中級/第78回『仕掛けの是非』
2013年06月12日
毎週木曜日に行われている勉強会も今年で6年目を迎えた。
その中から女流研修会が派生し、そしてこの5月からは若手育成の勉強会までもが催されるようになった。
「まだまだ打ち手が足りない。」
今期プロリーグ開幕戦当日、就任の挨拶で森山茂和新会長が言われた言葉である。
現状に満足している者以外なら、皆胸に響いたことだろう。
プロとして自分はどうあるべきか、それを再確認した人間も多いはずだ。
打ち手が成長する上で最も大切なことは、意識と環境である。
今の時代は恵まれている。あらゆる面での環境が整いつつあるからだ。
後はどれだけ意識がついてくるか、そこにかかってくるのである。
先日、女流研修会で講師を務めている古橋崇志からこんな質問を受けた。
ドラ
7巡目、上家からドラのが切られた場面でこれを鳴くかどうかと言うのだ。
状況は東3局の親で、28,000持ち。
関連牌は、、、がそれぞれ1枚切れで、が2枚飛び。
結論から先に記すと、その女流プロはこのを鳴いて、その後1,000オールを引きアガったのだそうだ。
ポン チー ツモ
古橋はこの仕掛けに対しあまり得策ではないと苦言を呈したそうだが、どうしていけないのかの問いに対する返答に困ったという。
「ヒサトさんならどう答えましたか?」
難しくないようでいて、相手を納得させる答えを出すのはなかなかに難しい。
仕掛けという行為はある種感覚的なものであり、個性の出やすい部分でもあるからだ。
仮に、「私はこうやって勝ってきたんです。」と言われたら、話はそれで終わりである。
その人間にとって良い目が出続けているなら、それは改善点には当たらないからである。
古橋の問いかけに対し、私は概ね次のように答えた。
「アガリという1つの結果が出てしまったから納得しづらいんだろうとは思うけど、これが決め手になることは絶対にないからね。ただ、それを口で説明してもきっとわからないとは思う。決して投げやりな言葉ではなく、好きにやらせてみるしかないんじゃない?俺も相当な鳴き麻雀だったけど、これはやっちゃいけないというのは、自分が痛みを覚えないと会得できないから。経験者は語るじゃないけど、こんなやり方を貫いていたらまず上に勝ち上がることはできないだろうね。B1に4年もホームステイするとかさ。」
目先の点棒に拘る打ち方は、後で必ず苦労する。
このときは上手くアガれたかもしれないが、100回やっての成功率などたかが知れている。
河にドラが打たれるにはそれなりの理由ってもんがあるもんだ。
1人麻雀を打つにも時と場合があると思うのだが、いかがだろうか。
では最後にもう一題。
ドラ
東4局4巡目、西家。南家よりが打たれた場面である。
これも今まで何度となく目にしてきた手格好である。
これを鳴くかどうか。もし鳴くならば打牌は何か。
ちなみにが1枚飛んでいるだけの状況である。
先に、仕掛けは感覚的なものと述べた。私の感性は、鳴くべきと言っている。
しかし、鳴いてソーズを払っていくかどうかはやはり難しい。
ドラの翻牌というのは出なそうでいて、中盤から終盤にかけてポロっと出てくるケースが割と多いからである。そうなれば一手、二手遅れは必至で、アガリまでの道のりを考えると険しさは増すように思われる。
そして何より、この手牌には切り返しの一手が含まれているのもポイントである。
チー
ここにを引けば、カンでの一通にも受けられるのだ。
仮に、例題の手牌を門前に拘ったとして、どれだけアガリ率が増すだろう。
私の中では、勝負手の部類に入らない手牌と言ってもいい。
例えばピンズの中張牌を持ってきても、一通の可能性がある以上、、も払いづらい。
どの道ドラが頼りなら、チーのテンパイ取り。これも一考の価値ありと私は見る。
実はこの話には続きがある。
今期プロリーグ第3節が行われた6月1日、対局前に私は岡田茂を引き連れて喫茶店へ入った。
そこでこのを鳴くかどうかを聞くと、自分のスタイルでは鳴けないとの答えが返ってきた。
その晩、その岡田から着信が入る。
「昼間あんな話をしたせいからなのか、リーグ戦でこんな手をもらったよ。」
ドラ
聞けばが1枚とが3枚飛び、はもちろん生牌だという。
そこに、上家から2枚目のが打たれた局面だ。
「あの話を聞いてなかったら、まず鳴けなかったね。だけど、やり慣れないことはするもんじゃないよなーって思いもあった。」
結果は、親からが出て7,700のアガリ。
決して美しい仕掛けではない。だが、こういうケースは決して少なくないように思う。
誰かにドラを握り潰されて流局する場合ももちろんあるが、それも含めて仕掛ける決断力もときには必要なのではなかろうか。
鳴きというのはセオリーが確立されにくい分だけ、経験則がものを言う気がするのだが。
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