第52期北海道プロリーグ決勝戦観戦記 望月 雅継
2018年03月22日
全国各地に広がるプロ連盟の地方本部支部。
北は北海道から南は九州まで、8ヶ所に渡って展開している事がプロ連盟の強みの1つであると感じている方も多くいらっしゃることだろう。
一昨年から始まった夏目坂スタジオでの地方リーグ決勝戦。
今回、満を持して北海道プロリーグの決勝戦が開催される運びとなった。
北海道プロリーグが夏目坂スタジオで開催される事に伴って、変更された点が二点。
1つは、半年間だったリーグ戦を1年間に渡るリーグ戦に変更したということ。
もう一つは、ポイントを持ち越さず、決勝戦はポイントをリセットして行うという事。
この二点に加え、来期からリーグ戦を3リーグに分ける事が決定していた為、今期の成績が来期以降の選手に大きく影響する事となっていた。
そんな中、一年間に渡るリーグ戦を勝ち抜き、夏目坂スタジオで行う決勝戦に進出した選手は4名。順に選手を紹介していこうと思う。
4位通過 加藤晋平 27期生
1988年9月25日生まれ 29歳
第45期北海道プロリーグ優勝
決勝進出は3度目。
この中で最年少ではあるが、優勝経験もあり実力は十分との評価も。
『周りは関係なく自分の麻雀を打ちたい!』
こうやって言い切れるメンタルの強さこそが加藤の強みであり評価の対象となっているのではないかと、電話越しの力強い加藤の声を聴いて感じた第一印象だ。
とはいえ、自己評価はかなりのアガリ症だとのこと。
初の映像対局の舞台だけに、いかに早く本来の自分の麻雀を打てるかどうかが勝敗のカギとなろう。
『普段地元で行っている麻雀教室の生徒さんや、友人たちに良い報告が出来る様、最高のパフォーマンスを見せたい!』
と語る加藤。勝負は初戦。良いスタートが切れるかが勝負の分かれ目となろう。
3位通過 喜多清隆 28期生
1964年8月4日生まれ 53歳
3期連続の決勝進出。
北海道の麻雀関係者では知らない人がいない程の、言わずと知れた北海道麻雀界の重鎮。
プロ連盟入会は遅かったものの、以前には最高位戦にも籍を置き、実績、経験共に十分。
自身が札幌で麻雀番組を持っている為に映像対局の経験も豊富。
ここまで聞くと穴が無いように聞こえるが、事前アンケートでは意外にも低評価。
それは、喜多以外の3人の雀風が影響していると喜多は語る。
『守備型と言われている石田でさえも、自分から見れば3人ともに似たタイプだと感じる。』
決勝の舞台や映像対局という事に特別な意識を持たず、平常心で対局に臨む喜多。
麻雀はいろんなコントラストがあり、個性と個性がぶつかり合うことに楽しみを感じていると語るだけに、プレイヤーというよりプロデューサーとしての立ち位置での発言が非常に多いのが面白い。
『新しい自分に会いたい。』
喜多を知る人なら、なんて喜多らしい表現だ!と感じる事だろう。
北海道本部の未来を背負って、副本部長の新たな挑戦が始まる。
2位通過 石田雅人 26期生
1975年1月22日生まれ 43歳
第47期北海道プロリーグ優勝
北海道本部の中でも最北の雀士。ということは、日本一最北の麻雀プロだという事になるのだろうか。一見するとクールなイメージだと思うのだがハートは熱い男だとの印象がある。
『今回は特に勝ちたい!』
47期北海道プロリーグで初優勝してから、6期中5期決勝進出の石田。
現在の北海道本部においてはエース格と呼んでも良いほど、近年は好成績を残している。
映像対局においても、2013年の最強戦プロ代表決定戦の経験があり不安はなさそうだ。
『最強戦の時は良い麻雀を打ちたい、負けてもいいからカッコ良く打ちたい。』
そう考えていた石田だが今回は違う。
『無心で色気無く、とにかく勝ちたい!不格好でも勝ちたい!』
普段は守備型で受け重視のスタイルを、今回の決勝戦ではリミッターを外して優勝だけを狙う石田。どこで思い切り良く踏み込むか注目したい。
1位通過 山屋洋平 33期生
1980年4月8日生まれ 37歳
入会初年度でいきなりの首位通過を果たした山屋。
1年目の新人であるが、この男、ただの新人だとは思わない方が良さそうだ。
『テスト生の頃、自分は先輩たちの麻雀を見る事が出来たのですけど、相手は自分の事を知らない分、有利だったのだと思います。』
自分の長所は?という質問に対し、
『人を見る事ですね。洞察力です。癖を見抜くのが得意です。』
なるほど。自身で【サイコロジー麻雀】というだけありそうだ。
と言っても、
『今回はマークされる立場になればわからないです…。』
と謙虚な一面も。
『自分が楽しんでいるところを観て、みんなに楽しんでもらいたいです。だから自分が一番楽しみです!』
掴みどころがない男とはこういうタイプの男を指すのだろうか。
とにかく、山屋がこの戦いのキープレーヤーになりそうな予感を感じ、対局前のインタビューをまとめてみた。
初めての夏目坂、初めての映像対局。
歴史のある北海道プロリーグの決勝戦が、実況日吉辰哉の合図で始まった。
1回戦
起家から(加藤―山屋―喜多―石田)
東1局、開局から鼻を切ったのは意外にも喜多。
積極的に3フーロ、そして加藤から打ち取り。
ポン ポン ポン ロン ドラ
思い描いた形ではないだろうが、まずは先制。
トイトイがない牌とはいえ、放銃した加藤を見つめる喜多の目が印象的な立ち上がりとなった。
続いたのは石田。
東2局、テンパイ一番乗りは加藤だが、6巡目、
ドラ
いろいろな選択肢がある牌姿ではあるが、加藤は長考。打とテンパイを取る。
対する石田は8巡目、
ツモ 打 ドラ
気持ちよくリーチ。そして一発ツモ。石田も結果を出す。
山屋は見。加藤はここまでの迷いが画面越しにも伝わってくるのだが…。
そして次局、この決勝の行く末を占う為に重要な1局となる。
東3局、最初の分岐点は5巡目の加藤。
ツモ 打 ドラ
自然な手順でホンイツへ向かう。
対する南家の喜多、
ツモ 打
ここから単独孤立牌のを浮かせ、打。
三色とイーペーコーを見据えた一打を打って1シャンテンに構える。
8巡目の加藤。上家石田からをポンしてテンパイ。
ポン
このアクションが今シリーズの行方を左右する引き金となったことに、加藤はまだ気付かない。
下家の山屋に喰い下がった牌は。
ツモ 打
絶好のツモで1シャンテンに。
次巡加藤、選択の場面。
ポン ツモ 打
一気にチンイツに渡る打も十分に考えられるところ。
しかし加藤は、少考の後、打とツモ切り。現状のテンパイを続行する。
同巡山屋、ツモでテンパイ、打。
シャンポンテンパイも、ここはが二枚切れ。冷静にヤミに構える。
次巡加藤、ドラのをツモ切り。ドラを喰い下げられたのは石田。
石田にが入っていれば、
難解な形とはなったが、この形なら十分に勝負出来る牌姿か。
このドラが喰い下がったことが目に見えてわかった石田、次巡から受けに回らざるを得なくなる。
こうなれば加藤と山屋の勝負。
11巡目山屋、ツモ。が二枚切れなのもあり、ここは丁寧に打。
手牌の再構築にかかる。
12巡目ツモ、打とツモ切り。
13巡目ツモ、打。打としていればカンのテンパイであったが…
14巡目ツモ。これが最終形と打リーチ!
リーチを受けた加藤、16巡目ツモ。
待ちのチンイツテンパイ逃し。
次巡17巡、ツモ。これでチンイツのアガリ逃しが自身にも伝わった。打。
加藤のアクションから始まった東3局。
加藤の目に見えない部分でも他家に大きな影響を与え、そして自身の目にも選択ミスが伝わった瞬間、山屋に強い追い風が吹いたのかもしれない。
山屋17巡、ツモ。1,000、2,000。
ツモ
加藤の受難はまだ続く。
対局を終えてのインタビューにおいて、喜多と石田が共に『加藤のエラーだ!』と口を揃えたように振り返ったのが東4局。
親の石田は4巡目、
ツモ 打 ドラ
この1シャンテンに。
8巡目加藤の手牌。
ツモ 打
自身で1枚切っているを手中に残し、2シャンテンからダブを切り出す。
このを石田がポンしてテンパイ。
このシーンを喜多が振り返る。
『ダブを切り出した後に、自身が切っているを手出し。この打牌に違和感を覚えた。もしがテンパイ打牌だとしても→の切り順がおかしいし、この局の石田にアガリがついたことは間違いなく加藤のエラーだろう。この結果、アガらせてもらった形になった石田に対してマークを入れなくてはならなくなったのは事実だ。』
望外のアガリをモノにする形になった石田も、
『ここでダブが放たれるのはおかしいでしょう。これは明らかに加藤のエラー局。加藤の将来の為にも、この局を是非ピックアップしてください。』
2人はこのように語る。
当人の加藤はというと、
『自分はいらない牌を切り続け、前に出るスタイルで決勝戦まで勝ち上がってきました。結果は良くなかったのかもしれないけれど、を切ったことには後悔はありません。決勝戦前から考えてきたポイントとして、3人共に受けが強い選手だけに3人のフィールドで戦っても勝てないと考えていました。放銃することもあるかもしれませんが、自分のフィールドで戦って優勝したい!そう考えていたのですが…』
なるほど。
加藤の考えていたことはよくわかる思考であるし、私自身も若手の頃似たような思考のもとに対局に挑んでいたこともあった。
対して喜多や石田の言いたいことも良くわかる。戦うにしても、開局早々から展開が向かずフラフラしたような状態で戦っていた加藤であるからこそ、ここは我慢をして丁寧に打牌選択をすべき局面であっただろうと。
字牌の扱い方には様々な方法があるのは事実。
切り出し一つ違うだけで、その後の展開が大きく変わることも多々ある。今回はまさにそのような状況であったことは間違いない。
もし加藤がを切らなかった場合はどうなっていただろうか?
最速のテンパイは喜多。
9巡目に、
この手をテンパイするも、リーチ判断はどうするのか?
喜多の事であるから、局面も含めリーチを宣言したのかもしれない。
次巡山屋が、
こちらは打牌選択がある形。
ピンフテンパイの打か、一気通貫の打か。
この選択は、喜多のリーチアクションがあるかどうかによっても変化があるだろうと推測する。
親番の石田は11巡目にようやく、
と選択の場面。
2者にテンパイが入っている状況での打牌選択となるだけに、石田の雀風的にもここは無理をしない牌を選びそうだ。喜多のリーチ次第では中抜きも考えられるか。
そして加藤。
石田と同じ11巡目では、
と全くツモが利かずに1人蚊帳の外。
つまりは石田の仕掛けが無かった場合には、全く戦える局ではなかったという事だ。
喜多と石田は、このような形を予測していただけに、石田の仕掛けに違和感を覚えたのだろう。喜多としては局が歪んだとの感覚を、石田としてはアガらせてもらったとの感覚をそれぞれ感じたからこそ、2人とも今局をピックアップしたかったのだと思う。
仕掛けが入っていなければ、石田がアガった巡目には決着がついておらず、喜多が勝ったのか、山屋が勝ったのか、はたまた流局したのか、結果は全くわからない。しかし実際の結果は石田の勝利。2,000オールのツモアガリ。
ポン ツモ
結果で語るのではなく、今回の決勝戦の大きなカギとなったこの局。
牌の1枚の後先で人生が変わる戦いをしているのだという事を、この局の結果で加藤は感じる事が出来ただろうか。恐らく、対局中の加藤には感じ取ることが出来ていなかったように感じる。因果関係があるかどうかは全く分からないが、何故なら、この結果を真摯に受け止めていたのなら、この後に受けるダメージをかわし切ることも出来た可能性があるからだ。
石田と加藤、そして喜多にとって大きな変わり目となった局を、失点による被害だけに抑えた形の山屋。この日の山屋は大きなアクションの後の局に必ず結果を出す。
続く東4局1本場4巡目の山屋は難解な形。
ツモ ドラ
この難解な手も7巡目には、
ツモ
最速のツモアガリ。
人生で麻雀にかかわっている時間は全国でもトップクラスと豪語する山屋。
2歳でメンツの作り方を覚え、3歳で30符と40符の違いを何となく理解したと語る山屋は、麻雀界の神童だったのかもしれない。そんな山屋が満を持しての全国デビュー。
この決勝戦は山屋の為にあったといっても良いのではと感じさせるプレイが、ここから随所に発揮されることとなる。
新人の山屋がトップ目を悠々と逃げるのを、ベテラン勢も黙ってはいないだろう。
南1局、山屋5巡目のリーチ。
リーチ ドラ
役無しテンパイを拒否してからの、ドラを引き込んでの十分形のリーチ。
このリーチを引きアガるようなことがあると、山屋のワンサイドゲームになってしまう恐れも十分な状況。
ここに立ち塞がるのは喜多。
2巡目に自風のをポンした喜多は、9巡目にもポンし、
ポン ポン
と真っ向勝負。
ここに飛び込んだのは親番加藤。
半荘4回勝負と短期決戦であること、そして親番であることも理由の1つか。
危険なことは十分に承知の上で、自身のテンパイを優先しリーチ宣言。しかし無情にもそれは喜多の望んだだった。
ツモ 打ロン
加藤『ちょっとふらついていたのかもしれません。リーチをもらってから受け気味に打っていたら入ってしまったテンパイ。テンパイしたからという理由だけでリーチを宣言してしまったような気がします。』
しかしここは、加藤には踏ん張ってほしかった瞬間であった。
山屋のアガリを生むことになったアガリ逃し。石田のアガリを生んだ手拍子に映るツモ切り。そして超危険牌での喜多への放銃。
3者に対し、まるで均等に分け与えるかのような失点(正確に言えば失点ではないのだが)が続いては、決勝戦という舞台で最良の結果を導くことは難しいであろうことを、麻雀プロなら皆知っている。この失点を許して加藤に優勝させるほど甘い面子ではないし、楽な舞台ではない。最終的には加藤が準優勝で終わるわけだが、それは各自が優勝だけを目指して戦った結果自動的に押し上がった数字であったことを忘れてはならない。
厳しい事を言うようではあるが、加藤がもう一度この舞台で戦い、頂点に立つ為にはこの1回戦での一連のアクションと結果を胸に刻み込んでほしいと思っている。
さて、このアガリをきっかけに反撃の狼煙を上げたい喜多。
望外の結果を受け、山屋を追う一番手として名乗りを挙げるのだが、ここから山屋の【サイコロジー麻雀】が炸裂する。
南2局のリーチはアガリには結びつかなかったものの、10巡目の
ツモ 打 ドラ
打のテンパイも、14巡目のツモでの空切りリーチ。
これは、テンパイ打牌のが関連牌になるのを嫌ってのことか。空切り出来る牌を待ってからのリーチアクション。
続く南2局1本場、山屋の勝負手が決まる。
喜多が8巡目に先制テンパイ。ここは冷静にヤミテンを選択。
ドラ
一手変わりタンピン三色だけに、喜多としても当然の選択。
ここに追いついたのは親番の山屋。11巡目
ツモ 打 ドラ
ドラが、そして親番だけに、ここは打でリーチ、もしくはヤミテンか…
と、思いきや、山屋の選択は打のヤミテン!
のピンフドラ2のテンパイに取らず、三色ドラ2のテンパイを選択。
ドラのがこぼれないなら…との選択なのか?
山屋『この局は、少しでもでの出アガリ率を高めるにはどうしたらよいか?を考えていました。に受ける選択はここではなかったです。』
このを掴んだのは喜多。
前局のリーチが効いているのもあるが、自身の手も勝負手と成り得る手だけに、この放銃は責められないか。兎に角、当面のライバルから貴重な12,000を奪い取った。
追う立場の喜多としては、この放銃は致し方無いところなのかもしれない。
勝負は短期決戦。終わってしまったことは早く忘れて、次の反撃の機会を窺う事がこの瞬間の最善の策であろうと私は考える。
その為には、早く冷静な心を取り戻し、いつも通りの麻雀を打つことが大切なのだが…
喜多のメンタルを削るようなアクションと結果が、立て続けに起こってしまうこともまた、皮肉な事だと言えるのかもしれない。
南3局7巡目、石田がチー。
チー 打 ドラ
山屋を追う石田としては、争う喜多の親番だけに必然のチーテンなのかもしれない。
しかしこのアクションが、喜多の心を大きく揺さぶる。
親番喜多の手は、
スピードは劣るが、先程の負債を一気に返済するチャンスがある大物手。
しかし、下家石田がツモ切った牌は、、。
石田が仕掛けなければ、喜多の手は、
この大物手のテンパイが入っていたことは喜多の目には明白。
喜多『中途半端な状態で良いとは思っていなかったが…手格好だけみれば良い形と言えるのかもしれないが、手ごたえはまるでなかったので。』
結果、この手はテンパイすら入らず加藤への放銃で終局。
山屋の大躍進とは対照的に、喜多と加藤の不調が目についた1回戦となった。
1回戦終了時
山屋+26.1P 石田+4.8P 喜多▲10.5P 加藤▲20.4P
2回戦
起家から(石田―加藤―喜多-山屋)
加藤の1人テンパイで幕を開けた2回戦、早くも東2局にスーパープレイが飛び出す。
東2局1本場、山屋の7巡目の牌姿がこちら。
チー 打 ドラ
ドラが暗刻の超勝負手。
ツモリ三暗刻からトイトイ変化、四暗刻まで見えるこの形からをチー!
とのシャンポンテンパイに受ける。
出アガリは利かないこの形。
にチーの声が掛かるプロが果たして何人いるのだろうか。
山屋『はポンしてタンヤオに移行します。』
と終了後に語っていた山屋であるが、なかなか声が出る場面ではないだろう。
プロ入り1年目、初の決勝、そして初の映像対局。
普段からこのような仕掛けを打っていなければ出来るモノではないし、普段出来ていたとしてもこの大舞台でなかなかこのアクションに踏み切れるものではない。
山屋『1回戦トップだったので、テンパイ速度を重視して仕掛けました。』
緊張して対局に入ったであろう山屋だが、この段階ではもう普段通りの山屋の麻雀を打てていたという証拠のような仕掛けである。
ただ、このような仕掛けは時に大きな失敗となる場合が多い。
ましてや映像対局、この仕掛けが視聴者の皆さんに与える影響も大きいだろう。
つまりはこの仕掛け、仕掛けたからには結果を出さなければならないと考える麻雀プロも多いはずだ。
しかし山屋はいとも簡単に正解を導き出す。
9巡目、ツモ!
チー ツモ ドラ
鮮烈なアガリは、全国に山屋の名を響かせるのには十分すぎるインパクトとなっただろう。
山屋洋平の名を全国に轟かせるべく、この後山屋はさらに足を使うようになる。
解説の西野が
『普段から積極的に仕掛ける選手です。』
と語っていた通りの鋭い仕掛け。
この段階ではまだ私も気が付かなかったが、後に山屋の思惑がくっきりと見える瞬間が訪れる。が、まだこの段階では実況、解説、また視聴者も山屋の思惑には気が付かないまま局は進行していく。
仕掛けの精度や結果に関係なく、このような動きによって有利不利が働くのも麻雀の面白い所。この日の山屋の仕掛けがプラスに働いたのが石田。そして大きくマイナスに作用したのが…喜多である。
東3局、テンパイ一番乗りは加藤。4巡目、
ツモ 打 ドラ
変化が利くテンパイも、ドラ引きと三色を見据えテンパイ取らずのツモ切り。
加藤もようやくこの舞台に慣れてきたようだ。ツモもテンパイ取らずのツモ切り。今局の加藤からは強い意思の感じる打牌に、勝ちたいとの気持ちが画面越しにも伝わってくる。
ここで登場はまたもや山屋。
5巡目、喜多が切ったをチーして打。
チー 打
一通を見るにしても、あまりにも遠く早すぎる仕掛け。
この後山屋の一貫性を垣間見ることになるのだが、この時点では山屋の意図はわからずじまい。
この仕掛けによってダメージを受ける事になるのはやはり喜多。
次巡、山屋がツモ切ったドラのは、
このペン。
絶好のツモを喰い下げられたのが目に見えただけに心中穏やかではないだろう。
喜多『山屋の手は入っていない。この局の仕掛けを見てわかりました。ただ、追いつこうだなんて思ってはいなかったのですが。』
逆に恩恵を受けたのは石田。7巡目、
ツモ 打
気持ち良く先制リーチ。
二度のテンパイ取らずとした加藤も念願のを引き込みリーチ。石田と全面対決の構え。
ツモ 打
石田にとっても加藤にとってもここは大事な勝負所。ツモる手にも力が入る。
有効牌が喰い下がった喜多は戦意喪失か、2人の勝負を見守り、このリーチを誘発した形の山屋は2件リーチなどどこ吹く風。何事もなかったかのように完全撤退を決め込む。
この局面を制したのは現状2番手の石田。
高目のドラを引きアガリ、山屋に喰らいつく。
リーチ ツモ
このアガリがあっても、山屋の動きは自由自在。
東4局では、
チー 打 ドラ
この喰い替え。
公式ルールでは現物以外の喰い替えは認められているのだが、このチーは明らかにタンヤオ志向に見える仕掛け。ドラがなだけに一見すると不利に見えるこの仕掛けも、ひょっとしたら【サイコロジー麻雀】といったところなのか。
山屋『この局はほぼオリですね。相手をしっかりと見極める為の仕掛けです。』
南1局、ここまで苦しんでいた喜多に一筋の光りが。
4巡目2枚目のをポンした喜多は、ツモで緑一色に向かう。
ポン ツモ 打
この仕掛けに、親番の石田がぶつけに行く。
石田だってこの親番が勝負になることくらい承知の上だ。
7巡目、親石田は手変わりを待たずに即リーチ。
ツモ 打 ドラ
ピンフの手変わりも、二手変わりのジュンチャンも、色は仕掛けの喜多と同色。
それならば即リーチ!と石田の意思が良く伝わるこのアクション。この手を引きアガって、優勝争いに名乗りを挙げたいところだろう。
石田の待ちはカン。この時点では残り3枚もある。
しかし、石田の待ち望む牌を先に引き込んだのは喜多。
ポン
とで緑一色テンパイ。石田の当たり牌も使い切れる形。
は1枚、は2枚、も2枚。
解説陣も本日一番の盛り上がりを見せるが…
この勝負に引き勝ったのは石田。
値千金の3,900オールで一気に山屋を抜き去りトップに躍り出た。
こうなると石田と山屋のマッチレースになることだって十分に考えられる。
しかしそんなに簡単に逃がさないところが決勝戦たる所以。
南1局2本場、石田、山屋、喜多テンパイ。
南1局3本場、喜多500・1,000(+900)
南2局、山屋→加藤1,500
南2局1本場、山屋→加藤1500(+300)
1人ノーテンで失った点棒を、親番の加藤が少しずつではあるが巻き返す。
1回戦ラスを引いただけに、何とか原点には復帰しておきたいところだ。
トータルトップ目の山屋も、安いとはいえ2局連続の放銃は気持ちいいモノではないだろう。
加藤の願いが通じたのか、南2局2本場、親番加藤は絶好のカンを引き込みリーチ。
時間は掛かったものの、を引きアガって2,600は2,800オールと石田に続く2着目に浮上。
リーチ ツモ ドラ
ここまで苦しんできた加藤。
戦前の評判は上々で、今期かなり充実しているとの話も伝わってきた。
初めての映像対局でかなり緊張感は伝わってきたのだが、2回戦も終盤に入りようやく普段の調子を取り戻してきたのではないか。
石田が抜け出し、加藤が喰らいつく展開がよろしくないのは喜多だろう。
初戦トップの山屋を加えた三つ巴の戦いを、指を咥えて観ているわけにはいかない。
南2局3本場、先制したのはその喜多。
しかしテンパイ打牌は選択が分かれるところ。
ツモ 打 ドラ
三色と一通の天秤を掛けながら進んできた形。
テンパイ時には今度はタンピンと三色の天秤となる。
状況や点数に余裕がある立場なら、ここは打とタンピンに取る選手が多いかもしれない。
しかし喜多は追手の立場。確実な3,900や1,300・2,600より、安目があっても7,700や2,000・4,000が欲しいのは十二分にわかるところ。
そんな喜多の心理をついたのか、山屋はこのリーチに被せに行く。
10巡目山屋リーチ。そしてあっさりとをツモ。
リーチ ツモ
喜多『この手が負けたのは痛かった。自分のリーチが山屋のアガリを誘発した気がする。この結果をふまえて、今日は俺の日じゃないなと。』
山屋もこれで原点に復帰。
喜多は1人沈みを押し付けられる非常に苦しい展開に。
粘る喜多はオーラス、
ドラ
起死回生を目論みドラ単騎の七対子ドラ2のリーチを放つも無念にも純カラ。
1人テンパイでトータルトップ目の山屋を沈めたまま終局するのが精一杯。かなり苦しい状況で3回戦を迎える事となった。
2回戦成績
石田+14.9P 加藤+5.2P 山屋▲6.4P 喜多▲14.7P
2回戦終了時
石田+19.7P 山屋+19.7P 加藤▲15.2P 喜多▲25.2P
3回戦
起家から(山屋―加藤―喜多-石田)
2回戦トップだった石田と、マイナスに転じた山屋が同点で並び3回戦に突入。
石田と山屋は残り2戦の着順勝負であるが、現在マイナスの加藤と喜多はこの3回戦が本当の意味での勝負掛けの半荘となるだろう。
東1局勝負掛けの喜多、5巡目テンパイ取らず。
ツモ 打 ドラ
喜多としては、この半荘はトップが優勝への絶対条件。
ここは手数よりも一撃の重さを優先したテンパイ取らずか。
10巡目、待望のツモで打。
一手変わりのチャンタ三色といきたいところだが…この時点でなんとは純カラ。手牌変化の可能性はゼロ。
この喜多の先制テンパイに石田が追いつく。
石田11巡目、
ツモ 打 ドラ
絶好のツモ。願ってもない役アリテンパイとなった石田は、ここは冷静にヤミテンを選択。
喜多13巡目ツモ。
フラットな状況なら当然ツモアガリも、喜多は首位とは45P差のビハインド。
ここは打のフリテンリーチを敢行して、一気に点差を縮めたいと目論んだか。少考後、喜多の右手にはが握られていた。喜多、フリテンリーチ。
ツモ 打フリテンリーチ ドラ
このが石田にジャストミート。
ロン ドラ
喜多にとってはツモアガリを選択しておけば防げた失点。
それがフリテンリーチを敢行したおかげで5,200の失点。しかも石田のロン牌はリーチ宣言牌…。
喜多『普通はカンの仮テンからリーチかな。あの日の出来から、の在処がわからなかった。山屋がトイツ落としかなと思ったのだが、まさか暗刻だとは…』
ベテランの喜多であれば、この放銃の意味を十分に理解しているはず。
さらに自身の目からは見えないものの、喜多が待ち望むは純カラ。
この放銃は、事実上喜多の終戦を意味するものであろう。
手数の多い3人を相手にし、1人違った世界を見続けて戦った喜多。
展開は向かず、3者のアクションもことごとく喜多を見放した結果となった今回の決勝戦であったが、『北海道に喜多あり』と十分に感じさせた戦いぶりであった。
ここからの喜多も粘り強く戦ったのだが、この放銃以降の喜多はやはりゲームを壊さないように慎重に打牌選択を繰り返す姿が印象的であった。ゲームメイクをしながら戦ったこの喜多の背中を、北海道本部の若手たちがどう見るのかはそれぞれの選手次第であろう。来期以降の決勝戦でもまた喜多の姿を目にしたいと感じた麻雀ファンは多かったはずだ。
このアガリで一歩抜け出した石田。
対する山屋も東2局1,000、東3局500・1,000と石田に離されまいと喰らいつく。
東4局石田の親番。
この局がゲームの流れを左右するターニングポイントとなる。
山屋はこの局を勝因と語り、石田はこの局を敗因だと語ると共に、『山屋プロの【サイコロジー】にかかった局だった。』と悔しそうに振り返った1局。それでは細かく触れていく事にしよう。
石田3巡目、
ツモ 打 ドラ
この局を勝負局と捉えたか、またはツモに手ごたえを感じたのか、石田は一気に寄せる打を選択。
このを山屋はチー。
チー 打
かなり遠い仕掛け。それとも山屋には何か意図があってのアクションなのか。
手が進んで6巡目にも山屋はさらにをチー。
チー 打 チー
山屋に2フーロされた石田、ここは離されまいとポン。土俵に上がる。
このポンが、この決勝戦の敗着であったと石田は後述する。
ポン 打
石田『これは形では仕掛けない手。山屋プロに見せるだけのポン。山屋プロの仕掛けに仕掛け返したという意思表示と速度を合わせただけのこの仕掛けは、山屋プロの仕掛けに対応させられた分、自分の負けなのだと思います。』
山屋vs石田の牽制が始まった。
ここで解説の瀬戸熊が選手の事前アンケートを手に取り、山屋のアンケートを読みだした。
山屋『石田さんが苦しむ状況が作れれば、自分がやりやすい場況が出来ている。』
これこそが、山屋の真の狙いなのか?
この時点では私には山屋の思惑がわからなかった。しかしこの後、アクション同士が点から線になり、面となって立体的に勝利へのビジョンに繋がっていくように感じたのだ。山屋の思考もアクションも麻雀も、本当に興味深くそして魅力的だ。ただ、私にそれが理解できるまでにはまだもう少し時間がかかる。
山屋、12巡目にテンパイを果たすものの、ここはテンパイ取らず。
石田のアクションに丁寧に対応し、ダブは打ち出さない構え。
チー チー ツモ 打
このを石田がポンして1シャンテン。
ポン 打 ポン
この2人の仕掛けにより、テンパイがついた形となったのは加藤。
12巡目にテンパイもドラ切り。ここは加藤ヤミテンと構える。
ツモ 打
が…
やはりこの後のマンズは打ち出せず、加藤も受けを選択。
石田と山屋、どちらもテンパイせずか…と思われた山屋、最終ツモでテンパイに持ち込む。
チー チー
結果、形テンとはいえ、ここは山屋の思惑通りの結果となる。
結果だけではあるが、石田が悔いたを仕掛けなければ、石田は9巡目に、
ドラ
このメンホン七対子をテンパイ。
山屋のアクションがどうなるのかはわからないが、加藤が、
ドラ
このテンパイ形は仕掛けが入らなくても同じ。そしてをツモ切り。
加藤→石田へ12,000の放銃となっていた可能性も高い。
この検証を石田自身が行い、そして悔いていた。
石田『加藤プロは仕掛けが入っていてもツモ切った。勝負する体制に入っていただけに、仕掛けなければほぼアガっていた12,000だった。故にポンは敗着だった。』
山屋の駆け引きが石田を制した形となったこの局、結果は山屋の1人テンパイで終局したが、この局の動きや押し引きが山屋の勝因の1つになったと私が感じた興味深い1局であった。そして山屋も石田も後に語るように、1人テンパイではあるがこの決勝戦を大きく左右する1局となったのだった。
山屋と石田が競り合う中、徐々に復調の兆しを見せているのが加藤。
南1局、配牌ドラ2の手を丁寧にテンパイまでこぎ着け、6巡目即リーチ。
そして一発ツモと結果を出す。
リーチ ツモ ドラ
勢いそのままに、親番となった次局の南2局も加藤は7巡目先制リーチ。
ドラ
このリーチに追いついたのは山屋。
10巡目、タンヤオ七対子ドラ2のテンパイとなり選択に入る。
ツモ 打
か?か?
どちらも生牌、どちらも無筋。
しばしの少考後、山屋が選択したのは打。単騎を選択した。
そして次巡ツモは…無情にも!3,000・6000のアガリ逃しなのだが…
しかし、山屋は何事もなかったかのようにツモ切り。そして表情にも全く変化を出さない。
そして山屋ツモ。これは加藤の当たり牌。
ここも少考後、さも当然のように打と放銃を回避。ここも全く表情には出さない。
あくまで淡々と、冷静に摸打を繰り返している山屋。心は揺れないのか?
山屋『元々攻める気もあまりなく、この局もオリる理由を探していました。親のリーチには戦いたくないので。相手の打点がわからないのと、高い打点には放銃したくないですから。』
と語る山屋ではあるが、ツモ打、ツモ打、ツモ打とフリテンながらもテンパイまで復活したことは大きなプラス。アガリ逃しのダメージなど微塵も感じさせない見事なリカバリー力で、この局もテンパイ料を奪い取る。
山屋の粘りによって加点チャンスを奪われた形になった加藤だが、まだまだこんなところでは終われないと攻勢に出る。
南3局山屋8巡目リーチを受け、
ドラ
山屋の当たり牌を暗刻にして11巡目にリーチ。
加藤は絶好の待ち。
対する山屋のカンは山には残っていない。
山屋が加藤に放銃や、加藤がこのリーチを引きアガるようなことになると、加藤の優勝も現実味を帯びてくる。
加藤のツモる右手にも力が入るのだが…
加藤がツモ切った牌は。これが親番の喜多に捕まる。
ロン
加藤にとっては千載一遇のチャンスだっただけに、僅か1,500点の失点とはいえこのダメージは重くのしかかったのではないか。
加藤『このリーチがアガれなかったのにはガッカリしました。1回戦が雑すぎたので、2回戦以降はしっかり前に出て戦えていた分、ショックはあったのかもしれません。』
親番の喜多は、ここは何とか踏みとどまった。
この親番で何とか連荘に成功し、トップを取らない事には逆転優勝への道は開けない。
南3局1本場はリーチを空振りするも一人テンパイと親権を死守。
そして南3局2本場もを一鳴き。明らかに戦い方を変えてこの親番に挑んでいるのが手に取るようにわかる。
ポン 打 ドラ
この仕掛けを見た山屋、仕掛け返した形がこちら。
チー 打
この仕掛けを私なりに考えてみた。
当面のライバル石田が序盤から少考した姿を見て石田の好形を悟り、石田から仕掛けられる牌が出た場合には仕掛けを打つと決めていたのではないか?
仕掛けた形に手役を合わせにいくというスタイルを持っての仕掛けか?
または、上家の石田に対し、喜多の仕掛けと共に石田を挟み込み、その上で加藤にも対応させるという作戦なのか?
山屋『全くその通りです。加藤プロは速度を合わせるタイプだけに、打点よりも速度を合わせてほしいとの目論見がありました。』
今局はこの後石田も仕掛け返したあと、石田も駆け引きを打つものの結果は喜多の1,300は1,500オール。道中にしっかりと受ける姿を見ると、山屋にとっては喜多が連荘する分には問題ないという事なのだろう。
山屋の打牌や仕掛けはここからさらにキレを増す。
続く南3局3本場の第一打はなんとドラの!
そして2巡目にはリャンメンをチーと、山屋ワールド全開。
チー 打 ドラ
第一打のドラ切り、そして2巡目のリャンメンチーで速度感を演出し、上家の石田に対応させる。そして他家の対応の様子を見た上で、さらに山屋自身が対応するということなのか?
山屋『これもその通りです。喜多さんが待ちを変えてくれたおかげでアガる事が出来ました。喜多さんの危険牌を持って来たらオリようと思っていたので。アガれたのはたまたまです。1,000点の手でもいいから速度を上げておこうと。周りが自分に合わせて速度を上げてくれれば自分の失点が減りますからね。』
結果、この局は山屋が捌き切り喜多の親を落とすことに成功。
山屋の思惑通りに局が進行していく。
チー チー ロン
続くオーラスも3者の攻勢を山屋が凌ぎ切り500・1,000。
石田の原点を割り、大きな大きな1人浮きのトップ。
山屋優勢のまま最終戦に向かう事となった。
3回戦成績
山屋+15.9P 石田▲1.1P 加藤▲3.6P 喜多▲11.2P
3回戦終了時
山屋+35.6P 石田+18.6P 加藤▲18.8P 喜多▲36.4P
最終4回戦
プロ連盟規定により、起家から(石田―加藤―喜多-山屋)
トータルトップの山屋と2位石田の点差は17.0P。加藤とは54.4P。喜多とは72.0P
加藤と喜多はとにかく素点を積み上げる必要がある。
山屋と石田の点差は僅か。
石田がトップを取って、山屋を沈めれば、トップ3着で5,000点差。
トップラスなら1,000点差なのでほぼ優勝。
石田の1人浮きも石田がほぼ優勝。
加藤と喜多の爆発が見られるのか、山屋と石田の壮絶な競り合いが見られるのか、緊迫した最終戦が幕を開ける。
東1局、番手につける石田だが、牌が全くついてこない。
何とか連荘を目論むも、ここは無念の全員ノーテン。
東2局、加藤の親番も、ここも山屋が先手を取る。
4巡目山屋、
ポン 打 ドラ
石田はジュンチャンに向かいをチーして1シャンテン。
8巡目石田、
チー 打
マンズ部分を処理して1シャンテンの山屋は、9巡目をポンしてテンパイに。
ポン 打 ポン
この仕掛けで、喜多に重なるはずだったドラが加藤に流れ、喜多の跳満テンパイは幻に。
あっさりとこの単騎を山屋はツモアガリ、まずは先手を奪う事に成功する。
東3局、この局が実質の勝負局となる。
山屋を沈めてトップを奪う事が最低条件の石田、3巡目、山屋の切ったを積極的に仕掛けてホンイツへ向かう。
ポン 打 ドラ
石田に楽はさせまいと、山屋も4巡目をチーしてチャンタ方面へ。
チー 打
石田が仕掛けると山屋も仕掛ける。
手の形としてはまだまだ不十分ではあるが、石田に対してプレッシャーをかける為の山屋の策か。
山屋『石田さんのソウズの仕掛けに対して、自分もソウズを持っているよと見せたい為の仕掛けでした。周りにプレッシャーをかけたいですからね。』
実はこの局、好配牌を手にしたのは加藤。
ダブリ―チャンスは逃したものの、5巡目に一手変わり三色のテンパイを果たした加藤。
次巡、見事234三色に振り変わり、ドラ単騎のリーチを敢行。
ツモ 打
このリーチを受けた山屋と石田。
ここでのアクションがこの後の戦いの明暗を分ける。
石田10巡目、をポンして一歩前進。
ポン ポン
腹を括ったか、石田。
この仕掛けとリーチに対し、喜多と山屋は防戦一方。
勝負の行方を2人に任せ、丁寧に安全牌を探しながら歩を進めていくのだが…
山屋に今日一番の苦しい瞬間が訪れた。
石田に仕掛けさせまいと牌を絞り、歯を食いしばりながら戦ってきたがもはや種切れ。
喜多が切った3枚目のをそっと河に並べる。
しかし…
石田は微動だにしない。
この手はトイトイも絡めて跳満に仕上げたいとのことなのか?
それとも、打ち出すことになるが加藤に切りにくいのか?
とにかく、石田はこのをスルーしたのだ。
石田『このスルーはほとんど美学のようなものですね。はチーしますが、のシャンポンテンパイに取るのはトイトイになった時だけと決めていました。自分がアガれなくても、加藤プロが引きアガってくれても良しと。』
石田の手元に訪れた牌は。
もちろんこのを切り出す事は石田には出来ず、トイトイを諦め打。
ということは…
もし、石田がをチーしていたのなら、このは加藤のツモアガリ!
そうなると、一気に混戦の模様を呈してきたのだったのだが…。
たられば、で語るのは良くないことを十分に承知の上で記すと、加藤が跳満を引きアガった場合、
山屋+33.0P、石田+12.2P、加藤+4.6P
となり、
加藤は山屋との点差を約3万点差とし、大逆転優勝の可能性も生まれていたのだ。
また石田も、山屋が沈み、並びが出来た事で、加藤を逆転することでの優勝という道も生まれたはず。
そして何より、このを場に下した山屋。
もし石田や加藤が逆転優勝を果たした時には、この打が敗着となってもおかしくない程の衝撃的な結果を齎していたかもしれないのだ。
牌の行く末は誰にもわからない。
いくつの岐路を与えるかもしれないこの選択に、ただただ山屋が勝った。それだけのことかもしれないし、石田の意思の強さがこの決勝戦においては裏目に出ただけなのかもしれない。美学と美学のぶつかり合い。それが決勝戦という舞台だということなのか。
を引かされた石田は行く手を阻まれ万事休す。
その石田の動向を冷静に窺っていた山屋は予定通りの撤退。
しかし、そうも言っていられないのは喜多。16巡目に意地のテンパイ。
残り2巡で待ち牌のは何と山に3枚!
これを引いて自身の可能性に賭けたかったところではあるが…この日はやはり喜多の日ではなかった。加藤、喜多の2人テンパイで流局。
最大の危機を脱した山屋、続く東3局1本場はあっさりと6巡目テンパイ。そしてツモ。
ツモ ドラ
やはり勝利の女神は山屋に微笑むのか?そう感じさせるのは山屋に実力がある証拠なのかもしれないが。
南1局、番手の石田、最後の親番。
この局も山屋は2巡目チーから入る。
チー 打
自風のバック。
何度も何度も山屋の対局を見返した私は、ここで1つの仮説を立てた。
山屋は、その局面においてターゲットとなる相手の親番で仕掛けを入れているのではないのか?と。ターゲットとなる選手が苦しい状況になるような局面を、山屋自ら作り上げる為の仕掛けではないか?と。
山屋の仕掛けによって、山屋自身の手が成就するかどうかは二の次。
山屋の仕掛けを受けてのターゲットのアクションを見て、さらに自身が対応し守備力を上げるため、山屋は仕掛けるという選択を選んでいるのではないか?
それが、【サイコロジー麻雀】の神髄ではないかと。
この質問を山屋自身にぶつけてみた。
山屋『その通りです。3回戦以降プラスだった場合はそのような打ち方をしようと、戦前から決めて対局に臨んでいましたから。』
とにかくこの日の山屋は、そんな自身の思惑と動きに、相手の思考や手組、さらには局面進行と相手の手牌をも完全にブロックしたような、そんな麻雀であった。
この局も、喜多にとっては本日一番の勝負手の、
ポン ドラ
高目ツモ倍満のこの手を、
チー ツモ
追いついて、あっさりと追い越してしまう。
このような展開や状態を作り上げたことも山屋の力であろうし、山屋の局面判断と選手分析の賜物であろう。北海道の新チャンピオンに相応しい結果だと感じているのだ。
さて、最後の親番が落ちてしまった石田。とはいえ、まだまだ逆転のチャンスは残されている。局消化をせずに、何とかオーラスに条件の残るポイント差まで追い上げておきたい。
このように考えるのは加藤も同様。
南2局を1人テンパイで粘ると、続く南2局1本場は1,300は1400オール。
そして南2局2本場を迎える。
先にテンパイは山屋。
7巡目テンパイも、待ちは表示牌のカン。
この待ちが苦しいと見るや、ドラのシャンポン変化が無くなった瞬間にドラ切りのカンと、アガリ易さと役アリの手変わり変化に備えて打とドラ切り。
ツモ 打 ドラ
加藤は早々の1シャンテンも全くツモが利かず、じりじりと局は進行していく。
そんな加藤を横目に、テンパイしたのは石田。
山屋との素点差を詰め、トップを逆転する為にも、手牌変化を待たずにリーチと攻めに出る。
次巡、ようやく追いついた親の加藤。
待ち取りも手牌変化も猶予が無いと、ここは捨て身のリーチを敢行する。
ツモ 打
加藤のは2枚。石田のは4枚だったが、すぐには喜多と山屋に吸収され、残り枚数は2対2に。
この勝負、意外にもすぐに決着する。
石田が力を入れて牌を掴んだ指先には、無情にもが。
ロン
ここまで粘り強く戦ってきた石田であったが、この放銃で勝負あったか。
普段の守備的なスタンスを変え、決勝戦用にシフトチェンジして挑んだこの勝負であったが、最後の最後で勝負の女神が微笑まなかったか。
石田『直前に山屋プロが切ったもありましたから。全く手ごたえのないリーチでした。実は、3回戦東4局にをポンしてからノーホーラなのですよ。やっぱりあの局に【サイコロジー】にかかってしまったということですかね…。』
石田が転落した現状、山屋への挑戦権は加藤へ移った。
しかし、この日の山屋は勝負が動いた次局に必ずと言っていいほど早い手が入る。
2巡目のポンテンも、すぐに待ち変え。そしてロン。
ポン ロン ドラ
これで加藤もギブアップ。
南3局、最後のチャンスを残した喜多も精一杯粘り込み連荘を続けるが、大きく離された点差を詰めるまでには至らず。
内容は濃く、瞬間の勝負は僅かの差であったこの北海道プロリーグ決勝戦も、終わってみれば数字的には山屋の圧勝という形で幕を閉じた。
4回戦成績
加藤+16.4P 喜多+9.6P 山屋+6.8P 石田▲32.8P
最終結果
山屋+42.4P 加藤▲2.4P 石田▲14.2P 喜多▲25.8P
戦いを終えて、
4位 喜多清貴
『完敗…。リーグ戦で山屋プロと石田プロとの対戦が無く、2人のデータを持っていなかったために対応せざるを得なかった。個人的には勝つ日じゃなかったのもしれない。打ち手としてはダメなのかもしれないけど、全国に北海道本部の選手のお披露目が出来たことが嬉しかったです。北海道本部への愛なのかな?』
3位 石田雅人
『ただ悔しいです。何度か細かい部分を西野副本部長と確認したのですが…結論としては勝っていた勝負だったと思います。山屋プロの【サイコロジー】にかかったのは石田1人だったなと。変に上手ぶったなと思っています。3回戦東4局まではほぼ完璧だったし、牌の巡りも自分が一番だった自覚もあるのですが。1年後、絶対に同じ場所に座りたいと思います!』
準優勝 加藤晋平
『終始緊張していました。全体を通して自分らしくなかったなぁと。自分を出し切れなかった。もう少しブレーキをかけても良かったし、もう少し前に出ても良かったなと。優勝以外は意味のない戦いなのに、対局を見てくれていた麻雀教室の生徒さん達が「2着おめでとう!」と言ってくれましたが…意味がないとは言えずに寂しい気持ちになりました。3年以内に必ず優勝します!』
優勝 山屋洋平
『素直に嬉しいです!喜多プロとは初めての対戦だったので、喜多さんの打点やシャンテン数がわからなすぎて不安に思いながら戦っていました。帰宅してから見返してみてヤバかったなと。牌の巡りが逆だったら順位が逆だったのかもしれません。自分の店に対局をご覧になって来店してくださるお客様が増えた分、常連さんが自分と打ちたがらなくなりました(笑)』
地方本部支部のプロリーグ決勝戦。
それは多くの麻雀ファンにとってなかなか目にする機会がなかった戦いのかもしれない。
ましてや最北の地、北海道。
足を運ぶ機会すらないファンがほとんどだろう。
その地において長きに渡って開催を続けてきた歴史ある北海道プロリーグが、このような形でご覧になっている皆様にお届けできることは本当に喜ばしい事だ。
全国各地の同志達が、様々な想いで今日も牌と向き合っている。
そんな事を再認識させてもらったこの決勝戦。
この選手達の頑張りが、未来の麻雀プロ達へのメッセージになってほしいと私は願う。
この観戦記を読んで、この戦いをもう一度ご覧になりたいと思った皆様はこちらへ。
カテゴリ:北海道プロリーグ 成績表