第210回:第14回MONDO名人戦優勝特別インタビュー 沢崎 誠 インタビュアー:清原 継光
2020年06月22日
MONDO名人戦は沢崎プロが優勝した。そのインタビューは世間の騒動から例年より少し遅れてなされた。
~決勝のテーマ~
清原「まずは優勝おめでとうございます。」
沢崎「ありがとう」
清原「今回、優勝ということで決勝戦を見させてもらったのですが、正直優勝しそうな雰囲気を感じませんでした。え?ここから優勝したの?ってのが映像を見たときの最初の感想でした。最後の最後、オーラスでの逆転劇、ご自分ではどう感じながら打ってたのですか?」
沢崎「特に何も。いつもどおりよ。あれぐらいあたりまえだよ。(笑)」
清原「1回戦は3着で終える。1回戦を終えてどう考えてらしたのですか?厳しいなぁとか苦しいなぁとか?」
沢崎「全然苦にしてなかった。半荘2回勝負の決勝は必ずどちらかをトップをとらなければならない。2着2着で優勝てのはまずありえないんだよ。必ずどっちかにトップが必要。
あとは1回戦トップのともたけとの着差だけを考えればいいから、3着で終えても自分の中では何も。1回戦はまだ途中経過だからね。」
清原「1回戦の結果はホントに気にしてなかったんですね。」
沢崎「4着だけはダメだよ。4着をとると全員の着差を考えなければならないから。それか大トップか。4着をとると条件が厳しくなる。4着を回避できたからあとはトップをとれば優勝だなと。」
清原「優勝のための条件計算がすでになされてたんですね。」
沢崎「あたりまえじゃない。それが決勝のテーマ。そんなことは決勝をやる前から分かってなくちゃダメなんだよ。」
清原「(決勝経験の豊富さが違うな。それだけ条件戦の場数をこなした量が違うのだろう。)
話は変わりますが、優勝のためにトップが必要でホントにトップをとるのはさすがですね。」
沢崎「予選から3着1着3着1着で予選をクリア。次を2着1着でクリア。トップ率50%で来てたからね。」
清原「それはすごいですね。しっかりトップをとって予選を通過してきてたんですね。」
沢崎「でもそれも最後の半荘のトップ条件をクリアしての通過なんだよ。ギリギリの通過。そしてそれが大事なんだよ。大トップで余裕の状態だと緩んじゃうから。どこか麻雀が弛緩してしまう。でも厳しい条件の中、それをクリアするってのは緊張状態の中でそれだけいい麻雀を打ててるということ。そういう方が決勝もそのままいい麻雀が打てることが多い。」
清原「(勝たなければならない半荘で勝ちきること。予選の厳しい条件をクリアしてきたことが決勝を勝ちきる自負につながってるのかな)。その予選があって決勝での自信になってるんですね。」
~逆襲の心構え~
清原「決勝の2回戦。ここから沢崎さんの逆襲がはじまるかと思ってたのですが、東2局に親の藤崎さんのヤミテンのホンイツに飛び込んでしまう。この9,600放銃は痛すぎます。」
沢崎「全然痛くないよ。」
清原「僕なら心が折れてます。どう考えてたんですか?」
沢崎「まずな、打ってる時にダメだと思った人間が優勝することはないから。」
清原「はい」
沢崎「点数がないからダメだと思うかもしれないけど、そんなことはない。アガリを目指す手が来たうえでの放銃なので、放銃ができてるということはそれだけの手が組めてるということなんだ。悪いという状況は理解してるけどツイてないのとは違う。」
清原「はい」
沢崎「ツキがないわけではない。なぜか、それはちゃんと戦えてるから。それは良いと解釈しなくちゃいけない。それを悪いと解釈したらどんどん悪くなってしまう。」
清原「ドツボにハマってしまうような感じですね。」
沢崎「ツイてないとは思わない。点数は厳しい状況にあるけど。」
清原「この放銃で藤崎さんは41,300点、沢崎さんは9,200点、点数だけ見ると厳しいです。どう思考したのですか?」
沢崎「この放銃で自分よりも他の2人(新津プロとともたけプロ)、特にともたけが痛がってるな、と。」
清原「1回戦トップのともたけさんは逆に藤崎さんに条件を突きつけられた形になりましたからね。(放銃した瞬間に対戦相手の心理をまず考えてるのか!)」
沢崎「それと藤崎と32,000点差あるわけだけど、これを32,100点アガれば勝てると思うと苦しむ。逃げる者と追う者、ゴール前で並んだらどちらが有利か分かるか?追いかけるほうが有利なんだよ。オーラス満貫ツモ圏内までいけば追いかけるこちらが有利だ。だからオーラスまでに22,000点アガれば勝てる。そう考えれば満貫ツモ2回で届く。もちろんラス親が新津であるということも大事だよ。ラス親が藤崎だと1局勝負になってしまうから。そこはもちろん確認した上で。」
清原「(究極のポジティブシンキング!)。オーラス満貫ツモ圏内なら勝ちというのもまたすごい自信です。」
沢崎「普段から練習をしてるからね。逆転手をつくる練習をしてないと大事な局面で逆転手をうまくつくれないから。」
清原「(圧倒的な練習量が自信につながってるのだろうなぁ)。そして見事に有言実行をする、と。」
そして放銃の次の局
ポン ドラ
リーチしている新津からを討ち取る。
東4局には
ドラ
リーチを打って一発ツモウラで跳満のツモアガリ。わずか3局で満貫ツモ圏内に復帰する。
沢崎「ラッキーだったね(笑)」
~負けを覚悟した瞬間~
沢崎「実は決勝では『負けた』と思った瞬間が2回あった。どこだか分かるか?」
清原「どこですか?一番苦しそうな時間帯は乗り越えたと思ってました。」
沢崎「オーラス(藤崎35,800点、沢崎35,300点。アガった方が優勝)。藤崎にチーと言われた瞬間。藤崎が中途半端な仕掛けをするはずがないから。あいつがチーと言った瞬間、最終形なんだよ。対してこちらはバラバラでテンパイも遠い。負けたと思ったよ。」
清原「とてもそうは見えませんでした。仕掛け返して戦ってるように見えました。」
沢崎「あれは悪あがきだね。形だけ仕掛け返したけど、バラバラで端牌だらけでいらない牌を切っても放銃しないし、いつ藤崎にツモと言われるかと思ってた。」
清原「そうだったんですか。。」
沢崎「それが終盤までもつれて親の新津からリーチが入ってハイテイで新津がツモって、それでこれで勝てるぞと思った。」
清原「そこは急に変わるんですね」
沢崎「負けたと思った。それがもう1局できることになった。これは自分に分があるぞ、と。負けたと思ったのに負けにならなかった。これは自分に運気がある。次は戦える。そして勝てる、と。」
清原「次の局で勝敗を決せると?」
沢崎「それが次の局も藤崎に先制リーチを打たれて、それが二度目の負けを覚悟した瞬間。」
清原「(笑)。勝てると思ってたのにまた先にテンパイを入れられた。。」
沢崎「あれ?おかしいな?違うかな?負けたかな?って」
清原「沢崎さんでもそう思う瞬間があるんですね。(笑)」
が、この局、沢崎は藤崎のリーチをかいくぐり
ドラ
この手をテンパイすると、親の新津からを討ち取る。
清原「見事なタンピンサンショクでした。」
沢崎「1,000点も8,000点も変わらないけどな。藤崎のチーで負けたと思ったけど負けなかった。それが全部だな。あれは藤崎がアガリきらなければダメだよ。」
その言葉は、藤崎のほんの少しの選択の瑕疵で勝負の天秤の傾きが変わったような、そんな含みを感じさせる言葉だった。
~名人戦はおもしろい~
清原「今回、名人戦の決勝を見せてもらいました。すごくおもしろかったです。なんでこんなにおもしろいんでしょうね。」
沢崎「やっぱり質だろうな。変な打牌が少ない。周りの見つめる視線もきついし好き勝手に切ればいいわけじゃない。変わった打牌をするなら結果が必要ということ。あと変な放銃が少ない。ぶつかる前半の手組みが大事で、その上で勝負手どうしがぶつかる。それがいい対局をつくる。あとタイプは違うけど皆、個性的だな。」
清原「それは見ていてとても感じます。次は名人戦優勝者として王座戦ですね」
沢崎「俺は今、MONDO2冠なんだよ。3人麻雀と名人戦。次に王座を勝って3冠といきたいね。」
清原「名人戦のファンとして、ベテランの強さを是非見せてください。最後に抱負をお聞かせください。」
沢崎「ファンのため、見てる人に刺激を与えたい。アンチでもいい。アンチが見て刺激を受けてくれたら、こんなおもしろいことはないね。あと、勝ちにいくところを見せたい。トップが見えればできるだけトップを目指す。それが見てる人が喜ぶから。麻雀は世界で一番楽しいゲーム。打つ人も楽しく打ってほしいし、見てる人も楽しんでほしい。皆、刺激をもって見てほしい。高い手、可愛い女の子、こんなおじいちゃん、なんでもいいから。」
~エピローグ~
インタビューを終えて、宵もふけて酔いも進んだころ、Cリーガーも合流して、いろんな麻雀の質問をする。名人がそれらに答えてくれる。それはとても素晴らしい時間だ。
そんなベテランが若者たちに向けて語った言葉は酔いと共に忘れ去られるには惜しい。そんな言葉をとどめておきたい。
「プロなら貪欲に自分にないものを求めろ。ただ、昇級したい、勝ちたい、じゃない。自分にない技術がほしい。でも手に入れたい。それにはまず見ること。見方、考え方、自分と違うものを見て複合的な視野での見方を得ることが大事。」
「映像から学べるものはくさるほどある。決勝は見る価値がある。決勝は皆勝ちたいから。自分が成長できるチャンスはいっぱいある。いっぱい見ろ。負けられない試合を。」
「勉強することは自分のためでもあり、ファンのためでもある。自分にはファンがいないと思ってるかもしれないけど、自分が思ってる以上にファンがいる。」
「ファンのために勝ちたい、タイトルが欲しい、じゃない。目標はそこじゃない。勝つことが目標じゃなくて、戦うことが目標。ファンのためにやりたいことをやることが目標。」
「勝つだけではダメ。自分からいろいろな経験をしないと。負けることも大事。負けて悔しくてそういう経験から分かることもある。ずっと進歩するしかないし、それを追っていくしかない。下手なんだから。俺だって自分でそう思ってるんだから。プロは練習するしかない。」
「連盟はいろんなことを教えてくれる先輩がいる。俺も北海道元本部長の仲澤さんの言葉とか、はじめはわからなくていいから何年か経ってからで分かってきたりする。若いうちはガムシャラに勝ちに貪欲でいい。そのうちに分かってきたら後輩に伝えていければいい。でも結果出せないやつが物言える世界じゃないからな、まずは勝て。」
麻雀の文化の継承として次の世代につなげていこうと思える言葉だった。
その先にもっともっと麻雀がおもしろくなる世界が広がっている。
そんな景色を想像させる宵の淵。夜は更けていく・・・。
カテゴリ:プロ雀士インタビュー