第34期鳳凰位決定戦 二日目観戦記 荒 正義
2018年01月31日
鳳凰決定戦は、週に1回半荘4回戦の戦いを4週にわたって行う。都合半荘16回戦だ。異常気象で外は風が冷たい。
初めに選手は挨拶を交わすが、対局が始まると一切の会話は禁止される。解説者と立会人、実況の古橋も選手と話はできない。話が麻雀になると情報となって、選手に損得ができるからだ。皆、寡黙である。その静けさが緊張感を呼ぶ。
5回戦の起親は前原で、順に柴田・内川・瀬戸熊。
1日目の結果は次の通りだ。
柴田+22.2P 前原+11.6P 瀬戸熊▲10.4P 内川▲23.4P
得点にさほどの動きはなかったが、優勝の平均ボーダーが+70Pである。とするならば、柴田は早めに+50Pにしたいところ。内川と瀬戸熊は焦らずにまずマイナスを消すことから始める。
不気味なのは前原だ。1日目は不調だった。にもかかわらず、浮いてトップ走者の柴田の背にぴったり着いている。今日はどういう打ち方で来るのか、それはゴジラにしか分らない。
第5戦
東1局。ドラ
まず先手を取ったのは瀬戸熊だった。5巡目のリーチだ。
この河では、マチが何か見当もつかない。ただ言えることは、マチが両面でないなら打点が高いと想像できる。なぜなら、瀬戸熊にガラリーは似合わないからである。ガラリーとはガラクタリーチのことで、受けが悪く打点のないリーチのことだ。やっぱり、瀬戸熊の手の内はこうだった。
ドラのを雀頭にしている。打点は十分で、後は結果である。これに初牌のをポンしていた内川が、真っ向勝負に出た。安全パイにがあったが、無筋を通す。
チー ポン
この時点では残り2枚。も残り2枚だったが、勝ったのは内川で瀬戸熊の2,000点の放銃。この1局から、今日の内川は1日目と同じく前に出て戦う気十分と予想できる。瀬戸熊は無念。
東2局。ドラ
今度は瀬戸熊の仕掛け。面前がダメならこっちはどうだ、である。
(瀬戸熊の河)
ポン ポン
瀬戸熊は(これでも来るか!)仕掛けだ。
すると前原がこれに答えた。
(じゃあ行くよ!)とリーチだ。卓上では言葉こそないが、こうした牌の会話がされているのだ。
(前原の河)
瀬戸熊の手の内はこうだ。
ポン ポン
がドラだから5,200はある。一方、前原の手はこうである。
入り目がである。今度は瀬戸熊がオール勝負だ。しかし、肝心のは空テンで前原のは1枚残りだ。ただ瀬戸熊も、が来ても振り込む心配はない。を落としてトイトイに変化するからだ。だが、勝ったのは前原で、最後のツモでを引き当て、2,000・3,900。また来たか、ゴジラパワーである。
東3局。ドラ
ここは内川の親番。13巡目その内川の手がこうなった。
ツモ
理牌していない内川の手である。
すればこうだ。
ツモ
これならを切れば、カン待ちである。
しかし、切ったのはだった。これではノーテンだ。
この後、が出てチーテンを入れたが、痛い失投。
チー
切りのヤミテンならは前原に入り、出ていた。
局後の感想で内川は「と隣のの、摘み間違え」と語った。
鳳凰決定戦は、連盟で一番の檜舞台だ。勝ちたいという欲望とかかる重圧から、選手は誰でも間違いをおかす。私もそうだ。それにしても、内川は惜しいチャンスを逃した。怖いのは、この後のゴジラの「強運」である。
1本場は、柴田の400・700のツモ。
東4局。ドラ
今度は柴田に勝負手が入る。前原にリーチが入ったが柴田が追いつく。
ポン
前原の手はこうだ。
も生きていたが、生命力のあるゴジラは掴まず流局。
南1局1本場。
瀬戸熊が柴田のリーチに2,600の放銃。
南2局。
瀬戸熊が前原に1,000点の放銃。
瀬戸熊に苦しい流れが続く。
南3局。
内川が柴田に満貫の放銃。
南4局。ドラ
今度は親の瀬戸熊が根性を見せる。5巡目のリーチだ。
そして、9巡目にツモアガリ。
ツモ
3,200オールだ、これは大きい。持ち点は27,200で、浮きまでもう一歩だ。
視聴者からも、瀬戸熊に応援のコメントが上がる。瀬戸熊は聡明で優しいから先輩に可愛がられ、後輩に慕われている。ファンにもそれが伝わるのだろう。応援団がいっぱいいてうらやまし限りだ。これも大事な麻雀プロの「資質」である。
しかし、1本場は柴田が1,000点を瀬戸熊からアガリ幕。
トップは柴田で2着は前原。3着が瀬戸熊で4着が内川だった。そして4人の総合得点はこうだ。
柴田+41.1P 前原+19.8P 瀬戸熊▲18.5P 内川▲41.4P
6回戦。
起親は内川で順に瀬戸熊、前原、柴田の並び。
東1局。ドラ
これまでのトップは、柴田が3回で前原が2回。瀬戸熊、内川からすれば早く初日を出したいところ。そんな瀬戸熊から、先制リーチがかかった。
(瀬戸熊の河)
手牌がこうで、入り目は絶好のである。でアガリなら相当の打点がある。瀬戸熊も手ごたえがあったはずだ。
1巡後、前原の手はこうだ。
ツモ
ここから無筋の切り。次がツモで…
ツモ
無筋の切りである。前原も勝負手、オリル気なし全ツッパだ。
さらに次巡、三色目のを引き追いかけリーチだ。
そして見事、ラス牌のを引き当て3,000・6,000。
東京のど真ん中に突如…『シン・ゴジラ現れる!』だ。
東2局。ドラ
今度は瀬戸熊が親番、10巡目(チクショウ!)のリーチだ。
リーチ
いや、瀬戸熊は品があるからそんなハシタナイ言葉は吐かない。
これでもツモで2,600オールが見込める。
これに前原が突っ張る。前原はピンフのヤミテン・待ち。
無筋をバンバン通し、流局間際に初物のドラのも叩き切る。ゴジラは乱暴である。
しかし今度は2人テンパイで、手をつないで仲良く流局。これでは脇の2人は出る幕がない。
東2局1本場。ドラ
9巡目、柴田がリーチのみだが両面のリーチをかける。これにピンフのみだが、親の瀬戸熊も突っ張る。結果は瀬戸熊が内川から1,500のアガリ。リーチ棒2本のおまけがついた。いや、大事なのは点棒ではなく親権確保の方である。
2本場は、柴田が内川から2,000点のアガリ。
内川にロン牌が集まり、苦しい展開だ。
東3局。ドラ
親は前原。3巡目にをポンして瀬戸熊が仕掛けた。安手の親落としである。これ以上、ゴジラに加点されると後が大変だ。しかし、先に聴牌入れたのは前原だった。
(前原の河)
普通、こんなリーチは競技麻雀ではありえない。1,500を2,900にしただけのリーチだ。この手は・を引けば三色がある。リーチなら、手変わりしたこの手のときである。
これならが出たら11,600だ。そんなこと前原は、百も承知。打点より、瀬戸熊への圧力を優先しているのだ。
(親番ですよ、来ますか?)
普通なら、千点で親リーチに歯向うのは愚の骨頂である。だから通常は、危険牌を掴めばオリだ。だが、この場面は別である。仮に親の手が満貫だとしよう。だがそれは脇の2人が打っても、ツモアガリしようと前原が遠くに離れる点では同じことなのだ。
ゴジラに、自分の時間帯を作らせてはならない。だから勝負である。
無筋をどんどん切り飛ばす瀬戸熊。さっきのお返しである。
(だからどうなのよ!)
と声は出さないが、打牌がそう言っている。瀬戸熊と前原が戦うと、いつもこうだ。
脇の2人は瀬戸熊に任せて、当然オリである。
結果は前原がで打ち上げ、軍配は瀬戸熊に上がった。リーチ棒込みでたった2,000点だが、価値あるアガリだった。柴田もホッとしたはずである。
東4局。ドラ
今度は、親の柴田が頑張った。6巡目で手牌はこうだ。
もも初物である。ここに上家の前原から出たを、迷いもなくスルーした。するとツモだった。で切り。するとすぐにが出る。これはポンテン。すぐにを掴む瀬戸熊。直前に出ているだ。一瞬手が止まり怪しんだが、止まらなかった。
ポン
これは柴田のスルーした、ファインプレーである。を鳴いたらアガリができたかどうか分らない。いや、テンパイできたかどうかも怪しいものだ。
これでは、打った瀬戸熊はたまらない。さっきは体を張って前原の猛攻を防いだ。一番助かったのは、前原と競っていた柴田のはずだ。なのに、今度は安心して背中を任したら、闇夜に柴田の槍の一突きである。
いや、これは冗談。
麻雀だから、こういう流れもあるのだ。その逆もまたある。「お互い様」と割り切ることだ。
この後は小場で回って、南2局。ドラ
7巡目に前原のリーチが入る。
(前原の河)
これにを一発で飛び込んだのが、柴田だ。
(前原の手)
現状ライバルからの出アガリ、これは大きい。
オーラスはリーチをかけて、内川のアガリ。
ツモ
3,000・6,000だが、遅すぎた感…無きにしも非ズ、だ。
これでトップは1人浮きの前原で、柴田を交わして1位に躍り出た。6回戦までの総合得点はこうだ。
前原+51.6P 柴田+37.5P 瀬戸熊▲40.2P 内川▲48.6P
第7戦。
さっきの跳満ツモから、内川に軽い手が入り出した。南場が1局の1本場の時点で持ち点はこうだ。
内川40,300
前原30,400
柴田19,600
瀬戸熊29,700
内川からすれば、もっと得点を伸ばし前原を沈める必要がある。
7巡目、内川にリーチが入った。
(内川の河・ドラ)
手牌はこうだ。
リーチ
待ちは河に1枚出ている辺。ちょっと苦しいがぜいたくは言えない。これでもツモなら相手とは8,000点の差ができるし、前原を沈めることができるのだ。好調の親だ、相手もそうそう向かって来ないはず。
しかし、違った。
2巡後、瀬戸熊のリーチが飛んで来た。
(瀬戸熊の河)
なぜか、気持ちの悪い河である。
13巡目、瀬戸熊がツモ牌のを引き寄せた。
ツモ
3倍満には届かない10ハンの手。見事である。
これで瀬戸熊は一気にトップに立ち、内川は沈みの危機だ。
南2局1本場。ドラ
今度は怒った内川が絶好のを引き、リーチをかける。
(内川の河)
(内川の手)
ドラのならさっきの失点は、ほぼ戻る。
しかしこの局は、内川の1人テンパイで流局。
この後は、小場で流れて終局。瀬戸熊の初トップで、柴田の1人沈みだった。
「風」は、ゴジラに吹いている。
7回戦までの総合得点
前原+53.2P 柴田+9.7P 瀬戸熊▲17.7P 内川▲45.2P
8回戦。起親は瀬戸熊で順に柴田、前原、内川の並び。
東1局。ドラ
前原の7巡目の手牌。
ツモ
ここで何を切るかは難しい場面だ。くっつきの良さなら切りだが、河にはが2枚出ていた。それでも、私なら切り。しかし、前原は切り。
同巡、親の瀬戸熊の手。
ここまで来たら瀬戸熊もオリなし。
柴田も七対子ドラ2のチャンス手。
3人の手がぶつかった。リーチがかかっても、ぶつける場面だ。
最初にテンパイを入れたのは前原。
(前原の河)
(前原の手)
悪い、くっつきである。
(ほれ、見たことか!)である。しかも、リーチとは何事だ!
瀬戸熊は1シャンテンのまま、無筋のを強打。
柴田も踏ん張る。
当たり牌を止め、追いかけリーチだ。
ゴジラ危うし!
だが、違った。2巡後、を引いたのは前原だった。
ツモ
これでリーチ棒付きの2,000・3,900。大きいアガリだ。
こうなれば前原は二番手の柴田に辛く打ち、後は流れに乗って打てばいい。
東3局。ドラ
今度は瀬戸熊が燃えた。これが配牌。
第一ツモでを引き、を叩きつけダブルリーチだ。3巡目にを引き2,000・3,900。親で前原に引かれた満貫を、前原の親で取り返す。
私が前原なら…「ナンタルチア!」である。
意味不明だが、驚きの言葉である。
前原からすれば「そんなバナナ!」だ。おやじギャグである。
この後、点棒の動きはあったがオーラスを決めたのは柴田だった。
ツモ
この手をリーチでツモアガリ。かろうじて浮きに回り、望みを次につないだ。
瀬戸熊は残念ながら沈みの3着で、トップは不動の前原だった。
これで第8戦までの総合得点はこうだ。
前原+68.6P 柴田+14.2P 瀬戸熊▲24.8P 内川▲58.0P
今日は、前原の1日だった。素晴らしい勝負度胸である。有利なのは前原だが、勝負は後8戦あるからまだわからない。次が楽しみだ。
カテゴリ:プロリーグ(鳳凰戦)決勝観戦記