていたこともあり、前原はここを打とする。
前原はヤミテンに構える。
アガリ牌の残り枚数は伊藤も前原も2枚という面白い局面。勝負所。
さらに伊藤はを暗カンし打点アップ。
前原は切りづらいを手の中に残し手牌変化。
を切っていてフリテンテンパイ。ヤミテン続行。
それぞれのツモに力が入るが、最後まで決着はつかずにここは流局。
伊藤はこのオーラスの親番で少しずつ刻んでいき、4本目の本場を積んだ時に持ち点原点復帰となる。
これで伊藤がトータルトップに返り咲く。
南4局4本場。
伊藤はテンパイできないまま最後のツモ番が終わり、ノーテン罰符を払っても原点残って終了となるかと思われた最終局。
役なしドラ単騎で受けていた前原が最後のツモでツモアガリとなる。
ツモ ドラ
1,000・2,000は1,400・2,400のアガリ。
なんとこのアガリで伊藤の持ち点を原点以下にすることに成功。
まだまだ最後までわからなくする前原。
誰が敗退となってもおかしくない点差で最終戦に臨む。
4回戦成績
前原+24.7P 櫻井+12.9P 伊藤▲4.8P 小野▲32.8P
4回戦終了時
伊藤+35.8P 櫻井+29.5P 前原+7.1P 小野▲72.4P
5回戦(起家から、櫻井・小野・前原・伊藤)
東3局1本場、前原の親番。
伊藤がドラ暗刻のリーチを打つ。
リーチ ドラ
局の後半に差し掛かった辺りで、櫻井がリーチに対して手詰まってしまう。
ツモ
現物はなく、今伊藤がリーチ後にをツモ切ったところ。かのトイツ落としとなるか。
は場に3枚切れていては比較的切りやすい。伊藤は3巡目にを切っていて処理が早いのでも切りやすい。
どちらもある選択だったが、櫻井が河に置いたのはロンの声がかかるだった。
櫻井、伊藤へ8,000は8,300の放銃。
前原は貴重な親番が1つなくなってしまうものの、誰をターゲットとするかが明確化。悪くない結果となる。
南3局、前原は24,400点持ちで最後の親番。
この親を絶対に落とすわけにはいかない状況。12巡目にテンパイを入れる。
ツモ ドラ
巡目は深く、テンパイを取らないともしかしたらテンパイできないまま終わってしまうかもしれない局面だが、この手牌ならば打点を追いたくなるところ。
前原は時間を使い状況確認した後、テンパイ取らずの打と大きく構える。並大抵の精神力ではない。
この後、櫻井にリーチを打たれる。
リーチ
櫻井はドラ暗刻のリーチでアガれば勝ち上がりが決定的。
前原、なかなかテンパイできずこのまま親が終わってしまうかと思われた局面。
ツモ
最後のツモでなんとかテンパイ。しぶとさを見せる。
南3局1本場、前原が繋いだ親で先制リーチ。
リーチ ドラ
ドラのは山に3枚残っている大チャンス。
櫻井も勝負所と踏んで腹を括る。追いついてリーチを打つ。
リーチ
こちらも山には3枚で同じ枚数。どちらが勝ってもおかしくないところ。結果は牌山に託された。
先にいたのは櫻井のアガリ牌であるで、これを掴んだのは前原。
2,600は2,900のアガリで、櫻井の勝ちが決定的となった。
前原は跳満直撃、三倍満ツモという苦しい条件。
オーラスは伊藤もアガリに向かわず、流局となり終了となった。
5回戦成績
伊藤+33.2P 櫻井▲1.2P 前原▲11.0P 小野▲21.0P
5回戦終了時
伊藤+69.0P 櫻井28.3P 前原▲3.9P 小野▲93.4P
ベスト8勝ち上がり
伊藤優孝 櫻井秀樹
伊藤と櫻井がベスト8進出。
かなり粘り強く最後まで勝ち上がりの争いに絡んだ前原はさすがの戦いぶりであった。
小野は丁寧な麻雀を打ち、光るものを見せた。
今回はかなり厳しい結果となってしまったが、すごいメンバーと戦った経験を活かしてまた高いステージへ戻ってくる日も遠くないように思えた。
伊藤と櫻井のどちらかが今期の決勝に残り、十段位獲得となるか。
ベスト8に注目したい。
カテゴリ:十段戦 レポート