第42期王位戦 決勝観戦記 白鳥 翔
2016年12月26日
「ツモ。8,000・16,000は8,100・16,100。」
ポン ツモ ドラ
第42期王位戦は最終戦南3局で樋口徹が劇的な緑一色をツモアガリ、その栄冠を手にした。
それではそこに至るまでの軌跡を記していきたいと思う。
決勝に駒を進めたのは以下の4名。
準決勝1位通過 浦山祐輔
21期生。北海道本部所属。18歳でプロ入りし現在12年目。
準決勝2位通過 宮内崇成
31期前期生。現在D3リーグに所属。
準決勝3位通過 伊藤優孝
A1リーグ所属。第3期最強位、第9期鳳凰位など獲得タイトル多数。
もちろんこの決勝において本命中の本命。
準決勝4位通過 樋口徹
28期生。所属リーグはD1リーグ。
今期決勝に残ったのは全員が連盟員だが、宮内が28歳、浦山が30歳、そして樋口が35歳と若く、そして3人が初の生放送での対局である。
経験も実績も格段に違う伊藤相手に若手3人が挑む、という格好になった。
1回戦(起家から樋口→宮内→浦山→伊藤)
東1局、親の樋口の先制リーチには誰も向かえず流局。
同1本場、樋口が1鳴きからの2フーロ目を入れてテンパイ。
ここにツモで宮内。ツモ切り、ツモ切りとピンフのみにもなりかねない1シャンテンから向かっていく。
親のポン出しがで、を1鳴きしている以上ほぼテンパイと見るのが妥当で、自分の手は高くきまれば7,700だがドラは無い。
放銃の危険ももちろん承知の上だろうが、ここは宮内の戦う姿勢が見られた1局となった。
この局望外のアガリは樋口。を加カンするとリンシャンにはアガリ牌のが。2,600は2,700オールと大きな加点となった。
次局も宮内、役牌を仕掛けてドラ1の1シャンテンから浦山のリーチを受けるも真っ直ぐに進め無筋を3枚押した後にツモアガリ。
今日はとことん攻めきってやろうという強い気持ちの表れか。
前局押し切られてリーチを空ぶってしまった浦山だったが、東2局は樋口の仕掛けに対してホンイツで押し返し1,300・2,600のツモアガリ。
若手3人に1回ずつツモアガリが出た。
手牌が追い付いていない感のある伊藤だが、局面には冷静に対応。
ここから打としてテンパイトラズとし、最終的にはマンズにくっつけ567の三色ドラ1テンパイを果たして流局。
「打たない牌は打たない」と当たり前のことかもしれないが、たった5回戦の間のトータルトップにしか意味が無い決勝ではそのバランスを保つ事は容易ではない。しかし伊藤はこの決勝を通してこの様なプレーを幾度となく見せてくれた。
迎えた南4局、伊藤がを暗カンしてを手出しリーチ。かなり怖いリーチだがこのを樋口がチーして打。
うまく回りながらテンパイが組めれば、ということなのだろうが完全な安全牌はしかないこと、チーした場合現状のハイテイが伊藤に回る為ツモが1回増えてしまうこと、自身が勝負形になり尚且つ打つ牌が安全牌になる率などを考慮すると、鳴かずにツモ山に手を伸ばした方が得な選択に思えた。
結果は伊藤のツモアガリであったを喰いとって流局に。
しかしここから伊藤が、2,600は2,700オールや1人テンパイで加点。トップまで突き抜けて初戦を終えた。
1回戦終了時
伊藤+26.4P
樋口+14.5P
宮内▲17.7P
浦山▲23.2P
2回戦(起家から樋口→宮内→伊藤→浦山)
東1局、浦山のトイツに寄せた打点を見た手組みが光るも流局。次局はタンヤオで仕掛けてドラとのシャンポンで勝負に行くも親の樋口とぶつかって放銃に回るというきつい展開。
この半荘も樋口、伊藤が抜け出す展開になりそうだったが南1局で浦山と伊藤の2人リーチに挟まれた親の樋口が安全牌に窮して、
ロン ドラ
5,200を浦山に献上。
これでこの半荘1人沈みとなってしまった親番の宮内、南2局に樋口のリーチに3メンチャンのリーチで追いかけるも樋口へ5,200の放銃。
続いてのこの放銃はやはり焦りが生んだ放銃だったか。
ここは打点を落としても打とすべきだろう。
しかし、南4局は冷静に1人沈みを受け入れる1,000点のアガリ。大きく伸ばしたいのはもちろんだが、他者に得点を伸ばす隙を作らないプレーで纏めた。
2回戦終了時
伊藤+33.4P
樋口+31.4P
浦山▲21.3P
宮内▲43.5P
3回戦(起家から宮内→伊藤→浦山→樋口)
浦山、宮内にとってはこの3回戦が正念場。これ以上、上位陣と離される様だと優勝はかなり厳しくなってしまう。
東1局、宮内にとって今日一番アガリたいであろうダブホンイツのテンパイが入るも伊藤からのリーチ、そしてドラドラの1シャンテンの浦山が放銃。
ここから浦山、宮内にとっては最悪の展開になってしまう。浦山が勝負に行くべき手牌でリーチを打つも宣言牌などで宮内に放銃し、更なる加点を狙う宮内が伊藤に勝負を挑み放銃といった形になってしまった。
そして、対局終了後、浦山がもっとも悔いていたのがこの局。
準決勝から観ていても普段通りの浦山ならもちろんこの放銃はない。しかし、このトータルトップにしか意味が無い決勝だからこそこの親番で勝負を掛けた、というのが浦山の気持ちだろう。
どうにかしてテンパイ維持しないと、と思ってしまう気持ちは痛いほど分かる。が、放銃という結果が出たから本人が悔いていた様には思えなかったので、やはり「優勝に近づく一打」というよりは「優勝を遠ざける一打」なのだろう。
南4局は樋口が粘りに粘って局を繋げ3本場まで連荘。宮内が何とか浮きをキープするアガリで終了。
3回戦終了時
伊藤+56.1P
樋口+44.8P
宮内▲41.6P
浦山▲59.3P
4回戦(起家から伊藤→裏山→宮内→樋口)
現実的には伊藤と樋口のマッチレースだが、当然宮内、浦山も諦めない。
東3局に中盤、ふっと樋口が六を打つと今テンパイした宮内が七対子ドラ2の9,600をアガる。これには樋口もグラっときただろうが、次局には宮内の親リーチに4枚切れの現物待ちで役アリでリーチを打つと、見事引きアガリ2,000・3,900は2,100・4,100のアガリ。樋口の強い気持ちが表れた1局だ。
しかし相手はあの伊藤だ。
見事な対局観、状況判断で的確なヤミテン。すぐに浦山から出て7,700は8,000のアガリ。死神の一閃が出た。
南4局、親番を迎えた樋口は形式テンパイでドラも切ってテンパイをとりに行くも、その後宮内に放銃。伊藤が浮き、樋口が沈みで終了となった。
4回戦終了時
伊藤+67.5P
樋口+37.7P
宮内▲24.4P
浦山▲80.8P
最終5回戦(起家から樋口→宮内→浦山→伊藤)
伊藤と樋口の差は29.8P。宮内、浦山は厳しいがやれることをやるしかない。
東1局、樋口は粘ってテンパイをとっていたが、結果は望外だった。
三色に振り替えてリーチを打った宮内、を2枚スルーして四暗刻をテンパイした浦山、両者見事だったがここで伊藤がタンヤオ七対子ドラ2テンパイから宮内に放銃。
続く東2局は、浦山がハイテイでメンチンリーチをツモって4,000・8,000。先程、3回戦で挙げた浦山が対局後に悔いていたのは、例えば前局の四暗刻も就してこの後メンチンをツモアガっても、あの放銃が原因で優勝に届かない場合があると。そういう手が万が一アガれた時に焦ってはいけないと、そういうことだったのだろうと思う。
伊藤の親番は、樋口が安目ながらツモって700・1,300のアガリ。
そして樋口最後の親番。
決まった。と、思った。
最後の最後でやはり経験の差が出たな、と。
ツモ番無しからドラポンに向かっている伊藤に対しても、トイトイ濃厚な宮内に対しても危険に見える、ションパイの打ち。
誰かに鳴かれてまだテンパイの可能性を求めたか、伊藤に打っても安いと思ったのかは分からないが結果は最悪だ。ここでテンパイに固執しなくても十分に勝負になる点差なだけにやはりこの打ちは罪が重い様に思えた。
しかし、、、冒頭の緑一色によって第42期王位は樋口徹が戴冠した。
この決勝戦、間違いなくダントツに内容がよかったのは伊藤だ。『死神の優』未だ健在と思わせる様な素晴らしい闘牌だったと思う。
浦山と宮内は序盤の失点から自分の思うようなプレーをさせて貰えなかったのだろうなと準決勝からのキレのあるプレーを見て思った。
緑一色をツモった時点での樋口と伊藤との差はたった8.8P差だった。確かに緑一色は運だったかもしれないが、そこまで必死に喰らいついていたのは事実。
樋口の勝ちたいという気持ちに牌が呼応した様な瞬間だった。
打ち上げの席で伊藤が言った。
「麻雀の神様がお前を選んだんだよ。選ばれたんだからこれからしっかりな。おめでとう。」と。
若手にとってタイトルとはステップだと思う。チャンスを得る権利とも言えるかもしれない。
王位を獲得した樋口にとって、本当の真価が問われるのはこれからだ。
徹しゃん、おめでとう。
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