戦術の系譜15 藤島 健二郎
2021年02月05日
仕掛けを主題として書いてきた私の回もこれで最終回となります。
前回までは「速度」「打点」「牽制」にそれぞれフォーカスしたものを扱いました。細分化すればまだまだ書きたい仕掛けの話はありますが、それはまたの機会とし、最後に最も難しいと思われる「捌き」について触れたいと思います。
捌きと簡単に言いましたが、そもそも捌きとは何かということに関してお話します。
昔何かの予選の後、とある後輩プロに「藤島さんて捌きが上手ですね」と言われたことがあります。ただこの時は、あまり褒められている気にはならず、逆に少し不快な思いをしました。この後輩の発言はおそらく同卓時に私が他の選手の親リーチなどに対して危険牌を勝負し、安い手を複数アガっていたことを指しての言葉だったのだと思います。
ちなみにこの後輩がトップ、私は2着でしたが、なぜ私がいい気がしなかったのかと言えば、‘’先輩、僕のために親リーと勝負してくれてあざっす‘’みたいに私の中で変換されてしまったからだと思います。さらには“そんなの鳴いてばっかいるからトップとれないんですよ〜‘’とも。こちらとしては自分のためにも局を落としに行っているし、それに伴って敵の待ちに対する読みなども駆使しています。そして、その後のトップもちゃんと狙っているのです。私の渾身の1,000点を語るにはあまりに軽い一言に感じてしまったのかもしれません。
ただし、捌き手は自身の打点を妥協している部分が多々あり、そんなの鳴いちゃうの?と思われることもあるし、そんな見合わないリスクとるの?と思われる立ち回りもあります。捌き切った結果が出ても、もっと高い手をアガれているケースもあります。もちろんリスクを背負わないものを捌きという人もいます。
一方で、とある先輩が‘’公式ルールは捌く必要がない‘’と言っているのを聞いたことがあります。連盟公式ルールは他のルールに比べ、順位点が小さく「素点ゲーム」の側面が強いです。ですから基本的には自分の手牌の最高形を目指し、それが無理ならしっかり受けるという立ち回りが基本的な戦い方だとは思っています。親のリーチや高そうな仕掛けに対して「局面を捌く」という行為は別の傍観しているプレーヤーにとって得となり、捌かれた側は損という結果が常にあります。捌いた自身も打点的には大した素点の上積みにならず、高い放銃のリスクがあるのなら「捌かない」は一つの考え方であります。
ただ、半荘単位で見た場合、あるいはその日一日で見た場合など‘’この局さえ落とせば自分が有利になる‘’といった場面が必ずあります。捌く仕掛けの利とは、まずはそのような局面を見抜く対局感なしではそもそも成立しないのです。
もう一つ触れておくと、近年なぜ私が捌き屋になっているのか?それは自分のステージにいる相手を尊重しているからです。例えば私の主戦場であるA2リーグでの対戦相手は打点をしっかり組める選手ばかりです。自分が他の選手と同じようにメンゼン高打点寄りに打つよりも「相手の勝負手を潰す」局を増やしていくことで、他家のツモアガりなどによる失点を防ぎ、その差額が加点となるような部分と体勢的なものもプラスαとなるようなイメージを持って一つの戦略としてやっています。もちろん自分の時間帯が来たと思えば私でもメンゼン高打点を目指して打つのです。
同じ捌くにしても色々な捉え方があると思いますが、以下扱う捌く仕掛けとは私の主観によるものとして参考にしていただければと思います。
●一局を捌く
A2リーグ第6節5回戦参照
場面としては負け頭で迎えたこの日の最終戦、自身は少し沈みで南入しています。調子が悪い日だったのでどんな手が来てもあまりメンゼンで仕上がるような感触はありませんでした。意識としては負けをなるべく抑えようというところ。
そんな中上記のような配牌をもらいました。一気通貫か下の三色が狙えそうな手ですがドラはありません。
3巡目にを引いて打。有効牌の枚数的に一通を見切ります。
上家から場に3枚目のが打たれます。メンゼンで・・の三種類を引ければ高打点となりますが、が既に売り切れぎみとなりました。この手の大事な分岐点です。鳴いたら1,000点になってしまうのでこのような時はディフェンスを考慮、もしくは方針転換か、4枚目にかけて鳴かないのが一般的だとは思います。
しかし、この時の私の選択はチーでした。リスクを承知で絵を合わせに行きました。
チーの後のツモがで片アガりとなりますがテンパイを果たします。
で1,000は1,300のアガりとなりました。
何の変哲もない三色のみの1,000点に見えるかもしれませんが、このアガりで大事なことはドラが一枚もない凡手で他家にアガらせなかったというところにあります。長いリーグ戦の一幕としては局テーマがしっかりなければ意外と声が出ないチーだと思います。
ただ、私はいつでも3枚目のカンチャンを鳴けと言いたいわけではありません。その局を落とすことにどれくらい価値があるかを自分なりに考えてから鳴くべきだと考えます。ちなみに、親は前局ドラポンが入る中1,500点で押し切っての連荘中でした。自分の中では「この親注意」のフラグが立っていたということです。
“局消化をしたいのであれば急所を見落とすな”ということがこの項目での主なメッセージとなります。
唯一の手順で他家の高いアガりを阻止したのかもしれないのですから。
●ライバルの親を捌く
試合の性質によって自分の敵となる相手が3人ではなく1人だけになっている場合があります。そんな時そのライバルが親だったら先にアガってしまいたいですよね?上記の項のように無理矢理アガるのではなく、アガりやすさだけを追求した局が昨年のリーグ戦でありました。
A2リーグ第10節4回戦参照
ホンイツ一直線で良さそうな好配牌でした。場面は第10節の4回戦ですが、昇級争いをしている近藤さんが親という状況。ホンイツの高打点を決めてライバルを突き放すという考え方が一般的かと思います。しかしこの時は、もう1人の昇級争いの相手である内川さんが卓外、そして、ポイント的に抜け出し“金持ち喧嘩せず”の杉浦さんと残留争いに巻き込まれていた一井さんでした。仮に親の近藤さんから早い親リーチが来た場合に戦う価値のある選手が見当たらないのです。それは、私が打点のありそうな仕掛けをした場合も同様です。私はこの配牌をもらった時、アガり逃しだけは絶対にしない方向性で局の作戦を決めました。つまりアガりだけを取りに行こうという局テーマとなりました。
を両面チーします。チーしてピンズのくっつきのイーシャンテンです。いわゆるこんなの鳴いちゃうの?です。しかし局テーマに沿うとはこうゆうことです。僕にとっては、ライバルの親をきちんと流すことを優先したのでそう決めたのなら必然的なチーなのです。
を引き2,600のテンパイとなります。
スピードだけを取りいったものの、狙い通りの高速のテンパイです。
ツモ切りの後裏目のを引きますが、アガり優先と決めていたので2,600を1,000点に落とし待ち替えをします。
でアガりとなりました。
本来の捌き手とは、こうゆうアガリを指していると考えます。私は他家に何もさせないのが本当の「捌き」だと思っています。
しかしながら、この鳴きは今となっては間違っていた気がしています。というより局テーマを見誤ったと感じています。実際にはを鳴かなければ
ポン
このような満貫が確定したイーシャンテンとなっていました。この先アガれたかどうかは定かではありませんが、1,000点のアガリよりこのイーシャンテンの方がはるかに価値が高かったように思います。
結果、この半荘は浮きは確保したものの、ライバルの近藤さんに捲られて2着で終わります。
これは捌き手としてもスピードに特化し過ぎた悪い参考例として認識して下さい。ただ、アガリ自体にもっと価値のある状況となれば、ここまでやるのが親を落としにいくという行為であって、火の手が上がる前にアガるのが本物の捌き手なのです。
●局面を捌く
局テーマがその局の道中で変わることがあります。それは本手を組もうとしていても先手を取られてしまった場合や、自分の想定する本手を上回る手が他に入ってしまった時などです。
打点が見えるイーシャンテンまで行った時に他家からリーチが入った場合に、渋々ポンテンやチーテンで対応するといったことは実戦でよくあることだと思います。あとは、ドラポンなどが入った場合なども同様かと思います。
ただ、本手を捌き手に妥協する時に大事なことがあります。まずは、鳴いたらその手の価値が下がるということをしっかり認識することです。捌きに行く鳴きを入れた以上、逆に放銃で終わることは本末転倒となります。本手のイーシャンテンのまま放銃した方が数段マシな話なのです。それでも捌き手としてのテンパイを取るときは、残った待ちが場面に合った良い待ちなのかを吟味してから鳴かなくては捌き手として成立しません。ですから、イーシャンテンになった時点で受けの良し悪しは自分なりに決めておく必要があります。
妥協のテンパイ取りの基本概念として悪い方は鳴く、良い方は鳴かないが一つわかりやすいラインだと思います。もし逆からでも鳴く場合は、受け駒があるか(オリきれるか)も大事な要素です。悪い受けが残ったとしてもノーリスクでアガリが取れる場合もあるので、瞬間芸的な意味合いのポンテン・チーテンはありですが、こちらは危険牌ですぐ降りるべきだと考えるのであまりお勧めはしません。
これらを踏まえ以下最後の実戦例です。
A2リーグ第11節3回戦参照
先日の最終節の実戦譜から。微差の競りで迎えた最終節でしたが私自身は2ラススタートとなり後がない3回戦の東1局です。おそらく昇級するためには、2連勝必至でありどちらにせよ素点は必要となっていました。
まずまずの配牌から第1ツモで役牌のが暗刻になり打点を取りに行きたい手となりました。
5巡目に上記のリャンシャンテンとなったタイミングでライバルの近藤さんからリーチが入ります。
早い巡目ながら河はそれなりに濃く、第一感として安い手では無さそうと思いました。ゆえに、高打点を決められたら本当に昇級戦線に戻れないとも思いました。
自分の局テーマが「本手を組む」から「捌く」に変わります。ただし敵の待ち情報はあまりありません。字牌2種のあと尖張牌3種の河なのですが、マンズを→でリーチと来ているので、マンズの上目は入り目か待ちになっているかな?くらいは当初はおぼろげに考えていました。あとはとの外目は消去し無理矢理当てをつけジワジワと進むことを決意していました。
よって6巡目のを押し、8巡目のはドラなので打っても安めならと押します。
9巡目にリーチ者が切ったを上家が合わせます。チーすればイーシャンテンとなりますが、残る受けがドラ跨ぎのにフリテンのと悪いターツが2つ。何より余剰牌となっているのがかなり打ちづらい宣言牌の跨ぎであるです。よってからは捌きとしては成立しないと判断しスルーします。
チーしなかったことによりネックと思われたドラ跨ぎが通ります。それをまた上家が合わせ打ち。今度は残った受けが現物となったに、が通ったことによりのポン材としての期待値が上がりました。よってを勝負牌にすることに決めた上でをチーしてイーシンテンにします。
するとがすぐにポンできて先程リーチには通ったでテンパイすることができ、
すぐさま700−1,300のツモアガリをとることができました。リーチの待ちはの高目2,000−3,900の手でした。
仮にベタ降りして高目を引かれた場合はライバルとの差が▲9.9広がるところがリーチ棒込みで+5.4詰めたことになりました。最悪のケースとの落差15.3分の立ち回りとなりました。
今回のケースは、自身が後のない状況だったのでを勝負しやすかったのですが、本来は勝負しない方がよい牌なのかもしれません。ただ本手が捌き手となった場合でも、鳴く牌と鳴かない牌は1巡ごとによく考えて立ち回るべきと思いますし、状況の変化による局テーマの切り替えは常に意識したいところです。以上が最終項となります。
➖最後に
今回は捌く仕掛けに関して3つに分けて触れました。奇しくも参照例で扱ったのが全て昇級争いの相手となった近藤プロのものでした。近藤さんの親とリーチをこのページでは合わせて3回も捌いたにも関わらず(笑)、私は近藤さんに敗れています。所詮、捌き手は捌き手ということです。
私の回では仕掛けに焦点を絞って書きましたが、麻雀はメンゼンが強いことに変わりはありません。それを決して忘れれることなく様々な仕掛けにチャレンジしていただければと思っています。
カテゴリ:戦術の系譜