女流プロリーグ(女流桜花) 決勝観戦記

第15期女流桜花決定戦 最終日観戦記 越野 智紀

川原舞子が初挑戦で女流桜花を獲得しました。
今期女流桜花Aリーグで残留した8名で、事前に行った優勝予想では、仲田に5票・亜樹に2票・古谷に1票が入り、川原には0票。
前評判の高くなかった川原はなぜ勝てたのでしょうか?

9回戦開始前
川原+46.5P 仲田+14.4P 古谷▲7.0P 亜樹▲53.9P

川原と仲田、2人の差は32.1P。
仲田は少し前にいる川原に対してプレッシャーをかけ続けましたが、前を走っていたはずの川原が並走気分で打っていたため攻め手を緩めてくれません。
この意識のズレが川原にとってはプラスに働きました。

 

 

仲田はドラ色のソーズのホンイツ狙いで西をポン。この仕掛けで川原が止まれば仲田の作戦はほぼ成功で、自身がアガれず親の亜樹が連荘しても良しの二段構えです。
ポイント状況に合わせた機敏な動き、仲田のクレバーさが見えます。

この仲田の攻めに中五索三索と押す川原。
想定外の展開ですが、三索をチーしてテンパイが取れました。

二索二索八索九索 チー三索 左向き四索 上向き五索 上向き 暗カン牌の背一索 上向き一索 上向き牌の背 ポン西西西

この仲田の仕掛けに対して親の亜樹

 

 

優勝を狙うには1つの親番も無駄に出来ない苦しい状況で、ドラの四索を切ってフリテン五索八索に受けるか七索を切ってカン五索にするかの選択に迫られました。
安全度なら愚形に当たりづらいドラの四索切りのほうが優秀でしたが、残り3巡で出アガリも狙って七索を勝負。
これが仲田への7,700点放銃となり亜樹は戦線離脱。
川原を追撃する3本の矢の内の1本が折れました。

 

 

南2局1本場、古谷の親番。
2枚目の白を鳴いた川原に対して仲田は中の片アガリでヤミテンを選択。
そのままツモれば三暗刻で打点充分、ドラの三万を引いたら二万が切れます。
白が2鳴きなので1鳴きの時よりは中が出やすいことや、これまでの川原の仕掛けにドラトイツ以上が多かったことも影響してそうです。
そんな警戒されていた川原でしたが、

 

 

全員を吹き飛ばす白トイトイドラ3で跳満のツモアガリ。

「必死に打っててあまり記憶に無いんですけど、多分3日間通してドラが150枚ぐらいきたんじゃないかと…」

これは表彰式の時の川原のコメントで、実際に川原に入ったドラは143枚。
何気なく言った150という数値はかなり近いものでした。
手が入っていても、それを活かせなければ勝てないのが麻雀。
強気にも弱気にもなり過ぎず、自身が与えられた手を正確に判断していた川原は多くの局で冷静さを保っていました。

9回戦成績
川原+23.6P 古谷+9.0P 仲田▲8.9P 亜樹▲23.7P

9回戦終了時
川原+70.1P 仲田+5.5P 古谷+2.0P 亜樹▲77.6P

10回戦
前回の4着で大きく離されてしまった亜樹。
自身が少し損をしてでも川原に大きな損をさせるような、川原をマークする作戦が選択しづらいポイント状況になりました。

 

 

古谷がドラを暗刻にしてリーチを宣言するも

 

 

リーチ宣言牌が先制リーチをしていた亜樹に捕まり2,600点。
古谷の勝負手と仲田の親番を同時に亜樹が潰し、川原にとっては好展開。
亜樹からのマークが外れたことで川原の負担が相当軽減されました。

 

 

前局は仲田との2軒リーチを制した亜樹が3局連続のリーチ。

 

 

古谷は六索をチーしてのカン七筒では亜樹のリーチに分が悪いと判断してスルーしましたが、その結果テンパイが出来ずに親が流れてしまいます。

 

 

これまで仕掛けてかわす手をほとんど入れてこなかった川原。

 

 

苦しい手をアガリに結びつける良い動きで仲田の親を落とします。

 

 

九万を切って手広く受けず、川原の腕の振りが鈍くなりました。

 

 

仲田の仕掛けを受けて、九万を切らずの六万切りでテンパイを取った川原。
仲田に九万待ちは考えにくいので六万切りのメリットは、後に三万を2枚引いた時に両方九万とスライド出来ることぐらいです。

今まで前を見て自分の麻雀に集中していた川原でしたが、このあたりで後ろが気になり始めたのかもしれません。
そう考えると前局の仕掛けもポイント差を意識した動きにも見えてきます。
ポイント状況によって打ち方を変えていくことは普通のことですが、川原に起こった少しの変化は今局の結末を引っくり返すことになりました。

 

 

2枚切れの六万を見た古谷がここから五万七万落としを選択。
川原のロン牌である四筒が止まってしまいます。

 

 

古谷が四筒切りを耐えている間に、仲田が2,000・3,900のツモアガリ。

順調に回っていた川原の歯車から少し嫌な音が聞こえました。

 

 

オーラス親の亜樹からのリーチにトップ目の仲田は撤退。

 

 

少し緊張が見えてきた川原でしたが、ここは腹を括って攻めていきます。
仮に放銃しても亜樹が仲田をかわせば仲田とのトータルの差は現状とほぼ変らず。
親に放銃する怖さを抑え、状況を冷静に見極め川原は押し続けました。

 

 

これを亜樹が掴みました。
一瞬覆いかけた暗雲を吹き飛ばす会心のアガリが出て、川原は4着から2着に浮上。

 

 

「3日間通して手がキツかった印象で、ドラとか本当に入ってるかなって思うぐらいこなかったです。最後の2半荘で手が入ってくれたんですけど、時すでに遅しって感じでした。」

抜群の安定感でリーグ戦・プレーオフと勝ち抜くも、この決定戦で手に恵まれなかった亜樹。
それでも随所に鳴きの巧さや読みの深さを見せていましたが、この放銃で完全に終戦となりました。

10回戦成績
仲田+14.6P 川原+10.1P 古谷▲5.8P 亜樹▲18.9P

10回戦終了時
川原+80.2P 仲田+20.1P 古谷▲3.8P 亜樹▲96.5P

11回戦

 

 

追走1番手の仲田が親でアガリ続け、3本場でも先制リーチ。

 

 

1巡挟んで古谷もテンパイしましたが、不満の残る入り目。
こういう手をもらった時、特定の相手をマークするタイプは親リーチがトータルトップの川原ならアガリを防ぐ価値が高いので追いかけリーチ。
他の人の親リーチなら連荘されても良しとして、ヤミテンからの高打点狙いとなりそうです。
しかし古谷は入った手に逆らわずチャンスがきた時に一気に加点していく、苦しくなっても我慢が効く自力型の打ち手。
チャンタ三色は崩れましたが、六索は仲田に危なく一万が現物で自身の待ちはドラ筋。
変化を待つのは危険でリーチを打つのが自然と判断し、躊躇わず追いかけリーチを選択しました。

 

 

この2軒リーチに対して川原は暗刻からの九万切り。
古谷に1,300は2,200点の放銃になりました。

ゲーム回しを重視する仲田でしたが、連携を取って川原を追いかけるのは難しいと判断。
ここからは自力で追いかける作戦に切り替えていきます。
この川原の一打が結果的に仲田・古谷の連携を壊すことになりました。

 

 

古谷の親で仲田が仕掛けて400・700は500・800のアガリ。

 

 

仲田の親で古谷が500・1,000。
追いかける2人がお互いの親を落とす、川原にとって有利な展開へ。
チャンスを待った古谷でしたが、12回戦の中で2度目の波は遂に起こせず。

 

 

「連覇したかったのですが去年の戦い方を悪い意味で引きずってしまい、初日でマイナスしすぎました。来期はリーグ戦から参加なので、また戻ってこれるように頑張ります。」

11回戦成績
亜樹+26.7P 古谷▲1.2P 仲田▲8.8P 川原▲16.7P

11回戦終了時
川原+63.5P 仲田+11.3P 古谷▲5.0P 亜樹▲69.8P

12回戦
川原の前に立ちはだかる最後の砦は本命の仲田。
東1局の連荘で13.9P差まで詰め寄り、5本場で更にチャンス手が入ります。

 

 

一万四万七万二筒五筒の1シャンテンから白をポンする積極的な仕掛けでホンイツへ。

 

 

そのマンズのホンイツで仕掛けた仲田に対し、腹を括った川原は1シャンテンから七万を勝負。
仲田は川原の切った七万をチーするも、ここで悩みます。
三万を切ると二万五万八万待ち、ドラの二万を切ると三万六万九万待ち。
八万が無いのでアガリやすさなら二万を切りたいが、それだと5,800点。
三万を切れば親満級になり、ツモれば一気に逆転です。
ポイント状況が仲田に三万を打たせました。

 

 

この三万が亜樹にあたり、苦悶の表情を浮かべる仲田。

「もしやり直せる局があるとしたら?」

という試合後の質問に対し、仲田は真っ先にこの局を挙げました。

仲田「二万切りも考えたが、それ以前に白を鳴かずにメンゼンで攻める選択肢があった。」

あと一歩のところで捕まえかけた川原を逃してしまった仲田。
南場の親は流局で落とし、川原優勢のまま局は進んで

 

 

これがトドメの一撃。
ダブ南ツモドラ1の2,000・3900で川原は追いすがる仲田との決着をつけました。

 

 

「もしかしたらのとこまではきましたが、展開が操れない部分も多いのが麻雀だと思います。毎年残るので、また応援してください。」

女流桜花Aリーグ・プレーオフ・決定戦と最後まで中心で盛り上げた仲田でしたが、5度目の優勝は次回以降にお預け。

 

 

強敵相手に前評判を覆し見事優勝した川原。

「連盟に入って10年ぐらいで表に立って活躍することがなくて、やっと獲れたタイトル。この一発で終わらずに、今年1年チャンスを生かせるように今後も精進していきたいと思います。これからも応援宜しくお願いします。」

これは優勝直後の放送内でのコメントで、以下は放送終了後に聞いた話しです。

川原「トータル首位に立った8回戦で引き気味に打ってしまったことを反省し、今日は攻めようと決めてました。ポイントを考えすぎずに攻めれたのが良かったと思います。最終戦は自分で決めないと局が進まないと思って、放銃は怖いけど押しました。」

越野「古橋さんに何か作戦って授かりましたか?」

川原「もし最終戦ラス親の席に座れた時にどうするかは話していました。相手に1,000・2,000条件ぐらいが残っている時には手を組んでアガリに向かおうって決めていたんですが、南3局の2,000・3,900のアガリでオーラスはオリれる点差になってほっとしました。」

越野「少し気が早いかもしれませんが、今後の目標を教えてください」

川原「去年の本田さんのように1年の間にチャンスを活かしたいです。それと2日目までの試合を見返していた時に、運が良かったとコメントで書かれているのを結構見たんです。実際に手は入っていたと自分でも思います。今日の試合も帰ってから見て勉強し、内容でも認められるような選手になりたいです。」

新しく誕生した女流桜花の話しを聞いて、熱いなと。
謙虚さと勤勉さと内に秘めた強い気持ちがあるんだなと思いました。

川原舞子がなぜ勝ったのか?

それは強いから勝ったんだよと、1年後には多くの人が共感している気がします。

最終成績
川原+78.1P 仲田+41.6P 古谷▲30.8P 亜樹▲88.9P

 

 

(文:越野智紀)