「~決定戦初日の構え~」 佐々木 寿人
2021年07月21日
自身初となるG1タイトル獲得は、2017年の麻雀グランプリМAXだった。
対戦相手が皆近い年代ということもあったが、決勝戦を迎えるに当たってのテーマは、はっきりしていた。
“絶対に負けてはならない戦い”
言うなれば、最後まで粘り強く、勝負を急がないということである。
それを如実に表した1局がある。
7回戦南4局12巡目、西家の私はを仕掛けた。
高目のでアガれば浮きの2着かつ、最終戦をトータルトップで迎えられるという状況だった。
そこに北家の柴田吉和さんからリーチが入る。
持ち点が26,400ということを加味すれば、ある程度の打点も予測できる場面だ。
その一発目、私が引いたのはだった。いつもなら切っておかしくない牌だが、頭の中には戦前に掲げたテーマがしっかりと刻まれていた。
これが放銃になったとして、果たして勝負所だったからと言えるのか。でアガればとは言うが、1枚切れのが簡単に出てくる局面なのか。序盤から中張牌をダダ切りしている内川幸太郎さんの手の内にあれば、この手牌も死に手同然である。
とは言え、もちろんが刻子になる可能性もゼロではない。それで待ちとなれば、もう一度勝負の舞台に乗ることができる。打ではなく、打としたのは、まさにギリギリの抵抗だった。
そして次巡、持ってきたのはこれ以上ないというようなドラのだった。
再び打として7,700が確定。は河に4枚見えではあるが、これなら十分勝機はある。
しかしその直後、トータルトップ目の親の白鳥翔さんから切りのリーチが入る。
私は2巡続けて安全度の高いをツモ切ってこの急場を凌いだが、残りツモ番2回というところでを引く。
ポン ツモ
一度は回らされたスジだが、白鳥さんの捨て牌にはとが、そして柴田さんの捨て牌にはがそれぞれ切られている。
このを勝負して3者での捲り合いに懸けるか、あるかどうかわからない次局に勝負を持ち越すか、私は非常に重要な選択に迫られた。
だが、決断にはそう時間を要さなかった。私は打として、勝負を先送りにする選択を取った。
結果は流局。
親の白鳥さんは待ち、そして先制リーチの柴田さんはが高目の三色の手だった。
暗カン
仮にあの局面でを打っていれば、私はこのゲーム4着となり、優勝の可能性も極めて厳しいものになっていただろう。
ツモ ドラ
その次局にこのを引きアガった時、我慢することの大切さを再認識すると共に、何かしらのテーマを持って戦いに挑むことの重要性を痛感させられた。
今決定戦は、“絶対に勝たなければならない”戦いだった。今回負ければ、次の機会がいつ来るかもわからない。いや、もしかしたら二度と来ないかもしれない。それぐらいの覚悟を持たなければ、到底優勝することなどできないと自らを追い込んだ。ただ、その自信だけは揺らがなかった。
戦前のインタビューで、今は充実期にあると言い放ったのも、単なるパフォーマンスではなかった。
日テレプラス杯、三人麻雀GP、FOCUS M、そして日本シリーズ。これら全てを勝って、なおかつМリーグの出来も良いとくれば、今が最も打てている時期ということなのだろう。
後はプロリーグを勝ってきた時のように、決め手となり得る手牌はしっかりリーチで被せることだ。
いち早く主導権を握り、大逃げを図ることが、自身の勝ちパターンだと強く意識していたのである。
初アガリは、東1局1本場だった。
7巡目、南家の沢崎誠さんからが切られる。これを仕掛ければ食いタンのテンパイ。だが、は既に1枚切られていて、アガリの見込みは薄い。
そもそも、のっけからこんな仕掛けを入れているようでは、先が思いやられるというものだ。
足を使う局面はここではない。
13巡目、ピンズの一色模様の勝又健志さんがカンを仕掛けた。まぁほぼテンパイが入ったと見ていいだろう。翻牌ではだけが顔を見せていないが、チンイツの可能性だって否定はできない。
同巡、ツモ。
捨て牌にはとが1枚ずつ切られているが、は生牌。カンでのリーチもあったが、ここは打のヤミテンに構える。
先手ならまだしも、やはり親の仕掛けはケアせねばならぬ。
危険なピンズや、字牌を持ってきたときには、七対子へ受け変えられるのが最大の利点である。
14巡目、を引く。河を見渡してもソーズは安く、これは自分がアガリに行く上でもいい待ちに映る。打。
そして次巡、そのを引きアガる。
受け手順だったとは言え、このアガリにはかなりの好感触を得た。
16戦という決して長期とは言えない戦いでは、要所でいかに効果的なアガリを奪っていくかが非常に重要なのだ。
そういった意味で大きなポイントとなったのが、東4局1本場だった。
ドラ
私の配牌は、ドラがトイツでまずまずの手格好。
4巡目、親の藤崎智さんがをポン。
切り出しからしても、ピンズのホンイツは間違いないが、何せオタ風の一鳴きである。
藤崎さんの上家にいてパッと思い描いたのが、以下のような手牌だった。
ポン
藤崎さんの遠い仕掛けは極めて稀で、ダブが既に暗刻のケースだって十分に想定できる場面である。実際、を仕掛けたときの藤崎さんの手牌はこうだった。
いずれにせよ、上家に座する私は、ギリギリまでピンズを絞る選択を迫られることになった。
6巡目、ソーズのペンターを払いながら1シャンテンへと漕ぎ着けた。
しかし形は重く、ピンズのシャンポン部分がどうしたってネックとなる。
その後、藤崎さんも1枚切れの、、更に生牌の、と手出ししてきて、場がかなり煮詰まっている。
9巡目、ツモ、打。
10巡目、ツモ、打として、私もいよいよ勝負形となってきた。
そして次巡、絶好のを持ってくる。打は当然として、問題はリーチの是非だ。
藤崎さんの捨て牌にはが切られてあり、私が無スジのを押したぐらいなら、まだが打たれることもあるだろう。
だが、私に迷いはなかった。
先に述べた通り、この手は決め手となり得る手牌だ。藤崎さんとの捲り合いになったとしても、やはりリーチの一手であると考える。
3巡後、を引きアガったとき、これは自分のペースになると確信した。
私にとって今決定戦を占う上でも、非常に大きなアガリだった。
初戦をトップで終え、迎えた2戦目は、派手なアガリこそ出なかったが、相手の攻撃を凌ぎ切っての連勝となった。
起家スタートとなった3回戦でも、1人テンパイから入って、3,900は4,200の出アガリで連荘。
最終的には28,500の3着で終わったが、上手く凌ぎ切ることができたとの印象が強く、手応えも十分だった。
そして区切りの4回戦。
南2局の親番で、この日最高のアガリが生まれた。
ドラ
この配牌が、6巡でここまで伸びた。
同巡、南家の藤崎さんに仕掛けが入り、を引いた。無論、迷いはなかった。
まだ初日とは言え、これが引きアガれるようなら、夢にまで見たあの称号に一歩近づける。そんな決意のリーチだった。
オーラスも、親の勝又さんのリーチをかいくぐっての700・1,300で、この日3勝目。
ポイントも60ポイントを超え、1つの目安となる100ポイントも射程圏内へと入ってきた。
初日を終えて芽生えた、早く決めてしまいたいという気持ちと、そんな甘いもんじゃないという気持ち。
そんな中、苦悩の2日目が幕を開けようとしていた。
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