第27期中部プロリーグ 決勝レポート
2016年08月25日
「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス」
「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」
「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」
この人柄を表した言葉をご存知だろうか?
そう、上から織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、といずれも戦国時代に活躍した英傑達である。
ここ名古屋はそんな英傑を生んだ聖地といっても過言ではない。
その聖地で天下分け目の大決戦から約400年後のこの日再びそれぞれの野望を持った漢達が天下取りの狼煙を上げた。
それでは、この英傑達を紹介させて頂こう。
予選1位通過
杉浦 貴紀 1985.2.18生まれ A型
愛知県出身
連盟在籍11年目
好きな手役は七対子
予選2位通過
三戸 亮祐 1974.3.23生まれ A型
愛知県出身
連盟在籍22年目
好きな手役は七対子
予選3位通過
伊藤 鉄也 1972.12.14生まれ O型
千葉県出身
連盟在籍11年目
好きな手役は七対子
予選4位通過
森下 剛任 1984.8.19生まれ AB型
三重県出身
連盟在籍12年目
好きな手役はホンイツ
全員がプロ連盟に在籍して10年以上のベテラン選手。そして、今の中部本部の決勝を戦う面子として油の乗った選手が出揃った。
卓上は、戦場。すでに4人の武士(もののふ)は、いくさびとの顔となっていた。
普段から温和で口数の少ない杉浦。麻雀のスタイルは極力危険を回避し我慢をし、相手の喉元を狙う。
それに対するは野性を剥き出しにした3人。
最初に刀を抜いたのは三戸。
【理性VS野性】
1回戦
(伊藤・森下・三戸・杉浦)
東1局 三戸13巡目リーチ
リーチ ドラ
面前を重視する三戸。ツモればリズムに乗れるが、伊藤も鳴いてタンヤオで応酬。
チー ロン
東1局 1本場
(伊藤・森下・三戸・杉浦)
2巡目にドラのが暗刻になった杉浦。6巡目、三戸がこの手格好からTをツモ切る。
ツモ 打 ドラ
杉浦がこのをポンし、さらにもポンしカンのテンパイ。森下もドラ待ちの七対子でリーチ。
リーチ
だが、ドラのはすでに杉浦に暗刻。すんなりをツモアガリ2,000・4,000。
ポン ポン ツモ
三戸ほどのベテランでもかかっているのか?それとも、面前で手役を狙う打ち手として切りは想定内か?若干、脳の情報処理にズレを感じた1局となった。
東2局 ドラ
(森下・三戸・杉浦・伊藤)
親の森下が果敢に仕掛けるも、配牌ドラトイツの伊藤の七対子ドラ2に放銃。
南3局 杉浦、伊藤が初戦を制するのかと思いきや三戸が待ったを掛けた。
三戸22,200・杉浦41,600・伊藤37,700・森下18,500
ここで親の三戸、この配牌。
ドラ
無駄ツモなしで8巡目に、
ツモ
こういった所に三戸の強さを感じる。22年にも渡りプロとして戦った勝負力は健在だ。
このアガリで、1回戦苦しくなったのは森下。ここまでアグレッシブに攻めてはいるが点棒は削られ、三戸のアガリで1人沈みの状態に。
しかし、次局、南3局1本場
ツモ ドラ
リーチを打ち、流局かと思われた15巡目、安めながらも嬉しい1,300・2,600のツモ。
オーラスに望みを繋ぐも、伊藤が上手く捌き三戸も沈め杉浦、伊藤の2人浮きで1回戦が終わった。
1回戦成績
杉浦+13.8P 伊藤+7.5P 三戸▲4.1P 森下▲17.2P
2回戦(起家から、杉浦・三戸・森下・伊藤)
東1局から三戸がピンズのホンイツでテンパイ。ヤミテンを選択したが、親の杉浦も三戸のテンパイ気配には気付きながらも1シャンテンからピンズを切り飛ばす。放銃を嫌う杉浦だが、1回戦のリードを広げようと考えたか?
17巡目に杉浦ようやくテンパイするも同巡、三戸がツモアガった。
東1局
ツモ ドラ
東2局
暗カン ロン ドラ
伊藤がこれを森下から打ち取り続く東3局では
東3局
リーチ ドラ
今度は森下が三戸から7,700を出アガる。
さらに東4局、放銃後の三戸だが6巡目にすかさずドラ暗刻でリーチ。
ツモ ドラ
見事なまでの打撃戦。それぞれのスタイルに噛み合っているが取り残されたのは杉浦。上手く掻い潜りテンパイを果たしているものの3者のアガりが陸続する。
ただ、顔色を変えず、自分の戦法の精度を上げるアプローチを繰り返す。しかし、南3局杉浦の顔色を変える1局が訪れた。
南3局、7巡目に杉浦が先制リーチを放った。
リーチ ドラ
ここへ親の森下もテンパイしドラのを勝負。
三色の手変わりとがリーチの杉浦の現物という事もありヤミテン。このを伊藤がポンし、テンパイ。
ポン 打
伊藤も打を選択していれば杉浦へ放銃となっていたが、ドラを切ってきた森下の現物のを残す選択をしたと語ったが、は1枚森下が切っており2枚は杉浦の手の中。そのを杉浦が捕まってしまう。
人間は視覚動物と言われているが、この映像は杉浦にはショックだっただろう。この放銃をした杉浦は、しばらく積み上げてきた基礎との葛藤に悩む事となる。
2回戦成績
伊藤+19.1P 三戸+8.0P 森下▲9.1P 杉浦▲18.0P
2回戦終了時
伊藤+26.6P 三戸+3.9P 杉浦▲4.2P 森下▲26.3P
中部プロリーグの決勝は全5回戦である。いわばスプリント戦。大きなラスは致命傷となってしまうが、その分、大きなトップはグッと優勝へ近づく。無論、今回の面子は全員が決勝経験を持つものばかり。予想だにしない落とし穴がポッカリと口をあける。
【本能&誓約】
3回戦 (起家から森下・三戸・杉浦・伊藤)
王位戦や最強戦など大舞台で戦ってきた森下。昨年からどのように進化をしたのか?
東1局、伊藤が13巡目にドラトイツのリーチを打つ。
ツモ 打 ドラ
山には3枚残っているペン七。そこへ、親の森下が真っ向勝負。トータルラス目の森下は、ここが勝負局と読んだか?ノータイムドラ切り。
ツモ 打
その後、チーテンを取りしっかりと親権を維持した。
チー
試合前、中部プロリーグは、とらなければいけないものと言った森下。
この執念が実ったか、次局、
東1局1本場 供託1,000
ポン ロン ドラ
5,800は6,100を三戸から出アガる。
東1局2本場、森下リーチ。
リーチ ツモ ドラ
2,000は2,200オール。と、これまでの燻りが嘘のように点棒を積み上げる。
私の個人的な感性だが、勝負局とは本手が入った時だけではない。1局の打牌がその後の牌勢を左右させる大事な局だと思っている。その一打が、本能か経験か進化をした森下から溢れ出ていた。
そして、同じくその嗅覚に鋭い打ち手がもう1人いる。そう、三戸である。
東1局3本場、三戸がリーチ。
リーチ ツモ ドラ
この2,000・4,000を皮切りに怒涛のアガリを繰り返す。
東2局
ポン ロン ドラ
伊藤から11,600。
東2局1本場
リーチ ツモ ドラ
3,900は4,000オール。テンパイ料など含め三戸の点棒は50,000点を越えた。
伊藤、杉浦も黙っていては三戸、森下のペースにもっていかれてしまう。そんな中、伊藤、杉浦共にドラトイツのチャンス手が入りぶつかる。
東3局 東家・杉浦
ポン ドラ
南家・伊藤
リーチ
ここは伊藤に軍配。さらに伊藤は親で2,900を出アガり20,700まで点棒を戻した。
杉浦苦しいか・・・。が、杉浦もアガリ返す。
東4局1本場
ツモ ドラ
僥倖のツモだが、これでは森下、三戸の勢いは止まらない。南場もそれぞれ加点をし森下、三戸のビッグゲームとなった。
台風に飲まれた伊藤、杉浦は大きくマイナスをし、ゲームがひっくり返った。
3回戦成績
森下+40.8P 三戸+20.8P 伊藤▲24.3P 杉浦▲37.3P
3回戦終了時
三戸+24.7P 森下+14.5P 伊藤+2.3P 杉浦▲41.5P
【隠し持った武器】
4回戦 (起家から三戸・伊藤・森下・杉浦)
3回戦での森下、三戸の勢いはそのまま4回戦へ持ち込まれた。
東1局、西家・森下10巡目に最高形に仕上がりリーチ。
リーチ ドラ
12巡目に三戸もテンパイ。三色を見据えヤミテンを選択し森下から1,500点を出アガる。
三戸手牌
ロン
次局、今度は森下が三戸から8,000を出アガる。
ロン ドラ
両者譲らない。森下、三戸、伊藤3者共に持ち味を発揮している。ただ、1人を除いて・・・。
杉浦は試合前に語った。
「雀風は安全第一で出来うる限り危険を犯さないように心掛けています。待ち受けを安全度の高い牌のみで構築してロスが少なく、打点が必要な場合に勝負をします。」
杉浦は、愛知県岡崎市出身。江戸幕府を開いた徳川家康を生んだ町で生まれ育った。
故に好きな戦国武将は、徳川家康だと言う。
徳川家康の名言
「世におそろしいのは、勇者でなく臆病者だ。」
「戦いでは強いものが勝つ。辛抱強いものが。」
「滅びる原因は自らの内にある。」
ここは、すでに戦場となっていることを。
危険を犯さず、安全を選ぶ選択は間違いではない。しかし、それでは勝負の世界では勝てない事を。
辛抱強く好機が来るのを待てばいいが、怯えているだけでは好機は気付けない。
すでに本丸まで攻め込まれている杉浦には、後がないのだ。
ここまで、戦略と謳った戦法ではもう歯が立たない。
そして、運命の局が訪れた。
東4局2本場 東家・杉浦
リーチ ドラ
ドラも役も何もないノミ手というやつである。今まで、例え親番でもこういったリーチを極度に避けていた杉浦が腹を括った瞬間であった。
そして彼の戦法はブレイクスルーをしていくのである。
毎試合、毎局、順位は入れ替わる混沌とした戦い。トータルトップ目の三戸が13,100点持ちの南場の親番でリーチ。
南1局、東家・三戸
暗カン ツモ ドラ
最後のを見事ハイテイで引き当て4,000オール。対局者や観戦者達はこの三戸の力強さの光景を何度も見てきただろう。
伊藤、森下共にstop the MITOと感じ、果敢に仕掛ける。そこへ、リーチの発声が!杉浦である。
南1局1本場
リーチ ドラ
2巡後、を引き寄せた。
安全第一を考えていた杉浦だが、勢いに乗っている三戸の親、伊藤、森下の仕掛けに対し役有りの手を、リーチを放った。そう、彼もまた闘争心を持っていた、もののふだったのだ。
次局、この1局だけはツモりたかったと語った伊藤。
南2局、東家・伊藤
ドラ
イーペーコーのテンパイから、三戸のツモ切りのを鳴かず、を引き四暗刻のテンパイ。
リーチ
だけが山に1枚残っていた。
が、杉浦へ放銃。
ロン
伊藤の悄然とした姿が印象的だった。
その後、杉浦は満貫とテンパイ料を含め5万点を越える1人浮きトップで4回戦を終えた。
杉浦にとっては理想の着順を取れたのだ。
4回戦成績
杉浦+33.0P 三戸▲6.4P 伊藤▲10.1P 森下▲16.5P
4回戦終了時
三戸+18.3P 森下▲2.0P 伊藤▲7.8P 杉浦▲8.5P
【別世界への入口】
5回戦(起家から森下・伊藤・杉浦・三戸)
いよいよ最終戦である。5半荘といえ緊張感の中で戦う決勝戦。疲労の様子が伺える。
ひんやりとした会場も、観戦者達の熱気と対局者の勝負熱でボルテージと一緒に上がってきた。
アドバンテージを持っているのは三戸。だが、これだけ点棒移動の摩耗が起こると何が起こるか分からない。分からないことが分かってくる。分かっていた事が分からなくなる。麻雀を知れば知るほど感じるものだ。
東1局、西家・杉浦
チー ドラ
杉浦は、この試合初めての形式テンパイでの収入。
まだ、隠し持っていた武器は鞘には納めてはいない。
一つ一つ、1局1局、一打一打。
ゆっくりと点棒の移動が行われた。4回戦まで満貫級が何度も飛び交った半荘が嘘のように。
静かに清流の如く・・・。
三戸が2,000点をアガリ
森下が400・700をアガリ
再び森下が400・700、そして1人テンパイ。
杉浦が300・500
伊藤が500オール
小さな、だが大きなアガリを繰り返す。
既に、場は南場になっていた。優勝への条件は、着順も含め全員の視野に入っていった。
そして南2局2本場 供託1,000 南家・杉浦
リーチ ロン ドラ
これを森下から出アガリ、この半荘で初の5,200のアガリで杉浦の持ち点は41,600点へ。
このアガリで1人浮きとなり杉浦が1回戦以来のトータルトップへ躍り出た。
南3局、全員が優勝への旗を掴みに前へ。
東家・杉浦
ドラ
南家・三戸
リーチ
西家・森下
ポン
北家・伊藤
ポン チー
結果は三戸が伊藤からの出アガリで2,600。
三戸はドラのをツモってテンパイした事で、希望はツモアガリの1,300・2,600か杉浦の点棒を削る事だっただろうが、マンズのホンイツの仕掛けが2人いる状態。やむなしか・・・。
これにより、大接戦のオーラスを迎える事となった。
三戸+15.2P 杉浦+15.1P 伊藤▲15.1P 森下▲15.2P
この点差、おそらく皆が条件を狙ってくるだろう。
その期待に応える最終局が開始した。
そして、終盤にドラマが。
南4局、東家・三戸。親権維持の形式テンパイ。
チー ドラ
南家・森下。ここへ来て国士無双の1シャンテンへ。
西家・伊藤。倍満へ一直線。こちらも1シャンテン。
北家・杉浦。アガれば優勝の杉浦もタンヤオの1シャンテン。
皆が固唾を飲むなか、運命の時は訪れた。森下が執念の国士無双をテンパイしたのだ。
は3枚切れ。誰も持ってはいない。掴めば切る。これが、森下の神気なのだろう。
この面子のなかで実績は一番なのに、彼だけが中部プロリーグ優勝の栄光を味わっていない。みたび決勝進出し悔しさをバネに再びこの場に戻ってきた。
プロ歴、12年目にして4度目のチャンスなのである。
次巡、杉浦にもテンパイが入る。
杉浦手牌
ツモ 打
杉浦の選択はカン待ちであった。そして、森下は北ではなく介錯となるを河に置いた。
優勝は、杉浦貴紀。
天を見上げる森下。誰が微笑まれても不思議ではなかった。
女神に選ばれたのは杉浦。他の3人は終戦の槍をおいたのだった。
5回戦成績
杉浦+26.2P 三戸▲3.1P 伊藤▲7.3P 森下▲15.8P
5回戦終了時成績
杉浦+17.7P 三戸+15.2P 伊藤▲15.1P 森下▲17.8P
【鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス】
最後まで徳川家康を追い詰めたのは、あの英雄、真田幸村である。
森下は、真田幸村が好きだと言った。まさしく彷彿とするいくさぶりであった。
後一歩、後一歩の所まで追い詰めたのだ。天を見上げながら点棒を支払う森下。
来期は、さらに進化するだろう。
決勝戦を前に全員に、中部プロリーグとは何か?という質問を聞いてみた。
森下
「とらなければいけないもの。」
伊藤
「私が、競技者として再開しようとなった原点です。」
三戸
「私の麻雀プロ人生の根幹をなすもの。」
杉浦
「中部は長く在籍している愛着のある場所で、今回僕だけが中部のみの活動を行っていて、個人的な事情もありますが、最近の活動を鑑みてお世辞にもAリーグに在籍するに相応しいとは言えません。ですが、麻雀を優先出来る日が来た時や、同じように中部から出ない(出られない)立ち位置の後輩にそれでも胸を張って活動出来るという見本となりたいと思っています。そこで限られた世界でもその中の最高峰に居座り続けよう。長く居座り続ければ、間口は狭くとも、そこからどんな機会に恵まれるか分からないと考えるようになりました。」
杉浦らしい丁寧な文面で長文を頂いた。麻雀プロとは一体何者なのか?その答えを模索し上を目指すなかで彼は一人違った視点から活動をしていた。自分だけではなく後輩の事も考えそれを一人背負い戦っていたのだ。
「人の一生は、重荷を負うて遠き道をゆくがごとし。急ぐべからず。 徳川家康」
杉浦の麻雀人生はまだまだ長い。彼の言う麻雀を優先出来る日が来るのを待ち、ホトトギスが鳴くのを待とうではないか。
前列左より:杉浦貴紀、木村本部長
後列左より:三戸亮祐、伊藤鉄也、森下剛任
カテゴリ:中部プロリーグ レポート