第14期プロクイーンベスト8B卓レポート 日吉 辰哉
2016年10月11日
西嶋ゆかり
日向藍子(最高位戦日本プロ麻雀協会)
足木優(最高位戦日本プロ麻雀協会)
宮内こずえ
団体の垣根を超え、すべての女流プロに参加資格のあるビッグタイトル、プロクイーン。
その双璧となるのが女流桜花。この2つのタイトルを同時に保持した選手はこれまで1人もいない。
現女流桜花、宮内こずえ。
同卓者の中ではプロ歴も長く、メディア等での活躍も著しい。実績、知名度共に麻雀業界のトップクラス。
そんな宮内がプロクイーンベスト8B卓に登場。昨年は同じ舞台で無念の敗退。2冠に向け突破しなくてはならない壁である。
ただ3者とてベスト8まで勝ち上がってきた実力者。
果たして勝ち上がるのは…
1回戦(起家から宮内・足木・日向・西嶋)
宮内の牙城を崩すのは誰か。その対抗一番手と目されている選手がいる。
日向藍子。
自身の所属団体、男女混合リーグは女流で唯一のB1リーグに在籍。(女流最上位)
先日開催された女流モンド新人王戦でも優勝を果たし勢いも十分。1回戦から宮内に対し真っ向勝負を挑む。
穏やかな点棒移動で迎えた東4局5巡目。宮内が先制リーチ。
リーチ ドラ
これに対して日向、6巡目。
ツモ
ここから打として追っかけリーチ。安全度を考慮し打も考えられる場面。宮内に対し宣戦布告。そして見事に結果を出す。
8巡目に宮内から5,200。勝ち上がりへの強い意志を感じるリーチ。
続く南1局では日向に大きな追加点。
まずは7巡目、またも親番宮内の先制リーチ。
リーチ ドラ
このリーチに対しは、日向は半身に構え丁寧に廻る。前局は強気な押し返し、今局は華麗な廻し打ち。そして12巡目に追いつく。
リーチ
これを引き当て3,000・6,000。攻め抜くところはしっかり攻める。廻るところはしっかり廻る。相手は関係ない。本命宮内に対し、一歩も引かないそのスタンス。闘志を隠しきれない気合十分の日向が連続のアガリ。
逆に宮内は前局の放銃に続き、今局は親かぶり。2局連続で勝負手のリーチを競り負け大きな失点。まだ1回戦ではあるが暗雲が立ち込める。
宮内の対抗はやはり日向か。そんなムードを振り払うアガリが生まれる。西嶋だ。
南3局、足木の9巡目リーチに追いついた西嶋。先制リーチ足木の現物待ち。ここはヤミテンに構える。
ドラ
14巡目にドラのをツモると意を決したように追っかけリーチ。これをハイテでツモアガリ3,000・6,000。
大波乱の幕開け。本命宮内がラススタート。日向もゴール寸前でかわされた。足木は息を潜めた。1回戦を制したのはダークホース西嶋。
1回戦成績
西嶋+40.3P 日向+10.9P 足木▲13.7P 宮内▲38.5P 供託1.0
2回戦(起家から宮内・日向・西嶋・足木)
テレビ対局では視聴者の方向けに、若干ではあるがゆっくり打つように心がけている。しかし、そこはあくまで勝負の場。
勝ち上がりへの気持ちが高まるにつれ、対局者は麻雀そのものに入り込んでいく。
対局に集中することと比例するように打牌スピードも徐々に上がっていく。
そんな中、打牌スピードが一切変わらない選手がいた。
足木優。
テレビ対局で目にすることも多く、大舞台での経験も十分。
自身の所属団体、女流リーグではAリーグに在籍。(日向もAリーグ)
1回戦を見る限り、受け主体の麻雀。先手に対してしっかり受けるのはもちろん、序盤の手組、仕掛けへの対応は卓内では頭一つ抜けている。
勝ち上がりへの気持ちは3者同様。対局にどっぷりと浸かっているものの、足木の打牌スピードは変わらない。
まるで自分自身を俯瞰しているように一定のペースを保ち続ける。
東1局1本場、日向の仕掛けに丁寧に対応した足木。好形テンパイで追いつきリーチ。
リーチ ドラ
これを一発でツモリ1,000・2,000。
東2局では足木の麻雀観が垣間見えた1局。
ツモ ドラ
、などが打牌候補かと思われたがここからツモ切り。良形の最終形が想定できるまではドラを離さずに我慢。次巡ツモ、打。そして
ツモ 打
ここでドラをリリース。次巡ツモ、打のリーチ。これも一発ツモの1,000・2,000。
どのタイミングでドラをリリースしても動かれることはなかったが、じっくり構えアガリが見えたら一気に切り込む。重さと鋭さを感じた。
更に足木は宮内から6,400、西嶋から5,200を打ち取り50,000点オーバーの大トップ。これで苦しくなったのが宮内。
南3局を迎え16,300点のラス目。1回戦に続き、連続の4着は決勝進出の道が非常に険しくなる。
この南3局では23.900点持ち3着目の日向が先制リーチ。
リーチ ドラ
これを引かれると親番の残っていない宮内は連続4着濃厚。自身でも想定外の展開だろう。
宮内は全5回戦の戦いにおいて、2戦目で早くも腹を括る。
このリーチに対し6巡後に追いつく。安全牌はツモ切った1枚のみ。5枚の無筋を河に投げつけ追っかけリーチ。
暗カン リーチ
日向のは4枚残り、宮内のも4枚。
1回戦では何度となく日向に追いつかれアガリをもぎ取られた。その借りをきっちり返す。
宮内渾身の2,000・4,000。現女流桜花、傷だらけになりながらも戦線に踏みとどまる。
2回戦成績
足木+29.9P 西嶋▲4.7P 宮内▲4.7P 日向▲20.5P
2回戦終了時
西嶋+35.6P 足木+16.2P 日向▲9.6P 宮内▲43.2P 供託1.0
3回戦(起家から宮内・西嶋・足木・日向)
ネットの普及により麻雀対局を手軽に視聴できる環境が整った昨今。多くの女流プロがその画面上で活躍している。
宮内、日向、足木。誰もがその名前を耳にしたことはあるだろう。
その活躍をこれまで視る側だった。そんな選手がこのベスト8に挑む。
西嶋ゆかり。
名実ともに3者からは見劣りする。本命宮内、対抗日向・足木、大穴西嶋。彼女の耳にも届いていたであろう戦前の予想。
誰かが彼女を評して呟いた。ダークホース。
そんな西嶋は2回戦終了時、トータルポイント首位に座しゲームを引っ張る。目の前にそびえる、高すぎる壁の前に仁王立ち。この3回戦でトップを取れば決勝までは一本道。
そんな西嶋、東1局では勢いそのままに2,000・4,000。
ツモ ドラ
更に東2局1本場。親番を迎えた西嶋。自身が感じていた好調が確信に変わるアガリ。
ロン ドラ
流局間際の17巡目。序盤からドラのを各自が1枚ずつ抱え非常に重い展開。
中盤からツモの伸びが凄まじかった足木。17巡目チンイツテンパイ。ドラ単騎のテンパイも選択できる。
西嶋のテンパイ打牌は場に対して目立つ牌ではない。テンパイ気配はない。チンイツのアガリがあるかもしれない。
足木、一瞬の心の綻び。そこに西嶋が食らいついた。
その後もゲームを引っ張る。後手番になっても上手くアガリを拾っていく。1回戦に続いて2度目のトップ。
人に押し付けられたダークホースの烙印を自らの手で拭い去る。
目の前にそびえる高すぎる壁。西嶋はその壁を越えてゆく。
3回戦成績
西嶋+34.3P 宮内+12.6P 日向▲15.7P 足木▲31.2P
3回戦終了時
西嶋+69.9P 足木▲15.0P 日向▲25.3P 宮内▲30.6P 供託1.0
4回戦(起家から足木・日向・西嶋・宮内)
2回戦南3局。すでに苦悶の表情を覗かせていた宮内。
3回戦終了時トータルポイント最下位ながら、何とか戦線に踏みとどまっている。
麻雀において各上、格下の差があるのは当然。しかし、勝負は常に紙一重なのかもしれない。
西嶋が大きく抜け出し、ここからは3者で1つのシートを争う。3者にとって大事な、大事な4回戦が幕を開ける。
先制は日向。東1局から大物手。
ドラ
ホンイツ狙いの西嶋が10巡目にドラをツモ切る。これを仕掛け打。次巡ツモでテンパイ。
13巡目足木、以下の1シャンテンから放銃。
ツモ 打
、は2枚切れ、は3枚切れ且つ1枚は自身の河に捨てられている。親番とはいえ1回戦の足木からは考えられない放銃。
3回戦で西嶋に単騎を放銃したことが、足木のメンタルを大きく揺らしているように感じた。
ここまで受けの強さを存分に発揮し、返す刀で鋭さも見せた足木。しかしこの放銃以降、足木には劣勢をはね返す余力は残っていなかった。
日向はこのアガリでトータルポイントで足木を抜き去り、宮内との差を広げる。
次局の親番は流れるも東3局で勝負を決定づけるアガリが炸裂。
5巡目テンパイの日向。
ドラ
これをヤミテンに構える。そして8巡目にツモ切りリーチ。このリーチ、待ちのがなんと山に4枚残り。
日向のツモル手に力が入る。そして16巡目、宮内の手にが舞い降りる。
ツモ
終局間際。は河に3枚見えている。余剰牌のは無筋。アガリまでは厳しいかもしれない。ここでギブアップであろう。
しかし宮内の考えは違った。
ノーテン罰符も惜しい。が通っている。自身からはドラが3枚見え。打っても安いだろう。
切りたい理由付けをした宮内は河にを放った。裏ドラ1枚の8,000。
明暗を分けた2人。この場面で当面のライバルから8,000直撃。このアガリで日向の持ち点は45,600、対して宮内は20,200。宮内には親番が2回残っており、まだまだ挽回可能な点差であろう。しかし現実は、勢い的にも精神的にも日向が圧倒的有利な状況を築き上げた。
現女流桜花、宮内こずえ。今更説明不要のトッププロ。
テレビ対局等では何度も優勝経験があり華やかな舞台がよく似合う。しかし彼女は、昨年女流桜花を獲得するまでプロ連盟のタイトルとは無縁だった。
華やかな舞台の裏に彼女の苦悩があったに違いない。悲願の女流桜花獲得。先行していた知名度に実績が裏打ちされた瞬間だった。
今回のプロクイーンは女流桜花としての自信と覚悟をもって臨んでいるに違いない。
この厳しすぎる逆境をはね返したい。否、はね返さなくてはならない。
このまま日向に押し切られてしまえば5回戦は消化試合になりかねない。
2回戦では戦線に踏みとどまるために腹を括った。この4回戦では決勝戦進出をその手に収めるために、宮内は再び腹を括る。
親を迎えた東4局。
積極的に仕掛けてまずは2,000オール。
チー ポン ツモ ドラ
東4局1本場。
以下が宮内の配牌。悪くはなさそうだ。
打 ドラ
しかし日向は更に好配牌第1ツモで役牌暗刻の1シャンテン。親落としにはもってこいの手牌。
ツモ 打
配牌は日向に分がある。宮内は前局同様積極的に仕掛けて出る。
、とツモリ5巡目にを仕掛けホンイツ狙い。
ポン
9巡目に日向がテンパイ。
、と引き込んだ宮内が次巡追いつく。
ポン
決着は直後。女流桜花の手元にが置かれた。4.100オール。宮内執念のアガリ。
持ち点は日向39,500、宮内38,500.おおよそ25,000点あった点差。それをたった2局で肩を並べる。
次局は宮内、足木の2人テンパイで流局。そして迎えた東4局3本場。
宮内配牌
ドラ
決して良い配牌とは言えない。北家西嶋は第1ツモで役牌トイツの1シャンテン。これで宮内の連荘は終わった。誰もがそう思ったはずだ。
宮内はこの親番で劣勢から十分に巻き返した。日向と宮内の争いは5回戦に持ち越しだろうと。
そんな思いをよそに、宮内は上しか見ていない。2冠をその手に。
宮内5巡目
ここまでは順調。そしてツモ。、は場に1枚ずつ放たれている。この日初めての少考。
…打。
トータルポイント、現在の持ち点、捨て牌状況、供託2,000点、3本場。これら全てを踏まえて現女流桜花の選択は2シャンテン戻し。
親の連荘と引き換えに打点を取りに行く。結果が求められる選択となる。
10巡目に、11巡目にを引き込み1シャンテン。
14巡目ツモ。テンパイ。ペンは山に1枚残り。3者はノーテン。同巡日向が仕掛ける。
それに同調するようにリーチを選択した宮内。
16巡目に見事結果を出す。
リーチ ツモ ドラ 裏
裏ドラを捲るその手が、ほんの僅かに震えた。これまで誰一人としてなし得なかった女流桜花とプロクイーンの2冠。
これを成し遂げるための、決勝進出のための大きな1局となった。
4回戦成績
宮内+58.3P 日向+8.8P 西嶋▲16.1P 足木▲51.0P
4回戦終了時
西嶋+53.8P 宮内+27.7P 日向▲16.5P 足木▲66.0P 供託1.0
5回戦(起家から足木・西嶋・宮内・日向)
西嶋の築き上げたポイントは遥か彼方。。ターゲットとなる宮内は本来の調子を取り戻した。
追いすがる日向は最後までその牙を剥く。全精力を傾け戦いを全うした足木。
最後まで諦めない2人を横目に宮内、西嶋の巧みなゲーム廻し。追いすがる両者にその隙は最後まで与えられなかった。
5回戦成績
西嶋+23.5P 宮内+10.6P 日向▲8.8P 足木▲25.3P
5回戦終了時
西嶋+77.3P 宮内+38.3P 日向▲25.3P 足木▲91.3P 供託1.0
西嶋が先行し、日向、足木がそれに続いた。戦前の予想とは真逆の展開になるも宮内が地力を見せつけた。
敗れはしたものの素晴らしい対局を見せてくれた日向、足木。
勝ち上がりは、初の決勝進出となる西嶋、2冠を目指す宮内の両名。
カテゴリ:プロクイーン決定戦 レポート