「観戦記者って、何時に会場に行けばいいんだろう?早く行き過ぎても変かな・・」
こんなくだらない疑問をかかえながら、外食で時間調整をして30分前に会場入り、見渡すと選手がまだいなかったのでホッとする(笑)
だがやはり決勝戦、独特の雰囲気、緊張感がそこにはあった。1番に会場入りした選手は山田浩之。挨拶をして一言コメントをもらう。
「普段通りに自分の麻雀が打てれば勝てると思います」
私は対局前に勝てるという言葉は使わないが、反面この言葉について考えてみた。
「自分の麻雀が打てれば・・」麻雀は自分との戦いであり、自分の型が揺れなければ勝てるということだろう。
それを信じなければ、自分も麻雀を打っていられないと思う。
2番目に相沢かおるが来場。
「格負けしないようにがんばります。麻雀を楽しみます」
相沢とは連盟道場で何度も対局したことがあり、先日もこの数ヶ月でかなり麻雀が変わったような話をした。
実際に、道場での順位率や特別昇級リーグでの優勝もあり、格負けしているとは思えない。
今回も魅せてくれると期待する。
続いて3番目に松崎良文。
「今日は決勝の麻雀を、頭を取りに行く麻雀で挑みたい」
私の見解では、松崎はトーナメントには本当に強いタイプである。本人もトーナメントを得意としているであろう。
だからこそ、決勝はシフトチェンジをして優勝を取りにいくぞ!という意気込みである。
今日のメンバーの中では、一番器用なタイプなので戦い方が見ものである。
最後に、時間ぎりぎりに来場したのが増田隆一。
運営の方々が、実は近くで時間潰してわざとぎりぎりに来るのでは?などと談笑している。
そういった話をされるのもこの男の魅力である。
「今年は失ったものが多いので今日くらいは・・」
増田とも連盟道場で何度も対局をしている。
麻雀の長所短所はいまだによくわからないが、増田の魅力はやはり人間味であろう。
1回戦(起家から 山田、相沢、松崎、増田)

まずは東1局、いきなり面白い局である。配牌で相沢にドラが3枚。

その相沢が、 をチーして と 待ちの東ドラ3のテンパイ。
         チー  
松崎は1シャンテン維持だが、終盤にきつい2枚を引いて受けの体勢。
増田は5巡目で、
            
この三色の1シャンテンだが手が伸びない。
もう1人、山田がどうも様子がおかしい・・
             
ここから打 。厳しいのかもしれないが、私の知っている山田はここから を切ることはない。
結果は流局だが、緊張など色々なものが襲いかかって来る、冒頭の「自分の麻雀が打てれば」という課題を克服できるか不安を感じた1局となる。
そして東4局。
増田が親で、7,700と1本場の7,700は8,000を山田からアガリ次局2本場。
            ドラ
このテンパイに、南家・山田は、
            
このテンパイ。さらに北家・松崎は、
            
こうなっており、3人がピンフ系の3ハンあるダマテン。
そして、これを制したのは山田。メンバーのレベルの高さを感じさせる1局となった。
南1局、前局ツモアガリした山田が親を迎えて、7巡目。
         ポン  
1枚目の を見送ってその後この形となる。これが山田の型なのであろう。
を鳴いたら も も出ない。普段そういった相手と打つことによって、アガリへの意識が高まっているのである。
松崎の手の中には が1枚。打点の読みずらい山田の捨て牌だが、松崎も山田という人間を知っているからこそ を打たない。
結果は、増田が1,300をアガる。
南2局、南家の松崎がポン、ポンと仕掛けて、
      ポン  ポン  ドラ
「仕掛けたが苦しいか?」とメモを取ったが、あっさり山田が、
             
ここから で放銃。 も も自然に出てしまう形。
本手を潰され、次局は放銃となった山田はこの状況をどう感じたであろう?

南3局、10巡目に南家・増田と、西家・山田の1シャンテンの受け入れが、 – と – と被っていた。
『たられば』ではあるが、親の松崎がチーテンを入れ、増田、山田共に – を引き入れての勝負となった。
結果は、山田の ツモアガリ。
相沢 松崎から見れば、増田にこのまま走られても困るので、山田のアガリは悪くはないと思ったかもしれない。
一方、山田としては、この半荘の内容のわりに少なく済んだ失点に、少しほっとしたように見えた。
1回戦終了
増田+22.7P 松崎+8.2P 山田▲12.7P 相沢▲18.2P
2回戦(起家から 松崎、山田、増田、相沢)
山田が東1局に、
      チー  カン   ロン
これをアガると、するすると加点していき1人浮きのトップとなる。
2回戦成績
山田+22.8P 増田▲1.1P 相沢▲4.5P 松崎▲17.2P
2回戦終了時
増田+21.6P 山田+10.1P 松崎▲9.0P 相沢▲22.7P
3回戦(起家から 相沢、増田、山田、松崎)
東2局、北家・相沢が、
            リーチ ドラ
これでリーチを打つと、親の増田も追いかける。
            リーチ
当人にはわからないが、8枚目の を増田がつかみ5,200のアガリ。
増田はだんだん本手が決まらなくなりつらい展開となる。
東3局は、親の山田が途中、選択のあるテンパイに不安を感じたのか、ダマテンにして松崎から2,900をアガる。
先ほどもふれたが、これが山田の繊細な一面であろう。
だが、その後は相沢が黙っていなかった。
         ポン  ロン
この5,200を山田からアガリ、
         暗カン   リーチ ロン
この4,500を松崎からアガる。
そして、1,500をアガった後の1本場で、
            リーチ ツモ ドラ
この を力強くツモる。
相沢は、続く2本場で完全に決めに行くつもりだったのであろう、
            リーチ
ここから「リーチ」と言われた瞬間、みながそう思ったはずだ。
増田もそれを感じたのか、腹をくくって追いかける。
他の選手も、ここで相沢にリーチと言われた瞬間そう感じたはずだ。
そのリーチを真っ向から受け止め、腹を括って追いかけたのは増田。
            リーチ ツモ
軍配は増田に上がり、不恰好ではあるが値千金の500・1,000のツモアガリとなった。
増田としては、ここから反撃というところだが、局は淡々と進み相沢の1人浮きで終わる。
3回戦成績
相沢+34.4P 山田▲4.9P 松崎▲11.5P 増田▲19.0P
3回戦終了時
相沢+11.7P 山田+5.2P 増田+2.6P 松崎▲20.5P
4回戦(起家から 増田、相沢、山田、松崎)
東場は小場で進み、南1局に、
            リーチ ロン ドラ
この松崎のリーチに対して、親の増田もリーチと追いかけるが を掴み8,000の放銃。
増田は今ひとつ勢いに乗れない。
南3局、山田の手牌。
             
ここから打 としてチャンタ三色、最低でも三色だけは決めたい。
こうなったら、 を仕掛けないのはそれまでの山田の麻雀を見ていた観戦者にも伝わる。
そして、 、 と引き入れリーチ。
増田の手牌は、
            
この牌姿から を引き、体勢が悪いからかダマテンを選択していた。
しかし、山田がリーチと来た以上、追いかけリーチと行く。
一方、松崎は、
             
ここから、場に が3枚で自分が1枚使っているので打 。
山田の当り牌である を引きこみ、ドラの を切ってリーチと勝負に行く。
しかし結果は・・・

松崎が山田の当り牌である をまたもやつかみ7,700の放銃。
続く1本場では、追撃にきている相沢と山田の一騎打ち。
山田がホウテイで小考したものの打 として勝負。

相沢に1人テンパイを許し、親を放棄すること。
又は、ハイテイで勝負をして、放銃となるか親権維持となるか。どちらの選択が正しいのか私には分からない。
ただ山田は、ここで を切るべきだと感じたのであろう。それが自分の麻雀であり、信じているものなのだから。
終わってみれば山田の1人浮きで終了。
4回戦成績
山田+20.8P 松崎▲2.3P 増田▲4.4P 相沢▲14.1P
4回戦終了時
山田+26.0P 増田▲1.8P 相沢▲2.4P 松崎▲22.8P
最終戦5回戦(起家から 相沢、増田、松崎、山田)
東1局、配牌では1枚もなかった を、7巡目までに3枚引き入れた相沢が、この3,900オールを引く。
         チー  ツモ ドラ
1本場、相沢はなんとしてでも加点しに行きたいところ。
            リーチ ドラ
前巡からテンパイをしていた山田も、ここで負けるかとばりにドラを勝負。だが結果は流局。
2本場、ここで増田が、
            ツモ ドラ
この満貫を引きアガると、次局の親で、

この6,000オールを気合のツモ。
相沢にも増田にも追い越された山田は、東2局1本場、
            リーチ ドラ
この – – でリーチを打つが引けずに流局。
山田にとって苦しい展開となるかと思ったが、次局2本場で、
            リーチ ツモ
高目の をツモアガリ、山田にとってうれしい原点超えとなる。
さあ、これでまたしても形勢逆転とばかりに、親で山田が3本積み、今度は逆に増田に条件を突きつける。
            リーチ
流局1人テンパイ。
            ロン
         ポン  ロン
打点こそ低いものの、こうなっては山田が崩れることはない。
山田にとって、相沢・松崎はポイント的に高打点の手を組んでくるだろうと予測できるので、いかに増田の親を長引かせないように落とすかである。
そこでこのアガリを見せる。
         ポン  ツモ
を持ってきたのは増田だが、局を流したくない他の2人からは がこぼれる可能性が少ないだけに、増田に運が無かったのかもしれない。
だが南3局、
            ロン ドラ
この3,900を増田がアガリ、オーラス勝負となる。
オーラスの条件は、山田と増田が8.1P差。
相沢・松崎からリーチ棒は出ないと思うので、増田にとっては直撃、もしくは満貫のツモアガリしかない。
オーラス、増田に運命の選択が迫る。
             ドラ
ここから を選択。そして を引いてのフリテンリーチ( は捨ててある)
増田のツモる指に渾身の力を込めるが、山に は眠っていなかった・・
最終戦成績
増田+35.3P 山田+12.6P 相沢▲11.8P 松崎▲37.1P
最終結果
山田+38.6P 増田+33.5P 相沢▲14.2P 松崎▲59.9P

今回初めて観戦記者をやらせていただき、また偶然ではあるが、同期(17期)が3人決勝に残るという、
自分にとって思い入れのある人達の戦いを観戦し伝えることができました。
相沢とは期こそ違うが、連盟道場では何度も対戦しており、気持ちの入ったすばらしい戦いを見せて頂きました。
最後に、山田浩之プロ、決勝初進出&初優勝おめでとう!

(執筆:柴田 弘幸 文中敬称略)
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