過去のチャンピオンズリーグの観戦記を調べていくと、第3期と第4期を自分が担当していた。懐かし半分に読み返してみると、生意気な若輩者が批判じみた描写を交え、駄文をつらねていた。今から13年前のことである。
当時はどのプロ団体にもホームページなど無く、連盟の報も主にプロ連ニュースという名の紙媒体だった。
原稿も手書きであったし、編集などのやり取りもファックスを使用していた記憶がある。
あれから私自身の麻雀感はどれくらい進歩しただろうか。
この十余年の間、少なくとも麻雀界は確実な進化を遂げてきた。
ロン2や麻雀格闘倶楽部の通信対戦の立ち上げに始まり、採譜のPC化並びに牌譜機能の充実、また連絡手段も書物の郵送から携帯端末へのメール伝達が主流になるなど、あらゆる方面でいわゆるデジタル化が進んだ。
そしてその最たるものが麻雀対局の映像化である。
今や麻雀界は完全に映像の時代となった。それに伴い戦いの場は増加、他団体のタイトル戦を含めた試合の日程は可能な限り調整され、今や毎週のように何かしらの対局が行われている。
世間が慌ただしい暮れから1月にかけてもそれは同様であり、例えば私のような一般の連盟員であればまずはリーグ戦の最終節があり、最高位戦主催の發王戦、チャンピオンズリーグの最終節に予選を抜ければトーナメント戦へと続く。また地方在籍の者にとってもそれぞれのリーグが決定戦を迎えるのも今の時期である。
一方で観戦側としても誰もが胸を熱くさせたAリーグの昇降級に始まり、麻雀日本シリーズやロン2カップまた対局番組としては麻雀Battle of generationなども必見である。そしてこの時期はなんと言っても鳳凰位決定戦が控えている。
そんな隙間に入り込むように行われた後期チャンピオンズリーグ決勝は、連盟の全体像を踏まえればやや注目度は低いのかもしれない。それでも新人や若手、または実績のない私のような連盟員にとっては最も身近かつ意義のあるタイトル戦である。
ただし、チャンピオンズリーグという舞台は「所属リーグの垣根を越えた戦い」でもある。どうしても選手のキャリアによってモチベーションに差が生まれる背景がある。下位リーグの打ち手はあがってナンボ勝ってナンボの意識が強くなるため打牌自体はラフになりやすく、上位の者にとっては難しい局面が増える傾向にある。”麻雀の質”としては多少ゆがむことは性質上否めない。
そういった側面もあり、実際にチャンピオンズリーグの決勝面子にはリーグ格差が生じることが多い。参加人数の関係もあるが、過去28回の中でAリーガーが1人も残れなかった回が9度。今回のようにA1人のケースは14度(A2人は5度)あるが、実際にAリーガーの優勝はうち半分の7勝に止まっている。
ともあれ29期決勝にもAリーグのスター選手が1人勝ち上がった。
今回の決勝で大本命を背負うAリーガーは山田浩之。先日のAⅡ最終節で最後まで昇級を争ったことは記憶に新しい。
AⅠ所属歴もあり、現在も実況・解説・運営に講師までこなすプロ連盟の花形プレーヤー。
第19期チャンピオンズリーグ優勝。17期39歳AⅡ所属。

野方裕介は今期の十段戦のファイナリスト。徹底した鳴きから先手をとるスタイルで存在感を存分に示している。今回の決勝でもキーマンとなることは間違いない。トーナメント巧者が頭取りの決勝でどんな戦いを見せるか。
18期36歳CⅡ(来期CⅢ)所属。

阿部謙一は一昨年の十段戦にて初段戦から八九段戦まで勝ち上がった実績がある。ただ決勝進出どころか映像対局が初めてであり、その点では3者に比べてハンデを背負うことが予想される。既婚者で子供2人。28期36歳DⅢ所属。

福島佑一は最強戦プロ代表決定戦の決勝に乗ったことがある。当時や勝ち抜きバトルV7などでも映像対局は経験している。ただなんと言っても彼の特徴は、将棋や囲碁がプロ並みの腕前であること。とてもクレバーな打ち手であるという印象があり、性格もとにかく真面目。
29期26歳DⅠ所属。

山田以外の3名はここまでの勝ち上がりは立派の一言に尽きる。ただ展開をどう想定しても、山田対3者という図式しか思い浮かばなかった。それほど山田の能力は突出している。最初から山田の”相手”は誰になるかが焦点となる。

1回戦(起家から山田・野方・阿部・福島)
東1局から各者興味深い選択を迫られる。
まずは阿部の6巡目













??ドラ
三色や一通が見えるが二度受けながらピンフの1シャンテンでもある。しかし素直に打
とせず阿部の打牌は
。2飜役を天秤にかける構えだ。
結果は、ツモ
から9巡目のツモ
でアガリ逃し。ここから高め一通のフリテンリーチと打って出る。ただ志しは高い。













一方、北家・福島の8巡目の手牌














ドラ2枚の明確な勝負手であり
or
の二択である。福島は打
を選択も次巡のツモは無情にも
。山田に即
をツモ切られてアガリ逃しも、12巡目に
テンパイにはこぎ着ける。
また、南家・野方は2巡目にすでに七対子の1シャンテン。4巡目














ここから野方の選択は打
。しかし自然な外寄せをチョイスできれば












??ツモ
このアガリが10巡目にあったかもしれない。
そして親の山田
配牌














この手が三色になるのだから麻雀はおもしろい。
ただここは山田の丁寧さが光った1局。
ホンイツも見て打
から入るのだがドラの
を引くと普通の面子手へとシフト。









??暗カン


??リーチ??ツモ

3者のもたつきを尻目にこの4, 000オールをものにした。
上手く打てればアガリがあった3者に対し、完璧に打った山田の親はこの後約30分続く。
立ち上がり早々自分の時間帯をつくり、持ち点も6万オーバーとなる。
同5本場でも












??リーチ
この高め三色で先制。
しかしこれに立ち向かったのが阿部だった。
阿部は2巡目に













役なしテンパイから4巡目のツモ
でテンパイ外し。
ここからツモ
でまずはタンヤオ形に、ツモ
でタンピンテンパイ、そしてツモ
で高め三色となったところでリーチ。山田の親リーチに真っ向勝負で高め撃ち取りに成功。












??リーチ??ロン

ひとまず山田の独走阻止となった。
この場面は山田の親落としをテーマとするのが一般的な思考である。普通ならカン
の300・500かリーチで500・1,000になっている打ち手が多いように思う。阿部の構えが際立った局だった。
東2局1本場、野方3巡目に後付けぎみの仕掛けで
をポン。
この鳴きの直後、阿部が絶好の
–
待ちで高め三色リーチ。












??リーチ??ドラ
局面のアヤと言ってしまえばそれまでだが、山田は野方の
ポンによってワンチャンスとなった
しか選びようがなく、これが高めにジャストして8,000は8,300。
この瞬間、明らかに潮目が変わった。私のメモには「対抗は阿部に」と記された。
南1局、西家・阿部は












??ドラ
ここから自風の
を2枚見送り。するとツモが効く。
10巡目のテンパイとらずを経て、12巡目になんとタンピンドラ3のテンパイ。













またも捌き手かもしれない手牌を本手へと変貌させる。
16巡目に役なしテンパイをしていた野方が、当たれないロン牌をチーして安全な形式テンパイへ。するとその動きで阿部が3,000・6,000。

親は山田。阿部はなんと一時は5万点近く差のあった山田をあっという間に逆転。
野方の鳴きがまたしても山田を苦しめる1局となった。
阿部は続く南2局でもわずか6巡で1,300・2,600と完全に波に乗る。












??リーチ??ツモ
??ドラ
そして迎えた南3局親番阿部、11巡目。
2枚目の
をポンしたにも関わらず、阿部の選択は雀頭落としのテンパイとらず。










??ポン

??打
??ドラ
しかし今回はこれがアガリ逃しの緩手となり、さらには有効牌であった
を食い下げ福島に初アガリを献上となった。
ここはポンならドラ切りの一手であったように思う。ただこのような少しスピード感のない組み方が、逆に阿部の長所であるようにも思える。
南4局、しかし前局の因果か福島が息を吹き返し、












??リーチ??ツモ
??ドラ
この2,600オールをアガると、続く1本場でも阿部のリーチのアタリ牌を全て吸収し、全ツッパの構えから16巡目にリーチ。












??リーチ??ドラ
惜しくも流局となるが、福島はテンパイ料でラス抜けとなる。
肝を冷やしたであろう阿部であるが、やはり親の落とし方やこのオーラスの立ち回りには少し不安は残った。
南4局2本場、その隙をつくかのようにやはり山田が来た。













この配牌が






??ポン

??ポン


瞬く間にこのテンパイ。12巡目ツモ
での待ち選択も山田は打
愚形だけにスジにかけたくなるし、何より手出ししなくて済むので
ツモ切りがマジョリティか。しかし待ち変えから見事にカン
を引き当て、2,000・4,000 。結局山田がトップに返り咲き初戦が終了した。
1回戦
山田+28.2P 阿部+16.8P 野方▲24.5P 福島▲24.5P
2回戦(起家から福島・山田・阿部・野方)
東1局、例のごとく野方の仕掛けから始まったが、ドラ2枚の山田はスピードで対抗、福島・阿部も対応しながら打牌していくのだが、阿部はノーリスクで最も高い手に…。
全員テンパイで流局も、阿部だけ野方の仕掛けの恩恵を受けている印象が残った。
東2局1本場、子方3者が中盤には皆テンパイを果たす。
南家・阿部









??ポン

5,200
西家・野方









??チー

3,900
北家・福島












??リーチ 7,700
親山田の手牌














この手詰まりから打
。

まっすぐ行った結果ではあるが、最も高い7,700を放銃。野方のチーでアタリ牌を掴まされた格好となる。これは少しダメージが残りそうだと感じた。
南2局、福島は2枚目の
スルーからドラを重ねると12巡目に












??ドラ
この8,000テンパイ。すると野方が形式テンパイへ向かうチー。一方、タンヤオドラ1でテンパイしていた阿部かツモ切りリーチを敢行。












??リーチ
と
が自分の河に切られ三色手変わりがフリテンになることや、ツモ切った宣言牌がスジにかかることも理由としてあるが、決勝を戦っている構えとしては良い判断に映った。
一方、親の山田も選択を迫られるがピンズを打ち切れず、テンパイとらず。山田は少し押せなくなっているか。
結局、野方の動きでロン牌がまわってきた福島から阿部へ5,200。

阿部の決断も見事だったが、福島は数少ない勝負手だっただけに痛恨の放銃となる。
南4局、この回ラス目の山田が魅せる。
5巡目














ここからの何と打
。これが10巡目には













このメンホンテンパイ。さすがとしか言いようがない。
しかしアガリトップの阿部、親の野方から同時にリーチがかかる。
安めながら山田が野方のロン牌を掴み放銃。












??ロン
これで野方がトップ目に。
南4局1本場、阿部の5巡目。













??ドラ
打
か打
、または打
のとらずの三択。阿部の選択は
切りリーチ。
これはうまく打てれば色んなアガリがあっただけに微妙な判断であったが、3者対応の阿部1人テンパイ。テンパイ料でトップ逆転となる。
2回戦成績
阿部+14.2P 野方+7.6P 福島▲5.9P 山田▲16.9P
2回戦終了時
阿部+35.0P 山田+11.3P 野方▲16.9P 福島▲30.4P
3回戦(起家から山田・阿部・野方・福島)
東2局3本場
山田配牌













ここから得意の寄せ。15巡目













カン
のメンチンテンパイ。一方、親の阿部の14巡目。














このターツ選択から打
で
が浮いた。阿部はテンパイすれば
が飛び出すはずだったが…
よもやのツモ
でそれを回避、打
とした。
またも阿部を押し上げるような牌の巡り合わせ。この局は終盤に福島が300・500は500・700。
東3局3本場、ドラの
をポンできた親の野方の12巡目










??ポン


ここから打
のカン
を選択。待ちは絞り辛く見え、さらには河に
が置かれている。
そんななか阿部の手牌に
が浮いていたが…飛び込んでしまったのは福島。テンパイからのツモ切り放銃だっただけに責められないが、またしても阿部は助かった形。
福島にはキツい11,600。この時点で野方はトータル2位に浮上した。
東4局、野方の仕掛けに阿部が被せていき6巡目にリーチ。












??リーチ??ドラ
それを受けて野方の選択







??ポン

??ポン


ここから打
。しかし次々巡のツモが無情にも
…。
こうなるとアガるのは阿部。安めながら福島から3,900。
南3局1本場、親の野方は4巡目にドラドラの1シャンテン。












??ドラ
しかしここから一向にテンパイせず、ようやくテンパイしたのが16巡目。最後は四暗刻への手変わりで













この牌姿になるも流局。
ただ野方の河には

と暗刻かぶりが3種、つまり暗刻が6個できていたことになる。さすがに捕らえるのは酷か。
南4局、3着目の福島、4巡目に高め2, 600オールのメンタンピンで先制。












??ドラ
一方ラス目の山田、11巡目に手が止まる。
一通の崩れる
引きでピンフのみのテンパイ。


は親リーの現物、
は共に無スジ、そして点棒状況が山田21,400点、福島27,100点(野方37,100、阿部34,400)
一般的な思考としては
切りのヤミで1人沈みを阻止しにいくところか。
しかし山田の選択はリーチだった。3着目の親がリーチ棒を出したことにより700・1,300か2,000の直撃で3着に浮上できる。
結果は福島が即
を掴み、山田見事なラス抜け。
ただポイント的には阿部が1人抜け出した。
3回戦成績
野方+15.1P 阿部+8.4P 山田▲9.6P 福島▲13.9P
3回戦終了時
阿部+43.4P 山田+1.7P 野方▲1.8P 福島▲44.3P
4回戦(起家から野方・福島・阿部・山田)
残り2回。山田・野方はこの回で阿部を沈めるか、自身がトップを取らないと苦しくなる。福島はすでにその両方。
東1局、12巡目南家・福島タンヤオドラ1の先制リーチ。












??リーチ??ドラ
しかし直後の13巡目親の野方に追っかけられ、












??ロン
この5,800放銃。待ち枚数も有利、なおかつ現張りをリーチされ福島はさすがにキツい。
東3局、それでも福島ドラドラで8巡目リーチ。












??リーチ??ドラ
野方も14巡目に高め三色で追っかけ。












??リーチ
この局は印象的だった。七対子を決め打ちしていた阿部は













この牌姿からすでに
を落としてオリに回ったのだが、ほぼノーリスクで張り返し、切れずにいて残った
がすぐに出て












??ロン

この2,400のアガリ。今日の阿部の調子を象徴するような1局だった。
南1局、9巡目、山田が魅せる。














カン
のテンパイだが、山田はとらずの打
でチンイツへ。
を自力のあと
をチーテンで、









??チー

??ロン

メンツ落としからの色寄せがついに成就。野方から8,000。
続く南2局でも再び山田が魅せる。
配牌












??ドラ
序盤から縦一本に絞った見事な手順で10巡目













この四暗刻テンパイ。山に
が2枚生きだったが…
脇にながれここは流局。
南3局1本場、6巡目山田。














3枚飛んでいる
が良くないと判断しての何切るである。かなり時間を使っての打牌だったが山田の選択は打
。
この牌姿で長考したのだから山田の第一感は
外しだったということだ。その感覚には恐れ入る。
一方、親の阿部はこの回もトップ目だが9巡目、












??リーチ??ドラ
これでリーチ。優勝に向けて手を緩めない。
山田の河に
が3枚並ぶ…しかし対応して張り返し追っかける。













待ちは同じ
–
。めくり合いかと思われたがドラドラの福島がテンパイ打牌で
を河に…阿部の頭ハネは山田には痛恨。さすがに決まりかと思われる1局だった。
入
しかし続く南3局2本場、南家・山田メンツ手との葛藤の中、ノーミスでこのテンパイを組む。
7巡目












??リーチ??ドラ
はヤマに1枚だけあるが、3者がオリにまわり流局かと思われた。
しかし山田の意地とプライドがこのドラ単をツモに導く。
執念の3,000・6,000。

山田がこのアガリで逆転トップ。現実的なポイント差まで追い上げての最終戦勝負となった。
4回戦成績
山田+20.9P 阿部+8.4P 野方▲0.2P 福島▲17.1P
4回戦終了時
阿部+51.8P 山田+22.6P 野方▲6.0P 福島▲69.4P
最終戦(起家から山田・野方・福島・阿部)
阿部と山田のマッチレースとなったが、その差は29.2P。
東1局、阿部10巡目ポンテン。









??ポン


しかし次巡、山田もポンテンで追いつき、









??ポン

??ツモ
??ドラ
この4,000オール。これでポイントはほぼ並びに。
この後山田は福島に3,900放銃も、東2局の1,000・2,000でついに阿部をトータルで逆転。
東3局、4巡目阿部













ここから
を一鳴き。正直微妙な仕掛けであるが、仕上がれば高くはなりそうか。
しかしこの直後、後のない福島の親リーチを誘発。受けぎみに字牌を並べていった阿部であったが、1シャンテンになったところで攻めに転じる。
そして14巡目









??ポン


この5200テンパイ。しかし待ちである
はドラ表示を含め3枚出ている。
それでも無スジを押し切ってラス牌の
を捕らえる。

自身の微妙な動きに始まり親リーチを受け、オリやすい字牌の暗刻もある。そして現状、競りの相手ではない親との勝負は損だと考えてしまう場面だ。しかし決勝ではこういったアガリにも価値があるのかもしれない。
この5,200で阿部は浮きにまわって再逆転。
残りの東場は阿部・山田とも安手を1回ずつアガリ、南1局の山田の1人テンパイを経てその差は6.3P阿部がリード。
南1局1本場、野方の仕掛けから局面は動き、13巡目に山田がピンフテンパイ。続く14巡目に阿部がリーチ。












??リーチ??ドラ
そしてその直後の山田。












??ツモ
高めに振り変わったとはいえ阿部の危険牌、というより実際に当たり牌。
山田、今日一番の長考に入る。

親番でピンフ三色テンパイだけに目をつぶって
を押すか。
もしくは高めが薄いだけに
–
待ちケアで
を勝負するか…
どちらにせよ阿部の待ちは
–
なので放銃となる。しかも打点もドラドラの5,200あり、直撃はほぼ優勝が決まる。
万事休すか…
そして意を決した山田が打牌を選んだ。
打
!
なんと山田は阿部の当たり牌を止めた。
麻雀プロが長考するケースは難しい何切るを除けばオリる牌を探す時や、攻めるシーンでも行くべき理由を確認する時がほとんどである。
私は山田の長考は、
切りヤミか
切りリーチを迷っているものだと思っていた。
決勝直後に山田に聞いた。
「まず高めの
がないことが阿部君の宣言牌から明確だった。それにこの局面でリーチしてくる以上、ほぼドラは2枚で、5,200打ったら終わっちゃう。マンズ待ちはほぼ無いし、強いリャンメンは
か
くらい。あと自分がピンズ失敗してるしね。」
決勝の最終戦、しかも最後の親番の佳境とも言えるこの局面。あまりにも正確な山田の読みに感服した。
しかもこの局、山田はしぶとく張り返す。自分の読みと立ち回りに自信があるからこそ無スジである
が最後に切れるのだと思う。

南1局2本場、それでも阿部の手は落ちない。4巡目に早くも七対子ドラドラの6,400テンパイ。待ちの
は2枚ヤマで全員が切りそうな状況。
しかし7巡目、山田が満を持してリーチ。それを受けて阿部も腹をくくってツモ切りで追っかける。
決勝戦らしいめくり合いとなったが…

手詰まりした野方の選んだ牌は阿部の当たり牌
。
決定打となる8,000は8,600…
麻雀が時としてあまりに無情であることは百も承知しているが、この場面だけは脇からのロン決着は見たくなかった。野方には2巡凌げる
を選んでほしかったが…
ともかくこれで阿部のリードは16.9P。
南2局、さすがに苦しくなった山田だがこの状況下、使命の元にしっかりと手を組む。
14巡目












??リーチ
このツモり三暗刻をリーチ。見逃しも視野に入れていたはずだが、親の野方の宣言牌が
。不本意ではあったがロンをかけ3,200。
あと12.7P。
南3局、山田にひとアガリされると満貫条件になってしまう阿部。七対子をテンパイするとしっかり親の現物で受け野方から1,600。14.3Pのリードで最終局へ。
南4局、注目の山田の配牌。













??ドラ
それは跳ツモ条件としては最悪の配牌であった。
勝負アリ。最後は静かに全員ノーテンの終局で優勝は阿部となった。
初めての映像対局にも怯まず、そして変に格好つけることもなく打ち抜いた阿部。麻雀の本質、またこのチャンピオンズリーグという舞台にマッチした良い内容に映った。
阿部は二度プロテストに落ちた苦労人でもある。家庭があり立場ある職に従事しながら、それでも麻雀プロを諦めなかった。その裏では相当な努力を要しただろうし、一つ結果を出せたことは私の想像など到底及ばない達成感がそこにはあったと思う。様々な恩恵はあったもののその胆力は賞賛に値するべきで、素直に祝福の言葉を贈りたい。
2位に終わった山田であるが、終始すばらしい麻雀を見せてくれた。正確な手順はもちろんでだが時に大胆な手筋を踏み、受けにおいても的確な読みを披露してくれた。度重なる不利や理不尽さを跳ね返すには至らなかったが、観ているものを唸らせたことは間違いないだろう。
私は山田と同期生であり、CⅡ在籍当時わずか100点差で昇級と残留を分け合ったことがある。その後私が5年かかってCリーグを抜け出した頃、山田はすでにAⅠにいた。
当時はその境遇を嘆いたものだが、今回の山田の麻雀の質を目の当たりにして、あの100点にこんなに膨大な開きがあったのだと改めて痛感した。
のちに山田が言っていた。
「負けて言い訳することなんてないから。」
やはり“連盟のAリーガーは特別な存在”なのである。













これは伏せられた最後の山田の手牌である。
河にはトイツが3組。針の穴を通すレベルだが、跳満ツモのアガリ形が存在した事実が、逆にそれを証明しているように思う。
