十段戦 決勝観戦記/第34期十段戦決勝 二日目観戦記 柴田 吉和
2017年09月12日
4回戦終了時成績
藤崎:+43.9P 青山:+12.7P 上田:+6.1P 瀬戸熊:▲18.3P 仁平:▲44.4P
5回戦(起家から、瀬戸熊・青山・上田・藤崎)抜け番:仁平
東2局1本場 ドラ: 上田手牌
リーチ
瀬戸熊にドラポン入るも、役有りリーチを打って闘う。結果は流局。
東3局2本場 ドラ: 親番上田手牌
6巡目リーチを打つも、横移動決着。
東4局 ドラ:
10巡目ツモで待ち選択。これまで観てきた上田のスタイルだったら強気の単騎リーチかと思ったが、打で役有りのヤミテン選択だった。
親がトータルトップの藤崎だから親落としがテーマという事だろう。
だがドラが藤崎に鳴かれてしまう。
13巡目ツモで選択。皆さんは何を選択されるだろう?
藤崎からトイツ落としの後、4巡目なのにとターツ落としの手出しが入りテンパイ濃厚か。待ち・テンパイ維持の打牌ピンズは場に激高。
自身2局連続リーチ空振り。トータル首位を走る藤崎とは約38P差、まだ中盤5回戦とはいえ藤崎に満貫放銃は最悪だなぁ…。色んな思考が上田の頭の中を駆け巡った事だろう。
そんな上田が出した答えは打、リーチでの全面戦争を意味するリーチ宣言。
結果は流局だったが『自身のスタイルを貫き通す!』観ている側に強烈なインパクトを与えた、上田からの無言の主張であった。
上田「アガリ易さでを選択した以上、待ちにしても取りこぼしたくなく、藤崎さんにぶつけるつもりでリーチしました。」
南1局 ドラ:
今半荘、ここまで青山が細かいアガリを積み重ね38,700点持ちのリード。今局は親の瀬戸熊にドラが暗刻のチャンス手1シャンテンが入ったが。
リーチ ツモ
ここまで25,100点とおとなしかった藤崎が2,000・4,000と狼煙をあげる。
南2局 ドラ:
リーチ ロン
それでも上田はめげずに、安手でもリーチを打ち続け攻めの姿勢を崩さない。
南3局 親:上田
ポン ロン
2シャンテンの苦しい形からドラを打ってまで親権にこだわった。瀬戸熊から1,500で親を繋ぐ。
南2局1本場
攻め続けた上田に漸く結果が出た。それも藤崎から念願の出アガリ。
南4局 親:藤崎
(瀬戸熊:19,300・青山:40,500・上田:36,100・藤崎:24,100)
今半荘、追いかける青山・上田が浮き、藤崎・瀬戸熊が沈んでいる為、上位3名のトータルポントはぐっと近づいていた。
<現状トータルポイント>
藤崎:+34.0P 青山:+31.2P 上田:+16.2P 瀬戸熊:▲37.0P 仁平:▲44.4P
今半荘終了後、ポイント上位者より抜け番選択がある為、1つでも上の着順で終えたい所だ。
瀬戸熊がダブを1鳴きし、藤崎へのプレッシャー・藤崎より上の着順での終局を目指し、多少強引な手組手牌進行をしたが、藤崎は真っ直ぐ打ち抜いた。
この原点復帰のアガリは、見た目以上に抜け番仁平を含む対局者の心にグサリと突き刺さるダメージがあった事だろう。
しかし、鉄の心臓を持つ上田だけはビクともしなかった。
高めドラをツモり、2,200・4,200で藤崎の原点までも割った。
自分を信じ攻め続けた上田会心の半荘だった。
5回戦成績
上田:+22.2P 青山:+10.8P 藤崎:▲4.9P 瀬戸熊:▲28.1P
5回戦終了時成績
藤崎:+39.0P 上田:+28.3P 青山:+23.5P 仁平:▲44.4P 瀬戸熊:▲46.4P
抜け番抽選
トータル1位:藤崎
抜け番選択:8回戦
今年も首位で抜け番抽選ですが?
藤崎「去年と同じ様に、今日の初戦に感触があったら4回打つつもりだったけど、1回打って良くなかったので、弱気の8回戦抜けです。」
トータル2位:上田
抜け番選択:10回戦
選択理由
「最初の半荘に連対したら気分が良くなるから、今日4回打とうと決めてました。あと3日目の初戦を打ちたいのもあります。」
10回戦目は敗退者が決定する半荘ですが?
「特に気にならないです。」
トータル3位:青山
抜け番選択:7回戦
選択理由
「3日目に4半荘打ちたかったからです。」
トータル4位:仁平
抜け番選択:9回戦
選択理由
「現状のポイント的に、3回打って今日中に少しでもポイントを稼いでおきたかった。」
トータル5位:瀬戸熊
抜け番選択:6回戦
6回戦という抜け番はいかがですか?
「最終日4半荘になったから80P差位にすればと思います。」
6回戦(起家から、青山・上田・仁平・藤崎)抜け番:瀬戸熊
拮抗する上位3名と下位2名のポイント差が約70P開いて迎えた第6戦。
東3局1本場、ここまで藤崎以外の3者が、自身それぞれの親番でアガリ・テンパイ料など藤崎を20,200点と上手く封じ込めていると思った矢先。
青山7巡目テンパイ、上田8巡目テンパイと早い決着を見ると思ったが、藤崎が追いつき追い越しての高打点。
仁平も普段のリーグ戦ならば止まりそうなだったが、自身のトータルポイント状況が打たせた牌にも映った。
そして事件はやってきた。
東4局 親:藤崎 ドラ:
仁平早々2巡目跳満1シャンテンの大チャンス手で注目が集まったが、待望のツモでリーチ宣言は11巡目だった。
しかし、大物手のアガリ宣言は仁平ではなく藤崎だった。
対局場に重苦しい空気が張り詰めている中「16,000オール」全員の心を一瞬でへし折った。
仁平「リーチ後にただならぬ藤崎さんの気迫を感じたのでこれはヤバイという思いがありましたが逆に言えばチャンスでもあると感じていました。16,000オールと言われた時はふっと気持ちが切れてしまったのを感じました。」
上田「放心状態でした。」
青山「四暗刻の局はクラっときてよく覚えていません。」
四暗刻直後のトータルポイント
東4局1本場 ドラ:
藤崎が本日一番印象に残っていると話してくれた局。四暗刻をアガって連荘の親番、今日で決めてしまおうと意気込んだと言う。
リーチ
興奮して観ている側は、当然とまで思えた藤崎の先制リーチ。これもあっさりアガって、いったいこの半荘どこまで点数を叩くんだ。本当に決まってしまうぞ。
藤崎の圧勝ムード漂う中、この局の結末は藤崎本人も・大多数の視聴者も・私も想定外の意外な結果となった。
仁平のアガリ。そしてまさかの藤崎が高めでの放銃。
四暗刻をアガった直後の藤崎の親リーチ。通常のメンタルでは中々前に出れない場面だが、この局、影の功労者は上田だった。
ソーズで現物が足りているこの場面でも、上田はベタオリせず闘う姿勢のを選択した。
このを仁平が仕掛け、ピンズのホンイツ高打点模様に映るが、次巡ツモテンパイ。自分の打点・仁平の高打点・藤崎の状態など二の次で迷う事なくリーチ宣言。
リーチ
もちろん結果を出した仁平の素晴らしいアガリだが、優勝を決定付けかねないこの状況でも、ファイティングポーズを取り続けた上田が生み出した値千金の親落としだった。
藤崎「ダブが鳴けるメンバーだと思い、を鳴く前提の手組をしてしまいました。A1であれば鳴けない前提で3巡目の打は選択肢にありません。
打でなければアガれていたと思うので、折角貰った大チャンスを台無しにしてしまいました。」
前局を大失敗と語る藤崎に又もチャンスが訪れる。
藤崎ドラドラでツモの場面。下家の親青山が2フーローを入れ、ドラ切りでテンパイ模様。場全体にマンズが高い。
が3枚見えで打牌を難しくしている。藤崎の選択は打!解説の前原プロ・白鳥プロも絶句だった。
結果は4枚目のをツモりテンパイ、あっさり仁平のを捕まえ7,700の出アガリ。打の時点でを選択していたら青山のロンアガリ、選択をきっちり成功させ結果を出した。
藤崎「がポンされていたのとが4枚切れていたので、マンズ2メンツと雀頭、ピンズ2メンツに決めただけです。」
南2局3本場 親:上田 ドラ:
今半荘、上田は四暗刻をツモられるなど13,900点まで点数を減らす場面もあったが、この親番で前5回戦目を思い出させる様に粘りを見せ盛り返す。
ツモ
7巡目あっさり4,000オール。浮きまで行ってしまった。やはりこの男の底力計り知れない。
6回戦成績
藤崎:+49.7P 上田:+5.6P 青山:▲13.1P 仁平:▲42.2P
6回戦終了時成績
藤崎:+88.7P 上田:+33.9P 青山:+10.4P 瀬戸熊:▲46.4P 仁平:▲86.6P
7回戦(起家から、藤崎・瀬戸熊・仁平・上田)抜け番:青山
全12回戦、折り返しの7回戦。
現在首位を走る藤崎からの点差
上田 :54.8P
青山 :78.3 P
瀬戸熊:135.1 P
仁平 :175.3 P
※10回戦終了時に最下位者が敗退。
瀬戸熊・仁平はだいぶ離され苦しくなってきた。首位藤崎だけを交わせば良いのではなく、上位3人を交わさなくてはならないのが頭取りの難しい所だ。
6回戦終了後のスコアをご覧になって、どう感じ今後どう闘おうと思いましたか?
上田「四暗刻が出た時は、80P位差が付いてたと思うので、よく耐えたと思っていました。差が50Pなんで、まだまだ焦ることは無いと思っていました。」
青山「8回戦目にまた少し加点が出来れば全然可能性あるなと思いました。」
仁平「この半荘が自分にとって精一杯打てる最後の半荘になるかもしれないと感じていました。」
連盟ホームページに掲載された、連盟プロによる優勝予想で前原プロが面白い事を書かれていた。
『仁平に関しては、理ではなく身体で打てれば可能性はあると考えるが、本人の培ってきた麻雀を崩すわけにも行かないだろう。』※一部抜粋
私が想像する仁平の雀風イメージは、守備意識が強く放銃率の低い守備のスペシャリストだが、自分からこじ開けるアガリは少ない。
多少強引でもアガリに向かう姿勢が、決定戦の頭取り麻雀の勝率を上げると私は考える。
そう言う意味で決定戦開始前、私も仁平は若干不利かと予想していたが、今決定戦は普段リーグ戦では見せない強引な選択を時折見せる。
今決定戦の仁平は、単発のアガリが目立ったが、今半荘ようやくアガリが繋がり始める。
東2局 ドラ:
リーチ ロン
上田から3,200。
東3局 親:仁平
リーチを打つが1人テンパイで流局。
東3局1本場 ドラ:
リーチ ツモ
1,300は1,400オール。
東4局2本場 ドラ:
チー ポン ツモ
瀬戸熊よりリーチが入るが、1,000は1,200オール。
東4局3本場 ドラ:
瀬戸熊跳満をテンパイしている所にツモ。
打点に執着せず打とした。ドラ3枚見えで親仁平の打点・自身現状のトータルポイント、精神状態など打点に拘ってもおかしくなかったが、欲に駆られず誠実に麻雀と向き合っている事が伝わってくる瀬戸熊の一打だった。尚、打のツモ切りの選択は上田に放銃でもあった。又、仁平は1メンツもない所からチーを入れ、強引に形テンの全員テンパイ流局に持ち込んだ。
仁平の親が繋がる。
東4局4本場 ドラ:
リーチ ツモ
1,000は1,400オール。
東4局5本場
仁平リーチを打つも、上田との2人テンパイで流局。
東4局6本場 ドラ:
ポン 加カン ロン
1巡目に打たれた1枚目のから仕掛け始め、藤崎から2,000は3,800。
東4局7本場
繋ぎに繋いで待ち望んだ念願の高打点が決まる。
連荘中の心境はいかがでしたか?
仁平「絶対親を離さないつもりでやってました。ポイント的に自分に来にくいだろうからそれを利用しました。」
東4局8本場
(藤崎:18,700・瀬戸熊:7,900・仁平:68,100・:上田25,300)
仁平にとって上位2名を沈め自身が浮いているとはいえ、まだまだ連荘を積み重ねたい所。
仁平の連荘に焦れたか、瀬戸熊が遠い安手でサバキに出るが、その鳴きによってここまでおとなしかった藤崎のツモがのびをみせる。
抜け番青山からも対局場に悲鳴が聞こえてきそうな3,000・6,000。
南2局 ドラ:
負けじと仁平が高打点を決める。
リーチ ロン
瀬戸熊から8,000。
華麗な仁平の半荘で終局と思われたが、また上田が粘って意地を見せる。
南4局 親:上田
(藤崎:31,600・瀬戸熊:-3,200・仁平:67,700・:上田21,900)
終局に向け仕掛ける仁平、瀬戸熊の先行リーチ、それでも上田は攻めた。
役有ドラ無しでもリーチを宣言し、手詰った藤崎から見事仕留める事に成功した。観ている側には執念でアガリを物にした感が伝わってきた。
このアガリで藤崎を沈め、上田自身も着順アップに成功する。
南4局1本場、藤崎が上田より着順アップ・終局を目指し、珍しく1,300のリーチのみを打ったが、親上田が粘ってテンパイを入れ連荘。
南4局2本場 ドラ:
2,600は2,800オール。
オーラスを迎えた時点で上田は、藤崎に約10,000点差を付けられて迎えたが、これで逆に15,000点差を付ける大きなアガリだ。
南4局3本場、上田の親リーチで加点を求めたが、藤崎が意地をみせ1,000・2,000のツモアガリで終局。
仁平が今決定戦の鬱憤を晴らすかの様に大得点で初トップを飾った。
藤崎は8回戦目が抜け番の為、今半荘で本日は終了となった。
藤崎「去年と同じ様に今日で決めるつもりで入ったけど、5回戦途中から強く闘うのは無理と感じ今日では決まらないと思った。
四暗刻がアガれたけど、調子はどっちかというと悪かったです。内容的にはギリギリ合格点。上田君が本当に強かったです。」
7回戦成績
仁平:+42.6P 上田:+9.8P 藤崎:▲4.1P 瀬戸熊:▲48.3P
7回戦終了時成績
藤崎:+84.6P 上田:+43.7P 青山:+10.4P 仁平:▲44.0P 瀬戸熊:▲94.7P
8回戦(起家から、仁平・瀬戸熊・上田・青山)抜け番:藤崎
今半荘は藤崎が抜け番。2番手で追う上田は抜け番が10戦回戦の為、直接対決はあと3半荘と考えると、この半荘は最低でも浮きで差を詰めておきたい所だ。
しかし、本日これまで上田の長所の強気の姿勢が功を奏し良い結果を出していたが、今半荘は強気すぎるが故の弱点が自身を苦しめる。
その上田の不安定な守備力を捕らえたのが瀬戸熊だった。
東1局1本場
入りは上田ペースになるかと思われた。わずか6巡、上田のメンホンが炸裂。
しかし東場は上田が二の矢を放てず、全員均衡状態。
南場に突入した途端に場が動き出した。
南1局 親:仁平 ドラ:
(仁平:32,600・瀬戸熊:27,500・上田:33,800・青山:26,100)
仁平
ポン ロン
手の詰まった上田が2,000放銃。
南1局1本場
上田リーチと行くが瀬戸熊に7,700は8,000放銃。
南2局 親:瀬戸熊 ドラ:
リーチ ロン
瀬戸熊4巡目リーチ。上田が2,000放銃。
南2局1本場 ドラ:
上田
リーチ
7巡目。自身放銃が続いており、後がない親の瀬戸熊が絶対来るとわかっていても、自分を信じノータイムで1,300リーチを打った。
リーチ ロン
しかし瀬戸熊が追いつき上田から2,400は2,700。
上田4局連続放銃!
仕方のない放銃もあるが、これが打撃系の表と裏の部分。だが裏が存在するからこそ、表が出た時の破壊力は桁外れで相手に脅威なのだ。
現状上田の点棒流出が止まらない場面を見せられて、不謹慎ではあるが「逆に上田優勝あるぞ!」と微笑んでしまった。
南2局2本場
瀬戸熊、久々の手応えあるツモアガリ。待ち選択もバッチリ成功させた。
瀬戸熊が道中の選択が違えば待ちになり、上田のドラでまたもや5局連続放銃もあったかもしれない。
今半荘は、瀬戸熊が意地を見せ、プラスポイントの青山・上田を沈める事に成功。
一方で抜け番藤崎は最高の結果とほくそ笑んだ事だろう。
8回戦成績
瀬戸熊:+26.3P 仁平:+10.1P 青山:▲8.5P 上田:▲27.9P
8回戦終了時成績
藤崎:+84.6P 上田:+15.8P 青山:+1.9P 仁平:▲33.9P 瀬戸熊:▲68.4P
上田「藤崎さんとあと直接対決が3回しかないので、前のめりで頑張ります。」
青山「まだ辛うじてプラスですし、まだ何とかなるかなって思ってます。藤崎さんを沈め自分が浮く。作戦はシンプルで実際にやるのはすごく難しいのですが精一杯頑張ります。」
仁平「正直、この差は自分1人ではどうにもなりません。次の抜け番で少なくても藤崎さんが沈んでくれれば3回直対があるので、100P差だったら何度もまくった事があるので何とかなるぞという気持ちにはなると思います。ただ全く隙のない藤崎さんを動揺させるようなアガリをしなくてはならないのも確か。とにかく最後まで諦めないで優勝だけをみて頑張りたいと思います。」
瀬戸熊「まあ、苦しいですが、目指すは優勝だけなので、最後の親落ちるまでは、諦めず努力します。」
カテゴリ:十段戦 決勝観戦記