戦術の系譜

戦術の系譜30 前原 雄大

~麻雀はその人のフォームが全て~

最近連盟チャンネルを観る事が増えた。特に、古川孝次さんの麻雀は面白い。
エネルギッシュな仕掛けと、そこから相手の攻め返しにキチンと対応して受けるのは流石である。

なかなかに退けない部分もしっかり受ける。私などは鳴いたらオリるなの精神でやってきたものだから勉強になる。
おそらくあの麻雀が古川さんの自然体の麻雀なのだろう。

元々はメンゼン派で、30歳を過ぎた頃、灘麻太郎名誉会長の影響で今のカタチになったとおっしゃっていた。

簡単に記すと積み重ねの麻雀である。
コツコツと地味に見えるかもしれないが、麻雀の中に潜む核だけは外さないモノに思える。
一見相手3人と戦っているように映るが、そうでは無い。つまるところは自分自身との闘いなのである。

つまらない見栄やプライドを張るのも己自身だし、脅えや弱さに溺れるのも自分自身である。
そういう部分も人である以上、全く無いという事はないのだろうが、かなり薄い。

古川さんは鳳凰位を3連覇しているが、その前に若手向けのタイトル戦も3連覇している。
その時本人から電話があり、翌年は出場を見合わせるつもりだと言われた。
それなりの理由は聞いたが、わたしは出るべきだと言ったのを覚えている。結局、古川さんは出なかったらしい。{本人談}

そのかわり、翌年出場してまた優勝をもぎ取った。この辺りの出所進退は古川さんの麻雀に似ている気がする。

 

~それにしても~

一索二索三索四索五索六索七索九索九索九索三筒四筒五筒  ドラ九索

入り目が四筒であるからには、残りツモ1巡でもリーチを打った。すかさず親から追いかけリーチがツモ切りで入る。一発で掴んだのがドラである九索

「ロン5,800」

一万二万三万六万七万八万七索八索一筒一筒六筒七筒八筒

{今日は苦戦しそうだな}
第2節の鳳凰戦の初戦は小さめのラスである。この時、頭に浮かんだのが、古川さんであればヤミテンに構えることもあるのでは、、、。
ツモアガリはすべて満貫だし、八索であれば跳満であるし。何しろヤミテンであればツモ九索の暗カンであることが大きい。
ただ、それは古川さんのフォームであり私のフォームでは無い。

2戦目は南3局

二万三万三万四万六万二索三索四索六索六索三筒四筒五筒六筒  ドラ九索

5巡目のこの形から打六万とする。上家の親がその六万をポンと仕掛ける。そしてやって来たのが四万である。
持ち点が29,700点の南家である。初戦の結果に懲りたのと、対面の二万が山越しである事からヤミテンに構える。
勝負を次の親番に懸ける。

サクサクと3者の手が育って行くのを感じる。八万は3枚出れど二万五万は何処からも出ない。
そして、4巡目に二万を打って来た北家より深い巡目にリーチが入る。上家の親が完全安牌の4枚目の字牌を手出しで打ち出してきた。
ツモってきたのが北家の現物の八万。そっと卓上に置く。

「ロン12,000」

一万二万二万三万三万四万六万七万九万九万  ポン六万 上向き六万 上向き六万 上向き
{何の為のヤミテンだったのだろうか}

2戦目もラスである。

3戦目は起家が南家より12,000点を出アガる。
1本場、私の配牌がこれである。

三索四索一筒一筒白白発発中中南西北  ドラ白

親の2巡目に打ち出された中をポンしたら、すぐ発二索とツモり5巡目で高目大三元のテンパイである。

二索三索四索一筒一筒白白発発発  ポン中中中

そこにやはりという感じで、親からリーチが飛んでくる。こちらとしてはある意味有難かった。リーチを打った以上、全てアガリ牌以外はツモ切ってくれるからである。それはこちら側も同じようなものだが。

「ツモ」

親の手牌が開けられた。

一索二索三索二筒三筒四筒六筒七筒八筒南南南白  ツモ白

「4,000は4,100オール」

ようやく親番が落ちる。私と親のノーテンで。
私の麻雀の欠点でもあり長所でもあるのだが、字牌の先切りはめったにしない。勿論、手牌にもよるのだが、この時もそうだった。

二万三万四万六万七万八万六索八索一筒一筒六筒七筒八筒中  ドラ五索

宣言牌が中になった。親が「ポン」そして、私の現物である七万を「チー」すると私が持って来たのはドラの五索である。

「ポン」

親の声である。私は自身の放銃で終局することをここで確信し、卓上に五筒を置く。

「11,600は11,900」

私にも理屈はある。この半荘に限り、現在の親番が起家に親満を飛び込んだ処から始まっている。ただ、大局感は間違っていた。
私は既に2ラスを喫しているのだ。尚且つ前局、大三元も不発ではないか。やはりヤミテンが至当だろう。

次局も同じである。

二万三万四万四万五万七万七万七万二索二索三索四索五索  ドラ東

これが5巡目。私の上家の二万を親がポンして打一万。ドラは既に河に飛んでいる。同巡、掴んだ九万を捨てる。

「ロン7,700は8,300」

アホである。ヒサト棒発進!!である。
※ヒサト棒とは持ち点以下になって点数が支払えなくなった時に使用する仮の一万点棒。

 

~45年前の先輩の言葉~

連盟が出来るずっと前、当時の若手プロの筆頭格が言っていた。

「役満でも打たない限り、このルールで箱を割ってはいけない!仮に親の跳満を打っても、残った12,000点を守るのがこれからのプロの証である」

良い言葉だと思った。私は連盟に入った頃にはもう東京にはいなかった。私は自分で指は長いほうだと思うが、その人は一関節分私より指が長かった。
そんな事を思い出していたら親から「リーチ」今局は初めから手を作らなかった。

「ツモ6,000は6,300オール」

一万二万三万四万五万七万八万九万九万九万六索七索八索  リーチ  ツモ六万  ドラ七索

ヒサト棒2号発進!!

結局はこの半荘、わずかなトビで済んだのも良かったように思う。
それにしても、東2局でハコ下になったのは初めてのような気がする。多分間違いないと思う。

 

~終わり良ければ全て善し~

最終戦は何とかトップが取れた。帰り際、伊藤優孝さんと帰る。

「麻雀格闘倶楽部でもやらないか?」
「煙草、アイコスでも喫煙スペースがあるところね」
「とりあえず、行ってみましょう」
「お、ここの焼き鳥屋、良さそうね、帰りに一杯」
「酒、止めました」
「つまんない男になったねー」

返す言葉無し。

結局は喫煙スペースのあるゲームセンターが見つからなかったのでお互い帰宅。
帰りの電車の中でB1セレクトを観ながら帰ろうと、私が観た瞬間四暗刻が出る。

そして視聴者に挨拶を入れると、皆さん私の成績を知っていた様子。
結構な方々に慰められた。

「総帥、大丈夫です!最後トップでしょ。終わり良ければ全て善し!!」
___そういう事では無いような気もするが。有難い言葉ではある。