第3期グランプリMAX 決勝観戦記
2013年03月31日
2013.2.17
この日、私は第29期鳳凰位決定戦の打ち上げ会場にいた。
第29期鳳凰位決定戦は、過去最高の面子ともいえる中、瀬戸熊直樹が圧勝で鳳凰位を奪還した。
とにかく4日間のどれもこれも非の打ちどころのない素晴らしい勝負だった。
今回の鳳凰位決定戦を観て、感動した人も決して少なくないのではと思う。
準優勝は前原だった。19回戦に1回の親番で100P以上の差を詰め、瀬戸熊を震えあがらせた。
あの連荘は、「流れ」というものが確かに存在している見本と言えるぐらい凄かった。
そう、あの連荘は・・・。
会も中盤になり、酒も良い感じにまわった頃、前原と話をした。
何故こういう話になったかは覚えていないが、話の内容はこうだった。
「今回は前原さんに勝ってほしくなかったです」
「瀬戸君がいたからだろう?」
「違います。1番内容が悪かったからです」
「・・・」
若輩者の私が、大先輩である前原に対して生意気すぎる発言だとは思うし、そう指摘されれば素直に、
「口がすぎました」と謝るだろう。
勘違いしないでほしいのだが、私は前原を責めたかった訳ではない。
ただ、悲しかったのである。
2013.3.2
グランプリMAXの1次予選で早々と敗退した私は、家の近くを散歩していた。
その時、編集部から着信があった。
「グランプリの観戦記書く?」
「はい。やらせていただきます」
「じゃあ時間もかかるし、休みもとって頑張ってね」
「分かりました。ありがとうございます」
実はこの時、決勝面子をまだ確認していなかった。そのため、通話を終えて家に帰りすぐさま確認した。
決勝面子は灘、古川、前原、勝又。第1印象は「面白い面子だな」だった。
近年、連盟では2鳴きを好む打ち手が増えてきている。
当然、態勢や手牌構成などでも変わってくるとは思う。どちらが良いも悪いもないし、正解はないだろう。
これには「流行」という言葉が1番しっくりくる気がする。
それというのも、一昔前には同巡2鳴きはしないほうが良いとされていた。
1鳴きしない理由は、手牌がまとまっていないか、もしくは打点が低いパターンが多いからである。
しかし、それも今ではよく目にする光景である。そのため、これは「流行」だと私は認識している。
何故こんなことを書いたかというと、今回の面子は、ほぼ1鳴き派が揃っているからである。
灘、古川は俗に言う「鳴き屋」である。これは、仕掛けてどんどん流れを掴むタイプといえる。
このタイプで成績を残している人の特徴として、とにかく読み(受け)がしっかりしていることが挙げられる。手牌が短くなっても、受けきれる自信がない人はやらない方が良いだろう。
また、相手からすると、打点に関係なく同じリズムで仕掛けてくるので、打点が読みにくいのも大きな特徴である。
前原は仕掛けでもリーチでも、とにかく先手をとって、自分の展開になったら、「面前」でどこまででも押すタイプである。
勝又は、手牌構成、山読み、打点のバランスで仕掛けるタイプである。
これらのことから、今回の戦いが空中戦になることは間違いないだろう。
冷蔵庫からビールを出し、喉を潤しながら展開予想を考えてみた。
私が展開を考える時は、まず始めに「並び」から入る。
鳴きの多い人の上家は、対応しなければならないので不利になることが多く、下家はツモが増えるので有利になることが多い。しかし、今回は鳴く人が多いので、考えてみても結論は出なかった。
次に、誰かがはしった時、有利になるかどうかを考えてみたが、これも分からなかった。
結局、何も考えはまとまらなかったのだが、空中戦で局の展開が早そうであること、5回戦の短期決戦であるということから、最初にポイントを持った人が圧倒的に有利になると予想される。
また、今回の面子はとても勉強になりそうだなとも思った。
昨年から、決勝戦(鳳凰位決定戦、十段位、グランプリMAX、女流桜花)は、ニコニコ生放送で放送されるようになった。これを読んでくれている方の中には、放送をご覧になった方もいるだろう。
ここで、私なりの視聴のコツを教えたいと思う。
1、 対局を客観的に楽しむ。
2、 解説をよく聞き、その後の展開予想を自分なりに考えてみる。
3、敗因になりそうだなと思った局を自分なりに考える。
特に、2、3は雀力向上につながると思うので、オススメである。
2013.3.3
私は男なので関係ないが今日はひな祭りだな。
最近でも雛人形を飾ったり、ひなあられを食べたりお祝いをするのだろうか?などと、どうでもいいことを考えながら、会場に向かった。
決勝に残った4人の選手の紹介をしたいと思う。
灘麻太郎 1期生
主なタイトル
第2期 雀聖位
第2期 麻雀王座
第3、4期
雀魔王
第1期 最高位
第9、17期 十段位
第10、11、12、13期 王位
灘麻太郎
日本プロ麻雀連盟の会長(現名誉会長)であり、鋭い鳴きが武器で、その切れ味から「カミソリ灘」の通り名を持つ。連盟一のタイトルの持ち主でもある。
ちなみに私は、今回の面子の中では1番対戦数が少ないが、勝った記憶がほとんどない。
特徴として挙げるならば、独特の鳴きもそうだが、とにかく守備力が高い。
弱点をあげるとすれば、今年76歳になる年齢から、集中力の持続がいかに保たれるかどうかだろう。
古川孝次 1期生
主なタイトル
第16、17、18期 鳳凰位
古川孝次
古川と私が初めて出会ったのは8年程前である。
「この人、めちゃくちゃ強いなぁ」と思ったのが第一印象である。
武器は灘と同じく鳴きと守備力といえる。
古川が、史上初の鳳凰位を3連覇した時、自分は会場にいた。
手牌4枚から、当たり牌をピタリと止めておりる姿に、鳥肌が立った記憶がある。
古川の弱点は、その日の調子によってのブレが大きいところだと思う。
鳴きは感覚的なことが多いだけに、鳴くか鳴かないかの直感力が大事なのであろう。
前原雄大 1期生
主なタイトル
第12、25期 鳳凰位
第14、15、24、25、26期 十段位
グランプリ2008
前原雄大
私がプロ入りするきっかけになったのが前原だった。
まだアマチュアの頃、前原が「勝手にしやがれ」というコラムを執筆しており、当時の私は毎月楽しみに読んでいた。また、前原の麻雀は優勢になった時の押し加減が見ていて気持ち良く、昔から憧れていた。
前原の武器は「メリハリの利いた攻撃」だと思う。
特に、親番の時の連荘率は、連盟一ではないかと思う程である。
弱点として挙げるならば、多少厳しい牌姿からの仕掛けで後手を踏んだ時、失点につながることが多々あることだろう。
勝又健志 17期生
主なタイトル
第2期グランプリMAX
勝又健志
私は、麻雀というものが完全に牌理や数字だけだとしたら、勝又が一番強いかもしれないと思う程、勝又は読みが優れている。
前期は、第1期グランプリMAXの覇者である小島との接戦を制し、嬉しい初タイトル獲得となった。
弱点は、本人は否定するかもしれないが、態勢を信じきれないことで加点を少なくしてしまう面があることだろう。“堅実すぎる”という表現の方があっているかもしれない。
開始前に選手全員と、解説に来ていた瀬戸熊鳳凰位に話を伺った。
灘 「今、梅の花の時期だけど、卓上では三色の花を咲かせたい」
古川 「最近、麻雀の調子が良い。前原さんと久しぶりの勝負なので警戒しているが同時に楽しみ。
周りが応援してくれているので期待に応えたい」
前原 「普段通りやるだけ」
勝又 「自分の麻雀を打つだけ。順番にトップを取る展開にはならなそうなので、
置いてかれないようにしたい」
瀬戸熊「全員鳴き派なので、最初に仕掛けた人に対しての踏み込み具合が大事だと思う。
古川さんは仕上がってからも鳴くタイプなので、のせると決まるかも知れない。
5回勝負なので、1、2回戦までに2番手、もしくは、僅差の3番手にいないと厳しい」
と、開始前は各々こんな具合であった。
左から 勝又健志、古川孝次、前原雄大、灘麻太郎
1回戦(起家から、灘・前原・古川・勝又)
東1局、4者の配牌は、
灘 ドラ
前原
古川
勝又
親の灘は、ドラがトイツの勝負手で全体的に良く、前日の勢いを継続しているかのようである。
古川だけ少し苦しい牌姿だが、古川好みに見えてくるから不思議である。
先手をとったのは8巡目にテンパイした前原。
ツモ
前原の雀風から、即リーチにいくかと思ったが、ヤミテンを選択。
次巡、ツモ切りリーチと打って出た。この時、私は前原に対して勝ち負けではなく、内容に不安を感じた。
鳳凰位決定戦の後遺症が残っているのではないかと。
灘はまっすぐ勝負にいくが、1シャンテンから手が進まず、流局。
前原の1人テンパイという静かなスタートになった。
東2局、7巡目に古川がテンパイ。
ツモ ドラ
下家の勝又がマンズの染め模様だが、灘、前原が2巡目にを切っているので、リーチにいくかと思われたが、ヤミテンを選択。次巡、をツモ切ると親の前原がポンテンに受ける。
ポン
–は、裏スジで古川以外からは出アガリは厳しそうだが、山に4枚残っておりかなり良い待ち。
だが、ここは古川がをツモりアガる。
東3局は、前原の1,300・2,600ツモアガリ。
リーチ ツモ ドラ
3巡目がこの牌姿。
ツモ
ここから打。特に違和感はないが、いかにも前原らしいと感じた。
それにしても、2回攻撃が空振った後にすんなりアガる生命力は、いつも思うことだが素直に感心してしまう。
そして、迎えた東4局。この局が今回の決勝の最初のターニングポイントになった。
ここまで静観していた灘、勝又が勝負に出る。
まず、2巡目にを重ねた灘が、4巡目にをポンして1シャンテンになる。
ポン ドラ
次巡、勝又も絶好のを引き1シャンテン。
ツモ
しかし、テンパイ1番乗りは前原。
6、7巡目に有効牌を引き入れドラ切りリーチ。
リーチ
灘もここで大三元1シャンテンとなるが、選択は打。
11巡目にをツモりテンパイになる。そして、次のツモはで大三元をアガリ逃した形になった。
13巡目にを引き、暗カンしてこの牌姿。
暗カン ポン
同巡、まわっていた古川、ずっと1シャンテンでまっすぐ打っていた勝又にテンパイが入る。
古川
リーチ
勝又
残り枚数は、前原2枚、灘0枚、古川5枚、勝又4枚だった。決着はすぐについた。
灘が切っているを掴んで、古川に2,600の放銃で幕を閉じた。
古川は待ちが良さそうだが、よくリーチに踏みきったと思う。
灘は、暗カンで大三元のにおいをわざと出して周りを止めて、前原と一騎打ちにしたかったのではないだろうか。古川は暗カンが入ったことで、逆に大三元はないと思ったのかも知れない。
本人に確認していないので本当の事は分からないが、目の離せない1局だった。
南1局、灘が勝又に3,900の放銃。
南2局、古川1人テンパイ。
南3局、西家の灘に配牌でドラ暗刻のチャンス手が入る。
現状の持ち点は、古川36,000前原33,800勝又29,800灘19,400
ドラ
ホンイツにいきたいところだったが、2巡目にを引いたことと、マンズと字牌がのびなかったのでメンツ手になった。だが、現在ラス目にいるので満貫をアガればかなり大きい。
4巡目に1シャンテンになるが、再び先手は前原。5巡目にリーチ。
リーチ
8巡目に灘も追いつく。
ツモ
またしても、難しい選択になった。関連牌はが1枚きれているだけで、前原のリーチにはマンズはが通っているだけである。灘は切りリーチで追っかけた。
勝負手なので、受けより攻めを重視したというところだろう。
これに前原が、即を掴んで満貫の放銃となり着順が入れ替わった。
オーラスは勝又が、
リーリ ドラ
このリーチを、高めのをツモリ2,600オール。
次局も1シャンテンの好配牌で加点のチャンスがやってきた。
ドラ
形も良く、アガリはつきそうである。問題は何点の手にするかである。
結論から書くと、勝又は1,300オールのアガリで終わった。
2巡目に、リーチに踏み切りにくいツモでテンパイ。
4巡目にツモでピンフになり、マンズの場況はまだ分からないが、ドラがなのでまたしてもリーチはしづらい。結局、をツモッてアガリとなった。ミスはないと思うし普通だと思うが、前局のアガリに勢いを感じるため、ツモでリーチにいきやすかったような気がする。
ちなみに私なら、満貫級のアガリにしたいので、2巡目にを外すかもしれないなと思って観ていた。
完全なオカルトではあるが、もしアガリ逃したとしてもその方が次に繋がるような気がするからである。
2本場は、灘が古川から1,000は1,600をアガって、見どころ満載の1回戦が終了した。
1回戦成績
勝又+19.8P 古川+4.4P 灘▲6.7P 前原▲17.5P
私は休憩時間に灘の大三元の局を考えていた。自分ならどう打つか。
出した結論はやはり灘と一緒であった。
理由として、親の勝又が押してきているのでスピード重視にしたい。また、前原の捨て牌に789が切れていない。さらに、大三元の可能性がなくなるわけではないことや、–が危険であることが挙げられる。
当然、結果は受け止めなくてはならないが。
2回戦(起家から、古川・勝又・前原・灘)
東1局は、勝又が前原から2,600のアガリ。
次局は古川が勝又から高めを出アガる。
リーチ ロン ドラ
この局の勝又だが、7巡目の牌姿が、
こうで、もも2枚切れとなっており、七対子好きな勝又はを切るかと思われたが、メンツ手の保険を残して切りとしたことに違和感を覚えた。
東3局は、灘が1,600・3,200。次局は前原が1,300・2,600をツモアガる。
その後も、灘、古川が仕掛けを駆使して淡々と局を進めていく。
1回戦トップだった勝又が、東2局で沈んだことで、残り3者の思考が一致したかのように映った。
局は進んで、勝又が1人沈みで迎えた南3局。ここで、この半荘初めて手がぶつかった。
親の前原が、チャンタの2シャンテンで、古川も1シャンテン。2人の勝負になるかと思われた。
1巡目に前原がを仕掛けて1シャンテン。
ポン
古川は、とツモリこの牌姿。
ツモ
すべての手役が残る切りにするかと思ったが、古川の選択は打だった。
この局のテーマは、早アガリということなのだろう。三色を保険にドラが1枚あるしピンフが本線ということだ。
3巡目、を引き入れ三色1シャンテンになった。さらに次巡、難しい形になった。
ツモ
単純なテンパイチャンスをとるなら切りになるが、古川はノータイム切り。
ドラ色ということと、前原が若干、色模様ということも理由にあったとは思うが、判断スピードはさすがである。この選択が功を奏し、5巡目に引きでピンフ高め三色のテンパイになる。
1手変わりジュンチャンがあるので難しいところだが、2巡目の切りが生きていることと、場況的には山だと読んで古川はリーチ。親の前原への牽制の意味もあっただろう。
リーチ
前原は、仕掛けた後は手が進まず、勝又はリーチを受けた時はまだこの牌姿だったが、
連続でとを重ね、単騎リーチの勝負に出た。は前原が1枚切っているだけで、残りは山だった。
リーチするかどうかは賛否が分かれるところだと思うが、いかにも勝又らしいなと思った。
古川のリーチまでの捨て牌は、
こうで、七対子と読んだ可能性も低くはないだろう。
しかし、古川の待ちは高めが全生きの6枚残りで、勝又の高め放銃で決着がついた。
南4局も、古川が前原から1,300をアガってトップを取った。
この時、前原の牌姿は、
チー ツモ ドラ
こうで、ここから切りで放銃になった。
マンズは、古川には何も通ってなく、ドラが暗刻なのでまっすぐいくのも普通だとは思ったが、この局で沈んだこともあり、私はこれが敗因になりうるとノートに記した。
2回戦成績
古川+21.9P 灘+8.0P 前原▲4.9P 勝又▲25.0P
2回戦終了時
古川+26.3P 灘+1.3P 勝又▲5.2P 前原▲22.4P
3回戦(起家から、前原・灘・勝又・古川)
古川と前原の差が48.7Pになった。
そこまでの差ではないが、古川の出来がよく見え、前原は先手を取りながらも、アガリがあまりつかなく、いわゆる半ヅキ状態に見えるので点数以上に差を感じる。
この半荘で前原は沈んだとしたら、優勝はかなり厳しくなるだろう。
東1局、親の前原は3シャンテンで、ダブ東がなければアガリが十分見込める手牌。
ドラ
一方、勝又はドラトイツの3シャンテン。
灘と古川はちょっと厳しそうな配牌だった。
灘
古川
ここまでの展開の結果か、古川が前原の必要牌のを重ねてテンパイ。
一通の手変わりがあるのでヤミテン。6巡目にを引き、思惑通り一通のテンパイになる。
灘、勝又も1シャンテンへと手が進む。
灘
勝又
同巡、前原がを2枚かぶったのを見てか、古川がツモ切りリーチ。
灘は浮かせていたにをくっつけて三色に移行し、これが上手くいき、を引いて追っかけリーチ。
同巡、勝又も2人の当たり牌のを重ねてリーチと出る。
待ち牌は、古川2枚、灘5枚、勝又4枚だったが、あっさり勝又がを掴んで、灘に7,700の放銃となった。
勝又は、2回戦以降、完全に周りに封じ込められているので、前原以上に苦しそうだ。
その後も勝又は、灘に1,500、1,500は1,800、古川に7,700は8,300、1,000と5連続放銃で、持ち点を大きく沈めた。このまま、灘、古川ラインで進むかと思われたが、ちょっと待ったをかけたのは前原。
東4局、7枚目のを一発で引き、2,000・4,000をツモアガる。
この局は少し面白く、8巡目に灘から出たを、古川がこの牌姿からスルーしている。
一応、タンピン三色も見えるが少し遠く、親番であることと古川の雀風を考えたら、仕掛けないというのは違和感しかなかった。結果的に、これが前原浮上のきっかけとなってしまった。
南1局1本場。親の前原の配牌。ドラ槓子だが、残りの形が悪くアガリは厳しそうである。
ドラ
2巡目にを重ね、愚形ながら3シャンテンになる。まだが鳴ければ勝負になるというぐらいだ。
7巡目に、多少は手が進んでこの牌姿。
ツモ
ここからドラを暗槓。正直私は「何で?とりあえず切りで問題ないでしょ」と思ったが、リンシャン牌は。真似できるかどうかは別として「さすがだなぁ」と思った。
私だったら、やっぱり頼みになりそうである。ドラを見せたら、鳴ける可能性が極端に薄くなると思うからである。この手をハイテイできっちりツモって、6,000は6,100オールでトップに躍り出た。
この点差を守り抜き、前原が1人浮きのトップで終わった。
3回戦成績
前原+39.5P 古川▲3.3P 灘▲7.3P 勝又▲28.9P
3回戦終了時
古川+23.0P 前原+17.1P 灘▲6.0P 勝又▲34.1P
4回戦(起家から、灘・前原・古川・勝又)
残すところ2回戦となった。
勝又は2連勝条件ぐらい。灘は、今回浮かないと2人かわさなければならないのできついだろう。
古川と前原は、勢い的には前原の方に分がありそうである。古川は特にミスも見当たらなかったし、展開や
牌勢的には、もっとポイントを持っていてもおかしくなさそうなのに不思議だなぁと私は思っていた。
それだけ、他者のマークがきついということだろうか?
東1局は古川が、
チー ポン ドラ
これでテンパイするも、前原が捌いて300・500のアガリ。親番でも2,900をアガリ、その後、3連続の流局をテンパイ料で加点していく。あとは一発でれば完全に前原ペースだな、と思って観ていたが、東2局4本場は、古川が勝又から1,000は2,200に供託4本で大きいアガリとなった。
この時の古川の牌姿は、
ポン ドラ
3メンチャンだが、待ち牌は山に4枚。
一方、勝又はこの牌姿からをポンしてテンパイ。
ポン
この時点で、–は山3でいい勝負だったが、この後ドラのを引いて打で放銃となった。
放銃は致し方ないところだが、勝又は完全に闇に包まれていて、浮上は厳しそうに見えた。
続く、東3局では前原が700・1,300のアガリ。
リーチ ツモ ドラ
次局は、古川が勝又から5,200のアガリ。
リーチ ロン ドラ
完全に2人のマッチレースになるかと思ったが、ここに待ったをかけたのは灘ではなく、勝又だった。
南1局に、
リーチ ツモ ドラ
これをアガる。南2局は前原、勝又の2人テンパイ。
1本場、前原が5巡目にピンフテンパイ。
ドラ
また、前原の長い親が始まる予兆を感じた。
この時、勝又は愚形ながらドラドラの1シャンテン。
この後、灘が仕掛けて勝負にいく。この鳴きが良かったのか、10巡目、勝又にテンパイが入る。
ピンズはドラ色ということもあり、どの待ちにしてもいい待ちにはならそうである。
それでも、アガリだけを考えるならドラ切りが1番優れている。
しかし、灘の仕掛けは色というよりはトイトイの方がありそうな河になっているので、一打目の切りからドラは切りにくい。私ならドラはもう残っていないと思うが、現状のポイントも踏まえた上で、切りリーチにいくかなと思って観ていた。
勝又の選択は、切りリーチだった。
これに、前原がすぐにをつかみ、5,200は5,500の放銃で勝又が浮きにまわる。
南3局は、灘が古川のリーチをかいくぐり、500・1,000をツモアガる。
南4局は、古川が400・700をアガリ、30,000点を越えた。
灘は小さいながらも1人沈みのラスで最終戦かなり厳しくなった。
4回戦成績
前原+11.3P 勝又+5.8P 古川+1.3P 灘▲18.4P
4回戦終了時
前原+28.4P 古川+24.3P 灘▲24.4P 勝又▲28.3P
5回戦(起家から、古川・灘・勝又・前原)
ついに最終戦を迎えた。
前原、古川は着順勝負。灘、勝又も優勝の可能性は残されている。
東1局、先手をとったのは灘。9巡目にリーチと出る。
古川も次巡、ドラを切ってリーチと出るが、灘の当たり牌を掴んで2,000の放銃。
前原は、点数以上に安堵したのではないだろうか。
東2局は、親の灘がツモり三暗刻でリーチを打つが、これは流局で1人テンパイ。
リーチ ドラ
1本場は、勝又がドラのを重ねてリーチを打つが、前原に捌かれてしまう。
東3局は、古川、灘の2人テンパイ。
東4局は、灘が三色にいきたいところであったが、あっさりツモアガる。
ツモ ドラ
局はどんどん進み、残すは南場となった。
南場を迎えた時点での点数状況は、
灘38,500 前原29,700 古川25,900 勝又25,900
南1局、親の古川と勝又が好配牌。
古川
ドラ
勝又
古川の手牌は、順調に進んで7巡目テンパイ。
ツモ
前原との差はほとんどないので、切りリーチと出る。
安めでもツモればひとまず逆転なので、普通の選択といえるだろう。
この時点で勝又の手はまだこの牌姿で、
山にはが3枚、が2枚残っていたので、古川のアガリだなと思って観ていたが、10巡目に勝又から追っかけリーチが入る。結果、勝又に7枚目をツモられ、古川は親っかぶりで、前原との点差が7,700まで開いた。
古川は、この最終戦でここまで3度のリーチを打つが不発で、特に2回は親番だったことも考えると、相当態勢的に苦しいといえるだろう。逆に、前原は展開が向いてきている。
南2局は、とにかくアガるしかない灘が、満貫をテンパイしていた勝又から2,000をアガる。
1本場は印象的だった。まず灘が、6巡目にをポンして果敢に攻める。
テンパイ1番乗りは古川。
ツモ ドラ
が3枚切れていることからヤミテンを選択する。
次巡、ドラを引いてを切ってオリにまわる。
灘が、手出しはあるが、ピンズ模様のところに、前原がを押してきている様子を見てやめたと思われる。
この冷静さはとても勉強になった。
私なら、テンパイした時にリーチといくか、ソーズの形がいいのでを切って、全面勝負といきそうである。
実際は灘の必要牌であり、テンパイをいれさせるところだった。
このあと、前原が灘の当たり牌になったを暗刻にして、500,1000をツモアガった。
もし、古川がリーチといっていたら、灘に放銃で終わっていただろう。
アガったのが前原だったため、点差的にきついことには変わりないが、勝負はまだ分からないな、と思った。
南3局は、古川1人ノーテンでさらに差がひらく。
1本場は、前原が2巡目にポン、4巡目にを仕掛けて愚形テンパイ。
ポン ポン ドラ
古川も8巡目にテンパイ。
ツモ
今度は相手が1人で待ちが良いので、ドラ切りヤミテンに受けた。
これをきっちりアガって、オーラス満貫ツモ条件まで詰め寄る。
南4局、気になる古川の配牌は、
ドラ
かなり苦しい配牌である。満貫にするには、456の三色か、ダブ南頼りになりそうである。
古川の選択は国士だった。わずか7巡で1シャンテンまで漕ぎ着ける。
とは山に1枚ずつ残っていた。
15巡目に、古川はを引きテンパイするが、その前巡に前原にが入っていた。
この瞬間、第3期グランプリは前原雄大の優勝で幕を閉じた。
5回戦成績
灘+21.9P 前原▲2.5P 勝又▲2.5P 古川▲16.9P
最終成績
前原+25.9P 古川+7.4P 灘▲2.5P 勝又▲30.8P
勝又
「弱かった。(1回戦南4局)一通になってリーチにいきたかった。一通が決まると思った。(態勢)が落ちていったときに、打牌を変えないで普通に打ってしまったことが駄目だった。」
灘
「(3回戦南1局1本場)前原のドラカンにでまわった。そのあとのカン待ちは、リーチはしなくても、テンパイはとらなくては駄目だった。(この半荘)トップを走っていてひよる必要がなかった」
古川
「(3回戦、東4局)内側に牌がまとまっていて、を鳴く必要はなかった。と、思っているので、後悔はしていない。初めてのニコ生ということもあり高揚していた。短期決戦をもっと勉強したいと思う」
前原には私が個人的に気になった質問をいくつか投げかけてみた。
Q1
「優勝した時の心境をお願いします。」
「勝てたことは素直に嬉しい。鳳凰戦からずっと対局が続いていて、とにかく1人でいることを多くして体力を温存した。」
Q2
「1回戦の東1局、1巡まわしてリーチで、少しかたいのかなと思いましたがどうなのですか?」
「灘さんが煮詰まっている感じがしていたので、テンパイか1シャンテンかを見きわめるための1巡だった。テンパイでなければ引いてくれると思った。」
Q3
「決勝20回戦と5回戦の戦い方は変えますか?」
「優勝スコアが20回戦だと120(ポイント)ぐらい必要で、5回戦だと40ぐらいかなと数字から考えた。」
Q4
「最終戦、着順勝負でしたがどう思いましたか?」
「4、3着からのスタートから並んだから、勢い的に有利だなと思った」
Q5
「2回戦まで最下位でしたが、焦りはありませんでしたか?」
「それはなかったが、(2回戦南4局)切りはタンパクだなぁと反省した。を1回打って勝負にいかなくてはならなかった。」
私は麻雀打ちとして、前原さんを尊敬している。これは、私がプロになり始めた12年前からずっと変わらないことである。打ち筋は多少違うが、私たちは同じベクトル上に位置していると思っている。
また、プロは結果も当然必要だが、「らしさ(色)」も必要であると思っている。
しかし、鳳凰戦では「らしさ」が優先しすぎて、麻雀としては正直、納得できなかった。
これは私のエゴなのかもしれないが、いつまでも強い前原雄大でいて欲しいと切に願っている。
優勝、おめでとうございます。
背中を追いかけて、いつの日か追い抜きますから、その日までは走り続けていて下さい。
カテゴリ:グランプリ 決勝観戦記