戦術の系譜

戦術の系譜14 藤島 健二郎

前回はどちらかと言うと自分の手牌の形に対しての仕掛けの是非がテーマでありました。
今回は他家を対応させるような仕掛けに関して重点的にお話しします。
その前に下記をご覧下さい。

南1局ドラ五筒、点棒は平たい状況とします。

🔴親の河→西白九筒 上向き八万 上向き

4巡目の北家の切った二筒を親が両面でチー(打七索)

牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背牌の背  チー二筒 左向き三筒 上向き四筒 上向き  ドラ五筒

例えばこの状況で親の手をどのように読みますか?

読み材料として使うべき情報は
①親は安い手をアガりに行く場面ではない
②ドラスジの安めを鳴いている
③巡目が早すぎる
④切り出しから一色ではなさそう

状況的にある程度打点はありそうですし、急所とは思えない両面チー、あとアガりや親権に対して焦るような巡目でもないです。
考えれば考えるほど随分あやしいチーですよね?まあ、こんな仕掛けをされた時は全てが整っているものです。

親の手牌は以下の牌姿でした。

三万三万三索四索五索六索七索五筒五筒五筒  チー二筒 左向き三筒 上向き四筒 上向き  ドラ五筒

スピード、打点、待ちの良さ全てが揃っていました。

これは稽古時の実戦例でしたが親に高いチーテンが入ってることは、さすがに子方三人の共通認識でした。ちなみに全員降りて無事流局となりました。
この例からも状況によって仕掛けの手牌が透けてしまうことが麻雀ではよくあるのです。

しかしこのような状況設定を逆手にとっていくのが言わば牽制仕掛けなのです。
上記のような例を踏まえた上でいわゆる「牽制する仕掛け」について触れていきたいと思います。

牽制仕掛けと言っても牽制のための鳴きをいつも入れて勝てるものではありません。というよりむしろ負けます。仕掛けで対応してもらうためにはまず自分のアクションに対する他家の心理を読むことが大事になってきます。牽制の目的でも無視されるような相手や、また状況設定だとしたら効果はあまりありません。

牽制という言葉を言い換えるなら「対応させる」ということなのですが、まずはどのような場合が対応させたい状況なのかを知ることで、効果的な牽制仕掛けを使うことができます。
●悪い配牌の時に打点がほしい
●スピードで既に他家に負けている
●親の連荘にかけたいときなど「テンパイ」がほしいとき
代表的なのは以上3パターンです。

ただどの場合でも他家にまっすぐ打たせたくないということに変わりはありません。分かりやすく言い換えるならば”時間を稼ぎたい”もしくは”相手を降ろしたい”ということになります。

相手に対応させながら目指す代表的な役と言えばホンイツです。鳴いても高打点が狙える役であり、攻守兼用の万能役です。
実は遠目であってもホンイツに向かって仕掛けを入れていくことは既に他家に対して牽制していることになります。
役牌が絡むだけで中打点は確保される役なので、大した手牌でない他家は使いづらい字牌を絞らざるを得なくなります。要は相手に13枚で麻雀を打たせなくするのです。ホンイツを匂わせることはかなりの牽制となります。そうさせることで時間の猶予ができ、遠目の発進であっても高い手を組んでいくことができるというのがホンイツ仕掛けのメリットです。逆に対応せず無視して字牌などを切ってくる人がいればその人に手が入っていることも把握できます。
ホンイツにも絶対アガりたいものからアガれればラッキーなもの、ただのブラフ目的のものまでかなり幅があります。

A2リーグ第5節参照

 

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上記のような点棒状況でのオーラスの配牌。
一人沈みの現状で、まず考えるべきは他家の心理。
■親の麓さんは(37400)トップ目の親番で一局凌げばノーテンでもトップがとれます。ツモアガリができれば一人浮きになりますが、逆に7700を打つと沈みになる状況。他家からアクションがあった場合は守備寄りになりそう。特にラス目のツモアガリは自身が1人浮きになるので北家がアガリに来た場合は傍観で良い局面。
■南家ダンプさん(30600)と西家客野さん(30400)は僅かながら浮き。二人とも安くてもアガリたい場面。親がやらずの流局狙いになった場合テンパイでも浮きキープ、ただ放銃は何点からでも原点割れ、そして最悪はラス目に高い放銃でのラス落ち。
■北家の私(21600)は一人沈みだけは避けたい。最悪は子方に放銃すること。仮に500.1000のツモアガリでも二人沈みに持ち込めるのでこれが最低目標。

南家・西家は安い放銃でも原点割れ、高い手に飛び込むとラス落ちがあります。東家もラス目に7700以上放銃での原点割れ+2着順以上の着落ちだけは絶対に避けたいというこの状況。
安い仕掛けを見せてしまうと自身のツモアガりでも一人浮きが狙える東家にまっすぐ打たれてしまうし、南家・西家にもリスクが小さいと判断されある程度来られてしまうことが想定されます。つまりアガり云々の前に打点がありそうな仕掛けを”見せる”ことが第一テーマとなる局面でありました。

 

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一枚目の発から仕掛けます。もちろんホンイツ狙いですが大事なのは南家と西家に対応してもらうこと。仮にアガれなくてもどちらかがノーテンならば一人沈みを回避できます。もし自分のツモが効かなくても【ドラ色のホンイツやってます】という看板を掲げることで子方2名にまっすぐ打たせない効果があります。ちなみに上記の理由から、親は相当まっすぐ打てないはずです。ですから露骨なホンイツで大丈夫なケースです。故に七万八筒九筒という切り出しにしています。(ソーズのホンイツを隠したい場合は八筒九筒七万とするのが定石ではあります)

 

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するとオタ風ではありますが西も鳴けて、ターツ払いを見せる打九筒とすることができました。
ここからは他家には”テンパイかもしれない”という疑念を抱かせることができます。この先ソーズか字牌でロンと言われれば原点割れプラスラス落ち(親は3着落ち)という状況を押し付けることができました。この後マンズとピンズだけを5巡ツモ切ります。

 

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そして11巡目にテンパイとなり、打北としました。字牌が余ったことで他家にはテンパイがかなり悟られてしまいますが、ここまでたどり着けば十分です。南家と西家二人がこの先ソーズと字牌を一枚も打たずにテンパイに持っていくことは困難だと思われるからです。

 

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次巡さらにドラの三索引きで手広くなり打八索。他家に対してはダメ押しとなったはずです。
東家麓さんはもともと生牌の白を1枚持っていたこともありますがロン牌である七索を引き完全撤退。南家ダンプさんはドラの三索が浮いた状態だったこともあり、イーシャンテンを崩します。西家客野さんはソーズを打ち切れずシャンテンキープとは言え回り道となりました。(実際客野さんには早々にイーシャンテンが入っていました。後に一枚ソーズを打てばテンパイでしたがそれも打ち切らず)。

 

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最終手番でマンガンのツモアガリとなりました。3巡目の発進でしたがアガリは最後のツモ番でした。アガリ自体は僥倖でしたが他家を対応させて作った「時間」をゆっくり使ってもぎ取ったアガリと言えるでしょう。そもそも南家か西家をノーテンにしてテンパイ料をもらえれば一人沈み(▲12)から二人沈み(▲8)となり5200アガるくらいと同等の価値があったのです。沈みのままとは言えマンガンで2着浮上(▲12→▲1)は19ポイント分のアガリとなりました。

テンパイ止まりの流局の場合でも一人沈みを逃れた分の4ポイントとテンパイ料3000点で「7」ポイントの価値ある立ち回り。
今回のように安めながらアガリが付いたケースで「19」ポイント。
仮に高めのドラでの引きアガリになった場合は浮きどころかトップまで行くのでその場合は「32」ポイント分のアガリとなるケースでした(順位点▲12→+8の差20と跳満分の素点12)。

【他家のスピードダウン<テンパイ料<中打点<高打点】

このような幅のある牽制仕掛けの参考例でした。

ただ、このケースは点棒状況ありきでハマった感じは否めません。

 

もう一つホンイツの実戦例をあげてみます。

A2リーグ第5節3回戦南2局より
親番が残っているとはいえラス目で以下のような配牌をもらいました。

 

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白発のトイツ2組ありますがあとはかなり悪い形が残っています。ドラもありません。
ただ現状ラス目なのでなんとかこの手材料から勝負手にしたい局面です。第一ツモで七索を引いてマンズ二枚ソーズ二枚ピンズ三枚ですが、手を高くするためには何かのホンイツにするのが現実的です。唯一ターツがないマンズを見切る打一万とします。ソーズかピンズどちらかのホンイツ狙いです。

 

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3巡目にツモ六筒でソーズ三枚ピンズ四枚となりますが、まだどちらに寄せるか決め兼ねる牌姿なのでいったん一枚切れの打北とします。これは後々役牌を鳴きたいので字牌が重い捨て牌にならないようにする意味合いもあります。

 

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次巡ツモ二索でソーズ四枚ピンズも四枚となります。まだどちらの色に決めるかは難しくここでも場に一枚切られている打中としました。三元役を見切ることになりますがこれも後々白or発を鳴きやすくするための布石でもあります。あのような配牌から跳満以上の高望みはしません。生牌の西を残して5200かマンガンのアガリ率を上げにいきます。

 

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狙い通り西を重ねます。ただこれで二索五索七索九索のソーズor六筒六筒八筒九筒のピンズの分岐点を迎えますが打二索としピンズに照準を絞ります。

 

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7巡目に北家の切った二枚目の白をポンして打九索とします。この時点で南家の私の捨て牌は一万 上向き四万 上向き北中二索 上向き六万 上向き六万 上向き九索 上向き。これで白を二鳴きなのであまり警戒はされてないはずです。

 

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すると次巡七筒を引き入れ5200~8000のイーシャンテンとなります。4巡目に中を置いてあることで一番欲しい発が出やすい状況も作れています。打五索としたのは九索七索とターツ払いにすると、後からホンイツに渡ったように見えてしまうのを嫌った側面もあります。

 

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発が鳴けて役役ホンイツのテンパイにたどり着きました。ここまで行くとかなりホンイツに見えてしまいますが、テンパイするまでにこれだけ工夫をしたのですからそこは仕方ありません。あとはめくり合いです。

 

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六筒で7700のアガリとなりました。

こちらの実戦例は他家の牽制を逆に解きながら、じわじわとアガリに向かうようなイメージのものでした。本手を決めたい時には牽制に特化し過ぎても駄目なのです。少し相手を油断させるような切り出しや河作りで、欲しい牌を引き出してアガれる手もあるということです。

次回最終回は、捌く仕掛けとまとめになります。