第12期女流桜花決定戦 二日目観戦記 吾妻 さおり
2018年01月24日
「長くて短い1週間」
桜花は3日間の総合成績での戦いだが、各対局には1週間のインターバルがある。
1週間というのは、実に絶妙な間である。
ただ待つだけならあまりにも長すぎる時間だ。何もしないでのんびり身体を休めるなんて、よほど肝の座った人間にしか出来ない。
リードしている時はより長く感じて結構辛い期間だ。優勝も多少意識してしまうが1/3しか終わってないので今後どうなるかもわからない。
一方、不調を戻すためにはテーマを作ってかなり回数を打ち込む必要があるので、あっという間に感じる。
私は6回インターバルの経験がある。比較的良かったと思えるのは8期と9期の最終日前。もうやるしかないと思えて焦らなかったが、いくらでもやりようがある初日後の過ごし方は今でも一番難しいと思っている。
5回戦(起家から、内田・魚谷・石田・仲田)
各選手が1週間をどう過ごして、どんな気持ちで卓についているのか?開局で、早速魚谷と石田の意気込みが垣間見えた。
「魚谷、抜群のリーチバランス」
東1局 親 内田 ドラ
石田が遠いから積極的に仕掛けてホンイツテンパイ。
ポン ポン
魚谷も同テンのカンだった。
ツモ
に待ちを変えてリーチ、をツモって2,000・3,900。
魚谷のリーチバランスが良い。テンパイしながらの変化待ち。今後も三色など手変わりも見込める牌姿だったが、ピンズは石田の染め手と色被り。変則3メンチャンに変化した所でツモりに行ったのがピタリとハマった。
石田はアガれなかったが、今日はしっかり戦うという意志が伝わって来た。
2人の戦いを1局観ただけで、今日は上下のポイントが詰まりそうだと感じた。
「石田のファイティングポーズ」
東2局 親 魚谷 ドラ
先程アガった魚谷が11巡目に先制リーチ。
同巡、ドラドラの石田も追い付いた。
は直前魚谷に間に合われた。カンチャン待ちだが、ヤミテンだと役なし。もし他家に合わせ打たれたらもう押せなくなってしまう。いくつかの手変わり牌もあるが迷いを払拭するような追っかけリーチでツモりに行く!!
結果は石田がをツモって2,000・3,900。
魚谷の3メンチャンをかいくぐり、気合いで押し返した!
東3局 親 石田 ドラ
親番を迎えた石田はここが叩き所。
ドラ
ドラドラ七対子。先程切られたばかりの単騎で即リーチとした。石田にとっては前巡に鳴かれなかったは良い待ちで、リーチの一手なのかも知れない。しかし私は同じ打点なら一旦タンヤオ七対子ドラドラの待ちのヤミテンにする。一発裏ドラのない公式ルールの場合、タンヤオを崩せばリーチの1ハンを付けても出跳やツモ倍になる事はなく、単騎リーチのメリットは少ないと思う。
結果は現物のが直前にテンパイした仲田に間に合って1,000点。
待ちヤミテンなら内田はツモ切りの可能性が高く、石田の頭ハネで12,000を加点して連荘だった。麻雀観の違いと言えばそれまでだが、結果は石田にとって雲泥の差となった。
「ツキを奪った1,000点」
東4局 親 仲田 ドラ
麻雀とは本当に怖いもので、石田が一生懸命戦って積みあげたツキをじっと耐えていた仲田がさらりと奪い取った。
なんと5巡目に789三色確定のテンパイ。ドラが1枚あって7,700、ツモれば3,900オール。ドラそばのペンなのでヤミテンに。
この時、石田・内田の手にが浮いていたが、先に打ち出すのはやはり石田だった。
「折れない心」
東4局 1本場 親 仲田 ドラ
しかし、今日の石田はこれくらいの放銃ではめげない。
ツモ
ドラドラの勝負手を仕上げて2,000・3,900をツモり返す。
「100点の重み」
南4局 親 仲田 ドラ
仲田7巡目に切りでタンピンドラのテンパイ。
ドラ
嬉しい手変わりはしかないがヤミテンに。3者の点数が近く、現状微差の3着目。まずは堅実にアガリを拾い、着を上げてから連荘で加点狙いがセオリーだ。
しかし2巡後、空切り牌のを引いて今度はリーチに踏み切る。
この空切りリーチにはいくつかの理由が考えられる。
① 守備的思考
他家がアガリに来ているか、仲田のテンパイ気配に気付いたのかを確認。出アガリが期待出来そうならヤミのまま、気付かれてたり相手がオリ気味なら親満をツモりに行く。
② 戦略的思考
7巡目切りリーチより、9巡目にドラそば切りリーチの方がマンズ濃厚の河に見えて待ちがぼやける。ドラを固めて持っているように、もしくはマンズが危険だと誤認させる意図
③ 打点的思考
手牌がさらに伸びるかの確認。1巡だけ高め6,000オールになるの振り替わりを待ったが、空切り出来る牌を引き次第リーチするつもりだった。
④ 攻撃的思考
あえて数巡の猶予を作り、他家の手を進めて勝負させる意図。親リーチの時点で2シャンテンならオリても、1シャンテンやテンパイなら攻め返してくる可能性が増える。リスクも高いが出アガリも期待出来る。
いずれにしても怖い親リーチが飛んで来たが、戦う姿勢を示したのはオーラス16,400点で1人沈みの内田だ。今日はまだ一度もアガれず、リーチもさせてもらえない。内田だって戦う気持ちを強く持ってこの二日目を迎えたはず。勝負もせずにポイントを削られるなんてたまったものではない。
ツモ ドラ
カンツモで追いついた。一番のネックだったドラ表示牌のカンチャンが埋まって、満貫まで見えた。もちろん追いかけリーチ。安目のだが1,300・2,600ツモ。
内田はアガってもラスだが、仲田がリーチ棒と親被りにより29,900持ちとなる。1人で被れば12,000点だった沈みウマを仲田に4,000点分押し付けた。打点は5,200でも10,200点の価値がある嬉しいツモアガリとなった。
6回戦(起家から、内田・石田・仲田・魚谷)
「圧えつけリーチの怖さ」
東1局 親 内田 ドラ
親の内田が12巡目にテンパイ。
ツモ ドラ
ツモなら一気通貫があり、ツモならリャンメン待ちだったが、テンパイ牌は最も微妙な。ドラは1枚もない。マンズはと切っていて手変わり待ちは望みにくい。のシャンポン待ちでリーチに踏み切った。親番で巡目も深い。河にはがあり、一応は筋になっている。打点は妥協して連荘狙いの圧えつけリーチの意図だと思うが、この手を勝負局にするのはどうも内田らしくない。日頃なら一気通貫変化がある切りヤミテンで、先に危険牌を引けば撤退のイメージだ。
そして「圧えつけリーチ」というのは危険を孕んでいて、一番来て欲しくない人が来るのが常である。
内田のアタリ牌のを掴んでいた石田は、リーチと仕掛けの魚谷の2人を警戒してオリてしまった。
やはり向かって来るのはドラを固めた魚谷だ。
役牌のを加カンでドラが暗刻になり、一直線にアガリに向かっていた魚谷はその後ツモが効かなかったが、内田の現物のを鳴けて追いついた。残りは内田のと魚谷のが1対1の勝負だったが、内田が持って来たのは。8,000の放銃となった。
「内田の戦いはここから」
放銃したからといって萎える訳にはいかない。戦いは続いているのだ。内田は数局は丁寧に耐えて態勢を整え、東4局から動き出した。
東4局 親 魚谷 ドラ
ポン ツモ
南1局 親 内田 ドラ
リーチ ロン
南1局1本場 親 内田 ドラ
リーチ ツモ
3局連続でアガリ、持ち点を33,200まで復帰させた。
「仲田の技」
良いペースに入り始めた内田だったが、続く2本場は仲田が得意の仕掛けで局面をリードした。
南1局2本場 親 内田 ドラ
ドラ
2巡目にここからをポン。
を喰い取り、他家が字を絞っている内にゆっくりとホンイツに移行して1人テンパイ。
チー ポン
仲田の徹底的な仕掛けは、手牌の理はさほど追ってないように思う。「こういう仕掛けは上手く行かない事の方が多いよね」位に本人も思っているだろう。ただ、今期の対局者を見て「動いた方がいい」と作戦を立てたはずだ。仕掛ければ、石田・内田の動向はかなりわかりやすくなる。唯一仕掛けで対抗しそうなのは魚谷だが、内田が初日に背負わせたビハインドが響いていて、今の所まだ仲田を脅かす位置には居ない。
いや、もっとシンプルな思考でオリる局を減らすべくリスクも承知で果敢に鳴いているのかも知れない。
ラス目から1人テンパイ、ピンフツモハイテイとジワジワ加点して原点に近づいた仲田の親番。準備は整ったと言わんばかりの3,900オールが炸裂した!
南3局 親 仲田 ドラ
リーチ ツモ
そのまま仲田がトップで終了。2着はオーラスにリーチタンヤオピンフをアガった石田。
7回戦(起家から、石田・魚谷・内田・仲田)
「石田の先制」
東1局 親 石田 ドラ
まずは石田のリーチピンフが高目の三色で決まる。
「魚谷、どん底からの生還」
7回戦も11,600放銃スタートと後のない魚谷。
東2局 親魚谷 ドラ
リーチ ロン
場に安いソウズの待ち取りで4,800をアガリ連荘。
東2局1本場 親魚谷 ドラ
次は積極的に仕掛けて7,700テンパイをするが、ヤミテン三色ドラの内田に放銃してしまう。
今までのポイント、そしてこの半荘の持ち点。とことん厳しい立場の魚谷。東3局1本場もホンイツテンパイを入れたがもう流局かと思われたが、思いもよらない相手からのハイテイロンで転機が訪れる。
最後のツモでメンホンテンパイを入れた仲田が、内田には通りそうで、魚谷には超ド級危険牌のを打ち抜いたのだ。
私はこの瞬間、魚谷の反撃がどこかで必ず来ると直感した。
この局について、仲田は感想戦で内田に連荘される位なら魚谷に振っても良しと言った。まだ二日目。局消化を考えるのは早過ぎる気もするが、満貫放銃してそこまで割り切れるならそれはそれで凄いメンタルだ。
「マイペースに攻める石田」
東4局 親仲田 ドラ
石田はこの手をアガってさらに加点する。
リーチ ロン
「打てなかったドラ」
南4局 親仲田 ドラ
内田がタンヤオでテンパイ。
28,100持ちの2着目。出アガリは浮かないがツモれば浮く。魚谷とは900点差でリーチ棒を出すと3着目に落ちる。ピンズは仲田の染め色。引きはタンピンになり条件を満たす。ここはヤミテンを選択。流局して1人テンパイでも浮きだ。しかし終盤に持って来たのはドラで生牌のだった。
今決定戦初日はドラを積極的に切った。その布石を回収する勝負局がここである!勇気を振り絞ってドラを叩き切る姿が観たい!!
しかし内田は切れずにオリた。ドラでの放銃は怖い。もし仲田にロンならラス落ちだが、戦わなければ勝てないのも内田自身が一番感じていたはずだ。
暴牌なのか、勝負すべき牌なのか。判断はとてつもなく難しい。タイトル戦ならではの重圧を強く感じた1局だった。
結局全員ノーテンで石田が1人浮きトップを勝ち取った。
あれだけ苦しかった魚谷も27,200の3着をキープ。最小限の失点に留まった。
8回戦 起家から、仲田・石田・魚谷・内田
「水を得たマーメイド」
私が予感していた魚谷の時間はすぐに訪れた。
東1局 1本場 親仲田 ドラ
まずはを引き戻してこのテンパイが入る。
待ちはドラ含みの。切りでリーチも高目ツモ1,300-2,600で悪くはない。
しかし、魚谷はツモ切りでテンパイ外し。その後ツモは345の可能性が多少残るがこれもツモ切り。これはとの重なり比較での方がいいという判断か、三色は456に絞っているのかも知れない。
そして再びテンパイ。
ツモ
ここで高目三色リーチに出た。安目のは山になく、高目のはなんと3枚生きていた!
強い意志のこもったツモ、渾身の3,000・6,000!!
東2局 親石田 ドラ
リーチ ツモ
魚谷、続いて2,000・3,900。
「魚谷を噴かせた仲田の対応」
東3局 親魚谷 ドラ
さて、魚谷復活のきっかけを与えてしまった仲田。ここからの対応が興味深かった。
ロン
リーチツモなら1,300・2,600の魅力に負けずこの手をきっちりヤミテン。まずは魚谷の親を2,000点で落とす。
そして迎えた親番。
南1局 親仲田 ドラ
ピンフ高目三色の勝負手だが、これもヤミテン。で1,500は1回は見逃したい位の牌姿だ。ドラのと入れ替えれば6,000オールも見込めるが、先にツモ700オールはあまりに勿体ないのでリーチしたい気もあるだろう。
結果はロンで5,800。
これが仲田なりの対応なのか。誰かが好調で自分に戦う力があるなら動いて打開するが、自らチャンスを与えてしまった場合は堅実に態勢を立て直す。高目でアガれて、少しは良くなって来たか。
南1局1本場 親仲田 ドラ
今度は魚谷からの先制リーチを受ける。ツモれないまま何巡も過ぎるが、仲田はそろそろだと感じたのか、終盤にをチーする。自身はテンパイまで漕ぎ着けられるか微妙な牌姿だが、この鳴きで魚谷のツモ牌7枚目の喰い下げに成功。しかし魚谷は8枚目のをツモアガった。
内田が鳴ける牌を下ろせばきっと仲田はもう一度チーしただろう。感性が鋭く、本当に観ていて面白い打ち手だ。
「ドラドラ七対子VSドラ単騎七対子」
南2局 親石田 ドラ
ドラドラ七対子の内田と、ドラ単騎七対子の魚谷。
どちらもヤミテンだが、内田がを出アガリ6,400。ラス抜けに成功する。
仲田も七対子1シャンテンでが待ちになるか、場合によっては放銃もあった。公式ルールはドラが字牌だと出て行かない手組をしがちになり、トイツ場になるのも見所だ。
8回戦は魚谷の大トップ。放銃もないがアガリもなかった石田がラスを引かされた。
全12回戦中8回戦が終了した。
首位は+21.3Pの仲田で、要所でアガる安定感があった。唯一の不安材料は魚谷に打っただが、仲田は平たい場を好む打ち手だ。一貫してポイントのある相手に対しては致命的な放銃をしないし、とことん辛く打てている。本人からしてみたらイメージ通りの進行なのだろう。
2番手に付けたのは+14.9Pの石田。一日を通して戦う姿勢を見せ続けてくれ、牌も付いて来ていた。最終日に繋がる良い内容だったと思う。ポイントは伸びなかったが首位との差は縮まった。大事な局で今日のような踏み込む麻雀が打てれば逆転優勝出来ると思う。
3位は▲1.6Pの内田。5回戦は1人沈みを回避し、半荘1回で首位に立てる位置をキープした丁寧さは流石だ。しかし初日に比べて戦える局が減っているのが気になる。後になればなるほど勝負するのは厳しくなる。最終日には闘志を燃やし頂点を目指す内田が観たい。
魚谷は▲34.6Pまで復活。あの三色は本当に格好良かった。8回戦のトップ1つであんなに苦しかった7回分のマイナスをほぼ半分にし、残りは4回ある。優勝を現実的に見据えられる位置まで漕ぎ着けた。最後の加速はドラマティックな大逆転劇を存分に期待させてくれる。
最終日は大波乱の予感がする。
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