第3期グランプリMAX 決勝観戦記

2013.2.17

この日、私は第29期鳳凰位決定戦の打ち上げ会場にいた。
第29期鳳凰位決定戦は、過去最高の面子ともいえる中、瀬戸熊直樹が圧勝で鳳凰位を奪還した。
とにかく4日間のどれもこれも非の打ちどころのない素晴らしい勝負だった。
今回の鳳凰位決定戦を観て、感動した人も決して少なくないのではと思う。

準優勝は前原だった。19回戦に1回の親番で100P以上の差を詰め、瀬戸熊を震えあがらせた。
あの連荘は、「流れ」というものが確かに存在している見本と言えるぐらい凄かった。
そう、あの連荘は・・・。

会も中盤になり、酒も良い感じにまわった頃、前原と話をした。
何故こういう話になったかは覚えていないが、話の内容はこうだった。
「今回は前原さんに勝ってほしくなかったです」
「瀬戸君がいたからだろう?」
「違います。1番内容が悪かったからです」
「・・・」

若輩者の私が、大先輩である前原に対して生意気すぎる発言だとは思うし、そう指摘されれば素直に、
「口がすぎました」と謝るだろう。
勘違いしないでほしいのだが、私は前原を責めたかった訳ではない。
ただ、悲しかったのである。

2013.3.2
グランプリMAXの1次予選で早々と敗退した私は、家の近くを散歩していた。
その時、編集部から着信があった。
「グランプリの観戦記書く?」
「はい。やらせていただきます」
「じゃあ時間もかかるし、休みもとって頑張ってね」
「分かりました。ありがとうございます」

実はこの時、決勝面子をまだ確認していなかった。そのため、通話を終えて家に帰りすぐさま確認した。
決勝面子は灘、古川、前原、勝又。第1印象は「面白い面子だな」だった。

近年、連盟では2鳴きを好む打ち手が増えてきている。
当然、態勢や手牌構成などでも変わってくるとは思う。どちらが良いも悪いもないし、正解はないだろう。
これには「流行」という言葉が1番しっくりくる気がする。

それというのも、一昔前には同巡2鳴きはしないほうが良いとされていた。
1鳴きしない理由は、手牌がまとまっていないか、もしくは打点が低いパターンが多いからである。
しかし、それも今ではよく目にする光景である。そのため、これは「流行」だと私は認識している。

何故こんなことを書いたかというと、今回の面子は、ほぼ1鳴き派が揃っているからである。
灘、古川は俗に言う「鳴き屋」である。これは、仕掛けてどんどん流れを掴むタイプといえる。
このタイプで成績を残している人の特徴として、とにかく読み(受け)がしっかりしていることが挙げられる。手牌が短くなっても、受けきれる自信がない人はやらない方が良いだろう。
また、相手からすると、打点に関係なく同じリズムで仕掛けてくるので、打点が読みにくいのも大きな特徴である。

前原は仕掛けでもリーチでも、とにかく先手をとって、自分の展開になったら、「面前」でどこまででも押すタイプである。

勝又は、手牌構成、山読み、打点のバランスで仕掛けるタイプである。
これらのことから、今回の戦いが空中戦になることは間違いないだろう。

冷蔵庫からビールを出し、喉を潤しながら展開予想を考えてみた。
私が展開を考える時は、まず始めに「並び」から入る。
鳴きの多い人の上家は、対応しなければならないので不利になることが多く、下家はツモが増えるので有利になることが多い。しかし、今回は鳴く人が多いので、考えてみても結論は出なかった。

次に、誰かがはしった時、有利になるかどうかを考えてみたが、これも分からなかった。
結局、何も考えはまとまらなかったのだが、空中戦で局の展開が早そうであること、5回戦の短期決戦であるということから、最初にポイントを持った人が圧倒的に有利になると予想される。
また、今回の面子はとても勉強になりそうだなとも思った。

昨年から、決勝戦(鳳凰位決定戦、十段位、グランプリMAX、女流桜花)は、ニコニコ生放送で放送されるようになった。これを読んでくれている方の中には、放送をご覧になった方もいるだろう。
ここで、私なりの視聴のコツを教えたいと思う。

1、 対局を客観的に楽しむ。
2、 解説をよく聞き、その後の展開予想を自分なりに考えてみる。
3、敗因になりそうだなと思った局を自分なりに考える。

特に、2、3は雀力向上につながると思うので、オススメである。

2013.3.3
私は男なので関係ないが今日はひな祭りだな。
最近でも雛人形を飾ったり、ひなあられを食べたりお祝いをするのだろうか?などと、どうでもいいことを考えながら、会場に向かった。

決勝に残った4人の選手の紹介をしたいと思う。

灘麻太郎 1期生
主なタイトル
第2期 雀聖位
第2期 麻雀王座
第3、4期
雀魔王
第1期 最高位
第9、17期 十段位
第10、11、12、13期 王位

gpmax2012
灘麻太郎

日本プロ麻雀連盟の会長(現名誉会長)であり、鋭い鳴きが武器で、その切れ味から「カミソリ灘」の通り名を持つ。連盟一のタイトルの持ち主でもある。
ちなみに私は、今回の面子の中では1番対戦数が少ないが、勝った記憶がほとんどない。
特徴として挙げるならば、独特の鳴きもそうだが、とにかく守備力が高い。
弱点をあげるとすれば、今年76歳になる年齢から、集中力の持続がいかに保たれるかどうかだろう。

古川孝次 1期生
主なタイトル
第16、17、18期 鳳凰位

gpmax2012
古川孝次

古川と私が初めて出会ったのは8年程前である。
「この人、めちゃくちゃ強いなぁ」と思ったのが第一印象である。
武器は灘と同じく鳴きと守備力といえる。
古川が、史上初の鳳凰位を3連覇した時、自分は会場にいた。
手牌4枚から、当たり牌をピタリと止めておりる姿に、鳥肌が立った記憶がある。
古川の弱点は、その日の調子によってのブレが大きいところだと思う。
鳴きは感覚的なことが多いだけに、鳴くか鳴かないかの直感力が大事なのであろう。

前原雄大 1期生
主なタイトル
第12、25期 鳳凰位
第14、15、24、25、26期 十段位
グランプリ2008

gpmax2012
前原雄大

私がプロ入りするきっかけになったのが前原だった。
まだアマチュアの頃、前原が「勝手にしやがれ」というコラムを執筆しており、当時の私は毎月楽しみに読んでいた。また、前原の麻雀は優勢になった時の押し加減が見ていて気持ち良く、昔から憧れていた。
前原の武器は「メリハリの利いた攻撃」だと思う。
特に、親番の時の連荘率は、連盟一ではないかと思う程である。
弱点として挙げるならば、多少厳しい牌姿からの仕掛けで後手を踏んだ時、失点につながることが多々あることだろう。

勝又健志 17期生
主なタイトル
第2期グランプリMAX

gpmax2012
勝又健志

私は、麻雀というものが完全に牌理や数字だけだとしたら、勝又が一番強いかもしれないと思う程、勝又は読みが優れている。
前期は、第1期グランプリMAXの覇者である小島との接戦を制し、嬉しい初タイトル獲得となった。
弱点は、本人は否定するかもしれないが、態勢を信じきれないことで加点を少なくしてしまう面があることだろう。“堅実すぎる”という表現の方があっているかもしれない。

開始前に選手全員と、解説に来ていた瀬戸熊鳳凰位に話を伺った。

灘  「今、梅の花の時期だけど、卓上では三色の花を咲かせたい」
古川 「最近、麻雀の調子が良い。前原さんと久しぶりの勝負なので警戒しているが同時に楽しみ。
周りが応援してくれているので期待に応えたい」
前原 「普段通りやるだけ」
勝又 「自分の麻雀を打つだけ。順番にトップを取る展開にはならなそうなので、
置いてかれないようにしたい」
瀬戸熊「全員鳴き派なので、最初に仕掛けた人に対しての踏み込み具合が大事だと思う。
古川さんは仕上がってからも鳴くタイプなので、のせると決まるかも知れない。
5回勝負なので、1、2回戦までに2番手、もしくは、僅差の3番手にいないと厳しい」

と、開始前は各々こんな具合であった。

gpmax2012
左から 勝又健志、古川孝次、前原雄大、灘麻太郎

 

1回戦(起家から、灘・前原・古川・勝又)

東1局、4者の配牌は、
灘  二万六万八万九万二索二索五索二筒二筒五筒七筒七筒北発  ドラ二筒
前原 一万五万一索三索四索六索七索三筒三筒五筒五筒北白
古川 二万四万四万二索二索七索八筒九筒南南白発中
勝又 二万三万三万四万七万九万一索五索六索四筒六筒九筒西

親の灘は、ドラがトイツの勝負手で全体的に良く、前日の勢いを継続しているかのようである。
古川だけ少し苦しい牌姿だが、古川好みに見えてくるから不思議である。
先手をとったのは8巡目にテンパイした前原。

三万五万四索五索六索七索八索三筒三筒三筒五筒五筒五筒  ツモ四索

前原の雀風から、即リーチにいくかと思ったが、ヤミテンを選択。
次巡、ツモ切りリーチと打って出た。この時、私は前原に対して勝ち負けではなく、内容に不安を感じた。
鳳凰位決定戦の後遺症が残っているのではないかと。
灘はまっすぐ勝負にいくが、1シャンテンから手が進まず、流局。
前原の1人テンパイという静かなスタートになった。

東2局、7巡目に古川がテンパイ。

二万七万八万七索八索九索三筒四筒五筒六筒七筒八筒八筒  ツモ二筒  ドラ三筒

下家の勝又がマンズの染め模様だが、灘、前原が2巡目に八万を切っているので、リーチにいくかと思われたが、ヤミテンを選択。次巡、東をツモ切ると親の前原がポンテンに受ける。

二索三索六索七索八索三筒三筒七筒七筒七筒  ポン東東東

一索四索は、裏スジで古川以外からは出アガリは厳しそうだが、山に4枚残っておりかなり良い待ち。
だが、ここは古川が六万をツモりアガる。

東3局は、前原の1,300・2,600ツモアガリ。

一万一万一万二万三万四万一索三索七索八索九索九筒九筒  リーチ  ツモ二索  ドラ七索

3巡目がこの牌姿。

一万一万二万三万四万三索三索五索八索九索五筒八筒九筒  ツモ七索

ここから打五筒。特に違和感はないが、いかにも前原らしいと感じた。
それにしても、2回攻撃が空振った後にすんなりアガる生命力は、いつも思うことだが素直に感心してしまう。

そして、迎えた東4局。この局が今回の決勝の最初のターニングポイントになった。
ここまで静観していた灘、勝又が勝負に出る。
まず、2巡目に中を重ねた灘が、4巡目に中をポンして1シャンテンになる。

八万八万四索五索六索七筒八筒東白白  ポン中中中  ドラ五筒

次巡、勝又も絶好の六筒を引き1シャンテン。

二万三万四万四索七索七索一筒二筒四筒五筒七筒八筒東  ツモ六筒

しかし、テンパイ1番乗りは前原。
6、7巡目に有効牌を引き入れドラ切りリーチ。

三万四万五万四索五索九索九索九索二筒二筒七筒八筒九筒  リーチ

gpmax2012

灘もここで大三元1シャンテンとなるが、選択は打八万
11巡目に発をツモりテンパイになる。そして、次のツモは白で大三元をアガリ逃した形になった。
13巡目に白を引き、暗カンしてこの牌姿。

四索五索六索八筒発発発  暗カン牌の背白白牌の背  ポン中中中

同巡、まわっていた古川、ずっと1シャンテンでまっすぐ打っていた勝又にテンパイが入る。

古川
二万二万六万七万三索三索三索七索八索九索五筒六筒七筒  リーチ

勝又
二万三万四万四索四索五索六索七索四筒五筒六筒七筒八筒

残り枚数は、前原2枚、灘0枚、古川5枚、勝又4枚だった。決着はすぐについた。
灘が切っている八万を掴んで、古川に2,600の放銃で幕を閉じた。

古川は待ちが良さそうだが、よくリーチに踏みきったと思う。
灘は、暗カンで大三元のにおいをわざと出して周りを止めて、前原と一騎打ちにしたかったのではないだろうか。古川は暗カンが入ったことで、逆に大三元はないと思ったのかも知れない。
本人に確認していないので本当の事は分からないが、目の離せない1局だった。

gpmax2012

南1局、灘が勝又に3,900の放銃。
南2局、古川1人テンパイ。
南3局、西家の灘に配牌でドラ暗刻のチャンス手が入る。
現状の持ち点は、古川36,000前原33,800勝又29,800灘19,400

五万五万六万八万九万九万三索八索西北北北白  ドラ北

ホンイツにいきたいところだったが、2巡目に七索を引いたことと、マンズと字牌がのびなかったのでメンツ手になった。だが、現在ラス目にいるので満貫をアガればかなり大きい。
4巡目に1シャンテンになるが、再び先手は前原。5巡目にリーチ。

三万四万四万五万五万六万六万二索三索四索二筒二筒二筒  リーチ

8巡目に灘も追いつく。

五万五万六万七万八万八万九万九万七索八索北北北  ツモ九索

またしても、難しい選択になった。関連牌は九万が1枚きれているだけで、前原のリーチにはマンズは一万が通っているだけである。灘は五万切りリーチで追っかけた。
勝負手なので、受けより攻めを重視したというところだろう。
これに前原が、即九万を掴んで満貫の放銃となり着順が入れ替わった。

オーラスは勝又が、

二万二万二万六万六万六索七索七索八索八索九索白白  リーリ  ドラ八万

このリーチを、高めの白をツモリ2,600オール。
次局も1シャンテンの好配牌で加点のチャンスがやってきた。

三万三万四万五万六万七万八万七索二筒三筒四筒南西西  ドラ八万

形も良く、アガリはつきそうである。問題は何点の手にするかである。
結論から書くと、勝又は1,300オールのアガリで終わった。

gpmax2012

2巡目に、リーチに踏み切りにくいツモ五万でテンパイ。
4巡目にツモ九万でピンフになり、マンズの場況はまだ分からないが、ドラが八万なのでまたしてもリーチはしづらい。結局、四万をツモッてアガリとなった。ミスはないと思うし普通だと思うが、前局のアガリに勢いを感じるため、ツモ九万でリーチにいきやすかったような気がする。

ちなみに私なら、満貫級のアガリにしたいので、2巡目に西を外すかもしれないなと思って観ていた。
完全なオカルトではあるが、もしアガリ逃したとしてもその方が次に繋がるような気がするからである。

2本場は、灘が古川から1,000は1,600をアガって、見どころ満載の1回戦が終了した。

1回戦成績
勝又+19.8P  古川+4.4P  灘▲6.7P  前原▲17.5P

私は休憩時間に灘の大三元の局を考えていた。自分ならどう打つか。
出した結論はやはり灘と一緒であった。
理由として、親の勝又が押してきているのでスピード重視にしたい。また、前原の捨て牌に789が切れていない。さらに、大三元の可能性がなくなるわけではないことや、六筒九筒が危険であることが挙げられる。

当然、結果は受け止めなくてはならないが。

 

2回戦(起家から、古川・勝又・前原・灘)

東1局は、勝又が前原から2,600のアガリ。
次局は古川が勝又から高めを出アガる。

三万四万五万三索四索五索九索九索四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ  ロン三筒  ドラ発

この局の勝又だが、7巡目の牌姿が、

一万二万二万九万四索四索五索三筒四筒四筒発発中中

こうで、一万三筒も2枚切れとなっており、七対子好きな勝又は三筒を切るかと思われたが、メンツ手の保険を残して一万切りとしたことに違和感を覚えた。

東3局は、灘が1,600・3,200。次局は前原が1,300・2,600をツモアガる。
その後も、灘、古川が仕掛けを駆使して淡々と局を進めていく。

1回戦トップだった勝又が、東2局で沈んだことで、残り3者の思考が一致したかのように映った。
局は進んで、勝又が1人沈みで迎えた南3局。ここで、この半荘初めて手がぶつかった。

gpmax2012

親の前原が、チャンタの2シャンテンで、古川も1シャンテン。2人の勝負になるかと思われた。
1巡目に前原が東を仕掛けて1シャンテン。

一索二索三索八索八筒九筒南中中中  ポン東東東

古川は一筒三万とツモリこの牌姿。

二万二万一索二索三索六索一筒三筒三筒六筒七筒八筒九筒  ツモ三万

すべての手役が残る六索切りにするかと思ったが、古川の選択は打二万だった。
この局のテーマは、早アガリということなのだろう。三色を保険にドラが1枚あるしピンフが本線ということだ。
3巡目、二筒を引き入れ三色1シャンテンになった。さらに次巡、難しい形になった。

二万三万一索二索三索六索一筒二筒三筒六筒七筒八筒九筒  ツモ七索

単純なテンパイチャンスをとるなら六筒切りになるが、古川はノータイム六索切り。
ドラ色ということと、前原が若干、色模様ということも理由にあったとは思うが、判断スピードはさすがである。この選択が功を奏し、5巡目に九筒引きでピンフ高め三色のテンパイになる。
1手変わりジュンチャンがあるので難しいところだが、2巡目の二万切りが生きていることと、場況的に一万は山だと読んで古川はリーチ。親の前原への牽制の意味もあっただろう。

二万三万一索二索三索一筒二筒三筒六筒七筒八筒九筒九筒  リーチ

前原は、仕掛けた後は手が進まず、勝又はリーチを受けた時はまだこの牌姿だったが、

三万三万四万六万六万七万七万三索四索七索二筒四筒四筒

連続で四万三索を重ね、八索単騎リーチの勝負に出た。八索は前原が1枚切っているだけで、残りは山だった。
リーチするかどうかは賛否が分かれるところだと思うが、いかにも勝又らしいなと思った。
古川のリーチまでの捨て牌は、

八万 上向き二万 上向き三筒 上向き六索 上向き七索 左向き

こうで、七対子と読んだ可能性も低くはないだろう。
しかし、古川の待ちは高めが全生きの6枚残りで、勝又の高め放銃で決着がついた。

gpmax2012

南4局も、古川が前原から1,300をアガってトップを取った。
この時、前原の牌姿は、

二万四万六万六万七万三筒三筒六筒六筒六筒  チー二索三索四索  ツモ七万  ドラ六筒

こうで、ここから二万切りで放銃になった。
マンズは、古川には何も通ってなく、ドラが暗刻なのでまっすぐいくのも普通だとは思ったが、この局で沈んだこともあり、私はこれが敗因になりうるとノートに記した。

2回戦成績
古川+21.9P  灘+8.0P  前原▲4.9P  勝又▲25.0P

2回戦終了時
古川+26.3P  灘+1.3P  勝又▲5.2P  前原▲22.4P

 

3回戦(起家から、前原・灘・勝又・古川)

古川と前原の差が48.7Pになった。
そこまでの差ではないが、古川の出来がよく見え、前原は先手を取りながらも、アガリがあまりつかなく、いわゆる半ヅキ状態に見えるので点数以上に差を感じる。
この半荘で前原は沈んだとしたら、優勝はかなり厳しくなるだろう。

東1局、親の前原は3シャンテンで、ダブ東がなければアガリが十分見込める手牌。

四万八万九万三索五索六索七索八索二筒東東南北中  ドラ北

一方、勝又はドラトイツの3シャンテン。

三万八万二索二索九索九索六筒六筒七筒八筒南北北

灘と古川はちょっと厳しそうな配牌だった。


四万五万七万二索七索一筒三筒六筒八筒南西西発

古川
二万二万四万六万七万八万九索二筒三筒五筒東南発

ここまでの展開の結果か、古川が前原の必要牌の東を重ねてテンパイ。

二万二万四万五万六万七万八万九万一筒二筒三筒東東

一通の手変わりがあるのでヤミテン。6巡目に一万を引き、思惑通り一通のテンパイになる。
灘、勝又も1シャンテンへと手が進む。


四万五万五索一筒二筒三筒四筒五筒六筒西西発発

勝又
二万三万二索二索四索五筒六筒六筒七筒八筒北北北

同巡、前原が四万を2枚かぶったのを見てか、古川がツモ切りリーチ。
灘は浮かせていた五索四索をくっつけて三色に移行し、これが上手くいき、六索を引いて追っかけリーチ。
同巡、勝又も2人の当たり牌の三万を重ねてリーチと出る。

待ち牌は、古川2枚、灘5枚、勝又4枚だったが、あっさり勝又が六万を掴んで、灘に7,700の放銃となった。
勝又は、2回戦以降、完全に周りに封じ込められているので、前原以上に苦しそうだ。

gpmax2012

その後も勝又は、灘に1,500、1,500は1,800、古川に7,700は8,300、1,000と5連続放銃で、持ち点を大きく沈めた。このまま、灘、古川ラインで進むかと思われたが、ちょっと待ったをかけたのは前原。
東4局、7枚目の六筒を一発で引き、2,000・4,000をツモアガる。

gpmax2012

この局は少し面白く、8巡目に灘から出た白を、古川がこの牌姿からスルーしている。

二万三万五万七万五索六索六筒六筒六筒七筒白白中

一応、タンピン三色も見えるが少し遠く、親番であることと古川の雀風を考えたら、仕掛けないというのは違和感しかなかった。結果的に、これが前原浮上のきっかけとなってしまった。

南1局1本場。親の前原の配牌。ドラ槓子だが、残りの形が悪くアガリは厳しそうである。

三万八万一索二索七索九索一筒七筒七筒七筒七筒東南発  ドラ七筒

2巡目に南を重ね、愚形ながら3シャンテンになる。まだ南が鳴ければ勝負になるというぐらいだ。
7巡目に、多少は手が進んでこの牌姿。

三万八万四索五索七索七索九索七筒七筒七筒七筒南南  ツモ二万

ここからドラを暗槓。正直私は「何で?とりあえず八万切りで問題ないでしょ」と思ったが、リンシャン牌は南。真似できるかどうかは別として「さすがだなぁ」と思った。
私だったら、やっぱり南頼みになりそうである。ドラを見せたら、鳴ける可能性が極端に薄くなると思うからである。この手をハイテイできっちりツモって、6,000は6,100オールでトップに躍り出た。
この点差を守り抜き、前原が1人浮きのトップで終わった。

3回戦成績
前原+39.5P  古川▲3.3P  灘▲7.3P  勝又▲28.9P

3回戦終了時
古川+23.0P  前原+17.1P  灘▲6.0P  勝又▲34.1P

 

4回戦(起家から、灘・前原・古川・勝又)

残すところ2回戦となった。
勝又は2連勝条件ぐらい。灘は、今回浮かないと2人かわさなければならないのできついだろう。
古川と前原は、勢い的には前原の方に分がありそうである。古川は特にミスも見当たらなかったし、展開や
牌勢的には、もっとポイントを持っていてもおかしくなさそうなのに不思議だなぁと私は思っていた。
それだけ、他者のマークがきついということだろうか?

東1局は古川が、

四万五万七万八万九万北北  チー一万二万三万  ポン南南南  ドラ五万

これでテンパイするも、前原が捌いて300・500のアガリ。親番でも2,900をアガリ、その後、3連続の流局をテンパイ料で加点していく。あとは一発でれば完全に前原ペースだな、と思って観ていたが、東2局4本場は、古川が勝又から1,000は2,200に供託4本で大きいアガリとなった。
この時の古川の牌姿は、

三万四万五万六万七万六索六索六筒七筒八筒  ポン四索四索四索  ドラ三筒

3メンチャンだが、待ち牌は山に4枚。
一方、勝又はこの牌姿から発をポンしてテンパイ。

五万六万七万七万八万三筒三筒六筒六筒六筒  ポン発発発

この時点で、六万九万は山3でいい勝負だったが、この後ドラの三筒を引いて打八万で放銃となった。
放銃は致し方ないところだが、勝又は完全に闇に包まれていて、浮上は厳しそうに見えた。
続く、東3局では前原が700・1,300のアガリ。

三索四索五索五索六索七索一筒一筒二筒二筒南南南  リーチ  ツモ二筒  ドラ中

次局は、古川が勝又から5,200のアガリ。

五索五索六索七索八索四筒四筒四筒七筒八筒九筒中中  リーチ  ロン中  ドラ六索

完全に2人のマッチレースになるかと思ったが、ここに待ったをかけたのは灘ではなく、勝又だった。

南1局に、

二万三万四万五万六万七万五索六索七索八索九索発発  リーチ  ツモ四索  ドラ発

これをアガる。南2局は前原、勝又の2人テンパイ。
1本場、前原が5巡目にピンフテンパイ。

二万三万四索五索六索六索七索八索一筒二筒三筒八筒八筒  ドラ四筒

また、前原の長い親が始まる予兆を感じた。
この時、勝又は愚形ながらドラドラの1シャンテン。

二万四万五万六万七万七万八万九万五索四筒四筒五筒七筒

この後、灘が仕掛けて勝負にいく。この鳴きが良かったのか、10巡目、勝又にテンパイが入る。

gpmax2012

ピンズはドラ色ということもあり、どの待ちにしてもいい待ちにはならそうである。
それでも、アガリだけを考えるならドラ切りが1番優れている。
しかし、灘の仕掛けは色というよりはトイトイの方がありそうな河になっているので、一打目の二筒切りからドラは切りにくい。私ならドラはもう残っていないと思うが、現状のポイントも踏まえた上で、七筒切りリーチにいくかなと思って観ていた。

勝又の選択は、五筒切りリーチだった。
これに、前原がすぐに七筒をつかみ、5,200は5,500の放銃で勝又が浮きにまわる。

南3局は、灘が古川のリーチをかいくぐり、500・1,000をツモアガる。
南4局は、古川が400・700をアガリ、30,000点を越えた。
灘は小さいながらも1人沈みのラスで最終戦かなり厳しくなった。

4回戦成績
前原+11.3P  勝又+5.8P  古川+1.3P  灘▲18.4P

4回戦終了時
前原+28.4P  古川+24.3P  灘▲24.4P  勝又▲28.3P

 

5回戦(起家から、古川・灘・勝又・前原)

ついに最終戦を迎えた。
前原、古川は着順勝負。灘、勝又も優勝の可能性は残されている。

東1局、先手をとったのは灘。9巡目にリーチと出る。
古川も次巡、ドラを切ってリーチと出るが、灘の当たり牌を掴んで2,000の放銃。
前原は、点数以上に安堵したのではないだろうか。

東2局は、親の灘がツモり三暗刻でリーチを打つが、これは流局で1人テンパイ。

四万五万六万二索二索二索六索六索五筒五筒五筒六筒六筒  リーチ  ドラ東

1本場は、勝又がドラの発を重ねてリーチを打つが、前原に捌かれてしまう。
東3局は、古川、灘の2人テンパイ。
東4局は、灘が三色にいきたいところであったが、あっさりツモアガる。

三万四万五万四索五索六索三筒四筒五筒六筒六筒八筒八筒  ツモ六筒  ドラ九万

局はどんどん進み、残すは南場となった。
南場を迎えた時点での点数状況は、

灘38,500 前原29,700 古川25,900 勝又25,900

南1局、親の古川と勝又が好配牌。

古川
二万五万六索六索七索七索八索一筒一筒五筒六筒九筒九筒  ドラ北

勝又
三万二索二筒五筒五筒六筒八筒西北北北白中

古川の手牌は、順調に進んで7巡目テンパイ。

五万六万四索六索六索七索七索八索一筒一筒四筒五筒六筒  ツモ四万

前原との差はほとんどないので、四索切りリーチと出る。
安めでもツモればひとまず逆転なので、普通の選択といえるだろう。

この時点で勝又の手はまだこの牌姿で、

三万四万六索二筒五筒五筒六筒七筒八筒八筒北北北

山には五索が3枚、八索が2枚残っていたので、古川のアガリだなと思って観ていたが、10巡目に勝又から追っかけリーチが入る。結果、勝又に7枚目をツモられ、古川は親っかぶりで、前原との点差が7,700まで開いた。

古川は、この最終戦でここまで3度のリーチを打つが不発で、特に2回は親番だったことも考えると、相当態勢的に苦しいといえるだろう。逆に、前原は展開が向いてきている。

南2局は、とにかくアガるしかない灘が、満貫をテンパイしていた勝又から2,000をアガる。
1本場は印象的だった。まず灘が、6巡目に発をポンして果敢に攻める。
テンパイ1番乗りは古川。

二万二万三万三万三索四索五索六索六索六索七索西西  ツモ四万  ドラ一筒

一万が3枚切れていることからヤミテンを選択する。
次巡、ドラを引いて六索を切ってオリにまわる。

gpmax2012

灘が、四索手出しはあるが、ピンズ模様のところに、前原が六筒を押してきている様子を見てやめたと思われる。
この冷静さはとても勉強になった。

私なら、テンパイした時にリーチといくか、ソーズの形がいいので西を切って、全面勝負といきそうである。

gpmax2012

実際一筒は灘の必要牌であり、テンパイをいれさせるところだった。
このあと、前原が灘の当たり牌になった六万を暗刻にして、500,1000をツモアガった。
もし、古川がリーチといっていたら、灘に放銃で終わっていただろう。
アガったのが前原だったため、点差的にきついことには変わりないが、勝負はまだ分からないな、と思った。

南3局は、古川1人ノーテンでさらに差がひらく。
1本場は、前原が2巡目に白ポン、4巡目に九筒を仕掛けて愚形テンパイ。

八万九万六索七索八索三筒三筒  ポン九筒九筒九筒  ポン白白白  ドラ二筒

古川も8巡目にテンパイ。

三万四万六万七万一索二索三索八索八索二筒六筒七筒八筒  ツモ五万

今度は相手が1人で待ちが良いので、ドラ切りヤミテンに受けた。
これをきっちりアガって、オーラス満貫ツモ条件まで詰め寄る。
南4局、気になる古川の配牌は、

一万四万六万八万一索四索五索九索三筒六筒南西北  ドラ八索

かなり苦しい配牌である。満貫にするには、456の三色か、ダブ南頼りになりそうである。
古川の選択は国士だった。わずか7巡で1シャンテンまで漕ぎ着ける。

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東中は山に1枚ずつ残っていた。
15巡目に、古川は東を引きテンパイするが、その前巡に前原に中が入っていた。
この瞬間、第3期グランプリは前原雄大の優勝で幕を閉じた。

5回戦成績
灘+21.9P  前原▲2.5P  勝又▲2.5P  古川▲16.9P

最終成績
前原+25.9P  古川+7.4P  灘▲2.5P  勝又▲30.8P

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勝又
「弱かった。(1回戦南4局)一通になってリーチにいきたかった。一通が決まると思った。(態勢)が落ちていったときに、打牌を変えないで普通に打ってしまったことが駄目だった。」


「(3回戦南1局1本場)前原のドラカンに三索でまわった。そのあとのカン二索待ちは、リーチはしなくても、テンパイはとらなくては駄目だった。(この半荘)トップを走っていてひよる必要がなかった」

古川
「(3回戦、東4局)内側に牌がまとまっていて、白を鳴く必要はなかった。と、思っているので、後悔はしていない。初めてのニコ生ということもあり高揚していた。短期決戦をもっと勉強したいと思う」

前原には私が個人的に気になった質問をいくつか投げかけてみた。

Q1
「優勝した時の心境をお願いします。」

「勝てたことは素直に嬉しい。鳳凰戦からずっと対局が続いていて、とにかく1人でいることを多くして体力を温存した。」

Q2
「1回戦の東1局、1巡まわしてリーチで、少しかたいのかなと思いましたがどうなのですか?」

「灘さんが煮詰まっている感じがしていたので、テンパイか1シャンテンかを見きわめるための1巡だった。テンパイでなければ引いてくれると思った。」

Q3
「決勝20回戦と5回戦の戦い方は変えますか?」

「優勝スコアが20回戦だと120(ポイント)ぐらい必要で、5回戦だと40ぐらいかなと数字から考えた。」

Q4
「最終戦、着順勝負でしたがどう思いましたか?」

「4、3着からのスタートから並んだから、勢い的に有利だなと思った」

Q5
「2回戦まで最下位でしたが、焦りはありませんでしたか?」

「それはなかったが、(2回戦南4局)二万切りはタンパクだなぁと反省した。六万を1回打って勝負にいかなくてはならなかった。」

私は麻雀打ちとして、前原さんを尊敬している。これは、私がプロになり始めた12年前からずっと変わらないことである。打ち筋は多少違うが、私たちは同じベクトル上に位置していると思っている。

また、プロは結果も当然必要だが、「らしさ(色)」も必要であると思っている。
しかし、鳳凰戦では「らしさ」が優先しすぎて、麻雀としては正直、納得できなかった。
これは私のエゴなのかもしれないが、いつまでも強い前原雄大でいて欲しいと切に願っている。

優勝、おめでとうございます。
背中を追いかけて、いつの日か追い抜きますから、その日までは走り続けていて下さい。

グランプリ 決勝観戦記/第3期グランプリMAX 決勝観戦記

2013.2.17
この日、私は第29期鳳凰位決定戦の打ち上げ会場にいた。
第29期鳳凰位決定戦は、過去最高の面子ともいえる中、瀬戸熊直樹が圧勝で鳳凰位を奪還した。
とにかく4日間のどれもこれも非の打ちどころのない素晴らしい勝負だった。
今回の鳳凰位決定戦を観て、感動した人も決して少なくないのではと思う。
準優勝は前原だった。19回戦に1回の親番で100P以上の差を詰め、瀬戸熊を震えあがらせた。
あの連荘は、「流れ」というものが確かに存在している見本と言えるぐらい凄かった。
そう、あの連荘は・・・。
会も中盤になり、酒も良い感じにまわった頃、前原と話をした。
何故こういう話になったかは覚えていないが、話の内容はこうだった。
「今回は前原さんに勝ってほしくなかったです」
「瀬戸君がいたからだろう?」
「違います。1番内容が悪かったからです」
「・・・」
若輩者の私が、大先輩である前原に対して生意気すぎる発言だとは思うし、そう指摘されれば素直に、
「口がすぎました」と謝るだろう。
勘違いしないでほしいのだが、私は前原を責めたかった訳ではない。
ただ、悲しかったのである。
2013.3.2
グランプリMAXの1次予選で早々と敗退した私は、家の近くを散歩していた。
その時、編集部から着信があった。
「グランプリの観戦記書く?」
「はい。やらせていただきます」
「じゃあ時間もかかるし、休みもとって頑張ってね」
「分かりました。ありがとうございます」
実はこの時、決勝面子をまだ確認していなかった。そのため、通話を終えて家に帰りすぐさま確認した。
決勝面子は灘、古川、前原、勝又。第1印象は「面白い面子だな」だった。
近年、連盟では2鳴きを好む打ち手が増えてきている。
当然、態勢や手牌構成などでも変わってくるとは思う。どちらが良いも悪いもないし、正解はないだろう。
これには「流行」という言葉が1番しっくりくる気がする。
それというのも、一昔前には同巡2鳴きはしないほうが良いとされていた。
1鳴きしない理由は、手牌がまとまっていないか、もしくは打点が低いパターンが多いからである。
しかし、それも今ではよく目にする光景である。そのため、これは「流行」だと私は認識している。
何故こんなことを書いたかというと、今回の面子は、ほぼ1鳴き派が揃っているからである。
灘、古川は俗に言う「鳴き屋」である。これは、仕掛けてどんどん流れを掴むタイプといえる。
このタイプで成績を残している人の特徴として、とにかく読み(受け)がしっかりしていることが挙げられる。手牌が短くなっても、受けきれる自信がない人はやらない方が良いだろう。
また、相手からすると、打点に関係なく同じリズムで仕掛けてくるので、打点が読みにくいのも大きな特徴である。
前原は仕掛けでもリーチでも、とにかく先手をとって、自分の展開になったら、「面前」でどこまででも押すタイプである。
勝又は、手牌構成、山読み、打点のバランスで仕掛けるタイプである。
これらのことから、今回の戦いが空中戦になることは間違いないだろう。
冷蔵庫からビールを出し、喉を潤しながら展開予想を考えてみた。
私が展開を考える時は、まず始めに「並び」から入る。
鳴きの多い人の上家は、対応しなければならないので不利になることが多く、下家はツモが増えるので有利になることが多い。しかし、今回は鳴く人が多いので、考えてみても結論は出なかった。
次に、誰かがはしった時、有利になるかどうかを考えてみたが、これも分からなかった。
結局、何も考えはまとまらなかったのだが、空中戦で局の展開が早そうであること、5回戦の短期決戦であるということから、最初にポイントを持った人が圧倒的に有利になると予想される。
また、今回の面子はとても勉強になりそうだなとも思った。
昨年から、決勝戦(鳳凰位決定戦、十段位、グランプリMAX、女流桜花)は、ニコニコ生放送で放送されるようになった。これを読んでくれている方の中には、放送をご覧になった方もいるだろう。
ここで、私なりの視聴のコツを教えたいと思う。
1、 対局を客観的に楽しむ。
2、 解説をよく聞き、その後の展開予想を自分なりに考えてみる。
3、敗因になりそうだなと思った局を自分なりに考える。
特に、2、3は雀力向上につながると思うので、オススメである。
2013.3.3
私は男なので関係ないが今日はひな祭りだな。
最近でも雛人形を飾ったり、ひなあられを食べたりお祝いをするのだろうか?などと、どうでもいいことを考えながら、会場に向かった。
決勝に残った4人の選手の紹介をしたいと思う。
灘麻太郎 1期生
主なタイトル
第2期 雀聖位
第2期 麻雀王座
第3、4期
雀魔王
第1期 最高位
第9、17期 十段位
第10、11、12、13期 王位

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灘麻太郎

日本プロ麻雀連盟の会長(現名誉会長)であり、鋭い鳴きが武器で、その切れ味から「カミソリ灘」の通り名を持つ。連盟一のタイトルの持ち主でもある。
ちなみに私は、今回の面子の中では1番対戦数が少ないが、勝った記憶がほとんどない。
特徴として挙げるならば、独特の鳴きもそうだが、とにかく守備力が高い。
弱点をあげるとすれば、今年76歳になる年齢から、集中力の持続がいかに保たれるかどうかだろう。
古川孝次 1期生
主なタイトル
第16、17、18期 鳳凰位

gpmax2012
古川孝次

古川と私が初めて出会ったのは8年程前である。
「この人、めちゃくちゃ強いなぁ」と思ったのが第一印象である。
武器は灘と同じく鳴きと守備力といえる。
古川が、史上初の鳳凰位を3連覇した時、自分は会場にいた。
手牌4枚から、当たり牌をピタリと止めておりる姿に、鳥肌が立った記憶がある。
古川の弱点は、その日の調子によってのブレが大きいところだと思う。
鳴きは感覚的なことが多いだけに、鳴くか鳴かないかの直感力が大事なのであろう。
前原雄大 1期生
主なタイトル
第12、25期 鳳凰位
第14、15、24、25、26期 十段位
グランプリ2008

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前原雄大

私がプロ入りするきっかけになったのが前原だった。
まだアマチュアの頃、前原が「勝手にしやがれ」というコラムを執筆しており、当時の私は毎月楽しみに読んでいた。また、前原の麻雀は優勢になった時の押し加減が見ていて気持ち良く、昔から憧れていた。
前原の武器は「メリハリの利いた攻撃」だと思う。
特に、親番の時の連荘率は、連盟一ではないかと思う程である。
弱点として挙げるならば、多少厳しい牌姿からの仕掛けで後手を踏んだ時、失点につながることが多々あることだろう。
勝又健志 17期生
主なタイトル
第2期グランプリMAX

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勝又健志

私は、麻雀というものが完全に牌理や数字だけだとしたら、勝又が一番強いかもしれないと思う程、勝又は読みが優れている。
前期は、第1期グランプリMAXの覇者である小島との接戦を制し、嬉しい初タイトル獲得となった。
弱点は、本人は否定するかもしれないが、態勢を信じきれないことで加点を少なくしてしまう面があることだろう。“堅実すぎる”という表現の方があっているかもしれない。
開始前に選手全員と、解説に来ていた瀬戸熊鳳凰位に話を伺った。
灘  「今、梅の花の時期だけど、卓上では三色の花を咲かせたい」
古川 「最近、麻雀の調子が良い。前原さんと久しぶりの勝負なので警戒しているが同時に楽しみ。
周りが応援してくれているので期待に応えたい」
前原 「普段通りやるだけ」
勝又 「自分の麻雀を打つだけ。順番にトップを取る展開にはならなそうなので、
置いてかれないようにしたい」
瀬戸熊「全員鳴き派なので、最初に仕掛けた人に対しての踏み込み具合が大事だと思う。
古川さんは仕上がってからも鳴くタイプなので、のせると決まるかも知れない。
5回勝負なので、1、2回戦までに2番手、もしくは、僅差の3番手にいないと厳しい」
と、開始前は各々こんな具合であった。

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左から 勝又健志、古川孝次、前原雄大、灘麻太郎

 
1回戦(起家から、灘・前原・古川・勝又)
東1局、4者の配牌は、
灘  二万六万八万九万二索二索五索二筒二筒五筒七筒七筒北発  ドラ二筒
前原 一万五万一索三索四索六索七索三筒三筒五筒五筒北白
古川 二万四万四万二索二索七索八筒九筒南南白発中
勝又 二万三万三万四万七万九万一索五索六索四筒六筒九筒西
親の灘は、ドラがトイツの勝負手で全体的に良く、前日の勢いを継続しているかのようである。
古川だけ少し苦しい牌姿だが、古川好みに見えてくるから不思議である。
先手をとったのは8巡目にテンパイした前原。
三万五万四索五索六索七索八索三筒三筒三筒五筒五筒五筒  ツモ四索
前原の雀風から、即リーチにいくかと思ったが、ヤミテンを選択。
次巡、ツモ切りリーチと打って出た。この時、私は前原に対して勝ち負けではなく、内容に不安を感じた。
鳳凰位決定戦の後遺症が残っているのではないかと。
灘はまっすぐ勝負にいくが、1シャンテンから手が進まず、流局。
前原の1人テンパイという静かなスタートになった。
東2局、7巡目に古川がテンパイ。
二万七万八万七索八索九索三筒四筒五筒六筒七筒八筒八筒  ツモ二筒  ドラ三筒
下家の勝又がマンズの染め模様だが、灘、前原が2巡目に八万を切っているので、リーチにいくかと思われたが、ヤミテンを選択。次巡、東をツモ切ると親の前原がポンテンに受ける。
二索三索六索七索八索三筒三筒七筒七筒七筒  ポン東東東
一索四索は、裏スジで古川以外からは出アガリは厳しそうだが、山に4枚残っておりかなり良い待ち。
だが、ここは古川が六万をツモりアガる。
東3局は、前原の1,300・2,600ツモアガリ。
一万一万一万二万三万四万一索三索七索八索九索九筒九筒  リーチ  ツモ二索  ドラ七索
3巡目がこの牌姿。
一万一万二万三万四万三索三索五索八索九索五筒八筒九筒  ツモ七索
ここから打五筒。特に違和感はないが、いかにも前原らしいと感じた。
それにしても、2回攻撃が空振った後にすんなりアガる生命力は、いつも思うことだが素直に感心してしまう。
そして、迎えた東4局。この局が今回の決勝の最初のターニングポイントになった。
ここまで静観していた灘、勝又が勝負に出る。
まず、2巡目に中を重ねた灘が、4巡目に中をポンして1シャンテンになる。
八万八万四索五索六索七筒八筒東白白  ポン中中中  ドラ五筒
次巡、勝又も絶好の六筒を引き1シャンテン。
二万三万四万四索七索七索一筒二筒四筒五筒七筒八筒東  ツモ六筒
しかし、テンパイ1番乗りは前原。
6、7巡目に有効牌を引き入れドラ切りリーチ。
三万四万五万四索五索九索九索九索二筒二筒七筒八筒九筒  リーチ

gpmax2012

灘もここで大三元1シャンテンとなるが、選択は打八万
11巡目に発をツモりテンパイになる。そして、次のツモは白で大三元をアガリ逃した形になった。
13巡目に白を引き、暗カンしてこの牌姿。
四索五索六索八筒発発発  暗カン牌の背白白牌の背  ポン中中中
同巡、まわっていた古川、ずっと1シャンテンでまっすぐ打っていた勝又にテンパイが入る。
古川
二万二万六万七万三索三索三索七索八索九索五筒六筒七筒  リーチ
勝又
二万三万四万四索四索五索六索七索四筒五筒六筒七筒八筒
残り枚数は、前原2枚、灘0枚、古川5枚、勝又4枚だった。決着はすぐについた。
灘が切っている八万を掴んで、古川に2,600の放銃で幕を閉じた。
古川は待ちが良さそうだが、よくリーチに踏みきったと思う。
灘は、暗カンで大三元のにおいをわざと出して周りを止めて、前原と一騎打ちにしたかったのではないだろうか。古川は暗カンが入ったことで、逆に大三元はないと思ったのかも知れない。
本人に確認していないので本当の事は分からないが、目の離せない1局だった。

gpmax2012

南1局、灘が勝又に3,900の放銃。
南2局、古川1人テンパイ。
南3局、西家の灘に配牌でドラ暗刻のチャンス手が入る。
現状の持ち点は、古川36,000前原33,800勝又29,800灘19,400
五万五万六万八万九万九万三索八索西北北北白  ドラ北
ホンイツにいきたいところだったが、2巡目に七索を引いたことと、マンズと字牌がのびなかったのでメンツ手になった。だが、現在ラス目にいるので満貫をアガればかなり大きい。
4巡目に1シャンテンになるが、再び先手は前原。5巡目にリーチ。
三万四万四万五万五万六万六万二索三索四索二筒二筒二筒  リーチ
8巡目に灘も追いつく。
五万五万六万七万八万八万九万九万七索八索北北北  ツモ九索
またしても、難しい選択になった。関連牌は九万が1枚きれているだけで、前原のリーチにはマンズは一万が通っているだけである。灘は五万切りリーチで追っかけた。
勝負手なので、受けより攻めを重視したというところだろう。
これに前原が、即九万を掴んで満貫の放銃となり着順が入れ替わった。
オーラスは勝又が、
二万二万二万六万六万六索七索七索八索八索九索白白  リーリ  ドラ八万
このリーチを、高めの白をツモリ2,600オール。
次局も1シャンテンの好配牌で加点のチャンスがやってきた。
三万三万四万五万六万七万八万七索二筒三筒四筒南西西  ドラ八万
形も良く、アガリはつきそうである。問題は何点の手にするかである。
結論から書くと、勝又は1,300オールのアガリで終わった。

gpmax2012

2巡目に、リーチに踏み切りにくいツモ五万でテンパイ。
4巡目にツモ九万でピンフになり、マンズの場況はまだ分からないが、ドラが八万なのでまたしてもリーチはしづらい。結局、四万をツモッてアガリとなった。ミスはないと思うし普通だと思うが、前局のアガリに勢いを感じるため、ツモ九万でリーチにいきやすかったような気がする。
ちなみに私なら、満貫級のアガリにしたいので、2巡目に西を外すかもしれないなと思って観ていた。
完全なオカルトではあるが、もしアガリ逃したとしてもその方が次に繋がるような気がするからである。
2本場は、灘が古川から1,000は1,600をアガって、見どころ満載の1回戦が終了した。
1回戦成績
勝又+19.8P  古川+4.4P  灘▲6.7P  前原▲17.5P
私は休憩時間に灘の大三元の局を考えていた。自分ならどう打つか。
出した結論はやはり灘と一緒であった。
理由として、親の勝又が押してきているのでスピード重視にしたい。また、前原の捨て牌に789が切れていない。さらに、大三元の可能性がなくなるわけではないことや、六筒九筒が危険であることが挙げられる。
当然、結果は受け止めなくてはならないが。
 
2回戦(起家から、古川・勝又・前原・灘)
東1局は、勝又が前原から2,600のアガリ。
次局は古川が勝又から高めを出アガる。
三万四万五万三索四索五索九索九索四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ  ロン三筒  ドラ発
この局の勝又だが、7巡目の牌姿が、
一万二万二万九万四索四索五索三筒四筒四筒発発中中
こうで、一万三筒も2枚切れとなっており、七対子好きな勝又は三筒を切るかと思われたが、メンツ手の保険を残して一万切りとしたことに違和感を覚えた。
東3局は、灘が1,600・3,200。次局は前原が1,300・2,600をツモアガる。
その後も、灘、古川が仕掛けを駆使して淡々と局を進めていく。
1回戦トップだった勝又が、東2局で沈んだことで、残り3者の思考が一致したかのように映った。
局は進んで、勝又が1人沈みで迎えた南3局。ここで、この半荘初めて手がぶつかった。

gpmax2012

親の前原が、チャンタの2シャンテンで、古川も1シャンテン。2人の勝負になるかと思われた。
1巡目に前原が東を仕掛けて1シャンテン。
一索二索三索八索八筒九筒南中中中  ポン東東東
古川は一筒三万とツモリこの牌姿。
二万二万一索二索三索六索一筒三筒三筒六筒七筒八筒九筒  ツモ三万
すべての手役が残る六索切りにするかと思ったが、古川の選択は打二万だった。
この局のテーマは、早アガリということなのだろう。三色を保険にドラが1枚あるしピンフが本線ということだ。
3巡目、二筒を引き入れ三色1シャンテンになった。さらに次巡、難しい形になった。
二万三万一索二索三索六索一筒二筒三筒六筒七筒八筒九筒  ツモ七索
単純なテンパイチャンスをとるなら六筒切りになるが、古川はノータイム六索切り。
ドラ色ということと、前原が若干、色模様ということも理由にあったとは思うが、判断スピードはさすがである。この選択が功を奏し、5巡目に九筒引きでピンフ高め三色のテンパイになる。
1手変わりジュンチャンがあるので難しいところだが、2巡目の二万切りが生きていることと、場況的に一万は山だと読んで古川はリーチ。親の前原への牽制の意味もあっただろう。
二万三万一索二索三索一筒二筒三筒六筒七筒八筒九筒九筒  リーチ
前原は、仕掛けた後は手が進まず、勝又はリーチを受けた時はまだこの牌姿だったが、
三万三万四万六万六万七万七万三索四索七索二筒四筒四筒
連続で四万三索を重ね、八索単騎リーチの勝負に出た。八索は前原が1枚切っているだけで、残りは山だった。
リーチするかどうかは賛否が分かれるところだと思うが、いかにも勝又らしいなと思った。
古川のリーチまでの捨て牌は、
八万 上向き二万 上向き三筒 上向き六索 上向き七索 左向き
こうで、七対子と読んだ可能性も低くはないだろう。
しかし、古川の待ちは高めが全生きの6枚残りで、勝又の高め放銃で決着がついた。

gpmax2012

南4局も、古川が前原から1,300をアガってトップを取った。
この時、前原の牌姿は、
二万四万六万六万七万三筒三筒六筒六筒六筒  チー二索三索四索  ツモ七万  ドラ六筒
こうで、ここから二万切りで放銃になった。
マンズは、古川には何も通ってなく、ドラが暗刻なのでまっすぐいくのも普通だとは思ったが、この局で沈んだこともあり、私はこれが敗因になりうるとノートに記した。
2回戦成績
古川+21.9P  灘+8.0P  前原▲4.9P  勝又▲25.0P
2回戦終了時
古川+26.3P  灘+1.3P  勝又▲5.2P  前原▲22.4P
 
3回戦(起家から、前原・灘・勝又・古川)
古川と前原の差が48.7Pになった。
そこまでの差ではないが、古川の出来がよく見え、前原は先手を取りながらも、アガリがあまりつかなく、いわゆる半ヅキ状態に見えるので点数以上に差を感じる。
この半荘で前原は沈んだとしたら、優勝はかなり厳しくなるだろう。
東1局、親の前原は3シャンテンで、ダブ東がなければアガリが十分見込める手牌。
四万八万九万三索五索六索七索八索二筒東東南北中  ドラ北
一方、勝又はドラトイツの3シャンテン。
三万八万二索二索九索九索六筒六筒七筒八筒南北北
灘と古川はちょっと厳しそうな配牌だった。

四万五万七万二索七索一筒三筒六筒八筒南西西発
古川
二万二万四万六万七万八万九索二筒三筒五筒東南発
ここまでの展開の結果か、古川が前原の必要牌の東を重ねてテンパイ。
二万二万四万五万六万七万八万九万一筒二筒三筒東東
一通の手変わりがあるのでヤミテン。6巡目に一万を引き、思惑通り一通のテンパイになる。
灘、勝又も1シャンテンへと手が進む。

四万五万五索一筒二筒三筒四筒五筒六筒西西発発
勝又
二万三万二索二索四索五筒六筒六筒七筒八筒北北北
同巡、前原が四万を2枚かぶったのを見てか、古川がツモ切りリーチ。
灘は浮かせていた五索四索をくっつけて三色に移行し、これが上手くいき、六索を引いて追っかけリーチ。
同巡、勝又も2人の当たり牌の三万を重ねてリーチと出る。
待ち牌は、古川2枚、灘5枚、勝又4枚だったが、あっさり勝又が六万を掴んで、灘に7,700の放銃となった。
勝又は、2回戦以降、完全に周りに封じ込められているので、前原以上に苦しそうだ。

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その後も勝又は、灘に1,500、1,500は1,800、古川に7,700は8,300、1,000と5連続放銃で、持ち点を大きく沈めた。このまま、灘、古川ラインで進むかと思われたが、ちょっと待ったをかけたのは前原。
東4局、7枚目の六筒を一発で引き、2,000・4,000をツモアガる。

gpmax2012

この局は少し面白く、8巡目に灘から出た白を、古川がこの牌姿からスルーしている。
二万三万五万七万五索六索六筒六筒六筒七筒白白中
一応、タンピン三色も見えるが少し遠く、親番であることと古川の雀風を考えたら、仕掛けないというのは違和感しかなかった。結果的に、これが前原浮上のきっかけとなってしまった。
南1局1本場。親の前原の配牌。ドラ槓子だが、残りの形が悪くアガリは厳しそうである。
三万八万一索二索七索九索一筒七筒七筒七筒七筒東南発  ドラ七筒
2巡目に南を重ね、愚形ながら3シャンテンになる。まだ南が鳴ければ勝負になるというぐらいだ。
7巡目に、多少は手が進んでこの牌姿。
三万八万四索五索七索七索九索七筒七筒七筒七筒南南  ツモ二万
ここからドラを暗槓。正直私は「何で?とりあえず八万切りで問題ないでしょ」と思ったが、リンシャン牌は南。真似できるかどうかは別として「さすがだなぁ」と思った。
私だったら、やっぱり南頼みになりそうである。ドラを見せたら、鳴ける可能性が極端に薄くなると思うからである。この手をハイテイできっちりツモって、6,000は6,100オールでトップに躍り出た。
この点差を守り抜き、前原が1人浮きのトップで終わった。
3回戦成績
前原+39.5P  古川▲3.3P  灘▲7.3P  勝又▲28.9P
3回戦終了時
古川+23.0P  前原+17.1P  灘▲6.0P  勝又▲34.1P
 
4回戦(起家から、灘・前原・古川・勝又)
残すところ2回戦となった。
勝又は2連勝条件ぐらい。灘は、今回浮かないと2人かわさなければならないのできついだろう。
古川と前原は、勢い的には前原の方に分がありそうである。古川は特にミスも見当たらなかったし、展開や
牌勢的には、もっとポイントを持っていてもおかしくなさそうなのに不思議だなぁと私は思っていた。
それだけ、他者のマークがきついということだろうか?
東1局は古川が、
四万五万七万八万九万北北  チー一万二万三万  ポン南南南  ドラ五万
これでテンパイするも、前原が捌いて300・500のアガリ。親番でも2,900をアガリ、その後、3連続の流局をテンパイ料で加点していく。あとは一発でれば完全に前原ペースだな、と思って観ていたが、東2局4本場は、古川が勝又から1,000は2,200に供託4本で大きいアガリとなった。
この時の古川の牌姿は、
三万四万五万六万七万六索六索六筒七筒八筒  ポン四索四索四索  ドラ三筒
3メンチャンだが、待ち牌は山に4枚。
一方、勝又はこの牌姿から発をポンしてテンパイ。
五万六万七万七万八万三筒三筒六筒六筒六筒  ポン発発発
この時点で、六万九万は山3でいい勝負だったが、この後ドラの三筒を引いて打八万で放銃となった。
放銃は致し方ないところだが、勝又は完全に闇に包まれていて、浮上は厳しそうに見えた。
続く、東3局では前原が700・1,300のアガリ。
三索四索五索五索六索七索一筒一筒二筒二筒南南南  リーチ  ツモ二筒  ドラ中
次局は、古川が勝又から5,200のアガリ。
五索五索六索七索八索四筒四筒四筒七筒八筒九筒中中  リーチ  ロン中  ドラ六索
完全に2人のマッチレースになるかと思ったが、ここに待ったをかけたのは灘ではなく、勝又だった。
南1局に、
二万三万四万五万六万七万五索六索七索八索九索発発  リーチ  ツモ四索  ドラ発
これをアガる。南2局は前原、勝又の2人テンパイ。
1本場、前原が5巡目にピンフテンパイ。
二万三万四索五索六索六索七索八索一筒二筒三筒八筒八筒  ドラ四筒
また、前原の長い親が始まる予兆を感じた。
この時、勝又は愚形ながらドラドラの1シャンテン。
二万四万五万六万七万七万八万九万五索四筒四筒五筒七筒
この後、灘が仕掛けて勝負にいく。この鳴きが良かったのか、10巡目、勝又にテンパイが入る。

gpmax2012

ピンズはドラ色ということもあり、どの待ちにしてもいい待ちにはならそうである。
それでも、アガリだけを考えるならドラ切りが1番優れている。
しかし、灘の仕掛けは色というよりはトイトイの方がありそうな河になっているので、一打目の二筒切りからドラは切りにくい。私ならドラはもう残っていないと思うが、現状のポイントも踏まえた上で、七筒切りリーチにいくかなと思って観ていた。
勝又の選択は、五筒切りリーチだった。
これに、前原がすぐに七筒をつかみ、5,200は5,500の放銃で勝又が浮きにまわる。
南3局は、灘が古川のリーチをかいくぐり、500・1,000をツモアガる。
南4局は、古川が400・700をアガリ、30,000点を越えた。
灘は小さいながらも1人沈みのラスで最終戦かなり厳しくなった。
4回戦成績
前原+11.3P  勝又+5.8P  古川+1.3P  灘▲18.4P
4回戦終了時
前原+28.4P  古川+24.3P  灘▲24.4P  勝又▲28.3P
 
5回戦(起家から、古川・灘・勝又・前原)
ついに最終戦を迎えた。
前原、古川は着順勝負。灘、勝又も優勝の可能性は残されている。
東1局、先手をとったのは灘。9巡目にリーチと出る。
古川も次巡、ドラを切ってリーチと出るが、灘の当たり牌を掴んで2,000の放銃。
前原は、点数以上に安堵したのではないだろうか。
東2局は、親の灘がツモり三暗刻でリーチを打つが、これは流局で1人テンパイ。
四万五万六万二索二索二索六索六索五筒五筒五筒六筒六筒  リーチ  ドラ東
1本場は、勝又がドラの発を重ねてリーチを打つが、前原に捌かれてしまう。
東3局は、古川、灘の2人テンパイ。
東4局は、灘が三色にいきたいところであったが、あっさりツモアガる。
三万四万五万四索五索六索三筒四筒五筒六筒六筒八筒八筒  ツモ六筒  ドラ九万
局はどんどん進み、残すは南場となった。
南場を迎えた時点での点数状況は、
灘38,500 前原29,700 古川25,900 勝又25,900
南1局、親の古川と勝又が好配牌。
古川
二万五万六索六索七索七索八索一筒一筒五筒六筒九筒九筒  ドラ北
勝又
三万二索二筒五筒五筒六筒八筒西北北北白中
古川の手牌は、順調に進んで7巡目テンパイ。
五万六万四索六索六索七索七索八索一筒一筒四筒五筒六筒  ツモ四万
前原との差はほとんどないので、四索切りリーチと出る。
安めでもツモればひとまず逆転なので、普通の選択といえるだろう。
この時点で勝又の手はまだこの牌姿で、
三万四万六索二筒五筒五筒六筒七筒八筒八筒北北北
山には五索が3枚、八索が2枚残っていたので、古川のアガリだなと思って観ていたが、10巡目に勝又から追っかけリーチが入る。結果、勝又に7枚目をツモられ、古川は親っかぶりで、前原との点差が7,700まで開いた。
古川は、この最終戦でここまで3度のリーチを打つが不発で、特に2回は親番だったことも考えると、相当態勢的に苦しいといえるだろう。逆に、前原は展開が向いてきている。
南2局は、とにかくアガるしかない灘が、満貫をテンパイしていた勝又から2,000をアガる。
1本場は印象的だった。まず灘が、6巡目に発をポンして果敢に攻める。
テンパイ1番乗りは古川。
二万二万三万三万三索四索五索六索六索六索七索西西  ツモ四万  ドラ一筒
一万が3枚切れていることからヤミテンを選択する。
次巡、ドラを引いて六索を切ってオリにまわる。

gpmax2012

灘が、四索手出しはあるが、ピンズ模様のところに、前原が六筒を押してきている様子を見てやめたと思われる。
この冷静さはとても勉強になった。
私なら、テンパイした時にリーチといくか、ソーズの形がいいので西を切って、全面勝負といきそうである。

gpmax2012

実際一筒は灘の必要牌であり、テンパイをいれさせるところだった。
このあと、前原が灘の当たり牌になった六万を暗刻にして、500,1000をツモアガった。
もし、古川がリーチといっていたら、灘に放銃で終わっていただろう。
アガったのが前原だったため、点差的にきついことには変わりないが、勝負はまだ分からないな、と思った。
南3局は、古川1人ノーテンでさらに差がひらく。
1本場は、前原が2巡目に白ポン、4巡目に九筒を仕掛けて愚形テンパイ。
八万九万六索七索八索三筒三筒  ポン九筒九筒九筒  ポン白白白  ドラ二筒
古川も8巡目にテンパイ。
三万四万六万七万一索二索三索八索八索二筒六筒七筒八筒  ツモ五万
今度は相手が1人で待ちが良いので、ドラ切りヤミテンに受けた。
これをきっちりアガって、オーラス満貫ツモ条件まで詰め寄る。
南4局、気になる古川の配牌は、
一万四万六万八万一索四索五索九索三筒六筒南西北  ドラ八索
かなり苦しい配牌である。満貫にするには、456の三色か、ダブ南頼りになりそうである。
古川の選択は国士だった。わずか7巡で1シャンテンまで漕ぎ着ける。

gpmax2012

東中は山に1枚ずつ残っていた。
15巡目に、古川は東を引きテンパイするが、その前巡に前原に中が入っていた。
この瞬間、第3期グランプリは前原雄大の優勝で幕を閉じた。
5回戦成績
灘+21.9P  前原▲2.5P  勝又▲2.5P  古川▲16.9P
最終成績
前原+25.9P  古川+7.4P  灘▲2.5P  勝又▲30.8P

gpmax2012

勝又
「弱かった。(1回戦南4局)一通になってリーチにいきたかった。一通が決まると思った。(態勢)が落ちていったときに、打牌を変えないで普通に打ってしまったことが駄目だった。」

「(3回戦南1局1本場)前原のドラカンに三索でまわった。そのあとのカン二索待ちは、リーチはしなくても、テンパイはとらなくては駄目だった。(この半荘)トップを走っていてひよる必要がなかった」
古川
「(3回戦、東4局)内側に牌がまとまっていて、白を鳴く必要はなかった。と、思っているので、後悔はしていない。初めてのニコ生ということもあり高揚していた。短期決戦をもっと勉強したいと思う」
前原には私が個人的に気になった質問をいくつか投げかけてみた。
Q1
「優勝した時の心境をお願いします。」
「勝てたことは素直に嬉しい。鳳凰戦からずっと対局が続いていて、とにかく1人でいることを多くして体力を温存した。」
Q2
「1回戦の東1局、1巡まわしてリーチで、少しかたいのかなと思いましたがどうなのですか?」
「灘さんが煮詰まっている感じがしていたので、テンパイか1シャンテンかを見きわめるための1巡だった。テンパイでなければ引いてくれると思った。」
Q3
「決勝20回戦と5回戦の戦い方は変えますか?」
「優勝スコアが20回戦だと120(ポイント)ぐらい必要で、5回戦だと40ぐらいかなと数字から考えた。」
Q4
「最終戦、着順勝負でしたがどう思いましたか?」
「4、3着からのスタートから並んだから、勢い的に有利だなと思った」
Q5
「2回戦まで最下位でしたが、焦りはありませんでしたか?」
「それはなかったが、(2回戦南4局)二万切りはタンパクだなぁと反省した。六万を1回打って勝負にいかなくてはならなかった。」
私は麻雀打ちとして、前原さんを尊敬している。これは、私がプロになり始めた12年前からずっと変わらないことである。打ち筋は多少違うが、私たちは同じベクトル上に位置していると思っている。
また、プロは結果も当然必要だが、「らしさ(色)」も必要であると思っている。
しかし、鳳凰戦では「らしさ」が優先しすぎて、麻雀としては正直、納得できなかった。
これは私のエゴなのかもしれないが、いつまでも強い前原雄大でいて欲しいと切に願っている。
優勝、おめでとうございます。
背中を追いかけて、いつの日か追い抜きますから、その日までは走り続けていて下さい。

ロン2 第19回ファン感謝祭

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3月10日(日)、東京にて日本プロ麻雀連盟公式オンライン麻雀サイト「ロン2」のイベント、
第19回ファン感謝祭が行われました。
レポーターは太田優介が担当させていただきます。

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会場の様子

今回のファン感謝祭も大盛況で満卓。総勢46人のユーザーさんが参加されました!
それもそのはず、今回のゲストは、連盟のトップ女流プロたちが勢ぞろい!

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宮内こずえプロ

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和泉由希子プロ

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田村りんかプロ

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優木美智プロ

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魚谷侑身未ロ

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安田麻里菜プロ

それでは、2回戦終了時に行われたトークショウ時のコメントと一緒に、1人ずつ紹介いたしましょう!

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トークショーの様子

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和泉由希子プロ
「今日の成績は2連続2着。こういうときは、次はラスを引いてしまう事が多いと前原プロが言ってましたが、そうならないように頑張ります。」

宮内こずえプロ
「最近は、スマホのゲームにハマっています。レベルの高い人は仲間になってください(笑)。
麻雀のほうは、今日は2連勝と調子が良いので優勝目指します!」

優木美智プロ
「最近、私もスマホのゲーム(宮内プロのゲームとは違うゲーム)にハマっています・・・、が、
りんかプロが、そのゲームが得意すぎてかないません(笑)。今日はトップと2着なので調子が良いです。
頑張ります。」

田村りんかプロ
「麻雀の調子は凄く悪くて、今日は3着と4着。ココまで調子が悪いと『人としてどうか』って思います。(会場大爆笑)」

魚谷侑未プロ
「最近引っ越したので皆さんよろしくお願いいたします!(意味不明)今日の成績はトップと4着でプラスマイナス0くらいです。」

安田麻里菜プロ
「今日は2着2回なので、残り2回、大きくトップをとるか、大きなラスをとるかしようと思います。」

 

トークショウ終了後、ジャンケン大会も行われ、勝利された3名の方には超豪華な商品、
『12人のサイン入り2013日本プロ麻雀連盟卓上カレンダー』が贈られました!

ron2-fes19
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そして、3回戦が開始。
安田プロの卓から「役満出ました!」の声!

見事な四暗刻をアガリ!
アガったのはルキアさん!
ルキアさんには役満賞として、『本日ゲストプロ全員のサイン入り色紙』が贈られました!

3回戦終了時、トータルトップは宮内プロの125P!そして2位はユーザーのリゾットさんで94P!

なんと最終戦は偶然にも、宮内プロとリゾットさんの直接対局!
この直接対局を制したのは・・・リゾットさん!

優勝はリゾットさん!そして準優勝は宮内プロでした!
おめでとうございます!

そして最後に、プロ6人から感想をいただき、第19回ファン感謝祭は幕を閉じました。

今回も満貫賞や跳満賞、途中からはプロ直撃賞も作り、ステッカーやクリアファイル、携帯クリーナー等がユーザーさん達にプレゼントされました。

次回のファン感謝祭は夏の開催を予定しております!
皆様のご参加、お待ちしております!

第19回ファン感謝祭 詳細はこちら


日本プロ麻雀連盟オフィシャルネット対戦サイト『ロン2』

ファン感謝祭/ロン2 第19回ファン感謝祭

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3月10日(日)、東京にて日本プロ麻雀連盟公式オンライン麻雀サイト「ロン2」のイベント、
第19回ファン感謝祭が行われました。
レポーターは太田優介が担当させていただきます。

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会場の様子

今回のファン感謝祭も大盛況で満卓。総勢46人のユーザーさんが参加されました!
それもそのはず、今回のゲストは、連盟のトップ女流プロたちが勢ぞろい!

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宮内こずえプロ
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和泉由希子プロ
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田村りんかプロ
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優木美智プロ
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魚谷侑身未ロ
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安田麻里菜プロ

それでは、2回戦終了時に行われたトークショウ時のコメントと一緒に、1人ずつ紹介いたしましょう!

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トークショーの様子
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和泉由希子プロ
「今日の成績は2連続2着。こういうときは、次はラスを引いてしまう事が多いと前原プロが言ってましたが、そうならないように頑張ります。」
宮内こずえプロ
「最近は、スマホのゲームにハマっています。レベルの高い人は仲間になってください(笑)。
麻雀のほうは、今日は2連勝と調子が良いので優勝目指します!」
優木美智プロ
「最近、私もスマホのゲーム(宮内プロのゲームとは違うゲーム)にハマっています・・・、が、
りんかプロが、そのゲームが得意すぎてかないません(笑)。今日はトップと2着なので調子が良いです。
頑張ります。」
田村りんかプロ
「麻雀の調子は凄く悪くて、今日は3着と4着。ココまで調子が悪いと『人としてどうか』って思います。(会場大爆笑)」
魚谷侑未プロ
「最近引っ越したので皆さんよろしくお願いいたします!(意味不明)今日の成績はトップと4着でプラスマイナス0くらいです。」
安田麻里菜プロ
「今日は2着2回なので、残り2回、大きくトップをとるか、大きなラスをとるかしようと思います。」
 
トークショウ終了後、ジャンケン大会も行われ、勝利された3名の方には超豪華な商品、
『12人のサイン入り2013日本プロ麻雀連盟卓上カレンダー』が贈られました!

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そして、3回戦が開始。
安田プロの卓から「役満出ました!」の声!
見事な四暗刻をアガリ!
アガったのはルキアさん!
ルキアさんには役満賞として、『本日ゲストプロ全員のサイン入り色紙』が贈られました!
3回戦終了時、トータルトップは宮内プロの125P!そして2位はユーザーのリゾットさんで94P!
なんと最終戦は偶然にも、宮内プロとリゾットさんの直接対局!
この直接対局を制したのは・・・リゾットさん!
優勝はリゾットさん!そして準優勝は宮内プロでした!
おめでとうございます!
そして最後に、プロ6人から感想をいただき、第19回ファン感謝祭は幕を閉じました。
今回も満貫賞や跳満賞、途中からはプロ直撃賞も作り、ステッカーやクリアファイル、携帯クリーナー等がユーザーさん達にプレゼントされました。
次回のファン感謝祭は夏の開催を予定しております!
皆様のご参加、お待ちしております!
第19回ファン感謝祭 詳細はこちら

日本プロ麻雀連盟オフィシャルネット対戦サイト『ロン2』

第19回ファン感謝祭

フォトギャラリー/第19回ファン感謝祭

第92回:瀬戸熊 直樹

―総じて人は己に克つを以て成り、自ら愛するを以て敗るるぞ―
西郷 隆盛

第29期鳳凰位決定戦。
現鳳凰位・荒正義に挑むのは、奪還を狙う前鳳凰位・瀬戸熊直樹、決定戦常連であり、過去2度戴冠の経験を持つ前原雄大、そして早い時期から当確ランプを灯し、決定戦へ初めての切符を手にした藤崎智。

日本プロ麻雀連盟の最高峰の闘いと呼ぶにふさわしい、まさに「至高の対局」となることが約束されたような素晴らしい対戦メンバーである。1人でも多くの麻雀ファンに観て欲しいこの対局が、ニコニコ生放送で完全生中継されることはもちろん既に決まっていた。

「鳳凰位決定戦、生放送のMCをやらせてください。」

ただこの闘いを近くで観たい、肌で感じたい、どんな形でもいいから関わりたい。
その気持ちだけで私はそう口にしていた。ダメで元々、言わないで後悔するよりは良いだろう。
連盟に入って約3年、自分から何か仕事をやらせて欲しいと頼んだのは初めてのことである。

あのとき、わがままを言ってみてよかった。
「麻雀とは・・・」その答えの1つが、そこにはあったように思う。
このインタビューでは、牌姿についてはあまり触れていない。まだ放送を観ていない方は、ぜひタイムシフトで観戦していただきたい。これは宣伝でもなんでもなく、心からそう思う。最高の作品であると、自信をもって言える。そして画面を通しても強く感じる、瀬戸熊の圧倒的な「強さ」がどこからくるのか、それを少しでもお伝えできたら幸せである。

092_01

白河 「鳳凰戦、おつかれさまでした!なにから聞こうかな。」
瀬戸熊「いつものように、雑談みたいな感じでいいんじゃないの。聞きたいこと、箇条書きみたいにどんどん聞いてきてくれてもいいし。」
白河 「じゃあまず、決定戦に入る前のことから聞いていきたいと思います。2年ぶりのリーグ戦は、いかがでしたか?」
瀬戸熊「いろんなところで言ってるんだけど、ずっとリーグ戦は激しいスコアが多かったんだよね。浮き沈みを繰り返して、最終節で80浮いて帳尻合った、みたいな。だけど本当に力がある人はぶれないと思うんだよ。だから自分の麻雀を打ち切って、1日4半荘をしっかりまとめて全節プラスにすることを目標にやっていた。もちろん開幕からずっと決定戦のことは意識していたけれど。それで、少しマイナスした節もあったけど、自分で決めたことはきちんとやれたな、と思ったからそれが自信になったよね。だから最終日、最初の4回はリーグ戦みたいにやろう、と意識してやっていたよ。1年間ちゃんとやってこられたんだから、リーグ戦のように打てば大丈夫だろうと思って。」
白河 「かなり安定した成績で進出を決められていましたよね。決定戦が始まる前の心構えというか、決めごとのようなものはありましたか?」
瀬戸熊「俺ね、前回荒さんに負けたことがすごくプラスになったと思っているんだよね。それまで2回獲ったときは、自分が挑戦者でいようと思ってやっていたのに、昨年は気持ち的に受けてしまっていたんだよね。鳳凰位だからどっしりやろうみたいな。たとえばもっちー(望月雅継プロ)の親リーチに九筒切れなかった局があるんだよね。(第28期鳳凰位決定戦12回戦東2局2本場)その牌譜とかをみて『何やってるんだろう・・・』とか思ったりして。だから今回1番思っていたのは、勝っても負けても、ファンの人に笑って『頑張りました』って言える麻雀を打とうと。あとは連盟初の有料放送だったからね、それはすごく意識していたよ。自分ができる最高のパフォーマンスをして、連盟のために頑張ろうと思ったの。自分のためではなく。もちろん獲りたい気持ちは4人の中で1番強かったと思うけれど。だから前原さんのリーチとかに対しても、全部ぶつけようと決めていた。どんなにリードしていても。途中ちょっとふらついた局面もあったけどね。」
白河 「観ているこちらからすると、前原さんをかなり意識していたようにうつったのですが・・・。」
瀬戸熊 「いや、意識はしてないよ。他の3人、誰の勝ちパターンにも入れてはいけないと思っていたんだけど、前原さんへの対応だけは意識している風に見えちゃうんだろうね。」
白河 「3人それぞれへの対応を全部考えていたということですよね?」
瀬戸熊 「そう。例えば藤崎さんに対して1番ケアをしていたのは、ヤミテンの高い手。俺はヤミテンに弱くて、どっちつかずの、勝負していない打牌で放銃してしまったりするから。とにかく、相手の必殺技だけは出させないように意識していたね。」
白河 「他家の親番を落とそう、という意識はすごく感じました。」
瀬戸熊「それは多分、自分に1番手が入っていたからね。鳳凰位決定戦を何度か闘っていていつも思うのは、親リーチが入っていたとして、そのとき3人のうちいける人が必ずちゃんといくんだよね。みんなの目的意識がはっきりしていて、お互いに信頼関係がある。だから、麻雀としておもしろいものになるんだろうね。」
白河 「1人旅になる局面が少ないということですよね?」
瀬戸熊「そうそう、だから自分が先頭に立ったときのプレッシャーもきつくなるし。俺が鳳凰位獲ったときは大体逃げパターンになるんだけど、逃げている時でもいつも『何時つかまるかな』と思ってやっている。でも今回は、さっきも言ったけれど、つかまるにしてもかわされるにしても、すごい放銃をして結果負けたとしても、最後に笑って『僕らしくやれました。自分で自分を褒めたいです。』と言えるように、‘瀬戸熊直樹’として終われるようにやろうということをずっと意識していたんだよね。」
白河 「最後のインタビューで、そのセリフ言ってくれればよかったのに!」
瀬戸熊「いやー、疲れ切っていて忘れました(笑)19回戦の前原さんの親の連荘中はね、本当に精神的に疲れてしまって。いつもだったらオリるにしてもちょっときつく見える牌を打ってテンパイだけはとりにいったりするんだけど、もう現物でオリたい!って。」
白河 「でも、そうはしてなかったですよね?」
瀬戸熊「してはいないんだけどね、でも本当に捨て牌の枚数を数える行為すらめんどくさいと思ったよ、初めて。どうなっちゃうんだろうとも思ったし。」
白河  「モニタを観ている私も、思っていました(笑)19回戦の話は、またあとで聞かせてください!先ほど、ふらついた局面があったとおっしゃっていましたが、6、7回戦あたりのことですよね?」
瀬戸熊「あれね。心理状態って不思議なもので、何回やっても、守っちゃいけないのにちょっと点差に余裕があると楽したいと思うようになるんだよね、本当に。その時に『あれ、またやっちゃったな、俺』とか思って。」
白河 「それで、あれが出たんですね!瀬戸熊さんがよくする、自分に怒っているような仕草と表情!」
瀬戸熊「若い子がよく言う『おこなの?』ってやつね(笑)」
白河 「そこからの、8回戦のあの八筒!(8回戦南1局1本場)」
瀬戸熊「まだ2日目序盤だし、もう1回やり直そうと思って、あの八筒は、景気付けのためにいきました。」
白河 「あれはもう、放銃覚悟ですよね?」
瀬戸熊「もう『ロンって言ってくれ』くらい思ったもん、切るときに。」
白河 「1回放銃して、また切り替えようということですか?」
瀬戸熊「1シャンテンだったらもちろんいっちゃだめだよ。役なしだけどテンパイだから価値がある。当たってもいいから、1回ガーン!っていって、万が一自分にアガリがあったらふくし、放銃になっても俺らしいじゃないか、と。そこからもう1回自分らしい麻雀をやり直そうと。最初に誓った、笑って終われるようにってことを思い出すために、戒めの意味もあったね。」
白河 「あの三索は・・・?(9回戦オーラス)」
瀬戸熊「三索ね(笑)数字的に言えば、打つ必要は全くないんだけど。半荘と半荘の間って、つながっていないように見えるけど絶対つながっているから。当たったとしても、この次またトップとればいいから、良い終わり方にしたかったんだよね。2番手の前原さんとの直接対決だから意味があるのであって、荒さんや藤崎さんのリーチだったら打たないと思うよ。浮上のきっかけになってしまうから。でも打ったときは『さすがだな。』って思ったね。『ここで前原雄大だったら三索単騎の七対子だね』とか思っていて、当たったら8,000だってわかっていたけど、本当にその通りだったから。研究してきた成果が間違っていない、みたいな。」
白河 「そういう意味でのどや顔だったんですね!会心の放銃みたいな顔をしていましたよ。」
瀬戸熊「(笑)会心とは思ってなかったけど。あとで見返してもそんなにわからなかったし。野球と同じでさ、オールスター戦とかでピッチャーまっすぐ投げるじゃない。打ってみろ!みたいな。そんな感じかな。アガってみろ!って。もしそれが通って自分がアガれたらかっこいいじゃん。」
白河 「瀬戸熊さんって、いつもタイトル戦の決勝のとき『おはようございます』って入ってきてから、雑談とかほとんどせずに、対局の合間も1人で壁とにらめっこしたりしているじゃないですか。それなのに、9回戦が終わったあと解説室を通った時に突然『あれは打っちゃだめかなあ・・・?』って言ったんですよね!だから私はすごくびっくりしたんですけど。」
瀬戸熊「あの時は、またやっちゃったかなぁと思っていたんだけど。今ってテレビとかニコ生とかでファンの人達がタイトル戦を観る機会が多くなって目が肥えてきていると思うし、コメントやツイッターなんかで反応もすぐわかるから、ファンの評価を仰ごうと思って。自分の中では、最初に決めた通りの自分らしい放銃だったとは思うけど『あれはさすがに・・・』というような評価が来るのかなと思ってちょっと苦笑いしてたんだよね。」
白河 「テンパイじゃなかったですしね。」
瀬戸熊「アガリは多分ないだろうけど、例えば俺の麻雀をよく知っている人が100人観ていたとしたら『三索切るでしょう、瀬戸熊は』って思う人が70人はいると思っていたんだよね。」
白河 「・・・そんなにいますかね?(笑)」
瀬戸熊「いないかな?どうだろう。今まで獲った2回の鳳凰位戦は、70~80ポイントくらい離しながら逃げていて、そこから最終日は収束に向かっていたんだけど、今回はそれをやめようと思っていたんだ。最後まで逃げないで、真っ向勝負でいこうと。やっぱり有料放送を意識していたところがあって、連盟の最高峰の試合で、最高のメンツでみせる鳳凰位戦が『この程度か』と思われるのが嫌だったんだよね。観ている人達に『これくらいの麻雀打てますか?これを超えるパフォーマンスができますか?』というのをアピールしたくて。俺以外の3人は確実にできるとわかっていたから、出来不出来に不安がある自分さえしっかり頑張れば絶対にベストの闘いになると思って、とにかく足は引っ張らないようにしようと思っていたよ、やる前からずっと。」
白河 「途中で、2番手との差が100ポイントを超えていましたが・・・」
瀬戸熊「ポイントね、途中までまったく気にしていなかった。2番手誰かなー?くらい。」
白河 「いつから意識したんですか?」
瀬戸熊「19回戦の前原さんの猛連荘があって、100ポイントくらい縮まったんだよね、確か。そこで立会人の藤原さんに『今何ポイント差ですか?』って思わず聞いちゃったね。そうしたら、18回戦までのトータルで160ポイント差だって言われて。まだ40ポイントは離れているから、最終戦並びで迎えられたら恩の字だな、と。」
白河 「残り2半荘で160ポイントだと、かなり余裕があるように思えますよね。」
瀬戸熊「そこが落とし穴で。18回戦が終わったあと、選手も周りのスタッフも、もう決まりみたいな雰囲気になって、空気がふっとゆるんで・・・。自分もそのエアーポケットにはまってしまったんだよね。そのまま19回戦に入って、藤崎さんの親番で7,700放銃してまた『何やってんの?俺』って思ったんだよ。」

19回戦東3局1本場、二索二万六索と手出しで切っている親の藤崎が3巡目、白を1鳴き。

一筒三筒三筒四筒七筒八筒九筒九筒九筒南南 ポン白白白 ドラ中

ここからチャンタも見て打四筒。2巡後ツモ七筒で打三筒。さらに2巡後ツモ六筒で、カン二筒の7,700テンパイ。
テンパイの1巡前に、前原が二筒を切り出している。

瀬戸熊「前原さんが二筒四筒って切ってきているんだよね。藤崎さんが四筒先に切っていてホンイツなのもわかっているんだから、二筒四筒の順番で打てばよかったのに・・・って思って。」
白河 「そして、その後の前原さんの親番ですが。」
瀬戸熊「リンシャンで六筒持ってきて放銃したのが痛かったね。」
白河 「平場ですね。」

東4局。

六万六万七万八万九万東東東南南 ポン中中中 ドラ七索

ホンイツのテンパイに、中をツモって加カン。

親の前原の手牌は、

二万三万四万五万六万七万四索四索四筒五筒七筒八筒九筒

ピンフのみで打点こそ1,500だが、ここから怒涛の連荘が始まる。

瀬戸熊「本当に久しぶりに、麻雀やっていて『こえーな』って思ったよ。対面にはすごい形相で考えている前原さんがいるしね。『やべー、やられる』って。」

10本場、長い長い親番を自力で落とす。

二索三索七筒八筒九筒北北 チー九索七索八索 ポン発発発 ツモ一索

疲れ切っていた、という言葉とは対照的に、最後まで親を落としに行く姿勢が1番強く見えたのが、箱を割っている瀬戸熊であったように思う。
この親番が終われば・・・観ている誰もがそう思ったのではないか。

「鳳凰位を奪還したという実感は、まだないんだよね。」
そう語るが、20回戦に臨む瀬戸熊の姿から既に、鳳凰位としての風格を感じていたのは私だけだろうか。

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白河 「最終日の特別インタビューでもうかがいましたが、今回の鳳凰位戦を振り返って、全体を通して点数を付けるとしたら何点ですか?」
瀬戸熊 「個人としては、自分に100点満点をあげたいと思うよ。結果よりも内容で、きちんと最後にゴールテープを切れたから。もちろん結果も自分にとっては最高のものになったけれど。」
白河 「周りの方の反応はいかがですか?奥様とか。」
瀬戸熊 「カミさんはね、麻雀のことはあまり言わない。服装のこととかだね。『腕まくりするな!』とか『また髪の毛いじって!』とかよく怒られるよ(笑)今回は、自分におこ、とかやらないでスマートに打とうと思っていたんだけど・・・。」
白河 「おこ、でしたね(笑)ご両親はどうですか?」
瀬戸熊 「親父は全部観ていたらしいんだよね。鳳凰位戦が終わって、両親に報告と旅行をプレゼントしに行ったんだけど、その時『野球と同じで、麻雀も面白いな。』って言われて。
それでようやく親孝行できたかなって思った。今までいろいろ迷惑もかけてきたし、苦しい時期もあって、こうして麻雀プロとして食べて行けるようになったわけだから、両親をはじめとして周りの人には本当に感謝しているし、いろいろな人のおかげで獲れたんだと思っている。これは本当に。だからこそ、ファンの方や連盟のために闘おうっていう気持ちが強かったんだと思う。有料放送になって、ようやくプロの対局と言えるようになったと思うし。」
白河 「メディアに露出する機会や、プロとしての仕事の幅もかなり増えて、麻雀界もかなり変わってきていると思いますが、鳳凰位として、後輩に伝えたいことなどありますか?」
瀬戸熊「うーん。これからはもっと、いきごしのある麻雀を打っていこうと思うんだよね。」
白河 「えっ、今以上にですか?もう十分じゃないですか?(笑)」
瀬戸熊「まだ、ここいけたなぁって思う部分とかはあるからね。若い子たちにはそこを見て欲しいとは思うかな。うん。そろそろいいんじゃない?せっかくカラオケボックスにいるんだし、何か歌ったら?」
白河 「いやいや、瀬戸熊さんのインタビューですから!歌ってください!」
AKB48メドレーを入れ、強制的にマイクを渡す。

対局中、世界に入り込んでいる鳳凰位‘瀬戸熊直樹’
目の前で恥ずかしそうに『ポニシュシュ』を歌っているこの男性と、果たして同一人物なのだろうか・・・?

「克己心」
サインの横にいつも添えられている言葉である。
意味は、欲望を抑える心。自制心。とある。

欲望とは、弱さ、のことであろうか。
楽になりたい、逃げたい、という自分の弱い気持ちと闘い、それに打ち克ったとき、あの阿修羅のような表情が出るのか。

「職人になりたいんだよね、俺。麻雀のこと以外何も知らなくても、それは恥ずかしいことではないと思うんだ。」

インタビューを通して強く感じたのは、麻雀を「みせる」ことに対する意識の高さである。
プロとは本来、そうあるべきなのだろう。
音源を聞きながら、自らを省みる。
果たして自分は誰に対しても「麻雀プロです。」と胸を張れるだろうか?

「至高の対局」から受けた感動を、自分もいつか人に与えられるようになりたい、そんな本当の意味でのプロになりたい、と切に願う。

第29期鳳凰位決定戦 観戦記はこちら

プロ雀士インタビュー/第92回:瀬戸熊 直樹

―総じて人は己に克つを以て成り、自ら愛するを以て敗るるぞ―
西郷 隆盛
第29期鳳凰位決定戦。
現鳳凰位・荒正義に挑むのは、奪還を狙う前鳳凰位・瀬戸熊直樹、決定戦常連であり、過去2度戴冠の経験を持つ前原雄大、そして早い時期から当確ランプを灯し、決定戦へ初めての切符を手にした藤崎智。
日本プロ麻雀連盟の最高峰の闘いと呼ぶにふさわしい、まさに「至高の対局」となることが約束されたような素晴らしい対戦メンバーである。1人でも多くの麻雀ファンに観て欲しいこの対局が、ニコニコ生放送で完全生中継されることはもちろん既に決まっていた。
「鳳凰位決定戦、生放送のMCをやらせてください。」
ただこの闘いを近くで観たい、肌で感じたい、どんな形でもいいから関わりたい。
その気持ちだけで私はそう口にしていた。ダメで元々、言わないで後悔するよりは良いだろう。
連盟に入って約3年、自分から何か仕事をやらせて欲しいと頼んだのは初めてのことである。
あのとき、わがままを言ってみてよかった。
「麻雀とは・・・」その答えの1つが、そこにはあったように思う。
このインタビューでは、牌姿についてはあまり触れていない。まだ放送を観ていない方は、ぜひタイムシフトで観戦していただきたい。これは宣伝でもなんでもなく、心からそう思う。最高の作品であると、自信をもって言える。そして画面を通しても強く感じる、瀬戸熊の圧倒的な「強さ」がどこからくるのか、それを少しでもお伝えできたら幸せである。

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白河 「鳳凰戦、おつかれさまでした!なにから聞こうかな。」
瀬戸熊「いつものように、雑談みたいな感じでいいんじゃないの。聞きたいこと、箇条書きみたいにどんどん聞いてきてくれてもいいし。」
白河 「じゃあまず、決定戦に入る前のことから聞いていきたいと思います。2年ぶりのリーグ戦は、いかがでしたか?」
瀬戸熊「いろんなところで言ってるんだけど、ずっとリーグ戦は激しいスコアが多かったんだよね。浮き沈みを繰り返して、最終節で80浮いて帳尻合った、みたいな。だけど本当に力がある人はぶれないと思うんだよ。だから自分の麻雀を打ち切って、1日4半荘をしっかりまとめて全節プラスにすることを目標にやっていた。もちろん開幕からずっと決定戦のことは意識していたけれど。それで、少しマイナスした節もあったけど、自分で決めたことはきちんとやれたな、と思ったからそれが自信になったよね。だから最終日、最初の4回はリーグ戦みたいにやろう、と意識してやっていたよ。1年間ちゃんとやってこられたんだから、リーグ戦のように打てば大丈夫だろうと思って。」
白河 「かなり安定した成績で進出を決められていましたよね。決定戦が始まる前の心構えというか、決めごとのようなものはありましたか?」
瀬戸熊「俺ね、前回荒さんに負けたことがすごくプラスになったと思っているんだよね。それまで2回獲ったときは、自分が挑戦者でいようと思ってやっていたのに、昨年は気持ち的に受けてしまっていたんだよね。鳳凰位だからどっしりやろうみたいな。たとえばもっちー(望月雅継プロ)の親リーチに九筒切れなかった局があるんだよね。(第28期鳳凰位決定戦12回戦東2局2本場)その牌譜とかをみて『何やってるんだろう・・・』とか思ったりして。だから今回1番思っていたのは、勝っても負けても、ファンの人に笑って『頑張りました』って言える麻雀を打とうと。あとは連盟初の有料放送だったからね、それはすごく意識していたよ。自分ができる最高のパフォーマンスをして、連盟のために頑張ろうと思ったの。自分のためではなく。もちろん獲りたい気持ちは4人の中で1番強かったと思うけれど。だから前原さんのリーチとかに対しても、全部ぶつけようと決めていた。どんなにリードしていても。途中ちょっとふらついた局面もあったけどね。」
白河 「観ているこちらからすると、前原さんをかなり意識していたようにうつったのですが・・・。」
瀬戸熊 「いや、意識はしてないよ。他の3人、誰の勝ちパターンにも入れてはいけないと思っていたんだけど、前原さんへの対応だけは意識している風に見えちゃうんだろうね。」
白河 「3人それぞれへの対応を全部考えていたということですよね?」
瀬戸熊 「そう。例えば藤崎さんに対して1番ケアをしていたのは、ヤミテンの高い手。俺はヤミテンに弱くて、どっちつかずの、勝負していない打牌で放銃してしまったりするから。とにかく、相手の必殺技だけは出させないように意識していたね。」
白河 「他家の親番を落とそう、という意識はすごく感じました。」
瀬戸熊「それは多分、自分に1番手が入っていたからね。鳳凰位決定戦を何度か闘っていていつも思うのは、親リーチが入っていたとして、そのとき3人のうちいける人が必ずちゃんといくんだよね。みんなの目的意識がはっきりしていて、お互いに信頼関係がある。だから、麻雀としておもしろいものになるんだろうね。」
白河 「1人旅になる局面が少ないということですよね?」
瀬戸熊「そうそう、だから自分が先頭に立ったときのプレッシャーもきつくなるし。俺が鳳凰位獲ったときは大体逃げパターンになるんだけど、逃げている時でもいつも『何時つかまるかな』と思ってやっている。でも今回は、さっきも言ったけれど、つかまるにしてもかわされるにしても、すごい放銃をして結果負けたとしても、最後に笑って『僕らしくやれました。自分で自分を褒めたいです。』と言えるように、‘瀬戸熊直樹’として終われるようにやろうということをずっと意識していたんだよね。」
白河 「最後のインタビューで、そのセリフ言ってくれればよかったのに!」
瀬戸熊「いやー、疲れ切っていて忘れました(笑)19回戦の前原さんの親の連荘中はね、本当に精神的に疲れてしまって。いつもだったらオリるにしてもちょっときつく見える牌を打ってテンパイだけはとりにいったりするんだけど、もう現物でオリたい!って。」
白河 「でも、そうはしてなかったですよね?」
瀬戸熊「してはいないんだけどね、でも本当に捨て牌の枚数を数える行為すらめんどくさいと思ったよ、初めて。どうなっちゃうんだろうとも思ったし。」
白河  「モニタを観ている私も、思っていました(笑)19回戦の話は、またあとで聞かせてください!先ほど、ふらついた局面があったとおっしゃっていましたが、6、7回戦あたりのことですよね?」
瀬戸熊「あれね。心理状態って不思議なもので、何回やっても、守っちゃいけないのにちょっと点差に余裕があると楽したいと思うようになるんだよね、本当に。その時に『あれ、またやっちゃったな、俺』とか思って。」
白河 「それで、あれが出たんですね!瀬戸熊さんがよくする、自分に怒っているような仕草と表情!」
瀬戸熊「若い子がよく言う『おこなの?』ってやつね(笑)」
白河 「そこからの、8回戦のあの八筒!(8回戦南1局1本場)」
瀬戸熊「まだ2日目序盤だし、もう1回やり直そうと思って、あの八筒は、景気付けのためにいきました。」
白河 「あれはもう、放銃覚悟ですよね?」
瀬戸熊「もう『ロンって言ってくれ』くらい思ったもん、切るときに。」
白河 「1回放銃して、また切り替えようということですか?」
瀬戸熊「1シャンテンだったらもちろんいっちゃだめだよ。役なしだけどテンパイだから価値がある。当たってもいいから、1回ガーン!っていって、万が一自分にアガリがあったらふくし、放銃になっても俺らしいじゃないか、と。そこからもう1回自分らしい麻雀をやり直そうと。最初に誓った、笑って終われるようにってことを思い出すために、戒めの意味もあったね。」
白河 「あの三索は・・・?(9回戦オーラス)」
瀬戸熊「三索ね(笑)数字的に言えば、打つ必要は全くないんだけど。半荘と半荘の間って、つながっていないように見えるけど絶対つながっているから。当たったとしても、この次またトップとればいいから、良い終わり方にしたかったんだよね。2番手の前原さんとの直接対決だから意味があるのであって、荒さんや藤崎さんのリーチだったら打たないと思うよ。浮上のきっかけになってしまうから。でも打ったときは『さすがだな。』って思ったね。『ここで前原雄大だったら三索単騎の七対子だね』とか思っていて、当たったら8,000だってわかっていたけど、本当にその通りだったから。研究してきた成果が間違っていない、みたいな。」
白河 「そういう意味でのどや顔だったんですね!会心の放銃みたいな顔をしていましたよ。」
瀬戸熊「(笑)会心とは思ってなかったけど。あとで見返してもそんなにわからなかったし。野球と同じでさ、オールスター戦とかでピッチャーまっすぐ投げるじゃない。打ってみろ!みたいな。そんな感じかな。アガってみろ!って。もしそれが通って自分がアガれたらかっこいいじゃん。」
白河 「瀬戸熊さんって、いつもタイトル戦の決勝のとき『おはようございます』って入ってきてから、雑談とかほとんどせずに、対局の合間も1人で壁とにらめっこしたりしているじゃないですか。それなのに、9回戦が終わったあと解説室を通った時に突然『あれは打っちゃだめかなあ・・・?』って言ったんですよね!だから私はすごくびっくりしたんですけど。」
瀬戸熊「あの時は、またやっちゃったかなぁと思っていたんだけど。今ってテレビとかニコ生とかでファンの人達がタイトル戦を観る機会が多くなって目が肥えてきていると思うし、コメントやツイッターなんかで反応もすぐわかるから、ファンの評価を仰ごうと思って。自分の中では、最初に決めた通りの自分らしい放銃だったとは思うけど『あれはさすがに・・・』というような評価が来るのかなと思ってちょっと苦笑いしてたんだよね。」
白河 「テンパイじゃなかったですしね。」
瀬戸熊「アガリは多分ないだろうけど、例えば俺の麻雀をよく知っている人が100人観ていたとしたら『三索切るでしょう、瀬戸熊は』って思う人が70人はいると思っていたんだよね。」
白河 「・・・そんなにいますかね?(笑)」
瀬戸熊「いないかな?どうだろう。今まで獲った2回の鳳凰位戦は、70~80ポイントくらい離しながら逃げていて、そこから最終日は収束に向かっていたんだけど、今回はそれをやめようと思っていたんだ。最後まで逃げないで、真っ向勝負でいこうと。やっぱり有料放送を意識していたところがあって、連盟の最高峰の試合で、最高のメンツでみせる鳳凰位戦が『この程度か』と思われるのが嫌だったんだよね。観ている人達に『これくらいの麻雀打てますか?これを超えるパフォーマンスができますか?』というのをアピールしたくて。俺以外の3人は確実にできるとわかっていたから、出来不出来に不安がある自分さえしっかり頑張れば絶対にベストの闘いになると思って、とにかく足は引っ張らないようにしようと思っていたよ、やる前からずっと。」
白河 「途中で、2番手との差が100ポイントを超えていましたが・・・」
瀬戸熊「ポイントね、途中までまったく気にしていなかった。2番手誰かなー?くらい。」
白河 「いつから意識したんですか?」
瀬戸熊「19回戦の前原さんの猛連荘があって、100ポイントくらい縮まったんだよね、確か。そこで立会人の藤原さんに『今何ポイント差ですか?』って思わず聞いちゃったね。そうしたら、18回戦までのトータルで160ポイント差だって言われて。まだ40ポイントは離れているから、最終戦並びで迎えられたら恩の字だな、と。」
白河 「残り2半荘で160ポイントだと、かなり余裕があるように思えますよね。」
瀬戸熊「そこが落とし穴で。18回戦が終わったあと、選手も周りのスタッフも、もう決まりみたいな雰囲気になって、空気がふっとゆるんで・・・。自分もそのエアーポケットにはまってしまったんだよね。そのまま19回戦に入って、藤崎さんの親番で7,700放銃してまた『何やってんの?俺』って思ったんだよ。」
19回戦東3局1本場、二索二万六索と手出しで切っている親の藤崎が3巡目、白を1鳴き。
一筒三筒三筒四筒七筒八筒九筒九筒九筒南南 ポン白白白 ドラ中
ここからチャンタも見て打四筒。2巡後ツモ七筒で打三筒。さらに2巡後ツモ六筒で、カン二筒の7,700テンパイ。
テンパイの1巡前に、前原が二筒を切り出している。
瀬戸熊「前原さんが二筒四筒って切ってきているんだよね。藤崎さんが四筒先に切っていてホンイツなのもわかっているんだから、二筒四筒の順番で打てばよかったのに・・・って思って。」
白河 「そして、その後の前原さんの親番ですが。」
瀬戸熊「リンシャンで六筒持ってきて放銃したのが痛かったね。」
白河 「平場ですね。」
東4局。
六万六万七万八万九万東東東南南 ポン中中中 ドラ七索
ホンイツのテンパイに、中をツモって加カン。
親の前原の手牌は、
二万三万四万五万六万七万四索四索四筒五筒七筒八筒九筒
ピンフのみで打点こそ1,500だが、ここから怒涛の連荘が始まる。
瀬戸熊「本当に久しぶりに、麻雀やっていて『こえーな』って思ったよ。対面にはすごい形相で考えている前原さんがいるしね。『やべー、やられる』って。」
10本場、長い長い親番を自力で落とす。
二索三索七筒八筒九筒北北 チー九索七索八索 ポン発発発 ツモ一索
疲れ切っていた、という言葉とは対照的に、最後まで親を落としに行く姿勢が1番強く見えたのが、箱を割っている瀬戸熊であったように思う。
この親番が終われば・・・観ている誰もがそう思ったのではないか。
「鳳凰位を奪還したという実感は、まだないんだよね。」
そう語るが、20回戦に臨む瀬戸熊の姿から既に、鳳凰位としての風格を感じていたのは私だけだろうか。

092_02
092_03

 
白河 「最終日の特別インタビューでもうかがいましたが、今回の鳳凰位戦を振り返って、全体を通して点数を付けるとしたら何点ですか?」
瀬戸熊 「個人としては、自分に100点満点をあげたいと思うよ。結果よりも内容で、きちんと最後にゴールテープを切れたから。もちろん結果も自分にとっては最高のものになったけれど。」
白河 「周りの方の反応はいかがですか?奥様とか。」
瀬戸熊 「カミさんはね、麻雀のことはあまり言わない。服装のこととかだね。『腕まくりするな!』とか『また髪の毛いじって!』とかよく怒られるよ(笑)今回は、自分におこ、とかやらないでスマートに打とうと思っていたんだけど・・・。」
白河 「おこ、でしたね(笑)ご両親はどうですか?」
瀬戸熊 「親父は全部観ていたらしいんだよね。鳳凰位戦が終わって、両親に報告と旅行をプレゼントしに行ったんだけど、その時『野球と同じで、麻雀も面白いな。』って言われて。
それでようやく親孝行できたかなって思った。今までいろいろ迷惑もかけてきたし、苦しい時期もあって、こうして麻雀プロとして食べて行けるようになったわけだから、両親をはじめとして周りの人には本当に感謝しているし、いろいろな人のおかげで獲れたんだと思っている。これは本当に。だからこそ、ファンの方や連盟のために闘おうっていう気持ちが強かったんだと思う。有料放送になって、ようやくプロの対局と言えるようになったと思うし。」
白河 「メディアに露出する機会や、プロとしての仕事の幅もかなり増えて、麻雀界もかなり変わってきていると思いますが、鳳凰位として、後輩に伝えたいことなどありますか?」
瀬戸熊「うーん。これからはもっと、いきごしのある麻雀を打っていこうと思うんだよね。」
白河 「えっ、今以上にですか?もう十分じゃないですか?(笑)」
瀬戸熊「まだ、ここいけたなぁって思う部分とかはあるからね。若い子たちにはそこを見て欲しいとは思うかな。うん。そろそろいいんじゃない?せっかくカラオケボックスにいるんだし、何か歌ったら?」
白河 「いやいや、瀬戸熊さんのインタビューですから!歌ってください!」
AKB48メドレーを入れ、強制的にマイクを渡す。
対局中、世界に入り込んでいる鳳凰位‘瀬戸熊直樹’
目の前で恥ずかしそうに『ポニシュシュ』を歌っているこの男性と、果たして同一人物なのだろうか・・・?
「克己心」
サインの横にいつも添えられている言葉である。
意味は、欲望を抑える心。自制心。とある。
欲望とは、弱さ、のことであろうか。
楽になりたい、逃げたい、という自分の弱い気持ちと闘い、それに打ち克ったとき、あの阿修羅のような表情が出るのか。
「職人になりたいんだよね、俺。麻雀のこと以外何も知らなくても、それは恥ずかしいことではないと思うんだ。」
インタビューを通して強く感じたのは、麻雀を「みせる」ことに対する意識の高さである。
プロとは本来、そうあるべきなのだろう。
音源を聞きながら、自らを省みる。
果たして自分は誰に対しても「麻雀プロです。」と胸を張れるだろうか?
「至高の対局」から受けた感動を、自分もいつか人に与えられるようになりたい、そんな本当の意味でのプロになりたい、と切に願う。
第29期鳳凰位決定戦 観戦記はこちら

第29期鳳凰位決定戦 最終日観戦記

私にとって、大変思い入れの深いメンバーによる鳳凰位決定戦も、この日で幕を降ろす。

戦前、様々な場所で様々な人に優勝者予想を聞かれた。

「全くわからない。」

私はただそう答えた。勝者は1人しかいない。
だが、心のどこかに誰にも負けて欲しくないという思いがあったのだと思う。

荒と前原は、プロ入り前から目を掛けてくれた私の師である。
2人の麻雀をどれだけ見て、どれだけ自分の麻雀に取り入れたことか。
2人とも麻雀のタイプは全く違う。荒を柔とするならば、前原は剛である。
しかし、麻雀で勝ち抜いていくには、このどちらも持ち合わせていなければならない。
2人の話も随分とためになった。荒はプロの在り方を、そして前原は独自の勝負論を教えてくれた。
この2人なくして今の自分は語れない。

藤崎は、私にとって郷里の高等学校の先輩にあたる。
昨年夏には、仙台市内で行われた震災復興支援麻雀大会に、東北出身の麻雀プロとして2人揃って参加させていただいたこともある。私には、あのとき来て下さった方々の笑顔が忘れられない。
微力ながら自分達にもできることがあるんだなと、藤崎と語り合ったことを思い出す。
「応援してくれる人達のために」
その中には、間違いなく東北の人々がいる。

瀬戸熊は、努力によって人はここまで強くなれるんだということを、強烈に示してくれた打ち手である。
私は過去、瀬戸熊とチャンピオンズリーグの決勝でぶつかったことがある。
私の出来が良かったこともあるが、そのときの瀬戸熊は全く精彩を欠いていた。
脚質も今とは大分異なっていて、遠い仕掛けも多かったし、その分だけ脆さも感じられたように思う。
その後、モンド杯や最強戦など、対戦する機会はかなり増えたが、昨今の充実ぶりは以前のものとはまるで比べ物にならない。一緒に打っていて、押し返される感覚が最も強いのが瀬戸熊なのである。
鳳凰戦連覇、そして十段戦連覇。過去の敗戦を糧に、これだけの飛躍である。
私もその強さに勇気づけられた人間の1人である。

今日、この4人の中から「第29期鳳凰位」が誕生する。
この日を迎える頃には、もう心のもやもやは消えていた。勝つべき人間が勝つ。それでいいのだ。
私に出来ることがあるとすれば、その瞬間をしっかり見届けることのみ。

頂点に向けて残り5戦。
各人にとって長く険しい1日が、今スタートした。

houou

 

16回戦(起家から、前原・荒・瀬戸熊・藤崎)

まずは起家、前原の配牌をご覧いただこう。

一万二万三万九万九万七索八索九索一筒三筒七筒八筒発中  ドラ西

今日は荒れるのか、そう思わせるかのような手牌である。しかし、これが一向にテンパイしない。
形が決まっている分、融通が利かないことが災いしたか、8巡目には瀬戸熊に追い越され、先にテンパイを入れられてしまう。

四万五万六万七索八索九索一筒一筒東東  ポン白白白

これが4人の絡みというものなのだろう。このポンによって、本来前原に入るはずの二筒が荒に流れる。
そして、その3巡後には九筒までもが抜かれてしまう。
荒の字牌が1巡遅ければ、前原にリーチが入り、恐らくは6,000オールの引きアガリとなっていたというわけである。

これもある種、トップ走者のツキということが言えるのかもしれない。
ことなきを得るというのは、自分の力だけでは如何ともし難い部分があるからだ。

四万五万六万七索八索九索一筒一筒東東  ポン白白白  ツモ東

最終日は、瀬戸熊の700・1,300で幕を開けた。
東3局1本場、藤崎が親の荒とのリーチ合戦を制し、荒から8,000の出アガリ。

二万二万二万四万五万六万六万六万四索五索六索四筒六筒  リーチ  ロン五筒  ドラ四筒

親番こそすぐに流されたが、藤崎は南1局にも荒との2件リーチを制す。

一万二万三万一索二索三索七索八索九索七筒八筒九筒北  リーチ  ロン北  ドラ六筒

これに刺さったのが親の前原。ピンフ、ドラ1の1シャンテンとあっては、この地獄待ちも止まらない。
むしろ、この局に抜群の冴えを見せたのは西家の瀬戸熊である。

三万五万二筒三筒三筒五筒六筒九筒九筒東南南西

当然と言えば当然かもしれないが、4巡目、前原の南に動く素振りすら見せていない。
トータルトップに立つ瀬戸熊のテーマは、丁寧に1局を消化していくことである。
これを動いてホンイツに持っていくことでも、この段階から捌きにいくことでもない。
トータル2着の前原の親は、確かに怖い。だが、もっと恐れるべきことは、自分が動いたことで前原に手を入れさせてしまうことだ。瀬戸熊はこの後、カン四万を入れて、南を暗刻にする。そして最終形は以下。

四万五万六万五筒六筒九筒九筒南南南  ポン三筒三筒三筒

勝負事において、最後の詰め方は大変重要なものとなる。囲碁、将棋、野球、サッカー、全てそうだ。
それを誤れば、勝利の女神はするすると逃げていく。
「全く焦りはないな」
この最終日、瀬戸熊がどういったスタンスで戦うのか、それを十分に示した1局となった。

南2局、親は荒。10巡目、南を仕掛けてテンパイ。

三万四万四万五万六万四索四索九索九索九索  ポン南南南  ドラ四索

この仕掛けを見て、瀬戸熊はベタオリに向かう。次巡の荒は、ツモ六万
二万が3枚と五万が1枚切られていることを見て、打四万とシャンポンに受け変える。
ドラでアガれば12,000というところだったが、この受けは既に山にはない。

すると同巡、三万が暗刻だった前原から二万をツモ切られる。アガリ逃しである。
荒はその後、自力でも五万を引いており、この局は見た目の枚数に踊らされる結果となってしまった。

三万三万三万七万八万九万二索四索三筒三筒五筒五筒五筒  ツモ三索

せめて流局連荘という願いも空しく、前原にラス牌の三索をツモられての親落ち。
瀬戸熊にとって有利な展開が続く。

南3局、瀬戸熊は親で軽くピンフをツモアガる。

六万七万八万五索六索六索七索八索一筒二筒三筒五筒五筒  ツモ四索  ドラ五万

これで持ち点は33,400。相手のミスに乗じて、着実にポイントを積み重ねていく。
そして南3局1本場、ここでもライバルにミスが出る。まずは7巡目、北家の荒が先制リーチ。

一索一索四索五索五索六索六索七索六筒七筒八筒南南  リーチ  ドラ二筒

10巡目、西家・前原がドラの二筒を引いて1シャンテン。

houou

五筒ではなく、二筒を引いたからには勝負手。前原であれば当然の七万切りと私は思った。
だが、現実問題として荒のドラ切りリーチがある。しかも、荒の持ち点は、15,300。
まず安手ではないと見るべきだろう。

houou
荒正義プロ

瀬戸熊を沈めたい、だが自分も沈むわけにはいかない。追いかける側にも様々な葛藤がある。
前原が下した決断は、打七筒
ただ、これでまた瀬戸熊が楽になるな、そんな印象を強く抱かせる一打でもあった。
12巡目、前原のツモは三索
荒のリーチに真っ直ぐ打ち抜いていれば、以下のテンパイが入っていた。

二万二万二万三万四万二索三索四索二筒三筒四筒七筒八筒

そして今局の結末がこちら。

houou

前原の17巡目の六筒が寂しく泣いている。
もしこれを引きアガっていれば、瀬戸熊との差が30ポイントほど縮まる計算になり、瀬戸熊とサシの勝負に持ち込みたい前原にとっては、追い風となるところだった。
あれほど戦いの打牌を貫いていた前原が、遂にその信念を曲げてしまったのである。

南4局2本場、親の藤崎が七対子のダブリーを放つも流局。
続く南4局3本場は、瀬戸熊の1人ノーテン。そして、各自の持ち点は以下のようになっていた。

藤崎42,600、前原30,700、瀬戸熊27,900、荒16,800

藤崎はとにかく連荘あるのみ。
前原はこの並びを崩さぬまま、できるだけ大きく得点を稼ぎたいところ。
瀬戸熊は2本の供託があるため、1,000点でもアガって終局させたいという場面である。
各人の配牌は以下。

houou

テーマがはっきりしている3者は、それぞれがかなりの好配牌と言っていい。
まずは瀬戸熊。いきなり荒の第一打発を仕掛ける。さすがにこの状況だからということか。
これまでの瀬戸熊なら、まず考えられない仕掛けである。
4巡目、発を加カンするとリンシャン牌から七万を引いて2シャンテン。

四万五万七万八万九万四索五索四筒五筒南  カン発発発発  ドラ北

そして次巡、前原もダブ南を暗刻にして1シャンテン。

一索一索六索七索四筒四筒四筒七筒九筒南南南西

入る物にもよるが、門前でテンパイしたら一体どうするのだろう。
前原は満貫を引きアガれば、この半荘のトップに立つ。
リーチ棒を出せば沈むとは言え、もう点棒を可愛がっている段階でもあるまい。
92.8Pというのは、決して小さな得点差ではない。
ゆえにカン八筒が残ったとしてもリーチ。それが私なりの結論だった。
やや不可解だったのは7巡目、荒の仕掛けである。

二万四万六万六万七万九万二索五索七索三筒三筒九筒白

この形から、前原の三万に動いている。
瀬戸熊の仕掛けに合わせるにしてはやや遠く、荒らしくない仕掛けである。
この仕掛けで瀬戸熊に五索が流れ、1シャンテン。
一方の前原は、六筒を引いてピンズが両面形になったものの、絶好のカン八筒を喰い下げられてしまう。
次巡、瀬戸熊は六万を引いてテンパイ。

四万五万六万七万八万九万五索五索四筒五筒  カン発発発発

そして前原も八筒を鳴いてテンパイ。

一索一索六索七索四筒四筒四筒南南南  チー八筒六筒七筒

残り4戦ということをふまえて、なんとか瀬戸熊を沈ませたい前原と、どうにかここを凌ぎ切りたい瀬戸熊。
この手に汗握る攻防を制したのは、トータルトップ、瀬戸熊だった。

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トータル2着の前原を沈ませる、価値ある直撃である。
皆が瀬戸熊を助けてしまっている感も多少あるが、ここぞという場面は本当に強い。
なんと言っても目に付くのは、その日の初戦の入り方である。
この4日間、全てプラスの2着スタートなのである。
自分の経験からも、初戦の入り方がいいときは、まず大崩れすることはない。
4人の中でただ1人ブレがないのは、しっかりと土台を作り上げているからなのだ。

16回戦成績
藤崎+20.6P  瀬戸熊+6.4P  前原▲5.8P  荒▲21.2P

16回戦終了時
瀬戸熊+98.8P  前原▲6.2P  藤崎▲39.8P  荒▲54.8P  供託2.0P

 

17回戦(起家から、荒・藤崎・前原・瀬戸熊)

東1局、今回も瀬戸熊のアガリからスタートする。

一万二万五万六万七万七索七索五筒六筒七筒東東東  ロン三万  ドラ九索

点数こそ安いが、着々と自分がやるべきことをこなしていく。
東2局、前原の10巡目を見ていただきたい。

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一筒は既に4枚飛んでいて、内1枚は自分で切っている。
というのも、6巡目にいったんテンパイを外しているのである。

四万五万六万七万八万九万四索四索七索三筒五筒六筒七筒  ツモ一筒

様々な手牌変化があるので、これはわかる。しかし、10巡目のテンパイ取りはやや腑に落ちない。
目先のテンパイに心を奪われた感が否めないのだ。
だったら、この形でリーチを打つ選択はなかったのだろうか。

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もし10巡目もテンパイ取らずとしておけば、15巡目に八索でのツモアガリもあったし、
フリテンでもリーチを打っていれば、少なくともこの放銃だけは避けられたはずである。

続く東2局1本場もそうだ。

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なんとなく打っているだけで、前原の覚悟のようなものを感じることができないのである。
そして東3局、瀬戸熊に決定打とも言えるアガリが飛び出す。

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「さすがに決まったか…」
瀬戸熊がこれをアガって手を緩めることもなければ、3者に瀬戸熊を追い詰めるだけの力ももう残ってはいまい。
南1局、前原が瀬戸熊のリーチに一発目で一筒を抜いたとき、私の中でその思いが強まっていた。

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それでも前原は、南2局、高目ピンフ、三色をリーチでツモアガって2,000・4,000。

二万三万四万七万八万六索七索八索六筒七筒八筒北北  リーチ  ツモ六万  ドラ西

そして南3局の親番では、藤崎とのリーチ合戦を制して浮きに回る。

三万四万五万六万七万五索五索一筒二筒三筒六筒七筒八筒  リーチ  ロン二万  ドラ四索

更には南3局1本場、ほぼアガリはないだろうと思われていたところから、瀬戸熊の微妙な手順ミスによる7,700の直撃を果たし、一時はトップに躍り出る。

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しかし、これだけではまだまだ足りない。
瀬戸熊を沈ませないことには、この大きな得点差を逆転することなど到底不可能なのである。
南3局4本場、瀬戸熊の配牌をご覧いただこう。

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第1ツモが八万である。そして最終形が以下である。

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何度も言う通り、今の瀬戸熊に必要なのは着実に1局を消化していくことである。
アガリが不確定なダブリーなど、打つ必要がないのだ。実に冷静である。
この姿勢を貫かれると、追う者はきつい。
点棒を削りあってきた3者を尻目に、1人ポイントを伸ばし続ける瀬戸熊。
そして気が付けば、この長き戦いも3戦を残すのみとなっていた。

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瀬戸熊直樹プロ

17回戦成績
瀬戸熊+19.1P  前原+7.6P  荒+3.3P  藤崎▲30.0P

17回戦終了時
瀬戸熊+117.9P  前原+1.4P  荒▲51.5P  藤崎▲69.8P  供託2.0P

 

18回戦(起家から、前原・藤崎・荒・瀬戸熊)

トータル2位の前原でさえ、トップと115P以上の差。
逆転優勝の可能性は限りなくゼロに近いが、それでもわずかな希望に賭けるなら、残り6回となってしまった親番で大爆発が起こせるかどうかだ。

その東1局。何度こういうシーンを見ただろう。
瀬戸熊が全くエネルギーを浪費することなく、300・500をツモアガる。

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その後も安いアガリが続き、迎えた東4局。
藤崎が瀬戸熊の親で価値ある2,000・4,000。

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藤崎智プロ
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前原としては、続く親でどれだけ得点を稼げるかが重要だったのだが、連荘こそしたものの、ほとんど上積みなく藤崎に流されてしまう。これで精神的に楽になったのは瀬戸熊である。
これだけトータルポイントには差があっても、やはり現状のライバルの親は怖いはず。
瀬戸熊にしても、後4回前原の親を乗り越えた先に、ようやくゴールが見えるのである。

南2局、その瀬戸熊が、最後までドラを可愛がってしまった藤崎から5,200の出アガリを果たす。

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これも大きなアガリだった。
藤崎にすれば、いくらでも二万の切り時はあっただけに、悔やまれる放銃となってしまった。
そしてオーラス。後に瀬戸熊が、「これで大分楽になった。」と語ったアガリが生まれる。

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前原の追っかけリーチも物ともせず、一発での引きアガリ。
強い。本当に強い。それ以上の言葉が見つからない。
そしてなんと言っても圧巻は、南4局3本場である。

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藤崎の待ちを完全ブロックした上での見事なツモアガリ。
3者にすれば、完全にお手上げの1局である。
「これでもう何も起こらない。勝負は決した。」
そう思わざるを得ないほど、衝撃の大きい1,200オールだった。

18回戦成績
瀬戸熊+29.3P  藤崎+8.6P  前原▲15.3P  荒▲22.6P

18回戦終了時
瀬戸熊+147.2P  前原▲13.9P  藤崎▲61.2P  荒▲74.1P  供託2.0P

 

19回戦(起家から、荒・瀬戸熊・藤崎・前原)

いくら上辺だけの言葉を並べたところで仕方がない。
私自身、ここからは真の消化ゲームになってしまうなと、実際に思っていた。
瀬戸熊を追いかける3者は、最後まで自分のパフォーマンスを見せてくれることだろう。
しかし、優勝となれば話は別だ。
前原にして16万点もある点差を、残り2戦でどうやってひっくり返せというのか。
試合前、会場の空気は間違いなく変わっていた…

東1局、ドラ二万。心なしか、選手の摸打が軽くなったように見えた。
それまでの出だしとは、どこか雰囲気が違う。

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前原の1巡回しのリーチ。
そして、戦前ほぼやることはないと言っていた藤崎の七対子ドラタンキリーチ。
ここまできて追う側も、ようやく肩の荷が降りたのだろうか。
濁流が突如、清流に変わったかのような印象を与える。

東2局、今度は藤崎である。

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(勝敗が決したからこそ、こんな簡単にアガリが生まれるのだろう。
瀬戸熊にしたってこのくらいの放銃なら、痛くも痒くもないはず。)

愚かな私の思考である。流局を挟んだ東3局1本場もそうだ。

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よほどの状態でなければ、この藤崎の最終形がカン二筒になることはない。
4巡目、白を鳴いて以下の形からの四筒切りなのだから。

一筒三筒三筒四筒七筒八筒九筒九筒九筒南南  ポン白白白  ドラ中

(藤崎が不自然な手牌進行になったから、瀬戸熊が放銃した。ただそれだけのこと。)
東3局1本場、荒がラス牌のドラを引いて2,000・3,900。

二万三万八万八万一索二索三索四筒五筒六筒中中中  リーチ  ツモ四万  ドラ四万

(やや経費はかかったが、これで東ラス。ここから瀬戸熊は立て直してくるんだろう。)
本当に浅はかである。

しかし、だ。これまでの展開を見て、一体誰が迫りくるこの瞬間を予測できたというのか。
瀬戸熊が他を寄せ付けない圧倒的な強さで優勝した、それで終わるはずだったのだ。
勝利の女神とは、実に気まぐれである。
瀬戸熊が戦前最も恐れていた魔の時間が、遂に、遂にやってきたのだ。

東4局、親は前原である。まずテンパイを入れたのは西家の瀬戸熊。

六万六万七万八万九万東東東南南  ポン中中中  ドラ七索

10巡目、中をポンしての満貫である。その2巡後、親の前原もテンパイ。

一万二万三万四万五万六万四索四索四筒五筒七筒八筒九筒

結果は、瀬戸熊が六筒を掴んでの放銃。
この時点で各者の点棒が、荒40,000、前原36,800、藤崎32,800、瀬戸熊10,400。
(せめてこの日の初回にこんな展開になっていれば…)

東4局1本場。

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このアガリで前原が、この半荘トップに立つ。
東4局2本場。

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高目をツモアガっての4,000オール。
(そろそろ瀬戸熊もこの親を落としたいところだろうな)

東4局3本場。

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これで前原の点棒は、60,000点を越える。
東4局4本場。

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8枚目の五万八万をツモって2,600オール。
(何だか雲行きが怪しくなってきたな)

東4局5本場、これ以上やらせられるかとばかり、瀬戸熊、藤崎が仕掛ける。
しかし、その仕掛けで前原にテンパイを入れさせてしまう。
何も怖いものがなくなった前原は当然のリーチ。
そして、真っ直ぐ突っ込んだ瀬戸熊から直撃を奪う。

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このアガリで瀬戸熊が箱を割り、点差が80,000点を超えた。
(ん?これに順位点を足すと96だろ?もうすぐ100ポイントじゃないか…)

東4局6本場。

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前原の親が一向に落ちない。

東4局7本場、4巡目、藤崎が白を鳴いてトイトイへ。それによって、瀬戸熊にも続々と好牌がなだれ込む。
12巡目、瀬戸熊の五索をポンして藤崎がようやくテンパイ。
役なしのカン五索でテンパイしていた荒も四筒を暗刻にし、六索九索のノベタンでリーチ。
次巡、瀬戸熊も四索を引き、何でアガろうと万々歳のテンパイ。この時点で親の前原は2シャンテン。
しかし、子方3人はそれぞれが1枚ずつと、とにかく待ちが薄い。
そして16巡目、とうとう前原も追いつく。4者テンパイ。その結末がこちらである。

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私の身体は完全に熱を帯びていた。
これによって、瀬戸熊と前原のトータルポイントが110Pも縮まったということももちろんある。
だが、それよりも目を引いたのは、瀬戸熊の12巡目である。

四万四万五万五万六万六万八万八万三索五索七索七索八索  ドラ六万

この形で前原の八万に動いていないのだ。
フラットな場面ならわかる。しかし、状況はライバルの7本場。
とにかく早く落としたいというのが、心情というものではないだろうか。
藤崎の仕掛けによって、三索七索六万四万五万と引いてきている。
瀬戸熊からすれば、それが大きな要因ということなのだろう。
ツモの流れに乗る。仕掛けるなら万全の形で。
この状況に置かれても、瀬戸熊の精神に全くブレはない。

東4局8本場。

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これで荒も沈み、トータルポイントが更に縮まる。
素点で99.6P、順位点で20P。
ということは、19回戦開始時に161.1Pもあったポイント差が、なんと41.5P差にまで縮まったということである。これにはさすがに私も度肝を抜かれた。
(まさか、この半荘1回で前原が捲ってしまうのか…)
そう思わせるほど、猛烈な勢いだった。

ここまでの内容から、瀬戸熊が油断したということもないだろう。
地獄の閻魔大王とも称される前原の、腹の奥底に溜まっていたマグマが、遂に大噴火を起こしたのだ。

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前原雄大プロ

東4局9本場、この半荘、前原がトータルで最も瀬戸熊に接近した瞬間である。

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この時点でのポイント差が39.5P。
まだ東場で、前原が連荘中であることを考えると、いつひっくり返ってもおかしくない点数状況になってきた。

東4局10本場、この長い長い前原の親に、ようやく瀬戸熊がピリオドを打つ。

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前原のドラ切り、そして最終形が場面の緊迫感を物語っているが、ともかくこの親は流した。
瀬戸熊にしても、前原との点差は概算で把握していたことだろう。
南場が丸々残っていることを考えると、これで一息ついている暇はない。
局面は急転、突如として瀬戸熊、前原の優勝争いへと変貌を遂げたのである・

南場に入ると、不用意な放銃などもあり、前原の勢いにも翳りが見え始めた。
しかし、一方の瀬戸熊も、東場で前原の親を落とすのに相当なエネルギーを消費したのか、全くアガリに絡めない。

そして迎えたオーラス。藤崎が前原から3,900をアガって浮きをキープ。
逃げる瀬戸熊にすれば、1ポイントでも多く前原との差を保っておきたいところだっただけに、前原の1人浮きトップを阻止した藤崎のアガリは有難かっただろう。

瀬戸熊にとって悪夢の19回戦が終わった。
前原にたった1回で、98.6Pという尋常ではないポイントを詰められたが、それでもまだ大きな貯金が残っている。現実的に瀬戸熊が越えるべき山は、前原の残り2回となった親番ということが言えるだろう。

さぁ、世紀の一戦もこれでラストである。
瀬戸熊がリードを守り切るのか、はたまた前原の大逆転があるのか。
とにかく注目すべきは前原の親、その一点である。

19回戦成績
前原+50.6P  藤崎+4.0P  荒▲6.6P  瀬戸熊▲48.0P

19回戦終了時
瀬戸熊+99.2P  前原+36.7P  藤崎▲57.2P  荒▲80.7P  供託2.0P

 

最終20回戦(起家から、前原・藤崎・荒・瀬戸熊)

プロ連盟の規定により、最終戦は起家から、トータル2着、3着、4着、そしてトータルトップという並びになっている。最終戦を迎えての瀬戸熊-前原のポイント差は、62.5P。
これは、トップ-ラスで46,500の差(1人浮きなら42,500差)と置き換えることができる。

19回戦で前原がいくら点差を詰めたとは言え、これでもまだかなりの数字である。
先に述べた通り、前原が逆転するにはやはり親番が鍵になるだろう。

東1局、前原の最初の親番である。
荒の先制リーチを受けるが、どうにか最後まで押し切ってまずは連荘。
しかし続く東1局2本場。
今度も荒の先制リーチを受け、七対子の1シャンテンで粘ったものの、最後はノーテンで流局となってしまう。

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そして東2局2本場。
少しでも加点をしていきたい前原が、最後のツモ番で親の藤崎に放銃。

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ご覧の通り、この七万は瀬戸熊のロン牌でもある。
(これで、相当苦しくなったな)
もう嵐の予感は、とても見出せなかった。
東2局5本場、瀬戸熊のアガリが、第29期鳳凰位決定戦の終幕を物語っているように思えた。
南1局1本場、前原の最後の親もノーテンで流れた。
そして事実上、この瞬間、瀬戸熊直樹の2期ぶりとなる鳳凰位奪還が決定したのである。

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終局の様子

20回戦成績
藤崎+43.3P  瀬戸熊▲4.0P  荒▲10.8P  前原▲28.5P

最終成績
瀬戸熊+95.2P  前原+8.2P  藤崎▲13.9P  荒▲91.5P  供託2.0P

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戦いを終えて
総合4位 荒正義
「完敗だった。瀬戸熊は最後までブレなかった。予選から貯金の仕方が良かったことがこの結果につながったんだろう。来年またこの舞台に戻れるようにリーグ戦で頑張るしかない。」

総合3位 藤崎智
「初日の出遅れが全て。無理矢理前に出なければいけない展開がきつかった。やっぱりヤミテンからペースを掴むのが自分の麻雀だから。」

総合2位 前原雄大
「強い人が勝ったなという印象。映像を見たら内容が図抜けていた。日頃の鍛錬の仕方だろう。」

 

全ての戦いが終わった。

私は、激闘を繰り広げた選手、そしてスタッフと共に瀬戸熊の祝勝会場へと足を伸ばした。
戦いに敗れた選手たちの顔は、一様に晴れやかだった。
結果はともかく、自分たちの持てる力は全て出し切ったという充足感すら伝わってくる。
言い方はおかしいかもしれないが、この夜、私は素直に酔えた。
選手達が4日間に渡って素晴らしい戦いを見せてくれたこともある。
だがそれよりも、この鳳凰位決定戦という大舞台に、解説者、そして観戦記者という立場で携わることができたという事実に、無上の喜びを感じていたからかもしれない。

30分後、ニコ生放送のインタビューを終えた瀬戸熊がこの会場へとやってきた。
その瞬間、どこからともなく拍手が沸きあがり、会場は激闘を制した勝者に対する賞賛ムードで一体となった。

「あぁ、素晴らしい光景だな。」

戦いの世界に生きられる人間は幸せであると私は思う。
どんなに辛く険しい道のりでも、最後には必ずこの瞬間に行き着くことができるからだ。
勝ってその瞬間を迎えられるのは、100回に1回かもしれない。
我々はその最高の瞬間を味わいたくて、日々戦い続けるのである。

第29期鳳凰位決定戦優勝 瀬戸熊直樹
「実感は全くないけど、とにかく自分らしく打てたと思う。オリたら手牌が落ちるので、ラスを引いてもいいから戦うという気持ちだった。前原さんのブレークは警戒していたけど、とうとう19回戦で出ちゃったね。でもまぁ去年の敗戦がやはり大きかったよ。これだけ積極的に打ち抜くことができたのは、去年の反省があってのものだから。あとは、今期のプロリーグをほとんどプラスで終えられたことが自信につながったかな。ヒサトも早くAⅠに上がってこないとね。」

心に沁み渡る言葉だった。
いつか自分も…
プロアマ問わず、この戦いを見てそう感じた人間は数え切れないほどいるはずだ。
それほどまでに、今決定戦で瀬戸熊が残した爪痕は大きい。

「瀬戸熊最強時代の到来」
この戦いを通して多くの人々が感じたことだろう。
私は最後にそう書き記し、静かにノートを閉じた。

プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記/第29期鳳凰位決定戦 最終日観戦記

私にとって、大変思い入れの深いメンバーによる鳳凰位決定戦も、この日で幕を降ろす。
戦前、様々な場所で様々な人に優勝者予想を聞かれた。
「全くわからない。」
私はただそう答えた。勝者は1人しかいない。
だが、心のどこかに誰にも負けて欲しくないという思いがあったのだと思う。
荒と前原は、プロ入り前から目を掛けてくれた私の師である。
2人の麻雀をどれだけ見て、どれだけ自分の麻雀に取り入れたことか。
2人とも麻雀のタイプは全く違う。荒を柔とするならば、前原は剛である。
しかし、麻雀で勝ち抜いていくには、このどちらも持ち合わせていなければならない。
2人の話も随分とためになった。荒はプロの在り方を、そして前原は独自の勝負論を教えてくれた。
この2人なくして今の自分は語れない。
藤崎は、私にとって郷里の高等学校の先輩にあたる。
昨年夏には、仙台市内で行われた震災復興支援麻雀大会に、東北出身の麻雀プロとして2人揃って参加させていただいたこともある。私には、あのとき来て下さった方々の笑顔が忘れられない。
微力ながら自分達にもできることがあるんだなと、藤崎と語り合ったことを思い出す。
「応援してくれる人達のために」
その中には、間違いなく東北の人々がいる。
瀬戸熊は、努力によって人はここまで強くなれるんだということを、強烈に示してくれた打ち手である。
私は過去、瀬戸熊とチャンピオンズリーグの決勝でぶつかったことがある。
私の出来が良かったこともあるが、そのときの瀬戸熊は全く精彩を欠いていた。
脚質も今とは大分異なっていて、遠い仕掛けも多かったし、その分だけ脆さも感じられたように思う。
その後、モンド杯や最強戦など、対戦する機会はかなり増えたが、昨今の充実ぶりは以前のものとはまるで比べ物にならない。一緒に打っていて、押し返される感覚が最も強いのが瀬戸熊なのである。
鳳凰戦連覇、そして十段戦連覇。過去の敗戦を糧に、これだけの飛躍である。
私もその強さに勇気づけられた人間の1人である。
今日、この4人の中から「第29期鳳凰位」が誕生する。
この日を迎える頃には、もう心のもやもやは消えていた。勝つべき人間が勝つ。それでいいのだ。
私に出来ることがあるとすれば、その瞬間をしっかり見届けることのみ。
頂点に向けて残り5戦。
各人にとって長く険しい1日が、今スタートした。

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16回戦(起家から、前原・荒・瀬戸熊・藤崎)
まずは起家、前原の配牌をご覧いただこう。
一万二万三万九万九万七索八索九索一筒三筒七筒八筒発中  ドラ西
今日は荒れるのか、そう思わせるかのような手牌である。しかし、これが一向にテンパイしない。
形が決まっている分、融通が利かないことが災いしたか、8巡目には瀬戸熊に追い越され、先にテンパイを入れられてしまう。
四万五万六万七索八索九索一筒一筒東東  ポン白白白
これが4人の絡みというものなのだろう。このポンによって、本来前原に入るはずの二筒が荒に流れる。
そして、その3巡後には九筒までもが抜かれてしまう。
荒の字牌が1巡遅ければ、前原にリーチが入り、恐らくは6,000オールの引きアガリとなっていたというわけである。
これもある種、トップ走者のツキということが言えるのかもしれない。
ことなきを得るというのは、自分の力だけでは如何ともし難い部分があるからだ。
四万五万六万七索八索九索一筒一筒東東  ポン白白白  ツモ東
最終日は、瀬戸熊の700・1,300で幕を開けた。
東3局1本場、藤崎が親の荒とのリーチ合戦を制し、荒から8,000の出アガリ。
二万二万二万四万五万六万六万六万四索五索六索四筒六筒  リーチ  ロン五筒  ドラ四筒
親番こそすぐに流されたが、藤崎は南1局にも荒との2件リーチを制す。
一万二万三万一索二索三索七索八索九索七筒八筒九筒北  リーチ  ロン北  ドラ六筒
これに刺さったのが親の前原。ピンフ、ドラ1の1シャンテンとあっては、この地獄待ちも止まらない。
むしろ、この局に抜群の冴えを見せたのは西家の瀬戸熊である。
三万五万二筒三筒三筒五筒六筒九筒九筒東南南西
当然と言えば当然かもしれないが、4巡目、前原の南に動く素振りすら見せていない。
トータルトップに立つ瀬戸熊のテーマは、丁寧に1局を消化していくことである。
これを動いてホンイツに持っていくことでも、この段階から捌きにいくことでもない。
トータル2着の前原の親は、確かに怖い。だが、もっと恐れるべきことは、自分が動いたことで前原に手を入れさせてしまうことだ。瀬戸熊はこの後、カン四万を入れて、南を暗刻にする。そして最終形は以下。
四万五万六万五筒六筒九筒九筒南南南  ポン三筒三筒三筒
勝負事において、最後の詰め方は大変重要なものとなる。囲碁、将棋、野球、サッカー、全てそうだ。
それを誤れば、勝利の女神はするすると逃げていく。
「全く焦りはないな」
この最終日、瀬戸熊がどういったスタンスで戦うのか、それを十分に示した1局となった。
南2局、親は荒。10巡目、南を仕掛けてテンパイ。
三万四万四万五万六万四索四索九索九索九索  ポン南南南  ドラ四索
この仕掛けを見て、瀬戸熊はベタオリに向かう。次巡の荒は、ツモ六万
二万が3枚と五万が1枚切られていることを見て、打四万とシャンポンに受け変える。
ドラでアガれば12,000というところだったが、この受けは既に山にはない。
すると同巡、三万が暗刻だった前原から二万をツモ切られる。アガリ逃しである。
荒はその後、自力でも五万を引いており、この局は見た目の枚数に踊らされる結果となってしまった。
三万三万三万七万八万九万二索四索三筒三筒五筒五筒五筒  ツモ三索
せめて流局連荘という願いも空しく、前原にラス牌の三索をツモられての親落ち。
瀬戸熊にとって有利な展開が続く。
南3局、瀬戸熊は親で軽くピンフをツモアガる。
六万七万八万五索六索六索七索八索一筒二筒三筒五筒五筒  ツモ四索  ドラ五万
これで持ち点は33,400。相手のミスに乗じて、着実にポイントを積み重ねていく。
そして南3局1本場、ここでもライバルにミスが出る。まずは7巡目、北家の荒が先制リーチ。
一索一索四索五索五索六索六索七索六筒七筒八筒南南  リーチ  ドラ二筒
10巡目、西家・前原がドラの二筒を引いて1シャンテン。

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五筒ではなく、二筒を引いたからには勝負手。前原であれば当然の七万切りと私は思った。
だが、現実問題として荒のドラ切りリーチがある。しかも、荒の持ち点は、15,300。
まず安手ではないと見るべきだろう。

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荒正義プロ

瀬戸熊を沈めたい、だが自分も沈むわけにはいかない。追いかける側にも様々な葛藤がある。
前原が下した決断は、打七筒
ただ、これでまた瀬戸熊が楽になるな、そんな印象を強く抱かせる一打でもあった。
12巡目、前原のツモは三索
荒のリーチに真っ直ぐ打ち抜いていれば、以下のテンパイが入っていた。
二万二万二万三万四万二索三索四索二筒三筒四筒七筒八筒
そして今局の結末がこちら。

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前原の17巡目の六筒が寂しく泣いている。
もしこれを引きアガっていれば、瀬戸熊との差が30ポイントほど縮まる計算になり、瀬戸熊とサシの勝負に持ち込みたい前原にとっては、追い風となるところだった。
あれほど戦いの打牌を貫いていた前原が、遂にその信念を曲げてしまったのである。
南4局2本場、親の藤崎が七対子のダブリーを放つも流局。
続く南4局3本場は、瀬戸熊の1人ノーテン。そして、各自の持ち点は以下のようになっていた。
藤崎42,600、前原30,700、瀬戸熊27,900、荒16,800
藤崎はとにかく連荘あるのみ。
前原はこの並びを崩さぬまま、できるだけ大きく得点を稼ぎたいところ。
瀬戸熊は2本の供託があるため、1,000点でもアガって終局させたいという場面である。
各人の配牌は以下。

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テーマがはっきりしている3者は、それぞれがかなりの好配牌と言っていい。
まずは瀬戸熊。いきなり荒の第一打発を仕掛ける。さすがにこの状況だからということか。
これまでの瀬戸熊なら、まず考えられない仕掛けである。
4巡目、発を加カンするとリンシャン牌から七万を引いて2シャンテン。
四万五万七万八万九万四索五索四筒五筒南  カン発発発発  ドラ北
そして次巡、前原もダブ南を暗刻にして1シャンテン。
一索一索六索七索四筒四筒四筒七筒九筒南南南西
入る物にもよるが、門前でテンパイしたら一体どうするのだろう。
前原は満貫を引きアガれば、この半荘のトップに立つ。
リーチ棒を出せば沈むとは言え、もう点棒を可愛がっている段階でもあるまい。
92.8Pというのは、決して小さな得点差ではない。
ゆえにカン八筒が残ったとしてもリーチ。それが私なりの結論だった。
やや不可解だったのは7巡目、荒の仕掛けである。
二万四万六万六万七万九万二索五索七索三筒三筒九筒白
この形から、前原の三万に動いている。
瀬戸熊の仕掛けに合わせるにしてはやや遠く、荒らしくない仕掛けである。
この仕掛けで瀬戸熊に五索が流れ、1シャンテン。
一方の前原は、六筒を引いてピンズが両面形になったものの、絶好のカン八筒を喰い下げられてしまう。
次巡、瀬戸熊は六万を引いてテンパイ。
四万五万六万七万八万九万五索五索四筒五筒  カン発発発発
そして前原も八筒を鳴いてテンパイ。
一索一索六索七索四筒四筒四筒南南南  チー八筒六筒七筒
残り4戦ということをふまえて、なんとか瀬戸熊を沈ませたい前原と、どうにかここを凌ぎ切りたい瀬戸熊。
この手に汗握る攻防を制したのは、トータルトップ、瀬戸熊だった。

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トータル2着の前原を沈ませる、価値ある直撃である。
皆が瀬戸熊を助けてしまっている感も多少あるが、ここぞという場面は本当に強い。
なんと言っても目に付くのは、その日の初戦の入り方である。
この4日間、全てプラスの2着スタートなのである。
自分の経験からも、初戦の入り方がいいときは、まず大崩れすることはない。
4人の中でただ1人ブレがないのは、しっかりと土台を作り上げているからなのだ。
16回戦成績
藤崎+20.6P  瀬戸熊+6.4P  前原▲5.8P  荒▲21.2P
16回戦終了時
瀬戸熊+98.8P  前原▲6.2P  藤崎▲39.8P  荒▲54.8P  供託2.0P
 
17回戦(起家から、荒・藤崎・前原・瀬戸熊)
東1局、今回も瀬戸熊のアガリからスタートする。
一万二万五万六万七万七索七索五筒六筒七筒東東東  ロン三万  ドラ九索
点数こそ安いが、着々と自分がやるべきことをこなしていく。
東2局、前原の10巡目を見ていただきたい。

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一筒は既に4枚飛んでいて、内1枚は自分で切っている。
というのも、6巡目にいったんテンパイを外しているのである。
四万五万六万七万八万九万四索四索七索三筒五筒六筒七筒  ツモ一筒
様々な手牌変化があるので、これはわかる。しかし、10巡目のテンパイ取りはやや腑に落ちない。
目先のテンパイに心を奪われた感が否めないのだ。
だったら、この形でリーチを打つ選択はなかったのだろうか。

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もし10巡目もテンパイ取らずとしておけば、15巡目に八索でのツモアガリもあったし、
フリテンでもリーチを打っていれば、少なくともこの放銃だけは避けられたはずである。
続く東2局1本場もそうだ。

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なんとなく打っているだけで、前原の覚悟のようなものを感じることができないのである。
そして東3局、瀬戸熊に決定打とも言えるアガリが飛び出す。

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「さすがに決まったか…」
瀬戸熊がこれをアガって手を緩めることもなければ、3者に瀬戸熊を追い詰めるだけの力ももう残ってはいまい。
南1局、前原が瀬戸熊のリーチに一発目で一筒を抜いたとき、私の中でその思いが強まっていた。

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それでも前原は、南2局、高目ピンフ、三色をリーチでツモアガって2,000・4,000。
二万三万四万七万八万六索七索八索六筒七筒八筒北北  リーチ  ツモ六万  ドラ西
そして南3局の親番では、藤崎とのリーチ合戦を制して浮きに回る。
三万四万五万六万七万五索五索一筒二筒三筒六筒七筒八筒  リーチ  ロン二万  ドラ四索
更には南3局1本場、ほぼアガリはないだろうと思われていたところから、瀬戸熊の微妙な手順ミスによる7,700の直撃を果たし、一時はトップに躍り出る。

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しかし、これだけではまだまだ足りない。
瀬戸熊を沈ませないことには、この大きな得点差を逆転することなど到底不可能なのである。
南3局4本場、瀬戸熊の配牌をご覧いただこう。

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第1ツモが八万である。そして最終形が以下である。

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何度も言う通り、今の瀬戸熊に必要なのは着実に1局を消化していくことである。
アガリが不確定なダブリーなど、打つ必要がないのだ。実に冷静である。
この姿勢を貫かれると、追う者はきつい。
点棒を削りあってきた3者を尻目に、1人ポイントを伸ばし続ける瀬戸熊。
そして気が付けば、この長き戦いも3戦を残すのみとなっていた。

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瀬戸熊直樹プロ

17回戦成績
瀬戸熊+19.1P  前原+7.6P  荒+3.3P  藤崎▲30.0P
17回戦終了時
瀬戸熊+117.9P  前原+1.4P  荒▲51.5P  藤崎▲69.8P  供託2.0P
 
18回戦(起家から、前原・藤崎・荒・瀬戸熊)
トータル2位の前原でさえ、トップと115P以上の差。
逆転優勝の可能性は限りなくゼロに近いが、それでもわずかな希望に賭けるなら、残り6回となってしまった親番で大爆発が起こせるかどうかだ。
その東1局。何度こういうシーンを見ただろう。
瀬戸熊が全くエネルギーを浪費することなく、300・500をツモアガる。

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その後も安いアガリが続き、迎えた東4局。
藤崎が瀬戸熊の親で価値ある2,000・4,000。

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藤崎智プロ
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前原としては、続く親でどれだけ得点を稼げるかが重要だったのだが、連荘こそしたものの、ほとんど上積みなく藤崎に流されてしまう。これで精神的に楽になったのは瀬戸熊である。
これだけトータルポイントには差があっても、やはり現状のライバルの親は怖いはず。
瀬戸熊にしても、後4回前原の親を乗り越えた先に、ようやくゴールが見えるのである。
南2局、その瀬戸熊が、最後までドラを可愛がってしまった藤崎から5,200の出アガリを果たす。

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これも大きなアガリだった。
藤崎にすれば、いくらでも二万の切り時はあっただけに、悔やまれる放銃となってしまった。
そしてオーラス。後に瀬戸熊が、「これで大分楽になった。」と語ったアガリが生まれる。

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前原の追っかけリーチも物ともせず、一発での引きアガリ。
強い。本当に強い。それ以上の言葉が見つからない。
そしてなんと言っても圧巻は、南4局3本場である。

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藤崎の待ちを完全ブロックした上での見事なツモアガリ。
3者にすれば、完全にお手上げの1局である。
「これでもう何も起こらない。勝負は決した。」
そう思わざるを得ないほど、衝撃の大きい1,200オールだった。
18回戦成績
瀬戸熊+29.3P  藤崎+8.6P  前原▲15.3P  荒▲22.6P
18回戦終了時
瀬戸熊+147.2P  前原▲13.9P  藤崎▲61.2P  荒▲74.1P  供託2.0P
 
19回戦(起家から、荒・瀬戸熊・藤崎・前原)
いくら上辺だけの言葉を並べたところで仕方がない。
私自身、ここからは真の消化ゲームになってしまうなと、実際に思っていた。
瀬戸熊を追いかける3者は、最後まで自分のパフォーマンスを見せてくれることだろう。
しかし、優勝となれば話は別だ。
前原にして16万点もある点差を、残り2戦でどうやってひっくり返せというのか。
試合前、会場の空気は間違いなく変わっていた…
東1局、ドラ二万。心なしか、選手の摸打が軽くなったように見えた。
それまでの出だしとは、どこか雰囲気が違う。

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前原の1巡回しのリーチ。
そして、戦前ほぼやることはないと言っていた藤崎の七対子ドラタンキリーチ。
ここまできて追う側も、ようやく肩の荷が降りたのだろうか。
濁流が突如、清流に変わったかのような印象を与える。
東2局、今度は藤崎である。

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(勝敗が決したからこそ、こんな簡単にアガリが生まれるのだろう。
瀬戸熊にしたってこのくらいの放銃なら、痛くも痒くもないはず。)
愚かな私の思考である。流局を挟んだ東3局1本場もそうだ。

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よほどの状態でなければ、この藤崎の最終形がカン二筒になることはない。
4巡目、白を鳴いて以下の形からの四筒切りなのだから。
一筒三筒三筒四筒七筒八筒九筒九筒九筒南南  ポン白白白  ドラ中
(藤崎が不自然な手牌進行になったから、瀬戸熊が放銃した。ただそれだけのこと。)
東3局1本場、荒がラス牌のドラを引いて2,000・3,900。
二万三万八万八万一索二索三索四筒五筒六筒中中中  リーチ  ツモ四万  ドラ四万
(やや経費はかかったが、これで東ラス。ここから瀬戸熊は立て直してくるんだろう。)
本当に浅はかである。
しかし、だ。これまでの展開を見て、一体誰が迫りくるこの瞬間を予測できたというのか。
瀬戸熊が他を寄せ付けない圧倒的な強さで優勝した、それで終わるはずだったのだ。
勝利の女神とは、実に気まぐれである。
瀬戸熊が戦前最も恐れていた魔の時間が、遂に、遂にやってきたのだ。
東4局、親は前原である。まずテンパイを入れたのは西家の瀬戸熊。
六万六万七万八万九万東東東南南  ポン中中中  ドラ七索
10巡目、中をポンしての満貫である。その2巡後、親の前原もテンパイ。
一万二万三万四万五万六万四索四索四筒五筒七筒八筒九筒
結果は、瀬戸熊が六筒を掴んでの放銃。
この時点で各者の点棒が、荒40,000、前原36,800、藤崎32,800、瀬戸熊10,400。
(せめてこの日の初回にこんな展開になっていれば…)
東4局1本場。

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このアガリで前原が、この半荘トップに立つ。
東4局2本場。

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高目をツモアガっての4,000オール。
(そろそろ瀬戸熊もこの親を落としたいところだろうな)
東4局3本場。

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これで前原の点棒は、60,000点を越える。
東4局4本場。

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8枚目の五万八万をツモって2,600オール。
(何だか雲行きが怪しくなってきたな)
東4局5本場、これ以上やらせられるかとばかり、瀬戸熊、藤崎が仕掛ける。
しかし、その仕掛けで前原にテンパイを入れさせてしまう。
何も怖いものがなくなった前原は当然のリーチ。
そして、真っ直ぐ突っ込んだ瀬戸熊から直撃を奪う。

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このアガリで瀬戸熊が箱を割り、点差が80,000点を超えた。
(ん?これに順位点を足すと96だろ?もうすぐ100ポイントじゃないか…)
東4局6本場。

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前原の親が一向に落ちない。
東4局7本場、4巡目、藤崎が白を鳴いてトイトイへ。それによって、瀬戸熊にも続々と好牌がなだれ込む。
12巡目、瀬戸熊の五索をポンして藤崎がようやくテンパイ。
役なしのカン五索でテンパイしていた荒も四筒を暗刻にし、六索九索のノベタンでリーチ。
次巡、瀬戸熊も四索を引き、何でアガろうと万々歳のテンパイ。この時点で親の前原は2シャンテン。
しかし、子方3人はそれぞれが1枚ずつと、とにかく待ちが薄い。
そして16巡目、とうとう前原も追いつく。4者テンパイ。その結末がこちらである。

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私の身体は完全に熱を帯びていた。
これによって、瀬戸熊と前原のトータルポイントが110Pも縮まったということももちろんある。
だが、それよりも目を引いたのは、瀬戸熊の12巡目である。
四万四万五万五万六万六万八万八万三索五索七索七索八索  ドラ六万
この形で前原の八万に動いていないのだ。
フラットな場面ならわかる。しかし、状況はライバルの7本場。
とにかく早く落としたいというのが、心情というものではないだろうか。
藤崎の仕掛けによって、三索七索六万四万五万と引いてきている。
瀬戸熊からすれば、それが大きな要因ということなのだろう。
ツモの流れに乗る。仕掛けるなら万全の形で。
この状況に置かれても、瀬戸熊の精神に全くブレはない。
東4局8本場。

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これで荒も沈み、トータルポイントが更に縮まる。
素点で99.6P、順位点で20P。
ということは、19回戦開始時に161.1Pもあったポイント差が、なんと41.5P差にまで縮まったということである。これにはさすがに私も度肝を抜かれた。
(まさか、この半荘1回で前原が捲ってしまうのか…)
そう思わせるほど、猛烈な勢いだった。
ここまでの内容から、瀬戸熊が油断したということもないだろう。
地獄の閻魔大王とも称される前原の、腹の奥底に溜まっていたマグマが、遂に大噴火を起こしたのだ。

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前原雄大プロ

東4局9本場、この半荘、前原がトータルで最も瀬戸熊に接近した瞬間である。

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この時点でのポイント差が39.5P。
まだ東場で、前原が連荘中であることを考えると、いつひっくり返ってもおかしくない点数状況になってきた。
東4局10本場、この長い長い前原の親に、ようやく瀬戸熊がピリオドを打つ。

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前原のドラ切り、そして最終形が場面の緊迫感を物語っているが、ともかくこの親は流した。
瀬戸熊にしても、前原との点差は概算で把握していたことだろう。
南場が丸々残っていることを考えると、これで一息ついている暇はない。
局面は急転、突如として瀬戸熊、前原の優勝争いへと変貌を遂げたのである・
南場に入ると、不用意な放銃などもあり、前原の勢いにも翳りが見え始めた。
しかし、一方の瀬戸熊も、東場で前原の親を落とすのに相当なエネルギーを消費したのか、全くアガリに絡めない。
そして迎えたオーラス。藤崎が前原から3,900をアガって浮きをキープ。
逃げる瀬戸熊にすれば、1ポイントでも多く前原との差を保っておきたいところだっただけに、前原の1人浮きトップを阻止した藤崎のアガリは有難かっただろう。
瀬戸熊にとって悪夢の19回戦が終わった。
前原にたった1回で、98.6Pという尋常ではないポイントを詰められたが、それでもまだ大きな貯金が残っている。現実的に瀬戸熊が越えるべき山は、前原の残り2回となった親番ということが言えるだろう。
さぁ、世紀の一戦もこれでラストである。
瀬戸熊がリードを守り切るのか、はたまた前原の大逆転があるのか。
とにかく注目すべきは前原の親、その一点である。
19回戦成績
前原+50.6P  藤崎+4.0P  荒▲6.6P  瀬戸熊▲48.0P
19回戦終了時
瀬戸熊+99.2P  前原+36.7P  藤崎▲57.2P  荒▲80.7P  供託2.0P
 
最終20回戦(起家から、前原・藤崎・荒・瀬戸熊)
プロ連盟の規定により、最終戦は起家から、トータル2着、3着、4着、そしてトータルトップという並びになっている。最終戦を迎えての瀬戸熊-前原のポイント差は、62.5P。
これは、トップ-ラスで46,500の差(1人浮きなら42,500差)と置き換えることができる。
19回戦で前原がいくら点差を詰めたとは言え、これでもまだかなりの数字である。
先に述べた通り、前原が逆転するにはやはり親番が鍵になるだろう。
東1局、前原の最初の親番である。
荒の先制リーチを受けるが、どうにか最後まで押し切ってまずは連荘。
しかし続く東1局2本場。
今度も荒の先制リーチを受け、七対子の1シャンテンで粘ったものの、最後はノーテンで流局となってしまう。

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そして東2局2本場。
少しでも加点をしていきたい前原が、最後のツモ番で親の藤崎に放銃。

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ご覧の通り、この七万は瀬戸熊のロン牌でもある。
(これで、相当苦しくなったな)
もう嵐の予感は、とても見出せなかった。
東2局5本場、瀬戸熊のアガリが、第29期鳳凰位決定戦の終幕を物語っているように思えた。
南1局1本場、前原の最後の親もノーテンで流れた。
そして事実上、この瞬間、瀬戸熊直樹の2期ぶりとなる鳳凰位奪還が決定したのである。

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終局の様子

20回戦成績
藤崎+43.3P  瀬戸熊▲4.0P  荒▲10.8P  前原▲28.5P
最終成績
瀬戸熊+95.2P  前原+8.2P  藤崎▲13.9P  荒▲91.5P  供託2.0P

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戦いを終えて
総合4位 荒正義
「完敗だった。瀬戸熊は最後までブレなかった。予選から貯金の仕方が良かったことがこの結果につながったんだろう。来年またこの舞台に戻れるようにリーグ戦で頑張るしかない。」
総合3位 藤崎智
「初日の出遅れが全て。無理矢理前に出なければいけない展開がきつかった。やっぱりヤミテンからペースを掴むのが自分の麻雀だから。」
総合2位 前原雄大
「強い人が勝ったなという印象。映像を見たら内容が図抜けていた。日頃の鍛錬の仕方だろう。」
 
全ての戦いが終わった。
私は、激闘を繰り広げた選手、そしてスタッフと共に瀬戸熊の祝勝会場へと足を伸ばした。
戦いに敗れた選手たちの顔は、一様に晴れやかだった。
結果はともかく、自分たちの持てる力は全て出し切ったという充足感すら伝わってくる。
言い方はおかしいかもしれないが、この夜、私は素直に酔えた。
選手達が4日間に渡って素晴らしい戦いを見せてくれたこともある。
だがそれよりも、この鳳凰位決定戦という大舞台に、解説者、そして観戦記者という立場で携わることができたという事実に、無上の喜びを感じていたからかもしれない。
30分後、ニコ生放送のインタビューを終えた瀬戸熊がこの会場へとやってきた。
その瞬間、どこからともなく拍手が沸きあがり、会場は激闘を制した勝者に対する賞賛ムードで一体となった。
「あぁ、素晴らしい光景だな。」
戦いの世界に生きられる人間は幸せであると私は思う。
どんなに辛く険しい道のりでも、最後には必ずこの瞬間に行き着くことができるからだ。
勝ってその瞬間を迎えられるのは、100回に1回かもしれない。
我々はその最高の瞬間を味わいたくて、日々戦い続けるのである。
第29期鳳凰位決定戦優勝 瀬戸熊直樹
「実感は全くないけど、とにかく自分らしく打てたと思う。オリたら手牌が落ちるので、ラスを引いてもいいから戦うという気持ちだった。前原さんのブレークは警戒していたけど、とうとう19回戦で出ちゃったね。でもまぁ去年の敗戦がやはり大きかったよ。これだけ積極的に打ち抜くことができたのは、去年の反省があってのものだから。あとは、今期のプロリーグをほとんどプラスで終えられたことが自信につながったかな。ヒサトも早くAⅠに上がってこないとね。」
心に沁み渡る言葉だった。
いつか自分も…
プロアマ問わず、この戦いを見てそう感じた人間は数え切れないほどいるはずだ。
それほどまでに、今決定戦で瀬戸熊が残した爪痕は大きい。
「瀬戸熊最強時代の到来」
この戦いを通して多くの人々が感じたことだろう。
私は最後にそう書き記し、静かにノートを閉じた。

第21期中部プロリーグ A・B・Cリーグ 第2節成績表

Aリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 寺戸 孝志 38.1 57.6 95.7
2 日下 健司 71.3 20.0 91.3
3 佐藤 あいり 17.0 67.0 84.0
4 太田 充 14.5 61.9 76.4
5 山田 優駿 21.6 15.0 36.6
6 鈴木 基芳 43.2 ▲ 20.7 22.5
7 杉浦 貴紀 11.6 4.9 16.5
8 森下 剛任 36.3 ▲ 40.9 ▲ 4.6
9 毛受 俊 ▲ 20.3 ▲ 6.2 ▲ 26.5
10 掛水 洋徳 28.4 ▲ 58.9 ▲ 30.5
11 古川 孝次 ▲ 22.6 ▲ 14.5 ▲ 37.1
12 三戸 亮祐 ▲ 9.9 ▲ 32.6 ▲ 42.5
13 伊藤 鉄也 ▲ 54.5 6.5 ▲ 48.0
14 村瀬 寛光 ▲ 34.8 ▲ 30.5 ▲ 65.3
15 浅野 文雅 ▲ 83.0 15.8 ▲ 67.2
16 渡辺 典夫 ▲ 56.9 ▲ 47.4 ▲ 104.3

Bリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 樋口 新 45.4 23.2 68.6
2 中西 栄二 ▲ 3.4 63.2 59.8
3 木村 東平 20.8 32.4 53.2
4 葛山 英樹 7.0 43.8 50.8
5 牛尾 信之 15.7 26.0 41.7
6 大滝 聡 ▲ 18.8 46.5 27.7
7 菅野 直 26.6 ▲ 0.8 25.8
8 土岐 雄太 ▲ 8.0 17.2 9.2
9 櫛田 利太 16.3 ▲ 15.6 0.7
10 小坂 美樹 9.9 ▲ 12.9 ▲ 3.0
11 朝岡 祐 42.7 ▲ 56.1 ▲ 13.4
12 若松 正和 ▲ 55.0 11.3 ▲ 43.7
13 鈴木 雄介 ▲ 9.2 ▲ 35.2 ▲ 44.4
14 吉井 友直 ▲ 52.5 ▲ 12.5 ▲ 65.0
15 長谷川 弘 ▲ 19.8 ▲ 49.4 ▲ 69.2
16 原田 知彦 ▲ 17.7 ▲ 83.1 ▲ 100.8

Cリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 加藤 泰史 28.8 52.7 81.5
2 太田 峻也 50.1 28.7 78.8
3 山本 拓哉 14.9 53.5 68.4
4 杉村 泰治 21.6 37.0 58.6
5 八木 悠 15.4 37.9 53.3
6 大町 篤志 61.4 ▲ 11.6 49.8
7 安藤 大貴 10.9 35.2 46.1
8 中谷 彰吾 5.7 40.3 46.0
9 河合 慎悟 51.4 ▲ 12.8 38.6
10 山神 達也 ▲ 32.0 60.7 28.7
11 大西 義則 ▲ 4.6 27.5 22.9
12 岩井 健太 ▲ 41.6 50.6 9.0
13 小野 雅峻 25.0 ▲ 24.9 0.1
14 角谷 和幸 ▲ 2.9 2.7 ▲ 0.2
15 原 尚吾 48.3 ▲ 49.1 ▲ 0.8
16 斎藤 寛生 29.9 ▲ 59.2 ▲ 29.3
17 大高坂 松城 9.7 ▲ 55.9 ▲ 46.2
18 家田 みゆき ▲ 36.7 ▲ 33.5 ▲ 70.2
19 岡本 丈司 ▲ 61.2 ▲ 21.5 ▲ 82.7
20 三谷 卓也 ▲ 33.0 ▲ 56.5 ▲ 89.5
21 鈴木 淳 ▲ 85.3 ▲ 6.7 ▲ 92.0
22 越川 清一 ▲ 53.9 ▲ 45.7 ▲ 99.6
23 加賀美 幸孝 ▲ 22.9 ▲ 89.4 ▲ 112.3

中部プロリーグ 成績表/第21期中部プロリーグ A・B・Cリーグ 第2節成績表

Aリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 寺戸 孝志 38.1 57.6 95.7
2 日下 健司 71.3 20.0 91.3
3 佐藤 あいり 17.0 67.0 84.0
4 太田 充 14.5 61.9 76.4
5 山田 優駿 21.6 15.0 36.6
6 鈴木 基芳 43.2 ▲ 20.7 22.5
7 杉浦 貴紀 11.6 4.9 16.5
8 森下 剛任 36.3 ▲ 40.9 ▲ 4.6
9 毛受 俊 ▲ 20.3 ▲ 6.2 ▲ 26.5
10 掛水 洋徳 28.4 ▲ 58.9 ▲ 30.5
11 古川 孝次 ▲ 22.6 ▲ 14.5 ▲ 37.1
12 三戸 亮祐 ▲ 9.9 ▲ 32.6 ▲ 42.5
13 伊藤 鉄也 ▲ 54.5 6.5 ▲ 48.0
14 村瀬 寛光 ▲ 34.8 ▲ 30.5 ▲ 65.3
15 浅野 文雅 ▲ 83.0 15.8 ▲ 67.2
16 渡辺 典夫 ▲ 56.9 ▲ 47.4 ▲ 104.3

Bリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 樋口 新 45.4 23.2 68.6
2 中西 栄二 ▲ 3.4 63.2 59.8
3 木村 東平 20.8 32.4 53.2
4 葛山 英樹 7.0 43.8 50.8
5 牛尾 信之 15.7 26.0 41.7
6 大滝 聡 ▲ 18.8 46.5 27.7
7 菅野 直 26.6 ▲ 0.8 25.8
8 土岐 雄太 ▲ 8.0 17.2 9.2
9 櫛田 利太 16.3 ▲ 15.6 0.7
10 小坂 美樹 9.9 ▲ 12.9 ▲ 3.0
11 朝岡 祐 42.7 ▲ 56.1 ▲ 13.4
12 若松 正和 ▲ 55.0 11.3 ▲ 43.7
13 鈴木 雄介 ▲ 9.2 ▲ 35.2 ▲ 44.4
14 吉井 友直 ▲ 52.5 ▲ 12.5 ▲ 65.0
15 長谷川 弘 ▲ 19.8 ▲ 49.4 ▲ 69.2
16 原田 知彦 ▲ 17.7 ▲ 83.1 ▲ 100.8

Cリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 加藤 泰史 28.8 52.7 81.5
2 太田 峻也 50.1 28.7 78.8
3 山本 拓哉 14.9 53.5 68.4
4 杉村 泰治 21.6 37.0 58.6
5 八木 悠 15.4 37.9 53.3
6 大町 篤志 61.4 ▲ 11.6 49.8
7 安藤 大貴 10.9 35.2 46.1
8 中谷 彰吾 5.7 40.3 46.0
9 河合 慎悟 51.4 ▲ 12.8 38.6
10 山神 達也 ▲ 32.0 60.7 28.7
11 大西 義則 ▲ 4.6 27.5 22.9
12 岩井 健太 ▲ 41.6 50.6 9.0
13 小野 雅峻 25.0 ▲ 24.9 0.1
14 角谷 和幸 ▲ 2.9 2.7 ▲ 0.2
15 原 尚吾 48.3 ▲ 49.1 ▲ 0.8
16 斎藤 寛生 29.9 ▲ 59.2 ▲ 29.3
17 大高坂 松城 9.7 ▲ 55.9 ▲ 46.2
18 家田 みゆき ▲ 36.7 ▲ 33.5 ▲ 70.2
19 岡本 丈司 ▲ 61.2 ▲ 21.5 ▲ 82.7
20 三谷 卓也 ▲ 33.0 ▲ 56.5 ▲ 89.5
21 鈴木 淳 ▲ 85.3 ▲ 6.7 ▲ 92.0
22 越川 清一 ▲ 53.9 ▲ 45.7 ▲ 99.6
23 加賀美 幸孝 ▲ 22.9 ▲ 89.4 ▲ 112.3

第21期中部プロリーグ A・B・Cリーグ 第2節レポート

 

Aリーグレポート:掛水洋徳

1卓 古川・掛水・寺戸・浅野
1回戦、浅野が50,000点を越えるリードをするも、南場に入り寺戸が正確なアガリを重ねトップを取ると、そのまま冷静にオールプラスで終了。トータルスコアも1位に。
古川は大きなラススタートながら立て直し少しのマイナスで抑える、流石である。

2卓 日下・毛受・杉浦・鈴木(基)
1節のポイントで頭一つ抜けた日下が接戦を制し、プラスを上乗せして上位をキープ。
連続決勝へ順調に前進した。
毛受はマイナスを最小限に抑えて次節以降に初決勝の望みを繋いだ。

3卓 村瀬・山田・渡辺・太田
この卓では1節の好不調がそのまま出る形になり、
その中でも太田が+61.9Pと大きくポイントを伸ばし決勝圏内までジャンプアップに成功。
また山田もプラスで終わり好位につける。
逆に残り3節あるが村瀬、渡辺は厳しい状況になってしまった。

4卓 伊藤・森下・三戸・佐藤
女流佐藤が制圧、今節トップの+67.0Pを叩き出し一気に3位まで浮上。
伊藤はしぶとくプラスにまとめたが、
佐藤の煽りを受けた森下、三戸が順位を下げる結果になった。

今節の私は2、4、2、4で今節ワーストの▲58.9Pで轟沈。
寺戸に丸かじりされました。
あと中部プロリーグ最近12期から20期の決勝進出者、9期分36名のデータを見ると、
3節終了時に6位以内から33名が進出し、内、1位は全員進出していた。
4節終了時は6位以内から34名が進出しており上位にいる事が終盤闘う上で必要であろう。
例外となった2例は、5節で大逆転したケースである。
15期の鈴木(雄)8位と19期の渡辺9位である。
最終節の勢いで決勝でも2名とも勢いに乗り優勝している。
私も次節で上位に食い込めるように反省と準備をしたい。

Aリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 寺戸 孝志 38.1 57.6 95.7
2 日下 健司 71.3 20.0 91.3
3 佐藤 あいり 17.0 67.0 84.0
4 太田 充 14.5 61.9 76.4
5 山田 優駿 21.6 15.0 36.6
6 鈴木 基芳 43.2 ▲ 20.7 22.5
7 杉浦 貴紀 11.6 4.9 16.5
8 森下 剛任 36.3 ▲ 40.9 ▲ 4.6
9 毛受 俊 ▲ 20.3 ▲ 6.2 ▲ 26.5
10 掛水 洋徳 28.4 ▲ 58.9 ▲ 30.5
11 古川 孝次 ▲ 22.6 ▲ 14.5 ▲ 37.1
12 三戸 亮祐 ▲ 9.9 ▲ 32.6 ▲ 42.5
13 伊藤 鉄也 ▲ 54.5 6.5 ▲ 48.0
14 村瀬 寛光 ▲ 34.8 ▲ 30.5 ▲ 65.3
15 浅野 文雅 ▲ 83.0 15.8 ▲ 67.2
16 渡辺 典夫 ▲ 56.9 ▲ 47.4 ▲ 104.3

Bリーグレポート:大滝聡

3月になり、暖かい日が続いていますが、同時に花粉症の人にはつらい季節がやってきました。
対局前の体調管理を怠らず、ベストな状態で対局に入れるよう今後も取り組んでいこうと思います。

第2節の私の対戦相手を見て、1つ気がついた事がありました。
私以外の選手は元Aリーグの選手ばかりだということです。
格上の選手ばかりですが、集中力を切らさずにミスをしなければ、必ずチャンスは訪れると思い、対局に臨みました。

《1回戦》
東1局、葛山の先制リーチを受けた鈴木(雄)が目の覚めるような純チャン三色ドラ1の18,000点を仕掛けを入れていた朝岡から出アガリ。
その後、葛山が丁寧な手順で徐々に加点していく展開。
迎えたオーラスも、何とか親番を維持したい朝岡から8,000点の出アガリで鈴木(雄)を交わす。
私は前に出ることも出来ずに、見ているだけの3着。▲7.7P。

《2回戦》
特に大きなアガリもなかったが私の3局連続の1人テンパイなどがあり、ラッキーなトップで+21.6P

《3回戦》
南1局の朝岡の3,000・6,000ツモで場が動き出すも、この日の私はツイていた。
トップ目の朝岡とは2,400点差で迎えたオーラス。逃げ切りを図り、仕掛けをいれる朝岡に対して、親番の鈴木(雄)がリーチ。
同巡、私はピンフドラ1の2,000点をテンパイ。
次巡、鈴木(雄)が私のロン牌をつかみ放銃で+14.2P。

《4回戦》
南1局の親番で痛恨のアガリ逃しをした1本場。
当然のように葛山の3,000・6,000ツモで親かぶり。それでも、この日の私はツイていた。
南3局、親の葛山から先制リーチが入ると同巡私もドラを重ねて戦闘体制。
最短の手順で七対子をツモリ2,000・4,000でトップを取り+18.4Pでトータル+46.5P

2節で終えた暫定順位を見てみると、まだ特に抜け出した選手はいない様子。
現状、下位に甘んじている選手もきっと巻き返してくるに違いない。
今節は運よく勝たせてもらったが、昇級争いはもちろんの事、残留争いも混戦が予想されるBリーグ。
次節以降も気を引き締めて対局に臨みたいと思います。

Bリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 樋口 新 45.4 23.2 68.6
2 中西 栄二 ▲ 3.4 63.2 59.8
3 木村 東平 20.8 32.4 53.2
4 葛山 英樹 7.0 43.8 50.8
5 牛尾 信之 15.7 26.0 41.7
6 大滝 聡 ▲ 18.8 46.5 27.7
7 菅野 直 26.6 ▲ 0.8 25.8
8 土岐 雄太 ▲ 8.0 17.2 9.2
9 櫛田 利太 16.3 ▲ 15.6 0.7
10 小坂 美樹 9.9 ▲ 12.9 ▲ 3.0
11 朝岡 祐 42.7 ▲ 56.1 ▲ 13.4
12 若松 正和 ▲ 55.0 11.3 ▲ 43.7
13 鈴木 雄介 ▲ 9.2 ▲ 35.2 ▲ 44.4
14 吉井 友直 ▲ 52.5 ▲ 12.5 ▲ 65.0
15 長谷川 弘 ▲ 19.8 ▲ 49.4 ▲ 69.2
16 原田 知彦 ▲ 17.7 ▲ 83.1 ▲ 100.8

Cリーグレポート:小野雅峻

毎年この時期は名古屋ウィメンズマラソンが行われ、外では世界中の選手たちが素晴らしい走りを見せている中、第2節が行われた。
第1節でいい結果を残せた者も、残念ながらつまずいてしまった者も様々な思いで第2節を迎えたことだろう。
23名いるCリーグから昇級できる枠は3枠と少なく、前期の昇格ボーダーはなんと+167.6Pだった。
これには毎節平均30P以上ださなければ届かないため第1節でポイントを叩いた者も手を緩めることなく、さらにポイントを上乗せしていかなければいけないだろう。
ではここから各卓の結果を見ていこう。

1卓 越川・杉村・中谷・小野・鈴木
私は1回戦、2回戦と20,000点台のラスをひかされ厳しい展開になり、前節のプラスをそのまま失ってしまうという結果になってしまった。
その中で結果を出したのが中谷と杉村。
杉村は4回戦で開局に8,000オールを引き50,000点を越えるトップをとった。
しかしその後うまく立ち回った中谷がその半荘をプラスとし、卓内トップは中谷がとり大きく加点することとなった。

2卓 大西・三谷・角谷・八木・大町
この卓には第1節で暫定1位であった大町がおり、ここで大きく叩かれると独走となるところだったのだが周りがうまく抑え込む結果となった。
また初参戦の八木がオールプラスで卓内トップをとった。

3卓 斎藤・岡本・河合・山本
この卓でも大きく加点したのは初参戦の山本。50Pを越える卓内トップをとった。
しかしここで大きくつまずいてしまったのは斎藤。
前節で好スタートを切れていただけに痛い失点となってしまった。

4卓 大高坂・家田・太田・山神
前節で大きなマイナスとなっていた山神だったが、大きなトップがないにもかかわらずしっかりと着順をとることで+60Pを叩きだした。

5卓 安藤・加賀美・岩井・原・加藤
前節と合わせて+81.5Pとなった加藤。次節以降どこまでポイントを叩いていくことができるか。
またここでも前節ポイントを叩いた原が大きな失点をする結果となってしまった。
前節から順位にも大きく変動があり今後どのような展開になっていくのか楽しみである。

Cリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 加藤 泰史 28.8 52.7 81.5
2 太田 峻也 50.1 28.7 78.8
3 山本 拓哉 14.9 53.5 68.4
4 杉村 泰治 21.6 37.0 58.6
5 八木 悠 15.4 37.9 53.3
6 大町 篤志 61.4 ▲ 11.6 49.8
7 安藤 大貴 10.9 35.2 46.1
8 中谷 彰吾 5.7 40.3 46.0
9 河合 慎悟 51.4 ▲ 12.8 38.6
10 山神 達也 ▲ 32.0 60.7 28.7
11 大西 義則 ▲ 4.6 27.5 22.9
12 岩井 健太 ▲ 41.6 50.6 9.0
13 小野 雅峻 25.0 ▲ 24.9 0.1
14 角谷 和幸 ▲ 2.9 2.7 ▲ 0.2
15 原 尚吾 48.3 ▲ 49.1 ▲ 0.8
16 斎藤 寛生 29.9 ▲ 59.2 ▲ 29.3
17 大高坂 松城 9.7 ▲ 55.9 ▲ 46.2
18 家田 みゆき ▲ 36.7 ▲ 33.5 ▲ 70.2
19 岡本 丈司 ▲ 61.2 ▲ 21.5 ▲ 82.7
20 三谷 卓也 ▲ 33.0 ▲ 56.5 ▲ 89.5
21 鈴木 淳 ▲ 85.3 ▲ 6.7 ▲ 92.0
22 越川 清一 ▲ 53.9 ▲ 45.7 ▲ 99.6
23 加賀美 幸孝 ▲ 22.9 ▲ 89.4 ▲ 112.3

中部プロリーグ レポート/第21期中部プロリーグ A・B・Cリーグ 第2節レポート

 
Aリーグレポート:掛水洋徳
1卓 古川・掛水・寺戸・浅野
1回戦、浅野が50,000点を越えるリードをするも、南場に入り寺戸が正確なアガリを重ねトップを取ると、そのまま冷静にオールプラスで終了。トータルスコアも1位に。
古川は大きなラススタートながら立て直し少しのマイナスで抑える、流石である。
2卓 日下・毛受・杉浦・鈴木(基)
1節のポイントで頭一つ抜けた日下が接戦を制し、プラスを上乗せして上位をキープ。
連続決勝へ順調に前進した。
毛受はマイナスを最小限に抑えて次節以降に初決勝の望みを繋いだ。
3卓 村瀬・山田・渡辺・太田
この卓では1節の好不調がそのまま出る形になり、
その中でも太田が+61.9Pと大きくポイントを伸ばし決勝圏内までジャンプアップに成功。
また山田もプラスで終わり好位につける。
逆に残り3節あるが村瀬、渡辺は厳しい状況になってしまった。
4卓 伊藤・森下・三戸・佐藤
女流佐藤が制圧、今節トップの+67.0Pを叩き出し一気に3位まで浮上。
伊藤はしぶとくプラスにまとめたが、
佐藤の煽りを受けた森下、三戸が順位を下げる結果になった。
今節の私は2、4、2、4で今節ワーストの▲58.9Pで轟沈。
寺戸に丸かじりされました。
あと中部プロリーグ最近12期から20期の決勝進出者、9期分36名のデータを見ると、
3節終了時に6位以内から33名が進出し、内、1位は全員進出していた。
4節終了時は6位以内から34名が進出しており上位にいる事が終盤闘う上で必要であろう。
例外となった2例は、5節で大逆転したケースである。
15期の鈴木(雄)8位と19期の渡辺9位である。
最終節の勢いで決勝でも2名とも勢いに乗り優勝している。
私も次節で上位に食い込めるように反省と準備をしたい。
Aリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 寺戸 孝志 38.1 57.6 95.7
2 日下 健司 71.3 20.0 91.3
3 佐藤 あいり 17.0 67.0 84.0
4 太田 充 14.5 61.9 76.4
5 山田 優駿 21.6 15.0 36.6
6 鈴木 基芳 43.2 ▲ 20.7 22.5
7 杉浦 貴紀 11.6 4.9 16.5
8 森下 剛任 36.3 ▲ 40.9 ▲ 4.6
9 毛受 俊 ▲ 20.3 ▲ 6.2 ▲ 26.5
10 掛水 洋徳 28.4 ▲ 58.9 ▲ 30.5
11 古川 孝次 ▲ 22.6 ▲ 14.5 ▲ 37.1
12 三戸 亮祐 ▲ 9.9 ▲ 32.6 ▲ 42.5
13 伊藤 鉄也 ▲ 54.5 6.5 ▲ 48.0
14 村瀬 寛光 ▲ 34.8 ▲ 30.5 ▲ 65.3
15 浅野 文雅 ▲ 83.0 15.8 ▲ 67.2
16 渡辺 典夫 ▲ 56.9 ▲ 47.4 ▲ 104.3

Bリーグレポート:大滝聡
3月になり、暖かい日が続いていますが、同時に花粉症の人にはつらい季節がやってきました。
対局前の体調管理を怠らず、ベストな状態で対局に入れるよう今後も取り組んでいこうと思います。
第2節の私の対戦相手を見て、1つ気がついた事がありました。
私以外の選手は元Aリーグの選手ばかりだということです。
格上の選手ばかりですが、集中力を切らさずにミスをしなければ、必ずチャンスは訪れると思い、対局に臨みました。
《1回戦》
東1局、葛山の先制リーチを受けた鈴木(雄)が目の覚めるような純チャン三色ドラ1の18,000点を仕掛けを入れていた朝岡から出アガリ。
その後、葛山が丁寧な手順で徐々に加点していく展開。
迎えたオーラスも、何とか親番を維持したい朝岡から8,000点の出アガリで鈴木(雄)を交わす。
私は前に出ることも出来ずに、見ているだけの3着。▲7.7P。
《2回戦》
特に大きなアガリもなかったが私の3局連続の1人テンパイなどがあり、ラッキーなトップで+21.6P
《3回戦》
南1局の朝岡の3,000・6,000ツモで場が動き出すも、この日の私はツイていた。
トップ目の朝岡とは2,400点差で迎えたオーラス。逃げ切りを図り、仕掛けをいれる朝岡に対して、親番の鈴木(雄)がリーチ。
同巡、私はピンフドラ1の2,000点をテンパイ。
次巡、鈴木(雄)が私のロン牌をつかみ放銃で+14.2P。
《4回戦》
南1局の親番で痛恨のアガリ逃しをした1本場。
当然のように葛山の3,000・6,000ツモで親かぶり。それでも、この日の私はツイていた。
南3局、親の葛山から先制リーチが入ると同巡私もドラを重ねて戦闘体制。
最短の手順で七対子をツモリ2,000・4,000でトップを取り+18.4Pでトータル+46.5P
2節で終えた暫定順位を見てみると、まだ特に抜け出した選手はいない様子。
現状、下位に甘んじている選手もきっと巻き返してくるに違いない。
今節は運よく勝たせてもらったが、昇級争いはもちろんの事、残留争いも混戦が予想されるBリーグ。
次節以降も気を引き締めて対局に臨みたいと思います。
Bリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 樋口 新 45.4 23.2 68.6
2 中西 栄二 ▲ 3.4 63.2 59.8
3 木村 東平 20.8 32.4 53.2
4 葛山 英樹 7.0 43.8 50.8
5 牛尾 信之 15.7 26.0 41.7
6 大滝 聡 ▲ 18.8 46.5 27.7
7 菅野 直 26.6 ▲ 0.8 25.8
8 土岐 雄太 ▲ 8.0 17.2 9.2
9 櫛田 利太 16.3 ▲ 15.6 0.7
10 小坂 美樹 9.9 ▲ 12.9 ▲ 3.0
11 朝岡 祐 42.7 ▲ 56.1 ▲ 13.4
12 若松 正和 ▲ 55.0 11.3 ▲ 43.7
13 鈴木 雄介 ▲ 9.2 ▲ 35.2 ▲ 44.4
14 吉井 友直 ▲ 52.5 ▲ 12.5 ▲ 65.0
15 長谷川 弘 ▲ 19.8 ▲ 49.4 ▲ 69.2
16 原田 知彦 ▲ 17.7 ▲ 83.1 ▲ 100.8

Cリーグレポート:小野雅峻
毎年この時期は名古屋ウィメンズマラソンが行われ、外では世界中の選手たちが素晴らしい走りを見せている中、第2節が行われた。
第1節でいい結果を残せた者も、残念ながらつまずいてしまった者も様々な思いで第2節を迎えたことだろう。
23名いるCリーグから昇級できる枠は3枠と少なく、前期の昇格ボーダーはなんと+167.6Pだった。
これには毎節平均30P以上ださなければ届かないため第1節でポイントを叩いた者も手を緩めることなく、さらにポイントを上乗せしていかなければいけないだろう。
ではここから各卓の結果を見ていこう。
1卓 越川・杉村・中谷・小野・鈴木
私は1回戦、2回戦と20,000点台のラスをひかされ厳しい展開になり、前節のプラスをそのまま失ってしまうという結果になってしまった。
その中で結果を出したのが中谷と杉村。
杉村は4回戦で開局に8,000オールを引き50,000点を越えるトップをとった。
しかしその後うまく立ち回った中谷がその半荘をプラスとし、卓内トップは中谷がとり大きく加点することとなった。
2卓 大西・三谷・角谷・八木・大町
この卓には第1節で暫定1位であった大町がおり、ここで大きく叩かれると独走となるところだったのだが周りがうまく抑え込む結果となった。
また初参戦の八木がオールプラスで卓内トップをとった。
3卓 斎藤・岡本・河合・山本
この卓でも大きく加点したのは初参戦の山本。50Pを越える卓内トップをとった。
しかしここで大きくつまずいてしまったのは斎藤。
前節で好スタートを切れていただけに痛い失点となってしまった。
4卓 大高坂・家田・太田・山神
前節で大きなマイナスとなっていた山神だったが、大きなトップがないにもかかわらずしっかりと着順をとることで+60Pを叩きだした。
5卓 安藤・加賀美・岩井・原・加藤
前節と合わせて+81.5Pとなった加藤。次節以降どこまでポイントを叩いていくことができるか。
またここでも前節ポイントを叩いた原が大きな失点をする結果となってしまった。
前節から順位にも大きく変動があり今後どのような展開になっていくのか楽しみである。
Cリーグ

順位 名前 1節 2節 3節 4節 5節 合計
1 加藤 泰史 28.8 52.7 81.5
2 太田 峻也 50.1 28.7 78.8
3 山本 拓哉 14.9 53.5 68.4
4 杉村 泰治 21.6 37.0 58.6
5 八木 悠 15.4 37.9 53.3
6 大町 篤志 61.4 ▲ 11.6 49.8
7 安藤 大貴 10.9 35.2 46.1
8 中谷 彰吾 5.7 40.3 46.0
9 河合 慎悟 51.4 ▲ 12.8 38.6
10 山神 達也 ▲ 32.0 60.7 28.7
11 大西 義則 ▲ 4.6 27.5 22.9
12 岩井 健太 ▲ 41.6 50.6 9.0
13 小野 雅峻 25.0 ▲ 24.9 0.1
14 角谷 和幸 ▲ 2.9 2.7 ▲ 0.2
15 原 尚吾 48.3 ▲ 49.1 ▲ 0.8
16 斎藤 寛生 29.9 ▲ 59.2 ▲ 29.3
17 大高坂 松城 9.7 ▲ 55.9 ▲ 46.2
18 家田 みゆき ▲ 36.7 ▲ 33.5 ▲ 70.2
19 岡本 丈司 ▲ 61.2 ▲ 21.5 ▲ 82.7
20 三谷 卓也 ▲ 33.0 ▲ 56.5 ▲ 89.5
21 鈴木 淳 ▲ 85.3 ▲ 6.7 ▲ 92.0
22 越川 清一 ▲ 53.9 ▲ 45.7 ▲ 99.6
23 加賀美 幸孝 ▲ 22.9 ▲ 89.4 ▲ 112.3

天空麻雀11 男性大会決勝レポート

tenku11_m_fin

トッププロ達が熱い戦いを繰り広げる天空麻雀も、今回で11回大会となりました。
現在、「エンタメ~テレ」で男性大会決勝戦が放送中となっています。
まだご覧になっていない方もいらっしゃると思いますので、少ーしだけですがその模様を紹介させて頂きます。

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まずは決勝メンバーの紹介から。
A卓トップ通過は、過去10大会連続で予選敗退のない荒正義プロ。
今大会も安定感抜群の戦いで見事に決勝進出。

B卓トップ通過は、第8回大会以来2度目の優勝を狙う前原雄大プロ。
持ち前の大胆さと繊細さを兼ね備えた麻雀で、大激戦となったB卓を制し決勝進出。

準決勝からは、過去最多となる4度目の優勝を狙う佐々木寿人プロ。
予選では、あわや敗退という状況もあったが、圧倒的攻撃力を見せ逆転で準決勝へ進む。
勢いに乗った寿人プロ、準決勝では早々と当確ランプを灯し決勝進出。

もう1人は、2回目の出場にして嬉しい初の決勝への切符を手に入れた、私、勝又健志となりました。

第1戦東1局を制したのは前原プロ。

六万六万七万七万八万七筒七筒九筒九筒東東発発  ツモ八万  ドラ七筒

捨て牌に1つのかぶりもなく、最速のアガリをものにします。
先制点をあげた、前原プロの次局、

二索三索二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒七筒八筒九筒西西  ドラ一筒

ホンイツに向かう手も考えられますが、ここは相手にプレッシャーを与えるべくリーチにいきます。これが最高の結果に。跳満が狙える1シャンテンとなった寿人プロから一発で、

二索三索二筒二筒三筒三筒四筒四筒七筒八筒九筒西西  ロン四索  ドラ一筒  裏ドラ西

この12,000のアガリとなりました。
しかし、このまま前原プロの独走を許すわけにはいきません。この後は、反撃が始まります。

まずは、東3局1本場、親の前原プロが、

三万三万三万三筒四筒赤五筒五筒  チー四索二索三索  暗カン牌の背七万七万牌の背  ドラ中  カンドラ五筒

この12,000のテンパイをいれますが、私が前原プロから、

一万一万赤五万八万八万九筒九筒東東西西中中  ロン五万

この8,000をアガリます。
これは、前原プロの七万暗カンに対応して、早々と七対子に決め打った手がぴったりとハマり、自分でも大満足の一局でした。

続く東四索局は親の荒プロが、

四万五万三索三索四索四索五索五索六索七索八索発発  リーチ  ツモ三万  ドラ二索  裏ドラ八万

この2,000オールと前原プロを追いかけます。
さらに、東4局1本場、前原プロが、

一万一万一万四索六索二筒二筒三筒七筒九筒九筒東東  ドラ発

ここから東をポンすると、寿人プロからリーチが入ります。

二万三万四万赤五万五万五万八万八万九万四筒四筒四筒中中  打九万  リーチ

しかしこのリーチ、河を見るとなんと!!!
八万が1枚切れの上、中は2枚切れ。残り1枚の八万を求めにいったリーチでした。

これで困ったのは前原プロ。
なんと一発でラス牌の八万を掴んでしまいます。ここでオリに回らされます。

一方、寿人プロと前原プロのアガリがなくなりチャンスを得たのは私でした。
ツモに恵まれテンパイが入ると、寿人プロの現物待ちで前原プロからアガリとなりました。

二索二索三索三索五索五索八索八索三筒三筒六筒発発  ロン六筒  ドラ発

いやーそれにしても寿人プロのリーチには驚きました。結果はアガリには結び付きませんでしたが、このタイミングでのリーチが相手にどれほどのプレッシャーを与えるかを見極めたものであり、本当に素晴らしいと思いました。
森山プロと並び、天空麻雀3度の優勝を誇る寿人プロならではの、決勝を勝ち切るためのリーチでした。

続いて南1局。前局のアガリでトップ目に立った私にチャンスが訪れます。
9巡目に以下のテンパイが入ります。

四万五万六万三索四索五索六索七索八索八索四筒五筒北北  ドラ東

ここで私の選択は打八索のヤミテン。
三色同順の手変りを待ちつつ、確実にアガリをものにしようと考えたのでした。
結果は次巡、

四万五万六万三索四索五索六索七索八索四筒五筒北北  ツモ三筒

400・700のアガリとなりました。
アガリとはなったもののこの選択、書いていて自分でもちょっと情けなくなりました。
三色同順に手変わったとしても、安目でのアガリもあるので、一発裏ドラ有りのこのルールならば、ここはリーチの一手でした。
トップを決めうる高打点を狙うならば、北のトイツ落としをすべきであり、何とも中途半端な選択をしてしまいました。先ほどの、寿人プロの意志のこもったシャンポンリーチを見習って、今後もしっかりと勉強していかなければなりませんね。

さあ続いて局面は、南2局1本場。ここが1回戦最高に盛り上がった局となりました。
11巡目、序盤好調だったものの2着になってしまった前原プロからリーチが入ります。
その手牌はナント!

一万一万一筒一筒一筒赤五筒五筒西西西中中中  ドラ四索

四暗刻のテンパイでした。この局の結末は…
んー気になるところですが、今回のレポートはここまでとさせて頂きます。
みなさん続きは、是非「エンタメ~テレ」でお楽しみください!

この後も、トータルトップ目が何度も入れ換わる大熱戦でした。
さあ優勝は誰の手に。ではではみなさん、テレビの前でお会いしましょう!

放送スケジュール&詳細はこちらよりご確認ください。


「エンタメ~テレ」 HPはこちら

「天空麻雀11」 番組HPは こちら

特集企画/天空麻雀11 男性大会決勝レポート

tenku11_m_fin

トッププロ達が熱い戦いを繰り広げる天空麻雀も、今回で11回大会となりました。
現在、「エンタメ~テレ」で男性大会決勝戦が放送中となっています。
まだご覧になっていない方もいらっしゃると思いますので、少ーしだけですがその模様を紹介させて頂きます。

tenku11_m_fin

まずは決勝メンバーの紹介から。
A卓トップ通過は、過去10大会連続で予選敗退のない荒正義プロ。
今大会も安定感抜群の戦いで見事に決勝進出。
B卓トップ通過は、第8回大会以来2度目の優勝を狙う前原雄大プロ。
持ち前の大胆さと繊細さを兼ね備えた麻雀で、大激戦となったB卓を制し決勝進出。
準決勝からは、過去最多となる4度目の優勝を狙う佐々木寿人プロ。
予選では、あわや敗退という状況もあったが、圧倒的攻撃力を見せ逆転で準決勝へ進む。
勢いに乗った寿人プロ、準決勝では早々と当確ランプを灯し決勝進出。
もう1人は、2回目の出場にして嬉しい初の決勝への切符を手に入れた、私、勝又健志となりました。
第1戦東1局を制したのは前原プロ。
六万六万七万七万八万七筒七筒九筒九筒東東発発  ツモ八万  ドラ七筒
捨て牌に1つのかぶりもなく、最速のアガリをものにします。
先制点をあげた、前原プロの次局、
二索三索二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒七筒八筒九筒西西  ドラ一筒
ホンイツに向かう手も考えられますが、ここは相手にプレッシャーを与えるべくリーチにいきます。これが最高の結果に。跳満が狙える1シャンテンとなった寿人プロから一発で、
二索三索二筒二筒三筒三筒四筒四筒七筒八筒九筒西西  ロン四索  ドラ一筒  裏ドラ西
この12,000のアガリとなりました。
しかし、このまま前原プロの独走を許すわけにはいきません。この後は、反撃が始まります。
まずは、東3局1本場、親の前原プロが、
三万三万三万三筒四筒赤五筒五筒  チー四索二索三索  暗カン牌の背七万七万牌の背  ドラ中  カンドラ五筒
この12,000のテンパイをいれますが、私が前原プロから、
一万一万赤五万八万八万九筒九筒東東西西中中  ロン五万
この8,000をアガリます。
これは、前原プロの七万暗カンに対応して、早々と七対子に決め打った手がぴったりとハマり、自分でも大満足の一局でした。
続く東四索局は親の荒プロが、
四万五万三索三索四索四索五索五索六索七索八索発発  リーチ  ツモ三万  ドラ二索  裏ドラ八万
この2,000オールと前原プロを追いかけます。
さらに、東4局1本場、前原プロが、
一万一万一万四索六索二筒二筒三筒七筒九筒九筒東東  ドラ発
ここから東をポンすると、寿人プロからリーチが入ります。
二万三万四万赤五万五万五万八万八万九万四筒四筒四筒中中  打九万  リーチ
しかしこのリーチ、河を見るとなんと!!!
八万が1枚切れの上、中は2枚切れ。残り1枚の八万を求めにいったリーチでした。
これで困ったのは前原プロ。
なんと一発でラス牌の八万を掴んでしまいます。ここでオリに回らされます。
一方、寿人プロと前原プロのアガリがなくなりチャンスを得たのは私でした。
ツモに恵まれテンパイが入ると、寿人プロの現物待ちで前原プロからアガリとなりました。
二索二索三索三索五索五索八索八索三筒三筒六筒発発  ロン六筒  ドラ発
いやーそれにしても寿人プロのリーチには驚きました。結果はアガリには結び付きませんでしたが、このタイミングでのリーチが相手にどれほどのプレッシャーを与えるかを見極めたものであり、本当に素晴らしいと思いました。
森山プロと並び、天空麻雀3度の優勝を誇る寿人プロならではの、決勝を勝ち切るためのリーチでした。
続いて南1局。前局のアガリでトップ目に立った私にチャンスが訪れます。
9巡目に以下のテンパイが入ります。
四万五万六万三索四索五索六索七索八索八索四筒五筒北北  ドラ東
ここで私の選択は打八索のヤミテン。
三色同順の手変りを待ちつつ、確実にアガリをものにしようと考えたのでした。
結果は次巡、
四万五万六万三索四索五索六索七索八索四筒五筒北北  ツモ三筒
400・700のアガリとなりました。
アガリとはなったもののこの選択、書いていて自分でもちょっと情けなくなりました。
三色同順に手変わったとしても、安目でのアガリもあるので、一発裏ドラ有りのこのルールならば、ここはリーチの一手でした。
トップを決めうる高打点を狙うならば、北のトイツ落としをすべきであり、何とも中途半端な選択をしてしまいました。先ほどの、寿人プロの意志のこもったシャンポンリーチを見習って、今後もしっかりと勉強していかなければなりませんね。
さあ続いて局面は、南2局1本場。ここが1回戦最高に盛り上がった局となりました。
11巡目、序盤好調だったものの2着になってしまった前原プロからリーチが入ります。
その手牌はナント!
一万一万一筒一筒一筒赤五筒五筒西西西中中中  ドラ四索
四暗刻のテンパイでした。この局の結末は…
んー気になるところですが、今回のレポートはここまでとさせて頂きます。
みなさん続きは、是非「エンタメ~テレ」でお楽しみください!
この後も、トータルトップ目が何度も入れ換わる大熱戦でした。
さあ優勝は誰の手に。ではではみなさん、テレビの前でお会いしましょう!

放送スケジュール&詳細はこちらよりご確認ください。


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第13期九州皇帝位決勝戦二日目レポート

■7回戦(起家から、東谷・西原・浜上・藤原)

初日を終え、選手はどのような気持ちで眠りについたのだろう。
ひょっとしたら、眠ることすら困難だったのかもしれない。
それぞれの1年間の想いが濃縮された日の朝、初日を全力で闘ったという意味ではベストとは言えぬ身体を太陽の光が優しく包み込む。今日で皇帝位が決まるのだ。

2日目初戦の7回戦は東2局、最終日も東谷(西家)の華麗な1,300・2,600ツモアガリからスタートする。

五万五万五万四索五索九索九索白白白  ポン東東東  ツモ三索  ドラ五索

東谷は3巡目に二万をツモってきた場面、

五万五万七万九万二索五索九索九索東東南白白  ツモ二万  打七万

ここで打七万とする。二索南を抱えているのは、構想にホンイツを入れているからである。二万の孤立牌より七万九万ターツの方が部分だけみれば優れてるわけだが、東谷の打点も踏まえた構成では後に七万九万ターツを打ち出していくのを理想としていた。よってここでソーズや孤立字牌に手をかけず、更にはカンチャン六万の受けが残る打九万でもない打七万としたのは、私としては素晴らしいの一言。このように、アガリの完成形だけでは解らぬところに打ち手の意志が垣間見える。

東3局、今度は初日トップで終えた藤原にアガリが出る。

二万二万二万一索二索三索八索八索七筒七筒八筒八筒九筒  リーチ  ロン九筒  ドラ八索

東場を終えて、ポイント下位の浜上と西原が共に沈んだ状態で南場入り。2人にとっては苦しい展開となるが果たして・・・・

南1局、浜上(西家)がアッサリ2,000・3,900をツモる。

二万三万四万三索三索五索五索六索六索七索七索四筒六筒  ツモ五筒  ドラ二万

浜上はピンズを一筒九筒しか切っておらず、もしこれがリャンメンに振り替わっていたらリーチをしていただろう。しかし初日とは違い、あっさりアガリ牌を引き当てるあたり、本人は小さな変化、もしくは風のようなものを感じただろうか?

南3局、これに呼応するように西原が連続でアガリを決める。まずは以下、

二万三万一索二索三索五索六索七索三筒四筒五筒八筒八筒  リーチ  ツモ四万  ドラ四筒

次のアガリはオーラス、各者の持ち点は、
東家:藤原 29,700
南家:東谷 26,600
西家:西原 25,500
北家:浜上 38,200
こうなっている場面。

藤原がドラ色のソーズホンイツに走る中、東谷と西原がぶつかった。まずは西原が11巡目にテンパイを入れ、続いて東谷が15巡目に意を決しリーチ。

西原  一万二万三万四万五万六万八万九万四索四索五索六索七索  ドラ五索

東谷  一万一万七万八万九万一索二索七筒八筒九筒西西西  リーチ

西原は、親の藤原が七万を持ってきたら出ると読んでいる。また、巡目が深くなったこともあり、ソーズをどこまで打ち出すのかも相談しながら、必死に気配を殺してヤミにしている。東谷は捌くだけなら違う手組みやヤミの選択も出来た訳だが、本人にそんな気は更々なかった。ラスを覚悟した上での、ハイリスク・ハイリターンを狙う。そして、東谷がリーチをした巡目に、西原のところに七万が舞い降りた。これによりトータルポイント下位2人のワンツーで2日目がスタートする。

晴天のまぶしさの中、商売っ気に溢れた街の一角で、
密かに上位2名には暗雲が立ち込めた・・・・。

7回戦成績
浜上+14.2P  西原+8.4P  藤原▲8.2P  東谷▲14.4P

7回戦終了時
藤原+58.7P  東谷+24.2P  西原▲41.4P  浜上▲41.5P

■8回戦(起家から、浜上・西原・藤原・東谷)
まずは東2局、藤原(南家)と西原(西家)の本手がぶつかる。

藤原 三万三万三万五万五万八万八万八万六筒六筒  ポン六索六索六索  ドラ八索

西原 七万七万七万九万九万三筒三筒三筒中中  ポン四筒四筒四筒

両者ともトイトイでドラ無し。そして河にドラは放たれていない。
リーグ戦1位通過の西原と、2位通過の藤原が(相手の手牌にドラがトイツ以上であるかもしれないという不安なぞ入り込む余地もなく)自分の育てた手を信じ、ただただ真っ直ぐ不要牌を打ち出し、遂に最終巡目に藤原が西原から六筒でロンアガリした。

続く東3局は、西原(北家)が土俵際の踏ん張りで3,900をアガリ、東4局も果敢にリーチ。

一万二万五万六万七万一索二索三索一筒二筒三筒西西  リーチ  ドラ五筒

このリーチに気配殺して水面下で藤原を引きずり下ろさんとする東谷(東家)がヤミテンを入れる。

三筒三筒四筒六筒七筒七筒八筒八筒八筒北白白白  ツモ五筒

北とする。東谷はまだ三万四万のターツがある4巡目に、2枚切れの中と1枚切れの白中をリリースしている。はっきりとタンピンが見える手牌なだけに、先に白を処理する打ち手も少なくないが、次巡、白を重ね、迷わず三万四万のターツに手をかけた。大きく成長した東谷を、私は何度見たことだろう。そして西原が持ってきた牌は息をひそめた東谷のアタリ牌である七筒であった。

三筒三筒四筒五筒六筒七筒七筒八筒八筒八筒白白白  ロン七筒

東4局1本場、藤原(北家、39,100持ち)が何食わぬ顔でリーチと発声。手牌を見ると、

七万七万九万九万二索二索四索四索四筒四筒五筒五筒南  リーチ  ドラ一筒

なんと七対子である。私はトータルトップの者なら、この持ち点で七対子のテンパイがくれば、ドラを持ってきた時のことや、局を1局でも低リスクで進めることを考えてヤミが普通であると考えている。しかも南は生牌である。それを藤原はいとも簡単にリーチと言ったのだ。他の3人が私と同じような考えなら、一体このリーチはどう映るだろう?

(凄くいい待ちなのか?打点は高いのだろう。)

色んな思考が頭をよぎり、そして次の瞬間からは対応を強いられることになる。藤原は初日から、ただただ自分の手牌に真っ直ぐであり、手役を追い、形になった時には純粋にアガリに向かう、という麻雀を打っている。だがその影に、ひょっとしたらこう打てば、こういう仕掛けをすれば、相手がどう対応するか?まで計算されていたのかもしれない。私は無表情でNをツモる藤原を見ながら、恐怖にも似た底しれぬ不安を抱いた。

そして南3局、藤原(東家、46,600持ち)の羅針盤がある方向でピタッと止まる。

五索五索八索二筒二筒四筒四筒四筒五筒六筒六筒八筒発  ドラ北

上記の牌姿から7巡目に藤原は二筒をポンする。次巡、ツモ二万で藤原の手が止まった。

五索五索四筒四筒四筒五筒六筒六筒八筒発  ポン二筒二筒二筒  ツモ二万

全体の河を見ても、さほどマンズの下が良いようには思えない。が藤原のアンテナはここからまさかの打五筒とさせる。シャンテン数も落とし、ピンズのチンイツを捨てる打牌。この不可思議な打牌は数巡後に以下になる。

二万二万二万五索五索四筒四筒四筒六筒六筒  ポン二筒二筒二筒  ロン六筒

西原のメンタンピンイーペーコーのリーチ宣言牌を捕えての7,700。
衝撃とも言えるこのアガリ。藤原という男には一体何が見えているのだろう?
4人の手牌を自由に見ることができる私でさえも、この二万はキャッチ出来ていない。しかし、これが偶然の打牌ではないことは、重なるかどうか分からない二万を抱え、ピンズのチンイツを消す打牌をする意味を考えたらわかっていただけると思う。観戦記者として説明が出来ない自分が歯がゆいが、確かに藤原にはこの二万が見えていた。
そしてその羅針盤は、決勝という荒波の大海原の中で優勝の方角を指している。

8回戦成績
藤原+32.3P  東谷+7.8P  浜上+2.4P  西原▲42.5P

8回戦終了時
藤原+91.0P  東谷+32.0P  浜上▲39.1P  西原▲83.9P

■9回戦(起家から、浜上・藤原・東谷・西原)
決勝も残り4半荘。トータルポイントで西原にもうマイナスは許されない。それは浜上もさほど変わらず、唯一東谷だけが、距離を計りつつ闘える位置にいる。その中で各自がどのような心境と共に展開を繰り広げるかが注目される。

東1局、浜上(東家)がテンパイ即リーチ。

一万一万五索七索一筒二筒二筒三筒三筒四筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ五索

チャンタやイーぺーコー、ホンイツを付けたかった。それでもツモが効かずやっと入れたテンパイだから、といったところか。これに東谷(西家)が二索を1枚勝負して追いつく。

一索二索三索四索五索六索六索七索八索九索  ポン東東東

そして藤原が手牌に2人の共通安全牌を切らしたところに、仕方なく浜上の現物である九索を打ち出し、東谷はようやく藤原から直撃することに成功した。

南1局、ここまで幾度となくアガリを阻まれてきた浜上(東家)にやっと風が吹く。

四索五索五索五索五索六索七索八索九索南  ポン中中中  ツモ南  ドラ五索

この6,000オール。次局、下記の配牌から、

一万五万七万八万二索七索七索八索九索一筒二筒四筒五筒五筒  ドラ七万

七万八万九万二索二索二索七索八索九索四筒四筒八筒九筒  リーチ  ツモ七筒

こう仕上げて、4,100オールで一気に60,000到達。どこまで盛り返す?

そんな空気に包まれた南1局2本場、浜上の連荘を阻止するべく東谷(西家)がリーチを打つ。

捨て牌 九索九筒六筒四万六万四索一筒七万←リーチ

二万二万五万五万八万八万三索三索七索七索四筒七筒七筒  リーチ  ドラ四筒

ドラ単騎の七対子だ。河も変則手模様を醸し出していて、なかなか他の3人も行きづらいリーチである。それでも浜上は(ここは全て行く)と腹を決め、生牌の白を打ち出す。

すると、ここまでおとなしかった西原(北家)がこれをポンして打西。西原は、更に次巡も打西とする。全て行くつもりだった浜上だが、西原の仕掛けと打ち出された牌を見て、場の異様さに気付く。
西家である東谷のリーチは変則手模様である。それに対し、西原は打西と1枚押すならわかるが、トイツ落としは何か解せないと読んだのだ。つまり西のトイツ落としをしてまでも押す理由はそれ相当の絵が入っていることになり、この瞬間、浜上は(どうしても1人浮きが欲しい)という欲求を抑え、ここで我慢して引く決断をする。

【浜上の足を止める為】にリーチを打った東谷。【どうしても1人浮きが欲しくて】オリを決断した浜上。
西原の手牌が開かれた時、2人の思考から導き出された1つの展開(選択)が2人の明暗を分けた・・・・・。

二万二万三万四万五万発発発中中  ポン白白白  ロン中

西原の大三元である。放銃したのは東谷だった。
浜上の手牌には今にも場に出そうかとしていた中があった。東谷がリーチと来た時、浜上は全てぶつける心算でいたはずだが、それ以上の覚悟を持って向かっていく西原の熱が、逆に浜上に冷静さを取り戻させた。
東谷にとっては、この結末は意識の外だったろう。浜上の連荘を止めたい。ただその一心で打ったリーチが、思わぬ結果を生んでしまったのだから。

その後、東谷はこの半荘の流局以外の全ての局で放銃することになる。ここまで積み上げてきた東谷の、技術が成し得たアガリも、会心のツモも全てが1つのリーチで無に戻った瞬間だった。
一生懸命平常を装おうとする東谷に、「去年の雪辱を果たすならここからが勝負だ。」と、私は観戦記者の立場でありながら、心の中で東谷にそう声をかけた。
麻雀は本当に孤独な競技である。誰も東谷の肩代わりは出来ないのだから、東谷は自分の足で再び卓上に上がるしかないのだ。最終的にその時に背中を押してくれるのは過去の自分しかいない。いくつもの敗戦の度、流した涙と汗の量だけが自身を再び闘いの舞台へといざなう。

9回戦成績
浜上+38.3P  西原+31.5P  藤原▲10.6P  東谷▲57.2P

9回戦終了時
藤原+80.4P  浜上▲0.8P  東谷▲27.2P  西原▲52.4P

■10回戦(起家から、藤原・東谷・浜上・西原)
残り3半荘。今まで2対2の並びが、今回から1対3の構図になった。1人抜けている藤原を捕えるには、追う3人が包囲網を引く必要がある。でなければ、ただでさえ心身ともに充実している藤原を、残り3半荘で捕えるのは難しく感じる。

東1局、東谷(南家)が意地を見せる。9巡目にテンパイし、14巡目に藤原(東家)が中をツモ切った局面。

一索一索二索二索四索四索六索六索東東北北西  ツモ中  ドラ二万

まさに今、藤原が何食わぬ顔で切った中に待ちを変更。山越しだ。東谷は心の中で「もう1枚掴めっ!」と念じる。だがなんと直後の西原のツモが中で、たった今、藤原が切った中なだけに西原は止める理由がなく、東谷に放銃してしまう。東谷は打ち取りたい相手ではなかったにしても、贅沢は言えない立場でこれをロンアガリする。私が東谷と同じ立場でもこれは同じ選択をしたと思う。

だが、現実問題、藤原とのポイント差は100Pを超えている。だとすれば、西原が切った中をスルーして、次巡ツモ切りリーチも面白かったかもしれない。そうすれば、ひょっとすれば。それぐらいの予想しか出来ないがあるいは、藤原にその中がきても藤原は打ち出していたかもしれない。

東2局、東谷(東場)が8巡目に以下の捨て牌と牌姿でリーチ。

捨て牌 南五筒三筒五索四筒八万九索三万←リーチ

二万二万四万四万六万六万七万七万一筒二筒二筒九筒九筒  リーチ  ドラ東

ドラはないが、どうにも山にいそうな七対子の一筒待ち。しかしこれも藤原(北家)からでなく浜上(南家)からの打ち取り。前の半荘の結果に精神が揺さぶられているはずの東谷。それを必死で抑え、諦めない姿勢が熱を帯びて会場の温度が高く感じる。

東2局1本場、観戦者の誰もが追う3者の熱に残りの半荘が接戦となることを期待する。そんな中で今度は浜上(南家)から9巡目のツモの声。

一万九万九索一筒九筒東東南西北白発中  ツモ一索  ドラ南

「8000・16000は、8100・16100。」

浜上の手牌を観戦していなかったものは誰もが驚いたであろう。まるで300・500をツモったかのようなトーンの発声で、舞い降りた鳳凰を静かに見つめ手牌を倒す浜上。
今から遡ること数カ月前、浜上は王位戦の本戦でも絶望的な状況南3局から、倍満、役満と立て続けにアガリ、勝ち上がりを決めた一幕がある。しかも、その役満もラス牌を一発ツモであった。どうして?こんな事が?もはや観戦者も、対局者である本人達でさえも、目の前に起きた現象を冷静に受け止められるものは1人もいないように思えた。
ただただ浮かび上がる疑問と、(この男ならあるいは逆転も・・・・・)という期待と不安だけが、この場の空気を支配していった。唯一、浜上だけが冷静な面持ちでサイコロを振る。

東3局1本場、東谷(北家)が以下の牌姿でリーチといく。

二索二索五索五索六索六索七索三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ六万

これを西原から安めの四索でロンアガリ。浜上の国士無双を親被りした東谷だが、早々に原点復帰を果たす。

東4局、またしても東谷(西家)がリーチ。

七万七万六筒六筒八筒九筒九筒二索二索発発中中  リーチ  ドラ三索

これも浜上からロンアガリし3,200加点する。東谷は手を作り果敢にリーチにいくもトータルトップの藤原からは、当然アタリ牌は出てこない。

この時私は、トータルポイントと残りの半荘数を考慮して、既に執拗に直取りしていかないといけない局面に来ているのでは?と思ってみていたが、他の観戦者や皆さんはどう感じているだろうか?

この半荘を終えると、残る半荘は後2回。それで100Pを捲るのは、かなりハードルが高い。しかも、それほどまでに引き離された現実も含めると、ただリーチで打点を上げるだけの作戦を選んだのは正直、少々疑問を感じる。決勝の舞台にすら残っていないお前が何言っている?こんな言葉を浴びせられるかもしれないが、私は東谷の取ったこの作戦は九州本部全体の課題だと思っている。麻雀の性質上、結果としてポイントを大きく離された状態で終盤戦に入るのは今後、幾度となく出てくるだろう。そういった時に、対局者の目的がみな【優勝】という1点で一致しているならば、どのように闘うか?は非常に大きなテーマであり、みんなで真剣に考えるべき課題だ。
地方の中では、非常に大きな部類に入る九州であるからこそ、今後はこういう課題にみなで真剣に考え、取り組みながらひとつの大きなモノを作り上げていくというのが私たちの使命だと思う。

南3局、ついにここまで攻め続けた東谷(北家)と藤原(西家)がぶつかる。
東谷が10巡目に以下でリーチをすれば、

四万四万五万六万四索五索五索六索六索七索五筒六筒七筒  リーチ  ドラ西

藤原が以下の牌姿で押し返す。

四万五万六万七万七万南南  チー一万二万三万  暗カン牌の背白白牌の背

正にがっぷり4つの形相。藤原はこの半荘1度もアガることはなく、1度も放銃することもなかったが、おかげで点棒は21,000まで落ち込んでいた。それでもこの手牌は見方によれば、白を暗カンしなくてもいいかもしれない。

道中、ソーズの三索四索ターツ落としをせず、打点を作りにいかず、捌くだけの局、もしくは半荘にしてもよかっただろう。だが、藤原はこの2日間一貫して、自分が描くアガリ形を崩すことなく打ち続けた。そして絵になった時は、ただただ自分の打牌に対して素直に真っ直ぐ押した。結果は、藤原が力強く南をツモアガリ。

四万五万六万七万七万南南  チー一万二万三万  暗カン牌の背白白牌の背   ツモ南

もともと破壊力に定評があった藤原だが、こうして2日間観戦記者をさせて頂くと、藤原の強さが細分化され、私にもハッキリわかるようになった。自分の構想力を信頼しているからこそ、我慢する局面でジッと耐えることが出来る。反対に構想通りになった時はどこまでも押せる。その強さを改めて感じさせられた。そして藤原のアガリには半荘を決定づけるものが多く、そうした彼の打ち方そのものがこれだけのポイントをかき集めた1つの要因だと言えるだろう。

だが、10回戦はオーラスに西原(東家)が奮起して浜上の1人浮きに終わった。
藤原はあまりポイントを減らさずして残り2回を闘えるが、すぐ後ろには浜上が来た!
既に射程圏内だ。

10回戦成績
浜上+37.7P  藤原▲6.0P  東谷▲12.5P  西原▲19.2P

10回戦終了時
藤原+74.4P  浜上+36.9P  東谷▲39.7P  西原▲71.6P

■11回戦(起家から、東谷・西原・浜上・藤原)
東1局、初日から苦しい闘いの末、遂に藤原の背中が見えた浜上(西家)が8巡目に早くもリーチ。

一万二万三万五万六万八索八索八索三筒四筒五筒七筒七筒  リーチ  ドラ七筒

これに東谷(東家)が次巡、待望の六万を引き入れて、渾身のリーチ。

四万五万六万七万七万二索三索四索五索六索四筒五筒六筒  リーチ

ツモれば2,000・3,900の浜上。一索ならロンアガリでも親満の東谷。観戦者の方々はどちらにもアガって欲しい、もしくは結果が見たくない、そんな気持ちに自然となっただろう。
結果、軍配は東谷が一索で浜上からロンアガリ。その顔からはまだ諦めてはいない表情が見てとれる。悔しい想いをした去年、あれからたった1年であるかもしれない。だが東谷の中では大きな1年であり長い長い1年だったろう。今、全身全霊で持っている力を全てぶつける。その瞳が追う浜上と逃げる藤原を見つめた。

東2局、西原(東家)の10巡目、

三万三万一筒一筒  ポン二筒二筒二筒  ポン四筒四筒四筒  ポン中中中  ドラ一筒

これに遅れること4巡、浜上(南家)が追いつき、リーチを打つ。

五万六万一索二索三索四索五索六索六索七索八索一筒一筒  リーチ

だが、これは親の本手を警戒してヤミにしていた東谷(北家)に捌かれる。

東3局、親は浜上。今回が勝負と言っていた浜上は、この半荘でマイナス終了すれば条件はかなり厳しくなる。東1局にリーチを打った本手も思わぬ形で破られ、前局も捌かれた。追い上げる浜上に期待をしている観戦者とは裏腹に、本人には重い重圧がのしかかっていると思う。
それを象徴するかのように、浜上は4巡目に早くも以下の牌姿から

一索一索四索五索六索九索九索四筒五筒西白中中  ドラ七万

九索をポンする。いつもはメンホンやメンホン七対子になれば良しの構えでこの九索はスルーする浜上もこの親番だけは絶対落とせない、という気持ちの表れだろう。そのポンに東谷(西家)のツモが効き、本手に成就させぶつける。

四万四万五万六万七万三索三索四索四索五索三筒四筒五筒 リーチ ツモ五索

高目五索ツモの3,000・6,000。10回戦のリーチ構成の賛否は置いておき、この終盤に来ての東谷の手作りとぶつけ方はすさまじいものがあった。中には道中安いテンパイを拒否した牌姿もあり、その中でこれほどの足が使えるのは気迫のなせる技なのか?と思ってしまう。
だが、トータルトップの藤原は3着目の東谷が走る分には構わないと思っているだろう。だからこそ10回戦同様、我慢する局面はジッと我慢する。

東4局1本場、藤原は7巡目にドラ三索のリーチ。

五万六万七万八万八万八万二筒二筒五筒五筒五筒七筒八筒  リーチ  ドラ八万

10巡目に西原(西家)が追い掛けリーチを打つも、

一万一万六万七万八万三索四索五索七索八索九索三筒四筒  リーチ

西原の二筒五筒は、藤原だけで5枚持たれていて非常に苦しい。結果は、やはりというべきか六筒を持ってきて12,000の放銃になってしまった。ひと叩きで40,000点を超えた藤原、
つづく2本場はなんと3巡目にリーチ。

一万一万七万八万九万一索二索三索五索六索七索中中  リーチ  ドラ六万

今度は、浜上が一万で放銃し、藤原は更に加点する。
押せ押せムードとなった3本場だが、今度はこの手をヤミに構え、

四索五索二筒二筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒発発発  ドラ八筒

浜上からロンアガリする。
そして4本場、7巡目テンパイ。ヤミに受け、放銃者は東谷。

四万五万六万六万二索三索四索二筒二筒二筒六筒七筒八筒  ドラ八万

この時点で、藤原は持ち点53,000を超えた。12,000を放銃した西原。
藤原に安全圏に行かれ優勝が遠のいた東谷。持ち点が4,300しかない浜上。

対局者は、麻雀とは思うように行かない競技だというのをわかっているからこそ、どこかで負けを意識するだろう。どうしても欲しいものが手に入らない時、たいていの人はどこかで諦める。だが、ここに座っている4人は『麻雀だけは』という気持ちでプロとして歩んできた。心のどこかで押し寄せる負けの意識に対し、それでも尚、最後まで闘うとは一体どういうことなのだろう?と、私は筆を走らせながら、自分で考えてみると同時にとある先輩の一言を思い出していた。

「俺達は、アスリートであり表現者でなければいけない。普段やっているトレーニングや訓練を卓上で表現するこということは、ある意味勝ち負けより重要じゃないか?」

プロであるから結果が全てであり、勝つことが絶対であるのが勝負の世界。私たちはこれを誰もが目を背けてはいけないことだと捉え、自問自答しながら闘っている。それでも私は、上記の先輩の言葉に響くものがあった。
そのような先輩の言葉をお借りするなら、負けを意識しても尚、闘うことは何かを表現することであり、ある意味、その意志や気持ちは勝負の外側に存在するのでは?と。

11回戦は、東場に点棒を集めた藤原と東谷の2人浮きで終わる。各自のポイントから考えても、トータルトップの藤原を逆転するのは、条件としては簡単とは言えない。それでも4人は次が最後の闘いであるのを理解した上で、乾いた喉に水を流し込んだ。

11回戦成績
東谷+57.4P  藤原+14.8P  西原▲18.9P  浜上▲53.3P

11回戦終了時
藤原+89.2P  東谷+17.7P  浜上▲16.4P  西原▲90.5P

■最終12回戦(起家から、東谷・浜上・西原・藤原)
これが最後の半荘。現実的に厳しい西原を除けば、東谷も浜上も、もう前に出続けるしかない。
東1局は東谷の親番。3巡目に1シャンテンで以下。

三万四万五索六索七索三筒三筒五筒五筒七筒南南南  ドラ三万

親でこの手牌ならどこがどう来てもリーチであろう。頭の中は、どれでもいい早くテンパイしたいと思っていることだと思う。しかし、なんとここから東谷は無情にも、ソーズを三索四索五索に変化させただけで、残りツモ15回を12回ただただ河に並べただけでノーテンに終わってしまった。本人のこれまでの闘い方を見れば、まだ南場の親があるなどとは1ミリも思ってないだろう。辛く悲しい気持ちがよくわかる。

東2局1本場 浜上(東家)が14巡目、やっとテンパイ。

三万三万五万六万七万六索七索三筒四筒五筒六筒七筒南  ツモ八索  ドラ南

テンパイ打牌のドラの南は4巡目に持ってきてから、ずっと抱えていた牌である。
これがまだ中盤戦なら、どこかでリリースしていたかもしれないが、最後まで引っ張ったのは放銃するリスクが高くなってでも、雀頭の振り替わりに重きを置いていた証拠である。
18巡目の最後のツモで二筒をツモり1,300は1,400オール。
これが早い巡目なら浜上は、八索切りのフリテンリーチを打っていただろう。

東2局2本場、浜上はなんとしても親を落とすわけにはいかない。
8巡目に以下でテンパイし、

三万四万五万六万六万七万八万九万二索三索四索四筒五筒  ドラ六筒

三万六万を持ってくればタンヤオに、五索を持ってくれば高目三色に変化するのでヤミ。
2巡後、三万を引き入れて、タンピンになったところでリーチを打つが、これは1人テンパイの流局。

東2局3本場、今度はテンパイ即リーチを打つ。

三索三索六索七索八索九索九索九索東東東西西  リーチ  ドラ八筒

変則的な捨て牌模様で、ヤミでもツモれば親倍だが、リーチを選択したのは、対局者を自由に打たせたくなかったのが一番の理由か?いや、ひょっとしたらそんな損得勘定とは別の、ある種の意志として打ったリーチかもしれない。これを西原から三索でロンアガリし、18,000は18,900の加点。

東2局4本場、逆転が現実的になってきた浜上の配牌。

五万六万一索四索九索一筒一筒二筒四筒九筒南西発中  ドラ一筒

決して軽いとは言えないものの、ドラがトイツのチャンス手。なんとしても決めたい。
この手が形になってきた11巡目、

五万六万四索五索五索一筒一筒四筒五筒南南発中  ツモ六筒  打五索

目いっぱい構えるというなら発中が最もマジョリティだろうか?
それでも浜上は字牌を抱え、他者の捨て牌からそろそろテンパイを入れるものがいるだろうと踏んで、ここで手牌をスリムのする為に五索を先に処理する。
すると、この五索が藤原になんと1巡だけ間に合わず、放銃となってしまった。

二万三万四万八万八万三索四索一筒二筒三筒七筒八筒九筒  ロン五索

東3局も藤原が2,000のチーテンを入れ捌く。優勝に向けて、確実に一歩一歩階段を上る姿勢、今まであれだけ放銃を恐れず真っ直ぐな打ち筋をしてきた藤原が、石橋を叩くほどの慎重さがここにある。

東4局、その慎重な藤原からロンアガリしたのが浜上。

三万四万五万六万八万四索四索二筒二筒二筒三筒三筒三筒  ドラ四索  ロン七万

タンヤオドラ2の5,200である。トータルトップの藤原からなので上下差10,400点縮めたことになる。浜上の最初のテンパイは8巡目と早く、六万九万でありタンヤオが付いてない形であった。ドラが2枚あることを考えれば、リーチの選択もおかしくはない場面だが、よもやのツモ四索やツモり三暗刻の変化などを考慮しロンアガリの効かないヤミを選択していた。そして13巡目にやっとツモ六万でタンヤオが付いてのアガリである。

南場入りした時点で各自の持ち点は、
東谷:26,600
浜上:57,100
西原:5,700
藤原:30,600
となっている。

南1局、最後の東谷の親は浜上がピンフで捌く。
思えば、東谷は手役を作ることに重点を置き、常に踏み込むことを恐れず闘ってきた。そういった側面では藤原と似たような戦術であったが、道中のちょっとした選択があの大三元放銃を生んでしまった。私はその布石として5回戦東2局の連荘中の藤原にいずれも生牌のダブ東と発をぶつけた時の心境を挙げた。あの時、ポイントではまだまだ優勢だった東谷だが、内情は展開の怪しさに焦りを感じていたのだろう。それが大三元放銃の局面にも浜上の連荘を止めたい一心で打った七対子ドラ待ちのリーチにも同じように感じられた。ドラだからヤミに構えても出てくることはあまり期待出来ない。自分の河が変則手だからリーチを打てば対応するだろう。色々なメリットと思える思考が、三元牌が場に顔を見せていないというわずかな危険察知を霞めさせ、大局観としてリーチで蓋をする選択をした。
その他の局面では素晴らしい闘牌を見せていただけに、たった1つの選択が致命傷となったケースとしては非常に無念でもあるだろう。東谷は2年連続で優勝に手が届かなかったが、この経験を彼は必ず活かしてくると私は思っている。競技麻雀のわびさびとも言えるべき深い構想力も、ちょっとした選択で生まれた大三元放銃も、今の東谷を象徴する出来事だった。

南2局、東谷が親落ちした今、ポイントから考えて逆転の可能性はほぼ浜上しかいない。それでも東場の浜上の親を自らの手で落とした藤原が、息の根を止めにきた。

五万六万六万七万七万三筒四筒五筒五筒六筒七筒八筒中中  リーチ  ドラ九索

7巡目の早いリーチであり、ドラは無いが待ちとしては充分だ。
この時1シャンテンだった浜上。無筋を2枚押し、10巡目にテンパイを入れ追いかける。

一万一万八万八万七索八索九索三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ

五万なら藤原に放銃で終了。八万なら続行だ。そしてリーチ一発目に持ってきたのは八万だった。

同2本場、5巡目に藤原がリャンメンのチーから入る。

三万三万五万七万七万二索二索三索九索三筒四筒  チー六筒七筒八筒  ドラ八万

仕掛けた方が早そうではあるが、上家の西原(南家)は自身の優勝がなくとも有効牌をそう簡単に下ろしたりはしないだろう。それでもこの仕掛けを入れたのは、やはり追われる側の不安ということなのだろうか?ましてや前局は浜上に待ち牌である八万をツモられているから嫌な感触もあるだろう。このリャンメンチーの仕掛けを見て浜上も遠いところから仕掛けるが、結果は2人テンパイの流局。

同3本場、4巡目の浜上の手牌。

二万五万五万七万二索二索四索二筒四筒六筒七筒七筒八筒  ツモ四万  ドラ六筒

少し前ではあるが「ポンよし。チーよし。ポンチーよし。」という言葉があったと思う。
要するに、チー出来る部分、ポン出来る部分、ポンもチーも出来る部分で手組みをしていたら効率的には大丈夫だ、というようなことだったと記憶しているが、この四万をツモってくる前から浜上の手牌にある二万は、当然234の三色を意識してのものだろう。ツモ四万ときたら落とせない親だけに打二万としたくなるが、浜上は打七万とした。
14巡目、浜上がツモ切った南に藤原がポンテンを入れる。

二万二万三万四万六万七万八万二筒二筒三筒三筒南南

二万とし、この二万で今度は浜上がポンしてテンパイ。

五万五万五万二索二索二筒四筒六筒七筒八筒九筒  ポン二万二万二万

九筒とするが、またしても2人テンパイの流局。浜上はあの時打二万としていたら少なくともこのテンパイはできていなかった。

同4本場、13巡目と決して早くないが浜上がリーチをする。

三万三万三万一索二索三索七索八索二筒三筒四筒五筒五筒  リーチ  ドラ一索

そして2巡後に九索をツモアガリ。これで持ち点が79,300になった。

同5本場、親の第1打の西を藤原がポン。

六万七万一索二索二索九索五筒七筒東南西西北  ドラ三筒

これも良い形とは言えなかったものの、遂には9巡目に、

六万七万八万二索二索二索五筒五筒七筒八筒  ポン西西西  ツモ六筒

これで決着がついた。

その後、南4局は藤原の400・700ツモアガリ。
最終戦オーラスはノーテンとし、これにて全対局は終了した。

12回戦成績
浜上+59.9P  藤原▲3.7P  東谷▲14.0P  西原▲42.2P

第13期皇帝位戦決勝結果
優勝:藤原+85.5P  準優勝:浜上+43.5P  3位:東谷+3.7P  4位:西原▲132.7P

 

藤原は下馬評を覆し、見事な闘いっぷりで栄冠を掴んだ。
藤原の雄姿を一目見ようと、故郷である山口県から藤原の多くの友人が応援に駆けつけていたのがとても印象的だった。これにより皇帝位は初めて関門海峡を渡ることとなる。

対局者のみなさん、2日間の長き闘いお疲れ様でした。
また決勝に残れなかった身でありながら、みなさんの麻雀をほとんどの部分主観で表現しましたことどうかお許し下さい。

そしてお付き合い下さった読者の方、九州本部は今、プレイヤーの年齢が非常に若くまだまだこれからの組織です。個々の麻雀の技術の向上や雀風の確立とは別に、文中でも申し上げました通り、プロ団体として九州本部全体で考える課題も数多くあります。
しかしながら、私達はこれに臆することなく一歩一歩前進していきたいと思っております。
どうか今後とも暖かい目で見守って下さいますようよろしくお願いします。
最後まで読んで下さりありがとうございました。

九州プロリーグ レポート/第13期九州皇帝位決勝戦二日目レポート

■7回戦(起家から、東谷・西原・浜上・藤原)
初日を終え、選手はどのような気持ちで眠りについたのだろう。
ひょっとしたら、眠ることすら困難だったのかもしれない。
それぞれの1年間の想いが濃縮された日の朝、初日を全力で闘ったという意味ではベストとは言えぬ身体を太陽の光が優しく包み込む。今日で皇帝位が決まるのだ。
2日目初戦の7回戦は東2局、最終日も東谷(西家)の華麗な1,300・2,600ツモアガリからスタートする。
五万五万五万四索五索九索九索白白白  ポン東東東  ツモ三索  ドラ五索
東谷は3巡目に二万をツモってきた場面、
五万五万七万九万二索五索九索九索東東南白白  ツモ二万  打七万
ここで打七万とする。二索南を抱えているのは、構想にホンイツを入れているからである。二万の孤立牌より七万九万ターツの方が部分だけみれば優れてるわけだが、東谷の打点も踏まえた構成では後に七万九万ターツを打ち出していくのを理想としていた。よってここでソーズや孤立字牌に手をかけず、更にはカンチャン六万の受けが残る打九万でもない打七万としたのは、私としては素晴らしいの一言。このように、アガリの完成形だけでは解らぬところに打ち手の意志が垣間見える。
東3局、今度は初日トップで終えた藤原にアガリが出る。
二万二万二万一索二索三索八索八索七筒七筒八筒八筒九筒  リーチ  ロン九筒  ドラ八索
東場を終えて、ポイント下位の浜上と西原が共に沈んだ状態で南場入り。2人にとっては苦しい展開となるが果たして・・・・
南1局、浜上(西家)がアッサリ2,000・3,900をツモる。
二万三万四万三索三索五索五索六索六索七索七索四筒六筒  ツモ五筒  ドラ二万
浜上はピンズを一筒九筒しか切っておらず、もしこれがリャンメンに振り替わっていたらリーチをしていただろう。しかし初日とは違い、あっさりアガリ牌を引き当てるあたり、本人は小さな変化、もしくは風のようなものを感じただろうか?
南3局、これに呼応するように西原が連続でアガリを決める。まずは以下、
二万三万一索二索三索五索六索七索三筒四筒五筒八筒八筒  リーチ  ツモ四万  ドラ四筒
次のアガリはオーラス、各者の持ち点は、
東家:藤原 29,700
南家:東谷 26,600
西家:西原 25,500
北家:浜上 38,200
こうなっている場面。
藤原がドラ色のソーズホンイツに走る中、東谷と西原がぶつかった。まずは西原が11巡目にテンパイを入れ、続いて東谷が15巡目に意を決しリーチ。
西原  一万二万三万四万五万六万八万九万四索四索五索六索七索  ドラ五索
東谷  一万一万七万八万九万一索二索七筒八筒九筒西西西  リーチ
西原は、親の藤原が七万を持ってきたら出ると読んでいる。また、巡目が深くなったこともあり、ソーズをどこまで打ち出すのかも相談しながら、必死に気配を殺してヤミにしている。東谷は捌くだけなら違う手組みやヤミの選択も出来た訳だが、本人にそんな気は更々なかった。ラスを覚悟した上での、ハイリスク・ハイリターンを狙う。そして、東谷がリーチをした巡目に、西原のところに七万が舞い降りた。これによりトータルポイント下位2人のワンツーで2日目がスタートする。
晴天のまぶしさの中、商売っ気に溢れた街の一角で、
密かに上位2名には暗雲が立ち込めた・・・・。
7回戦成績
浜上+14.2P  西原+8.4P  藤原▲8.2P  東谷▲14.4P
7回戦終了時
藤原+58.7P  東谷+24.2P  西原▲41.4P  浜上▲41.5P
■8回戦(起家から、浜上・西原・藤原・東谷)
まずは東2局、藤原(南家)と西原(西家)の本手がぶつかる。
藤原 三万三万三万五万五万八万八万八万六筒六筒  ポン六索六索六索  ドラ八索
西原 七万七万七万九万九万三筒三筒三筒中中  ポン四筒四筒四筒
両者ともトイトイでドラ無し。そして河にドラは放たれていない。
リーグ戦1位通過の西原と、2位通過の藤原が(相手の手牌にドラがトイツ以上であるかもしれないという不安なぞ入り込む余地もなく)自分の育てた手を信じ、ただただ真っ直ぐ不要牌を打ち出し、遂に最終巡目に藤原が西原から六筒でロンアガリした。
続く東3局は、西原(北家)が土俵際の踏ん張りで3,900をアガリ、東4局も果敢にリーチ。
一万二万五万六万七万一索二索三索一筒二筒三筒西西  リーチ  ドラ五筒
このリーチに気配殺して水面下で藤原を引きずり下ろさんとする東谷(東家)がヤミテンを入れる。
三筒三筒四筒六筒七筒七筒八筒八筒八筒北白白白  ツモ五筒
北とする。東谷はまだ三万四万のターツがある4巡目に、2枚切れの中と1枚切れの白中をリリースしている。はっきりとタンピンが見える手牌なだけに、先に白を処理する打ち手も少なくないが、次巡、白を重ね、迷わず三万四万のターツに手をかけた。大きく成長した東谷を、私は何度見たことだろう。そして西原が持ってきた牌は息をひそめた東谷のアタリ牌である七筒であった。
三筒三筒四筒五筒六筒七筒七筒八筒八筒八筒白白白  ロン七筒
東4局1本場、藤原(北家、39,100持ち)が何食わぬ顔でリーチと発声。手牌を見ると、
七万七万九万九万二索二索四索四索四筒四筒五筒五筒南  リーチ  ドラ一筒
なんと七対子である。私はトータルトップの者なら、この持ち点で七対子のテンパイがくれば、ドラを持ってきた時のことや、局を1局でも低リスクで進めることを考えてヤミが普通であると考えている。しかも南は生牌である。それを藤原はいとも簡単にリーチと言ったのだ。他の3人が私と同じような考えなら、一体このリーチはどう映るだろう?
(凄くいい待ちなのか?打点は高いのだろう。)
色んな思考が頭をよぎり、そして次の瞬間からは対応を強いられることになる。藤原は初日から、ただただ自分の手牌に真っ直ぐであり、手役を追い、形になった時には純粋にアガリに向かう、という麻雀を打っている。だがその影に、ひょっとしたらこう打てば、こういう仕掛けをすれば、相手がどう対応するか?まで計算されていたのかもしれない。私は無表情でNをツモる藤原を見ながら、恐怖にも似た底しれぬ不安を抱いた。
そして南3局、藤原(東家、46,600持ち)の羅針盤がある方向でピタッと止まる。
五索五索八索二筒二筒四筒四筒四筒五筒六筒六筒八筒発  ドラ北
上記の牌姿から7巡目に藤原は二筒をポンする。次巡、ツモ二万で藤原の手が止まった。
五索五索四筒四筒四筒五筒六筒六筒八筒発  ポン二筒二筒二筒  ツモ二万
全体の河を見ても、さほどマンズの下が良いようには思えない。が藤原のアンテナはここからまさかの打五筒とさせる。シャンテン数も落とし、ピンズのチンイツを捨てる打牌。この不可思議な打牌は数巡後に以下になる。
二万二万二万五索五索四筒四筒四筒六筒六筒  ポン二筒二筒二筒  ロン六筒
西原のメンタンピンイーペーコーのリーチ宣言牌を捕えての7,700。
衝撃とも言えるこのアガリ。藤原という男には一体何が見えているのだろう?
4人の手牌を自由に見ることができる私でさえも、この二万はキャッチ出来ていない。しかし、これが偶然の打牌ではないことは、重なるかどうか分からない二万を抱え、ピンズのチンイツを消す打牌をする意味を考えたらわかっていただけると思う。観戦記者として説明が出来ない自分が歯がゆいが、確かに藤原にはこの二万が見えていた。
そしてその羅針盤は、決勝という荒波の大海原の中で優勝の方角を指している。
8回戦成績
藤原+32.3P  東谷+7.8P  浜上+2.4P  西原▲42.5P
8回戦終了時
藤原+91.0P  東谷+32.0P  浜上▲39.1P  西原▲83.9P
■9回戦(起家から、浜上・藤原・東谷・西原)
決勝も残り4半荘。トータルポイントで西原にもうマイナスは許されない。それは浜上もさほど変わらず、唯一東谷だけが、距離を計りつつ闘える位置にいる。その中で各自がどのような心境と共に展開を繰り広げるかが注目される。
東1局、浜上(東家)がテンパイ即リーチ。
一万一万五索七索一筒二筒二筒三筒三筒四筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ五索
チャンタやイーぺーコー、ホンイツを付けたかった。それでもツモが効かずやっと入れたテンパイだから、といったところか。これに東谷(西家)が二索を1枚勝負して追いつく。
一索二索三索四索五索六索六索七索八索九索  ポン東東東
そして藤原が手牌に2人の共通安全牌を切らしたところに、仕方なく浜上の現物である九索を打ち出し、東谷はようやく藤原から直撃することに成功した。
南1局、ここまで幾度となくアガリを阻まれてきた浜上(東家)にやっと風が吹く。
四索五索五索五索五索六索七索八索九索南  ポン中中中  ツモ南  ドラ五索
この6,000オール。次局、下記の配牌から、
一万五万七万八万二索七索七索八索九索一筒二筒四筒五筒五筒  ドラ七万
七万八万九万二索二索二索七索八索九索四筒四筒八筒九筒  リーチ  ツモ七筒
こう仕上げて、4,100オールで一気に60,000到達。どこまで盛り返す?
そんな空気に包まれた南1局2本場、浜上の連荘を阻止するべく東谷(西家)がリーチを打つ。
捨て牌 九索九筒六筒四万六万四索一筒七万←リーチ
二万二万五万五万八万八万三索三索七索七索四筒七筒七筒  リーチ  ドラ四筒
ドラ単騎の七対子だ。河も変則手模様を醸し出していて、なかなか他の3人も行きづらいリーチである。それでも浜上は(ここは全て行く)と腹を決め、生牌の白を打ち出す。
すると、ここまでおとなしかった西原(北家)がこれをポンして打西。西原は、更に次巡も打西とする。全て行くつもりだった浜上だが、西原の仕掛けと打ち出された牌を見て、場の異様さに気付く。
西家である東谷のリーチは変則手模様である。それに対し、西原は打西と1枚押すならわかるが、トイツ落としは何か解せないと読んだのだ。つまり西のトイツ落としをしてまでも押す理由はそれ相当の絵が入っていることになり、この瞬間、浜上は(どうしても1人浮きが欲しい)という欲求を抑え、ここで我慢して引く決断をする。
【浜上の足を止める為】にリーチを打った東谷。【どうしても1人浮きが欲しくて】オリを決断した浜上。
西原の手牌が開かれた時、2人の思考から導き出された1つの展開(選択)が2人の明暗を分けた・・・・・。
二万二万三万四万五万発発発中中  ポン白白白  ロン中
西原の大三元である。放銃したのは東谷だった。
浜上の手牌には今にも場に出そうかとしていた中があった。東谷がリーチと来た時、浜上は全てぶつける心算でいたはずだが、それ以上の覚悟を持って向かっていく西原の熱が、逆に浜上に冷静さを取り戻させた。
東谷にとっては、この結末は意識の外だったろう。浜上の連荘を止めたい。ただその一心で打ったリーチが、思わぬ結果を生んでしまったのだから。
その後、東谷はこの半荘の流局以外の全ての局で放銃することになる。ここまで積み上げてきた東谷の、技術が成し得たアガリも、会心のツモも全てが1つのリーチで無に戻った瞬間だった。
一生懸命平常を装おうとする東谷に、「去年の雪辱を果たすならここからが勝負だ。」と、私は観戦記者の立場でありながら、心の中で東谷にそう声をかけた。
麻雀は本当に孤独な競技である。誰も東谷の肩代わりは出来ないのだから、東谷は自分の足で再び卓上に上がるしかないのだ。最終的にその時に背中を押してくれるのは過去の自分しかいない。いくつもの敗戦の度、流した涙と汗の量だけが自身を再び闘いの舞台へといざなう。
9回戦成績
浜上+38.3P  西原+31.5P  藤原▲10.6P  東谷▲57.2P
9回戦終了時
藤原+80.4P  浜上▲0.8P  東谷▲27.2P  西原▲52.4P
■10回戦(起家から、藤原・東谷・浜上・西原)
残り3半荘。今まで2対2の並びが、今回から1対3の構図になった。1人抜けている藤原を捕えるには、追う3人が包囲網を引く必要がある。でなければ、ただでさえ心身ともに充実している藤原を、残り3半荘で捕えるのは難しく感じる。
東1局、東谷(南家)が意地を見せる。9巡目にテンパイし、14巡目に藤原(東家)が中をツモ切った局面。
一索一索二索二索四索四索六索六索東東北北西  ツモ中  ドラ二万
まさに今、藤原が何食わぬ顔で切った中に待ちを変更。山越しだ。東谷は心の中で「もう1枚掴めっ!」と念じる。だがなんと直後の西原のツモが中で、たった今、藤原が切った中なだけに西原は止める理由がなく、東谷に放銃してしまう。東谷は打ち取りたい相手ではなかったにしても、贅沢は言えない立場でこれをロンアガリする。私が東谷と同じ立場でもこれは同じ選択をしたと思う。
だが、現実問題、藤原とのポイント差は100Pを超えている。だとすれば、西原が切った中をスルーして、次巡ツモ切りリーチも面白かったかもしれない。そうすれば、ひょっとすれば。それぐらいの予想しか出来ないがあるいは、藤原にその中がきても藤原は打ち出していたかもしれない。
東2局、東谷(東場)が8巡目に以下の捨て牌と牌姿でリーチ。
捨て牌 南五筒三筒五索四筒八万九索三万←リーチ
二万二万四万四万六万六万七万七万一筒二筒二筒九筒九筒  リーチ  ドラ東
ドラはないが、どうにも山にいそうな七対子の一筒待ち。しかしこれも藤原(北家)からでなく浜上(南家)からの打ち取り。前の半荘の結果に精神が揺さぶられているはずの東谷。それを必死で抑え、諦めない姿勢が熱を帯びて会場の温度が高く感じる。
東2局1本場、観戦者の誰もが追う3者の熱に残りの半荘が接戦となることを期待する。そんな中で今度は浜上(南家)から9巡目のツモの声。
一万九万九索一筒九筒東東南西北白発中  ツモ一索  ドラ南
「8000・16000は、8100・16100。」
浜上の手牌を観戦していなかったものは誰もが驚いたであろう。まるで300・500をツモったかのようなトーンの発声で、舞い降りた鳳凰を静かに見つめ手牌を倒す浜上。
今から遡ること数カ月前、浜上は王位戦の本戦でも絶望的な状況南3局から、倍満、役満と立て続けにアガリ、勝ち上がりを決めた一幕がある。しかも、その役満もラス牌を一発ツモであった。どうして?こんな事が?もはや観戦者も、対局者である本人達でさえも、目の前に起きた現象を冷静に受け止められるものは1人もいないように思えた。
ただただ浮かび上がる疑問と、(この男ならあるいは逆転も・・・・・)という期待と不安だけが、この場の空気を支配していった。唯一、浜上だけが冷静な面持ちでサイコロを振る。
東3局1本場、東谷(北家)が以下の牌姿でリーチといく。
二索二索五索五索六索六索七索三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ  ドラ六万
これを西原から安めの四索でロンアガリ。浜上の国士無双を親被りした東谷だが、早々に原点復帰を果たす。
東4局、またしても東谷(西家)がリーチ。
七万七万六筒六筒八筒九筒九筒二索二索発発中中  リーチ  ドラ三索
これも浜上からロンアガリし3,200加点する。東谷は手を作り果敢にリーチにいくもトータルトップの藤原からは、当然アタリ牌は出てこない。
この時私は、トータルポイントと残りの半荘数を考慮して、既に執拗に直取りしていかないといけない局面に来ているのでは?と思ってみていたが、他の観戦者や皆さんはどう感じているだろうか?
この半荘を終えると、残る半荘は後2回。それで100Pを捲るのは、かなりハードルが高い。しかも、それほどまでに引き離された現実も含めると、ただリーチで打点を上げるだけの作戦を選んだのは正直、少々疑問を感じる。決勝の舞台にすら残っていないお前が何言っている?こんな言葉を浴びせられるかもしれないが、私は東谷の取ったこの作戦は九州本部全体の課題だと思っている。麻雀の性質上、結果としてポイントを大きく離された状態で終盤戦に入るのは今後、幾度となく出てくるだろう。そういった時に、対局者の目的がみな【優勝】という1点で一致しているならば、どのように闘うか?は非常に大きなテーマであり、みんなで真剣に考えるべき課題だ。
地方の中では、非常に大きな部類に入る九州であるからこそ、今後はこういう課題にみなで真剣に考え、取り組みながらひとつの大きなモノを作り上げていくというのが私たちの使命だと思う。
南3局、ついにここまで攻め続けた東谷(北家)と藤原(西家)がぶつかる。
東谷が10巡目に以下でリーチをすれば、
四万四万五万六万四索五索五索六索六索七索五筒六筒七筒  リーチ  ドラ西
藤原が以下の牌姿で押し返す。
四万五万六万七万七万南南  チー一万二万三万  暗カン牌の背白白牌の背
正にがっぷり4つの形相。藤原はこの半荘1度もアガることはなく、1度も放銃することもなかったが、おかげで点棒は21,000まで落ち込んでいた。それでもこの手牌は見方によれば、白を暗カンしなくてもいいかもしれない。
道中、ソーズの三索四索ターツ落としをせず、打点を作りにいかず、捌くだけの局、もしくは半荘にしてもよかっただろう。だが、藤原はこの2日間一貫して、自分が描くアガリ形を崩すことなく打ち続けた。そして絵になった時は、ただただ自分の打牌に対して素直に真っ直ぐ押した。結果は、藤原が力強く南をツモアガリ。
四万五万六万七万七万南南  チー一万二万三万  暗カン牌の背白白牌の背   ツモ南
もともと破壊力に定評があった藤原だが、こうして2日間観戦記者をさせて頂くと、藤原の強さが細分化され、私にもハッキリわかるようになった。自分の構想力を信頼しているからこそ、我慢する局面でジッと耐えることが出来る。反対に構想通りになった時はどこまでも押せる。その強さを改めて感じさせられた。そして藤原のアガリには半荘を決定づけるものが多く、そうした彼の打ち方そのものがこれだけのポイントをかき集めた1つの要因だと言えるだろう。
だが、10回戦はオーラスに西原(東家)が奮起して浜上の1人浮きに終わった。
藤原はあまりポイントを減らさずして残り2回を闘えるが、すぐ後ろには浜上が来た!
既に射程圏内だ。
10回戦成績
浜上+37.7P  藤原▲6.0P  東谷▲12.5P  西原▲19.2P
10回戦終了時
藤原+74.4P  浜上+36.9P  東谷▲39.7P  西原▲71.6P
■11回戦(起家から、東谷・西原・浜上・藤原)
東1局、初日から苦しい闘いの末、遂に藤原の背中が見えた浜上(西家)が8巡目に早くもリーチ。
一万二万三万五万六万八索八索八索三筒四筒五筒七筒七筒  リーチ  ドラ七筒
これに東谷(東家)が次巡、待望の六万を引き入れて、渾身のリーチ。
四万五万六万七万七万二索三索四索五索六索四筒五筒六筒  リーチ
ツモれば2,000・3,900の浜上。一索ならロンアガリでも親満の東谷。観戦者の方々はどちらにもアガって欲しい、もしくは結果が見たくない、そんな気持ちに自然となっただろう。
結果、軍配は東谷が一索で浜上からロンアガリ。その顔からはまだ諦めてはいない表情が見てとれる。悔しい想いをした去年、あれからたった1年であるかもしれない。だが東谷の中では大きな1年であり長い長い1年だったろう。今、全身全霊で持っている力を全てぶつける。その瞳が追う浜上と逃げる藤原を見つめた。
東2局、西原(東家)の10巡目、
三万三万一筒一筒  ポン二筒二筒二筒  ポン四筒四筒四筒  ポン中中中  ドラ一筒
これに遅れること4巡、浜上(南家)が追いつき、リーチを打つ。
五万六万一索二索三索四索五索六索六索七索八索一筒一筒  リーチ
だが、これは親の本手を警戒してヤミにしていた東谷(北家)に捌かれる。
東3局、親は浜上。今回が勝負と言っていた浜上は、この半荘でマイナス終了すれば条件はかなり厳しくなる。東1局にリーチを打った本手も思わぬ形で破られ、前局も捌かれた。追い上げる浜上に期待をしている観戦者とは裏腹に、本人には重い重圧がのしかかっていると思う。
それを象徴するかのように、浜上は4巡目に早くも以下の牌姿から
一索一索四索五索六索九索九索四筒五筒西白中中  ドラ七万
九索をポンする。いつもはメンホンやメンホン七対子になれば良しの構えでこの九索はスルーする浜上もこの親番だけは絶対落とせない、という気持ちの表れだろう。そのポンに東谷(西家)のツモが効き、本手に成就させぶつける。
四万四万五万六万七万三索三索四索四索五索三筒四筒五筒 リーチ ツモ五索
高目五索ツモの3,000・6,000。10回戦のリーチ構成の賛否は置いておき、この終盤に来ての東谷の手作りとぶつけ方はすさまじいものがあった。中には道中安いテンパイを拒否した牌姿もあり、その中でこれほどの足が使えるのは気迫のなせる技なのか?と思ってしまう。
だが、トータルトップの藤原は3着目の東谷が走る分には構わないと思っているだろう。だからこそ10回戦同様、我慢する局面はジッと我慢する。
東4局1本場、藤原は7巡目にドラ三索のリーチ。
五万六万七万八万八万八万二筒二筒五筒五筒五筒七筒八筒  リーチ  ドラ八万
10巡目に西原(西家)が追い掛けリーチを打つも、
一万一万六万七万八万三索四索五索七索八索九索三筒四筒  リーチ
西原の二筒五筒は、藤原だけで5枚持たれていて非常に苦しい。結果は、やはりというべきか六筒を持ってきて12,000の放銃になってしまった。ひと叩きで40,000点を超えた藤原、
つづく2本場はなんと3巡目にリーチ。
一万一万七万八万九万一索二索三索五索六索七索中中  リーチ  ドラ六万
今度は、浜上が一万で放銃し、藤原は更に加点する。
押せ押せムードとなった3本場だが、今度はこの手をヤミに構え、
四索五索二筒二筒三筒四筒五筒六筒七筒八筒発発発  ドラ八筒
浜上からロンアガリする。
そして4本場、7巡目テンパイ。ヤミに受け、放銃者は東谷。
四万五万六万六万二索三索四索二筒二筒二筒六筒七筒八筒  ドラ八万
この時点で、藤原は持ち点53,000を超えた。12,000を放銃した西原。
藤原に安全圏に行かれ優勝が遠のいた東谷。持ち点が4,300しかない浜上。
対局者は、麻雀とは思うように行かない競技だというのをわかっているからこそ、どこかで負けを意識するだろう。どうしても欲しいものが手に入らない時、たいていの人はどこかで諦める。だが、ここに座っている4人は『麻雀だけは』という気持ちでプロとして歩んできた。心のどこかで押し寄せる負けの意識に対し、それでも尚、最後まで闘うとは一体どういうことなのだろう?と、私は筆を走らせながら、自分で考えてみると同時にとある先輩の一言を思い出していた。
「俺達は、アスリートであり表現者でなければいけない。普段やっているトレーニングや訓練を卓上で表現するこということは、ある意味勝ち負けより重要じゃないか?」
プロであるから結果が全てであり、勝つことが絶対であるのが勝負の世界。私たちはこれを誰もが目を背けてはいけないことだと捉え、自問自答しながら闘っている。それでも私は、上記の先輩の言葉に響くものがあった。
そのような先輩の言葉をお借りするなら、負けを意識しても尚、闘うことは何かを表現することであり、ある意味、その意志や気持ちは勝負の外側に存在するのでは?と。
11回戦は、東場に点棒を集めた藤原と東谷の2人浮きで終わる。各自のポイントから考えても、トータルトップの藤原を逆転するのは、条件としては簡単とは言えない。それでも4人は次が最後の闘いであるのを理解した上で、乾いた喉に水を流し込んだ。
11回戦成績
東谷+57.4P  藤原+14.8P  西原▲18.9P  浜上▲53.3P
11回戦終了時
藤原+89.2P  東谷+17.7P  浜上▲16.4P  西原▲90.5P
■最終12回戦(起家から、東谷・浜上・西原・藤原)
これが最後の半荘。現実的に厳しい西原を除けば、東谷も浜上も、もう前に出続けるしかない。
東1局は東谷の親番。3巡目に1シャンテンで以下。
三万四万五索六索七索三筒三筒五筒五筒七筒南南南  ドラ三万
親でこの手牌ならどこがどう来てもリーチであろう。頭の中は、どれでもいい早くテンパイしたいと思っていることだと思う。しかし、なんとここから東谷は無情にも、ソーズを三索四索五索に変化させただけで、残りツモ15回を12回ただただ河に並べただけでノーテンに終わってしまった。本人のこれまでの闘い方を見れば、まだ南場の親があるなどとは1ミリも思ってないだろう。辛く悲しい気持ちがよくわかる。
東2局1本場 浜上(東家)が14巡目、やっとテンパイ。
三万三万五万六万七万六索七索三筒四筒五筒六筒七筒南  ツモ八索  ドラ南
テンパイ打牌のドラの南は4巡目に持ってきてから、ずっと抱えていた牌である。
これがまだ中盤戦なら、どこかでリリースしていたかもしれないが、最後まで引っ張ったのは放銃するリスクが高くなってでも、雀頭の振り替わりに重きを置いていた証拠である。
18巡目の最後のツモで二筒をツモり1,300は1,400オール。
これが早い巡目なら浜上は、八索切りのフリテンリーチを打っていただろう。
東2局2本場、浜上はなんとしても親を落とすわけにはいかない。
8巡目に以下でテンパイし、
三万四万五万六万六万七万八万九万二索三索四索四筒五筒  ドラ六筒
三万六万を持ってくればタンヤオに、五索を持ってくれば高目三色に変化するのでヤミ。
2巡後、三万を引き入れて、タンピンになったところでリーチを打つが、これは1人テンパイの流局。
東2局3本場、今度はテンパイ即リーチを打つ。
三索三索六索七索八索九索九索九索東東東西西  リーチ  ドラ八筒
変則的な捨て牌模様で、ヤミでもツモれば親倍だが、リーチを選択したのは、対局者を自由に打たせたくなかったのが一番の理由か?いや、ひょっとしたらそんな損得勘定とは別の、ある種の意志として打ったリーチかもしれない。これを西原から三索でロンアガリし、18,000は18,900の加点。
東2局4本場、逆転が現実的になってきた浜上の配牌。
五万六万一索四索九索一筒一筒二筒四筒九筒南西発中  ドラ一筒
決して軽いとは言えないものの、ドラがトイツのチャンス手。なんとしても決めたい。
この手が形になってきた11巡目、
五万六万四索五索五索一筒一筒四筒五筒南南発中  ツモ六筒  打五索
目いっぱい構えるというなら発中が最もマジョリティだろうか?
それでも浜上は字牌を抱え、他者の捨て牌からそろそろテンパイを入れるものがいるだろうと踏んで、ここで手牌をスリムのする為に五索を先に処理する。
すると、この五索が藤原になんと1巡だけ間に合わず、放銃となってしまった。
二万三万四万八万八万三索四索一筒二筒三筒七筒八筒九筒  ロン五索
東3局も藤原が2,000のチーテンを入れ捌く。優勝に向けて、確実に一歩一歩階段を上る姿勢、今まであれだけ放銃を恐れず真っ直ぐな打ち筋をしてきた藤原が、石橋を叩くほどの慎重さがここにある。
東4局、その慎重な藤原からロンアガリしたのが浜上。
三万四万五万六万八万四索四索二筒二筒二筒三筒三筒三筒  ドラ四索  ロン七万
タンヤオドラ2の5,200である。トータルトップの藤原からなので上下差10,400点縮めたことになる。浜上の最初のテンパイは8巡目と早く、六万九万でありタンヤオが付いてない形であった。ドラが2枚あることを考えれば、リーチの選択もおかしくはない場面だが、よもやのツモ四索やツモり三暗刻の変化などを考慮しロンアガリの効かないヤミを選択していた。そして13巡目にやっとツモ六万でタンヤオが付いてのアガリである。
南場入りした時点で各自の持ち点は、
東谷:26,600
浜上:57,100
西原:5,700
藤原:30,600
となっている。
南1局、最後の東谷の親は浜上がピンフで捌く。
思えば、東谷は手役を作ることに重点を置き、常に踏み込むことを恐れず闘ってきた。そういった側面では藤原と似たような戦術であったが、道中のちょっとした選択があの大三元放銃を生んでしまった。私はその布石として5回戦東2局の連荘中の藤原にいずれも生牌のダブ東と発をぶつけた時の心境を挙げた。あの時、ポイントではまだまだ優勢だった東谷だが、内情は展開の怪しさに焦りを感じていたのだろう。それが大三元放銃の局面にも浜上の連荘を止めたい一心で打った七対子ドラ待ちのリーチにも同じように感じられた。ドラだからヤミに構えても出てくることはあまり期待出来ない。自分の河が変則手だからリーチを打てば対応するだろう。色々なメリットと思える思考が、三元牌が場に顔を見せていないというわずかな危険察知を霞めさせ、大局観としてリーチで蓋をする選択をした。
その他の局面では素晴らしい闘牌を見せていただけに、たった1つの選択が致命傷となったケースとしては非常に無念でもあるだろう。東谷は2年連続で優勝に手が届かなかったが、この経験を彼は必ず活かしてくると私は思っている。競技麻雀のわびさびとも言えるべき深い構想力も、ちょっとした選択で生まれた大三元放銃も、今の東谷を象徴する出来事だった。
南2局、東谷が親落ちした今、ポイントから考えて逆転の可能性はほぼ浜上しかいない。それでも東場の浜上の親を自らの手で落とした藤原が、息の根を止めにきた。
五万六万六万七万七万三筒四筒五筒五筒六筒七筒八筒中中  リーチ  ドラ九索
7巡目の早いリーチであり、ドラは無いが待ちとしては充分だ。
この時1シャンテンだった浜上。無筋を2枚押し、10巡目にテンパイを入れ追いかける。
一万一万八万八万七索八索九索三筒四筒五筒六筒七筒八筒  リーチ
五万なら藤原に放銃で終了。八万なら続行だ。そしてリーチ一発目に持ってきたのは八万だった。
同2本場、5巡目に藤原がリャンメンのチーから入る。
三万三万五万七万七万二索二索三索九索三筒四筒  チー六筒七筒八筒  ドラ八万
仕掛けた方が早そうではあるが、上家の西原(南家)は自身の優勝がなくとも有効牌をそう簡単に下ろしたりはしないだろう。それでもこの仕掛けを入れたのは、やはり追われる側の不安ということなのだろうか?ましてや前局は浜上に待ち牌である八万をツモられているから嫌な感触もあるだろう。このリャンメンチーの仕掛けを見て浜上も遠いところから仕掛けるが、結果は2人テンパイの流局。
同3本場、4巡目の浜上の手牌。
二万五万五万七万二索二索四索二筒四筒六筒七筒七筒八筒  ツモ四万  ドラ六筒
少し前ではあるが「ポンよし。チーよし。ポンチーよし。」という言葉があったと思う。
要するに、チー出来る部分、ポン出来る部分、ポンもチーも出来る部分で手組みをしていたら効率的には大丈夫だ、というようなことだったと記憶しているが、この四万をツモってくる前から浜上の手牌にある二万は、当然234の三色を意識してのものだろう。ツモ四万ときたら落とせない親だけに打二万としたくなるが、浜上は打七万とした。
14巡目、浜上がツモ切った南に藤原がポンテンを入れる。
二万二万三万四万六万七万八万二筒二筒三筒三筒南南
二万とし、この二万で今度は浜上がポンしてテンパイ。
五万五万五万二索二索二筒四筒六筒七筒八筒九筒  ポン二万二万二万
九筒とするが、またしても2人テンパイの流局。浜上はあの時打二万としていたら少なくともこのテンパイはできていなかった。
同4本場、13巡目と決して早くないが浜上がリーチをする。
三万三万三万一索二索三索七索八索二筒三筒四筒五筒五筒  リーチ  ドラ一索
そして2巡後に九索をツモアガリ。これで持ち点が79,300になった。
同5本場、親の第1打の西を藤原がポン。
六万七万一索二索二索九索五筒七筒東南西西北  ドラ三筒
これも良い形とは言えなかったものの、遂には9巡目に、
六万七万八万二索二索二索五筒五筒七筒八筒  ポン西西西  ツモ六筒
これで決着がついた。
その後、南4局は藤原の400・700ツモアガリ。
最終戦オーラスはノーテンとし、これにて全対局は終了した。
12回戦成績
浜上+59.9P  藤原▲3.7P  東谷▲14.0P  西原▲42.2P
第13期皇帝位戦決勝結果
優勝:藤原+85.5P  準優勝:浜上+43.5P  3位:東谷+3.7P  4位:西原▲132.7P
 
藤原は下馬評を覆し、見事な闘いっぷりで栄冠を掴んだ。
藤原の雄姿を一目見ようと、故郷である山口県から藤原の多くの友人が応援に駆けつけていたのがとても印象的だった。これにより皇帝位は初めて関門海峡を渡ることとなる。
対局者のみなさん、2日間の長き闘いお疲れ様でした。
また決勝に残れなかった身でありながら、みなさんの麻雀をほとんどの部分主観で表現しましたことどうかお許し下さい。
そしてお付き合い下さった読者の方、九州本部は今、プレイヤーの年齢が非常に若くまだまだこれからの組織です。個々の麻雀の技術の向上や雀風の確立とは別に、文中でも申し上げました通り、プロ団体として九州本部全体で考える課題も数多くあります。
しかしながら、私達はこれに臆することなく一歩一歩前進していきたいと思っております。
どうか今後とも暖かい目で見守って下さいますようよろしくお願いします。
最後まで読んで下さりありがとうございました。

第13期九州皇帝位決勝戦初日レポート

今回のレポートを担当させて頂きます、九州本部26期生、福田正道です。
どうぞ、最後までお付き合い願います。まずは決勝メンバーの御紹介。

・リーグ戦1位通過 西原亨
Bリーグから昇級し、今期が初のAリーグで勢いそのままに40半荘の闘いもぶっちぎりで決勝進出!
1歳になった娘に優勝の二文字をプレゼント出来るか?

・リーグ戦2位通過 藤原英司
Aリーグ在籍4期目にして念願の決勝戦へと駒を進めた。
真っ直ぐな攻め、そこからくる爆発力には定評があり、大舞台でどこまで力を発揮出来るかに注目される。
悲願の初優勝なるか?

・リーグ戦3位通過 東谷達矢
九州の若きエースの1人。既に九州プロアマ混合(ばってん)リーグでの優勝経験あり。
今年度新人王3位。去年の皇帝位決勝惨敗の悔しさを忘れず、精神と技術を磨き再び決勝の舞台に返ってきた。今年こそは!の想いで優勝を狙う。

・リーグ戦4位通過 浜上文吾
現皇帝位であり、九州プロ1期生。言わずもがな九州のエース。
今年度の十段戦の決勝は記憶に新しく、受けの麻雀を基本とし、何度も訓練し身に付けた構想力で初手からアガリまでを見る打ち方は、麻雀示現流(じげんりゅう)と恐れられる。
勝ちよりも、勝ち方に拘って最大の敵、自分自身に打ち勝ち、前人未到の皇帝位2連覇の金字塔を打ちたてられるか?

~プロローグ~
今回のレポートは私自らが志願しました。
書くにあたり注意した点は、打ち手の心情を計りながら書くこと。また間違っていてもいいから私がプロ活動を通じて感じたり、身に付けた考えもふまえて局面を紹介していくことです。そうすることで麻雀という競技が心理面に置いて多分に勝敗を左右する要因になりえることや読んでくださる皆様が競技麻雀に少しでも興味を持って頂けたらという想いで書きました。しかし何分文章を書くのが下手な私ですので、感じた事や言いたい事が上手く伝わらないこともあるかと思いますが、その点御了承頂けたらと思います。

■1回戦(起家から、浜上・西原・藤原・東谷)
1回戦の闘い方はその日1日のテーマや方向性を模索する闘い方でもあると位置付けられる。誰がどのような手組みをし、勝負にどう入っていくかに着目したい。そして対局者には、これから長い長い試練の道が各々に科せられる。

東1局、9巡目。無風状態で東谷(北家)が先制リーチを打つ。

捨て牌 六筒二万二万中四筒南五万北←リーチ

八万九万一索二索三索七索八索九索一筒二筒三筒発発  リーチ  ドラ西

最初のリーチ者が東谷なら、最初の放銃者は藤原(西家)であった。
藤原は半ばオリ打ち気味な放銃であった。これは4者の河に五万が全て見えていたことに起因するかもしれないが、東谷の河を見れば変則手も匂わせる河である。
放銃したことは致し方ないが、(これで打てば高いな。)という覚悟があっただろうか?

東2局、11巡目。浜上(北家)が、

三万一索二索三索一筒一筒二筒七筒八筒九筒東中中

ここにツモ一万で1シャンテンになったところで生牌のダブ東をリリースし、これをドラ色ホンイツ気配の藤原(南家)がポン。すると浜上の次のツモが二万でこれを以下の牌姿でノータイムリーチ。

一万二万三万一索二索三索一筒二筒七筒八筒九筒中中  リーチ

藤原は、前巡に五万をトイツ落とししており、ドラ色のホンイツ模様でドラが1枚でもあれば打点は7,700からである。ましてや、自身の手はペン三筒のドラ待ち。いったいどれほどの打ち手がノータイムでリーチと発声出来るだろうか?と私は思った。
実際には、藤原にソーズのターツがあり、ホンイツではなく結果として藤原に2,000を捌かれるものの、ここに浜上が今回の決勝をどう闘うかの姿勢が見える。

東3局、またしても浜上(西家)が終局間際の残りツモ1回で、

三万四万四万五万五万六万七万八万九万九万一索二索三索 ドラ八万

これをリーチする。ツモればハイテイがつき、高目の三万ツモで3,000・6,000だがこれもほとんどの打ち手はリーチしないのではないだろうか?結果は、順当ともいえる流局。
しかし、テンパイ形を見た他の打ち手はどう感じただろうか?私なら一発裏ドラがないこのルールで、リーチ棒を投げ出して、まさかの3,000・6,000を狙いにくる姿勢に恐さを感じる。

東4局1本場、東谷が2枚目の白をポンしてほどなくテンパイ。

一筒二筒三筒五筒六筒八筒八筒南南南  ポン白白白  ドラ北

これに藤原(北家)が以下の牌姿から打七筒で7,700に飛び込んでしまう。

一万三万五万五万五万二筒二筒五筒五筒五筒東東北

東谷は、白ポンの後に手出しで九筒を切っている。
ドラの北がポツリと浮いているこの手牌では、厳しいと私なら判断する。ここはマンズを払って再構築の道もあったはずだが、藤原はどういう心境でこの七筒を打ち出したのだろう?ひょっとしたら自分の手牌に素直に構え、その上での放銃なら全くもって普通の事象だと捉えていて、失点ほどのダメージなど無いのかもしれない。と、能面のように変わらない藤原の表情を見て私は思った。

同3本場、今度は浜上(南家)が東谷に以下のヤミテンに放銃。

二万二万二万三万四万五万三索四索五索三筒五筒七筒七筒  ロン四筒  ドラ六万

この時点で、東谷は50,000を超えて南入。去年の決勝では、まだ緊張して顔が強張っていた印象があるが、今年は1度経験した分、どうやら初戦から落ち着いているように見えた。

南場に入り、最初にアガリを重ねた東谷が、1人気持ちよく打っているのに対し他3人は苦しい展開が続く。そして1本場として迎えた南3局、この時点の各者の持ち点は、
東家:藤原 21,000
南家:東谷 60,500
西家:浜上 9,200
北家:西原 29,300
こうなっている。既に親番がない西原は、今後の展開も視野に入れてここはなんとしても浮きの2着で終わりたいと思っているだろう。無論、他の2人も西原が浮く分には良しと構えているはずである。しかし南3局1本場は、その西原の1人ノーテンで流局。

南3局、2本場。6巡目に西原(北家、持ち点26,300)が以下の牌姿でテンパイを入れる。

五万六万七万三索四索六索六索四筒五筒六筒白白白  ドラ四万

そして、西原の選択はヤミ。確かにドラの振り替わりもあり、役牌がある分、ヤミでもロンアガリ可能なことを考えれば正解なのかもしれない。だが、私なら迷わずリーチをする。親番のない残り2局。まだ始まったばかりの1回戦とはいえ、東谷に60,000超えの1人浮きトップを取らすこと、それ即ち東谷を楽にさせると考えるからだ。
結果は、東谷から五索をロンアガリし1,900を加点するが、やはりラス前フォーメーションとしては弱く感じたが、皆さんの選択はどうだろうか?

そして南4局。西原(西家)の手に着目していると思わぬところから声があがる。
「ツモ。2,000・4,000。」声の主はなんと藤原(北家)。

五万六万六索六索七索七索八索八索二筒二筒四筒五筒六筒  ツモ四万  ドラ六筒

私はてっきり、浜上と藤原はこの半荘は沈みで終わるだろうと予想していた。藤原に関しては、2度ほど手牌が整っていないところからの放銃があったので、浮上はないとふんでいたのだが。ところが、である。
開かれた手牌は立派な満貫で、藤原の持ち点は22,000だったのでこれが2,000・3,900でも浮きは確保出来ていなかった(無論その場合はリーチを打つだろうが)。

このアガリに私は、東3局2本場の親番にアガれなかった藤原の手のその手順を思い出した。それは、

五万六万七万八万四索五索五索六索八索七筒八筒西西  ツモ六筒  ドラ八筒

この1シャンテンで、藤原は打五万と構えた。次巡、ツモ三索で、

六万七万八万四索五索五索六索八索六筒七筒八筒西西  ツモ三索  打五索

五索のリーチといったのだ。
結果は、手牌が開かれることはなかったが、藤原自身の意志が確かに感じられるものだった。そして改めて、2度の手バラからの放銃も藤原にとっては、アガリの可能性を放棄することの方が恐ろしいことだったのかもしれないと思わされた。
なにはともあれ、これをもって決勝の幕が開けたのである。

1回戦成績
東谷+33.6P  藤原+4.0P  西原▲7.8P  浜上▲29.8P

■2回戦(起家から、浜上・藤原・西原・東谷)
東1局は浜上(東家)が場に間に合わせるように2,000オールをアガる。
同1本場、浜上が7巡目にダブ東を西原(西家)からポンする。
ポンさせた西原は、

五万六万七万六索七索三筒三筒三筒五筒六筒七筒八筒八筒  ドラ五索

こうで、リーチに行く。ポンさせた後に三筒五筒と立て続けに引き入れた高目3,000・6,000の本手であるから感触は悪くない。しかしこれは浜上が西原から四索をロンアガリ。

六万六万二索三索四索五索六索四筒五筒六筒  ポン東東東  ロン四索

初戦ラススタートの浜上にとっては、いい再スタートになったという感情か。

東2局、先程競り負けた西原が4巡目に中を一鳴きする。
浜上(北家)は「狼煙はもうあがってんだぜ」と言わんばかりに、ドラの九索をリリースして、これを西原(南家)がポンして1シャンテン。

六万六万八万六索七索八索五筒  ポン九索九索九索  ポン中中中  ドラ九索

これに対し浜上は、ドラを鳴かせた以上、後退なしの構えでリーチで圧をかけにいくが、

三万四万五万七万七万五索六索二筒三筒四筒五筒六筒七筒  リーチ

ドラをリリースして、鳴かせた以上、最後までという打ち手もいれば、ドラを鳴かれてもロンアガリが効くならヤミが得策だろうと思う方もいるとおもう。リーチの賛否は打ち手にとって、最も悩ましい議題のひとつだと私は思っている。どちらが正解というのはないが、いつも浜上の後ろで彼の麻雀を見てきた私がひとつだけ言えることは、昔の浜上ならこのようなリスキーな選択は出来なかっただろうということ。今は自分を成長させる為なら、自ら進んで棘の道を踏み込むということではないだろうか?と、私はみる。そして軍配はまたしても浜上に上がる。

三万四万五万七万七万五索六索二筒三筒四筒五筒六筒七筒  リーチ  ツモ四索

東3局、ここまで2度とも競り負けた西原(東家)。配牌では上手に寄せれば三色が見える手を観戦者の期待通り西原は8巡目、丁寧に以下に仕上げる。

三万五万三索四索五索八索八索八索三筒四筒五筒西西  ドラ西

これを慎重にヤミにした西原。私は後ろで観戦しながら、どうしてもアガリたい西原の心境と、もし誰かがこの手に放銃したとしたらそのダメージの大きさからメンタルのブレが生じるかもしれない、という2つの事を考えていた。
結果は、2度競り負けした相手、浜上からのリーチ宣言牌を捕える。文字通り3度目の正直で待望の本手を決めた西原。この半荘が西原を勢いづけ、1人浮きのトップをもぎ取ることとなる。
反対に、やり返される形となった浜上。放銃する前の持ち点は44,500で、1回戦のラスを帳消しにしたかっただろう。しかし無情にも浜上はここから3度の流局と1度の放銃でこの半荘もラスになってしまう。きっと浜上は、今日は相当な我慢が必要だと、思ったに違いない。

2回戦成績
西原+25.8P  東谷▲1.4P  藤原▲9.1P  浜上▲15.3P

2回戦終了時
東谷+32.2P  西原18.0P  藤原▲5.1P  浜上▲45.1P

■3回戦(起家から、西原・浜上・藤原・東谷)
東3局3本場、東谷の手筋。
東谷(南家)が以下の配牌から14巡目にツモアガる。

一万五万五万七万七万三索二筒九筒北白発中中  ドラ三筒

一万二万三万五万五万七万七万中中中  ポン発発発  ツモ七万

初手三索。ポイントは2巡目の打二筒で、ドラが三筒なのでもう少し抱える人もいるだろう。
東谷はドラを持ってくれば七対子に移行も出来るし、メンホンの場合もギリギリまで引っ張れる手組みであるとし、早くも二筒をリリースし、受けと攻め攻守兼用の牌を1牌でも多く手牌に抱える。このアガリには東谷が自分の麻雀をこの1年考えてきた証が凝縮されていた。

南1局、今度は浜上(南家)が示現流を炸裂させる。

二万三万一索二索三索一筒二筒三筒南南南西西  リーチ  ツモ一万  ドラ四索

場に2枚切れている高目の一万をツモりあげての4,000・8,000である。実はこのアガリ、注目すべきは打点ではなく別のところにある。浜上の手牌は5巡目に以下で、ツモ西ときたところである。

二万三万一索二索六索六索一筒二筒三筒六筒八筒南南  ツモ西

三色が見えるチャンス手。ここで浜上は、親の現物でもある場に1枚切れの西を抱え、打六筒としカンチャン七筒に見切りをつける。ちなみに、七筒はまだ1枚も姿を見せていない。
七筒をツモってきたら打六索とする手順もある為、この選択が出来る打ち手は少ないのではないか?しかし、浜上の構想では4メンツ1雀頭は決まっていて、この何気ないツモ西の局面にこそ分岐点があり相手との距離感が抱えさせた西であった。この選択が功を奏し、もう1枚ツモ西と持ってきたことでチャンタがついた。今の九州本部にこのアガリを成就させられる者は、浜上以外にほとんどいないと私は思う。浜上は自身が持つスキルを惜しむことなく後輩に教える義務があり、そして、後輩は浜上から盗めるだけ盗むべきである。

話がずれてしまって申し訳ない。話題を卓上へと戻そう。
示現流を炸裂させ、高打点を成就させた浜上であったが、この半荘でトップをもぎ取ったのは藤原。
そのアガリが以下である。

六万六万九万五索五索九索九索四筒四筒七筒七筒南南 ツモ九万 ドラ七筒

このアガリを詳しく解説するために話を戻そう。

局面は南3局1本場、25,300持ちの親番である。6巡目までの各者の捨て牌が以下。
南家:東谷 五索八万二万四万七索  ※仕掛けが入り1巡飛ばされている
西家:西原 九万五万二筒九索一索三索
北家:浜上 九索西発八万二索発
藤原は7巡目に以下の牌姿になる。

二万三万六万六万五索五索九索九索四筒四筒四筒七筒七筒  ツモ南  打四筒

南場の親番でドラが2枚なら形はどうあれ、どうしてもアガリたいのが打ち手の心情だろう。しかし藤原はこの各者の捨て牌相から、ツモってきたNを絞る選択をする。
「どうしてもアガリたい」のだからツモ切ることは簡単であり、手牌MAXで構えたい気持ちはやまやまなのだが、それをグッと堪えた藤原。打二万三万)としなかったのは、マンズにアガリがあると読んだのだろう。実のところこの藤原の距離感はピシャリで、この局は藤原以外が全員2巡目の時点で既に1シャンテンとなっていた。
この我慢が功を奏し、2巡後に南を重ね東谷のリーチと西原の仕掛けを掻い潜り、アガリを手繰り寄せた。

3回戦成績
藤原+16.4P  浜上+9.7P  東谷+2.1P  西原▲28.2P

3回戦終了時
東谷+34.3P  藤原+11.3P  西原▲10.2P  浜上▲35.4P

■4回戦 (西原、東谷、藤原、浜上)
東場では藤原がひとり抜け出し、オーラス5本場を迎えた時点で各者の点棒は以下。
東家:浜上 16,300
南家:西原 29,300
西家:東谷 32,100
北家:藤原 41,300
原点確保して終わりたい西原だったが、最後のツモで藤原に放銃してしまう。

七索七索七索三筒三筒北北  ポン白白白  ポン二索二索二索  ロン三筒  ドラ七索

跳満である。放銃した西原の手牌は以下、

六万六万六万六索二筒二筒二筒発発発  暗カン牌の背五索五索牌の背

こちらはなんと四暗刻単騎である。道中、三暗刻のみのテンパイも組めたのだが、その時点でテンパイ打牌になる六索を、西原は既に危険だと読んでいたのだろう。そのため三暗刻のみを拒否し、六索を使い切る形で闘おうとした結果が、上記の四暗刻単騎まで成長した。
この局面、藤原は6巡目に二索ポンから仕掛けている。そして次巡すぐさま白ポン。

藤原捨て牌 西一万八万中四万四索三万

5巡目の打四万と、白をポンした時の打三万は両方手出しであるから、2度受け以外は、これがただの局を終了させたい一心で仕掛けた打点の低い仕掛けではないことは明白である。その2度受けも、西原自身が直後に打五万とし、否定されている。
元よりテンパイさえしてしまえば、アガれる公算が立つ手組みなら二索から仕掛けずともよいので、白を鳴かれた時点でこの仕掛けに対しては、やはり本手の可能性高く、更にリャンメンターツ拒否から縦の仕掛けと読むのが妥当だろう。
西原はアガリを追うなら、場に安い色で勝負したかっただろう。親の浜上がリーチをしていることも加味し、残りツモがないことを考えると、流局するという選択も視野にあったはずだが、ここはこの六索と共に最後まで行くと決めて果敢に踏み込んだ上での放銃であった。

4回戦成績
藤原+34.8P  東谷+6.1P  西原▲18.2P  浜上▲22.7P

4回戦終了時
藤原+46.1P  東谷+40.4P  西原▲28.4P  浜上▲58.1P

■5回戦(起家から、西原・藤原・東谷・浜上)
東2局1本場、藤原が以下の牌姿と捨て牌で12巡目にリーチにいく。

四万五万六万二索三索四索五索六索四筒五筒六筒西西  リーチ  ドラ五万

捨て牌 南二万白八索六万九索二万南発一万発発←リーチ

この手牌に放銃したのは西原(北家)。リーチ一発目に持ってきたのは中で、

五万一索一索二索二索四索四索六索三筒四筒五筒六筒 ツモ中

一索で放銃する。見事に現物が1枚もなかったので、一見仕方ないようにも思える。
しかし、藤原の捨て牌にある発の内、2枚は手出しであることが西原に見えていたなら、かなり特殊なケースを除き、「この中は通る」と読み切り1巡は回避出来ただろう。
読者の方に私がわかって頂きたいのは、いつもの彼ならその手出しに気付いているはずが、気付けずに一索で放銃してしまったのには、前回(4回戦)のオーラスに三筒で放銃したことが彼にとって、少なからず精神的な面で影響を及ぼしているのではないか?ということである。そして、それがこの決勝という舞台と相まったなら、誰でもそうなる可能性があるということが伝えたいことの1つだ。
前回のオーラスに起きた事象と、今回の12,000放銃は全く別の事象と思ってはならないと私は考えている。それほどまでに、麻雀は精神面が大きく結果を左右させる競技なのだ。
この辺りから、私や観戦者にはより明確に歯車が咬み合うものと、狂ってきているものが傍からみて感じられただろう。

同2本場、前局12,000をアガった藤原が5巡目に仕掛けを入れる。

八万一索一索四索五索五索七索八索九索北北  チー四索五索六索  ドラ八万

リャンメンチーから入り、打ち出されたのがドラの八万である。これを西原がポンをし、そこに東谷(南家)が、8巡目、

七万八万六索七索一筒一筒三筒四筒六筒六筒六筒東発 ツモ九万

ここで打発とし、続く9巡目も、

七万八万九万六索七索一筒一筒三筒四筒六筒六筒六筒東 ツモ西

東と被せる。
藤原は親で2,000、12,300とアガリ46,300持っている。その藤原がリャンメンチーから入り、ドラをリリースしてきた。藤原はこの局面で、1,500や2,900のテンパイを5巡目リャンメンチーから入れる打ち手ではない。それはリーグ戦を闘ってきたからよくわかる。私が対局者なら、チーテンの役牌で7,700、ダブ東で満貫以上と読む。実際には、この発もダブ東も声は掛からなかった。ではかからなかった時はどうか?
それは役満が隠れているか、チンイツである可能性が高くなる。(この時点では北のトイツがあるが、直後に三索をツモりテンパイ取らずの打北として実際にチンイツに向かっている。)つまりこの発とダブTは通ろうが通るまいが、切らない方がよいのでは?東谷のポイントは+40.4Pあり、無理をせず受けにまわって欲しかったと言うのが私の本音であり、それこそが東谷の試練だと思う。

結果は、藤原の仕掛けに丁寧に対応した浜上(西家)が七対子で捌く。
この局を取り上げたのは、東谷には打たずして受けに回る繊細さがあるはずだが、打たせてしまったのは、あくまで主観だが、ある種のプレッシャー、もしくは焦りを感じていたのかもしれないな。という風に私には感じられた。
結果としては影響がなかったが、今後どこかしらで影響してくるのでは?と心配させる場面でもあった。

5回戦成績
藤原+30.0P 東谷+12.2P 浜上▲14.9P 西原▲27.3P

5回戦終了時
藤原+76.1P 東谷52.6P 西原▲55.7P 浜上▲73.0

■6回戦(起家から、東谷・西原・藤原・浜上)
5回戦を終え、初日も残すところあと1回戦となった。
浜上と西原はこれ以上、上位2人にポイントを許すと、2日目最終日に更なる厳しい闘いを挑むこととなる。対局者1人1人が己の中に抱える重圧と葛藤の狭間で、いい形で締め括り、2日目へと繋げたい気持ちは手に取るように分かった。

オーラスの点棒状況は以下の通り。
東家:浜上 36,900
南家:東谷 32,000
西家:西原 26,300
北家:藤原 24,800

オーラスを迎えて、トータルトップの藤原が微差ながらラスにいる。
各自の思惑は何だろう?東谷は親の浜上に対して無理はしないこと。西原は原点復帰だろうか。藤原はトータルポイントで少し余裕がある分、ラスを受け入れた打ち方をしてくるかもしれない。
そんな4者の思考を考えていると、親の浜上から13巡目にリーチが入る。

七万八万九万一索一索一索二索三索四索九筒九筒北北  リーチ  ドラ四筒

競技麻雀のルールは、オーラスの親のアガリ止めは無いルールなので、出来るだけ連荘して、少しでも藤原のポイントを減らした上で明日を迎えたい気持ちが、親の浜上にはあるだろう。
しかしこの時、わずか1巡前にテンパイしていた者がいる。西原だ。

四万四万五万六万六万二索二索二索六索六索七筒八筒九筒

西原の持ち点は26,300であるから、ロンアガリでも当然原点には足りない。浜上がリーチ料を出す前は、例えリーチしたところでロンアガリなら同じく足らない。仮に1人テンパイで終局しテンパイ料3,000を得たところでも結果は変わらない。となると、ここは親のリーチや仕掛けに対応するべくヤミにしていたのは良い判断だと私は見ていた。
焦点は、親のリーチが入った今、どこまで押すのか?というところにある。幸いにも親の現物に五万がある・・・・・・・と思っていた西原の次のツモがなんと五万である。

四万四万五万六万六万二索二索二索六索六索七筒八筒九筒  ツモ五万  打九筒

ツモ・イーペーコーの500・1,000であるが、浜上のリーチ料と足しても原点には足らないことが、西原をある1つの決断をさせる。
ツモアガリを拒否したのだ。この打九筒は浜上の宣言牌六筒があって選ばれた九筒だろう。しかしこの打九筒が浜上のシャンポンリーチにブスリと刺さる。
九筒における賛否は卓で勝負しているもので無ければ問えないと、私は思っている。しかしそれでも、言うなれば西原の優先順位の中に【藤原がラスであること】というのが含まれてなかったのだろうか?
麻雀は、一索巡変わるだけで劇的な変化をする競技である。それは巡目が進めば進むほど比例して変化する。私もよく、ツモってきた牌によって当初イメージしてあった優先順位を変えてしまい失着打をすることがあるが、ポイントは西原の中で【自分が原点復帰すること】と【藤原がラスであること】の優劣をどう捉えていたか?による。
これを放銃する形となってしまった西原は、自身が選択した決断に苦い表情を思わず浮かべてしまった。

オーラス1本場、勝負の世界に「失敗はしても後悔はしない。」という言葉がある。勝負の最中に後悔なんかしても、何1つ良いことは無いのは頭ではわかっていても、心はテレビのチャンネルを変えるように簡単には切り替わってくれない。
それでも西原は、必死でもがき苦しみながらも7巡目にリーチにこぎつける。

三万四万五万七万八万三索四索五索三筒四筒五筒七筒七筒  リーチ  ドラ一万

前局の選択を自問自答しながらも、誰もが悩むターツ選択を正解させたのは流石の一言。
まだまだ負けるわけにはいかないのだ。これに東谷(南家)が以下の牌姿で7,700(8,000)を放銃する。

一万二万四万四万五万七万八万九万六筒南南中中  ツモ八万

九万で放銃となる。六筒よりも九万が先となったのは、本人の中で九万が通るであろう算段があったのかもしれない。
ここまでも東谷は、1回戦目でトップスタートを切りポイントを持ってからも東谷は一貫してアグレッシブに攻めてきた。それは多少放銃しても闘える心算があったからに他ならない。
自身が放銃して原点割れをしたとしても、3着ならまだ闘えるという心算がそこにはあるが、では反対にもしこの打牌が放銃になり自分がラスに転落してしまった場合、トータルトップ藤原とのポイント差は離れてしまうという危険察知はどうだったのだろう?
【自身が放銃して半荘が終了するケース】の中に、3着ならまだ闘えるという心算があるからこそ、そこにスポットライトが強くあたり、【ラスになれば、藤原とのポイント差は離れてしまう】というケースが闇に隠れてしまったのかもしれない。どちらが自分や周りにとって避けたい結果だったか?は今一度考える必要があっただろう。
決勝という特別な舞台が醸し出す見えない重圧。
この半荘はその重圧を一人ひとりが必死に耐え、自分自身と闘う姿がヒシヒシと感じられた、そんな半荘だった。

6回戦成績
浜上+17.3P  西原+5.9P  藤原▲9.2P  東谷▲14.0P

6回戦終了時(初日最終成績)
藤原+66.9P  東谷+38.6P  西原▲49.8  浜上▲55.7

九州プロリーグ レポート/第13期九州皇帝位決勝戦初日レポート

今回のレポートを担当させて頂きます、九州本部26期生、福田正道です。
どうぞ、最後までお付き合い願います。まずは決勝メンバーの御紹介。
・リーグ戦1位通過 西原亨
Bリーグから昇級し、今期が初のAリーグで勢いそのままに40半荘の闘いもぶっちぎりで決勝進出!
1歳になった娘に優勝の二文字をプレゼント出来るか?
・リーグ戦2位通過 藤原英司
Aリーグ在籍4期目にして念願の決勝戦へと駒を進めた。
真っ直ぐな攻め、そこからくる爆発力には定評があり、大舞台でどこまで力を発揮出来るかに注目される。
悲願の初優勝なるか?
・リーグ戦3位通過 東谷達矢
九州の若きエースの1人。既に九州プロアマ混合(ばってん)リーグでの優勝経験あり。
今年度新人王3位。去年の皇帝位決勝惨敗の悔しさを忘れず、精神と技術を磨き再び決勝の舞台に返ってきた。今年こそは!の想いで優勝を狙う。
・リーグ戦4位通過 浜上文吾
現皇帝位であり、九州プロ1期生。言わずもがな九州のエース。
今年度の十段戦の決勝は記憶に新しく、受けの麻雀を基本とし、何度も訓練し身に付けた構想力で初手からアガリまでを見る打ち方は、麻雀示現流(じげんりゅう)と恐れられる。
勝ちよりも、勝ち方に拘って最大の敵、自分自身に打ち勝ち、前人未到の皇帝位2連覇の金字塔を打ちたてられるか?
~プロローグ~
今回のレポートは私自らが志願しました。
書くにあたり注意した点は、打ち手の心情を計りながら書くこと。また間違っていてもいいから私がプロ活動を通じて感じたり、身に付けた考えもふまえて局面を紹介していくことです。そうすることで麻雀という競技が心理面に置いて多分に勝敗を左右する要因になりえることや読んでくださる皆様が競技麻雀に少しでも興味を持って頂けたらという想いで書きました。しかし何分文章を書くのが下手な私ですので、感じた事や言いたい事が上手く伝わらないこともあるかと思いますが、その点御了承頂けたらと思います。
■1回戦(起家から、浜上・西原・藤原・東谷)
1回戦の闘い方はその日1日のテーマや方向性を模索する闘い方でもあると位置付けられる。誰がどのような手組みをし、勝負にどう入っていくかに着目したい。そして対局者には、これから長い長い試練の道が各々に科せられる。
東1局、9巡目。無風状態で東谷(北家)が先制リーチを打つ。
捨て牌 六筒二万二万中四筒南五万北←リーチ
八万九万一索二索三索七索八索九索一筒二筒三筒発発  リーチ  ドラ西
最初のリーチ者が東谷なら、最初の放銃者は藤原(西家)であった。
藤原は半ばオリ打ち気味な放銃であった。これは4者の河に五万が全て見えていたことに起因するかもしれないが、東谷の河を見れば変則手も匂わせる河である。
放銃したことは致し方ないが、(これで打てば高いな。)という覚悟があっただろうか?
東2局、11巡目。浜上(北家)が、
三万一索二索三索一筒一筒二筒七筒八筒九筒東中中
ここにツモ一万で1シャンテンになったところで生牌のダブ東をリリースし、これをドラ色ホンイツ気配の藤原(南家)がポン。すると浜上の次のツモが二万でこれを以下の牌姿でノータイムリーチ。
一万二万三万一索二索三索一筒二筒七筒八筒九筒中中  リーチ
藤原は、前巡に五万をトイツ落とししており、ドラ色のホンイツ模様でドラが1枚でもあれば打点は7,700からである。ましてや、自身の手はペン三筒のドラ待ち。いったいどれほどの打ち手がノータイムでリーチと発声出来るだろうか?と私は思った。
実際には、藤原にソーズのターツがあり、ホンイツではなく結果として藤原に2,000を捌かれるものの、ここに浜上が今回の決勝をどう闘うかの姿勢が見える。
東3局、またしても浜上(西家)が終局間際の残りツモ1回で、
三万四万四万五万五万六万七万八万九万九万一索二索三索 ドラ八万
これをリーチする。ツモればハイテイがつき、高目の三万ツモで3,000・6,000だがこれもほとんどの打ち手はリーチしないのではないだろうか?結果は、順当ともいえる流局。
しかし、テンパイ形を見た他の打ち手はどう感じただろうか?私なら一発裏ドラがないこのルールで、リーチ棒を投げ出して、まさかの3,000・6,000を狙いにくる姿勢に恐さを感じる。
東4局1本場、東谷が2枚目の白をポンしてほどなくテンパイ。
一筒二筒三筒五筒六筒八筒八筒南南南  ポン白白白  ドラ北
これに藤原(北家)が以下の牌姿から打七筒で7,700に飛び込んでしまう。
一万三万五万五万五万二筒二筒五筒五筒五筒東東北
東谷は、白ポンの後に手出しで九筒を切っている。
ドラの北がポツリと浮いているこの手牌では、厳しいと私なら判断する。ここはマンズを払って再構築の道もあったはずだが、藤原はどういう心境でこの七筒を打ち出したのだろう?ひょっとしたら自分の手牌に素直に構え、その上での放銃なら全くもって普通の事象だと捉えていて、失点ほどのダメージなど無いのかもしれない。と、能面のように変わらない藤原の表情を見て私は思った。
同3本場、今度は浜上(南家)が東谷に以下のヤミテンに放銃。
二万二万二万三万四万五万三索四索五索三筒五筒七筒七筒  ロン四筒  ドラ六万
この時点で、東谷は50,000を超えて南入。去年の決勝では、まだ緊張して顔が強張っていた印象があるが、今年は1度経験した分、どうやら初戦から落ち着いているように見えた。
南場に入り、最初にアガリを重ねた東谷が、1人気持ちよく打っているのに対し他3人は苦しい展開が続く。そして1本場として迎えた南3局、この時点の各者の持ち点は、
東家:藤原 21,000
南家:東谷 60,500
西家:浜上 9,200
北家:西原 29,300
こうなっている。既に親番がない西原は、今後の展開も視野に入れてここはなんとしても浮きの2着で終わりたいと思っているだろう。無論、他の2人も西原が浮く分には良しと構えているはずである。しかし南3局1本場は、その西原の1人ノーテンで流局。
南3局、2本場。6巡目に西原(北家、持ち点26,300)が以下の牌姿でテンパイを入れる。
五万六万七万三索四索六索六索四筒五筒六筒白白白  ドラ四万
そして、西原の選択はヤミ。確かにドラの振り替わりもあり、役牌がある分、ヤミでもロンアガリ可能なことを考えれば正解なのかもしれない。だが、私なら迷わずリーチをする。親番のない残り2局。まだ始まったばかりの1回戦とはいえ、東谷に60,000超えの1人浮きトップを取らすこと、それ即ち東谷を楽にさせると考えるからだ。
結果は、東谷から五索をロンアガリし1,900を加点するが、やはりラス前フォーメーションとしては弱く感じたが、皆さんの選択はどうだろうか?
そして南4局。西原(西家)の手に着目していると思わぬところから声があがる。
「ツモ。2,000・4,000。」声の主はなんと藤原(北家)。
五万六万六索六索七索七索八索八索二筒二筒四筒五筒六筒  ツモ四万  ドラ六筒
私はてっきり、浜上と藤原はこの半荘は沈みで終わるだろうと予想していた。藤原に関しては、2度ほど手牌が整っていないところからの放銃があったので、浮上はないとふんでいたのだが。ところが、である。
開かれた手牌は立派な満貫で、藤原の持ち点は22,000だったのでこれが2,000・3,900でも浮きは確保出来ていなかった(無論その場合はリーチを打つだろうが)。
このアガリに私は、東3局2本場の親番にアガれなかった藤原の手のその手順を思い出した。それは、
五万六万七万八万四索五索五索六索八索七筒八筒西西  ツモ六筒  ドラ八筒
この1シャンテンで、藤原は打五万と構えた。次巡、ツモ三索で、
六万七万八万四索五索五索六索八索六筒七筒八筒西西  ツモ三索  打五索
五索のリーチといったのだ。
結果は、手牌が開かれることはなかったが、藤原自身の意志が確かに感じられるものだった。そして改めて、2度の手バラからの放銃も藤原にとっては、アガリの可能性を放棄することの方が恐ろしいことだったのかもしれないと思わされた。
なにはともあれ、これをもって決勝の幕が開けたのである。
1回戦成績
東谷+33.6P  藤原+4.0P  西原▲7.8P  浜上▲29.8P
■2回戦(起家から、浜上・藤原・西原・東谷)
東1局は浜上(東家)が場に間に合わせるように2,000オールをアガる。
同1本場、浜上が7巡目にダブ東を西原(西家)からポンする。
ポンさせた西原は、
五万六万七万六索七索三筒三筒三筒五筒六筒七筒八筒八筒  ドラ五索
こうで、リーチに行く。ポンさせた後に三筒五筒と立て続けに引き入れた高目3,000・6,000の本手であるから感触は悪くない。しかしこれは浜上が西原から四索をロンアガリ。
六万六万二索三索四索五索六索四筒五筒六筒  ポン東東東  ロン四索
初戦ラススタートの浜上にとっては、いい再スタートになったという感情か。
東2局、先程競り負けた西原が4巡目に中を一鳴きする。
浜上(北家)は「狼煙はもうあがってんだぜ」と言わんばかりに、ドラの九索をリリースして、これを西原(南家)がポンして1シャンテン。
六万六万八万六索七索八索五筒  ポン九索九索九索  ポン中中中  ドラ九索
これに対し浜上は、ドラを鳴かせた以上、後退なしの構えでリーチで圧をかけにいくが、
三万四万五万七万七万五索六索二筒三筒四筒五筒六筒七筒  リーチ
ドラをリリースして、鳴かせた以上、最後までという打ち手もいれば、ドラを鳴かれてもロンアガリが効くならヤミが得策だろうと思う方もいるとおもう。リーチの賛否は打ち手にとって、最も悩ましい議題のひとつだと私は思っている。どちらが正解というのはないが、いつも浜上の後ろで彼の麻雀を見てきた私がひとつだけ言えることは、昔の浜上ならこのようなリスキーな選択は出来なかっただろうということ。今は自分を成長させる為なら、自ら進んで棘の道を踏み込むということではないだろうか?と、私はみる。そして軍配はまたしても浜上に上がる。
三万四万五万七万七万五索六索二筒三筒四筒五筒六筒七筒  リーチ  ツモ四索
東3局、ここまで2度とも競り負けた西原(東家)。配牌では上手に寄せれば三色が見える手を観戦者の期待通り西原は8巡目、丁寧に以下に仕上げる。
三万五万三索四索五索八索八索八索三筒四筒五筒西西  ドラ西
これを慎重にヤミにした西原。私は後ろで観戦しながら、どうしてもアガリたい西原の心境と、もし誰かがこの手に放銃したとしたらそのダメージの大きさからメンタルのブレが生じるかもしれない、という2つの事を考えていた。
結果は、2度競り負けした相手、浜上からのリーチ宣言牌を捕える。文字通り3度目の正直で待望の本手を決めた西原。この半荘が西原を勢いづけ、1人浮きのトップをもぎ取ることとなる。
反対に、やり返される形となった浜上。放銃する前の持ち点は44,500で、1回戦のラスを帳消しにしたかっただろう。しかし無情にも浜上はここから3度の流局と1度の放銃でこの半荘もラスになってしまう。きっと浜上は、今日は相当な我慢が必要だと、思ったに違いない。
2回戦成績
西原+25.8P  東谷▲1.4P  藤原▲9.1P  浜上▲15.3P
2回戦終了時
東谷+32.2P  西原18.0P  藤原▲5.1P  浜上▲45.1P
■3回戦(起家から、西原・浜上・藤原・東谷)
東3局3本場、東谷の手筋。
東谷(南家)が以下の配牌から14巡目にツモアガる。
一万五万五万七万七万三索二筒九筒北白発中中  ドラ三筒
一万二万三万五万五万七万七万中中中  ポン発発発  ツモ七万
初手三索。ポイントは2巡目の打二筒で、ドラが三筒なのでもう少し抱える人もいるだろう。
東谷はドラを持ってくれば七対子に移行も出来るし、メンホンの場合もギリギリまで引っ張れる手組みであるとし、早くも二筒をリリースし、受けと攻め攻守兼用の牌を1牌でも多く手牌に抱える。このアガリには東谷が自分の麻雀をこの1年考えてきた証が凝縮されていた。
南1局、今度は浜上(南家)が示現流を炸裂させる。
二万三万一索二索三索一筒二筒三筒南南南西西  リーチ  ツモ一万  ドラ四索
場に2枚切れている高目の一万をツモりあげての4,000・8,000である。実はこのアガリ、注目すべきは打点ではなく別のところにある。浜上の手牌は5巡目に以下で、ツモ西ときたところである。
二万三万一索二索六索六索一筒二筒三筒六筒八筒南南  ツモ西
三色が見えるチャンス手。ここで浜上は、親の現物でもある場に1枚切れの西を抱え、打六筒としカンチャン七筒に見切りをつける。ちなみに、七筒はまだ1枚も姿を見せていない。
七筒をツモってきたら打六索とする手順もある為、この選択が出来る打ち手は少ないのではないか?しかし、浜上の構想では4メンツ1雀頭は決まっていて、この何気ないツモ西の局面にこそ分岐点があり相手との距離感が抱えさせた西であった。この選択が功を奏し、もう1枚ツモ西と持ってきたことでチャンタがついた。今の九州本部にこのアガリを成就させられる者は、浜上以外にほとんどいないと私は思う。浜上は自身が持つスキルを惜しむことなく後輩に教える義務があり、そして、後輩は浜上から盗めるだけ盗むべきである。
話がずれてしまって申し訳ない。話題を卓上へと戻そう。
示現流を炸裂させ、高打点を成就させた浜上であったが、この半荘でトップをもぎ取ったのは藤原。
そのアガリが以下である。
六万六万九万五索五索九索九索四筒四筒七筒七筒南南 ツモ九万 ドラ七筒
このアガリを詳しく解説するために話を戻そう。
局面は南3局1本場、25,300持ちの親番である。6巡目までの各者の捨て牌が以下。
南家:東谷 五索八万二万四万七索  ※仕掛けが入り1巡飛ばされている
西家:西原 九万五万二筒九索一索三索
北家:浜上 九索西発八万二索発
藤原は7巡目に以下の牌姿になる。
二万三万六万六万五索五索九索九索四筒四筒四筒七筒七筒  ツモ南  打四筒
南場の親番でドラが2枚なら形はどうあれ、どうしてもアガリたいのが打ち手の心情だろう。しかし藤原はこの各者の捨て牌相から、ツモってきたNを絞る選択をする。
「どうしてもアガリたい」のだからツモ切ることは簡単であり、手牌MAXで構えたい気持ちはやまやまなのだが、それをグッと堪えた藤原。打二万三万)としなかったのは、マンズにアガリがあると読んだのだろう。実のところこの藤原の距離感はピシャリで、この局は藤原以外が全員2巡目の時点で既に1シャンテンとなっていた。
この我慢が功を奏し、2巡後に南を重ね東谷のリーチと西原の仕掛けを掻い潜り、アガリを手繰り寄せた。
3回戦成績
藤原+16.4P  浜上+9.7P  東谷+2.1P  西原▲28.2P
3回戦終了時
東谷+34.3P  藤原+11.3P  西原▲10.2P  浜上▲35.4P
■4回戦 (西原、東谷、藤原、浜上)
東場では藤原がひとり抜け出し、オーラス5本場を迎えた時点で各者の点棒は以下。
東家:浜上 16,300
南家:西原 29,300
西家:東谷 32,100
北家:藤原 41,300
原点確保して終わりたい西原だったが、最後のツモで藤原に放銃してしまう。
七索七索七索三筒三筒北北  ポン白白白  ポン二索二索二索  ロン三筒  ドラ七索
跳満である。放銃した西原の手牌は以下、
六万六万六万六索二筒二筒二筒発発発  暗カン牌の背五索五索牌の背
こちらはなんと四暗刻単騎である。道中、三暗刻のみのテンパイも組めたのだが、その時点でテンパイ打牌になる六索を、西原は既に危険だと読んでいたのだろう。そのため三暗刻のみを拒否し、六索を使い切る形で闘おうとした結果が、上記の四暗刻単騎まで成長した。
この局面、藤原は6巡目に二索ポンから仕掛けている。そして次巡すぐさま白ポン。
藤原捨て牌 西一万八万中四万四索三万
5巡目の打四万と、白をポンした時の打三万は両方手出しであるから、2度受け以外は、これがただの局を終了させたい一心で仕掛けた打点の低い仕掛けではないことは明白である。その2度受けも、西原自身が直後に打五万とし、否定されている。
元よりテンパイさえしてしまえば、アガれる公算が立つ手組みなら二索から仕掛けずともよいので、白を鳴かれた時点でこの仕掛けに対しては、やはり本手の可能性高く、更にリャンメンターツ拒否から縦の仕掛けと読むのが妥当だろう。
西原はアガリを追うなら、場に安い色で勝負したかっただろう。親の浜上がリーチをしていることも加味し、残りツモがないことを考えると、流局するという選択も視野にあったはずだが、ここはこの六索と共に最後まで行くと決めて果敢に踏み込んだ上での放銃であった。
4回戦成績
藤原+34.8P  東谷+6.1P  西原▲18.2P  浜上▲22.7P
4回戦終了時
藤原+46.1P  東谷+40.4P  西原▲28.4P  浜上▲58.1P
■5回戦(起家から、西原・藤原・東谷・浜上)
東2局1本場、藤原が以下の牌姿と捨て牌で12巡目にリーチにいく。
四万五万六万二索三索四索五索六索四筒五筒六筒西西  リーチ  ドラ五万
捨て牌 南二万白八索六万九索二万南発一万発発←リーチ
この手牌に放銃したのは西原(北家)。リーチ一発目に持ってきたのは中で、
五万一索一索二索二索四索四索六索三筒四筒五筒六筒 ツモ中
一索で放銃する。見事に現物が1枚もなかったので、一見仕方ないようにも思える。
しかし、藤原の捨て牌にある発の内、2枚は手出しであることが西原に見えていたなら、かなり特殊なケースを除き、「この中は通る」と読み切り1巡は回避出来ただろう。
読者の方に私がわかって頂きたいのは、いつもの彼ならその手出しに気付いているはずが、気付けずに一索で放銃してしまったのには、前回(4回戦)のオーラスに三筒で放銃したことが彼にとって、少なからず精神的な面で影響を及ぼしているのではないか?ということである。そして、それがこの決勝という舞台と相まったなら、誰でもそうなる可能性があるということが伝えたいことの1つだ。
前回のオーラスに起きた事象と、今回の12,000放銃は全く別の事象と思ってはならないと私は考えている。それほどまでに、麻雀は精神面が大きく結果を左右させる競技なのだ。
この辺りから、私や観戦者にはより明確に歯車が咬み合うものと、狂ってきているものが傍からみて感じられただろう。
同2本場、前局12,000をアガった藤原が5巡目に仕掛けを入れる。
八万一索一索四索五索五索七索八索九索北北  チー四索五索六索  ドラ八万
リャンメンチーから入り、打ち出されたのがドラの八万である。これを西原がポンをし、そこに東谷(南家)が、8巡目、
七万八万六索七索一筒一筒三筒四筒六筒六筒六筒東発 ツモ九万
ここで打発とし、続く9巡目も、
七万八万九万六索七索一筒一筒三筒四筒六筒六筒六筒東 ツモ西
東と被せる。
藤原は親で2,000、12,300とアガリ46,300持っている。その藤原がリャンメンチーから入り、ドラをリリースしてきた。藤原はこの局面で、1,500や2,900のテンパイを5巡目リャンメンチーから入れる打ち手ではない。それはリーグ戦を闘ってきたからよくわかる。私が対局者なら、チーテンの役牌で7,700、ダブ東で満貫以上と読む。実際には、この発もダブ東も声は掛からなかった。ではかからなかった時はどうか?
それは役満が隠れているか、チンイツである可能性が高くなる。(この時点では北のトイツがあるが、直後に三索をツモりテンパイ取らずの打北として実際にチンイツに向かっている。)つまりこの発とダブTは通ろうが通るまいが、切らない方がよいのでは?東谷のポイントは+40.4Pあり、無理をせず受けにまわって欲しかったと言うのが私の本音であり、それこそが東谷の試練だと思う。
結果は、藤原の仕掛けに丁寧に対応した浜上(西家)が七対子で捌く。
この局を取り上げたのは、東谷には打たずして受けに回る繊細さがあるはずだが、打たせてしまったのは、あくまで主観だが、ある種のプレッシャー、もしくは焦りを感じていたのかもしれないな。という風に私には感じられた。
結果としては影響がなかったが、今後どこかしらで影響してくるのでは?と心配させる場面でもあった。
5回戦成績
藤原+30.0P 東谷+12.2P 浜上▲14.9P 西原▲27.3P
5回戦終了時
藤原+76.1P 東谷52.6P 西原▲55.7P 浜上▲73.0
■6回戦(起家から、東谷・西原・藤原・浜上)
5回戦を終え、初日も残すところあと1回戦となった。
浜上と西原はこれ以上、上位2人にポイントを許すと、2日目最終日に更なる厳しい闘いを挑むこととなる。対局者1人1人が己の中に抱える重圧と葛藤の狭間で、いい形で締め括り、2日目へと繋げたい気持ちは手に取るように分かった。
オーラスの点棒状況は以下の通り。
東家:浜上 36,900
南家:東谷 32,000
西家:西原 26,300
北家:藤原 24,800
オーラスを迎えて、トータルトップの藤原が微差ながらラスにいる。
各自の思惑は何だろう?東谷は親の浜上に対して無理はしないこと。西原は原点復帰だろうか。藤原はトータルポイントで少し余裕がある分、ラスを受け入れた打ち方をしてくるかもしれない。
そんな4者の思考を考えていると、親の浜上から13巡目にリーチが入る。
七万八万九万一索一索一索二索三索四索九筒九筒北北  リーチ  ドラ四筒
競技麻雀のルールは、オーラスの親のアガリ止めは無いルールなので、出来るだけ連荘して、少しでも藤原のポイントを減らした上で明日を迎えたい気持ちが、親の浜上にはあるだろう。
しかしこの時、わずか1巡前にテンパイしていた者がいる。西原だ。
四万四万五万六万六万二索二索二索六索六索七筒八筒九筒
西原の持ち点は26,300であるから、ロンアガリでも当然原点には足りない。浜上がリーチ料を出す前は、例えリーチしたところでロンアガリなら同じく足らない。仮に1人テンパイで終局しテンパイ料3,000を得たところでも結果は変わらない。となると、ここは親のリーチや仕掛けに対応するべくヤミにしていたのは良い判断だと私は見ていた。
焦点は、親のリーチが入った今、どこまで押すのか?というところにある。幸いにも親の現物に五万がある・・・・・・・と思っていた西原の次のツモがなんと五万である。
四万四万五万六万六万二索二索二索六索六索七筒八筒九筒  ツモ五万  打九筒
ツモ・イーペーコーの500・1,000であるが、浜上のリーチ料と足しても原点には足らないことが、西原をある1つの決断をさせる。
ツモアガリを拒否したのだ。この打九筒は浜上の宣言牌六筒があって選ばれた九筒だろう。しかしこの打九筒が浜上のシャンポンリーチにブスリと刺さる。
九筒における賛否は卓で勝負しているもので無ければ問えないと、私は思っている。しかしそれでも、言うなれば西原の優先順位の中に【藤原がラスであること】というのが含まれてなかったのだろうか?
麻雀は、一索巡変わるだけで劇的な変化をする競技である。それは巡目が進めば進むほど比例して変化する。私もよく、ツモってきた牌によって当初イメージしてあった優先順位を変えてしまい失着打をすることがあるが、ポイントは西原の中で【自分が原点復帰すること】と【藤原がラスであること】の優劣をどう捉えていたか?による。
これを放銃する形となってしまった西原は、自身が選択した決断に苦い表情を思わず浮かべてしまった。
オーラス1本場、勝負の世界に「失敗はしても後悔はしない。」という言葉がある。勝負の最中に後悔なんかしても、何1つ良いことは無いのは頭ではわかっていても、心はテレビのチャンネルを変えるように簡単には切り替わってくれない。
それでも西原は、必死でもがき苦しみながらも7巡目にリーチにこぎつける。
三万四万五万七万八万三索四索五索三筒四筒五筒七筒七筒  リーチ  ドラ一万
前局の選択を自問自答しながらも、誰もが悩むターツ選択を正解させたのは流石の一言。
まだまだ負けるわけにはいかないのだ。これに東谷(南家)が以下の牌姿で7,700(8,000)を放銃する。
一万二万四万四万五万七万八万九万六筒南南中中  ツモ八万
九万で放銃となる。六筒よりも九万が先となったのは、本人の中で九万が通るであろう算段があったのかもしれない。
ここまでも東谷は、1回戦目でトップスタートを切りポイントを持ってからも東谷は一貫してアグレッシブに攻めてきた。それは多少放銃しても闘える心算があったからに他ならない。
自身が放銃して原点割れをしたとしても、3着ならまだ闘えるという心算がそこにはあるが、では反対にもしこの打牌が放銃になり自分がラスに転落してしまった場合、トータルトップ藤原とのポイント差は離れてしまうという危険察知はどうだったのだろう?
【自身が放銃して半荘が終了するケース】の中に、3着ならまだ闘えるという心算があるからこそ、そこにスポットライトが強くあたり、【ラスになれば、藤原とのポイント差は離れてしまう】というケースが闇に隠れてしまったのかもしれない。どちらが自分や周りにとって避けたい結果だったか?は今一度考える必要があっただろう。
決勝という特別な舞台が醸し出す見えない重圧。
この半荘はその重圧を一人ひとりが必死に耐え、自分自身と闘う姿がヒシヒシと感じられた、そんな半荘だった。
6回戦成績
浜上+17.3P  西原+5.9P  藤原▲9.2P  東谷▲14.0P
6回戦終了時(初日最終成績)
藤原+66.9P  東谷+38.6P  西原▲49.8  浜上▲55.7