繁華街、駅の雑踏の中を1人の青年が歩く。
誰も彼に気を止めることはない。ありふれた光景である。
この男が、プロ連盟員全員が目指す頂点に立つ男だと誰も気づきはしない。
見た目はいたって普通の好青年、しかし、彼こそが第31期鳳凰位、前田直哉、
一発裏ドラなしの競技ルール麻雀において最高峰に立つ男である。
清原「おはようございます。よろしくお願いします。鳳凰位獲得おめでとうございます。」
前田「ありがとう。清原君が予想で本命にしてくれたおかげで勝ったよ。(笑)」
前田「ここに連盟のタイトルの内、3冠があるんだよ?すごいことだよ?でも、このオーラの無さ、誰も気づかない(笑)」
(いきなりの先制ジャブ、前田プロの抜群の話術で笑いをとる。前田プロのトークに仕事を忘れてひきこまれてしまう)
清原「今回、インタビューの依頼が来まして、現王位が現鳳凰位にインタビューするということで。あともう1つ予想で前田プロを僕が本命にしていたということ。一応、理由がありまして、僕はA2の頃の前田プロの麻雀を後ろ見していて、この人、本当に上手いなぁと思ってたんですね。それで、機会があれば前田プロを推したくて。」
前田「ありがとう。清原君のおかげで勝てたよ」
清原「いえ、前田プロの実力です。ただ優勝予想はしてましたが、この展開は予想外でした。ただただ強かったです。」
前田「守備的雀士は混戦から最後抜けるイメージがあるもんね。」
清原「今回、鳳凰位決定戦にあたり、ご自分で展開予想を考えたりはされてたんですか?」
前田「ない(笑い)。まったく考えてない。いつでも出たとこ勝負(笑)」
(この後の質問の大半にも「ない」と答える前田プロ、インタビュアー泣かせだ。でも、前田プロから何かを引きずり出してやるぞと内心意気込む)
ここで、須浦プロ登場、前田プロを慕うB1リーガー、決勝戦は前田プロを応援していたという。
前田プロの親しみやすさ、人柄の良さ、人からの好かれやすさが垣間見える。
清原「今回、鳳凰位を獲得しましたが、グランプリに続いての二冠、鳳凰位ならではの特別な感慨とかはありましたか?」
前田「ない(笑)。グランプリの方がむしろ感慨深かったな。グランプリが特別すぎた。これからA1で戦うための自信が欲しくて、どうしても獲りたかった。鳳凰位の方は、頂点に立ったという実感がない。いずれ獲りたいとは思ってたけど、獲った時はホッとしたという安堵感の方が強いかな。重責というか、鳳凰位としての責任感がすごく重くのしかかってる。」
清原「鳳凰戦決定戦の前は緊張とかはされなかったのですか?」
前田「全然。むしろ最終節を見てる時の方が緊張したよ(笑)」
清原「荒プロ、ともたけプロ、瀬戸熊プロ、勝又プロの対局ですね?」
前田「展開が目まぐるしく変わってさ。誰を応援したらいいんだ?って(笑)」
清原「決定戦進出が決まった後は緊張とかはされませんでしたか?」
前田「全然(笑)。一か月前ぐらいに1回すごく緊張したかな。でも本番は普通に迎えたよ」
(大事な本番の前に平常心で臨む、これもまたトッププロに必須な資質の1つなのだろう。前田プロの一流のメンタルコントロールの成せる業でもあるのだろう)
-大陸間弾道ミサイル打法-
清原「その鳳凰戦ですが、前田プロがドラにこだわると度々言われてました。で、本当にそうなのかデータを取ってみました。決勝戦全員のドラ使用率を調べようと思いまして、ですが、途中でこれは失敗だと気づきました。有意な差が出ない。結局、鳳凰戦のメンバーは全員ドラにこだわる。ドラを手の内で使うのが上手だという結論に達しました。」
前田「あたりまえでしょ?(笑)。鳳凰戦だよ?A1だよ?(笑)Aルールはどうしても打点をとりにいくとドラへの依存率が高くなるよね。」
清原「ですが、データをとる中で、面白い傾向も見られました。前田プロはドラが2枚以上手の内にある時の放銃率が低い。ドラに溺れない。前田プロ特有の守備力の高さが見えました。」
前田「それはあるかもね。俺、放銃嫌いだもん(笑)安い手にも打ち込みたくない。(笑)ドラがあるからとか、安いからとか、そういうことで放銃したくない。」
清原「あとはヤミ率、最終日は条件があるので除いたとしても、ドラ1のヤミが多い。局面がそうだというのもあったのでしょうが。攻撃的な打ち手ならばリーチを打って押さえつけてもおかしくないのをヤミにしてる。」
前田「あるかもね。リーチを打ってオリてほしいとか思わないからね。むしろ向かってきて欲しい。いいよ、攻めてきて、俺も高い手で迎え撃つから。とか、そんな気持ちがある。むしろドンドン攻めてきてほしい(笑)」
(この人、どこまで本気なんだろう?臆病な自分とは違う守備意識も、その読みの技術の高さに裏打ちされたものなのだろう)
清原「仕掛けも少ないですよね。高い仕掛けはするが、安い仕掛け、捌こうとはあまりしない・・・」
前田「うん、捌かない。むしろドンドンアガっていいよって。いくらでもアガっていいよって思ってる。(笑) 相手のアガリを捌こうとは思わない。」
清原「他家の仕掛けにスピードを合わせることもしないですよね」
前田「一切しない(笑)仕掛けってホント怖いよね。仕掛けが左右することが多い。考え出すとキリがない。」
(笑いのない声に、前田プロの正直な心の声を聞いた気がした。嘘偽りのない前田プロの本心なのだろう。トッププロが言う仕掛けの怖さ、それもまたトッププロだからこそ見える領域なのだろう)
清原「今回、そんな前田プロの雀風に名前がつきましたね。大陸間弾道ミサイル打法。」
須浦「すごい名前だよね」
前田「最初、大陸間弾道弾打法だったんだよ。どれだけダがつくんだって(笑)」
前田「でも、自分の麻雀を本当に理解してもらって、つけてもらった名前だから。防御があって、目標地点に向けて手をつくって、照準を合わせて。黒木プロからも『望月プロはこうだけど、前田プロはこういう手組み』とか言われると、本当に自分の麻雀を理解してもらってるんだなって分かって、そういう人につけてもらった名前だからとても嬉しいよね。」
清原「ご自身ではとても気に入ってるんですね」
前田「気に入らない訳にはいかないよね(笑)」
-身体的反応を見る-
清原「今回、鳳凰位決定戦にあたり、特に気をつけた箇所とかはありますか?」
前田「テンパイ気配を常に一定に保つことかな。テンパってなくてもテンパイ気配を出す(笑)」
清原「観戦記へのコメントでも見ましたが、前田プロはそういった点をとても重視しますよね。映像前の時代は理牌もしてませんでしたし。」
前田「身体的反応を見る。呼吸、しぐさを見る。そういうのも麻雀の一部だから。」
(この言葉は正直ショックだった。前田プロが身体的な部分以外を疎かにしているわけではないのだろう。むしろ鳳凰位決定戦を見れば分かる通り、前田プロの読みの鋭さはとても高い。ただ、前田プロはそれ以外の部分も大事にしているということなのだろう。前田プロの麻雀に対する把握の仕方が僕とは次元が異なるということだ。一段と深く麻雀というゲームを見ているのだろう。)
前田「身体的反応を見たり、目線を追ったり、クセがあったり、その上でさらに駆け引きがある。常にアンテナを敏感に。1巡でガラッと変わる。そこにどう対応するかといったゲームだから。最近歳とったせいかLTEっていうの?なんか一回落とすとなかなか反応しないんだよね(笑)。他のプロの癖や身体的反応を覚えるのも研究の内だから。この人はこういう癖があるな、とか。この人はこういう時はこうだ、とか。」
前田「例えば・・・清原君には教えられないな(笑)」
清原「自分で研究します(笑)」
(身体的な動作に牌姿が出ることは弱点でもある。逆に言えば、常に一定のフォームで打つ人はとても強い。常に一定のリズム、一定のフォームで打つ前田プロの強さが垣間見える言葉だ)
-ブレないメンタルの保ち方-
清原「今回の鳳凰位決定戦は、逃げる前田プロが追いすがる番手をふりほどく対局だったとも見れると思います。初日の1、2回戦の好スタートの後の勝又プロの猛チャージ。2日目は藤崎プロの猛チャージ、3日目には藤崎プロの大三元。そして最終日にも藤崎プロが追いすがる。追いつかれても突き放す前田プロの強さ、特にまったく揺れない精神の強さが光ったと思いますが、ブレない精神の保ち方の秘訣とかありますか?」
前田「まずは生活面だよね。プライベートがよくないと精神も悪い方向に行く。プライベートが充実していると気もちも前向きになる。あとは打っている自分とは別に、それを背後から見ている自分をつくる。藤崎さんが大三元をアガった時も『痛いなー』と打ってる自分は思ってるんだけど、それとは別に後ろ見してる自分が『やっぱり来たかー、藤崎さん』とか『こうなったら方が面白いよねー』とか『ここは歯を食い縛らないとねー』とかアプリとしゃべってる感じ。『今回はラスだよねー(笑い)』とか、『ほら、やっぱりラスだー(笑い)』とか(笑)」
清原「楽しそうですね(笑)。実際は大三元をアガられてるのに。僕だったら絶対にすごく落ち込んじゃう」
前田「起きたことは仕方ないからね。後悔しすぎない。ポジティブシンキングって大事だよね、精神面ってホントに大事。人間には見えない力がある。出すか出さないかは自分次第。ホントにそう思う。」
(落ち込んでしまうと自分の力を発揮することもできなくなってしまう。十二分に実力を発揮するに精神面の強さは不可欠なのだろう。アスリートのような前田プロの言葉に、麻雀のスポーツと似通った性質を感じた気がした)
-ファンとの関係-
清原「話題を変えますが、今回、前田プロのTwitterが大人気です。麻雀プロとしてファンとの関わり方において信念とかありますか?」
前田「もともとはTwitterをやるつもりはなくて、コナミアプリをやってたんだよね。で、コナミアプリの方で『Twitterやらないんですか?』って訊かれたから、『鳳凰位になったらやります』って答えたんだよね。その時は鳳凰位なんて獲れないだろと思ってたから。(笑)で、鳳凰位になったから約束だから始めようかと。」
清原「コナミアプリはどういった経緯で始められたんですか?」
前田「麻雀格闘倶楽部に参戦することになって、コナミアプリがあるのを知って、いい機会だなと思って。」
清原「前田プロはレスポンスがとても速いですよね。意識的にされているんですか?」
前田「意図的ではないよ。もともとそういうのは速いし得意だし、好きなんだよね。」
清原「やりとりも結構くだけてますよね。(笑)」
前田「もっとくだけたいかな(笑)。もともと麻雀格闘倶楽部は一般アカウントでずっとやってて、だから麻雀格闘倶楽部をやってる人はファンというよりも仲間だと思ってるんだよね。一緒にやってる仲間。友達感覚。」
清原「そういえば、鳳凰位決定戦後のコメントで麻雀格闘倶楽部のファンの方たちの存在を挙げてたのが印象的でした。」
前田「ホント、ファンとのつながりがありがたい。今回、鳳凰位決定戦を戦えたことは応援してくれたファンたちのおかげと思ってる。」
清原「応援してくれたファンの存在が力になった?」
前田「もっと直接的にかな。戦った後って帰宅してもアドレナリンが残ってるから、なかなか寝つけない。そのアドレナリンを0に戻す作業があるんだけど、それを早く済ませたい。で、0に戻すのにコナミアプリとの会話がとてもいい。コナミアプリで1回0に戻して、また対局に向けて少しづつあげていくって」
清原「ファンの方との関わりのある生活がプラスになったんですね」
前田「麻雀格闘倶楽部に参戦してファンとの交流がなかったら鳳凰位にはなれなかったと思う。麻雀格闘倶楽部をやるにあたって日常生活が変化して、それがすごくプラスになった。朝起きて、麻雀格闘倶楽部やって、ファンと交流して、・・そういう日常の変化が鳳凰位につながったと思う。すべては繋がってるから。」
清原「とても真剣な言葉ですね」
前田「おちゃらけた言葉だけだと、おちゃらけたキャラになっちゃうから(笑)」
-感謝の気持ちを大切に-
清原「最後に、前田プロの麻雀に対しての強いこだわりとかありますか?」
前田「楽しもうと思える気持ち、喜び、感謝を感じれる気持ちづくりをもって麻雀をしようと常に考えている。」
清原「それは凄いですね。麻雀を打ってて、ストレスを感じたりイライラしたりはしないんですか?僕はメンタル弱い方なんで。」
前田「ない。どんなことが起きてもイライラはしない。麻雀楽しいって感謝する。」
前田「どんな相手でも原石かもしれない。新たな一手を打つかもしれない。どんな打ち方だろうと麻雀だと思って飲み込まないと。」
清原「心に刻みつけます」
前田「最近、いろんなことに感謝している。麻雀に限らず。サラリーマンであること、環境、いろんなことに感謝している。自販機のごみ箱を片付けよう。とか、何事にも何かしてあげようと。」
清原「それはすごいですね。」
前田「対局前は、今日、牌を触れることに感謝。そんな気持ちで臨んでいる。」
清原「何事にも感謝の気持ちをもって接するんですね。」
前田「その中でも麻雀格闘倶楽部への感謝は半端ない。格闘倶楽部なければ勝ててない。あの時はあれがあったから。それが全部繋がっている。いろんな仕事をしたり、いろいろあったり、リーグ戦でも下のリーグに落ちたり。そういうのが全部あって、今の自分がいる。だから、『昔のことも感謝』、そんな気持ちでいることが大事だと思う。すべて繋がって今があるから。」
清原「深い言葉です。最後に、前田プロの今後の抱負を聞かせていただけたらと思いますが?」
前田「ない!!(笑)」
鳳凰位の爽やかな笑顔で別れた後の帰路で、前田プロの言葉が強く印象に残った。
「すべては繋がっている。」前田プロの人生観を顕すような言葉だろう。
思えば、生きている中で、そこまで強く繋がりを意識したことなどなかった。
繋がりを意識して世の中を見返した時、漠然と生きてきた日常世界が新鮮に映った気がしたインタビューでもあった。
鳳凰位に戴冠した前田プロがこの結果をどう未来に繋げていくのか、前田プロの今後にさらに注目したい。
もう前田直哉から目が離せない!!