来期からは全6節、通算成績で優勝者を決めるため、今回が最後の決勝戦となる。
決勝進出者は広島支部長清水。今回も安定感のある成績で決勝に残った。
ディフェンディング制度はないが、チャンピオンとして決勝に残ったのはさすがの一言に尽きる。
前回に引き続き決勝進出とした蒼山。
前回の悔しさを忘れず研鑽を重ねた結果と言えるだろう。
今回こそは優勝するという熱い意気込みが感じられる。
初出場となった荻巣。門前重視で腰の重い打ち手だ。
少々荒削りな面はあるが、決める所はきちんと決めてくる。
蒼山と同期であり、彼のアフロ頭という風貌は広島支部のマスコットとして慕われている。
同じく初出場の谷本。
鳴きを多く駆使するスタイルは清水と近いか。
自分にアガリがあると判断した時の踏み込みは随一。
時に危険牌ですら通して攻める雀風は他の3者には無いセンスがある。
1回戦(起家から、清水・谷本・蒼山・荻巣)
東1局、親の清水がダブ東トイツにドラ面子完成と好配牌。
ドラ
これを5巡目に仕上げてのリーチ。
前回と同じく清水の発声で幕を開けた。
リーチ
一人旅かと思いきや、配牌で4トイツだった荻巣が残りツモ1回で大物手のテンパイ。
ツモ
清水のリーチにドラは危ないところだが打でリーチ。
結果、次巡のツモでを掴んでしまい清水に12,000の放銃。
結果論ではあるが、清水以外から出アガリが期待できない以上、残り1回のツモに賭けるならば、次の危険牌ツモの可能性に備えヤミテンでテンパイ取りという選択肢もあったか。
続く1本場、清水の爆発力を知る同卓者は親を落としたいところ。
しかしながら、今回もテンパイ一番乗りは清水。
ポン ドラ
谷本がホンイツで押し返し、1シャンテンまでこぎつけるも、清水がをツモって2,600は2,700オールと加点する。更に連荘を続けたい清水だが、東2局は互いに牽制しあって全員ノーテンで流局。
東2局3本場、次のアガリは蒼山だった。
チー ポン ツモ ドラ
14巡目と遅いテンパイだったが谷本のリーチ直後のツモアガリ。
東3局、南家の荻巣の配牌が2シャンテン。
ドラ
第一ツモで絶好の、第二ツモでをツモり即リーチ。これに蒼山が一発で刺さり2,600。
東4局、親を引いた荻巣の配牌が良い。
ドラ
他の3者の配牌は、
清水
谷本
蒼山
勝負になりそうなのは蒼山か。
前局2,600をアガったとは言え、持ち点が15,600の荻巣、ここはなんとかアガリたいところだがツモが利かずテンパイは7巡目。
場にマンズが高い事もあり、慎重にヤミに構えるが直後8巡目に蒼山が追いつく。
奇しくも同じカン。こちらもヤミ。
どちらかのアガリかと思われたが9巡目、清水が少考の末打。
卓上に緊張が走る。大方の予想通り次巡清水からリーチ。
リーチ
これに蒼山が放銃し1,600。荻巣の7,700を蹴る大きいアガリとなった。
南1局、ここまで我慢をしてきた谷本が先制。
ドラ
ここから1巡ツモ切りを挟んでの空切りリーチ。
456の三色、での仕掛けも利く形であるため、ヤミ続行の打ち手もいるだろうが、このリーチが功を奏し清水からの1,300となる。
南2局、蒼山が4巡目にピンフドラドラの1シャンテンにこぎつけ、5巡目にこの形。
ドラ
反撃の糸口となるかと思われたが、この局は蒼山からを鳴いた親の谷本がまたも清水から2900の直取り。
続く1本場は蒼山の速攻が決まり400・800は500・900。
チー ポン ツモ ドラ
九種九牌での流局を挟み南3局1本場。
ドラトイツやドラ面子含みの2シャンテンなど、好配牌を取り続けているがテンパイからアガリまでが遠い荻巣。今回もダブ南とを叩き満貫のテンパイを入れるが、これも谷本に同テンを引き負けてしまう。
500・1,000は600・1,100。
オーラスを迎えて点数は親から順に、
荻巣 14,500
清水 46,100
谷本 29,700
蒼山 29,700
4者とも思惑はあるだろうが谷本、蒼山が同じ点数。
清水の1人浮きは避けたい、出来るならば自分が浮く事が出来れば、といったところか。
しかしアガリを焦ったか、谷本にミスが出てしまう。
ツモ ドラ
ここからを打ち蒼山に鳴かれてしまう。
もう形が決まっており、重なる前に切るという考えもあるのだろうが、自分でもを重ねれば使える形である事を考えると、ドラのはテンパイ打牌でも遅くはなかった。
結果は、蒼山が7,700を谷本から出アガリ。
チー ポン ポン ロン
谷本は、今後このミスを引きずらず修正して戦っていく事が肝要となる。
1回戦成績
清水+24.1P 蒼山+11.4P 谷本▲12.0P 荻巣▲23.5P
2回戦(起家から、蒼山・谷本・清水・荻巣)
東1局、決勝卓に残った全員に言える事だが、ミスを犯しても修正し戦える形に持っていける力を持っている。
谷本は先ほどのミスをどう受け止めてどう対処するのか。
その谷本、配牌で4トイツから8巡目に先制のリーチ。
リーチ ドラ
捨牌が、リーチ
こう怪しいが、自風のを暗刻にし攻めたい形になった清水が捕まって8,000放銃となった。
東2局、前回の放銃を物ともせず先制リーチを打つ清水。
直後に谷本がメンピンドラ1で追っかけリーチとするが直後に捕まり、リーチのみの1,300が移動。
東3局、暗刻の好配牌をもらった蒼山がわずか4巡目にリーチ。
リーチ ドラ
これには誰も向かえる形になっておらず、8巡目に2,000・3,900のツモアガリ。
東4局、ポン、ポン、加カンと攻める清水。
ここに親の荻巣がリーチでかぶせていくが流局。
続く1本場、連荘を果たした親の荻巣が10巡目にリーチ、一発ツモ。
リーチ ツモ ドラ
ここに来て初めて手応えのあるアガリを手に出来たか。
2本場は谷本が好形リーチで先制。
リーチ ドラ
これを受けたラス目の清水、仮テンからのツモアガリ。
ツモ
こういった相手のリーチを仮テンで潰せるのは大きい。
南1局、東3局以来ガードを上げていた蒼山が12巡目という深い巡目からリーチ、一発ツモ。
リーチ ツモ ドラ
選択にも迷いが無く、よく山が読めている印象だ。
続く1本場もドラを暗刻にし、清水からこのアガリで浮きを磐石とする。
ポン ロン ドラ
2本場では3者がぶつかる。
親の蒼山はマンズのチンイツへ、西家の清水はピンズのホンイツ、
谷本はリーチと捨牌2段目で一気に場が動き出す。蒼山はリーチ後の谷本のをポン。
ポン ドラ
谷本は9巡目にリーチ。
谷本
リーチ
清水は9巡目に場に生牌のを押してこの形。
チー ポン
手牌に詰まった荻巣が選んだ打牌はだった。
清水が3,900は4,500の加点でこの局を制する。
南2局、まだ攻めの手を緩めない蒼山。
第一ツモで1シャンテンになったトイツを4巡目に仕上げてリーチでさらに加点を狙う。
リーチ ドラ
ここで楽をさせないのは荻巣。
これで6巡目に追っかけリーチを打ちツモアガリ。
初戦ラスだった荻巣。簡単には決めさせない気概を感じる。
南3局、ここで踏ん張りたい親番の清水。
しかしテンパイ直後に谷本に放銃し親番を落とされてしまう。
チー 暗カン ロン ドラ
南4局、1人沈みは避けたい清水と浮いておきたい谷本の一騎討ちとなった。
清水は9巡目にリーチ。
ツモ 切りリーチ ドラ
1巡間に合わされる形となった谷本。
ポン ポン
この一巡間に合ったという事実がどう影響するのか見ものだったが、開かれたのは谷本の手だった。
ポン ポン ツモ
このアガリによって、清水は痛い1人沈みとなり、折り返しを迎える。
2回戦成績
蒼山+24.8P 荻巣+5.8P 谷本+2.5P 清水▲33.1P
2回戦終了時
蒼山+36.2P 清水▲9.0P 谷本▲9.5P 荻巣▲17.7P
3回戦(起家から清水、谷本、荻巣、蒼山)
東1局は蒼山の1人ノーテン、
続く1本場は、親の清水と谷本の2人テンパイと重たい立ち上がりになった3回戦。
2本場、2連続でノーテンとなった蒼山が5巡目リーチ、荻巣から先制のアガリ。
リーチ ロン ドラ
東2局、ここまで攻め手にあぐねている荻巣に早いテンパイが入る。
5巡目にリーチ、7巡目にを暗カンしこの形。
暗カン ドラ
ドラも見えておらず、70符以上が確定しているためオリを選択した蒼山と清水。
全員から出ない形になったが、親番で役無しの形テンを保っていた谷本が15巡目に放銃してしまう。
親番維持したいがために焦りが出たか。
まだ南場の親番もある事も考えればここは堪えて欲しかった。
東3局、役無しも含め4人にテンパイが入る。
役ありだった清水と谷本が競った末に勝ったのは谷本の5,200。
加カン ロン ドラ
東4局、失点を挽回したい清水がカンを引き入れて10巡目にリーチ。
リーチ ドラ
実はこの局8巡目に先制のテンパイを入れていた親番の蒼山。
清水のリーチを受けた後、と立て続けに引き入れ、最終形になった蒼山が追っかけリーチ。
谷本も直後リーチで参加するが清水がを掴み軍配は蒼山に上がる。
リーチ ロン
5,200、12,000に含めリーチ棒と立て続けに失点してしまった清水。
心境は量りかねるがこれくらいで折れてしまう支部長ではない。
続く1本場では荻巣が手筋の妙を見せる。4巡目にこの形。
ツモ ドラ
次に切るつもりのが重なって色々な可能性が見える形。
早い巡目という事もあり、関連牌も場に見えておらず他家の手牌も想像し難い。
七対子と四暗刻を逃さない切りか、縦に固定する切りか。
少考した後荻巣が選択したのは。
その後、ツモ打、ツモ打、をツモり切りリーチで最終形がこの形。
これに親番の蒼山が捕まり、値千金の8,000直取りとなった。
南1局も荻巣から4巡目にリーチの発声。
リーチ ドラ
ドラ表示牌のを引き入れた好感触のリーチだ。
捨牌にが1枚、蒼山の手にが2枚、谷本の手にが1枚と山に4枚のリーチ。
これが蒼山にと立て続けに流れて残り1枚に。
しかし荻巣が流局間際のラスト1回のツモでラス牌のをツモアガリ。
このアガリで荻巣は最終戦優勝争いに絡んでくるだろうと確信した。
南2局、タンヤオ系の好配牌が入った清水が攻めに出る。
6巡目に親番の谷本が足止めの役無しリーチを打つが、ものともせずドラを切っての追っかけリーチ。
これに谷本が捕まり7,700放銃となってしまう。
リーチ ロン ドラ
南3局は、蒼山が軽く2,000点を清水からアガリ親番を得て、蒼山の長い親番が始まる。
オーラス、谷本がわずか2巡目にリーチ。
リーチ ドラ
直後を暗カンし、高目満貫の形になったが荻巣の切りに対して、手を開けたのは蒼山だった。
ロン
谷本にとっては痛恨の頭ハネ。
開けられる事のなかった谷本の手牌だが、
ロンの発生が重なった事実、頭ハネとなった事実を荻巣と蒼山はどう受け止めたか。
続く1本場、逃げたい荻巣、追いたい蒼山。
思うようにツモが伸びない荻巣に対し、蒼山の手牌は9巡目にをツモり万全の形に。
ツモ ドラ
しかしこの形から動かず13巡目にをチーしてテンパイ。
を谷本から1,500は1,800のアガリ。
2本場、5巡目にドラのをツモりピンフドラのテンパイが入った蒼山。
ドラ
ここでのピンフドラ3をリーチか否かは意見が分かれるだろう。
蒼山はリーチを選択したが、それは決して楽になりたいからという思考放棄のリーチではない。
テンパイ時点で、他家に7枚持たれていたこのリーチは空振りに終わってしまったが、
「ヤミテンならアガれた」と言うのはそれこそ結果論である。
こういう場面では各々今まで自分の打ってきた、学んできた麻雀に基づいて選択しているものだ。
結果論以外で正解不正解があるはずも無い。
3本場では、ドラを暗刻にした清水が蒼山の連荘を終わらせるため、最終戦に望みをつなげるため6巡目にリーチを打ってくる。
リーチ ドラ
13巡目、親番をまだ続けるつもりの蒼山に岐路が訪れる。
ツモ
清水のリーチの現物はがあり、オリる事も選択肢として存在する。
満貫までなら着順も順位点も変わらず、ならばと打を選択してテンパイをキープする蒼山。
しかし17巡目にはドラをツモ。跳満に放銃すれば着順も順位点も清水に逆転されてしまう。
このドラで放銃すれば跳満の可能性も高い。長考に入る蒼山。
ここではオリを選択するかと思ったが長考の末に導き出した結論はドラのツモ切り。
歯を食い縛ってもう一度の連荘を目指すがこの局を制したのは荻巣だった。
ツモ
蒼山がドラを通した17巡目、またもラスト1回でのツモアガリ。
意地があるのは蒼山だけではない。
このアガリでトップを決めた荻巣、蒼山との差を縮めて最終戦に挑む。
3回戦成績
荻巣+30.7P 蒼山+12.2P 清水▲18.7P 谷本▲24.2P
3回戦終了時
蒼山+48.4P 荻巣+13.0P 清水▲27.7P 谷本▲33.7P
4回戦(起家から荻巣、清水、谷本、蒼山)
最終戦東1局、1つも親番を無駄にしたくない荻巣だが、3巡目に1シャンテンになってから手牌が動かない。
ドラ含みのホンイツで仕掛けた谷本の1人テンパイ。
東2局1本場、局を回していきたい蒼山、4巡目のを仕掛けて6巡目にこの形に。
ポン ドラ
役満が必要な局面ではないが見ている立場からすれば見たいものではある。
しかしを重ねる前にを叩いて切り、清水から1,000は1,300のアガリ。
東3局、蒼山の6巡目がこの形。
ツモ ドラ
仕掛けで手役を確定させる事の出来る形、となれば打もあるが守備、最終形を考えての打。
ここからを引き入れ一番距離の近い荻巣からヤミテンで満貫を討ち取る。
優勝を手元に手繰り寄せる大きなアガリだ。
ロン
東4局、3巡目という速さで蒼山にテンパイが入るが7巡目に谷本のリーチで撤退。
ここに荻巣が飛び込んでしまう。
リーチ ロン ドラ
南1局、荻巣の最後の親番。
そこそこの配牌はもらうもののツモが利かない展開の多い荻巣。
今回も苦戦はしたが配牌から一切動かないドラターツを嫌いテンパイに辿り着きリーチ。
しかしこれが流局となり清水との2人テンパイ。
続く2本場も1シャンテンまで辿り着くが谷本の1,000・2,000のアガリで一気に苦境に立たされてしまう。
南2局、優勝にはここで連荘し続けるしかない清水。
10巡目にリーチを打つが、これは競り負けて荻巣に蹴られて空振りに終わってしまう。
チー ロン ドラ
南3局、清水と同じく連荘が絶対条件の谷本。
アガリに結びつきはしなかったがリーチからの連荘で1本場。
続く1本場では仕掛けを駆使してテンパイを入れるも荻巣に連荘を阻まれる。
チー ロン ドラ
ついに迎えたオーラス、事実上蒼山と荻巣の一騎討ちである。
荻巣の条件は蒼山からの直撃なら三倍満以上、ツモなら役満以上と厳しい。
蒼山は流局で手牌を伏せるのみ。実質役満のツモアガリ条件となる。
荻巣の配牌は、
ドラ
第一ツモは。八種十牌となった手牌でここから本線になる役満はほぼ1つ。
執念で必要牌を引き入れ、15巡目。
ツモ
優勝の為の条件は整った。残りツモは2回。
祈るような気持ちで牌をツモるが、無常にも最後のツモはドラの。
河に安全牌の北を並べる荻巣の表情に落胆は見受けられない。
今自分の打てる麻雀を全て出す事が出来たのだろう。
流局後、清水以外の手牌が開かれる事は無く、広島リーグ第2期のチャンピオンが誕生した。
4回戦成績
谷本+17.4P 蒼山+7.7P 清水▲8.8P 荻巣▲16.3P
最終成績
蒼山+56.1P 荻巣▲3.3P 谷本▲16.3P 清水▲36.5P
全体を通じて配牌、ツモが常に飛び抜けている者は見当たらなかった。
ミスの無い者が抜ける展開であり、我慢比べの様相も呈していたように思う。
俗に言う水を張った洗面器から先に顔を上げた者の負け、というやつだ。
その我慢比べに耐える精神力を今日まで蒼山が養ってきたという事なのだろう。
ツモが活きているかではなく、ツモを活かしきれているかどうか。
これが麻雀における腕ではないかと私は思う。
ツモを活かす為の麻雀をどう打てるか、どこまで麻雀に真摯に向き合えるか。
決勝戦の結果は、この半年間一番真摯に牌に向かってきたのが蒼山だという事の証左に思えた。
ひたむきに牌と向き合う蒼山の姿は、私だけではなく同卓者、観戦者の全員にその大切さを伝えたのではないだろうか。
蒼山の目標はまだ先、遥か高みにある。
我々連盟員の誰もが夢見る最高峰のタイトルである。
プロ試験の日、
「鳳凰位を取ります」
そう言った蒼山の目に宿っていた光。
その光はその言葉が決して冗談ではない事を雄弁に物語っていた。
蒼山はこれからも血の滲むような努力を重ねて、栄光への階段を駆け上っていくだろう。
我々は蒼山の仲間として、時にライバルとして。
互いに研鑽を積み、共に高みを目指していくのだ。
そう思わせてくれる仲間を持った事を、心から誇りに思う。
左から 支部長:清水真志郎、優勝:蒼山秀佑、プレゼンテーター:伊藤優孝